1
金的を二度くらった日の夕方。
荒沢蛮は、市民センターに併設されているスポーツジムにいた。
日課であるウエイト・トレーニングを行うためだ。
既にウォーミングアップを終え、これから本格的に筋肉に負荷をかけて行くところである。
今日はベンチプレスを中心に、胸の筋肉を鍛える予定だった。
ベンチプレスは、専用のベンチに寝そべった状態で、バーベルを胸の上で上下させるトレーニングだ。
「うっし……」
荒沢の巨体が、のっそりとベンチに仰向けになった。
横になると、常人離れした胸の厚さが、立っている時よりもわかりやすい。
胸の前面が、鼻先よりもずっと高い位置にあるのだ。
その腹には、太い革製のベルトがきつく巻かれている。
腰を傷めないよう保護するためのものだ。
ベンチには六十キロ分の重りがセットされたバーベルが用意してある。
バー自体の重さが二十キロあるため、全体で、八十キロの重さを持つバーベルということになる。
そのバーベルを、荒沢のでかい手が握り、スタンドから取り外した。
しっ、しっ、しっ、という太い呼気と共に、バーベルが上下し始めた。
それほど速い動きではない。一度の上下に、たっぷり一秒はかけている。
十度、バーベルを上下させると、荒沢はバーベルをスタンドに置き、ベンチから立ち上がった。
多少、呼吸が弾んではいるが、体力的な消耗はほとんどないように見える。
荒沢はバーベルに二十キロ分の重りを追加した。これでバーベルの重さは、ちょうど百キロという事になる。
きっかり一分間の休憩の後、荒沢は、再びバーベルを持ち上げた。
今度は五回、バーベルを上下させた。
そして、またバーベルに二十キロ分の重りを追加し、一分間の休憩の後、ベンチに寝そべる。
百二十キロのバーベルを一回だけ上下させ、スタンドに戻した。
それからさらに二十キロの重りを追加し、一分間休憩して、百四十キロのバーベルを一回上下させた。
その一分後に、百六十キロを持ち上げた。
さらにその一分後に、百八十キロを持ち上げた。
そしてさらに一分後、二百キロを持ち上げた。
それから一分後、ついに荒沢は、二百二十キロのバーベルを持ち上げた。
もちろん、身体強化の特異能力は発動させていない。
驚異的な筋力だった。
二百キロのバーベルを持ち上げることのできる人間ですら、プロのアスリートの中を探しても、そう簡単に見つかるものではない。
それを、二百二十キロのバーベルである。
これほど強度の高いトレーニングはさすがに堪えるのか、荒沢の呼吸もかなり荒くなっていた。
日に焼けた額には、じっとりと汗が滲んでいる。
だが、荒沢のトレーニングはそこで終わりではなかった。
重りを六十キロ分取り外し、バーベルを百六十キロにする。
そしてやはり一分の休憩の後、ベンチに仰向けになり、バーベルをスタンドから外した。
ゆっくりとバーベルが上下し始める。
バーベルが持ち上がるたびに、くっ、くっ、くっ、という苦しげな音が荒沢の唇から漏れた。歯を食いしばった状態で口から息を吐き出すと、こういう音が出る。
荒沢は百六十キロのバーベルを八回上下させてからスタンドに戻すと、ゆっくりと立ち上がった。限界近くまで体力を振り絞ったのか、呼吸がかなり荒くなっている。
その胸や腕の筋肉が、トレーニングを始める前よりも一回り大きくなっているように見えた。
筋肉組織の疲弊をカバーするために、一時的に血管が膨張し、血液の流入量が増加しているのだ。
パンプアップと呼ばれる現象である。
そのパンプアップした自分の肉体が、ジムの壁に掛かっている鏡に映っていることに、荒沢は気付いた。
その厚さと太さを確認すると、ニヤリと、どこかナルシスティックな笑みを唇に浮かべた。
2
一条晴彦は、夕暮れの街をゆっくりと歩いていた。
図書館で本を読んだ帰りだ。
重篤な活字中毒者である晴彦は、特別な用事がない日は図書館で本を読むことが日課なのだ。
「ねぇ、ねぇ、見て見て〜」
晴彦の頭上から、明るい声が響いた。
晴彦に懐いている妖精型ファントム、ルルの声だ。
空中に浮遊するルルは、何やら人間の顔らしきものが描かれた紙切れを掲げている。
晴彦が本を読んでいる間、退屈しのぎに描いていた絵だ。
「ね、晴彦、これ誰だかわかる〜?」
ルルが何やら自信たっぷりな様子で晴彦にそう尋ねた。
わかるよね? 私の絵、上手だよね?
