思ったより、このデスゲーム攻略は悪くない   作:形右

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 はいどうもこんにちは形右でございます。
 初めての方は初めまして、覚えてくださっている方々はお久しぶりでございます。
 他の小説いうつつを抜かしていた浮気者ですが、久方ぶりに帰ってまいりました。連載期間半年以上なのにもかかわらず、まだアインクラッドという体たらくでございますが、やっとこさ終盤への足掛かりを書き終えましたので投稿します。
 それはそうと、僕のだらだらしていた停滞の間に、川原礫先生の方はもう本編の方は一応Web版の頃の最終章《アリシゼーション編》まで文庫版でも書き切られてしまって、後は映画と同じころに始まる真の最終章らしき書下ろしが始まるようですが、そのころまでにはこちらもせめて《アリシゼーション》くらいまではいきたいと思っております。他の部のタイトルはもう決まっているんですけどね……生憎と遅筆なもので申し訳ありません。
 ですが頑張って書いていきますので精々ご贔屓にしていただければと思います。

 それでは、本編の方をお楽しみいただければ幸いでございます。





『風と影の名を冠する剣』

 

 

 あの戦いから、しばらくの時が……流れた。

 

 

 攻略の最前線はついに二つ目のクォーターポイントを突破した。その第五十層のボスモンスターとの戦闘において、キリトが魔剣《エリュシデータ》を手に入れて久しい。

 その剣を手に入れたとき、ついにキリトはまさにこの世界における最高の相棒に出会ったような……いや寧ろ、あれは――。

 

 まるで引き裂かれていた自身の半身を取り戻したかのような……そんな表情だった……。

 

 しかし、もう一つ。

 それと時期を同じくして……もう一本の魔剣がこの《浮遊城・アインクラッド》において、出現(ドロップ)していた。

 

 その魔剣の名は――《ヴェルテカリバー》。

 

 それは、何の因果か……一人の捻くれ者の……この城における、『もう一人の勇者』の手へと渡った。

 

 しかし、これだけでは……まだ、()()()()

 

 二人の勇者の手に収まるには、まだ足りない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第四十七層《リンダース》にて――。

 ここにアスナの友人で、かなり腕利きの鍛冶屋がいるという話で、キリトも昨日ここで一本剣を作ってもらったとのことだ。

 

 確か剣の銘は――《ダークリパルサー》。

 

 その剣は中々の物らしく、キリトも中々に満足げであった。

 それを見て、ハチヤもそろそろもう一本の剣を――と考え、ここにいるアスナの友人を訪ねようかと思ったのだが、あいにくと今は都合が悪いらしい。(基本的に名店らしいので依頼がたまっているとか)

 そこで、ハチヤはあまり気のりはしないがもう一人の〝知り合い〟を尋ねることとした。アスナの友人、確か《リズベット》と言っただろうか? その子と同じくここに店を出しているこれまた中々に腕利きな腐った姫がいらっしゃるのだが……。

 ――正直、あまり気乗りはしない。

 イケメン野郎こと、《ハヤト》のパーティーの一員なので、一応この御方も《KoB》の一員では有るのだが、彼女は自由人な部分があり、戦闘もそこそここなすものの、ここで気ままに店をやってることの方が多いらしい。気まぐれで店をやれるのは、やはり大規模な大型ギルドのサポート要員であることだから、であろうか。《ゲームの中》だからと言って、やはり戦いたがる輩は多い。所以それを積極的に支えてくれるバックアップは必要不可欠である。

 加えて、このゲームの中では当然と言えばそれまでだが、武器の耐久値はしっかりと整備をしておかないと切れて破壊されてしまう。それに強化にしても、やはり腕のいい鍛冶屋の方がNPC鍛冶屋よりは成功率が高い――らしい。

 まあ、細かい理屈は抜くにしても、今の彼にはもうひとつ……できればもう一対……くらいの剣が必要である。

 そんなわけで、ハチヤは腐海の女王様の店の戸を開けたのだった。

 

