東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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最終章第十一話「空白の世界のその先で」

漆黒の博麗悪夢が繰り出す一撃一撃は、全てが重く速い。”満たされようとする欲”も、元々が同じの為か博麗幻夢の時よりも博麗悪夢を使いこなしていた。

対する俺には、時間がない。

消滅する筈の博麗幻夢の能力を使っているのだ。つまり、俺と一体化した幻夢が存在する限りしか能力は使えない。能力は魂にあり、能力の譲渡は出来ない。何故なら魂は人によって違い、完全な融合は出来ないからだ。

その為、今の俺と幻夢は全てを俺に委ねた、いわば[究極のオーバーレイ]状態。

全てを俺に委ね、もう二度とあの魂の姿に幻夢はなる事が出来ない。その魂を、能力を俺が最後の一滴まで纏っているのが今の[究極のオーバーレイ]なのだから。

幻夢の魂が消滅してしまうまでのごく僅かな時間。それまでに、勝負を終わらせなければならない。

魂が限界を超えているときに放つ白く眩い光が俺の体から溢れ出ているのも、幻夢が無理をしているから。

だから俺は、手加減無しで――――拳を振るった。

 

音さえも置き去りにしつつ、その右拳は一撃で博麗悪夢の連撃を中断させる。

鳩尾を深く穿いたその拳はミシミシと音を立て、白い光を輝かせながら漆黒の悪夢を大きく後ろへと吹き飛ばす。爆風と衝撃波で髪が強く揺れ、砂埃が視界を瞬く間に覆い尽くす。

それを左手の一振りで全て吹き飛ばし、俺は奥の方で立ち上がろうとしている博麗悪夢へと霊弾を放つ。

だが、幾ら幻夢の100%霊力だからと言っても霊弾が悪夢に通用するはずもなく、全て避けられる。代わりに繰り出されるのは、空気が大きく振動するほどに圧縮された霊力の回し蹴り。

正に、神速。

とてつもない速度で繰り出されたその一撃は、俺の首の骨を折らんとばかりに一瞬で顔の横まで来ていた。左手でそれを受け止め、ビリビリと来る衝撃に何とか耐える。

しかし、終わらない。一撃を食い止めただけでは、博麗悪夢は終わらない。

 

左手を顔の横に出し、硬直する俺へと放たれるのは圧縮された黒い砲撃。

針の穴へ糸を通すような精密さで、俺の隙へと致命傷を確実に与えるためにそれは撃たれる。至近距離からのそれを防ぐ術は、

 

「……イクスバースト!!」

 

あるのだった。

 

白い輝きが、一瞬で虹色の光に変わる。封印の霊力でのバーストから溢れ出る虹の霊力に触れた瞬間、その黒い砲撃は消え去った。

『干渉型永久封印』。直接触れたものを、永久的に封印する技の一つ。

今俺は簡単に、砲撃に使われた黒い霊力を封印しただけだ。

少しのけ反った俺は、悪夢の額へと全力の頭突きを食らわせる。ノックバックをし、何とか距離を稼ごうとする悪夢へ向けて、俺は左の拳を右肩へ打った。

体を捻っる事で悪夢は何とかそれを回避する。”満たされようとする欲”に何処か焦りが見えてきた中で、俺も幻夢の消滅へのタイムリミットが刻々と近づいて来ていることを全身で感じる。

 

焦るな。ゆっくりと冷静に、落ち着いて。

 

鼓動は速まっている。体は熱く、脳はこれ以上ないほどに回転している。

だが、静かに冷静に。感情的になるのも時には良いことだが、それでも今はその時じゃ無い。

 

悪夢は自身が態勢を整えるため、大きく後ろへと下がった。

俺にとってもそれは好都合。目を閉じて集中し、胸の中心で右拳を握りしめる。

いつだって正面突破。俺の師匠で、俺の憧れた博麗幻夢の戦いを思い出せ。

そして、描け。夢を現実に。博麗幻夢の強さを、天音真が完全に模倣するんだ。

そして、超る。夢を現実に。博麗幻夢の強さを、天音真が完全に超えて見せる。

 

「ギャアアアァアァアァアァア…………!!!」

 

博麗悪夢の形をした黒く禍々しいナニカは低く呻くと、その左肩から拳の先までに満遍なく霊力を滾らせる。煙のように漏れ出ている霊力は段々とその密度を増して、今や炎にも見える程に。

そこに込められた霊力は凄まじい。正直、逃げたいくらいに。

 

だけど俺は逃げない。俺も握りしめた拳を大きく後ろに引き、体を弓の弦の様にしならせつつ限界まで捻る。白く輝く純白の霊力はありったけの気合を込められて大きく燃え上がり、俺の右手全体を包み込む。

極光。その言葉を具現化したかのように強い輝きが右拳から放たれ、悪夢もまた体を捻った。

 

漆黒と純白。対極に存在する両者の霊力が限界まで高められ、そして限界を超えても留まる処を知らない。

この一秒一秒の合間にも、霊力は強くなっていく。緊張感も共に高まっていき、集中力は脳を焦がす。

お互いの視界に映っているのはお互いのみ。

それ以外は見えていない。土も空も雲も木も、何も見えない。

そんな空白の世界で、やがて、何の合図もなしに俺たちは一歩踏み出した。空白の世界は、動きも全てゆっくりで、一歩がゆっくりと下されて行く様子が、鮮明に見えて――――

 

刹那、俺たちは一瞬で間合いを零にしていた。

 

空白の世界が吹き飛び無数の情報が脳であふれ返る。拳をお互いに捻りを加え撃ち出すその構えは霊力を全力で使っていても霞んで見えた。

純白の極光と漆黒の虚無が軌跡を鋭く描くと同時に、俺たちはその一瞬一瞬を無限の情報として感じ取る。鮮明に見える視界の奥で、五感を超えた六感さえも使えるような感覚を味わいながら。

 

俺と漆黒の博麗悪夢は、体の捻りを、溜めていた力を一気に解放した。

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