遅くなって申し訳ありません。
覚えてらっしゃるか不安ですが、圏内事件の第三話でございます。
事件の核心へと踏み込んでいくハチヤ達は、一体何を見ることになるのか。
お楽しみいただければ幸いです。
第一層《始まりの街》にて――
『圏内PK』
そんなあり得ない筈の出来事に直面したハチヤ達は、その事件の真相――どうにも、その奥に〝何か〟があるようなそんな気がしてならないように感じた彼らはその事件の真相に迫るために、第五十層《アルゲード》の転移門からこの『アインクラッド』の最下層たる《始まりの街》へと降りてきた。
ここにやって来た目的は、今回の事件における被害者《カインズ》と何かしらの関係者であるだろう刀匠《グリムロック》。この二人の死亡と生存を確認するためにやって来た。
ここ第一層にある『黒鉄宮』に安置されている『生命の碑』。ここにその二人の名前が有るのか無いのか……、そのための確認に彼らはやって来た。
それを確認しなければ、何もできないだろう。
《カインズ》は本当に、死んだのか?
《グリムロック》は生きているか?
この二つを確認した上でこそ、この『圏内事件』とでも呼ぶべき事件の真相へと迫れるだろうと彼ら――とりわけハチヤはそう確信している。
(……こんな三流の芝居なんて、とっとと幕引きにしてやる)
そんな思いの元、ハチヤ一行は黒鉄宮《生命の碑》の前までやって来た。
× × ×
黒鉄宮――文字通りの黒の鉄柱と鉄板によって作れたそこは……まさに『牢獄』。明らかに外とは温度が違うと、ゲームの中である筈なのに、そう感じさせるほど……そこはとても冷たい空気を湛えていた。
嫌な場所だな……。ハチヤの率直な感想はそんなところだった。それは皆も同じようで、この場に漂う冷たい空気を肌で感じ……いかにも寒そうに擦っていた。
それに加えて……時間が遅いせいか、人気が全くないこともその不気味さを増幅させる一因となっている。ここは普段……というか昼間の時間帯には、大切な友人や恋人を亡くしたプレイヤーがここを訪れ、泣き崩れていることも多いという。
ゲームの中で何を、などというものもいるが……ここは既に、もう一つの現実となっていて…………大切なものが『ここ』で『生まれる』ことだって、ありえるのだから――
その分、悲しみや嘆きは酷く人の心に積もり積もる。ここからは『逃げられない』から…………逃避も、逃走も許されない。だからそういうとき、人は有るかもしれない希望を捨て……『死』への逃走を図ることになる。
そんな現状が、ハチヤは嫌いだった。人の弱さをただただ浮き彫りにして、それを放り捨てるようなシステムが嫌いだった。
だが、そんな世界に……魅せられている自分がいる。この状況に置かれたハチヤは、いつだったかの――答えが見つかるまで悩み、苦しんだ『あの時』とこの気持ちはどことなく似ている様な……そんな気がするのだった。
そんな考え事の合間に、既に黒鉄宮の中に安置された『生命の碑』の前に彼らは行き着いた。
早速確認作業に移ることにしたハチヤ達は、分担して今回確認すべき二者の名を探し出した。
「よし……。キリト、アスナ、イロハは《グリムロック》の方を頼む。残りは俺と一緒に《カインズ》の方の名前を探すぞ」
「了解」
「分かった」
「分かりました」
「オッケー」
「分かったわ」
そして、探すべき人物の名前の綴りの頭文字が並ぶ欄のあたりを手分けして探す。
勿論《グリムロック》の方はエギルの店で確認した通り《Grimlock》。《カインズ》の綴りも事情を聞いた際に一応ヨルコから確認済みである。カインズ――《kains》とKの欄を探していくと、無情にもその名の綴りには死亡を示す横線が刻まれている。
死亡時刻、日時、ともに狂いはない。
これで、カインズの死亡は確定した…………。
「間違いねぇな……カインズは、死んでる」
「……その様ね」
「うん……」
辛そうな顔をするユキとユイ。当然の反応だろう……何せ、本当に人が死んだのだから。
三人がかなり沈み込んだような雰囲気を漂わせていると、キリトたちの方から声がかかった。どうやら、《グリムロック》の名を発見したらしい。
「あったのか?」
