本日午後1時より、世界初のVRMMORPG【Sword・Art・Onlineーソードアートオンラインー】通称SAOの正規版サービスが開始される。
それを待ちわびているこの少年、比企谷八幡は千葉県にある総武高校に通う高校生で、このSAOのβテストの経験者であった。そして彼を含めたβテスト経験者、そして他のプレイヤーが待ちわびていた正規版サービスがいよいよ開始される。
サービス開始まであと10分ほど。八幡は《ナーブギア》と呼ばれるヘッドギアを装着して、ベットに横たる。いよいよ、『剣の世界』に戻れるというところで先日の学校でのやり取りを思い出していた。
ニュースで騒がれるほどのSAOフィーバーの真っ只中なだけあって学校では正規サービスを次の日に控えた総武高校では、SAOの話題で持ちきりだった。
「隼人くん買った?SAO」
「ああ、いよいよだしな。予約に潜り込めたのはラッキーだったよ」
「俺もギリッギリで買えたんよ〜ならさならさ!パーティ組もうぜ、パーティ!!」
「ああ、いいよ」
「戸部運いいよな〜」
「くっそ〜俺もあとちょっとだったのにな〜」
このクラスのトップカーストのグループの男子連中、葉山隼人というイケメンと制服の下にパーカー着てる戸部と大柄な大和そして小柄な大岡が話している。するとそこへ金髪の女王的な美女子とメガネのおとなしそうな女子が会話に入っっていく。
「隼人ーあーしも入れてよ」
「ああ、優美子も買ったのか?」
「うん、面白そうだったし、姫奈に勧められたんだよね〜」
「いいな〜あたし買えなかったよ〜」
明るめの茶髪の童顔美少女も会話を振られ、その中に入っていった。
「結衣残念だったね〜」
「はぁ〜でもでも!次の予約には絶対受かるもん!」
「じゃあ結衣が来るまでに私たちも強くなってビギナーな結衣をサポートしないとね」
「姫奈〜ちゃんと待っててよ〜?」
「うん」
とまあこの八幡の所属する2−Fではトップカーストの連中がSAOのことを話しているが、八幡はなんだか嫌だなぁと思った。正直向こうではあいつらに会いたくない、明るめの茶髪の童顔美少女こと由比ヶ浜はまぁ別としても葉山とか戸部そしてあの炎の女王には特に・・・
そんなこんなで放課後となり、八幡は自身が所属している部活『奉仕部』の部室へと足を運ぼうとするが、そこへ先ほどの会話の中に出てきた由比ヶ浜結衣がやってきた。
「ヒッキー!なんで先行こうとするのさ〜」
「まだ慣れなくてな」
「むぅ〜あたしはそんなの気にしないのに……」
「そのうちに慣れてくさ……。多分だけどな」
「…まぁいいけど」
そんな感じで部室に着き、扉を開くと、そこには由比ヶ浜に負けず劣らずの美少女がそこにいた。彼女の名は雪ノ下雪乃、この部活の部長でこの高校の国際教養科に在籍している才女である。
「ゆきのんやっはろ〜」
「こんにちわ、由比ヶ浜さん、比企谷くん」
「よぅ」
簡単に挨拶をすませると席に座る。ただ、これまでのゴタゴタを乗り越えてきたためか、三人の距離は少しずつ、しかし確実に縮まっていく―――――――
「そういえばさ〜ゆきのんはSAOって買った?」
「いえ、興味はあったけど買うまではしなかったのだけれど……父さんの方のつてでモニターを姉さんとやらされることになったのだけれど、姉さんが辞退したから誰か友人を誘ってこいと言われて……」
「ねえゆきのんそれってもしよかったら……あたしでもいい?」
「ええ、むしろたすかるけれど……由比ヶ浜さんは買うと言っていた気がして」
「いや〜結局予約落ちちゃって……でもそれならゆきのんと一緒にできるね!!」
「ええ」
「お前らもやるのかSAO」
「ヒッキーもやるの!?」
「あ、ああ」
「やったー!これなら三人でパーティ組めるね!」
「由比ヶ浜さん、私は廃人ガヤくんとはパーティを組みたくはないわね」
「雪ノ下、酷くないか?いくらβt……あ」
「もしかしてあなた、βテスターなの?」
「……あぁ、そうだ。前の1000人に選ばれたことがある」
「すっごーい!!ならヒッキー、あたしたちにいろいろ教えてほしいな!」
