東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
ラスボスは悪夢では無く、悪夢自身の能力。
それは”満たされない願い”の具現化。自身を”満たすため”に、それは悪夢を飲み込み暴走を始める。
最終章第一話「虚空へ」
霊力が俺の体から消えた。
眼前に迫る必殺の黒い霊力。逃げた皆が瞬時に霊力や魔力を放ち、俺を守ろうとするも。
その前に、一つの右拳が黒い霊力を捉えた。
ミシミシミシッと押されるも、それは腕一本で黒い砲撃を受け止める。白い、魂の限界を超えた霊力がそこから放たれる。
まるで燃えるようなエネルギーに、至近距離にいた俺は思わず全身に電流が走ったかのような衝撃を感じた。ここに居る誰も、真正面から受け止めることは出来ないだろう。それなのに、俺の前に立ちふさがるこの人は抑えてしまっている。
博麗幻夢は、歯を食いしばりながら必死に耐えていた。
「よいっ……しょおおおおおおおおお!!!」
突然叫んだ幻夢は、気合と同時に少しだけ体を捻る。
そして、真上へとアッパーを噛ますように右拳を振り上げた。受け止められていた黒い霊力もその流れに乗って、天高く駆け上っていく。純白の光に導かれた黒い砲撃は大空へと伸びていき。
そして、見えない結界―――――博麗大結界と衝突。激しく霊力を散らしつつ、結界に大きな亀裂を入れてやっと消滅する。
疲れたように幻夢は大きく息を吐いた。
その光景を呆然と眺めていた俺達は、動けなかった。声すらも出せず、ただただ自分たちが手も足も出せなかった攻撃を受け流した幻夢を見つめている。
魂と、肉体。これで初めて人は完成する。
しかし幻夢は今魂だけの存在。言わば、不完全な存在なのだ。
そして、その不完全な状態で俺たちよりも強い。その事実に戦慄してる間にも、幻夢は警戒を怠らない。
「……うう、今のはちょっと無茶したな……」
そう言いつつも、彼女は右腕をぐるんぐるんと回しながら霊力を溜めている。
博麗幻夢は、いつもは俺の中に居る。魂だけでは、不完全な存在としてかなり弱体化しているからである。
だが、その彼女が無茶をして外に出た。
俺をあの攻撃から守った。
今、彼女はかなりの疲労感に襲われているはずだ。霊力も、そんなに多くは使えないはず。
それなのに外に出たままというのは、つまり。
その新たに現れた敵が、どれだけ強いかを意味する―――――。
「うし、行くぞ」
突然。
その場の空気が、冷えた。ゾクッと背筋が凍り、肌を濃密な殺気が突き刺す。
博麗幻夢の一言で、穏やかに吹いていた風が止んだ。口がカラカラになるくらいの緊張感。動けば殺されるという、到底霊力の枯渇状態にある魂とは思えない雰囲気を纏いながら、幻夢は右腕を振るった。
刹那、さっきの黒い砲撃を超える密度、速さ、威力の白い砲撃が放たれる。
地面に亀裂を入れて、大きな欠片を吹き飛ばしながらそれは突き進む。エネルギーは空気を焦がし、生み出された暴風は俺たちの服や髪を激しくはためかせた。
地面にいた、黒い塊もその攻撃には流石に反応する。
ごぽっ、と溢れた黒い霊力は地面に染みわたりながら、自身を守る盾を生成。
その衝撃に備え、霊力を与え続けるも―――――。
ドガアアンッッ!
と、呆気なく破壊される。白い光が黒い塊を飲み込み、激しい光を散らした。俺たちは全員目を手で覆い、その光から目を反らす。
やがて。
音も、瞼の上から突き刺す光も止んだ。
恐る恐る目を開けて、俺は立ち上がろうとして、
「……ダメだ、真!!避けろ――――――――!」
いきなりの幻夢の宣告に怯み、力が抜けて上げていた腰が地面にすとんと落ちる。
そして次の瞬間。
目の前に突然現れた黒い物体に、俺は目を見開いた。
さっき幻夢の砲撃を食らったはずの、悪夢の”満たされない”能力。それは俺の目の前でバグアッと割れて、まるで口のように広がった体で俺の上に覆いかぶさった。
絶望的状況。
その状態で。
俺は、その割れた霊力の中にある無限の黒い虚空を見つめたまま、指先一つも動けなかった。