 カランカラーン、という音を立てて空いたドアを内側へと押して中にいる人物に声を掛けようとしたのだが、向こうから先に声を掛けられた。

「あれ? 珍しいねぇヒキタニ君がここに来るなんてさ」

「まぁ、それに関しては自分でもそう思う。ちょっとした野暮用ってやつだ、というか依頼があるんだけど……つか、リアル割れしそうな呼び方やめてくんない?」

「ええー……別に本名じゃないし、いいじゃん? それに、依頼なら寧ろヒキタニ君の領分じゃないかな?」

 確かに、奉仕部やってたからな……確かに一理ある、とハチヤはなんとなくそう思った。というか呼び方に関しては改定は望めないらしい。しかし、今重要なのはそこではないかと思い直し本題へと話を進める。

「……まぁ、ここはゲームの中だからな。基本的に、依頼は引き受けてねぇよ。俺はギルド入ってねぇしな」

「あははっ、たしかにそーだね」

「ともかくだ、依頼は剣の製作。これと同じ片手剣か……刀のみたいな、スピード系の剣を頼みたいんだが」

「ほぉ~それはまたどうして? 聞いてるよぉ? 確かキリト君と同じく魔剣をドロップしてたって」

 キリトと同じ、のあたりで少しこの人の腐ったセンサーが反応したらしく少々息遣いが荒くなっている。……冷や汗が出そうだ……。

 だが、今ここで乗ってはいけない。今の優先順位は剣の方に傾いている。

「……まぁ、ちょっとな……。必要なんだよ」

「ふーん……。いいよ、それでヒキタニ君はどんなのが好みなのかな?」

「いや、だからスピード系を……」

「高速で攻められるのが好き…………ぐふっ、グフッ、ぐ腐っ☆」

「……、」

 どうしたらいいんだろうか、と悩んでいる間にも彼女の妄想は留まるところを知らずに次々と脳内劇場の場面を五十反転くらいさせながら、腐った妄想の場面展開を繰り広げていく。

「キリト君に責められるヒキタニ君……それを見ながら俺も、とハヤト君がさらに追撃を……そして行き着く先にある団長の『最硬』の矛が皆をつらぬいて――――キマしたわぁ~!!」

「――、」

 帰ろうかな、と本気で思った。もう時間を払っても、《リズベット武具店》の方に依頼したほうがいいのではないかとハチヤはマジで思った。というか、もはや彼は入り口を逆走しようとしている。

「あ、待って! 待ってヒキタニ君! ジョークだよ、ジョーク! やっぱりヒキタニ君は隼……あ、違った……ハヤト君だけに操を――ってホント待ってよ~」

「……剣、ホントに作ってくれるのか……?」

「うん」

 軽い。これ以上ないくらい軽い。しかし、これが海老名さんである。どこか自分と似ていた……クラスメートである。このゲームの中では《ヒメナ》と名乗っている。

 それからはヒメナさんもマジモードに入ったらしく、割とまじめに話を聞いて剣を作る算段を立ててくれた。(それにしても、ルミと言い彼女と言い、ハチマンとかヒキタニとかリアルネーム割れしそうな名前の呼び方はそろそろやめてくんないかな……)

 しかしそんな中、問題が発生。

「うーん……。やっぱり、金属が足りないねぇ。お金の方はまぁヒキタニ君だし、問題ないだろうけどさすがにこればっかりは採ってこないとねぇ……」

「そうか……。なら、取ってくるスピード系の最上位は――」

「例の《クリスタライト・インゴット》と同等の奴だから、確か第五十八層の隠しダンジョンにあるっていう噂の奴なら、たぶん。ただ、マスタースミスがいないとドロップしないかもっていう話もあるからねぇ……」

「第五十八層、か……」

 ステータス的には問題ない。しかし、ヒメナを連れてとなるとどうだろうか? 少々面倒になるのは間違いない。だが、彼女もまがりなりにも《KoB》のメンバーである。過小評価するのは失礼というもの。

「まあ、どうにかなるだろ……」

「じゃ、行きますか?」

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 ここに、随分と奇妙なコンビが成立したのであった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 《第五十八層――風の渓谷・サイクロキャニオン――》にて……。

 

 

 

「うわぁ……風強いなぁー」

 その呟きの通り、まさしくここは暴風地帯。砂埃とかが待っているわけでもないし、ゲームの中なのでそういった小さいゴミの類は特に存在しないしあっても所詮エフェクトなのでそこまで気にする必要もないが……この場所の暴風は正直それで済ませられる程度のものではなかった。