「ああ、いいけど……例えば何について知りたいんだ?」
「えっとね、使える装備とか?」
「武器のことならカテゴリについては結構情報は出回ってるから知ってると思うけど、主に片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、片手長柄、両手長柄、短剣、細剣、大剣、曲刀、槍とかそんなところだな。他にもいろいろあるって話があるんだけどな」
「長柄と細剣って何?」
「えっとな、長柄はメイスって言われるやつだな。細剣はレイピアっていう武器なんだけどな――――――こんなやつな」
スマホでささっと画像を検索してみせる
「なんかメイスって金棒っていうか棍棒みたいだね」
「ま、その類いだな」
「このレイピアってなんだか綺麗だね」
「ま、これはSAOのやつじゃないけど結構武器の装飾も豊富だからな期待はしていいと思うぞ」
「ふ〜ん」
「レイピアは速さを重視する剣で威力は貫通というか連続攻撃が得意な武器でな、速度重視な人にはいいかもな。str要求もそんなに高くないし」
「すとれんぐす?」
「筋力値のことだ。これが高い武器だと一撃一撃の威力が高くなるんだ」
「そうなんだ〜」
「比企谷くん、槍なんていうのもあるの?」
「ああ、確かあったはずだ。これは近接というよりは中距離での戦闘で威力が高くなる武器だな、体力ないお前には向いてるかもな。あと単純にイメージしやすい」
「あ、それはなんかわかる。ゆきのんすごくそういうの似合いそう、どっちかっていうと薙刀?みたいな」
「姫武将ってか?」(文庫が違うけどな)
筆者は、十兵衛ちゃんとか義元ちゃん好きです。アニメ二期こないかなぁ~。
「姫武将って結局武将なの?姫なの………?」
「気にするな、ネタが伝わらなければそれまでだ」
「そう」
「ま、ともかくさ。ゆきのんとあたしにレクチャーしてねヒッキー?」
その上目図解やめてくださいめちゃ可愛いから、勘違い思想になるから。というかかなり開いてるからそのはち切れそうなのが見えそうなんですが!?(敢えて何とは言わないが)
そんな感じで約束を取り付けられてしまいあったら必ず教えてと言われてしまった。そのまま下校したあとその日の夜に三人からメールが来た。
一人目は由比ヶ浜で先ほどの内容の続きみたいなものだった。二人目は材木座で予約にあぶれてしまったらしい、あとで貸してくれとか載ってたからまあいいけどと返そうかと思ったがそのあとに中二病全開の内容が載っていたので一言「気が失せた」とだけ返した。するとその5秒後「スミマセンした」と返って来た。全くキャラがぶれすぎだ。
そして待望の三人目は戸塚で気の毒なことに戸塚も予約から落ちてしまったらしい。神の野郎マジで何してんだよ・・・戸塚と冒険とか俺得すぎるのに!神の野郎マジでくたばれ!!と思ったが戸塚の「あとから買うだろうからその時は教えてね」と書かれていたのを見ると「任せてくれ!」と速攻で返信した。戸塚ってマジ天使、もうトツカエルとかミカエル超えちゃう勢い。
とまあそんなことを思い返しているうちに既に時刻は午後12時59分になっていた。いよいよとそのまま八幡は目を閉じ、こう叫んだ。
――――――リンクスタート!――――――
すると目の前を様々なグラフィックが飛び、幾つかのアイコンが表示され、認証→ログイン→βのキャラデータを使いますか?という表示が出たのでYESを押した。(当たり前だがレベルやアイテムは引き継がれない)
そして次に目を開けた時はーーーー
――――――――――八幡は始まりの町の広場に立っていた。
「ついに戻ってきたな、この世界に……」
すると横にもログインしてきた奴がいてそいつの顔を見ると、なんと知っている奴だった。
「キリトか」
「ハチか!ひさしぶりだな、β以来か」
「そうだな」
こいつの名はキリト。βの一緒に戦っていた奴でなんとなくぼっち気質というかなんというか、俺にしては珍しくあっさり友達になってしまった。こいつは雪ノ下や由比ヶ浜と同じく素直というか純粋な感じで『偽物』ではなきく『本物』の友人というものに位置している。仮想世界とはいえそんな友人ができたのは柄じゃないが嬉しかった。ちなみにここでの俺のプレイヤーネームはハチヤという。所詮は本名のもじりだけどな。
