東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
目を開く。
右腕は傷んでいたが、それも直ぐに青緑の光が治療した。風の匂いと、空を覆う分厚い雲、そして色鮮やかな世界が今までよりもずっと鮮明に俺へと染み渡る。
五感が冴えきっている。まるで雨の後の晴れのような、そんな爽やかさが俺を満たしていた。
少し前では、”満たされようとする欲”が地に倒れ伏せ呻きつつも、幻夢が居なくなった隙間を埋めるために急速に姿を変えていく。そして現れたのは、漆黒の博麗悪夢。
霊力も、[恵まれる程度の能力]さえも使っていない。俺はただ、博麗悪夢へと右手を伸ばした。
後ろには、動けない皆が倒れている。これ以上通すわけにはいかない。
だから、少し遠くで戦う。俺はすっと目を閉じ、そして右腕に霊力を流した。
そのまま、悪夢へ向けて数十mの間合いはあるのにも関わらず俺はデコピンを放つ。人差し指が親指に押さえつけられていた反動で飛び出し、その指先が宙を切り、
ドゴンッ!!! と、凄まじい風圧と爆風を生み出して漆黒の悪夢を吹き飛ばした。
遠くまで行った悪夢へ向けて、俺はゆっくりと歩み寄る。大木に体をぶつけたらしい悪夢は立ち上がるとその黒い霊力を全身から立ち上らせ、全力の殺気を俺へと向けた。
それに応えるように、俺も長く息を吐く。青緑の光が輝き、そしてそれは背後に居る皆へと飛んで行った。
恵から託された能力は、今俺の命令によって霊夢達を治療する事に全力を尽くしている。それが最優先のため、俺は[恵まれる程度の能力]を使用することは出来ない。
だけど、関係ない。
俺は目を瞑り、そして開く。
その瞳は、大空の様な蒼ではなく――――宇宙の様な、漆黒。
青空をも飛び越えて宇宙までその天を広げた俺の魂は、博麗幻夢の意思を、陽炎の願いを引き継いだ。
もう迷う事は無い。
俺なら。いや、俺達なら、絶対に悪夢を助ける事が出来る。その先に何が待っていようとも、悪夢の笑顔を引き出す事は出来る。
右拳を、強く強く握りしめた。
ぐっと力を込めて、何も落とさない様に硬く。
そして俺は、静かに宣言する。
もうずっと使ってきた、俺の最初の技を。
博麗幻夢とリンクする事の出来た、最初で最高の技を。
「――――――――バースト」
その言葉と同時に、俺の体を白い光が包み込んだ。
俺の体に沿って、白い光は輝いている。炎のように揺らめくその霊力は、オーバーレイの様に激しくはない。別段普段のバーストと見た目は変わらないように見える。
……が、それは全くの見当違いだった。
今、俺の体の血管。
そして毛細血管、神経にまで霊力は流れている。
全身を巡る霊力。しかもそれは、”博麗幻夢”の、100%の霊力――――!!
密度が違う。
いや、そもそも根本から違う。
揺れる白い霊力を纏った俺は、静かに、一歩ずつ歩いていく。怪獣のように大きい足音も立てずに淡々と歩き続ける。
しかし、俺の歩いた所には網目状に亀裂が走っていた。力を入れてはいない。ただ、溢れ出す霊力の余波だけで地面が崩れたということ。
漆黒の悪夢は、立ち尽くす。博麗幻夢を受け継いだこの俺を恐れるように、その体を震わせている。
「……行くぞ、博麗悪夢」
ただ一言。
右拳を振り上げ、力を籠める前に一言だけ、俺は悪夢へと呟いた。
「「『お前を救ってやる』」」
三人の声が重なった。俺の声と、そして二人分の声が。
漆黒の悪夢は身の震えを無理やり打ち消すかの様に叫ぶ。大きく叫んで、そして”満たされようとする欲”は俺へと飛びかかってきた。