ルルの表情は、言外にそういう空気を滲ませている。
しかし掲げられた絵は、晴彦の目にはとてもマトモなものには見えなかった。
パーツの構成から人の顔だということは分かるのだが、輪郭がぐにゃぐにゃと歪みまくっているため、どのような人物を思い浮かべながら描いたのかということはてんで分からない。
もっとも、二十センチそこそこの身長しか持たないルルが、人間用の鉛筆を使って描いたのだから、上手に描けていないのは仕方がないことだろう。
「晴彦〜?」
「そんな絵じゃ分かんないって」
「そんなことないよ! ちゃんと見て!」
晴彦の眼前に、びしぃ! と絵が突きつけられる。
晴彦は仕方なく立ち止まって、絵をしっかりと確認することにした。
ここで無視したりすると、機嫌を損ねたルルから悪質なイタズラを仕掛けられる可能性があるのだ。
ルルが描いた絵を見つめながら、晴彦は目に付いた特徴を頭の中で整理していく。
まず、髪の毛が短い。それから、目や鼻の輪郭がやけに強調されている。そして、首がとても太く描かれている。この特徴は――
「これ、蛮先輩?」
「正解! 蛮の絵だよ! わかりやすいでしょ?」
嬉しそうに胸を張るルル。
なるほど、特徴的な外見を持つあの青年なら、大雑把な絵しか描けないルルにとっては良い題材だろう。
晴彦はそう納得した。
そして、ふと気になったことをルルに尋ねた。
「なぁ、ルル。なんで蛮先輩はおまえに敬語を使ってるんだ?」
「さあ? 初めて会った時からあんな感じだよ?」
「そうなんだ」
ルルの答えを聞きながら、晴彦は荒沢のことを思い浮かべる。
少し野卑なところもあるが、面倒見が良く、親しみやすい先輩。
それが晴彦が荒沢に抱いている印象だ。
晴彦が蛮と知り合ったのは、ほんの数週間ほど前である。
ホセア学園の中等部から高等部へ進級してすぐだ。
入学式の翌日、晴彦はファントム退治を行うクラブに入った。
そして、中等部の頃からの知り合いである上級生、川神舞がリーダーを務めるチームEへの加入が決まり、部室で舞と他愛もない雑談をしているところに、荒沢が話しかけてきたのだ。
のしのしと歩いてきた荒沢は、晴彦と舞との間にその巨体を割り込ませると、真剣な顔で口を開いた。
『一条と言ったな。川神に苛められたら俺か姫野先生に言うんだぞ。コイツは胸はデカいし顔も綺麗だが、中身は短気でさもしい上に暴力的でぇっ!?』
突然現れた荒沢は、晴彦の身を案じつつ、本人の目の前で舞を貶し始めた
そしてその結果、怒った舞に背後から股間を膝で打たれたのだ。
『ぐぅ……見ての通り、コイツは危険なんだ』
股間を押さえながらしゃがみ込んだ荒沢は、冷や汗をかきながら晴彦にそう言った。
その言葉に、更に怒りを膨らませて拳を振り上げようとした舞を晴彦は必死に制止した。
『舞先輩ストップ! ダメですよ、こんなことしちゃ!』
『仕方ないでしょ! この馬鹿は頑丈過ぎて、急所以外を攻撃すると、こっちが痛い思いするんだから!』
舞は本気でそう言っているようだった。
確かに、はち切れんばかりの筋肉に覆われた荒沢の体は、打ち込まれた拳を逆に壊してしまいそうな雰囲気があった。
どれほどの期間、どれほど過激なトレーニングを行えばああいった肉体が出来上がるのか、晴彦には想像もつかなかった。
「プロレスラーかぁ……」
「どうしたの晴彦?」
荒沢と出会った時のことを思い出して佇む晴彦に、ルルが問いかけた。
「蛮先輩のこと、考えてたんだ」
ルルが持つ絵を指さしながら、晴彦は言った。
「蛮のこと? 私は好きだよ、礼儀正しいし!」
そう言って、にこにこと笑うルル。
無邪気な笑みだ。言い換えれば、頭の悪そうな笑みだ。
「ほんと、なんでおまえ相手に蛮先輩はあんな丁寧な態度をとるんだろうな?」
「それはほら、私のカリスマってやつだよ!」
「そんなものはない!」
戯れ言をほざく妖精ファントムを一喝すると、晴彦はゆっくりと歩き始めた。
その晴彦の少し前を飛びながら、ルルは晴彦に語りかける。
「そういえば、蛮と舞っちってさ、仲良しだよねー」
「仲良し……?」
ルルの言葉に、晴彦は疑問符を浮かべた。
荒沢は舞のことを公然と危険人物扱いしているし、舞はその仕返しに、男としては見るのも辛い急所攻撃を平然と行っている。
確かに遠慮のない関係ではあるようだが、あれを仲が良いと言っていいのか。
だが考えてみると、舞の手が早いのは割と誰に対してでもあるし、荒沢も舞の容姿に関しては手放しに褒めちぎっている。
互いに相手を遠ざけようとしている節も無く、あれはあれで、変わり者同士で仲が良いという事なのかもしれない。
