思ったより、このデスゲーム攻略は悪くない   作:形右

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 はいどうもこんにちは、形右でございます。
 久々に早い更新です。
 今回からやっとこさアインクラッド編の後半部分を投稿し始めようと思ったのですが、なんだか書いてるうちに乗っちゃってオリジナルの敵キャラを出してみることにしました。
 PoHと同じくらいの【敵】になるような感じに書いていけたらなと思います。

 ※ そのため、警告タグの方一部修正いたしました。11/13 A.M.11:00

 では、本編の方をどうぞ。



『勇者たちの剣舞』

 

 ハチヤとキリトが《修行》にでてから、早三ヶ月が経過した。しかし、二人の不在中も時間は際限なく過ぎていく……。

 

 

 そんなある日、第五十五層《グランザム》にあるKoB本部にて、何人かの女性陣がお茶をしながら談笑にいそしんでいた。

 

「はぁー……それにしても、帰って来ないねぇ……」

「まったく……放浪癖と呼ぶにも限度があるわね」

「あの二人、こういう時は本当に気まぐれですよね。まるっきり猫みたいに」

「……猫……」

「ユキ先輩食いつき過ぎじゃないですか?」

「……ハッ。べ、別に……食いついていたわけではないのよ、イロハさん? ただ私はあの二人の放浪癖が猫に重ねられることに多少の不快感を感じただけで、別にハチヤ君とキリト君が猫だったらなどとかんがえていたわけではないの。ええそう、断じて違うわ」

「……はい、了解です……」

「あ、あはは……」

 そんな話をしているのは、ユイ、ユキ、アスナ、イロハの四人である。この四人は、先の《圏内殺人事件》の際に、ハチヤやキリト達と共に事件を解決に導いたメンバーである。加えて、三人ともにそれなりに手練れであり、最前線においてもそれなりに知名度が高い。

 とりわけその中でも名が売れているのはアスナとユキで、それぞれ《閃光》、《氷結の女王》と言った通り名がついている。ただ、ユイとイロハが実力不足か、というとそういう訳でもなく……彼女達もそれぞれ《博愛(アフェクター)》、《小悪魔(エルフ)》と言った名を冠している(ちなみに、この名の由来はというと、二人の性格がそれぞれ〝優しく〟、〝あざとい〟ものだったことに由来する。アスナとユキとは違い、どちらかというと日常パートでのあだ名と言った感じであるが、いかんせん仰々しいので、本人たちはあまりこのあだ名に乗り気ではなかった)。

 まあ、それはともかくとして。

 彼女らの心配の種二粒は、もう三日間も連絡をよこさない。いったい何をしているのやらよくわからないが、意味のないことをしている……という訳でもないらしく、どうにも怒りずらいがゆえに、余計に彼女らのフラストレーションを煽っていた(余談だが、連絡をくれないことにイライラしているのは彼女らだけではなかったりもする。主に、どっかの黒猫の紅一点とか、どっかのロリっ子テイマーズとか鍛冶屋の少女さん方とか色々)。

「……、果てしなく不満が募るわね。あの二人に関しては」

「「「……、」」」

 ユキの言わんとすることを察した三人は、うんうんと頷く。そして、三人でため息を一つつくと、あの二人に関する話はそこで打ち切りとなった。それに、よく言うではないか、「便りの無いのは良い便り」と。

 そう納得し、半ば女子会風の談笑に移行する。

「そーいえば、ユキ先輩。護衛がハヤト先輩になったっていう話ですけど、本当ですか~?」

「……ええ」

 ユキは少し目を背けながらそう答えた。複雑、と表現するべき感情が彼女の顔に浮かんでいた。

「随分嫌そうですね?」

「……、」

「ま、まあ、護衛なんて立場だと、知り合いの時どう反応していいか……その、分からなくなるよね? あたしだって、ハッチーとかキリト君が護衛だったらちょっと戸惑うと思うし」

「ええ……、どう反応していいかわからない、というのが正しいのかしら。彼も随分と変わった、のだとは思うのだけれど……私は、彼に普通に接する気にはなれないわ。随分と傲慢ではあるけれど」

 両者の確執についてあまりよく知らないアスナとイロハは、ただその彼女の浮かべる表情が、何を指示しているのか……そこまで読み取ることは出来なかった。

 だが、ユキの抱くその感情は、単なる『拒絶』――とは、おそらく違うのだろう……。〝それ〟が指し示すのは、きっと……『嫌い』という感情なのだ。彼のやり方が、取る手段が、これまで辿って来た足跡が――――『嫌い』だ。

 

 以前、ハチヤに対して述べた、〝嫌い〟とは異なる……『嫌い』。

 

 手を差し伸べ、差し伸べられる相手には選びたくない、とでもいえばいいのか。少なくとも、《あの時》……〝彼〟は〝彼女〟の〝ヒーロー〟ではなかったから。また彼女も、それを望んではいなかったから。

 そうして生まれた両者の確執。

 それが、彼が埋めたいと願う〝それ〟を……いっそう深くした。

 だから、未だに『普通』には接することができない。

 きっと……ただ、それだけの事……なのだろう。

 そうして少し暗くなってしまった雰囲気の中でも、それを打ち消すように話は展開し、話は進んでいく。

「まぁ、それはともかく……《護衛》ってなんだか仰々しいですよねぇー。私もヒメナ先輩が鍛冶屋であんまりいないからってトベ先輩が回ってきましたし」

「あー、とべっちだったね。イロハちゃんの護衛って」

「そーなんですよー。どうせならせんぱいがよかったんですけどねぇ~」

「あはは……じゃあ、ハッチーが帰ってきたら頼んでみたら?」

 ユイが苦笑しながらイロハにそういうと、イロハはため息でもつくようにして「頼んだら速攻で却下とかいいそうですけどねー」と言った。

「確かに……」

「ハチヤさんなら、確かにそう言いそうですね……」

 ユイとアスナがイロハの発言に納得の表情を浮かべる。

 が、イロハはその後さらに〝良い〟笑顔を浮かべ――。

「で・も! 責任、取ってもらいますから、大丈夫です♪」

「「……(ビキィィィッ!)」」

「(あわわわッッッ!?)」

 あわや、乙女の戦いに発展しそうというところで……そこに割り込んできた勇者たち(空気読めない)がいた。

「あっれー? いろはすじゃねー?」

「ん? ああ、……ユキさんたち、だな」

「だっしょー! やっべ俺、シカクテキすーち? とかやべぇっしょ! これあれだわー! ボスの弱点心眼とかで把握とかできるやつだわー!」

「あ、ああ……」

 勇者(笑)登場……だろうか? 

