side 咲夜
―――紅魔館 大図書館前―――
ようやく仕事が一段落ついた私は、再び大図書館へと戻ってきていた。
あの後しばらく経ってから厨房を覗いてみたが、彼女はもういなかった。
その後は、時間もちょうど三時頃だったから、あらかじめ用意しておいたデザートをお嬢様の元へと運んだのよ。
妹様の分もあったのだけど、彼女がお菓子を作ると言っていたから必要ないと判断したわ。
お嬢様は何か物思いに耽っていたようだけど、私がデザートを持って行くと「しばらく下がっていていい」と言われたわ。
その様子に少し違和感を感じたけど、表情には出さず恭しく一礼して退室したのよね。
それから大図書館の二人にも持って行こうとした所で、小悪魔に出会ったわ。
デザートはいらないのか聞いたけれど、「パチュリー様にあげてください」とにこやかな笑顔で言われてしまった。
そして今、私は大図書館に来ている。
いつもどおり三時のおやつを持ってきただけ
……なのに何時になく緊張するのは彼女のせいか。
ふぅ、と一息入れて顔をあげる。
そしてノックをしようとした。
(今日―――貴女―――たのは―――よ―――)
(貴女―――に?―――いうの?)
話し声が聞こえる。
……話し声が聞こえる?
おかしい。
件の彼女と妹様はまだ部屋にいるはず。ここに来る際通りかかった時、楽しそう談笑する声が聞こえてきた。
お嬢様は自分の部屋。小悪魔はさっきすれ違ったばかり。
……では誰が?
一人はパチュリー様だとしてもう一人は?
そんな疑問が渦巻く中、私の手は意思に関係なくノックをしていた。
と―――聞こえていた会話が途切れる。
黙っているわけにもいかないので、用件を口にする。
「咲夜です。デザートをお持ちしました」
「……入っていいわよ」
パチュリー様から返事が返ってくる。
静かに扉を開け奥まで進むと、意外な人物がそこにはいた。
「お邪魔しているわ。ご機嫌いかがかしら?メイド長さん」
そう言って、妖怪の賢者 八雲紫は妖艶に微笑んだ。
◆
「……何で貴女がここにいるのかしら」
表に出そうになった驚きを隠しつつ、鋭く尋ねる。
「メアリーに会いに来たのよ。でも忙しそうだからこちらの魔女さんとお話させて貰っていたわ」
「……通した覚えはないのだけれど?」
「あら、うっかりしてたわ」
「……貴女がうっかり?もっとマシな言い訳はないのかしら」
「ビタミンが足りないわね」
「何の話よ」
「もっとマシな言い訳」
「ただの話逸らしよ、それ」
「あら、うっかりしてたわ」
「…………」
……このまま話を続ければこれの繰り返しなのかしら。
もう八雲紫は放置して、本来の目的を果たしましょう。
何やら複雑そうな顔をしているパチュリー様の方に向き直る。
「パチュリー様、こちらが本日のデザートと紅茶でございます」
「……ありがとう」
「それと小悪魔から、彼女の分のデザートをパチュリー様にとの言付けを預かっております」
「あら、そうなの?そうしたら……」
そう言って少し考え込むパチュリー様。
そしてその口から発せられた言葉は、再度私を驚愕させるものだった。
「じゃあそれは八雲紫にあげて頂戴」
「っ!?」
……どういうこと?
以前のパチュリー様だったら、被害を被らない限り八雲紫の存在を無視する位のことはしたはずよ。
それなのに今日になって突然もてなす気になったりするかしら。
そもそも八雲紫はメアリー……美鈴に会いに来たはず。
ならば何故パチュリー様と話している?
先ほど言っていた時間つぶしが理由とも思えない。
それならパチュリー様が付き合う必要は無いはずだもの。
と、そこまで考えた後、一つの推測に行き当たり戦慄する。
……まさか!?
