東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
黒い霊力の波動が、永遠亭にヒビを入れる。
永琳や霊夢が必死に避難誘導や安全確保をしようとしているが、地に落とされても尚揺るがない圧倒的力が全てを粉砕していく。
その中を、右腕を吊った少女が駆けていた。
淡い桜色の霊力が、少女を包み込み破壊から守り抜く。傷だらけの体を庇いながらも、左手に楼観剣を握りしめる少女の瞳は一点を見据えていた。
(・・・真さんは、多分皆が助けてくれるでしょう)
妖夢は、木々の間を縫いながら自嘲的な笑みを漏らした。
(真さんの自己犠牲。もうこれ以上口出しは出来なくなりますが・・・最後に、あの人を助けて散りますか)
不意に、焦げ臭い煙が立ち込める不自然な草原に出た。
周囲の倒されている木々。隕石が衝突したかのように一面は更地になっている。
そして。
真ん中に、それは居た。
禍々しい霊力を渦巻かせながら、醜い翼を再び生成していく。壊れたロストバーストの外骨格、そこから覗く少年の瞳は黒く黒く淀んでいた。
右手に構える[彼岸ノ妖]。黒みがかった黄色い刃を地面に突き立て、少年はすくっと前傾姿勢から背筋を伸ばした。
「・・・どうも。雷さんで間違いないですか?」
「そっちこそ妖夢でいいよね?」
お互いの殺気が、一瞬でぶつかり合う。
ひやりとし始める空気を断ち切るように、そして時間を稼ぐように妖夢は臆せず口を開いた。
「はい、そうですが。・・・どうしたんです、急にこんな事して」
「そろそろ、かなーって。隔に埋め込んだ核は消えたけど、真は殆どゴミに等しいし。幻夢奪って、さっさと悪夢の言ってることを叶えちゃおうかと」
「・・・悪夢の言ってる事?」
「そうだよ。僕には関係ないけど、まあ『こっち』に来てからお世話になってるし」
「こっち?」
パキパキと外骨格が軋む。
修復されていくのを見る妖夢は、焦りをなんとか隠しつつ話を続ける事を選択した。
恐らく雷は、私をここで殺そうとしているのだろう。
妖夢はそう察する。だからこそ、ここまで話すのだろうと。
そして、だからこそ妖夢は逃げない。他の人々が、逃げ切れるように。
「・・・僕も、真と同じ『外来人』さ。現実の方からの人間」
「どうやってここに?」
「さあ?気づいたらここに居たよ。まあ、その時は僕も
「疲れてた?」
雷は、次になんてことの無いように呟いた。
「そ。小さいころからの幼馴染殺してね」
「・・・殺し、て?」
「難病なんだったんだ。それこそ、数万人に一人のね。悠って言うんだけど・・・彼女は、ある時言ったんだよ。『私を殺してくれる?』って。勿論無理。お断りしたけど・・・直ぐに、あの子は植物状態になった」
息継ぎを置き、雷は言葉を続ける。
空は曇り始める。湿った匂いを風が運び、妖夢の銀髪を揺らした。
「その時だったよ。天音真を見たのは。奴は、僕がこんなになっているのに、隔?と仲良く帰っていた。その時感じたんだよ。ああ、選ばれる奴と選ばれない奴って居るんだなって。その後、僕は選ばれるために悠を殺した」
「何故って?簡単だよ、『特別』になれば僕は変われるんだ、そう思ったからさ」
主人公になれると思った。
狂った少年は呟く。妖夢が思わず後ずさりすると、壊れた思いを彼は曝け出す。
「幼馴染を殺したと言う罪を背負って、僕は真とは変わったんだ。・・・同じ学校で、対して何が出来る訳でも無いあいつと変われたんだよ。分かるかな?そう、僕は主人公になれたんだ」
「奴とは違う。僕より恵まれている、ゴミ溜めに居るような雑魚とは違う。幼馴染が・・・大切な人が隣に居て、幸せなあいつとは違うんだ」
遠くで。
ドガアアン……と何かが崩れる音が聞こえた。
永遠亭だと気づくのに、そう時間は掛からない。雷は妖夢の蒼い瞳を見据え、口を開く。
「で?どう?あいつも幼馴染が植物状態になったんだよ?真はきっと隔を殺せず、苦しんだまま死んでいくのを傍観して、そのまま死んでいくのさ。もう・・・最高だった。あの時の選択を提示してくれた悠にありがとうって伝えたいね」
「それがどうだ。またしても奴は『選ばれた』『恵まれた』。隔はもう元気になってる。あいつは、”主人公”になったんだ。・・・それから直ぐに、僕は気づいたらここに居て、そして目の前にあった赤い石を見て思ったんだ。やっと選ばれたってね。あからさまに不自然なそれを壊して、悪夢をこの身に宿した。”主人公”になれたんだ」
彼は言葉を紡ぎ続ける。
「それから僕は悪夢の言うままに殺し続けた。RPGの主人公みたいに、導かれるままに。・・・今日、僕は天音真と魂魄隔を殺す。主人公になったつもりでいる道化師を殺して、やっと主人公に成れるんだ」
彼岸ノ妖の切っ先が、妖夢へと向けられる。
口角を釣り上げている彼の顔が、完全に修復されたロストバーストの外骨格に隠されていく。完全に閉じるその直前に、妖夢の楼観剣が弾き飛ばされた。
あの妖夢でさえも、反応出来ない速度。完全に修復された鎧を、その力を以てして。
雷は、妖夢へと翼を叩き付けた。
しかしそれは、突然現れた謎の衝撃波によって飛ばされた。
まるで真と同じような、青白い霊力の軌跡が雷の翼へと突き刺さっている。
・・・それは、黒い刃を二刀、両手に構える少女が放つ足を揃えた蹴り。
長い黒髪が宙を踊る。翼を弾き、ズザザ…と少女はその場に降り立った。
「間に合ったね、良かった良かった」
――――魂魄隔は、そう呟き妖夢に笑いかける。