「じゃあこれから一緒に狩りに行かないか?」
「ああ、いいぜ」
そうして俺にしては珍しく二人で行動を始めた。
そうして狩り場へ向かう途中、自分らよりも年上の青年プレイヤーに声をかけられた。
「その迷いのない動きっぷり、あんたらβテスターだよな?」
「ああ、そうだけど?」
「俺今日が初ダイブでさ、序盤のコツとか教えてくれねぇかな?」
普段なら断るところな気もするが、此処はゲームの中だし、何よりコツを教わるというならそれは悪いことではない。おんぶに抱っこでいこうというなら突っ撥ねるか無視だがそういう事ならと俺はOKを出す。
「ハチにしては珍しく素直だな」
「飢えたものには魚ではなく魚の取り方をがウチの部長様のモットーでね」
「ふーん」
そんな訳で声をかけてきたクラインと共に狩り場へ向かう。そこで一通りスキルについて教えて、実践に移る。まさに実戦で実践だな……スミマセン上手くなんてないよね……
「ぐおっ!?」
そんな事を考えているとクラインがMobモンスターのフレンジーボアに吹っ飛ばされてる。
「おいおい、何やってんだよクライン」
「だってよ、あいつ動きやがるしよぉ」
「ま、動くのは当たり前だ。カカシじゃねぇしな、重要なのは初動のモーションだってさ」
「モーションつったてよ……」
「なんて言えばいいかな……少し貯めを入れてスパーンって打ち込む感じ、かなっ!」
キリトがそこに転がってる石を拾い上げ、構えをとるとソードスキルを発動させてフレイジーボアに投げつける。するとそのイノシシはハチヤに向かって突進してくる。
「こんな感じに、モーションさえしっかりと発動させればあとはシステムが技を命中させてくれるよ」
「モーション、モーションねぇ……」
するとクラインは手にしている片手用曲剣を構え、いい感じにモーションの構えをとる。それを見てハチヤがニヤッと笑い「いい感じだ、そのまま行け!」とフレイジーボアをクラインに向かわせる為に剣で抑えていたボアに蹴りをいれて方向を変える。
「せやぁっ!」
そしてクラインの片手用曲剣の初期ソードスキル「リーバー」をフレイジーボアに向けて放つとHPゲージを吹き飛ばす。
「―――――ッ!うぉっっしゃあああ!」
「おめでと」
「おめでとさん」
「ああ!」
「でも、今のモンスタードラ●エでいうとこのスライム相当だけどな」
「え!マジかよ……俺はてっきり中ボスかなんかかと」
「なわきゃねぇだろう?」
ハチヤがフィールドの外の方を指をさすと、そこにはボアの大群がいた。
「あがっ……マジかよ」
「ははは……」
そんな感じで苦笑しているとクラインがソードスキルの発動のコツがさっきので分かったようで、おさらいのつもりか何度もスキルを発動して感覚を体で覚えているようだ。
「おぉ~!」
「ハマるだろ?」
「まぁな!」
「スキルってよ、こういう戦闘系から日常の奴まで色々あんだろ?」
「ああ、その種類は無限とさえ言われている位だからな、でも魔法はないけどな」
「RPGで魔法なしとは大胆な設定だよな!」
「よし次行くか?」
「おう!」
こうしてそのあともしばらく狩りを続けているともう日が暮れ始めてしまっていた。
「いや~狩った狩った」
「もうだいぶ経験値とったな」
「ハチもうレベル2行きそうだもんな」
「キリトもだろ?」
「お前らやっぱり手馴れてるな~」
「ま、クラインもはじめてにしては結構いい線言ってるぜ?」
「だな、このままいけば最前線のプレイヤーになれるぞ?」
「マジ!?」
「ああ、俺らが保証してやるよ」
「おお、サンキュ!」
「しっかし、ここが仮想世界なんていまだに信じられねえよ。作った奴は天才だ……」
「そうだな、俺らもβで初ダイブしたときはかなり感動したよ。俺のフルダイブ初体験はβ版SAOだったからな」
そうハチヤが言うとキリトもそれに続けてこう言った。
「俺は結構ほかにもやっていたけどSAOに出会ってこの世界のことで頭がいっぱいだったよ」