私はバッと音がしそうなくらい素早く八雲紫の方を見る。
奇しくも八雲紫もこちらを見つめており……
その顔には先ほどと変わらず、妖艶な微笑みが浮かんでいた。
……
…………
やられたわ……
おそらくパチュリー様はもう
仮に私が八雲紫を排除しようとしても、パチュリー様が阻止しようとするわね。
……パチュリー様を引き戻そうとしても然り。
その場合は八雲紫が立ちはだかるのでしょう。
……まとめて相手にするのは流石に無謀ね。
ならば私がやることは一つ。
現状戦力をまとめ上げること。
一刻も早く、お嬢様にこのことを知らせなければ!
今のこの状況では母親がどうのこうの言っていられないわ。
「……それでは、失礼致します」
そう言って私は、素早く大図書館を後にする。
……後ろから感じる視線に慄きながら。
◆
side パチュリー
「悪趣味ね」
「あら、自分の事を棚に上げるのかしら」
「……貴女がやれと言ったんじゃない」
「私の言葉に従ってくれるなんて嬉しいわ。パチュリーは身も心も私たちの仲間になったのね」
「……誤解を招くような言い方は止しなさい。……私も思う所があったから貴女の提案に乗っただけよ」
「そう。まぁメイド長には気の毒だけど、今しばらく勘違いしておいてもらいましょう」
「……そんなこと、思ってないくせに」
「……ふふふ」
咲夜がいなくなった大図書館。
目の前の妖怪の賢者は、本当に楽しそうに笑う。
結論から言うと、一芝居打ったってこと。
いや、実際八雲と結託したのは事実だから、芝居でもないわね。
まぁでも、わざわざ咲夜の目の前であんな様子を見せたのや、大図書館の外まで会話を聞こえるようにしたのはそういう理由から。
咲夜はまだこちらに引き込むべきではない。
むしろ逆の立場にいるからこそ出来ることもある。
八雲紫が現れたのはそういう目的もあったんでしょうね。
「……で、八雲紫。貴女何か見せたいものがあるって言ってなかったかしら?」
「あぁ、そうだったわね。え~と……」
そう言ってスキマをゴソゴソと探り始める八雲紫。
やがて目当てのものを見つけたのか、私の目の前に引っ張りだした。
「私たちの仲間になったのなら、まずはこれを見ないとね」
「……これは何かしら」
スキマからやけに大きな箱を出した八雲紫。
なぜだかすごく嫌な予感がするのは気のせいかしら。
「ふっふっふ……これは私(とメアリー)オススメのアニメDVDよ!まずはこれで調教……もとい教育してあげるわ!さあ、テレビも持ってきてあげたんだからさっさと見るわよ!」
「……は?」
ま、マズイわね……
あにめでぃーぶいでぃーとやらが何か分からないけど、絶対ロクなもんじゃないわ……
というより調教とか何か不穏な単語が混じってる時点で論外よ!
と、とにかくこの場から逃げ……
「あら、面白そうじゃありませんかパチュリー様。是非見ましょうよ」ガシッ
「こ、小悪魔!?……貴女いつの間に……!?」
急に後ろから肩を掴まれ、振り返るとそこにはとても良い笑顔の小悪魔が。
しまった、しっかり探知しておくんだった……!
「じゃあ準備も整ったし始めるわよ~」
そうこうしているうちにそんな八雲紫の声がする。
あぁ……今日は厄日だわ……
本当は今回、伝統の幻想ブン屋さんが登場する予定だったんですが、長くなってしまったので分割(許せブン屋)
今回も人物紹介は三人です。
十六夜咲夜/瀟洒で天然な従者
メイド長。貴重な人間分。
今のところ勘違い要員としてしか出番が無い不憫な人。
彼女の勘違いが晴れる日はいつか!(晴れるとは言っていない)
パチュリー・ノーレッジ/アクティブ大図書館
動かない大図書館とか何やかんや言われてる魔女さん。
この世界では打って変わってアグレッシブ。
自分で稗田家に乗り込んで行ったりしちゃう。
でも最近は八雲紫と主人公に翻弄されっぱなし。
八雲紫/割と困ったちゃんな賢者
主人公がネタまみれなのも、
周囲の勘違いが凄まじいのも大体このお方のせい。
本人たちは楽しければいいんだとか。
近頃新しい標的(パチュリー)を見つけて上機嫌。