東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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エピローグです。
もう泣きそうです。では、最後の最後、どうぞ!!


エピローグ

悪夢との、”満たされようとする欲”との戦いが終わって、早くも一週間が経っていた。

その間、戦った人たちは主に永遠亭で治療を受けていた。それは俺も例外ではなく、寧ろ俺が一番治療されていたといっても過言ではないだろう。間違いなく。

さて、そうして一週間をベッドの上で過ごした俺は、今日やっと右腕にぐるんぐるんに巻き付けられていた包帯を取ることができるのだ。

無断で取ろうとするとずっとベッドの横にいた隔に怒られるからね。しょうがないね。

 

今日は皆で午前中に退院して、その後に宴会である。紅魔館メンバー、レミリアとフラン以外はもう宴会の準備を進めているらしい。博麗大結界が戦いの影響で壊れないように何とか守っていた紫も使い果たした妖力が復活したらしく、彼女も式神を引き連れて宴会には参加するとのこと。

元々[恵まれる程度の能力]で回復していた霊夢達は大した検診も無く、今朝退院していった。

俺も今から検診の時間だ。隔には部屋の外で待ってもらって、俺は一人で白い病室の中に入っていく。

 

「失礼しまーす」

「あ、真。来たわね、そこに座って頂戴」

 

中に居るのは、勿論名医(ヤブ医者)の八意永琳。いつも通りの赤と青の服に、長い銀髪を一つに纏めている。月の都の住人だったとか何とか。

俺は永琳に言われたとおりに黒い丸椅子に座る。するとどこからか優曇華がやってきて、俺の右腕の包帯を全て取ってくれた。

久々に自由になった右手を、永琳に言われたとおりに動かす。

それを全身試して、やっと永琳は頷いた。

 

「………後遺症も無さそうだし、問題なさそうね。よし、退院オッケーよ」

「良かった……。ありがとうございました」

「いえいえ。此方こそ、幻想郷を救けてくれてありがとう」

「真さん、ありがとうございました!」

 

永琳と優曇華は笑顔でそう言ってくれた。

俺は深く一礼すると、白い病室から出ていく。もう二度と見ることはないだろう永遠亭を眺めて、その空気を思いっきり吸い込んで、俺は隔と一緒に歩き始めた。

 

永遠亭から宴会の会場である博麗神社までは、結構ある。

暫く運動していなかったからまあまあキツイが、迷いの竹林を抜ければそこは人里だし、何とかなるだろうと思って俺は歩くことにした。

……隔さんは勝手に着いてきたんです。

 

「ねえ今何か考えた?」

「決してその様な事はございません」

 

エスパーは健在だ。

腰まで届きそうな長い黒髪に、昔俺のプレゼントした黒いカチューシャを付けている隔は白のワンピースに栗色のカーディガン、灰色のダッフルコートを着ていた。

その透き通った黒い瞳を輝かせて、隔は俺に戦いの様子を色々聞いてくる。

オールバーストやらの流れで一瞬隔の目からハイライトが失われるたびに目を逸らしながら、俺たちは数時間掛けてやっと博麗神社へと辿り着いた。

 

「いやー、長かったね!着いた着いたー!」

 

隔はそう言って、鳥居の下を潜る。

境内ではもう準備が進んでいて、その奥には霊夢と魔理沙、そして八雲紫が立っていた。

 

「お、よっす真と隔!元気かあー?」

「元気だよ。後遺症も残らないみたいだし」

 

魔理沙がぶんぶんと手を振ってくれ、それに返事すると三人は俺たちへと寄ってきた。

霊夢と魔理沙が隔と一緒に咲夜、妖夢の所へ宴会料理を作りに駆けていく。残された俺と紫は、鳥居を再び潜って外に出た。

長い長い石の階段の上で、俺と紫は青い空を見上げる。

 

「……お疲れさま。ありがとう」

「いや、こっちも色々ありがとう。紫が偶然スキマを開いて無かったら隔は助からなかったし、こっちでの生活も経験も含めて凄い感謝してる」

「それは良かった。……それじゃあ、行きましょうか。暁ー!ちょっとこっち来てー!」

 

紫は大声で暁を呼ぶ。すると、境内の中からパタパタと小走りで暁は駆け寄ってきた。

長い黒髪を簪でポニーテールに纏め、大きな黒い瞳で俺と紫を交互に見る。

その恰好は戦闘服ではなく、普通の和服である。

恐らく霖之助さんの趣味だろうか。赤と金色の振り袖に、赤い鼻緒の下駄を履いている。

それは金の簪と良いバランスで、紫は顎に手を当ててじっと考え込むと。

 