「はい、せんぱい。ここです……」
そう言ってイロハが指し示したところを見ると、そこには確かに《グリムロック》の名があった。
横線は――無し。
「生きてる……みたいだな」
「はい」
ハチヤはそれを見て、これで話を聞く相手は決まったなという確信を得た。
「よし……明日になったら早速、このグリムロックっていう鍛冶師を捜索する。見つけ出して『コイツ』を作った理由を聞かせてもらうことにしよう」
皆それに対して、分かったと返事をする。
「じゃあとりあえず、今日はこのあたりで解散ってことになる。明日に備えてしっかり休んどけよ? もしかしたら、理由を聞くだけじゃ済まなくなるかもしれないからな……」
ハチヤがそう警告すると皆頷き、決意を固めた様だ。
口には出さないが、こんなあからさまな《対人専用》の要素を備えた武器をこのSAOというゲームの中で作ったような奴だ。危険度はかなり高くなると言わざるを得ない。用心するに越したことは無い。
そのあと足早に黒鉄宮を出ると、定宿がある層に転移しようとしたのだが…………。
「せんぱーい、一緒に来てくださいよぉ~」
「いや、なんでだよ」
「えぇ~だってぇ、先輩がたぶんこのゲームの中で一番強いじゃないですかぁ」
「んなわけあるか」
他にもいるだろ、ほら……えっと、キリトとか。ほかは、その……あれだ――誰だろう? いや少ねぇよ! ほかにいねぇのかよ! つか知り合いが絶望的に少ねぇなおい!
そんなセルフボケツッコミをして、やっと一人思い出した。こいつらのパーティが所属してる《最速攻略》を掲げているギルドの団長、プレイヤーネームは――《ヒースクリフ》。
あいつは強い。何せ、防御力はこの『アインクラッド』で他の追従を許した
勿論速度に関しては、おそらく俺もトップの一員であることはそこそこ自負しているが…………。あの防御力を前にするとしたら、俺には
勿論、どこか一点だけを攻撃し続けたり、最近見つけたいくつかの小技や…………『スキルスロット』に
思考の海原を彷徨いながら、ようやく思考に区切りをつけたところでイロハにハチヤはその思考をもとにして導き出した答えをかいつまんで語りだす。
「ほら、ヒースクリフとかハヤトにでも守ってもらえばいいだろ? 丁度いいんじゃねぇの?」
「……ホント、鈍感ですよねぇ……」
「はぁ? バッカお前、俺ほど人の感情に敏感な奴なんているわけねぇだろうが」
「…………よく言いますね。『本物』云々で散々迷いに迷ってたのに、あれも人の感情ですけどそこのところどうなんですかぁ?」
痛い所を突かれ、ハチヤはググッ、と押し黙らざるを得なくなる。
そこへイロハは、とどめとでも言わんばかりに顔を近づけこういった。
「それにぃ……この『責任』も、しっかりとってくださいね♪」
このって何? とハチヤは思ったが、そういえばまだあの時の分も清算しきれてないんだっけかな? と例の約束を思い出し、ますます反撃の材料を失い、向こうに攻撃の手段を与え続けてしまう。
イロハはしめしめとでも言いたげに〝良い笑顔〟でハチヤをあざとい上目遣いで見上げている。
「~♪」
「…………(あの、俺どうしたらいいんですかね?)」
誰か助けてくんない? なんて元ぼっちらしからぬセリフまで出しそうになっているハチヤに助け舟を出したのは、意外なことにユキだった。
「その辺にしときなさいイロハさん」
「むぅ……はぁ~い」
ユキの一言で、不貞腐れつつも攻撃を一時中止するイロハ。ハチヤは助かった、と胸をなでおろすような気分で安堵した。
しかし、イロハもそれだけでは面白くないとでも思ったのか……。転移する直前、ハチヤに「じゃあせんぱい? お休みなさ~い。また明日もよろしくお願いしますねぇ♪ 寝坊は駄目ですよ? あ、何なら迎えに行っちゃいますから♪」
それじゃあまた明日、なんて言い残して消えていった。
ハチヤがそれを聞いて、思ったことは二つ。
(あの、明日も来るの? というか、迎えってなに?)なんで宿を知っているのかは、あえて考えないようにしよう。たぶんユイにでも聞いたんだろう。そうでなくてはおかしい。という思いと――
(イロハさーん? この空気どうしたらいいんです? あなたのせいですよ?)
