東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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最終章第十二話「白い竜巻」

俺の拳は、真っすぐに悪夢へと向かい――――。

 

悪夢の拳は、真下へ撃たれた(、、、、、、、)

その衝撃波は漆黒の博麗悪夢を大きく上に吹き飛ばし、俺の拳は空を切る。その余波で突風が渦を巻き地面を抉り取るが、それを気にせずに俺は後ろへと振り向いた。

だが、予想とは違い博麗悪夢は背後から俺を狙ってはいない。狙っているのは、さっきの戦いで動けない霊夢達。俺の[恵まれる程度の能力]で治療はしているも、まだ足りない。動けない。そこへ、悪夢の漆黒の霊力が放たれようとしている、そんな状況。

止めれない――――そう一瞬で理解した俺は、体を急回転させる。振り返る様に強く回転し、その流れを利用しつつ俺は左手の拳を強く打ちぬいた。

パアン! と空を強くたたいた左拳は体の回転の力も上乗せされ、大きく風の砲弾を撃ち出す。微弱な遠距離攻撃だが、博麗悪夢の構えていた左拳は少し逸れた。

そこに生まれる少しの、確かな隙。左拳を突き出すと同時に腰ダメに引いていた右腕に力を込めて、俺は地面を蹴って大きく跳躍する。

詰まる距離。白い霊力が炎の様に揺らめく軌跡を描き、そこで俺は悪夢を地面に撃ち落とすようにして右拳を真下へ放つ。

……が、それは間一髪で躱された。

博麗悪夢は笑っている。左手に込められた霊力はズズズと純黒の焔となって、右手を真下に振り切ってしまい動けない俺の目の前で。

無慈悲に、霊夢達へ向けてその刃を突き出した。

一瞬で彼女達との距離を詰めて、全員の命を無くそうとしているのが分かる。

 

届かない。どうやっても、届かない。

 

左手を伸ばし、霊力を急激に流し始める。スーパーノヴァの構えをしても、それでも間に合わない。

それでも諦めない。霊夢達へと迫る黒い霊力を狙って、白い霊力を撃とうとした処で、

 

ドゴン、と鳩尾を強い衝撃が貫いた。

のめり込んでいる漆黒の拳。歪んだ笑みを浮かべているのは、”満たされようとする欲”の博麗悪夢だった。

左腕に集中していた霊力が、不完全な状態で散る。大きく地面の上を滑っていく俺のその視界の奥で、漆黒の霊力は遂に霊夢や魔理沙へと迫り――――、

 

俺は叫んだ。

悪夢は笑った。

 

 

そして次の瞬間に。

 

 

スパンッッ。

 

 

―――――――それは小さく、鋭い音だった。

霊力の焔に、一筋の銀閃が走る。薄紅色の霊力がそこから花を咲かせると同時に、黒い霊力は一瞬で無数の欠片に爆散した。

呆然とそれを眺める俺と悪夢。そして無くなった霊力の奥に、長い長い一振りの刀を持ち、傷だらけの体を懸命に震わせている、銀髪の少女。俺のもう一人の師匠である、魂魄妖夢が立っていた。

右手に構え、振り下ろした状態の楼観剣。

妖夢は血が滲む唇を震わせ、泥と自身の鮮血に汚れた腕を動かして、動かない左手を庇って。

文字通り命を削ってそこに立っていた。

想像を絶する痛みだろう。いつ切れても可笑しくない意識は、折れない意思を持っていた。

蒼い瞳が輝いている。その死んでいない瞳で俺を見ると、妖夢は弱弱しく笑って、そして右手に持った楼観剣をふわりと投げた。

そして、操り人形の糸が切れたかの様に崩れ落ちる。

皆を守るために立った妖夢。その彼女が投げた楼観剣を、俺は全力でダッシュして空中でつかみ取る。

さっき穿たれた鳩尾は痛み、一歩動く度に全身が悲鳴を上げている。

 

だが、止まれない。

止まるわけにはいかない。ここで此奴を倒して、幻想郷を救う。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

「ギャアアアアアアアア!!」

 