「……そうかもな」
「でしょ〜」
晴彦の同意を得て、ルルが嬉しそうに笑った。
その笑顔はやはり少々おバカな感じで、敬意を払わなければならない相手には、とても見えない。
「意外と、よくわかんない人だな、蛮先輩って」
晴彦がなんともなしにそう呟くと、
「そりゃあそうだろう。俺だって脳味噌まで筋肉でできてるわけじゃないんだから」
と、すぐ背後から応じる声があった。
「えっ!?」
驚いた晴彦が振り返ると、いつの間に現れたのか、そこには荒沢の姿があった。
3
「こんばんは、ルルさん、一条」
夕陽に照らされる街道で、荒沢は後輩と、後輩といつも一緒にいる妖精に挨拶をした。
「こ、こんばんは、蛮先輩」
「こんばんは!」
二人とも、驚いた表情を見せている。
荒沢のように体の大きな男が、いつの間にか後ろにいたことに驚いたのだ。
その表情を見下ろしながら、荒沢は野性的な顔に嬉しそうな笑みを浮かべた。
荒沢は人を驚かせるのが好きだった。
そして、その手段として得意なものの一つが、気配を殺して背後をとるというやり方なのだ。
「ビックリしたよぉ、蛮」
「いやぁ、すいません」
大げさに驚いた仕種を見せるルルに、荒沢が軽く頭を下げる。
そして、荒沢と晴彦が、どちらともなく歩き始めた。
ゆっくりと歩きながら、晴彦が荒沢に質問を投げかける。
「蛮先輩って、この辺りに住んでいるんですか?」
「いや、俺は学校の近くのアパートに住んでる。今日はジム行ってたんだ」
荒沢はそう答えながら後方を指さした。
その方向には、荒沢がウエイトトレーニングを行っていたスポーツセンターが見える。
トレーニングを終えて建物から出たところで晴彦を見つけた荒沢は、驚かせようとその背後を取ったのだ。
「一条はこの辺りに?」
「俺の家は山手の方です。今日は図書館で本を読んでたんですよ」
「へぇ」
そういえば川神が、一条は度を過ぎた読書好きだと言っていたな。
そんなことを思考を走らせながら、荒沢は晴彦の顔を見下ろした。
よく整った、美麗な顔だ。ほっそりとした体つきも相まって、女性的なものを感じさせる。
まだ出会って一月も経っていないが、荒沢はこの後輩のことが好きだった。
性格に尖ったところのある舞の相棒を務められる度量の広さや、どんな時でも他人への気遣いを忘れない優しい性格を気に入っていた。
「そういえば一条、さっきは何の話をしていたんだ? 俺のことがわからない、とか言ってたが」
「蛮と舞っち仲良いよね〜って話をしてたんだよ!」
荒沢の問いかけに、晴彦に代わってルルが応じた。
「俺と川神が?」
その言葉に、荒沢が意外そうな顔をした。
「そう見えるのか? 一条」
「ええ、まぁ」
晴彦に確認すると、
「そうか。俺の感覚としては、昔は仲が良かったが今は疎遠になってる相手、って感じなんだがな、川神は」
と、何やら難しい顔で荒沢は言った。
「以前は、今以上に仲が良かったんですか?」
「まあな。プロレスと中国拳法という違いはあったが、俺もあいつも格闘技が好きで馬が合ってな。小等部の頃のことだから、はっきり覚えてるわけじゃないが」
「へぇ、長いつき合いなんですね。距離が開いたのはなんでですか?」
「俺があいつのことエロい目で見るようになったからじゃないか?」
「ああ……」
「蛮はエッチだもんね〜」
晴彦が苦笑し、ルルが楽しそうに、からかうような声を出した。
「蛮先輩は隠しませんもんね、そういうの。ちょっと気をつけたら、舞先輩にお仕置きされなくなるんじゃないですか?」
「馬鹿、それじゃ情けないじゃねぇか。川神が怖くて言いたいことも言えないなんて」
「情けないですか?」
「ああ、情けない。川神におべっか使った日の夜に車に轢かれて死んでみろ。俺は情けなさのあまり化けて出るぞ」
大真面目な態度で、荒沢はそう言った。
「車に轢かれることまで考えなくても」
「考えるさ。どんな人間も、死ぬ時はあっさり死ぬからな」
軽く呆れたような晴彦の言葉に、荒沢はどこか遠い表情で答えた。
その様子に何かを感じたのか、晴彦の丸い瞳が揺れた。
それに気付いたのか、荒沢はすぐに表情を崩すと、今度は自分から晴彦に質問をした。
「一条、お前こそ川神とはどうなんだ」
「どう、というと?」
「ま、いろいろだな。あいつはあんなだから、コンビ組むのも大変だろう?」
「ええ、大変といえば大変です。しょっちゅう痛い目見ますし。でも……」
「でも?」
荒沢の質問に答えながら、一旦言葉を途切れさせる晴彦。
荒沢が先を促すと、晴彦はまっすぐに蛮の顔を見上げ、その端正な顔に微笑を浮かべながら、