『……、』

「(わわわわわわッッッッッッ!!!???)」

 爆発、五秒前。

 そして、爆発の筈だが――何故かその時空気が凍った。

 

「うるさいのだけれど(氷結の目)」

「とべっち……ありえないよ(蔑みの目)」

「トベ先輩ちょっと空気読んでくださいうるさいですよぉ~?(黒笑&悪魔の目)」

 

 その時、まったく助ける気などはないだろうが……女王様(こちらは炎)二人目が登場した。

「ン? あれハヤトじゃん。何してんのー? ……って、トベ何泣きそーになってんだし」

「ユミコ、さん……」

「ユキ……さん。何してんだし」

 二人の女王の身にらみ合いに、勇者トベは既に気絶寸前である。身から出た錆と言えばそれまでではあるが、なんとも気の毒な事である。

「……まぁ、別にいいし。ハヤト、団長が呼んでるし」

「あ、あぁ……。トベ、……いくか?」

「…………うん。……いくしかねーっしょ……」

 そうして去って言った。

「はぁ……やかましい人達ね」

「……さすがにあれは、ねぇ?」

「トベ先輩まさにトベです」

 そのいいように、アスナはさすがに気の毒だと思ってしまった。

 しかし、イロハたちはあのノリに対する対応の姿勢は既に決まっているらしく、そのまままた《護衛》関連の話に戻っていった。

「それにしても、護衛なんて言いだされるほど私達弱くないんですけどねぇ~」

「まぁ、義務で一人つけておけば……独断専行を避けられる、という事なのでしょうね」

「でもでも、だったら護衛じゃなくても、普通にパーティ行動をって義務付ければいいんじゃないでしょうか?」

 イロハは当然の疑問を口にする。それに対し、ユキはこう返した。

「男性が女性を守る、その古びた考え方からいまだに抜け出せていないのでしょうね……それか、ただ単に私たちとお近づきになりたい、なんて軽薄な理由で近づいてくる意見も多かったのかもしれないわね。私達、可愛いから」

 その自信過剰と普通なら言われそうなセリフも、彼女に使われてはそれ本来の価値を持ったままに発せられてしまうから不思議だ。

「あー、確かにアスナちゃんの護衛の《クラディール》さんは、そんな感じしますね。誇らしそうでしたし、まぁ若干ユイ先輩の護衛の《ディート》さんもそんな感じ匂わせてますし。でも、ユイ先輩はまだいいですよね~。けっこうイケメンっぽかったですからねー、ディードさん」

「うーん……。でも、あの人はそんなには。……あたし、なんか苦手かな」

「え、そうなんですか? 結構いい人だと思うんですけど……」

「うん……。いい人、何だけど……ちょっと。怖い――っていうか……」

「怖いって……あの人が?」

 ユキは不思議そうな顔をした。彼女の中にある少ないディートの印象はそこそこ好青年、と言ったもの程度だったからだ。

「なんていうか、その……。ゆきのんのお姉さんに、少しだけ似てる……って言ったら失礼かもだけど、あの人の本心みたいなのがどっか別のとこにある……みたいな、そんな感じがして……」

「そーなんですか?」

「……。まぁ、護衛に関してはいずれ団長の方に申し立てをしましょう。それに、私たちは元々、このギルドに長居するつもりはないのだし」

「えー、いいじゃないですかぁー。私はせんぱいをここにいれるのが最終目標なんですよー?」

「あら、ハチヤ君と居たいだけならいっそ私たちのパーティに来たらどうかしら?」

「あー……確かに。それでもいいかもです」

 イロハが何かギルド離脱という事を決意しそうになり、なんだかまた話が大事になりそうだとこの中で最年少であることも手伝ってよりいっそう慌てそうになったアスナだったが、そんな彼女らに、一件のメッセージが届く。

 それは、彼女らが待ち望んでいた二人からのものであり、四人はそれぞれ嬉しそうに、あるいはちょっとそれを隠しながら……そのメッセージのウィンドウを開く。

 そうして開かれたメッセージウィンドウには、こう記されていた。

 

 

【緊急、手を貸してくれ。…………腹減って死にそう】

 

 

『…………えっ……?』

 予想外過ぎるそのメッセージに、一同は固まってしまった……。

 そしてたっぷり一分後、四人は正気に戻った。そして早速のこのメッセージの真相を確かめるべく、メッセージの下部に追記されていた第五十層《アルゲード》にある、《エギル》のやっている店に行くことになった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第五十層《アルゲード》のエギルの店の二階にて――二人の勇者が地に額をこすりつける勢いで土下座しながら、こめかみのあたりをぴくぴくと痙攣させながら般若のごとく怒りを浮かべた女性陣に対して平謝りをしていた。

 

 ――一体全体、何故こんな状況になったのだろうか?

 

 それを説明するには、少々時間を遡らなくてはならない。時はほんの数十分前。《アルゲード》に超特急で転移してきた女性陣はメッセージに合った通り、エギルの店にいるという二人――ハチヤとキリトの姿を確認するべくやって来たのだが……彼女らが到着したとき、既にそこでは、彼女らの神経を逆なでにする光景が広がっていた。

 だが、まず結論から言うとハチヤとキリトは普通に無事だった。だが、そんな彼らはベッドに突っ伏して爆睡していた上に、その隣には例の《ビーストテイマー》の少女二人と、《鍛冶屋(マスタースミス)》のリズベットがおり、ハチヤとキリトの傍で楽しそうに談笑し、あまつさえルミがハチヤの傍に座って顔を覗き込んでいたのを見て、シリカが顔を真っ赤にしていた。

 その光景に、やって来た女性陣(ヒロインズ)の思考能力は一瞬で凍結し、そしてまた再び動き出した。

 灼熱の煉獄の業火、あるいは極寒の猛吹雪のごとく、怒り心頭の女性陣の《殺気》を感知したハチヤとキリトは、バッと飛び起き……そして、目の前の光景にさらにびっくりしたのち、ここは謝らないと殺されてしまう、下手な弁明も死へのジェットコースターになってしまうと察し、とりあえず土下座した。

『す、スミマセンでしたぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

 だが、

『――ダ・メ♪』

 となり、結果として説教タイムに突入。

 これまでの経緯と、この状況の詳細を説明するように命じられ、ハチヤとキリトは粛々と説明した。

 曰く、迷宮区に潜って三ヶ月《修行》をしていたが、最後の一週間になって漸く終わりが見え始めていたこともあり、疲労募ってヤケクソ気味のアッパーモードに入った二人はその週の間食事もせずに、練習用にと購入しておいたNPCショップの上位武器も使い捨てにして、最終的にはメイン武器までもフル活用し何やらやりたいことを成し遂げられたのだという。

