東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第十話「0か100か」

陽炎を蹴り飛ばした人物。

それは、博麗幻夢だった。

赤を基調とした、チャイナドレスに近い巫女服。所々に刻まれている金の刺繍。溢れ出ているエネルギーは太陽の様に優しく温かい。

俺の体を侵食していた赤黒い霊力が無くなる。シリアスな雰囲気が一気に消えたところで、俺は吹き飛ばされて顔面から地面に突っ込んでいる陽炎を見た。

 

「ちょっと!幻夢、折角今なら行けそうだったのに!?」

「真が納得しないだろうからって強引にやるな馬鹿!」

 

明らかに素が出ている陽炎に対して、幻夢は強く怒鳴る。

そこで止まってしまい、気まずげに目を伏せた少女に対して、幻夢は続けた。

 

「……最後ぐらい、少し話しなよ」

 

まるで、陽炎が消えることが最早決定しているような言い草に、俺は異議を申し立てようと口を開き。

一瞬だけ此方に向けた幻夢の、悲しげな視線に思いとどまる。

少しの間に、広がる静寂。それを切り裂く、一つの声。

 

「悪夢に真正面から戦って勝てるのは、きっと幻夢だけなんだよ。でも、過去の改変を止めるために、それで現在の幻想郷が消えないように。私たちは悪夢を倒すのが第一目標。そして、助けたいってのがもう一つの目標」

 

目を伏せたまま、陽炎は物事を整理していく。

 

「真の体で出せる幻夢の霊力は、フルバーストの48%プラス稼働が限界でしょ?オーバーレイしても、出せる霊力は今なら……60%くらいかな。幻夢なら悪夢に勝てる。でもそれは幻夢が100%の力を出してやった結果。博麗幻夢レベルの戦いをしての結果」

 

そして、最後に。

 

 

「つまり、真は何をやっても悪夢には勝てない。その力の差を、埋め切れない」

 

でも、と。

口を開きかけた俺を制すように、陽炎はそっと手を挙げた。

その手を自身の胸に持っていって、心臓の真上にそっと押し当てる。伏せられていた顔があげられ、そこには強い意志と決意が宿っていた。

 

「私が居たら、別なんだ。その”埋まらない力の差”ごと、壊しちゃえば良いんだから」

 

世界の理を破壊する程度の能力。

それは前提条件も、結果も破壊する。自身の思い描く世界に、限りなく近づく。

 

「悪夢を倒すのと、倒さないでは0と100違う。でも元々死んでいる私が消滅して悪夢を倒せば、限りなく完璧に近い状態で悪夢の能力を破壊して、助けられるかもしれない。その可能性が、少しでも高くなる」

 

「……元々死んでても、今陽炎はそこにいる陽炎は偽物じゃないじゃないか!」

「それを証明するのは何もないよ?もしかしたら生きている私は全然こんな姿じゃないのかもしれないし」

 

陽炎は言い切る。

 

「誰も覚えてないんだよ。陽炎の事は。王様でも無ければ有名人でもない、唯の殺し屋。皆から見たら消えている存在が、あんた一人の思いだけで無様に生きつなげられる。それだけで、今ある世界が破壊される」

 

自分は要らないと。

消滅するもしないも関係なく、限りなく大きく小さい天秤に自身と世界を乗っけて。

 

「だから、良い。私を一番上手く使えるのは、天音真だ。今まで一緒に戦ってきて、危ないときは守って。真の声に応じて、能力を発動させる」

 

「それ以外に、方法は無いのか……!?」

「無いよ。0か100か、さあ答えて」

 

突きつけられる、難問。

二択で、これ以上なく優先順位の付けやすい問題だ。一人を選ぶか、世界を選ぶか。

 

トロッコの問題を知っているだろうか。

 

多数の人間が線路の上に居て、このままトロッコが進めばそこにいる皆は死ぬ。

一人の人間が横に曲がっている線路の上に居て、レバーで切り替えればその一人は死ぬ。

 

多数か一か。

 

それを決めるのはレバーであり、そのレバーを握るのは自分。

 

今は正にそれだ。

俺の、無意識に強く握りしめられていた右手にはレバーが握られている。

世界を左右するレバーが。

 

「……陽炎」

「何」

 

「お前が、消滅しないで。それでいて、能力を全開にして使用できる時間を教えてくれ」

 

 

「……8秒」

 

8秒。

短いだろう。博麗悪夢に近づいて、その間に途切れるような秒数。

でも、やるしかない。

 

世界か陽炎か。その選択肢を問うトロッコを――――消滅するという問題ごと吹き飛ばす。

 

「俺は、馬鹿だから。……陽炎と世界を天秤にかけても、測り切れない」

 

右拳を、開く。

やっぱりこうなるのか、という顔をしている陽炎と、笑みを浮かべている幻夢に向けて。

 

俺は、笑みを浮かべながら宣言する。

 

 

「捨てきれないんだ。どっちも大事で。だから、精々最後まで抗う。無理でも、リスクがあっても。吹き飛ばすんだ、8秒間で」

 

 

陽炎が消滅しないタイムリミット。

絶対にその時間内で終わらせる。俺は目を閉じて、白い世界から引き抜かれていく感覚を味わいながら、光の粒子となって溶けていった。

 

 

俺の居なくなった白い世界で。

 

 

 

「8秒か……ああ、私も随分卑怯になったなあ」

 

 

 

静かに、誰かがそう呟いた。




ラギアは美少女を……!?
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