「舞先輩といるのは、楽しいです」
と言った。
とても良い顔だった。
それに対して荒沢は一瞬だけ、ほう、という表情をした。
「そうかそうか、一条は川神に惚れているのか。いや、良かった。川神舞三十五歳処女、婚期を焦る、なんてのも見たくないわけじゃないが、さすがに忍びないからな」
「え、いや、舞先輩とはそんなんじゃなくて!」
荒沢にからかわれ、顔を赤くする晴彦。
そこへ、今まで荒沢と晴彦の会話を聞いているだけだったルルも茶々を入れる。
「晴彦は大きいおっぱい大好きだもんね〜。ねぇ蛮、聞いてよ。こないだ晴彦ね、川原でエッチな本拾ってきたんだけど、その表紙が……」
「だぁあ!」
「ふぎゃ!?」
恥ずかしい話を暴露されそうになった晴彦が、口を封じるためにルルの体を虫でも潰すように、両手でバチンと挟んだ。
「いったぁああい! 晴彦のバカ!」
「お前が悪い!」
睨み合う晴彦とルル。
二人の様子に荒沢は頬を緩ませた。
「一条とルルさんは仲が良いなぁ」
「別に、そんなことは……あれ?」
荒沢の言葉に唇を尖らせて反論しようとした晴彦が、言葉の途中で周囲を見回し始めた。
「どうしたんだ、一条?」
「いえ、この道にこんな墓地ありましたっけ?」
「む……」
晴彦の言葉を受けて、荒沢も眼光を鋭くした。
気付くと荒沢たちは、見覚えのない墓地の中に立っていた。洋風の、広大な墓地だ。
荒沢も晴彦も、このような景色に見覚えはない。
「ファントムに化かされたか? まずいな。殴ってどうにかなる相手ならいいが、そうでなかったら俺は何もできんぞ」
「走って逃げれば、どうにかなりますかね……」
緊張した声で遣り取りをする荒沢と晴彦。
そこへ、ルルが大きな声を上げた。
「見て、あれ!」
そう言いながら指差した先には、数体の亡霊型のファントムに囲まれている少女の姿があった。
華奢な体付きの、髪の長い少女だ。荒沢たちの通う、ホセア学園の白い制服に身を包んでいる。
少女は土の上に正座をしていた。すらりと背筋が無理なく伸びている。
その佇まいからは、ある種の気品を感じ取ることができた。
「助けなきゃ!」
晴彦が焦った声をあげた。
すると少女は、驚いたような顔で荒沢たちに顔を向けた。今まで気付いていなかったらしい。
「恥ずかしいので、あんまり見ないでくださいね?」
少女はそう言った。
ファントムに囲まれているにも関わらず、余裕のある、落ち着いた声だった。
そして少女は、ふぅ、と小さく息を吐いてから、あんぐりと口を開けた。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……
墓地全体の空気が、紙ヤスリで削られるような音を立てながら渦を巻いて動き始めた。
その向かう先は、大きく開かれた少女の口腔だ。
「やぁあああああああっ!?」
「ルルさん!?」
空気の流れに巻き込まれ、持っていかれそうになったルルを、荒沢はつかんで引っ張り戻した。
周囲を見ると、墓地の風景が、劣化したペンキが剥がれ落ちるように崩れ、少女の口へと吸い込まれていっている。
「ファントムイーター!? 特異能力者だ!」
晴彦が叫んだのと同時に、周囲の風景が一気に砕け散り、少女の腹に収まった。
墓地と亡霊型ファントムが消え、夕陽に照らされる町の風景が荒沢たちの前に戻った。
「美味しかったですわ」
立ち上がった少女が、ペロリと唇を舌で舐めながら、そう呟いた。
満足げに下腹部を手のひらでさすっている。
そんな少女に向かって、晴彦がかなりの勢いで駆けだした。
「君は! ガイウス・プリニウス・セクンドゥスを知っていますか!?」
駆け寄った勢いのまま、跳びかかるように少女に顔をよせながら、晴彦はそんなことを言った。
「ひっ!? がい……?」
晴彦の勢いに、怯えたような表情を浮かべる少女。
だが晴彦はそんな少女の様子などお構いなしに、捲したてるように言葉を続ける。
「古代ローマの植物学者! 通称大プリニウス! 彼が書いた本にマンティコアという動物の記載があるんだ! 何でも食べる食欲の持ち主で軍隊でも敵わない! さっきの君の姿はまるでそのマンティコアのようだったよ!」
「褒めてんのかそれ?」
「褒めてるんじゃないの〜? 晴彦の中では」
少女を怪物に例えて讃える晴彦のセンスに、荒沢とルルは呆れた表情を浮かべる。
しかし晴彦は、そんなことはお構いなしに少女に迫り続けた。
「その制服、ホセア学園だよね? 君、名前は?」
「い、
「俺は一条晴彦! もう部活には入ってる? ウチのクラブには顔出したことないよね? よかったらファントム退治のクラブに入らない!?」