「……で? なんでここに、女の子を侍らせることに繋がるのかしら?」

「疲れて腹減ったから洞窟出てすぐのとこの食えそうなモンスターを二人してゾンビ状態で探して彷徨ってたら何故かいつの間にか下の層に落っこちていつの間にか二人がいたので金のかからないねぐらに行きたかったのでついてくるなら勝手にしてといったらついてきましたはい」

 息継ぎなしで長々とした長文を説明したら、疑わしい目つきで睨んでいた女性陣もまだ弁明として受け止めてくれたようで……どうにか話は聞いてもらえるらしい。

 加えて、

「あ、あの……」

「…………ねぇ」

 シリカとルミも、どうやら弁明というか証言をしてくれるらしく……ハチヤとキリト、二人の容疑(?)はどうにか晴れた。

「……という感じで、いきなりお二人が大量の食材アイテムと一緒に――」

 一体どう状況だと突っ込みたくなったが、どうやら本当らしい。事実、二人のアイテム欄には――

「…………どうしてS級食材がこんなにあるのかしら」

「いや……その……」

 二人のストレージには、それぞれ×10ずつ《ラグーラビットの肉》と《ダンドリーターキーの肉》が保存されていた。

 何方もこの浮遊城における最高ランクの食材モンスターを倒したときにのみドロップする食材であり、この二体は非常に見つけにくいこともさながら、動きも早く遭遇と言えるまでに至らないことがほとんどであるということも手伝い……めったに市場に出回らず、幻のアイテムとも呼ばれている。

 だが、何故か……ここにおいてバーゲンセール状態で一同の目の前にその《幻のアイテム》とやらが飽和状態を越えて析出しまくりである。

「……運がいいんだか悪いんだかなぁー」

「悪運が強いのよ。悪運だけが」

 エギルとリズのコメントに、ますます落ち込むハチヤとキリト。……とはいえ、そう言われても仕方がないのは重々承知している。実際、腹が減りすぎたとはいえ……小動物モンスターを獣のごとく(無論、記憶にはないが)乱獲した……ついでに言うとその場で何匹か焼いて食べた気もするが、それは言わないでおく……なんて状態なので、なんとも言えない。

「……二人に見つかったのが、きっと運の尽きだった。飢えた獣だったんだね、二人とも」

「る、ルミちゃん……そこまで言わなくても」

 ロリテイマーズにまでもそう言われ、ますます傷を抉られた二人は地面に同化せんばかりの勢いである。

「……まぁ、事情は分かったわ。今回は、()()()()()()()()()()()()()

「「は、はは――ッ!」」

 二人は有りがたき幸せ! と叫ぶ一歩手前の状態でひれ伏した。

「あ、あの……質問よろしいでしょうか?」

「何? キリト君」

「料理スキル熟練度の程の確認をと思いまして……いや別に疑っているのではなくてですね? ただちょっと気になったというかなんというか……」

(キリト……そこは言わぬが花だろうに。というか、こいつらの腕を疑う余地あんのか?)

 ユイだけは現実の方が壊滅的なので、若干今でも不安が残らなくもないが……ここに来てからは外れには〝まだ〟……と言ったら相当に失礼だろうが、それくらい彼女の現実での料理スキルのマイナス具合は警戒に値する……あってはいないので、多分大丈夫だとは思う。

 それに、アスナとユキ、イロハもいるのだ。

 よほどのことが無ければ失敗などするはずが――

「ふふーん! 先週みんなでコンプリートしたわ♪」

「「なぬッ!?」」

 ――訂正、期待は確信に変わった……とハチヤは三十秒前の自分を心の中で殴り飛ばしておいてからの、アイテムをキリトと共に女性陣に同時に完全委託した。

「……まぁいいわ。じゃあここにいる全員で、軽いディナーでもしましょうか」

「あ、それいいね! 皆でパーティしよっ!」

「いいですねぇ~食材もたっぷりですし♪」

「じゃあ、サチさんたちとかクラインさんたちも呼びませんか? 前にボス攻略のダイブお世話になりましたし」

 そんな感じで、先ほどまでの空気はあっという間に変わり……いつの間にかパーティームード一色に変わった。

 そして、そして――。

 

 

 

「では、カンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」

「「……、」」

 どうしてこうなった……?

 そうハチヤとキリトは思ったが、それを口に出したが最後――おそらくまた凍えるような視線にさらされることになるだろうし、何より取り敢えず怖い。そんな訳で、二人は大人しく女性陣の腕を振るった料理に舌鼓をうつことに神経を注ぐことにした。

「美味……ッ! さすが料理スキル完全習得(フルコンプ)の実力……」

「それにしても、やっぱりこうまともな飯にありつけるっつーのは、ありがたいこった。迷宮篭りの修行期間はそれすらできなかったからなぁー……」

「だよなー……」

 二人が遠い目をしているのを見て、一同は声には出さなかったが……それでもこう思った。

(((い、一体どんな修行してたんだ、此奴らは……!?)))

 そんな一同だが、しばらくすると気力が復活してきたハチヤとキリトも輪に加わり、話も弾み始めた。

「それにしてもよ、S級食材なんて二年の間に初めて食ったぜ。相変わらず運がいいぜ、オメェらはよぉー」

「ああ、俺らも幸運だったと思うよ。何せ空腹で気が狂いそうになってたとこに、丁度いい具合に兎と鳥(にく)の群れがいてさ……」

「ああ……。ありゃー天の恵みだとか思ったもんなぁ……」

「「思わず乱獲しちまったもんなー」」

『……、』

 このパラペコの悪魔二人と出会ったのが運の尽きだったのか……憐れ《ラグーラビット》《ダンドリーターキー》。とりわけ女性陣はというと、悪魔二人に速度と力で追い詰められ、捕食されたであろう小動物たちの姿を思い浮かべ……そっと涙したという。