「キリトおめぇ、相当ハマってんな?」
ニヤッとクラインが言うとキリトも笑みを返しながら答える。
「ああ、この世界は
「そうか。あ、そういやβん時はどこまで行けたんだ?」
「ハチと組んでも2か月かけて9層までだった。でも、今度は1か月で10層まで行ってやる!」
「そん時は俺も協力させてもらうぜ」
「おう」
「そういえばキリト、クラインお前らどうするんだ?俺そろそろ落ちようかと思ってんだよ、飯の時間とか的に」
「う~ん、俺はどうるかな……」
「俺もそろそろ落ちることにするぜ、腹減ったしな」
「そっか」
「クラインもしかしてなんか予約したりしてんのか?」
「おうよ17:30にアツアツのピザを予約済みだぜ!」
「準備万端だな」
「ま、そういうわけで俺はいったん落ちるわ。後でまた来るだろうけどな。明日も休みだし」
「そうか」
「そういやよ、俺ほかのゲームで知り合った連中と街で会う約束してんだけど……どうだ、よかったらそいつらともフレンド登録しねぇか?」
「いや……俺は」
「……俺はいい、たぶん攻略して上がっていけばいずれ会うだろうしな。それに、いずれ会うならその時にわかるさ。俺は表面上の『偽物』の関係はもういらないんだ。ここは仮想世界だが人が触れ合う以上そこにある『絆』とか『信頼』ってやつは『本物』であるべきだと思ってる。このことを最近になって教えてもらったんだよな、そして気づかされた。傷つくことだけが正しいことじゃないって……」
俺のこんな言葉をクラインとキリトは黙って聞いてくれた。本当にこいつらもあいつらと同じにちゃんと人間の根っこをわかってるんだと思う。
「そうか……ま、ハチの言う通りそのうち会えるだろうしな。じゃあ、また今度会おうぜ」
「ああ」 「おう」
そういうとクラインはメインメニューを開きログアウトボタンを探す。それを見てハチヤも「じゃあ俺もいったん落ちる」とキリトにいってメインメニューを開くが―――――――――
――――――――おかしい、メニューにログアウトボタンがない……だと?
そんなことがあり得るのだろうか?確かに本日はサービス初日でバグという可能性もなくもないと思う。だがこんな今後の運営にかかわりそうなバグなら、サーバーを停止させ一斉ログアウトという対策をとるなりして点検しなければならないはずだ。なのに、何も置きない。クラインも疑問に思ったらしくキリトや俺に聞いてくる。
「他にログアウトの仕方ってあるっけか?」
「―――――――――――ない。プレイヤーが自発的にログアウトするにはメインメニューを操作するしかない………おかしすぎる」
「ああ、こんなバグなら今後にかかわりかねないのに……運営は何もしていない」
「考えすぎじゃね?まだ初日なんだしよぉ……?」
確かにクラインの疑問ももっともだ、だがハチヤはこう返す。
「初日だからなんだよ、クライン。初日からのこんな致命的なバグは早く直さないとこのゲームの存続自体にかかわってくる、ってくらいの事なんだよ」
「……確かにGMコールもさっきからうんともすんとも言わねぇ……これってまさか、ホントになにかあったってことなのか?」
「わかんねけど俺たちはどうやらもうしばらくは飯にはありつけそうにないな」
「?どういうことだよハチ?」
「ほら、もう17:25だぜ、クライン?」
するとクラインはやっと気づいたようで顔が青ざめ始める。
「俺様のアンチョビピッツァとジンジャーエールがあああ!?」
「クライン落ち着け。まぁ、かくいう俺も妹の作った飯が食えないのは不満ではあるんだが……」
「そういえばハチも妹いたんだよな」
「キリトもだっけ?」
「ああ確かハチの妹の2つ下の中一」
「そうだったな」
「………お前ら妹いんの?」
「ああ、だが紹介はしないぞ。俺の妹は誰にもやらん!」
「ハチ、おめぇつれねぇなぁ」
「何とでも言ってくれ」
そんなことを言っていると突然《始まりの街》の鐘が鳴り響く。その音色はどこか不気味さを帯びていて何かを前兆しているようだった……
そして、その鐘の音と共に三人の体は光に包まれてしまい――――――