「……良いわね。可愛い。霖之助はこういうセンスはあるのよねえ……」

「同意。暁可愛い……。こう、この清楚な雰囲気が素晴らしい」

「ふええ!?」

 

俺と紫が呟くと、暁は思わずと言った風に自身を抱きしめるようにして顔を真っ赤にする。

今にも腰の後ろに付けてある二振りの小刀、日登(ひのぼり)時雨(しぐれ)を抜き放ちそうな程にあわあわしている暁を未だじっと見つめる紫は、やがて指をぱちんと鳴らした。

すると、俺たちの目の前に突然スキマが現れる。

暁が首を傾げる中で、俺はその行き先を知っていた。

 

妖怪の山。その山頂。

 

俺達が入院している時に、紫や早苗、咲夜さんが幻夢達のお墓を作ってくれたのだ。

一番お世話になった俺はまだ行けてない。だから今から行くのだ。

 

「暁、悪いけれど真の護衛してくれないかしら?」

「え?あっはい、分かりました」

「別に襲っても構わないわよ?」

「……いや、もう敵じゃ無いですよ?」

「純粋な子……っ!」

「紫、そろそろ止めろ!?」

 

変な事を口走り始めた紫に突っ込みを入れ、俺はスキマへと歩いていく。

後ろで紫に一礼した暁も、俺を追いかけてスキマへと入ってきた。

 

☆★☆

 

スキマのその先は、強く冷たい風にさらされている妖怪の山の山頂。

髪を押さえる暁は俺の隣に寄り添い、俺はそのまま山頂の中心まで歩いて行った。

そこには、幻夢の魂を封印していた赤い宝玉と、四つの暮石が建てられている。幻夢と、悪夢良夢怪夢だ。

このお墓を作ったのは、主に霖之助さんらしい。

過去に辛い事があっても、あの人はそれを全然前に出さずに愉快に生活している。楽しそうな彼のお店は、看板娘になった暁のお陰で大繁盛らしい。

 

隔と帰ってくるときに買った赤い花を、お墓に供える。

そのまま手を合わせて、俺はただ一言のみを墓前で、心の中で告げた。

一瞬風が止む。俺は同じように律儀に手を合わせていた暁と一緒に立ち上がり、そしてその山頂から幻想郷をぐるっと見渡した。

雲一つない青空はどこまでも澄んでいて、その下には冬を感じさせる寒々しい枯れた木々と、まばらに広がる緑が見える。所々に見える人里からは煙が上っており、幻想郷一高いこの場所からは全てが見渡せた。

暁は無言で、その俺の後ろに立っている。

かつての敵。それでも今は心強い仲間になった暁とも、今日でお別れだ。

 

俺は、幻想郷に残るか、それとも現実に帰るかという選択肢を提示された。

勿論幻想郷に残れば住処も職も上げる、というのが八雲紫の言い分で、寧ろ残れというのが博麗の巫女である霊夢の意見だった。

しかし、俺はきっぱりとそれを断った。

未練が無い訳でも、幻想郷が嫌いなわけでもない。

逆だ。未練はたっぷりあるし、幻想郷は大好きだ。人もこの世界も。

 

でも、俺は帰る。自分の居るべき場所に、現実へと。

隔も一緒に。半分は吹き飛んだ高校生活を、最後まで送って、大学生になって、俺は大人になるのだろう。

 

それを知っているからか、暁は何も言わない。少し後ろを見れば、俯いている姿が見えた。

幻想郷と現実は、本来博麗大結界で隔離されている。本来は干渉できない二つの世界を自由に行き来するのは無理らしい。それで紫と霊夢が口論になりかけたが、それを慌てて宥めたのは記憶に新しい。

だから、俺は幻想郷の景色を堪能した後に振り返り、暁を真っすぐに見た。

それを敏感に察知した和服姿の暁は俺をおずおずと見上げ、そして小首を傾げる。小動物みたいなその行動に思わず笑みをこぼし、俺は幻夢に投げかけたのと同じ言葉を、暁にも言った。

 

「ありがとうな、暁」

 

一瞬ぽかんとしする暁。それでも彼女は直ぐに笑みを浮かべ、そして、

 

「うんっ!ありがとう、真!」

 

元気よく、返してくれた。

 