 しかし、そんな中でも結局はそのS級食材の美味しさ及び食欲には抗えず皆その数々に舌鼓を打った。

 そうやって楽しいげな話はだんだんと進んでいき、最初に女性陣の話していた《護衛》に関するはなしが話題に上がり始めた。

「えっ、護衛……? 皆さんにですか?」

「ええ、そうなの……全く困ったものよね」

 シリカがそれを聞き、驚いてユキにそうたずねると……ユキもまた困ったように答えた。実際あの護衛たちには参っているのだ。

「それにしても、《アインクラッド》でも最強の一角の三人に護衛とはね~」

 リズは面白そうにそういうが、アスナはそんなリズに「笑い事じゃないよー」と返す。四六時中張り付かれるというのも、ストーカーではないにせよ、なんだかいやだ。

 まぁ、それはともかく……やっと二人が帰って来たのなら、《KoB》を抜けることに躊躇はない。明日にでも退団を団長の《ヒースクリフ》に告げようと三人が決意した。

「明日にでも団長に退団を申し出ましょう。二人が戻ってきた以上、KoBにいる意味はほとんどないわ」

「だね。はー……、やっと堅苦しいのから解放されるね~」

「ですね。でも、やっと元のパーティに戻れるですからその苦労のかいもあったというものですよね」

「だね、アスなん」

「あだ名……」

「時間の流れを感じるな……」

「あははっ、二人とも年寄くさ~い」

「「「はははっ!」」」

 そんな楽しい談笑をしながら、時間は進んでいった。そして、皆が満足した頃合いで、こんな話題が出始めた。

「そういやよ、ボスの討伐っていつだったけか?」

「さぁ……俺達、ずっとこのほかの層の迷宮区をうろちょろしてたからなぁ……」

「つか、クラインたちンとこは迷宮区攻略してねぇのか?」

「いや、明日から本格攻略を……って思ってたとこだ。今日おめぇらが帰ってきてるつー話を聞いて顔見に来たとこだからな」

 実際、クライン率いるギルド《風林火山》のメンバーは全員此処に来ている。他にも、先に行った通り、これまでかかわって来た様々な顔ぶれがここハチヤ達のパーティホームに集っている。

 黒猫団の一同、シリカとルミ、イロハとヨルコとカインズと言った……これまで出会ってきた色んな人がここへ来た(ちなみに、《解放軍》のディアベルたちとハヤトたちはそれぞれ用事とやらで、来られないらしい)。

「ふーん……じゃあ、明日はみんなで攻略といくか!」

「キリト……お前なぁ」

「はははっ! まあいいじゃねぇかハチの字よ。おっしゃ! 明日は朝一集合でみんなして一丁迷宮攻略と行こうぜ!」

「「「おおぉ―ッ!」」」

「えぇ……?」

「さすがクライン……祭りの中心はコイツだな」

 輪の中心になる兄貴分……それがこのクラインという男の性質と人柄がなせる業だ。

 そんな訳で、いつの間にかアッパーモードになった一同。そんな訳でどんちゃん騒ぎとなってしまい、やんややんやと人勧は過ぎ……いつの間にか全員熟睡。

 そして次の日の朝最初に置き出したメンバー(誰が誰やら本人たちも自覚してない)から起き出し、そして全員であくび交じりに転移門まで向かうことに。その道中もまた談笑交じりに割かしいい雰囲気ではあったのだが、そう物事がうまく進まないことを……まだ彼ら彼女らは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「――アスナ様、それにユイ様とユキノ様も……勝手なことをされては困ります」

「我々護衛を付けずに徘徊など、危険ですよ。ラフコフは()()()()()()()()()が、〝残党〟が残っているかもしれませんからね?」

「……、」

 そのようなことを言いながら、現れた三人の血盟騎士団の剣士たち。

 内一人……沈黙している一人に関しては割かしこのメンバー内でも知っている者も多かったが、残り二人に関してはほとんど見慣れない人物であったため怪訝な顔を浮かべる者もいたが、アスナ、ユイ、ユキノの三人は非常に嫌そうな顔をしながら、その三人の《剣士》たち……いや、寧ろ《騎士気取り》達を……見ながらそれぞれの名前を口にする。

「……クラディール……」

「……ディートさん……」

「…………ハヤトくん……」

 

 いつの世も、障害となる壁は……我々の前に立ちふさがるものである。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 第七十一層《セルムブルグ》の転移門前にて、血盟騎士団員三名とハチヤ、キリト、クライン、エギルたちの率いる即席パーティの面々がにらみ合いのような状況に陥っていた。なぜこんな状況になっているのだろうか? と、この状況にいまいち付いて行けていないハチヤはそう思った。

「(――えーと……こいつら誰?)」

「(あ、えっと……《KoB》の副団長になっちゃった三人に――というか、幹部やら女性プレイヤーに《護衛》を付けようっていう方針ができまして、それで先輩方とアスナちゃんの三人の護衛っていうのが……)」

「(こいつら、って訳か……)」

 なるほど、とハチヤは思った。そういう事ならなんとなく職務的に護衛対象に好き勝手されるのは迷惑極まりない……のだろうが、ハヤトはまぁともかくとして、他二人の目が何というかその――〝危険な奴〟な感じがする。人のことを疑ったり、内面をどこまでも信じてなかった頃の……今ではもうずいぶんと薄まった……残り香的な部分が告げている。

 ――何かが〝ヤバい〟のだと。

 〝ヤバい〟などと言っても、それの意味など分かりもしない。というか、何かしらにつけてヤバいヤバいと連呼するのは嫌いだったはずなのだが、そのヤバいとしか表現しきれないその『危険さ』とでも呼ぶべき感覚が襲ってきた。

 だが、それもお構いなしにその連中は二人へ――具体的にはアスナとユイに――手を伸ばそうとしている。ハヤトは、ついてはきたものの〝そこまで〟するのには抵抗があるようで二人を止めるべきかどうかを迷っているように見える。

 別に容認しているわけではないのだろうが……ただそれでも、『何か』彼自身にも引っ掛かりの様なものがあるのだろう――とハチヤは思い、自分以上に目つきの悪い落ち窪んだ三白眼の骸骨っぽい雰囲気の男と、ハヤト以上に腹ただしい雰囲気の金髪イケメン野郎の二人がハヤトを連れてきた理由の何かが。

 そんな事を思っていると、隼人は口を開いていた。

「……あの、お二人とも。今回は彼女たちが〝危険なことをしていないかどうか〟の確認だった筈です。無理やり連れ戻すのは――」

「無理やり? 何を馬鹿な。〝勝手に〟副団長三人を迷宮区へ連れて行こうとする不届きな奴らに《護衛》対象である方々を連れていかれるのは我々の面目に関わる」

「その通りだ。何のために、わざわざ皆様の安全をと思って……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()分からなくなってしまうだろう?」