俺と博麗悪夢が、同時に砲声した。

右手に握られる2m越えの長刀、楼観剣に白い霊力が纏わりつき渦を巻く。激しい光を、強い力を持って純白の霊力は竜巻の様にそのエネルギーを刃に纏った。

楼観剣だから耐えられる、全力の霊力開放。その全てを、俺は体を捻り筋肉を極限まで縮め。

 

そして、解放する。次元さえも切り裂く一閃は純白の軌跡を持って、空を覆っていた分厚い暗雲を切り裂き、博麗悪夢へと全ての力を収束させる。

それに呼応する様に、博麗悪夢の体から純黒の凄まじい霊力が噴出した。無数の奔流となって放出されたそれらは一箇所に集い、悪夢の左手を中心に螺旋状の大槍を生成する。

 

振り下ろされる、極光の白き竜巻。

迎え撃つは、極限の虚無が広がる螺旋状の大槍。

 

その二つがぶつかる。刹那、轟音は空気を吹き飛ばし衝撃はお互いの全身を駆け抜け、余波は大気を強く震わせた。直撃していない地面は大きく亀裂が入り、それだけには留まらず幾つもの巨大な欠片となって宙に跳ね上げられる。降ってくるそれは地面にぶつかり音を上げて粉砕され、瞬く間に周囲一帯は天災の直後の様に変化した。

終わらない。霊力と霊力の衝突は限界まで拮抗し、当たっていないのにも関わらず俺の前身は震えながら激痛を感じ取る。

呻き声が、無意識の内に口から漏れ出る。奥歯をギリっと噛みしめ、俺は耐え続ける。

刃を押し続け、漆黒の大槍を斬り潰そうと魂を込める。

燃え上がる力。自分自身の持っている力なのに、無限に湧き上がる力は何処から来ているのか見当もつかない。

 

「………幻夢………っっ!!」

「陽炎……!!」

 

ずっと支え続けてくれた、二人の名前を呼ぶ。

どっちも、もう消滅してしまった。二度と話す事は出来ない。それでも俺は彼女たちの姿を脳裏に思い浮かべ、無限に湧き上がる熱い熱い感情を刃に込める。

 

その時だった。

 

俺の見間違いか、それとも奇跡か。

 

刃が一瞬、赤黒く光ったように見えた。

俺の手に、誰かの暖かい手が重なった。

 

そして俺は、今までの記憶を全て一瞬で思い出す。

夢や幻では無い、しっかりと刻まれている魂を。歌の様に整えられた、無数の現実を。

世界が加速する。思考は燃え上がり、意思は強い力をもって俺の右手へと込められる。

立ち止まるな。

今まで届かなかった一歩を―――――――

 

今この瞬間、全力で、届かせる――――!!

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

叫んでいた。

そこに考えは無かった。

あったのは燃える感情、止まらない意思。

起こった奇跡を認めるように、俺の魂の声に応えるように、今まで踏み出せなかった一歩を俺は強く、強く前へと前進した。

 

その瞬間、ドパンッッッ!!!!!!! と凄まじい音を立てて、俺の刃が悪夢の左腕を大槍ごと斬り飛ばした。

地面を抉り、切り裂き、そして消える純白の刃。

漆黒の博麗悪夢は自身の消えた左腕を一瞥し、臆することなく俺を睨み付ける。

俺は地面へと楼観剣を突き刺し、満身創痍の体で歩き出す。

 

悪夢との距離は、およそ10m。

 

そして、これが最後の攻防だと、俺たちは何処かで理解していた。

お互いが同時に右拳を握りしめる。体をギギギと撓らせて、構えるのは普通の拳。

幻夢が、そろそろ居なくなる。消滅する。頬を伝う熱い何かを感じながら、俺は博麗幻夢と放つ最後の拳へと、持ちうる霊力を全て満たした。

純白の極光が、俺の右手から放たれる。

それはあたかも、宇宙に輝く大きな星。白く強く、大きな輝きをそれは持つ。

俺にとって、その霊力は希望だ。博麗幻夢の、何時も勝利を掴んできた希望の明るい霊力。

今度も燃え上がれ、と俺は拳を強く強く強く強く握りしめる。体中の霊力をかき集めて、それを全て右拳に集結させる。

 

終わりは、もう、そこにあった。

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