 飛ばされはしないものの、ものすごい風がプレイヤーの行く手を遮らんとし……二人の歩を遅らせていた。

「こんな環境でモンスターと戦わんとならんのか……」

 ハチヤはうんざりしたような声でそう愚痴った。

「でもここぐらいだよ~? 今の最前線で使えるような《魔剣》クラスを作れるようなスピード系のインゴットが手に入るの」

「……そーなんだよなぁ……」

 全く、世の中というのは俺以上にひねくれていやがる、とハチヤは心の中で独りごちた。

 そんな調子ながらも、暴風の中で戦わせるほど運営というか《カーディナル》も悪趣味ではないらしく、VRMMOという《もう一つの現実》の中においては……その創造主と同じく非常に食えないところではあるが……ある程度の人間の《都合》とやらも考慮してくれているらしく、Mobは出現してこなかった。決して、一概に〝理不尽〟ではないのが、この世界を作り出している《創造主(GM)》どもの本当に気にくわない部分である。

 

 そんな訳で――そうこうしているうちに、目的のモンスターの巣穴らしき……風穴だらけの洞窟を発見した。

 このダンジョンが、どうやらそのモンスターの巣であるという設定らしい。

「じゃあ、入るけど……一応転移結晶は用意しといてくれよ。戦闘はこっちでやるから、なるべく危険の無いようには考慮するが、〝念には念を〟の精神で頼む」

「りょ~かい♪」

「……、まぁ戦闘中に飛び出したりしてこなけりゃいいんだけどよ……」

 軽いなぁ……と半ばあきれつつも、とにかくここからは戦闘モードに切り替えなくてはならないと自分に気合を入れなおす。

 兎に角ここのモンスターを倒さなくては……〝色々な意味〟で先ヘは進めない。

「行くぞ……」

「うん……」

 そして風穴だらけの洞窟――固有名は《ホールケイブ》というらしいが――、その洞窟内に入ると先のキリトがリズベットと共に《ダークリパルサー》を作るべく《クリスタライト・インゴット》を手に入れるためにクリアしたというクエスト同様、いきなりボス級のモンスターが目の前に現れる。

 モンスターの固有名を確認する暇もなく、その(ドラゴン)というよりは翼竜(ワイバーン)とでも表現したほうがよさそうな細身の竜型モンスターはその細身に見合った……しかしそれなりの巨体からは有りえないと感じさせる速度で、こちらへと攻撃を仕掛けてきた。

「くっ……!」

 弾き(パリィ)防御でモンスターの鉤爪を受け流し、そのまま流した方向に突き進んでいく翼竜の翼のあたりに、元来の敏捷性に加えてソード・スキルでさらに加速した剣先を叩き込んだ。

 片手剣の上段突進技《ソニックリープ》が黄緑色の軌道を描きつつ、クリーンヒットした。

 その衝撃で敵モンスターの悲鳴のような声が響き、憎悪(ヘイト)値が増加して、完全にこちらを《敵》としてマークした翼竜の方を見ると、やっとこさその名を確認できた。

 《ストームワイバーン》――と、いうらしい。シンプルだが、確かにその名の如き疾風怒涛のような動きに妙な納得を覚えながら、ハチヤは次なる攻撃に備えてしっかりと敵を見据える。

「グゥルァァァッ!」

 鋭い咆哮と共に、ブレス攻撃をしかけてくる。

 それを見て、物陰から見ていたヒメナはスピード系のハチヤはどのようにしてあの攻撃を防ぐのか、と少し興味がわき……その様子に神経を集中する。

 彼女の懇意にしているグループの友人たちならば、リーダー格のハヤトなら盾。ユミなら躱す、盾戦士《タンク》型の《カルトベ》――ちなみに俺はここで初めてこいつの下の名前を認識した。皆はフツーに「トベ」と呼ぶ)――なら盾無しで武器で弾いて突撃……と言ったところだろうか。むろん、自分なら逃げの一手だが。

 そんなことを考えていたが、彼女の予想はどれもハチヤの次の行動には結びつかなかった。

「……、」

 ハチヤは、剣先をブレスへ向けて構える。彼の持つ剣はスピード系の者にしてはそれなりの幅もあるが、それでも大剣という程ではない。それで防ぐのは不可能だと思うのが普通であるが……彼はまるでその幅が足りないことすら何でもないようにすぐさまそれを補う手段をモンスターとヒメナの両方に見せつける。