「「「なっ……!?」」」

 その言葉を聞いた瞬間、女性陣は「ひっ……!?」と言って絶句し……ハヤトハチやキリト、そして勿論クラインたちも驚きで固まった。

 そして、一同のクラディールとディートへの認識が変態度五割増しに変わった。

「て、テメェらそんなことしてやがんのか!?」

 クラインが驚きと怒りが半々な様子で……いや、寧ろ驚きの方が強いかもしれない。真正の変態に出会ったとき、人は驚きで固まってしまうものだ……怒鳴るようにそう言った。

「当然だろう。護衛の役目は、対象の確実なる安全だ」

 言っていることは間違っていないが、どこかしら異常さを隠しているかのような感覚が残る言い方だった。

「……、」

 言っていることのニュアンス()()は、正しいからか……ユキもあまり大げさに反論できないでいる。というより、職務を全うしているだけだと言い張られればそれがどれだけの欺瞞であろうが実際に所属ギルドの団長からの――それもあのヒースクリフだ――命令だと言えばそこで終わりだといっても過言ではない。何せここはゲームの中だ。ここでプレイヤーは確かにここにおいては皆等しく冒険者であり挑戦者だが、それ以上に――また現実以上に――言葉の重みは変化している。正論も反論でなくなり、ギルドやシステムと言った枷によってしばられることもあれば、命が単なるHPゲージによって代行表示されている状況、そしてそれがゼロになった瞬間……誰しもに等しく死が訪れることも、このゲームの中で非常に大きな意味を持つといえるだろう。それがどんな『偽物』であっても、結局『変わりゆく世界の流れ』には勝てない……。

 ――ただ、そうはいっても一つ由良が無そうなことにハチヤは心当たりがある。

 彼女が本気を出したのだとしたら――論争においては目の前の二人がぼろ雑巾同然になるのだろうことは、いつも何かしら彼女に罵倒を浴びせられていたハチヤには想像に容易かったりもしたが……とはいえ、どうやら先方は譲るつもりなど毛頭ないらしく……気乗りでないハヤトさえも急かす様にしてユキも連れて()()()()()としている。

 加えて、クラディールに至っては「無断先行はお控えください」などという綺麗ごとをのたまいながらアスナの手を引き寄せようとしていた。

 しかし、クラディールの手がアスナの手を掴んで引き寄せようとした――その瞬間。

 

「待てよ」

 

 ――別方向から伸びてきた黒い手が、それを制止させ……アスナの手をその手の主の方へと引き戻した。

「な……ッ!?」

「……悪いけど、アンタの言う《副団長》サマは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「キリト君…………っ!」

「(相変わらず、カッコイイことするのに抵抗ねぇよなーこいつ)」

 そんな感想をハチヤが抱いたものの。クラディールの方はというと……キリトのことを見てキリトが、今ではもうだいぶ薄れた(悪評的な意味でも良い方の意味でも)あの《ビーター》であることを見て取ったらしい。

「善人気取りの《ビーター》が……。薄汚い先導者気取りのお前たちなんかに、皆様方の護衛など出来るわけがないだろうが……ッ!」

 その顔には嫉妬や憎悪と言った感情が込められていたが、キリトは怯まなかった。

 当然だ。この程度の《殺気》なら、怒ったときの女性陣の方がよっぽど恐いだろう……なんてハチヤも思った。そしてキリトは、この世界における絶対的な《判断基準》を……クラディールとディートの判定基準からすると……《不足》しているらしい結論の終着点への足掛けと判断材料として提示しにかかる。

「…………なら《剣》で、《デュエル》で決めよう。本当に、俺たちが《守る側》として力不足かどうか……アンタが自分の目で〝見て〟決めてくれ」

 そう不敵に笑いながら言うキリトを見て、ハチヤはゲームでのキリトの英雄的素質とでもいうべき性格を見て、コイツは〝こういうこと〟を自然にできるからモテるのかねぇ……と、〝自分の為〟に立ち上がってくれたキリトに、キラキラとした視線を向けるアスナを見ながら思った(ただ、その後ろでいざとなったらハチヤの後ろに飛び込もうとしている二人の少女の視線に気づかない自称・過敏派であることを自覚してもらいたいものが)。

「フン! 舐めるなよ、小僧。これでも名誉ある血盟騎士団の副団長補佐の役割を賜っているのだからな、お前のようなガキに私以上の護衛が務まるわけがないことをその身に刻みこんで教えてやる!」

「少なくとも、アンタよりはまともに務められるさ。俺は一ヶ月もストーカーしたりなんかしないからな」

 キリトも売り言葉に買い言葉とばかりに挑発する。その挑発を受け……クラディールの顔がより一層歪んだのだが、

「ストーカーではない。護衛任務、だ。そこをはき違えるな《黒の剣士》」

 意外なことに、それに対して答えたのはディートであり、彼はクラディールを手で制し……さっさと《デュエル》をしろとでもいうように目でクラディールを促す。

 どうもディートとクラディールの間には何かしらの上下関係でもあるのか、はたまた単に友人的な意味で逆らえないのかは分かりかねるが……ともかく、キリトとクラディールの《デュエル》が始まった。

 転移門前という事もあり、この〝いざこざ〟の見物人はどんどん増えて……いつの間にかこのデュエルを見物していくことにしたような連中まで集まり、何やら一種の《剣舞》と化してしまっていた。

 しかし、クラディールの方は何がその自信の根拠なのか知らないが……余裕綽々にキリトに《初撃決着モード》のデュエル申し込みのメッセージを飛ばすと、アスナへ向けて「ご覧ください、アスナ様! 私以外に護衛役など務まる者などいないことを証明しますぞ!」といって、妙に芝居がかった動きで剣を鞘から抜き――構える。

 自分で有名ギルド所属というだけは有って、そこそこ構えは様にはなっているし……持っている剣もこれ見よがしの業物だ。ただ、あの豪華絢爛といった自己顕示欲丸出しの装飾からするとモンスタードロップではなくプレイヤーメイドであろうということが見て取れる。別にプレイヤーメイド品がドロップ品のレアアイテムに絶対的に劣るかと言えばそうではないが、ただ……ああいった装飾に凝った品は総じて耐久値が低いのは有名な話だ。

 それに比べるとキリトの持つ剣――魔剣・《エリュシデータ》――は装飾も簡素で、いかにも実用的という感じであるが、かなり頑丈であるだろうというのは、こちらも外観から見て取れる要素ではある。

 両手剣と片手剣の違いはあれども、現時点ではそれらが初撃の絶対的な勝因にも敗因にもなりえない。

 デュエル開始までのカウントが減っていく中、キリトとクラディールは互いに互いの《気配》を読み合いながら……最初に使用するソードスキル――初撃技を決めようとしていた。

 発動した瞬間、システムアシストによって通常よりも加速された速度で剣を振るうことのできるソードスキルだが、レベルの高い技を使うならば……使用後わずかながら事後硬直の時間を要するため、下手に選択すると決定的な隙になりかねない。とりわけモンスターでなく対人戦なら尚更である。