☆★☆

 

そして狂乱の宴が始まった。

俺は予め隅っこの方で常識人(お酒をそんなに飲まず、酔っぱらいを介抱する人)に頼んで周囲に座って貰った。それで霊夢や魔理沙、咲夜さんや妖夢を回避しようという魂胆だったのだが。

 

今現在、縁側でダウンしている俺を見れば、その努力も無駄だということが分かるだろう。

アルコール度数の無駄に高いお酒を飲まされ、ぐわんぐわんと揺れ始めた世界。常識人等も諦めたように俺と酒豪を見つめる中で、その人たちから解放されたのは結局流石に吐き掛けた時だった。

言い換えればそれまでは解放されなかった。

俺お酒弱いからね?直ぐにダウンするからね?

 

……まあ、そんなこんなでもう夕方。空が真っ赤に染まり、茜色に輝く空が藍色の空と混じり合う頃。

その綺麗な景色を見つめつつ、俺は上体を起こす。さっき暁がわざわざ持ってきてくれた水を飲み干し、立ち上がった。

これから俺は、一生で二番目くらいに大事な事をしなければならないのだ。

そう、言うなれば決戦の時。俺は隔を境内にこっそりと呼んで、そこから二人で歩き始めた。

 

「いやはや、急にどうしたの?……すっごい顔色悪いけど」

「酒飲みすぎただけだよ。大丈夫」

「真まだ未成年だよね!?」

「霊夢と魔理沙と妖夢と咲夜さんに飲まされた」

「ああ……成程……」

 

心配そうに俺の顔を覗き込んでくる隔に言葉を返すと、呆れたように、納得した風に隔は苦笑を浮かべた。

長い長い石の階段の上まで来て、何も言わずに俺たちは夕焼けの空を見上げる。

その静かな雰囲気に、俺の鼓動はばっくんばっくん脈を刻んでいた。

落ち着け。そして失敗するな。

 

失敗したら死ぬぞ……ッ!!

 

全力で深呼吸をしつつ、体内に響く鼓動の音を落ち着かせる。

そのまま俺は絞り出すように、口を開いた。

 

「……隔?」

「ん?なに?」

 

俺が呼びかけると、隔はそれを予想していたかのように間髪入れずに返事をしてくれる。

ゆっくりと横を向き、隔へと向くと、隔はもう俺を見つめていた。

風に揺れる長い黒髪を手で押さえ、微笑を浮かべている彼女へ向けて、俺はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

「えっと、ずっと前から……。具体的に言えば13年二か月十四日前、三歳の頃に初めて会った時から……!」

「やけに具体的だね!?」

 

そこまで言って。

俺は最後の、一番大事な所を言うために大きく息を吸って――――――――!!

 

 

 

 

 

 

「…………ごめんやっぱ無理!!!!!!」

「おいこら」

 

叫んで、逃げようとした瞬間に隔に肩を掴まれる。逃走失敗。

後ろを向いていた俺を強引に回し、視線を合わせてくる。その瞳孔は開ききっていて、光はない。

ミシミシ……と隔の握力で軋む肩。何も言わない彼女から放たれる殺気は人の域を軽く超えている。

それでも。

 

その表情を見て、俺は改めて自分の思いを認識して。

 

そして、告げる。

 

「……ずっと前から、好きでした。俺と付き合って下さい」

「もう一声」

「えっ」

 

予想外の一言。

肩を掴んだまま、にっこりとほほ笑んだ隔に従って、というか従わせられて、俺はもう一歩踏み込んだ言葉を必死に考える。

余談だが、俺はこの時博麗悪夢との闘いよりも頭を回していた。

 

「……お弁当作ってください?」

「今もしてるよね」

「………お風呂で背中流してください?いやでもなあ……」

「胸を見て言うな」

「…………同棲してください!」

「うん、喜んでするけどもう一声」

「……………よ、夜の?」

「喜んでするけど、惜しいかな」

 

するのかよ。と思いつつ、俺は更に考えを巡らして。

そして、辿り着く。

 

「じゃあ、俺よりも後に、一緒のお墓に入ってください」

 

そう言い切って、俺は嬉しそうに顔を真っ赤にする隔を抱きしめて。

 

――――――――そっと、顔を近づけた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

皆に挨拶を終えて、俺は待ってくれていた紫と隔の元へと戻ってきた。

何も言わずに、紫は扇子を広げる。すると生まれる、時空のスキマ。夕闇に紛れているその空間を見て、そして俺は振り返って博麗神社を見上げた。

鳥居の前。

 

