東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十章第八話「『主人公になるために』」

黒い霊力の波動が、永遠亭にヒビを入れる。

永琳や霊夢が必死に避難誘導や安全確保をしようとしているが、地に落とされても尚揺るがない圧倒的力が全てを粉砕していく。

 

その中を、右腕を吊った少女が駆けていた。

 

淡い桜色の霊力が、少女を包み込み破壊から守り抜く。傷だらけの体を庇いながらも、左手に楼観剣を握りしめる少女の瞳は一点を見据えていた。

 

(・・・真さんは、多分皆が助けてくれるでしょう)

 

妖夢は、木々の間を縫いながら自嘲的な笑みを漏らした。

 

(真さんの自己犠牲。もうこれ以上口出しは出来なくなりますが・・・最後に、あの人を助けて散りますか)

 

不意に、焦げ臭い煙が立ち込める不自然な草原に出た。

周囲の倒されている木々。隕石が衝突したかのように一面は更地になっている。

 

そして。

 

真ん中に、それは居た。

 

禍々しい霊力を渦巻かせながら、醜い翼を再び生成していく。壊れたロストバーストの外骨格、そこから覗く少年の瞳は黒く黒く淀んでいた。

右手に構える[彼岸ノ妖]。黒みがかった黄色い刃を地面に突き立て、少年はすくっと前傾姿勢から背筋を伸ばした。

 

「・・・どうも。雷さんで間違いないですか?」

「そっちこそ妖夢でいいよね?」

 

お互いの殺気が、一瞬でぶつかり合う。

ひやりとし始める空気を断ち切るように、そして時間を稼ぐように妖夢は臆せず口を開いた。

 

「はい、そうですが。・・・どうしたんです、急にこんな事して」

「そろそろ、かなーって。隔に埋め込んだ核は消えたけど、真は殆どゴミに等しいし。幻夢奪って、さっさと悪夢の言ってることを叶えちゃおうかと」

「・・・悪夢の言ってる事?」

「そうだよ。僕には関係ないけど、まあ『こっち』に来てからお世話になってるし」

「こっち?」

 

パキパキと外骨格が軋む。

修復されていくのを見る妖夢は、焦りをなんとか隠しつつ話を続ける事を選択した。

恐らく雷は、私をここで殺そうとしているのだろう。

 

妖夢はそう察する。だからこそ、ここまで話すのだろうと。

 

そして、だからこそ妖夢は逃げない。他の人々が、逃げ切れるように。

 

「・・・僕も、真と同じ『外来人』さ。現実の方からの人間」

「どうやってここに?」

「さあ?気づいたらここに居たよ。まあ、その時は僕も疲れてたし(、、、、、)丁度良かったよ」

「疲れてた?」

 

雷は、次になんてことの無いように呟いた。

 

「そ。小さいころからの幼馴染殺してね」

「・・・殺し、て?」

 

「難病なんだったんだ。それこそ、数万人に一人のね。悠って言うんだけど・・・彼女は、ある時言ったんだよ。『私を殺してくれる?』って。勿論無理。お断りしたけど・・・直ぐに、あの子は植物状態になった」

 

息継ぎを置き、雷は言葉を続ける。

空は曇り始める。湿った匂いを風が運び、妖夢の銀髪を揺らした。

 

 

「その時だったよ。天音真を見たのは。奴は、僕がこんなになっているのに、隔?と仲良く帰っていた。その時感じたんだよ。ああ、選ばれる奴と選ばれない奴って居るんだなって。その後、僕は選ばれるために悠を殺した」

 

「何故って?簡単だよ、『特別』になれば僕は変われるんだ、そう思ったからさ」

 

主人公になれると思った。

狂った少年は呟く。妖夢が思わず後ずさりすると、壊れた思いを彼は曝け出す。

 

「幼馴染を殺したと言う罪を背負って、僕は真とは変わったんだ。・・・同じ学校で、対して何が出来る訳でも無いあいつと変われたんだよ。分かるかな?そう、僕は主人公になれたんだ」

 

「奴とは違う。僕より恵まれている、ゴミ溜めに居るような雑魚とは違う。幼馴染が・・・大切な人が隣に居て、幸せなあいつとは違うんだ」

 

遠くで。

ドガアアン……と何かが崩れる音が聞こえた。

永遠亭だと気づくのに、そう時間は掛からない。雷は妖夢の蒼い瞳を見据え、口を開く。

 

「で?どう?あいつも幼馴染が植物状態になったんだよ?真はきっと隔を殺せず、苦しんだまま死んでいくのを傍観して、そのまま死んでいくのさ。もう・・・最高だった。あの時の選択を提示してくれた悠にありがとうって伝えたいね」

 

「それがどうだ。またしても奴は『選ばれた』『恵まれた』。隔はもう元気になってる。あいつは、”主人公”になったんだ。・・・それから直ぐに、僕は気づいたらここに居て、そして目の前にあった赤い石を見て思ったんだ。やっと選ばれたってね。あからさまに不自然なそれを壊して、悪夢をこの身に宿した。”主人公”になれたんだ」

 

彼は言葉を紡ぎ続ける。

 

「それから僕は悪夢の言うままに殺し続けた。RPGの主人公みたいに、導かれるままに。・・・今日、僕は天音真と魂魄隔を殺す。主人公になったつもりでいる道化師を殺して、やっと主人公に成れるんだ」

 

彼岸ノ妖の切っ先が、妖夢へと向けられる。

口角を釣り上げている彼の顔が、完全に修復されたロストバーストの外骨格に隠されていく。完全に閉じるその直前に、妖夢の楼観剣が弾き飛ばされた。

 

あの妖夢でさえも、反応出来ない速度。完全に修復された鎧を、その力を以てして。

 

雷は、妖夢へと翼を叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは、突然現れた謎の衝撃波によって飛ばされた。

 

まるで真と同じような、青白い霊力の軌跡が雷の翼へと突き刺さっている。

・・・それは、黒い刃を二刀、両手に構える少女が放つ足を揃えた蹴り。

 

長い黒髪が宙を踊る。翼を弾き、ズザザ…と少女はその場に降り立った。

 

「間に合ったね、良かった良かった」

 

――――魂魄隔は、そう呟き妖夢に笑いかける。

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