 現状では互いに体の構えから……キリトは下段技か受け身、クラディールは上段技かあるいは一気に距離を詰める突進技、あるいはそれらすべてがフェイントであるなどという事も考えられるが、そのあたりはもはや《勘》の領域であり――互いの技術と経験の粋を集めたその瞬間的な《判断》がデュエルの行く末――――勝敗を分ける。

 

 そして、カウントがゼロになり――【DUEL!!】の文字のウィンドウが弾け、紫の閃光が迸しった瞬間……二人は一気に地面を蹴る。

 キリトが下段の構えだったにもかかわらず突進を選んだためか、クラディールの方がほんの僅かに遅く動き出したが二人の進む方向は同じ線上に並んでおり……二人の剣には、共に選択したソードスキルのライトエフェクトが伴っている。

 クラディールの方はどうやら一気に前へ進み出たことや、剣先のオレンジ色のライトエフェクトから推測するに、両手剣上段突進技《アバランシュ》だと推測される。半端なガードではあっさりと突破され、仮に交わされてもその突進により距離ができるため体制を立て直しやすいモンスターには非常に有効な技である。

 キリトの方はというと、剣先が黄緑色のライトエフェクトを放ちながら突っ込んでいったことから、《アバランシュ》と同じ上段突進技、片手剣用ソードスキル《ソニックリープ》であるだろうと推測される。

 共に剣の軌道は交差する位置にある。こういった《武器同士》による攻撃が交差した場合、通常はシステムに設定された優先度により……《重量》が重い方に有利判定が出されることになっているが――。

 二人のその剣先がぶつかり合う瞬間、見ていた側でさえ一瞬思考が加速し……無論プレイヤーとしての《AGI値》云々も多少関係あるだろうが、それさえも超越するほどに……それくらい緊張した両者の《殺気》のぶつかり合うその刹那に、二人の剣が交差し――火花を散らした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 デュエル開始のカウントがゼロになった瞬間、俺とクラディールはともに前に飛び出した。でも、その際に俺の下段構えのフェイントに戸惑ったクラディルの反応が少しだけ遅かった。最初から片手剣と両手剣のぶつかり合いを剣同士の重量差の優先度で決着(けり)を付けようとしていたらしいクラディールは俺が攻撃の手段を変えたことに、多少なりとも戸惑ったようだったが……俺が《回避》でなく、あくまでも《攻撃》をすることを選んでいるのを見て、クラディールの顔がニタリと醜悪な勝利への確信によってか、狂気の色に歪む。

 確かに、通常通りの武器のぶつかり合いなら……確実に俺の負けだろう。

 だが、

「……ハァッ!」

 最初から、俺の狙いは――クラディール本人じゃない。

 相手の攻撃よりも早く移動を始めた俺は、相手の攻撃に自分の攻撃を合わせる。自分の狙った場所へ――クラディールの持つ両手剣、俺へと向け振り下ろされる寸前にあるその剣の腹の部分へと俺は自身の剣撃を思いっきり叩き込んだ。

 こういった装飾に凝った剣は総じて耐久力に劣る。だから、攻撃をその武器の弱い部分……いってみれば急所の箇所に対して、攻撃の出始め……或いは出終わりに合わせて、攻撃を叩き込めば――――そして、剣先がぶつかり合い大量の火花が散り、すさまじい音が広場に鳴り響いた。

「な……に……っ!?」

 先ほどまで勝利を確信していたクラディールは、目の前で起こった出来事を未だに認識しかねている様だった。確かに、そう思いたくもなるだろう。結果として、俺たち二人の剣撃はどちらにも届かなかった。剣撃が互いに交差した後、回転しながら先ほどまで互いの立っていた位置を交換するようにして駆け抜けて俺たちのぶつかり合いは終了した。

 そして、このデュエルも――。

「……ば……馬鹿な…………ッ!?」

 俺の攻撃は、クラディールの剣――その腹の部分を叩き折り、その折れた剣先は広場の石畳の上に突き刺さった。

 

 これでいいはずだ。これでもう、文句は言わせない。

 俺はわざと、クラディールにより敗北を理解させるために……奴が最初にした様に、少々大げさに剣を振り払ってから音を立てて鞘に納めた。

 

(……何度も決めたんだ。誰かを守るために戦うって……)

 

 それに俺はきっと……自分一人だけだったら、絶対に何度も何度も後悔していた。絶対に、守りたいものを一人じゃ守り切れないから……。俺の力は、〝ゲームの中では強い方〟かもしれないけど、それでも最強って訳じゃない。所詮子供、ちっぽけなガキに過ぎない。でも、そんな俺でもハチやアスナたちと一緒に攻略してきたこれまでの間に……クラインやエギル、サチやシリカ、リズやカインズさんやヨルコさんたちと出会って、自分なりに頑張って来た。そんで、大事な人たちだから……絶対に失いたくないって思った。だから、守り抜く力が少しでも欲しいって思った。

(俺は、これからもパーティメンバーを――大切な友達を――絶対に誰かに奪わせも、失わせたりもしない……!)

 

 ――――その覚悟だけは……何があっても、絶対に貫き通したいから。

 

「――武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど……もういいんじゃないかな」

 俺は、自分の覚悟と……大切な人たちを取られたりなんてしないように、クラディールにそう言い放った。

 するとクラディールは、まだあきらめずに先ほどの両手剣と同じような装飾の短剣をアイテムストレージから取り出すと再び俺に向かって来た。どちらも《降参》宣言をしておらず、おまけに先程の攻撃もまた〝当たる〟どころか掠ってすらいない。

 

 つまり――まだデュエルは終わっていない。

 

 俺は向かってくるクラディールに対して再び剣を抜こうとしたのだが、その時。

「――見苦しいぞ。クラディール」

 ぞっとするような冷たい声で、ディートがクラディールにそういった。その声にクラディールは動きを止め、クラディールのその短剣を弾き飛ばそうとしたのかアスナが腰の《細剣(レイピア)》の鞘に手を掛けており、彼女よりも《AGI(敏捷)》値が高いハチヤは剣を抜き、いつの間にか……俺たちも気づかない程の刹那にクラディール短剣を一秒もしない内に吹き飛ばせる位置まで来ており、短剣の腹にハチヤの剣の刃が触れる寸前でピタリと止まっていた。