 

俺は遂に、この幻想郷とお別れする。

 

 

こみ上げてくる極彩色の思い出。

楽しい事ばかりじゃなかったけど、それでもここで過ごした時間は俺にとって掛け替えの無い物になっている。

熱い涙を服の袖で拭い、極力平坦を保とうと頑張る。

でも、それは止まらない。別れの時だというのに、笑顔で別れたいのに涙は止まらない。

紫は無言で、それでも幻夢を思わせる優しい瞳で俺を待ち続ける。隔も同じだった。

時々漏れる声は、震えている。湿っている。

それでも、言わなくちゃ行けない。俺は涙をそのままに、顔を上げ、そして明るい博麗神社と藍色の空を見上げて、大きく声を出した。

 

「皆、ありがとうございました!絶対に忘れないから!!元気で、ずっと元気で居て下さい!!!」

 

そして、大きく深く一礼。

紫と目を合わせ、お互いに深く礼を交わし。そして俺はスキマへとゆっくり歩み寄る。

目元の涙を拭って、博麗神社に背を向けて。広がるスキマに手をかけて、入ろうとした処で――――

 

「「「「「「またねー!!!」」」」」」

 

その声を聴いて、振り返った。

そこには酒瓶をもって、或いは食べ物をもって並ぶ幻想郷の皆がいた。

彼らは皆、再会を確信しているかのように「さようなら」とは言わない。大きく手を振って、そして満面の笑みを浮かべてくれる霊夢達に向けて、俺も笑顔で手を振った。

涙を拭って。そして、再開を信じて。

 

やがて、俺は振り返る。

 

未来を見据えて。

今まで踏み出せ無かった一歩を、俺は踏み出した。

 

 

『またね、真』

『達者で居るんだよ!!』

 

 

最後に響いたその声は、誰の物だったのか。

俺はそれを知っている。確信している。でも俺は、それを確かめはしなかった。

 

 

幻想は終わらない。

 

 

全ては、またここに訪れた時に。

 

 

それが俺の夢の一つであり。

決して幻にはなりえない、確固とした熱い思いだった。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

――――――――桜吹雪の下で、長い黒髪を揺らして彼女が駆けていく。

急いで俺はその後を追いかけて、息も切れ切れにやっと手を掴んだ。

 

「お前っ……。足早すぎるよ……!」

「ふっふっふ、伊達に貴方のお嫁さんじゃないです♪」

「……俺たちまだ学生よ?」

「私はもう初夜を迎えても良いんだけど」

「ダメだよ!!」

 

悪戯っぽく微笑む彼女の柔らかい手を右手で握って、軽口を呟く彼女に反撃として俺も呟く。

 

「せめてまな板から成長させよう」

「最近は膨らんできたし!!」

 

むきーっと反発する彼女は、速足で俺より前に出る。

それでも手を離さないのがこいつの可愛いところだな、と思っていると、彼女は突然俺に振り向いた。

 

風に舞う桜吹雪を、大きく広がる快晴の青空を背景に。

長い黒髪を揺らして、澄んだ黒い瞳を細めて。彼女は満面の笑みで、俺へと告げる。

 

「ねえ、真。……これからも、一緒に居ようね!」

 

言われなくても。

 

「……うん。ずっと一緒だ」

 

俺は隔と離れるつもりは無い。

どんなピンチでも、走って、手を伸ばして、また助けて見せる。

 

 

走り出す隔。おれはその手を、掴んだ『夢』を離さないように――――

 

 

 

しっかりと、隔と繋いだ右手を握りしめた。

 

 

 

 

 




今までご愛読、ありがとうございました!

これで、長らく続いた夢幻魂歌シリーズは終わりです。
一年ちょっと……。長かったです。
そして、楽しかったです。ラギアの処女作から始まったシリーズ。
至らぬところばかりでしたが、どうでしたか?

因みにラギアはちょっと泣きそうです。

いつまでも真君と隔ちゃんを書いていたい。
でも、物語は完結させて始まるんです。終わりじゃなくて、始まるんだとラギアは思いました。
なので、夢幻魂歌は完結します。

でも、終わりません。

長らくは語りません。それでは皆さん!!一月一日、朝からありがとうございました!

ラギアの次回作、(一月一日投稿予定)にご期待ください!!


本当に本当に、ありがとうございました!!!!!
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