 ヒュンヒュンと剣を回転させ、まるで光で出来た円盾(ラウンドシールド)のようにしてブレスを受け止める。

 アニメやゲームでよく見られるアレだ――とヒメナは思った。

 ライトエフェクトを伴っているところを見ると、あれもスキルの一つということなのだろうが……しかし、いかにこのSAO(ゲーム)の中とは言え、あんなスキルが存在していたとは知らなった。

 そんな初めて見る剣技に魅せられながらも、そのままハチヤの戦いぶりを見守る。

 だが――。

「くっ……!」

「ヒキタニ君! ……えっ!?」

 剣を弾き飛ばされたハチヤ。だが、その時……ヒメナは信じられないものを見た。

 剣を飛ばされたハチヤは……剣を取りに行くでもなく、スキルの《クイックチェンジ》を使うわけでもなく、ただ普通に武器も持たないままでモンスターに向かって行った。

 それじゃあいくら何でもと思ったが、確か彼は《体術》スキルを持っていたことを思い出し、隙を作り出すために向かって行ったのかもしれないと思い、彼との約束である戦闘の邪魔をしないにもう少しだけ徹することにしたのだが、それは間違いでなかった。

 いや、

「……ここだな」

 ()()()()()()、十分だった……と言い換えるべきか。

 システムウィンドウを呼び出して手早く操作し、ある一つの項目を選び取る。そしてハチヤは……()()()、《クイックチェンジ》を()()()()()モンスターに切りかかった。

「うっそぉ……」

 いきなり現れたのは先程吹き飛ばされたのとは別の剣。片方はドロップ品のようだが……それほどランクは高くなさそうな代物で、もう片方はNPCショップの高ランク品と言ったところだろうか。

 いずれにしても、先ほどまで彼の振るっていた《ヴェルテカリバー》に比べれば劣る品だ。

 だが、注目すべきは……既に武器のランク云々ではなかった。

 

 ――彼は、音と同じくらいのスピードで高速で移動した。

 

 最早モンスターもヒメナも負えないスピードで、移動した。

 彼の姿は見えないが、彼の放ったものらしき剣戟の閃光が煌く。だが、両手で剣を持った状態ではソードスキルは使えない筈だ……いったい、どういうことだろうか?

 そうこう考えている間も、剣戟の閃光は止まない。ズバババッ! というものすごき斬撃音が洞窟の中に轟き渡る。

 だが、どうやってとらえたのか……おそらくほぼ捨て身だろうが……ストームワイバーンはハチヤを吹き飛ばした。

 純敏捷型の彼のステータスはAGI>>STR≧VITと言った感じに振り分けられているとヒメナはユイから聞いているが、その彼があんな高速で動きながら吹き飛ばされたらダメージは相当なものであると思われるが――それは少々早計であり、彼の力を軽視していたともいえるであろう。

 ハチヤは、その攻撃を()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 そして、そのまま右手に《ヴェルテカリバー》を掴み、装備すると……あろうことか空中で体制を立て直し、地に足の着いたそのほんの刹那に――――彼は一気に地面を蹴る。

 するとそのまま、光さえ後からついてくるような速度で影を引きながら……深緑のライトエフェクトを伴った《ヴォ―パルストライク》と同じような……一点集中の突き技系のソードスキルが放たれた。

「……《影閃(シャドーストライク)》……」

 突き抜け、モンスターの方を振り返りもせずに……ハチヤはそう口にした。

 ハチヤのその呟きと共に……ポリゴン片となって《ストームワイバーン》はバラバラに砕け散った。

 それと同時に、ハチヤが先ほどまで使っていた《ヴェルテカリバー》以外の二本は砕け散った。

「……、やっぱり耐えきれないのか……」

 砕け散った剣に対する慈しみにもいた感情からくる言い表せぬ悲しみが、ハチヤのその言葉から読み取れたが……一方先ほどまでの戦いを見守っていたヒメナはというと、その凄まじさにすっかり腰が抜けてしまいしばらく動けなくなっていたのだが、ハチヤが膝をついて動けなくなったのを見て、正気に戻り彼に駆けよった。

「だ、大丈夫?」

「ああ……。この硬直は、このスキルの副作用みたいなもんだからあんまり気にしないでくれ。さっき使ったのは五分くらいだったから、後少しすればまた動ける。……具体的には後二分くらい……」