「い、いや……ディート殿。こ、これは――「言い訳はいらん」――ッ!」

「……それにしても、《影の支配者(シャドウルーラー)》殿は随分と過保護ですね。弟分を傷つけられるのはそんなに嫌でしたか?」

 なんとも人を食っているかのような言い方をする。聞いていて不快になるほどに馬鹿に丁寧なのだが、とてつもなく無礼な喋り方をする。

「……剣を抜いてない相手に、ダガー突き立てようとしてんなら止めるだろ。……そもそも、フェアじゃねぇこんなんでデュエルが終わっても興覚めだろ」

「なるほど……では、こういうのはどうです? 我々が、このデュエルを引き継ぐ――というのは」

「……ああ、良いぜ。やってやるよ」

「お、おい、ハチヤ……」

「面倒なことになっちまったが……まぁ、もう一回やれば連中も飽きるだろ。あとキリトとクラディール……だったか? デュエルを引き分けにして終わらせろ」

「あ、ああ……」

「……、」

 不満そうにしているクラディールはともかく、俺は大人しくハチヤの言う通りデュエルを取り合えず終わらせた。それを確認すると、ハチヤはディードと向かい合った。

 

(こういうことになると……ハチヤも結構見境ないんだよなぁ)

 

 ハチヤだって、絶対俺の事英雄気質だなんて言えないと思う。やり方がかなりアレな時もあるけど、いつでもこのハチヤっていう男は……優しく生きてる。世界が優しくないことを知っているからなのだろうか……ハチヤは、誰かが本気だったり一生懸命である時、なんだかんだ言いつつも力を貸す。自分でできる範囲で、自分にできることをする。簡単なようで何よりも難しいことをやって来たのがハチヤだと俺は思う。

 ゲームの中――βテストのときに初めて会って、変わった奴だと思ったけど……なんだか分かんない内に……あれは果たして仲良くなった、でいいのだろうかと若干疑問に思わなくもないが。

 といっても、最初の頃は俺が一方的に話しかけてただけだった。

 あの頃の俺はコミュ力絶望的だったけど、なんだか分かんない内に友達いなりたいって思って話しかけてる内に、しつこい俺に呆れたのかどうか分からないけど……だんだん話してくれるようになってたのがなんか嬉しくて、現実にあんまり執着を抱かなくなってのめりこんでいたこの仮想世界で見つけた……もう一つの家族的なつながりが欲しかっただけかもしれないけれど……《兄ちゃん》みたいなハチヤと一緒に冒険するのが楽しかった。

 その冒険は、まだ終わってないし……きっとこれからも終わらない。

 ハチヤの言っていた、『本物』が何なのか……それを俺はあの《圏内殺人事件》の時まで知らなかったけど、あの時聞いて……βの頃ハチヤの苦しんでいた現実の何かが知れた気がして、俺もまたそんな決して揺るがない繋がりが欲しくなった。

 見せかけじゃない、けれど現実だけで作るものじゃない。きっと《魂》と《魂》でつなぐような、そんな《絆》を、この世界でも……いつかこの世界っていう壁も越えて帰る現実でも、もっとたくさん、見つけていきたい……。

 ――この世界で生きた意味と、つないだ絆の輪を広げていくために。

 でも、それはまだもう少し先だ。今はその目の前の壁を越えないといけない。でも、俺は一旦下がらないとな。こっから先は、どうやら《兄貴分》のようだ、《弟分》は大人しく引き下がるとしよう。

「あとは任せた……」

「……ああ」

 パシッ! とハイタッチをして舞台の主役(メイン)は俺からハチヤに変わった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……なんだかキリトの奴が妙な笑みを浮かべていたのが少し気になったが、まぁいい。今はこいつの相手をしなくてはならん。やれやれ、この世界来てからこんな〝柄じゃない〟ことばっかりだな……。

 そう俺は愚痴りつつ、背の鞘から剣を抜く。

「…………」

「フフ……」

 それにしても、このディードとかいう男……何かよくわからないが、妙な感じがする。だがそれが何であるかは俺にはまだよく分からない。いや、別にこれまで会ったりしたことがあるわけでもないから当たり前だが。

(……まあ、今はいいか……)

 今は、とりあえずこのデュエルを終わらせる……それだけを考えていればいい。

 そして先ほどと同様、カウントは減り……【DUEL!!】の文字が弾け飛び、紫のエフェクトが迸った後俺たちは剣先をぶつけ合った。

 だが、その刹那に驚いた。ソードスキルを使ってくると思ったからこそ、今度こそデュエルを確実に〝終わらせる〟為に、自分の敏捷度を生かしてソードスキルを使わずにその攻撃を受け流し……その隙をつくつもりでいたのだが、俺は――()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ことに驚いた。

 結果、俺たちは下段、上段と先ほどのキリトとクラディールとまったく同じ様に構え、そこから鍔迫り合いへと発展していった。

「……よく分かったな」

「…………そちらこそ」

 そして短く言葉を交わしたのち、互いに距離を取ってから……また再び地面を蹴った。

 剣がぶつかり合う。

 激しく火花が散る。

 

((――――コイツは……強い!))

 

 互いにそう思ったであろうことが、何だか嫌なくらいに分かるほど〝共鳴〟するような感じがして……それを振り払い、もう一度――今度はもっと本気に、自分の全てを賭けるようなつもりで、ぶつかり合う。

 

「ずげぇ……!」

「……なんて速度だよ……」

「……ありゃあ、もう敏捷型の神髄の戦いだな……」

「……強いわね……」

「ユキ、ハチマンは負けない……」

「……そうね、ルミさん」

「……ですけど……凄いですよ。……せんぱい」

「…………だね」

「本当に、すごい……っ!」

 

 そんな《仲間》の声が、聞こえる……。観客の声も聞こえているはずなのに、何故かみんなの声だけがやけに耳に響く。

 〝みんな〟なんて《言い訳》は使えないし言えなかった。友達なんていたことない――はずだった。でも、どうしてだろうか。何の間違いか、俺は今……たくさんの仲間と出会って、こうして今その声に力みたいなもんをもらってしまっている。

 

(――ったく、ほん……っとうに、柄じゃねぇよ……まっ、たく…………なぁ……ッ!!)

 

 また、剣を振るう。

 もっと、……もっと早く……ッ! この戦いも、この世界もぶち抜いて……もっと先へ!

 更に追撃。速度を上げ、何が何でもディードよりも早く……。このラッシュを抜ける、あと少し。あと、……少し!

 そしてついに、長く長い連撃の後、ついにそこで――

「……ッ!?」

 ――俺は反撃のチャンスを見つけた。

(ここだ……!)