「わ、私……ごめんなさい、帰ります!」
晴彦の態度に恐れをなしたのか、逃げるようにその場を走り去る少女――和泉玲奈。
その背中を見つめながら、晴彦は決意に満ちた表情で言った。
「和泉さん、俺は諦めないぞ。俺と舞先輩には君が必要なんだ」
「ルルさん、一条って結構ガツガツしてるんですね。ちょっと意外です」
「そうなんだよね〜。しかもね、実は晴彦ってね、ストーカーっぽいところあるんだよ?」
荒沢とルルは、晴彦の背中を呆れた目で眺めた。
4
「和泉玲奈さんね。私は二年の川神舞」
翌日の放課後、クラブの部室。
荒沢は晴彦とともに、舞から自己紹介を受ける昨日の少女、和泉玲奈の横顔を見下ろしていた。
結局、彼女は晴彦に言いくるめられて、見学に連れてこられたらしい。
「お姉さま……」
舞の顔を見上げながら、玲奈がぽつりと呟いた。
玲奈はやや目尻の垂れた、優しげな顔をしているのだが、心なしか、その白い頬が熱を帯びているように見える。
「どうしたの、玲奈ちゃん?」
「あ、いえ、私がいた女子高って、上級生をお姉さまって呼ぶ習わしだったのでつい……」
その態度を怪訝に思った晴彦が声をかけると、玲奈は言い訳をするように早口で返答した。
そこへ荒沢は初めて口をはさんだ。
「和泉、川神相手にそこまでかしこまることはないぞ」
「ええと、あなたは昨日の……」
「二年の荒沢蛮だ」
玲奈から戸惑ったような視線を向けられ、荒沢は短く自己紹介をした。
「ちょっと荒沢、どういう意味よ。というか、なんでアンタがいるのよ」
「和泉が虐められやしないか心配で来たんだよ。お前に食われちまったら可哀想だからな」
目を吊り上げて睨みつけてくる舞に、荒沢はぞんざいな口調で返した。
すると、荒沢の言葉に惹かれるものがあったのか、玲奈が反応を示した。
「そんな、お姉さまに食べられちゃうだなんて……」
そう呟きながら頬に手を当て、小さく身をよじる玲奈。
艶やかな唇を、赤い舌がペロリと舐めた。
「「…………」」
それを見て、いがみ合っていた荒沢と舞は顔を見合わせた。
「荒沢、いてもいいわよ。今日は特別に許してあげる」
「おう」
真顔の舞が発した言葉に、荒沢は苦笑いしながら頷いた。
「こほん……今日は新しい依頼が来てるわ。今度こそ成功させるわよ! 私の生活のために!」
わざとらしい咳払いをした後、舞は力強くそう宣言した。
5
午後五時。
空の端が朱色に染まり始めた時刻。
荒沢は舞、晴彦、玲奈、ルルの四人と共に、学校からそれほど遠くない、小さな山の山頂に造られた広場に身を潜めていた。
周囲にはズンドコドンドコとリズミカルな太鼓の音が響いている。
音の発生源はこれから討伐する予定である三体のファントムだ。
三体とも高さ五メートルほどの、茶色い柱のようなファントムで、下端が三つに分かれて脚のようになっており、上端からは黒くて長い、紐のようなものが数本垂れている。
三体のファントムのうち二体は、上端から垂れる紐を絡ませあって、手を繋いだような状態になっていた。
そして残る一体は、太鼓のリズムに合わせて体を揺すりながら、体を反らして他二体の繋がった腕の下を潜る抜けるという動作を繰り返している。二体の腕をバーにみたてて、いわゆるリンボーダンスをやっているようにも見えた
「おい、川神、あれはなんだ」
荒沢は、ファントムを見つめながら舞に尋ねた。
「電柱のファントムよ」
「違う俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
「なんであんなことしてるのかなんて、私が聞きたいわよ」
電柱ファントムが取る不可解な行動には、この場の全員が疑問と興味を抱いていた。
「なんだか、宮沢賢治の童話みたいですね。あのファントムさん達、別に悪いことをしているわけでもないようですし、無理に追い払わなくても……」
「あのファントムのせいで、この辺に電波障害が起きてるらしいのよ」
ファントムを退治することを残念がる玲奈に、舞が事情を説明した。
そこへ荒沢が言葉をかける。
「まぁ、電柱ならへし折れば大人しくなるだろ。川神、行ってこい」
「なに? 私一人にやらせる気?」
「これはお前のチームの仕事だろ。なに、危なくなったら手伝ってやるさ」
「ま、そうね。あと晴彦!」
「ひゃい……?」
「アンタは封印の用意を……って大丈夫なの?」
それまで会話に絡んでこなかった晴彦に目を向けると、ぐったりとした様子で地面にへたり込んでいた。
その頭に乗ったルルが、ペしペしと額を叩いている。