――――――気が付くと、始まりの街の中央に位置する大広場に転移してしまっていた。
「なんだ……何が起こったんだ?」
「強制転移みたいだな、始まりの街の広場に飛ばされたみたいだ」
何が起こったか分からない様子のクラインにキリトは状況を確認するように答える。周囲を見渡すと、広場にはハチヤ達と同じように転移されてきたであろうプレイヤーたちがごった返していた。
この現象は何なのだろう……イベントな類なのだろうか?実際にも似たようなことを考えてる輩もいるようで「なんだよイベントかなんかか?」、「早く終われよな~」などと軽口をたたいているものや、ログアウトできなくなったことから「ここで謝罪してログアウトさせるのか?」等と言う者もいるが……その考えは、次の瞬間に宙に浮かび上がった≪WARNING≫と≪SYSTEMANNOUNCEMENT≫の文字にかき消される。
その表示が瞬く間に増殖し、空一面を紅く覆い尽くしてしまう。さらにそこから赤黒い血のような液体が漏れ出すように滴り落ちると、それは空中に留まって一点に集まり巨大な何かを形作っていく……
そうして現れたのは真紅のローブをまとった影法師のようなアバター、しかしそのローブのフードの中にあるはずの顔は存在していなかった。
そしてそのアバターは空中に漂いながら、大広場の1万人近いプレイヤーたちを見下ろしながら語りだした。
《プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。現在、この世界をコントロール出来る唯一の人間だ》
このアナウンスに周囲のプレイヤーたちはざわめく、いまだにこれがイベントなのかどうか判断しかねているのだろう。だが、ハチヤはなんとなくこの茅場晶彦を名乗るアバターが彼の手によって動かされていることをなんとなく察していた。
《プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない、繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、【ソードアート・オンライン】本来の仕様である。今後諸君らは、このゲームから自発的にログアウトすることは出来ない》
その淡々とした口調にハチヤは茅場晶彦という人間の狂気をひしひしと感じていた。それはキリトも同じようで空に浮かぶアバターを凝視している。
《また、外部からのナーヴギアの停止、または解除による強制ログアウトもありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる。》
その言葉のいよいよ戸惑い始めるプレイヤーたち。そしてハチヤの隣に立っているクラインもこの言葉に戸惑っているようだ。
「脳を破壊って……たかがゲーム機のナーヴギアにそんなことできるわけ………」
「いや……確かにナーヴギアの高出力マイクロウェーブは電子レンジと同じ原理だ。できないわけではない、と思うけど。そんな高出力の電磁波なんて電源を抜いてしまったら使えるわけなし……」
そこまで語ってキリトは絶句する。その電磁波の確保を可能にするものがナーヴギアには搭載されている。
「お、おい、まさか……」
「………うん、ナーヴギアにはかなり大容量のバッテリーが内蔵されてる。3日は持つとかって話だから、それを使えば、俺たちの脳を焼くくらいはできる……」
その言葉を聞いて驚愕するクラインだが、そんなクラインやほかのプレイヤーたちをお構いなしに茅場の話は続いていく。
《しかし残念ながら、警告を無視してナーヴギアの解除を試みた例が少なからず存在し、既に213名のプレイヤーがこのソードアートオンラインの世界から、そして現実世界からも退場している》
そう言って、茅場は幾つかのウインドウを出現させる。するとそこには、ナーヴギアによる死亡者のニュース映像が流れており、茅場の発言が狂言ではないことを決定づける……。
《様々なメディアが繰り返しこの事実を報道したことを鑑み、これ以上ナーヴギアの強制解除による被害者が出る可能性は低くなった。諸君らは安心してゲーム攻略に専念してほしい》