――背後に絶対零度にまで達しそうな勢いで殺気を放つ女性陣を残してったの? という思いだった。
「ハチヤさん…………後輩相手に『責任』取らなくちゃならないようなことしてたんですか?」
「えっ!? あ、あれはそういうんじゃなくt」
「……ハチヤ君?」
「は、ハイ!?」
「『責任』って何かしら? 私達『本物』という発言以外は聞いたことが無いのだけれど……?」
「い、いやそれはあいつが勝手n……」
「何を、したのかしら?」
その声は、とてもじゃないが、怖いなんて言葉じゃ表しきれないほど冷たかったという……。
「ハッチー?」
「ふぁいっ!?」
「ねぇ、『責任』なに?」
「だ、だからそれはイロハが勝手に……言ってる、だけなんだって………………」
「あたし馬鹿だから、すっごぉ~く分かりやすく教えて欲しいなぁ……?」
怖えぇぇぇぇぇ!?!? ハチヤの心の叫びが絶叫した。(意味二重だよ!?)
とにかくそれくらいの恐ろしさがあったという。キリトはただ「これが修羅場って奴か……」と勝手に感心してただけだけだったが。(お、お前だって妖精とか銃とか地球の裏側とかの世界を回ったら絶対こうなるんだからな!? その時は俺が笑ってやるからな!?)
バーサクヒーラーに貫かれ(物理)てろ! となんだか変な未来余地がハチヤの中を巡ったが、それでこの追従は止まない。
そのあと、長い長ーい『O☆HA☆NA☆SHI』を終えて、ようやくハチヤは解放された。そのあと暫くハチヤが何だか妙にガタガタ震えていた気がするのは、もちろん気のせいだろう。
こうして、一人の捻くれたフラグ野郎の精神的なダメージがこの世界の一日を飾り、夜がもっと深まっていったとさ。
× × ×
そして翌朝――
集まった一同は《グリムロック》の捜索に乗り出すことにした。
「さて、じゃあ何から捜査するか……」
「そうね、まずヨルコさんにグリムロックという名に心当たりがないかを当たってみるのが妥当じゃないかしら?」
ユキのその提案に一同は頷き、早速ヨルコに会う連絡を取り付け彼女に会うべく彼女の滞在する昨日彼らのいた五十七層へと向かった。
「お待たせしましたね、ヨルコさん」
「いえ、大丈夫です……」
ユキが代表してそういうとヨルコはそう答えた。
一同が、昨日のレストランに入り席に着く。そこで早速、話の本題に迫る。
「それじゃあ、早速だが……ヨルコさん、カインズは間違いなく死んでいた。それは昨日俺たちが確認したまぎれもない事実なんだが…………」
「……」
ハチヤが、告げたカインズの死の情報にヨルコはうつむいてしまうが……ハチヤが告げた二の句がどこかはっきりとしない言い回しだったためヨルコはハチヤの次の発言を待つ。
「今回の事件にはなんだか不可解な点が多いのも事実でな、それでアンタにも話を聞いておきたくてな……それで悪いとは思ったがこうして話を聞かせてもらいに来た」
「いえ……それで、その…………話って言うのはいったい……?」