「そ、そうなんだ……」

 色々な意味での驚きがごちゃ混ぜになり、ヒメナは言葉が上手く出てこない。

 普段から感情面での制御は彼女の得意分野というか、寧ろ特技的な意味でそつなくこなすのだが……そんな彼女ですら、さきほどまでの光景は凄まじすぎた。

 かといって、今動けない相手に、ここで質問攻めにするのはいささか失礼であるし……何より、スキルの詮索は重大なマナー違反である。ゆえに、彼女は大人しくハチヤの言う二分が経過するのを待つかなと思ったが……先ほどまでモンスターのいたところに、いくつかのアイテムがドロップしているのを見つけ、それに駆け寄ってみると――そこには、先程の《ストームワイバーン》の翼と鉤爪が落ちていた。

 インゴットではないのか? という疑問もあったが、何気なくそのアイテムの内、翼の方をタップすると、そこには《インゴット化可能猶予時間終了まであと二五分二六秒です》と書いてあった。

 その警告に驚き、慌ててインゴット化をする。

 確かに噂通り、鍛冶屋《マスタースミス》がいないとこれは成立しないらしく……鍛冶スキルのいくつかを持っていることがこのインゴット化の条件らしく……いくつかの確認工程(プロセス)をしなくては出来ない仕様になっていた。まさにゲームならではの方法だ。現実でこういうことをするなら書類やらなにやらを用意するなり、どこぞへ確認をとる鳴せ寝んばならないが、ここでならプレイヤーデータをその場で読み取れるのだからその必要もなく、かつ制限時間を付けるのに妥当な条件であるともいえる。

(それにしても……翼からインゴットが作れるもんなんだなぁ……)と思ったヒメナだが、素材アイテムなので仕方ないかと割り切る。

 そしてもう片方の鉤爪の方も見てみるが、逆に鉤爪の方は特に猶予時間もないらしく……そのままでも一応《金属(インゴット)》として使えるらしく、《金属》アイテムとしてアイテムストレージに保存された。

 そうして二つのアイテムを保存した後、もう一度ハチヤの方を見てみるが……ようやく動けるようになったらしく、固まった体を少しづつ動かしながら彼はこっちに近づいて来た。

「悪い、待たせた……。それで、インゴットの方は……?」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんとゲットできたから」

「そうか……ならよかった。ありがとな、やってもらっちまって」

「なんの、なんの。これは私らスミスがいないとできない奴みたいだからねぇ」

「ああ、あの噂ってそういう意味だったのか……」

 ハチヤはそういって納得すると、硬直が溶かれ始めた体を動かし始める。

「やっと動ける……」

「大変だねー。その《ユニークスキル》」

「……、まぁそうだな」

 肯定……でいいのかな? とヒメナは思いつつ、この剣士様に多少の敬意を払うようなつもりで、せいぜい頑張って剣を鍛えてあげようかなと決心を新たに刻みながら、彼に「じゃあ、帰ろっか?」といった。

 それに対しハチヤも了解の意を返し、二人はその迷宮(ダンジョン)及び階層を後にしたのだった。

 

 

 

 そして再び、第四十九層《リンダース》にて。

 

「ほいっと!」

 再び戻って来たヒメナの武具屋の工房で、なんとも軽い声でヒメナが剣を鍛えていた。

 しかし、それがなんともひょうひょうとして彼女らしいのかもしれないと、ハチヤはなんとなく思った。

「よっ……!」

 そして、ついに――。

「出来ました~」

「おぉ……」

 今現在ハチヤの所持している《ヴェルテカリバー》と非常にそっくりな、緑がかった黒い刀身をした剣が出来上がった。

「ちょっと《銘》を確認するねー。ええと、この剣の《銘》は――――《シャドウゲール》、だね」

「シャドウゲール、か……」

 影、と……ゲール?

 ハチヤはゲール、ゲール……ゲイル? と繰り返しながら、その意味を思い出す。どこかで聞いたことがあるような気がするからだ。

(確か……風だか疾風……とかそんな意味だったか?)