そのセリフにプレイヤーたちはついに悲鳴にも似た声を上げるものも出てくる。そこへ茅場が告げてくるゲームクリアの条件、つまり解放の条件とは―――――――
《諸君らがこの世界から解放される方法はただ1つ。この始まりの街の存在するアインクラッド第一層から第100層までの迷宮を踏破し、その頂点に存在する最終ボスを撃破し、このゲームをクリアすることだけだ》
その茅場の発言に耐えきれなくなったクラインが茅場に向けて叫ぶ。
「第100層だと……?ふざけんな!!βテストじゃろくに上がれなかったんだろうが!!??」
クラインのその発言は正しく、先ほどキリトが述べたようにβでの攻略では2ヶ月で第9層までしか到達できなかったのだ。それを今度は、第100層までクリアしろという。確かに理不尽である、これでは単純に計算しても手練れを集めて1か月10層と考えても10か月かかることに、そこまで計算したハチヤの思考を遮るように茅場のとんでもない条件の上乗せが提示される。
《しかし、充分留意して頂きたい。今後このゲームにおいて、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。プレイヤーのHPが0になりHPゲージが消えた瞬間に、諸君らのアバターはアインクラッドおよびゲーム内から永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊され---現実の世界からも永久に消滅する》
悲鳴を上げるどころか声も出ないプレイヤーたちにせめてもの配慮なのか茅場はこう告げてきた。
《ただ、それ以外のことによって諸君らが死亡することはまずないと言っていいだろう。この事件は先ほども述べたように各種メディアが報道して既に公に認知されている状態だ。諸君らはナーヴギアの回線切断猶予時間となっている2時間以内に各医療施設に搬送され厳重な看護体制のもとにおかれることになるだろう》
しかし、それに反応するものはほとんどいない。むしろここまで一度に怒ってしまったことを受け入れかねているのだ。
しかし、おそらく奴は本気だ。そうハチヤは確信した。彼は、茅場晶彦は、本当に自分たちプレイヤーに〝本当の命を懸けた〟デスゲームをやらせようとしているのだ……。
《それでは最後に、私からプレイヤー諸君に対するささやかなプレゼントだ。各自アイテムストレージを確認してほしい》
ストレージを確認してみるとそこに書いてあるアイテム名は――――『手鏡』
「何だこりゃ……?」
茅場によってアイテムストレージに送られたアイテム《手鏡》を手に持ったプレイヤーたちが次々と青い光に包まれ始める……しかし、すぐにその光は消え、そこに現れたのは――――――誰だ、こいつら……。
キリトとクラインが居たはずの場所には、見覚えのない中世的な顔立ちの黒髪の少年と髭面の男性が立っていた。
「誰だお前ら……?」
「お前こそって、まさかハチ……か?」
「え、じゃあお前は……キリト?」
ということは、こちらの男がクラインということになる。
「クライン……歳ごまかしすぎじゃないか?」
「大きなお世話だ!!これでもまだ22歳なんだよ!!」
「「マジか!?」」
クラインの年齢に驚いていた忘れていたが周りを見ると、俺たちと同じように、先ほどまで存在していた美男美女のアバターが軒並み平凡な顔のアバターへと変化していた。つまりほかのプレイヤーたちのアバターも現実を反映したものとなっているということか……ちなみにネカマも本来の性別に戻されてたのでちょっとばかしおぞましい光景もちらほらと見える。
うん……嘘はよくないよね?そう1人で納得し、キリトとクラインに視線を戻すと二人はなんでアバターを現実のも姿に変えられたのかについて話している。
「たぶん、俺たちのアバターを見る限り周りも同じように現実世界の容姿に変えられたんだと思う。ナーヴギアは高密度の信号素子で顔を覆ってる、だから顔の形を把握できたんだ・・・でも体型や身長はどうやって……?」