「ズバリ聞くが、アンタは《グリムロック》というプレイヤーとカインズの関係について何か知らないか?」
そう聞くと、ヨルコの表情に明らかな反応があった。その反応は、驚き半分悲しみが半分といったところだが――ハチヤには、その奥に動揺があったように思えた。
だが、ヨルコはポツリポツリとつらそうな声で語り始めたので、ハチヤはとりあえず疑念を仕舞い込み、そちらの方に注意を傾けた。
「はい、知っています。それは昔カインズと私の所属していたギルドのメンバーです」
「そのギルドについて、詳しく教えてもらえますか?」
イロハがそういうと、ヨルコがはいと言って話し出す。
曰く、かつて彼女の所属していたギルド《黄金林檎》でいざこざという程ではないが、こんな出来事があったという。
以前、とあるレアアイテムをめぐってちょっとした口論があった。偶々レアモンスターを運よく倒せた際にドロップした、マジックアクセサリの類に属するそれは、装備することによって敏捷値が二十上がるという超レア物。
そのレアアイテムが、ある《出来事》――いざこざを引き起こすことになる。
それまでずっと弱小ギルドだった《黄金林檎》は宿代と食事代を稼ぐためだけに活動していた。
それまでそんな中で仲良くやっていたという。
だが、この指輪のことで亀裂の様な者が入ってしまう。
売却か、装備。どちらにするか相当もめたらしい。
しかし結局、最後は多数決で売却に決まった。とはいえども、中堅層では超レアアイテムの売買は基本的に無理な為、リーダーである《グリセルダ》がレアアイテムの売却の為に当時の前線の層に出向いて
だが、しかし――
「グリセルダさん…………帰って来なかったんです」
――グリセルダは……『殺された』。
「それは何時頃の話なんだ……?」
「大体、半年くらい前です……」
ヨルコはハチヤの質問にそう答えた。
「……死因は?」
「…………貫通継続ダメージ、です」
それを聞いたとき、ハチヤの表情はよりいっそう曇った。
――『貫通継続ダメージ』それは、カインズの死因と同じ物である。
(つまり、これは…………《復讐》か《制裁》ということなのか?)
やはり人の思惑が隠されていたことが、これではっきりした。この事件は、《黄金林檎》のメンバーに密接にかかわっている。つまり、これは『指輪』をめぐって起こった口論の果ての『殺人』に対する《復讐》か《制裁》だろう。
恐らく当時のギルメンたちの中に、リーダーである《グリセルダ》を殺したものがいた。それは売却反対派の物だろう。前線に出向いた中堅ギルドマスターがレベルも足りていないのにレアアイテムぶら下げて《圏外》に足を踏み入れることは、まず考えられない。鴨が葱しょってるのと変わらない状態で略奪される羽目になるのがオチだ。
十中八九誰かが殺したのだろう、《睡眠PK》で。半年前にはまだ《睡眠PK》についてそれほど広まっておらず、
そこを、殺された――ということなのだろう。
何者に?