この山頂までの登山で、体力を消耗しきったらしい。
「どんだけ体力ないのよ、百メートルくらいしかないわよこの山」
「すいませぇん……」
「まったく……」
晴彦を見てため息をつく舞に、荒沢が口を開いた。
「弱らせたら、封印は俺がしてやるよ」
「仕方ないわね。ええ、頼むわ」
荒沢は身体強化だけでなく、ファントムを封印する特異能力も持っているのだ。
「じゃ、行ってくるわ」
舞は立ち上がると、気を練るためにパロールを唱え始めた。
「五行万象を発生し、緊にして琴なる金の木を禁ず」
「おぉ……」
「わぁ……」
パロールを唱え始めた舞の姿に、荒沢と玲奈が驚嘆の声をあげた。
舞が詠唱とともに、自らの手でその豊満な乳房をもみしだき始めたからだ。
この動作は、金の気を象徴する肺に意識を集中するためのものなのだが、その結果生じる光景は、凄まじい色気を含んだものだった。
「肺の金気で拳を満たさん。勤にして禽なる金気は満つ! いざや! 破邪顕正の戦に臨もうぞ!」
パロールの詠唱を終え、中国拳法の構えを取りながら電柱ファントム達の前に飛び出る舞。
その凛々しい姿が放つ圧力に、電柱ファントム達は一瞬で臨戦態勢に移った。
電柱ファントムの上端から垂れる黒い紐が伸張し、鞭のようにしなりながら、次々と舞に襲いかかる。
その攻撃を、舞は軽やかなステップで回避した。
獲物を逃した鞭が地面を打つ。
その瞬間、バチバチと火花が派手に弾け飛んだ。
「っ!? 電撃!?」
舞はバックステップを踏んで電柱ファントム達から距離をとった。
ただの物理的な打撃を相手にするのと、電撃を帯びた攻撃の相手をするのでは、心理的な圧迫感に大きな差がある。
額に汗を浮かべる舞。
そこに、大きな声が響いた。
「舞お姉さま、一端下がってください!」
玲奈の声だった。
「一条くんが、何か伝えたいことがあるそうです」
「わかったわ!」
舞は一端、ファントムたちの前から退いた。
6
「あのファントムはきっと、付喪神です」
ファントム達がリンボーダンスを踊っている広場の外で、晴彦は地面に座ったまま、他の面々に向かって言った。
「一条くん、付喪神ってなんですか?」
「人間に捨てられた物が、恨みを持って変化した妖怪だよ」
首をかしげる玲奈に、晴彦が答える。
「たぶん、あのファントムの元になった電柱は、この山で切られた木から作られたものだと思います。この辺りには、切り倒された木を供養するために踊りを踊る風習が昔はありましたから。ファントム達はそれを自分でやってるんだと思います」
「へぇ……一条、よくそんなこと知ってるな」
「一応、学校にあった郷土史関係の本には全部目を通してますから」
「すっげえな、おい」
晴彦の知識に感心する荒沢。
そこに舞が口をはさんだ。
「オタクなだけよ。戦いの役に立たない残念知識ばっかなんだから」
「そうなのか?」
「そうなんですか?」
がっかりした視線を向けてくる荒沢と玲奈に、晴彦は声をあげた。
「そんなことありません! ファントムの正体がわかったんだから、対策も立てられます!」
そう言って立ち上がった晴彦は、ファントム達がいる広場に向かって行く。
「あ、ちょっと待ちなさい! 危ないわよ! アンタは一切バトルできないんだから」
晴彦を慌てて追いかける舞。
「荒沢さん、一条くんと舞お姉さまって、すごく仲がいいんですね」
「ん? まぁ、そうだな。キツイ性格の川神と組めるのは一条くらいだし、それがわかってるから川神も一条を大事にしてるな」
「大事に、ですか?」
荒沢の言葉に、玲奈が疑問を含んだ声で返した。
その視線は、先を行く舞と晴彦を見ていた。
舞が晴彦にガッチリとヘッドロックをかけていた。よほど痛いのか、晴彦はジタバタともがいている。
そんな二人に苦笑しながら、荒沢と玲奈も広場に向かった。
6
「本当にこんなのでファントムを封印できるのかしら……?」
舞は、晴彦が立てた対策に対して、そうぼやいた。
晴彦は、リンボーダンスに参加して電柱ファントム達を満足させようと言い出したのだ。
舞はファントム退治に関して、このような方法論を聞いたことがなかった。
だがしかし、戦おうという気配を見せずに近付くと、電柱ファントム達はダンスに参加しろとばかりに、バー代わりの腕を複数人が同時に参加できるよう伸ばし、高さも人間に合わせたものに変えたのだ。
とりあえずやってみる価値はあるだろう。
「これ、蛮はおっきいから難しそうだね」
「大丈夫ですよ、背骨の柔らかさには自信があります。ブリッジはレスリングの基本ですからね」