「確か、ナーヴギアの初期設定でキャリブレーション?とかいうので身体をあちこち触らせられただろ?多分あれで……」
「なるほどその時のデータを元に……」
俺たちがそうやって一連の状況を一通り推察して納得していると、再び影法師……茅場が語り始める。
「諸君らは今、何故?と思っているだろう。何故、ナーヴィギアの開発者でありソードアートオンラインのゲームクリエイターの茅場晶彦はこのようなことをしたのか、と」
俺達はその言葉に神経を集中させ聞きいる。茅場晶彦のこのテロ行為と言ってもいいほどの仮想世界における一万人ものプレイヤーを監禁した、この一連の行動に目的があるとするのならば、それがいったいなんであるのかを聞かねばならない。
だが、それに続く言葉は……俺たちの予想を完膚なきまでに打ち壊してしまう。
「しかし、既に私に目的は達せられている。この世界を作り、鑑賞するためにのみ、私はこの世界を、《ソードアートオンライン》を作った……」
そう言った茅場は顔は見えないが、非常に満足そうの声で語っているのはわかった。
「そして今、その目的は――――――――達成せしめられた……」
そして、最後に締めくくるように茅場は余韻に浸るようにしてから、俺たちを見下ろしながらこういった。
「それでは長くなったが……これで《ソードアートオンライン》正式サービスのチュートリアルを終了とする。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
言い終えると、茅場のアバターの影法師は耳障りなノイズを立てながらバグに侵食されていくように崩れ去り、それと同時に空を覆っていた紅い表示も一瞬にして消え元の夕暮れの空に変わった……。
こうして、俺たちのデスゲームは幕を上げた。
そして、その場に残されたプレイヤーたちはもう大パニックを起こしており「ここから出せ!」という声や「嫌あああああ!」という叫び声が轟く。
しかし、俺たちは呆然と立ち尽くし、この空間から隔絶され遠くから聞こえる始まりの街の市街地BGMだけが耳に聞こえるような気分だった。
しかし、これは仮想世界での出来事ではあるが《現実》の事だということを認識せざるを得ない。俺たちは広場の群衆から一旦離れ、路地裏に移った。
「二人とも、わかってると思うけど。さっきの茅場の言葉が真実なら、この世界で生き残る為にはひたすら自分を強化していくしかない。その強化のために必要な金や経験値も、ゲーム内のリソースには限界があるから、始まりの街周辺のモンスターは他のプレイヤーたちにすぐ狩り尽くされてしまう。この状況でより多くのリソースを得るためには次の村を拠点にしたほうがいい。俺やハチなら危険なポイントも安全なルートも全部知ってるから今レベル1の俺たちでも安全にたどり着ける」
キリトの言葉はおおむね正しいが、厳密に言えば、単に生きる〝だけ〟なら経験値も金も必要ない。ゲーム内なら餓死することはないし、野宿すれば宿代もかからないからだ。とはいえ現実問題、空腹が再現されているこのゲームの中でそれにひたすら耐えるのは難しいだろうし、様々なリスクを考えると野宿も控えた方が賢明だ。
ゆえにキリトの言っていることは正しいが……。
「今日は別行動だったけど、オレは他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜でこのソフトを買ったんだ。あいつらを置いてはいけねぇよ……」
「……その知り合いっていうのは、何人居るんだ?」
「3人だ」
キリトの顔が少し曇る。仮に俺とキリトが同行したとしても、クラインを含めた4人の初心者を連れての行動はかなり厳しい。
そんなキリトの様子を察したのか、クラインは少し硬いが笑みを浮かべるとキリトに首を横に降るとこういった。
「いや、これ以上お前らに迷惑をかけるわけにはいかねえよ。お前らに教わったテクでどうにかして見せるさ。これでも、前のゲームじゃギルドの頭張ってたしな。」
「……そうか」
キリトはいまだに表情が曇ったまま俺にもこの後どうするかを聞いて来た。
「ハチはこれからどうするんだ?」