『指輪』のことを知っていた《誰か》にだ。
結果としてギルドは、解散――というより、『自然消滅』したということだ……。
つまりこの事件の真相というか、根本にある者とは――おそらく、『指輪』の売却に賛成だった者が、それを邪魔し、あまつさえリーダーを殺したであろう売却反対派の者に対する《制裁》あるいは《復讐》と言ったところだろうか? もしくは――――その指輪を奪った者からさらに『指輪』を奪い返したい者がそれを奪った者――つまりは被害者のカインズから《略奪》した……という可能性もなくもないが。(もちろんこれはカインズは反対派であることが前提だが……)
ともかく、この事件に関係しているのは売却反対派の者であることは明白だ。
「ヨルコさん、その言い争いの時……売却に反対したメンバーは、誰ですか?」
嫌な質問だと、自分でも思う。
しかしこれは、十分あり得ることだ。人間関係なんて、もろいものだ。そしてそうやって起こった出来事は、当事者たちにとっては良いものであれば吹聴し、嫌なものならば消し去る。
所詮はそんな程度のもである。
――そんな現実ってやつを、誰よりも知っている。
それはともかくとして、ハチヤの質問に対してヨルコはこう答えた。
「反対派だったのは三人で……私とカインズ、そしてシュミットです」
意外なことに、出された名前は…目の前の人物とカインズと……もう一人に至っては攻略組として有名なギルド《
「シュミットさんって、あの
「はい、そのシュミットです」
その人物をハチヤ達はよく知っていた。
ボス戦の際によく見かけることや、何度か加入の依頼をされたことがある。だが、特に入る理由もないことや彼らのやり方が正直言って気に入らない――というのはやや失礼だが、言ってみればそんなところだ。
彼らのLAへの執着の激しさや、閉鎖的で自己中心的なプレイスタイルが気にくわないというのがハチヤ達の理由である。
そんな訳で、丁重にお断りした為あまり友好的とは言えない状態にある。
まぁ、それはあまり関係ないのだが……。
「でも、反対の理由は私と彼らでは違いました。彼らは前衛で自分たちが使いたいからで、私は……その、カインズとお付き合いを始めたばかりだったので…………彼に合わせた、という感じで」
要するに、それほど自分で使いたいわけでもお金が欲しいわけでもなかった彼女は、彼氏の意見に賛成したということだろう。
それはまぁ、昔のハチヤであれば欺瞞だ偽善だなどと罵るようなものだが、彼女は別に彼氏に印象をということでやったわけではないようだ。もちろんこれは今現在の彼女に対するハチヤの印象なので、当時がどうだったかまでは勿論わからない。ただ今現在の彼女にはこれまで《そういう奴ら》に感じてきた嫌な感じはない為、そうなのかなと思っただけである。
「それで、カインズさんとは……そのあとも付き合ってたんですか?」
ユイがそう聞くと、ヨルコは首を横に振る。
「いえ、結局ギルドの解散と一緒に自然消滅しちゃいました……。そのあとは、近況報告をしあうくらいで、昨日もただ食事だけのつもりだったんですが…………あんなことになってしまって……」
「そうですか…………ごめんなさい、辛いこと聞いちゃって」
「いえ、いいんです……。それで、グリムロックさんの方なんですけど…………」
「あ、はい」
「グリムロックさんは、ギルドのサブリーダーでグリセルダさんの『旦那さん』だったんです」
旦那さん、ということは…………。
「リーダーさんは、女性だったんですか?」
そうイロハが聞くと、ヨルコは「はい」と答えた。
「グリセルダさんは、とっても強くて――もちろん中堅層での話ですけど……すごくカッコよくて、私も憧れていました。だから……、今でも信じられないんです。あのリーダーが、《睡眠PK》なんて粗雑な方法で殺された、なんて……」