 剣先に、光をともす。

 光の尾を引きながら……俺は高速の水平攻撃ソードスキル《ホリゾンタル》を放った。

 突き抜ける様にして放たれたその攻撃は、はっきりとは当たらず……ディードの脇腹を掠めただけではあったが、それでもきちんと躱せたわけではないディードには、その中程度の切り込みであってもしっかりと初撃として判別される〝当たり判定〟がしっかりと出ていた。

 そしてシステムウィンドウには、大々的にデュエル終了を告げる《WINNER Hachiya.》と表示された。

 瞬間、観客の歓声とシステムによるファンファーレが鳴り響く。

 広場はすごい盛り上がり様だった。俺自身、この戦いの中でかなり真剣に剣を振るい……燃えると言っていいくらいに白熱した《剣舞》を繰り広げることになった。その中に多少なりとも楽しかったという感情と、どこかしらホッとしたような感覚が俺の中に混在していた。

 まあ、この際それは置いておくとしても……これで《デュエル》は俺の勝ちで終了の筈なのだが――

「くくっ……いやぁ、さすがにお強い……。まさに完敗、私の負けですよ。これなら……致し方ありませんね。今は諦めましょう。………………………………護衛も、ユイ様のことも」

 ――そう言い、最後に小声でつぶやくと……負けたにもかかわらず、ディートは()()()()()

 あれだけ《護衛》にこだわっていたにもかかわらず、いきなり掌を返したかのように……笑っていた。ただ、俺はその笑みの裏に、現実で最も苦手だった人物の一人……ユキこと雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃さんのことを思い出していた。

 ディードもまた、仮面の様な外面をかぶっている……だと思うが、あの陽乃さんとは何かが違う。怖いというより、先ほどまで……剣を交えるまでに感じていた嫌悪感がより強まったような感覚を感じていた。

 邪悪とでもいえばいいのか、それすらもわからなくなってしまったが……言い表すのならば、そうとしか言えないような……そんな感覚を俺は味わっていた。

 だが、そんな俺のことはもう眼中にないのか、ディートはクラディールに「戻るぞ」と告げさっさと転移門へと向かい転移していく。そのあっさりとした引き下がりように、皆ポカンとしてその背中を見送ることになった。

 だが、しばらくするとそんな異様さに対するもやもやとした感覚も薄れていき……観客たちもそれぞれの目的地やホーム、あるいは迷宮区に狩場と言った場所に散らばっていく。

 ハヤトも、「俺が止めるべきだったのに、結局止められなくて手を煩わせて済まなかった」とだけいって、KoBの自身のパーティーメンバーの元へと帰っていった。

 そしてその場には、俺たちだけが残った。

 そんな風に、一気に普通に引き戻されてしまった俺達は、引き下がったという事はある意味では《護衛》は諦め俺たちが護衛替わりとして動いていいという事だろうことは分かっていたが、あのあっさりとした引き下がり様に、俺たちは何かしらの裏があるような気がしてならないと考えていたが……それをこの時いくら考えてみたところで分かる筈もなく、その〝引っ掛かり〟を覚える〝違和感〟程度のものとして頭に残ったのだが――。

 そんな風にして残った違和感さえも、迷宮区に入ってパーティ―での戦闘をしながら先へ進むという久々の《攻略》に熱が入っていき……その小さな事象は、頭の片隅に追いやられていき、次第に〝気にならないこと〟になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 アインクラッドのどこかにある、薄暗い部屋の一室にて――。

 ディートは、笑っていた。

 部屋の内装の豪華絢爛さとぴったりと合っているはずの、その端正な顔立ちを目いっぱいに歪めながら、彼は笑っていた。

「……いやぁ……面白い。あの《愉快な熊》――あぁ本当は《地獄の王子》だが《悪魔》なんだったか? ……まぁ、そんな事はどっちでもいいか。それにしても、言っていたことは確かだったなぁー……(ニタァァァッ)」

 その笑みの中には、新しい《おもちゃ》を手に入れた子供の様でもありながら……どこまでも穢れた大人が生き甲斐としての《遊び》を見つけたかのような、そんな《笑顔》を浮かべてディートは狂ったようにして笑い続ける。

「いやぁー……あんたが執着するのも分かる気がするよ。最初にあったときは狂人過ぎると思ったけどねぇ~~~? それに……あの娘も――ひひひっ!! あーあ、どうやら〝僕〟もそっち側(クレイジー)になっちゃったみたいだ。――――まあ、ある意味……望むところだけどね?」

 そういって、彼は壁に貼られた二枚の写真を見る。

 一枚は、一人の少女。

 彼が見つけた、汚し……どこまでも貪欲に貪り尽くす様に求めたい存在。穢れないその心を、どこまでもただ優しく、それでいて強く誰かをいつくしめる素質のあるその感情を全部自分に向けさせた上で、汚す様に犯したい。

 ――()()()()()()()()()()()()()……。

 そしてもう一枚の方は、今日新たに追加されたもので……彼が、どこまでも殺し合いたい存在。果ての無い無限の剣戟をとこしえに続けていたい存在。殺すなんてとんでもない。いつまでも生き地獄の中で転げまわりたいくらいだ。

 ――終わりなき、《生》を感じられる戦いを所望したい……。

 

 ――――この二人を、何が何でも手に入れたい。

 

 だが、その機会はもっと先だ……。

 ――その彼に二人を教えてくれたその愉快な誰かさんは〝また〟、《機会》をつくるつもりらしい。それはもう少し先、この層と次の層が攻略された後……だったかな?

 

 

 

 ――――――ああぁ……っ! 早く、欲しい……っ!!

 

 

 

 この『世界(ものがたり)』に、もう一人。

 

 何もかもを壊そうとする、【穢れた復讐者(キラー)】……いや、彼の場合は寧ろ……、

 

 

 

 ――――【強欲な捕食者(グリード)】――――

 

 

 

 だろうか。

 

 

 

 世界は、また大きく傾き始める。

 

 しかし、その歪みが体現するのはまだ……先――――。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 次回、『青眼の悪魔』

 

 

 




 いかがだったでしょうか? 次話以降から一気に《アインクラッド編》のラストへと駆け抜けていければと思います。
 あとは、今回出したオリキャラのサイコっぷりを今後も出せていたらいいかなとは思います。邪悪な敵である人物がもう一人欲しかったので、おこがましいかもしれませんがPoHに並べるような感じのキャラを描けたらいいなと思います。
 では、今回もどうにか投稿が完了いたしましたので、次回の分も頑張って書いて行こうと思います。
 ご感想等がありましたらお気軽にお寄せ下さい。ですが、誹謗中傷等はNGということでお願いします。




 ※あともしかしたらバレバレかもしれませんが、今回のオリキャラはSAOのとある小物の血縁者、というか兄弟であるというのを下地にしてみてから考えて作りました。
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