東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第九章第四話「目覚めて」

ごりごり、ごりごりと何かを磨り潰している様な音と共に、俺は意識を取り戻す。

途端に甦る全身の痛み。しかしそれは思ったよりは酷く無く、代わりにもう慣れた圧迫感とメントールの様なすーすーする感覚が右腕や背中に在る。

誰かが治療してくれたのだろうか。明らかに永琳さんとは違う治療法。気に成り、そっと目を開ける。

 

「・・・あ、起きましたか。お久しぶりです真さん」

「夢月・・・久しぶり。これ、全部夢月が?」

「はい。見ていられないくらい酷かったので勝手に・・・すみません」

 

包帯の下に滲む、薄い緑の塗り薬。

恐らく夢月が作ってくれた特製の薬なのだろう。磨り潰した薬草を水で溶くくらいの物だが、効果は大きい。

楽になった右腕をかばう様に、俺は左手を使い上体を起こす。

 

そこは、簡素な木造りの家だった。

ごりごり、と未だに彼女は緑の草を磨り潰している。長い黒髪をサイドテールに纏め、優しい瞳を持つ彼女。最後にあったのはいつだろうか。

 

そんな事をぼーっと考えていると、木の家の玄関が開いたようだ。

ぴしゃん、と音が響き少女の声が聞こえて来る。

やけに聞き覚えのある声だ。重たいものを持っているのか足音は強く、障子も力強く開けられる。

 

「・・・霊夢」

「起きたのね・・・じゃないわよ!あんた!一か月!死なない宣言したじゃない!!」

「し、死んでないから!?」

「そーゆー問題じゃない!また無茶しやがってつってんのよ!」

 

手に持って居た袋を畳の上に落とし、霊夢はうがーと怒鳴る。

俺の近くにちょこんと正座した霊夢はちゃぶ台の上にあった湯呑の中身を一気に飲み干し、そして再度俺に声を掛けた。

 

「・・・何が、あったのか。出来る範囲で良いから、教えてほしい」

「うん。分かってる。・・・えっと、夢月も聞いてくれないかな?」

「勿論です」

 

 

 

それから、俺は隔の事、今朝の事を全て洗いざらい話した。

それは十分か、一時間か、はたまた数分か。

霊夢と夢月は何も言わずに最後まで聞いてくれた。話すたび、思い出すたびに妖夢への罪悪感が高まり、焦りが増す。

 

「・・・それで、永遠亭を飛び出して来た時に妖怪に襲われて・・・」

「私達が運よく間に合って、助けれたんですね」

「そう」

 

沈黙が広がる。

こぽぽ…と湯呑に湯気の立つお茶が注がれる。霊夢は一口それを啜り、重々しく口を開いた。

 

「んー・・・何と言うか、取り敢えず妖夢を殴った真も、最初っから素直に言わなかった妖夢も悪い」

「うん」

 

「んで。真は、どうしたいの?」

「・・・え?」

 

突然の話題転換。

聞き返した俺に、霊夢は首を傾げつつ言葉をつづける。

 

「誰が何と言おうと、誰かが決めた事えを覆えすのは難しい。それが大事であればあるほどに。真は隔が大事なんでしょう?なら、そこで真が決めたことはきっと物凄く大事な事。私はそれを聞きたい」

 

「・・・俺は、」

 

一瞬、言葉に詰まる。

やはり過る妖夢の言葉、隔の手紙。

それでも。

 

それでも、俺は暁に向かって宣言した。

 

 

「俺は、隔を助けたい」

「分かった。私は全力で支援するわ」

「私も、お手伝いさせて頂きます」

 

即答だった。

俺の言葉に、二人は直ぐに頷き、微笑んでくれる。

時間は無いかもしれない。もう、手遅れかもしれない。

 

それでも隔の言っていたやるべき事が。俺の思っている事だったのなら。

 

まだ可能性はある。俺はそっと、動かない右腕に左手で触れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

黒い刃は、私が完全な暴走妖に成ったその日から輝きを増した。

より鋭く。より堅く。より、殺しやすい様に。

私が考えなくても勝手に成って行く。襲い掛かって来る妖怪は、気づいたら殺している。

 

頭の奥で何かがコロセ、コワセ、と叫んでいる。何もしていなくても、激しい頭痛が私を蝕む。

 

探し人は見つからない。

黒い布きれで、長い黒髪と濁った瞳を隠す。だぼっとした服を着ている私は、きっと男か女か見分けが付かない筈だ。

 

・・・きっと、今の私は真よりも強い。

そして、雷という地霊殿で会った男の人。彼もまた、真より強い。

 

私が死ぬ気で挑んで・・・いや、文字通り道連れにしてでも、幻想郷の脅威を無くす。

 

何て言うのは建前。私は森の中で、行く手を阻む蔦を黒い刃で切り裂きながら微笑んだ。

 

 

――――彼が。真が、死なない様に。それだけが、私の願い。

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