「ショックだったでしょうね……。旦那さんも、そんな方法で愛する人を奪われたら……」
アスナがそういうと、ヨルコは頷いてその殺人の後からグリムロックが荒んでしまったことを語った。
「二人ともいつもニコニコとしていて、とても暖かい夫婦でした。でも、あんなことがあってグリムロックさんとはあれから一度も会えませんでした。それどころか、連絡すら届かない状況で…………」
「……本当にショックだったんだろうね……」
「ですね…………」
「辛い事ばかりを大勢でしゃべらせてるみたいで悪いんだけど、最後にもう一つだけ答えてほしいんだ。――あなたは、グリムロックさんがカインズさんを殺した可能性はあると思いますか?」
キリトのその質問に対して、ヨルコは小さく盾に首を振り…………嗚咽を漏らすかの様な、小さくそして悲し気な声色でこういった。
「…………はい。その可能性は、あると思います。グリムロックさんはもしかしたら、私達三人を殺すつもりなのかもしれません。ただ、何の証拠もないですが……私もカインズも指輪を奪ってはいませんし、リーダーを殺したりなんてしません。でも、もしも本当にグリムロックさんが犯人だとしたら、あの人はやっぱり私達全員を殺すと思います。愛するグリセルダさんの
それ以上は泥沼だと判断した一同は、本日の話はここで打ち切りとしてヨルコに礼を告げると彼女を宿へと送り届けた。
そして、次にどう行動するべきかを話し合った。
「…………何つーか、ますます小説っぽくなってきやがったな」
希少なものの奪い合い、略奪、愛憎、罪科…………。これでは、一体どれが一番正しいものであるかが判断しづらい。
「でもさ、やっぱり可哀想だよ……。グリセルダさんも、グリムロックさんも、ヨルコさんも、カインズさんも…………」
「ですよね……。愛する人を失ったり、殺されたり。酷い話ですよね…………」
ユイの言葉にアスナがそう答える。
「だとしても、何も掴めなけりゃ今度はこの事件がどこに飛び火するか分からないからな…………」
次にどう動くか、これが鍵だ。
「……ハチヤ君、この状況では情報を集めたりグリムロックさんやシュミットさんを探して話を聞くのも泥沼でしかないわ。寧ろ今やるのなら、この事件の詳細を明らかにすることだと思うのだけれど」
「まぁ、そうだな……。探すつってもこの人数じゃ効率が悪いし、ほかのメンバーが真相を語ってくれるかもわからない。グリムロックにしてもおそらく見つけるのは相当に骨だろうしな…………。まずはユキの言う通り、事件の検証・洗い直しだ」
一旦ホームに戻ろうと皆に呼びかけると、皆それに従う。この事件は思ったよりも、根が深そうだということを再認識した一同は……より気持ちを引き締めた上で、この事件の真相を掴むために動くのだった。
× × ×
ハチヤ達の定宿にて――
「改めて聞きたいんだが…………今回の事件について、俺はいくつか疑問が残っている。勿論お前らにもそういうのが残ってるだろうが、それでもあえて聞きたい。お前らはどう思う?」
「…………そうね、私も今回の件にいくつか疑わしいと思っている部分はあるけれど、一番の疑問点は――やっぱりそもそもの発端である殺人の方法について、かしらね…………」
ユキがそういうと、ハチヤはそれに頷く。
「ああ、やっぱりそこだよな…………」
そう、殺人の方法が未だに不明、不明なのだ。
そもそもの発端であるこの事件の圏内殺人を可能とした方法、それが分からなければこの事件の解決――つまりはギルド《黄金林檎》の『指輪』云々が解決したところで、この先に起こりうるかもしれない新たな
とはいえ、今回の事件を見る限りでは殺人の理由はおそらく《制裁》か《復讐》。
それらを解決すれば、この事件は終わらせられるだろう。
