東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
双対の禊が、二つに割れ俺の後ろで再びくっつく。
妖夢と隔を完全に逃がすための盾、壁となったそれが消えた瞬間、暴走妖は全力で俺へと牙を剥いた。
殺される前に、殺さなければならない。
鬼気迫る雰囲気を纏いながら、彼らはこの一瞬に全てを賭けていた。
「消せ、陽炎」
『了解』
しかし俺はそれを、右手の人薙ぎで消滅させる。
赤黒い霊力が暴走妖に触れた瞬間、その触れたところがごっそりと腐り灰になって地面に落ちる。
無限に再生するといっても、それは痛みを伴わない訳が無い。死ぬことの出来ない妖怪が断末魔を上げるのを一瞥し、俺は左手を前に向ける。
「撃ち出せ、幻夢」
『・・・行くよ』
直後に、蒼い砲撃が左手から放たれた。
霊力の塊が、一瞬にして暴走妖を塵に返していく。再生するのにも時間が掛かる彼らの数は、最早半数を切っていた。
雷が、少し後ずさりする。俺はそれを気にせず、[恵まれる程度の能力]を全力で発動。
ゴオッ!! と、周りの全ての物から俺へ緑の線が繋がり、一気に力が流れ込んできた。
生命力も地球の力も、妖力も霊力でさえも。
万物が俺の力となる。激しさを増す青緑の力は強く輝く風の鎧となり、俺の髪を揺らす。
「・・・終わりだ」
俺は天へ右手を翳した。
その次の瞬間。俺の纏う青緑の光が一際輝きを増すと同時に、全てに青緑の剣が突き刺さる。
ドシュンッッ!! と鋭い音を立てた緑の十字架を模した剣は99体の暴走妖の核を一部の狂いも無く貫いている。彼らは音も立てず灰になり、雨に溶けた。
さっきまでの喧騒が嘘の様に、ここに残るのは俺と雷、そしてザアア・・・と降り続く強い雨の音。
昼間なのにも関わらず暗い空の下で、俺は口を開いた。
「・・・俺はバーストも使ってないぞ?」
そして、へらっと笑う。
それで雷は、遂に我慢できなくなった。
たかだか普通の高校生が、殺し合いなんてものを繰り返せばそれは凄まじいストレスとなるだろう。
寧ろ、こいつは良く耐えた方だと思う。だからこそ、爆発した時も凄いのだが。
縦横無尽に切り掛かってくる彼岸ノ妖の側面に掌を当て、ことごとく俺は受け流す。
バーストもオーバーレイも、陽炎の力も使わない。ただの身体強化だけで、俺は奴を軽くあしらう。
思えば俺は、きっといつも周りに支えてくれる人が居たからこうやって爆発はしなかったんだと思う。
しかしこいつの傍に居るのは、悪夢のみ。ストレス何てものは、高速で溜まるだろう。
「死ねっ・・・!死ねええ!!!何で、何でお前ばっかり選ばれるんだ!!悠を殺したのが間違いなのか!?どこで僕は選択を誤った!何でこいつの幼馴染は生きてて僕の幼馴染は死んでてこいつの周りには人が居て僕の周りには人が居ないんだよ!!可笑しいだろ・・・可笑しいだろこのクソ
激情を乗せた連撃。
呼吸を挟む暇もなく、雷はロストバーストの力を使い俺へと彼岸ノ妖を叩き付ける。
・・・流石に、そろそろきついか。
俺は雷の腹部へ左足で蹴りを打ち込む。衝撃で停止した雷を踏み台にし、俺は雷の後方へと飛んだ。
「・・・お前が悠っていう幼馴染殺したのは分かったよ」
雷に背を向けたまま、言葉を放つ。
奴が俺へと振り返る。俺は顔だけを後ろに向け、きっぱりと言い放った。
「それがお前の間違いだよ」
今度こそ。
今度こそ、奴は俺を殺すつもりだったのだろう。
雷が自身の能力で雷撃を纏い、黒い霊力が巨大な刃となり強さを増した彼岸ノ妖が俺へと刃を光らせる。
黒い片翼が空気を打ち、漆黒の鎧が叫びながら俺と雷の距離を瞬く間に零にした。
「バースト」
出力。24%。
ゴオッ!!! と、守護と破壊の混ざった霊力が俺の体から燃え上がる。
右腕の刻印が浮かび上がり、金色の輝きを放ちつつリングの様に俺の腕の周りをグルグルと廻り始めた。
24%のバースト。更に倍増された霊力。
幻夢の霊力の、48%の霊力が右腕一点に集中し、俺は全力で拳を振るう。
音が。光が。空気が、消え去り。
全てをぶち壊す、神話の災厄の様な威力の拳が雷をロストバーストごと粉砕し、遠く遠くへ吹き飛ばした。
「・・・俺とお前の違いは、そこだろ」
醜い、黒い外骨格の消え去った雷が遠くで立ち上がる。
鎧があったためダメージは少ないらしい。彼岸ノ妖を握りしめる少年は、俺を視線だけで殺しそうなほどに殺気を漂わせ視線を鋭くしていた。
「信じて立ち向かった俺と。逃げたお前で。きっとその時点で、決まってたんだ」
「・・・黙れよ、ピエロ。道化師の言う偽善、紛い事何て聞きたくも無い」
「幼馴染殺して、寧ろ何があるんだよ。生きてるんだろ?そこに希望持てるじゃねえか」
「うるせえつってんだよ!!大事な人を失う気持ちが、お前には分かるのか!?」
雷は叫び、刀を振るう。
怒りに肩を振るえさせ、荒く呼吸を繰り返す雷に、俺は告げた。
「あるよ。それも、二人も」
それは、記憶も無い幼いころの交通事故。
俺だけ生き残った事故で、俺は両親を失った。
「両親が死んだ。小さいころにな。・・・死んだ者には、もう会えない。会話すら出来ない。授業参観にも、三者面談にも受験の説明会とかにも一緒に来てくれない。お弁当も食べれないし、笑顔も怒った顔も見れない。一緒にご飯を食べたりすることも、挨拶を交わすことも出来ないんだ」
雨が、静かに俺の頬を伝う。
感情が溢れ出る。
「でもさ、だからこそ生きてるんだから希望を持てるって気づいたんだよ!!死んだら何もできないけど、例え魂が不完全な状態でも植物状態でも重大な病気でもそいつはそこに居る!!生きてるんだ!!」
剣道の稽古中に倒れて。病院に運ばれて。特別病室で、無数の点滴に繋がれて、動かない隔の姿が脳裏を過る。
忘れたくても忘れられない。あの記憶が、今蘇る。
でも。それでも。
何より鮮明に、何より強く。
全てを救った後の、虹の見える病室での隔の笑顔が。あの、何にも負けないような素晴らしい笑みが。
俺の記憶の一番上に、いつでも在った。
「俺は馬鹿だからさ!お前の言ってる主人公も、ピエロとかも、意味が分からねえよ!だけど、これだけは言える。お前が選んだのは、一番やったら行けないって事が。大事な絆を断ち切るのが、一番ダメなんだ。未来への夢を、希望を!!諦めたら、捨てたら絶対に行けないって事は分かるんだよ!!!」
来いよ、と俺は続ける。
蒼い霊力が輝きを増す。ありったけの感情を前面に押し出し、俺は強く叫んだ。
「来いよ、