東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
闇鬼を倒した俺は、疲労しきった体を無理やりに引きずり夢月の元へ向かう。
途中、幾度も幾度も転んだ。
それでも俺は、時には地面に這いつくばったまま動いた。
ズリ…ザリ…
体を引きずり、膝を擦り傷だらけにし、俺は夢月の近くへとたどり着く。
体全体を踏ん張りつつ、夢月を見下ろすように膝立ちになる。
安らかな寝顔。冷たくなり、青くなった肌に動いてない胸。
それを確認してから、俺は大きく息を吸いこむ。
そして、全身に力を込めた。
刹那、体に纏っている青緑の光がより一層強くなる。
荒れ狂う暴風が無限の渦を撒き散らし、体の神経が全て悲鳴を上げる程に。
「後、少し・・・!」
絞り出すように紡いだ声で、俺は自身に発破をかけた。
崩れ落ちそうになる己を叱咤し、震える右手を歯を食いしばりつつ持ち上げる。
そのまま大きく掌を開き、俺は夢月の胸、心臓の真上に掌を押し付けた。
「頼む、頼む―――――」
小さく呻き、青緑のエネルギーを俺は全て、夢月に注ぎ込み始める。
ポオオ・・・・ と、俺の右手から夢月の体へと莫大なエネルギーが流れ込み始めた。
エネルギーを流し込むうちに、己の心臓が速く強く波打ち始めるのを感じ。
同時に、激しい頭痛と目眩を覚える。
「ま・・だ・・・だ」
しかし、俺は荒く呼吸を繰り返しながら更にエネルギーを送り続ける。
歪んだ顔、泥まみれの顔面。
「もっと・・・もっと、寄越せええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
汚い、地面を這いつくばり転がり回った全身を震わせながら俺は咆哮した。
足りない。まだ全然、全然足りていない。
耳が聞こえない。
匂いも分からない。
視界が時折暗闇に落ちたりもする。
頭が割れそうな程に、今にも破裂しそうな程に痛む。
―――――それでも、俺は右手を押し当て続けた。
体をささえる左手が崩れ、右手以外が地面にドサッと落ちる。
何で。
何で、いつも足りないんだ。
肝心な所で、この伸ばした手が届かないんだ。
沸き上がって来るのは、無数の――――一つの、想い。
挫けるわけには行かない。
倒れるわけにも行かない。
この手が、届かないのなら。
この手が、届くまで走り続ければ良い。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
堕ちそうになる意識を、砲声と共に奮い立たせる。
右手の上に左手を重ねて、俺は自分の中に潜む何かに告げた。
”今ここで、全力を出し尽くせ”
そう言った、直後。
木々や、葉や、よみがえった桜や、土や虫や動物や大気や微粒子から。
鮮やかな深緑色に輝き続ける線が、全て俺の右手の甲へと繋がった。
全ての者から恵まれ与え続けられる生命力を、俺の体を通し夢月の死んだ体へと注ぎ続ける。
蛍の様に、その光は漆黒に塗りつぶされた世界を照らす。
深緑の太陽はたった一人の少年の元で輝き、たった一人の少女を照らし続ける。
回りの草木は段々と枯れ果て、虫は足りなくなった力を補うために急いで深緑の太陽へと集まり始めた。
その幻想的な光に触れるために。
世界に今、唯一輝く太陽の――――生命を生み出し、与え続け照らし続ける者の元へと。
トクン。
その手は、届いた。
トクン・・・トクン・・・
ゆっくりと。微かに。
トクン・・トクン・・
でも、
トクン・・・ドクン・・・
その音は。
ドクン・・ドクン・・
確実に。
ドクン。ドクン。
規則正しい、鼓動を刻み始めた。
溢れ出すほどの生命力は、夢月に刻まれた傷を少しづつ修復していく。
しかし―――――
俺は、そこまでだった。
視界が、遂に、完全な黒へと染まる。
ふらり、と体が傾き。
そこで、俺の意識はブラックアウトした。
永遠亭に連れて行かなければならない。
隔を、助け出さなきゃいけないのに。
もう、俺の体は言う事を聞かなかった。
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「・・・あれ、気絶しちゃったか」
夜空に、一人の少女が現れる。
深紅の瞳を月と同じ、いやそれ以上に輝かせた彼女はもう一度口を開いた。
「全く。村を襲った手下を全部倒してあげたのに、また私に迷惑を掛けるのか・・・」
少しむすっとしつつ、彼女は指を鳴らした。
「まあ、お母さんの血族だから―――――私、博麗悪夢のずーーっと血族って事になる。つまり家族だからね、おまけしておこう」
瞬間、夢月と真と隔を飲み込む様に、地面に
「さあて、××の所に戻ろうかな。」
三人を永遠亭に送り、悪夢は欠伸をしつつもう一度指を鳴らす。
すると彼女自身もスキマに飲み込まれ、どこかへ消えた。
静寂に包まれた、戦いの跡地。
そこにはただ無残に削られた大地と、山のように積もった白い灰が風に吹かれ飛んで行くだけだった。