「…俺も少しだけ確認したいことがあるが、たぶんすぐに次の村に行く。その時にまた会おう」
「分かった……」
こうして、三人は別れることになった。そして控えめにキリトが「それじゃあ、な……」という言葉を引き金にしてそれぞれ別れを告げそれぞれの行く場所へと歩を進める。
「キリト、ハチ!……えっと、な」
「取り敢えずありがとな……」
「ああ」 「おう」
「あ、あとキリト、おめぇ、案外かわいい顔してんだな。結構好みだぜ?あとハチよぉ、おめぇイケメンすぎて羨ましいぜ!爆発しろ」
「お前もその野武士面のほうが10倍にあってるよ!」
「誰がイケメンだっての、現実じゃ目が腐ってるとかって言われてるぼっちに爆発する隙なんてねぇよ!(最近はまぁ……少しだけましになったけど、な……)」
こうやって、三人は冗談を飛ばし合いながらそれぞれの目的の場所へと向かった。
そして、広場に戻ったハチヤは〝彼女たち〟がここにいないことを祈りながら広場を見回る。
すると、喜ぶべきなのか、はたまた絶望すべきかは迷われるが……〝彼女たち〟はそこにいた――――
「――――由比ヶ浜、雪ノ下……」
二人はその場にへたり込んで下を向いていた・・・彼女たちは芯の強い女子達ではあるのに、その彼女たちもこのデスゲームを前にして希望を見失っている。だからハチヤは、彼女たちにもう一度立ち上がるためのきっかけを作るべく声をかけた。
「ヒッ、キー……?」
「比企谷くん……」
「やっぱり、来ちまってたんだな……」
二人を見て、俺は尋ねた。
「単刀直入に聞くぞ、二人とも、これから俺はこのゲームをクリアするために先に進まなくてはならない。お前たちは、どうする?」
「……」
「俺は、先に進む。もし、ついてくるなら俺がその……できる範囲でなら、まぁ守る。でも、ホントは……その―――――」
――――危険にさらしたくない。
この言葉は実際に口に出されることはなかったけど。二人は察したのだろうか…それとも、初めから……言葉を聞く前から答えは決まっていたのかもしれない。
「あたし達は……行くよ」
「当然ね」
「お前ら……」
「もう一人で抱え込ませてあげない。抱えるならみんな一緒がいいから……だからもう、ヒッキーを一人でなんて絶対にさせないよ」
「由比ヶ浜……」
「そうね、由比ヶ浜さんの言う通りにもうあのやり方は、させない。させてあげないわ」
「雪ノ下……」
「まぁ、そのことよりも、『ここ』を出る方が先決かもしれないけどね」
誰かさんは随分と詳しい要だから、ね?、と勿体ぶったようにいう雪ノ下を見ながら八幡は答える。
「ああ、じゃあこの街を出て先に進む。この次の村を拠点にして行動する。このVRMMORPGという世界は出現するアイテムや経験値、金は限りがある。だから、それをなるべく多く獲得することで自分を強化することで生き抜いていくしかないこの状況では、より多くの経験値を得るためには誰も手を付けていないエリアを抑える必要がある」
「なるほど……」
「分かったけど、次の村に行くのって……やっぱり難しい?」
「安全なルートは知ってる。でも気は引き締めておいてくれ、この世界では絶対にHP0になれない。俺は……絶対にお前たちを連れて《現実》に帰りたい。だから、その――――――なんていうか、付いて来て、くれるか……?」
「「うん/ええ」」
こうして二人を連れて次の村を目指すことになったが、二人を連れてここから次の村まで行くのはかなりの負担になる。だが、それでも……。
根拠のない自信だが、それでも俺は信じたかったし、信じていた。以前の自分が今の俺を見たらおそらく卑下し軽蔑するだろうが……それでもいい。
その俺があって、今の俺がある。だから、初めて奉仕部に行ったときに言ったように今までの自分を否定しないことにしよう。
そう、今はただ―――――――――
―――――――――このどこまでも広がる仮想世界を脱出し、もう一度現実に戻る為に……。
こうして、俺たちのデスゲームは本当の意味で≪始まった≫のだった……。
これからもどしどし投稿していこうと思っていますのでよろしくお願いしますね。