東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
目を開く。
全身に、痛みが走る。木を何個もなぎ倒し、山の表面にぶつかって俺はやっと止まったらしい。ガラガラと崩れる岩や落ちていく土。服についた土を払い落とし、俺は地面へと降り立った。
痛いのは、我慢。
まずは、世界を救え。
「フルバースト!!」
バヂバヂィッ!! と、48%の霊力が俺の血管を瞬く間に巡り体が青白い光を放つ。
遠くの方で、黒い霊力と紫の何かが飛び回っている。あれは、暁だろうか。
何にせよ、と俺は膝を曲げ、力を溜める。次の瞬間、宙に真っすぐな青白い線が描かれた。
ギュン!! と高速で空を駆け、落ちかけた体を壊れない程度の霊力の爆発で勢いづける。足に纏っている霊力を炎に変換すると、俺はそのまま右手に霊力を纏わせ槍を生成。
暁と悪夢が、攻撃をぶつけ合い一瞬離れる。その隙に俺は全力で槍を投げつけ、悪夢に大きく弾かせた。
そこへ叩き付ける炎の回し蹴り、暁の全力を込めた斬り込み。
ドドッッ!! と叩き込まれた連撃の直後。俺は、強く右拳を握りしめる。
――――猶予は8秒。
陽炎を消滅させるな。
世界を破滅させるな。
悪夢を、助けろ。
俺は俺自身に言い聞かせ、空中でバランスを取った。
目の前には攻撃を連続で受け隙を晒している悪夢の姿がある。ふつふつと燃え上がる心の奥。
何かが弾けるような感覚と同時に、俺は心の底から全力で叫んだ。
「―――――――行くぞ!!!陽炎ちゃん!!」
『こんな時まで、陽炎ちゃん言うなああああああああ!!!』
ゴオオオオッッッ!!! と赤黒い霊力が俺の全身から燃え上がる。
今まで見た事無いくらいに密度の濃く、激しく強い霊力。[世界の理を破壊する程度の能力]を秘めた最強の霊力は、俺の体を全身包み込む。
蒼い瞳が、ズズズと赤黒く変わる。それを感じながら、俺は更にもう一度宣言した。
「……オーバー、レイッッ!!」
次の瞬間。
俺の体を包み込み、強化していた赤黒い炎が――――業火に変わる。
まるでそれは地獄の炎。全てを焼き尽くし、無に帰す力を持った業火は俺の体を包み込むやいなや異常なまでに激しく燃え始める。
右側には、陽炎の赤黒い霊力。
そして左側には、幻夢の赤い霊力。”拒絶”。
赤黒い業火、真紅の焔。燃え上がる絶大な力を持ち、俺は右拳を悪夢に向かって突き出した。
悪夢は崩れた姿勢のまま良夢の能力を発動させる。背中から襲い来る、無数の黒い腕。その掌は触れたもの全てを灰にする。が、
陽炎の力の前には、無力だった。
触れたところから消えていく。能力が通用しないのを見た悪夢は一度目を見開き、そして襲い来る右手を紙一重で何とか回避した。
しかし、そこに叩き込まれるのは拒絶の一撃。
やはり黒い腕の能力を跳ね返し、寧ろ壊していきながらその左拳は悪夢へと突き刺さり、吹き飛ばす。
ここまでで、0.5秒。
悪夢には、最低でも何回か右の拳を叩き込まなければならない。
陽炎の能力を使って、悪夢に攻撃を届かせる。吹き飛んでいく悪夢へと俺は接近し、再び右拳を振るった。
……しかし、それも躱される。悪夢はどうやら俺の右側の能力が危険だと見抜いているらしく、そちら側には近づかない。
空中での高速戦闘。一瞬で無数の攻撃同士が交錯し、弾き合う。
『埒が明かない……か。真、私の能力をブーストさせる技を使おう』
「そんなのあるのか!?」
『………まあ、ある。使うべきところで、叫ぶんだ。[薄翅陽炎]って』
「了解した!」
脳内でのアドバイス。もう何回も何回も聞いた事のあるそれに応答すると、俺は左足で大きく蹴りを放った。
ダガン、とそれは悪夢の防御を突き破り衝撃を与える。顔を歪めた悪夢に向かって、俺は右拳を振りかぶり。
予測して回避した悪夢へと、タイミングをずらして拳を叩き付けた。
鈍い音と感触が腕から伝わってくる。バラバラバラ、と悪夢の体を崩しつつ突き進む右拳から途中で逃げ出した悪夢は、俺から距離を取ろうとして。
「……距離がある、という事実を破壊しろ」
刹那、目の前に現れた俺の右膝蹴りを食らった。
世界の理。離れれば距離が遠くなる。―――ではなく、根本的な”距離がある”という事実を破壊した。
距離がなければ、幾ら離れても離れられない。一瞬のみだが俺と悪夢はゼロ距離に固定されたのだ。
陽炎とのオーバーレイ。赤黒い業火と真紅の焔。
燃え上がる双翼を掲げ、俺は悪夢へと更に拳を振りかぶる。