ルルと荒沢がそんなやりとりをした時、くぐり手役の電柱ファントムが動いた。
バー役の間に向かうと、その長い体をぐにゃりと曲げて見事にくぐり抜けた。
そして続けとばかりに体を揺する。
「じゃ、いっちょやってみっか」
荒沢のその言葉で、四人は動き出した。
バーの前に横並びになる。
「気をつけて、触ったら感電するわよ」
舞がそう注意を促したのを合図に、バーの下をくぐる。
晴彦と玲奈はどうにか、荒沢と舞は余裕を持ってくぐり抜けた。
「よし、これで! ってええ!?」
ファントムが大人しくなるか――そう思って振り向いた晴彦が、驚きの声をあげた。
電柱ファントムが、バーの位置を下げたのだ。だいたい、晴彦の腰より少し低いぐらいの高さだろうか。
「第二ラウンド〜!」
頭上から明るい声が響いた。見物しているルルの声だ。
それと同時に、くぐり手役の電柱ファントムがリンボーダンスを再開し、やはり見事にバーの下をくぐり抜けた。
「い、行ってみましょう!」
玲奈が緊張した声をあげた。
低くなったバーに挑戦する四人。
しかし――
「きゃっ!」
「玲奈ちゃん失格〜!」
玲奈がバランスを崩して後ろに倒れてしまい、
「玲奈ちゃん! 俺が君の分まであばばばばば!?」
「晴彦も失格〜!」
晴彦もバーに触れて感電してしまった。
「よし!」
「いよっと!」
荒沢と舞の二人は、やはり危なげなく低くなったバーをクリアした。
それと同時に、またバーが低くなる。
一般的な成人男性の膝くらいの高さだろうか。
「やっぱり続くか」
「これ、結構難しそうね」
やや厳しい表情で言葉を交わす二人をよそに、くぐり手役の電柱ファントムが進み始めた。
体を急角度に屈曲させてバーの下をくぐり抜けたようとする電柱ファントム。
だが、その角度は限界を超えたものだったらしく、途中でバキバキと音を立てて倒れてしまった。
「舞先輩、蛮先輩! きっとこれを成功すればクリアですよ!」
晴彦が声を張り上げた。
バーに触れて電撃を浴びた割に元気だ。どこかを火傷している様子もない。
ファントムが作り出した電流は、通常の物理法則に則ったものではないらしい。
「行くぞ、川神」
「ええ」
バーに挑戦する荒沢と舞。
その低さに合わせて膝立ちになり、股を大きく広げて前進する。
舞の方が、荒沢よりずっと先を行っている。
二人の体の柔軟性は互角といったところなのだが、体が大きい分、荒沢の方が慎重に進まなくてはいけないのだ。
常人の倍どころではないサイズの太ももを持つ荒沢は、ほんの少し体の動かし方を間違えただけでバーに触れてしまう状況だった。
「あれ見てぇ!」
ルルが突然、何かに気付いたように舞の方を指差しながら叫んだ。
舞に視線を向ける晴彦と玲奈。
ルルの言わんとすることはすぐにわかった。
「ああっ! 舞先輩の巨乳が!」
「引っかかってしまいます!」
舞の高校生離れした胸の膨らみが、仇となっていた。
「あれは玲奈ちゃんの方が有利だぁー!」
「それは玲奈ちゃんに失礼だろ!」
「どういう意味ですかっ!」
茶番を繰り広げる晴彦達をよそに、舞が新たな動きを見せた。
仰向けのまま、体を上下に揺らし始めたのだ。
「舞先輩、何を?」
不可解な行動を起こした舞に、晴彦は怪訝な表情を浮かべる。
だが、すぐに舞の意図に気付いた。
「そうか! 胸を弾ませて、一番低くなる瞬間を狙ってバーをくぐるつもりなんだ!」
晴彦の言葉通り、舞の大きく柔らかな胸は、体の上下に合わせて、潰れては戻るという変形を繰り返している。
苦学生である舞が、胸の形を整える効果などほとんど無い、定価九百八十円のおばさんブラを愛用しているからこそできる芸当だった。
うまくタイミングを合わせれば、確かにバーをくぐれそうな勢いがあった。
「次はあっちが!」
また、ルルが何かに気付いたように声をあげた。今度は荒沢の方を指差している。
目を向けると、やはり荒沢にも危機が迫っていた。
「ああっ! 蛮先輩の蛮先輩が!」
「引っかかってしまいます!」
ちょうどバーの真下に位置している荒沢の股間が、むくむくと、目に見えて膨らみ続けていた。
すぐ近くで躍動する舞の巨乳を見せつけられたため、一時的に血管が膨張し、血液の流入量が増加しているのだ。
勃起と呼ばれる現象である。
「あれは晴彦の方が有利だぁー!」
「それは一条くんに失礼です!」
「どういう意味さっ!」
またも茶番を繰り広げる晴彦達をよそに、荒沢は本気で焦った声をあげていた。
「よせ! やめろ!? 俺に従え!」
だが、荒沢の男性器は、荒沢の意思を無視してモリモリとその体積を増してゆく。
そして――
「うぅぅぅぅぅっ!?」