 影と疾風。

 そんな《銘》をこの剣は関しているのか……とハチヤはなんだか(本人的には)柄にもなく、ワクワクしていた。

「……、」

 無言のまま、その剣を持ち上げ……二、三度振る。

 (くう)を切り裂くような音と共に、鋭い切れ味を持っていることをうかがわせるような刃鳴りが聞こえ、ハチヤは大きく頷いた。

「ヒメナさん、ありがとな。良い剣だな…………!」

「そう? ならよかった♪」

「じゃあ代金――」

「要らないよ?」

「は?」

「だって、その剣で……解放してくれるんでしょ? この世界から」

「……ンな事わかるかよ」

 途中で死ぬかもだしな、と自嘲気味に返すハチヤ。

 だが、

「じゃあ、先行投資……ってことにしとくよ。まずは買わなきゃ当たんないしね」

「競馬かなんかよ……」

 本当に、軽い。でも、どこか重い。

 それが心理的な距離を開ける彼女の心から来ているのは分かるが、やはり自分以上に……望んで、隠して、そして求めて、守ってる。

 そんな気がする。

 それが彼女の傲慢さでもあり、停滞でもあり、そして望んだ結果でもある。

 分かりたいから、安心を得たいから。それと大して変わらない。彼女は、知らなくても楽しくいられて、どことなく自分の居場所(ポジション)であるそこに満足している。でも、やはりどこかに憤りを感じて……どこかで心を痛みにさらしている。

 

 ――だから私は自分が嫌い。

 

 そう彼女は以前言っていた。

 そしてハチヤはそれの前だか後に、こういった気がする。「自分のそういうところが嫌いじゃない」と。

 でもそれは嘘だった。

 だが、今は少しづつだが……変わっている。

 周りに変えられるなんてまっぴらだ。流されるだけの自分なんて何の意味も持たない傀儡に過ぎない。だからこそ、「俺は変わらない」。そう考えていた自分の望みは、優しくない世界にさらされて、完璧にはいかなかったけれど……それでも望んだ事は少しずつだが手に入ってきた。

 だからだろうか、ついハチヤはこんなことを聞いた。

「今でも、自分は嫌いか?」

 それに対する答えは、

「うーん前よりましかな? こんな世界にいるんだもん。皆、どこかしら〝変わる〟よ。勿論……《私》も、ね?」

「……そうか。なら、いいんじゃねぇかな

 そんな風に返して、ハチヤは言葉を切った。そして今度は反対に、ヒメナがハチヤに聞いた。

「そういうヒキタニ君の方はどうなの? 何か、見つかった?」

「……ああ。あったのに、気づいた。……この世界で」

「そっか。じゃあ頑張ってね、勇者さん?」

「……柄じゃねぇよ。そんなのはな」

 どこか似ていて、まったく違う二人は……それぞれの道へと戻る。

 シンパシーとも同族嫌悪とも言えそうな矛盾した感覚が、今では多少ではあるが心地いい。

 そう感じながら、二人はそれぞれの役割を果たし続ける。

 

 

 戦い、そして支えるという――《役割》を。

 

 

 そしてそのすぐ後だが、キリトとハチヤが言ったパーティを抜け……急にコンビで迷宮区にしばらく潜るという無茶な宣言をした。

 勿論皆驚いた。

 しかし、二人は真剣だった。だが、ならば付いて行くといったのだが、それを二人は断固拒否した。どうしても経験値と()()()()()のためのその《修行》には〝二人〟でなくてはならないと。

 

 早く帰ってきたいから、そして早く皆で帰還したいからこそ――二人で、行くのだと。

 

 その揺るがぬ決意を抱いた頑固者どもの信念に負け、ちゃんと連絡するようにと説得した上で二人のその無茶な《修行》を許した。

 その間、他のメンバーは安全等の面と知り合いのいるという事も手伝って、現最強ギルドである《血盟騎士団》にしばらく仮所属することになった。

 

 

 そして、いつの間にか三ヶ月あまりの時が流れ……この城での物語は、エンディングへと近づいていく。

 

 

 

 二人の勇者と、世界そのものともいえる好敵手との運命を決める戦いが……始まりを告げる。

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか? 早速急ピッチで次話構想及びアインクラッド編の構想の全体図を固めていこうと思います。
 次回は、多少時間が進みハチヤとキリトが無茶な迷宮修行から帰ってくるあたりからです。パーティ二人で双方ともに《ユニークスキル》持ち――こんなちょうどいい条件ってありませんよね。経験値を稼ぎに片方が何だかもう片方に引きずられるような関係じゃないってのは。
 ま、それはさておき……次回以降も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。
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