「今回の事件、何よりも謎なのはそこだ。基本的に――デスゲームなんてものにしては、だが――フェアを貫いているこのSAOにおいて、圏内で殺人というルールを逸脱した行動をとれるわけがない…………んだが――」
「それが現実に起こっている、というわけね…………」
「ああ」
「…………そこを解決しないと、先には進めないってことか……」
「そうはいっても、あんなイレギュラーの原因を逆算するなんて…………」
「キリト君とアスナちゃんの言う通りだよ……簡単にはいかないよ」
「ですね…………でも、それを確かめないことには……」
「…………どうするかねぇ」
今必要なのは、何か少しの小さなきっかけ――ただそれだけでいい。
(何か、少しでも……少しでもきっかけがあれば、それが……何かのきっかけにつながるはずだ)
そう言ってハチヤは思考を振る展開するが、なかなかいい案が出ない。そもそも、不可能なはずの事柄の抜け道を探したりそれを可能にする
ゲームを完全に知り尽くしてる輩、言ってみればそう…………
「あ、そうだ…………
「あい、つ……?」
ユイが首をかしげる。
「誰のことかしら?」
「このゲームの中で、最強の剣士の一人。《ヒースクリフ》に、だ」
その言葉を聞き、一同は納得したように「ああ~」と頷き合う。
「でもせんぱい。会いに行くならKoBの本部いかないとだめですけど……?」
「は? 何言ってんだお前? 俺が人のとこに出向くような人種に見えんのかよ?」
「いえ、まったく」
「だろうな、だからメールするんだよ」
「あーなるほどぉ……」
「お前がな」
「なんでですか!?」
「ばっかお前、俺が人のメアドそんなに知ってる訳ねぇだろうが」
「……悔しいですが、反論できません」
「だろ?」
「むしろ悲しいのは貴方の方でしょう……?」
うっせ、余計なお世話だ――とハチヤは言ってそのままイロハにヒースクリフにメールを出させた。
それから三十分もしない内に返信が来た。
「あ、返信きましたよせんぱい」
「…………早えぇな」
「いいじゃないですか、その方が動きやすくて」
「…………まぁそうだな。で? 返信の内容は?」
「あ、ハイ。えぇっとぉ――――」
――――イロハくん、ではKoB団長である私の知る限りの情報をここに記載しておくので、ハチヤ君――《影》君に伝えておいてくれ。あと、君に情報提供ができるとはなかなかに光栄だということも含めてね。
では本題だが、はっきり言おう。私が言えることは一つ、不可能だ。
それに加えてハチヤ君、君に私からのメッセージを一言。
『この世界において、幻聴幻覚の類は存在しない。全てはデジタルの信号であるのだから……基本的には
――とのことだった。
KoB団長様のありがたーいオコトバを頂戴したハチヤ達だが、どうにも引っかかる気がする。
「…………何か、運営に問い合わせた後の定型文て感じがするんだが…………」
「そうですか? ウチの団長随分先輩に興味持ってる風ですけど」
「知るか気色悪い。俺は男に興味はない」
「戸塚先輩に興味は?」
「ある!!」
「…………戸塚先輩、おとk――」
「ばっかお前、戸塚だぞ戸塚! 性別戸塚が存在するまであるだろうが」
イヤ、ホント当然でしょ。戸塚だよ戸塚? あんなかわいい子が男の子なわけがない(ry
「じゃあ先輩は逆説的にほm…………いえ、何でもないです(それだと私が……いえ、私たちが困ります)」
「…………」
「コホンッ そこの腐り目が、脳みそまで腐ったといいなら後でいくらでも調教して叩き直すから……まずはこのメッセージをもとにして捜索をしましょうか」
「あの、ユキさん? 調教って聞こえたんですけど、空耳ですよね?」
「どうかしらね? 腐った魚さん」
ふふふ、と微笑みを浮かべてハチヤを見る彼女の姿は非常に恐ろしかったという。(怖えぇぇぇっっっ!?!?)
