東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第十三話「陽炎」

赤黒い霊力を纏った、最高の一撃が悪夢の腹部に大穴を開けて強く吹き飛ばす。

能力も体も破壊された悪夢は地面へと強く叩きつけられ、網目状に亀裂を生み出した。そして次の瞬間、切れたオーバーレイと体力が尽きた俺は上空で霊力の加護を無くし、自由落下していく。

地面が近づく。暁が、紫の雷撃を纏うも間に合わずに。

 

「……最後ぐらい良いところ見せろこのアホ!」

 

どずんっと俺の体から飛び出た陽炎に、捕まえてもらった。

極限の集中状態に、莫大な霊力消費。視界がぼんやりと霞むほどの疲労に包まれた俺は、陽炎に手を掴まれたまま地面に降り立った。

 

「ありがとう、陽炎――――――」

 

そして。お礼を言いかけたところで、俺は言葉を詰まらせる。

俺の目の前に浮遊する陽炎。その体は。

 

 

下半身が、消滅していた。

 

 

今まさに、その左手もぼろぼろと光の欠片に成って暗雲が包み込む大空へと吸い込まれて行っている。どこか儚げな笑みを浮かべながら、まだ残っている顔で彼女は話す。

 

「ごめん、真。実は嘘ついたんだ」

 

申し訳なさそうに。

何も言えないでいる俺へと、彼女は告げる。

霞んでいたはずの視界は、いつしかはっきりと、鮮明に。崩れゆく陽炎を見つめていた。

 

「私が消滅せずに、力を全開で振るえるのは”七秒”なんだよ、真」

 

待て。

じゃあ、俺は。俺が、[薄翅陽炎]を使ったのが七秒の時点だとして。

拳を振るっている時間を含めれば、七秒はオーバーしていることになる。

 

「んー、まあ、ほんのちょっとしかオーバーしなかったからこうして話せています。……真、あんたの所為じゃないからね、気にしないでね」

 

気にするなというほうが無理だろう、と俺は思う。

もう陽炎の左手は、肩まで無くなっていた。下半身が砕け散っていく。

 

長く長く、一緒に居た陽炎との最期は、やけに呆気ない。

 

そしてそれは、別れは一瞬であると物語っている。俺の弱さを。トロッコの選択肢によって選ばれた者の末路。

所詮、人の力では”絶対”を覆すことはできなかったのだ。

 

だけど。

そんな中で陽炎は、確かに笑っていた。

伸ばした右手で俺の右手を掴み、赤い瞳を俺の蒼い瞳に真っすぐ合わせて。

 

「この手で、真は今まで何人も救ってきた。……私を助けれなかったとかは、思わないで」

 

だって、と少女は付け加える。

 

「きっと、初めて一緒に戦った時にはもう、色んな人を殺して生きていた私は救われていたんだよ」

 

 

消えていく。

陽炎が消えていく。それを前に俺は立ち尽くす。

 

でも。

 

その中で、俺はゆっくりと手に力を籠める。

陽炎に握られている右手に力を入れて。

握り、直した。

 

「……陽炎ちゃん……―――――――ありがとうな」

「陽炎ちゃん言うな!……どういたしまして」

 

 

ばらばらばら、と陽炎が消えていく。

俺の手から、するっと彼女の右手が抜ける。虚空を掴んだ右手の、その先で。

 

陽炎は、消滅した。

 

満面の笑みを浮かべたままで。

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