「よっしゃあ!」
荒沢の男性器がスラックス越しにバーに触れて感電したのと同時に、舞は巨乳が潰れるタイミングで前進し、最後のチャレンジをクリアしたのだった。
7
「大丈夫だよ蛮! 火傷とかしてないよ!」
「本当ですかルルさん!? 嘘じゃないですよね!?」
「あはは、私はいい子だから嘘なんてつかないよ?」
仰向けに倒れた状態で、精神的ダメージから両手で顔を覆って震えていた荒沢は、スラックスのジッパーを開けて中を確認したルルの言葉に、ほっと胸をなで下ろした。
起き上がると、三体の電柱ファントムは静かに佇んでおり、荒沢以外の三人はその前で何か話をしている。
立ち上がった荒沢が近付くと、晴彦が声をかけてきた。
「あ、蛮先輩、大丈夫でしたか?」
「ああ……こいつらはどうなったんだ?」
「恨みが晴れたらしくて、封印されたがってるみたいです」
「そうか……俺が封印する」
荒沢はそう言うと、ファントムたちの前に立った。
つい先ほど与えられた恐怖と屈辱のためか、目が据わっている。
「Dieno-loading.Corpse lily.」
荒沢は封印能力を発動させるためのパロールを唱えると、電柱ファントムの一体をつかみ、顔をよせた。
そして、ちゅう、と口づけをした。
「へっ!?」
その奇妙な光景に、玲奈が驚きの声をあげた。
同時に、口づけを受けたファントムが光の粒子に分解される。
肉体の物理的強化、そして口づけによる封印――この二つが荒沢の持つ特異能力である。
「えと、荒沢さんは、キスでファントムを封印できるんですか?」
思わず、といった様子で玲奈が荒沢に尋ねた。
その問いに対して、振り返った荒沢は首を横に振る。
「キスじゃない、リップロックだ」
「はい?」
「関節技だ。別名、ときめきメモリアル」
「え? 唇に関節なんて……」
「関節技なんだ」
荒沢も自分の能力に思うところが無いわけではないらしく、微妙に恥ずかしそうな顔で主張を通した。
そして、残る電柱ファントムに再び視線を向ける。
すると、ずざっ! と音を立てて、電柱ファントム達は後退した。
「こいつら、電柱の分際で俺にケチをつける気か……」
「あの、ファントムさん達が嫌がってるなら、私がやります」
「……そうだな。頼む、和泉」
「はい」
荒沢に変わって前に出る玲奈。
ふう、と息を吐いてから、大きく口を開ける。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……
空気が渦巻く音。
それに合わせて、電柱ファントムがボロボロと崩れながら、玲奈の口に吸い込まれていく。
「ふぅ、美味しかったですわ」
二体のファントムを完全に胃の中に収めた玲奈は、ペロリと唇を舐めながら満足げに呟いた。
そこに、横合いから飛びつくようにして舞が抱きついた。
「ま、舞お姉さま!?」
「晴彦から聞いてはいたけど、玲奈ちゃん本当にファントムを食べちゃうのね! すごいわ! もう絶対チームに入ってもらわなきゃ」
そう言って、顔を真っ赤にしている玲奈の髪を、くしゃくしゃと撫で回す舞。
その言葉に、玲奈は満面の笑みで応えた。
「はい! 舞お姉さまがそう仰るなら!」
「やった! これで人材不足は解消ね! 戦うのは私、封印するのは玲奈ちゃん。あれ……」
舞が、何かに気付いたように、晴彦の顔をまっすぐ見た。
「アンタ、いらなくない?」
「ひ、酷いですよ舞先輩!?」
あんまりと言えばあんまりな舞の言葉に、晴彦はその瞳に涙を浮かべた。
だが、舞はそんな晴彦を気にした風もなく荒沢に声をかける。
「荒沢、晴彦いる? 缶ジュース二本と交換したげるけど」
「いや、いらね。俺、戦闘も封印もできるし」
「蛮先輩まで!?」
連続して戦力外通告を突きつけられ、その場に崩れる晴彦。
その頭を、先ほど玲奈にしたように、舞がくしゃくしゃと撫でる。
「冗談よ、冗談。さ、帰るわよ! 報酬が私を待っている!」
そう言って、軽い足取りで歩き始める舞。
ずんずんと進む舞の背中を追う晴彦と玲奈。
三人の姿を眺めながら、荒沢は微笑していた。
「蛮、なに笑ってるの?」
「ええ、ルルさん。川神も、噛み合う相手がいれば結構いいリーダーなんだなって思って」
「そりゃそうだよ。舞っちは強い子だもん」
「強い子……そうですね」
荒沢はルルの言葉に頷くと、微笑を湛えたまま三人の後を追って歩き始めた。
デ! ハ! ポン!(絶頂)
今回から地の文におけるオリ主の呼称を蛮から荒沢に変更しました。
前回投稿分も修正してます。
蛮・舞の二文字が結構似た形してて読みにくいと思ったので。