「でも、それって性格なんですか? いくら最大大手のギルドの団長だからって……」
「いや、まぁその辺はたぶん大丈夫。あいつがこの『アインクラッド』におけるデータベースみたいなもんだから」
アスナの疑問に、キリトがそう答える。
実際その通りなのである。何故か知らないが、《ヒースクリフ》というプレイヤーは誰よりもこのゲームに詳しい。
「アスナちゃん。大丈夫ですよキリト君の言う通り、団長は情報通ですしそれにほら――こんなのも追伸として付いてきましたし」
「?」
「何が書いてるってんだよ?」
イロハがそう言って先ほどのメッセージの続きを皆に見せる。
そこに何が書いてあるかというと…………。
ハチヤが言い返してきたときの反論メモの様な者がびっしりと書いてあった。
『おそらく、彼のことだからひねくれた返しを散々用意してくれるだろうから先に書いておく』
未知のアイテムやスキルの可能性――無し。
ウィナー表示の不可視――不能。勝敗のメッセージは両者の間に表示され、5メートル以上離れているならば、両者の目の前に表示される。
《ユニークスキル》使いの出現――もしいるなら、寧ろこちらで勧誘済みだろう。
HPバーを一撃で吹き飛ばし、決勝で移動させる――不可能。その武器は決して高級品とも言えない上に、仮にそれを《カインズ》氏相手にするならば、『ヴォ―パルストライク』のクリティカルヒットをするとしても、最低レベル百は必要であり……現アインクラッドの最高レベルは君と私の80である。
――と、まぁご丁寧にハチヤが思いつく限りの捻くれた意見に対するものであろうそれは本文よりもびっしりと書かれていた。まるでこちらの方が面白がって書いたかのように。
「…………くぅぅぅッッッ!!!」
ハチヤ悶絶。
「ハッチーそんなに悔しかったの?」
「……何だか、凄い……」
あのハチヤをここまでへこませるとは…………。アスナはちょっぴり感嘆の声に近いものを漏らした。
「まぁ、そこの馬鹿の言うことは放っておいて…………。〝自分の感じた感覚だけを信じろ〟というなら、あの時の状況そのものに何かのヒントがあるということかしら?」
「知るかよ……」
「もぉ……不貞腐れないの」
「うっせ…………。お前は俺の母ちゃんかよ!?」
「なっ!? ま、ママって……なわけないでしょ! そ、それにそれだとその…………(こ、困るというかなんというか……で、でもハッチーがそういうプレイ的なのが好きなら…………が、がんばっちゃうかも――や、やっぱり無し!! そういうの無しだからぁ!!)」
最後の方はぼそぼそと言っていたので聞き取れなかったが、ハチヤとキリト以外はなんとなく察した。
「……じゃあ、早速検証を始めましょうか。ほら、早く行くわよ変態谷君……!」
「誰が変態だ誰が!?」
「あ・な・たよ」
即答だった。誰もが一瞬で凍り付きそうなほどに冷たい、即答だった。
その一言が完全に一同を黙らせ、一同を検証へとひっぱりだす――かと思われたが…………。
その時、メッセージが彼らに送られてきた。
よりいっそう不機嫌なユキの殺気を背に受けつつ、一同はメッセージを見る。
その差出人は、ヨルコであり……その内容とは、シュミットのことを案ずるものだった。
この件をまだ知らない可能性があるシュミットに会って話がしたい、とのことだが……あんなことがあった後ゆえに、一人で出向く……というのは少々不安である。そういうわけで、付いて来てもらえないだろうか? という内容のメッセージだった。
「ちょ、丁度いいじゃねぇか。シュミットにも話を貸せてもらおうじゃねぇか。祖すればもっと《黄金林檎》の全容が…………」
「……………………」
ハチヤの口は、ユキの『にらみつける』で完全に凍ってしまう。初期技に氷結効果持たせるとかユキさんマジ氷の女王……「……」ジトッ ……いえ何でもないんです。ごめんなさい――と無言のやり取りののち、ユキはしぶしぶ同意し、一同はヨルコと共にシュミット氏に会いに行くことを決めたのだった。
このことがきっかけで、事件は一気に佳境へと向かうのだが――それはまだ、誰も予想だにしていないのだった…………。
いかがだったでしょうか? 圏内事件に時間をかけ過ぎな感じもしますが、この量で次話も書けばおそらく次話でこの事件は終わるかと思われます。
なのでもうしばしのお付き合いをお願い申し上げます。
次回以降もお楽しみにしていただけるうように、頑張ります。