コーヒーはコンビニ3軒、全部売り切れ、神様なんてものがいるのなら明らかにレンを苛めているとしか思えない不幸(上条さんならば叫んでいるだろう)によって結果寮からかなり離れた場所のコンビニまで足を運ぶ羽目になった。
そうしてやっと念願にコーヒーを手に入れてやっと一口、口に含み
(あ、うん、普通だわぁ…………)
なんでこんなに意地になったのだろう、と少し苦いコーヒーを飲みながら帰路についた。
そんな道中だった。いきなり男の声が聞こえたのは。普通の人なら気にせず通り過ぎるのだろうけど、レンはそこで「面倒事だな…………」呟きながらその場まで歩いていくのだ。
(あれは……佐天か?それに、白井、結構やばめの状況か)
壁に隠れて現場を覗く。そこには立ちすくむ佐天と倒れている白井、そしてナイフを持って白井に近付く大男がいた。
(なら、あいつは
敵の能力は未知、白井は今にも刺されそう、助けにいっても白井を人質にされる可能性あり(相手の能力によっては)。どう見ても絶望的な状況だ。
(…………ま、不意打ちでどうにかなるか)
レンはさっき飲みきったコーヒーの缶を片手で遊びながら、タイミングを見計らう。男が動いている間は駄目だ。別に投げてもいいのだが、缶によって気絶するなんて惨めすぎる。という建前の元、レンは友人の後輩に迫る男をその手で殴ろうと決めていた。
白井に迫る男
(まだだ……)
倒れる白井を見下げて男は止める。
(…………)
そして持っていたナイフを上に上げた。
(今だ!)
その瞬間をレンは逃さなかった(逃していたら白井が死んでいたので当たり前だが)。持っていた缶をナイフめがけて投げた。軌道はドンピシャ、ナイフは弾かれて男は手を押さえた。
「おいおい、女子中学生を苛める高校生はさすがにやばいだろ」
「誰だ、てめえ……」
「誰、か…………うぅ~ん、強いて言うならそいつの先輩の友人かな」
それはほとんど赤の他人と変わりない。そんな冗談を余裕ととった男は笑う。
「カカカ、どうやら随分と勝つ自信があるようだなぁ、
「ゼロ、ですが?」
レンは先ほど缶を投げて空いていた手の指で0の形を作って答える。
「はっ、ただ勇敢と無謀の違いも分からねえばか野郎か、カカカ」
男はレンに向かって走り出す。それを戦闘開始の合図ととったレンは拳を構える。
「はっ!」
レンは走ってきた男のこめかみ目掛けて拳を放つ。タイミングはぴったりだった。しかし拳は男をすり抜けた。
「なっ!?」
「がら空きだぜ!」
いつの間にか目の前にいた男はレンの脇腹に蹴りを入れた。なんとか反応し、腕で防いだレンはバックステップも加えてダメージを緩和した。
(
レンは飛んで再度殴り掛かる。しかしこれも先ほどと同じように空振り、男をすり抜けた。そしてすぐに男が足で風を切る音がする。地面に足が着いたレンは上体を素早く逸らしてそれを避けた。
(やっぱり、認識をずらされている。方法は分からないが、それなら)
レン数回バックステップをして男を距離をとる。そして構えを崩さず、すっと目を閉じた。
「なんの真似だ?」
「心眼だよ、心眼。目に見えないものは心で見る、知らないか?」
もちろん嘘だ。そんなこと出来る筈がない。レンに出来ること、それは当たり前、だが、普通の人間なら到底出来ないことだ。
耳に聞えてくるのは男が地面を蹴る音、それに何かを言っている白井と佐天の声。やがて男の足音は消えて風を切る音が代わりに聞こえた。
それに合わせてレンも動き出す。しかし、そのスピード男より圧倒的に早い。男の足がレンの顔に届く前にレンの拳が男をあごを捉えた。
「がふっ!」
勢いが強すぎたのか、男はその場で縦に一周して地面に倒れた。
「大丈夫か、白井」
「ええ、危ないところを助けて頂いてありがとうございました。ですが」
「一般人が危険な真似をするな、だろ?分かってるよ、今回は緊急事態だ」
レンはそう言いながら白井とともに佐天と先ほど殴られていた男の元へ近づく。佐天は安心している様子だったが、男は何かを恐れるような表情だ。
「それで、佐天さん。どうしてこんなところに」
「この人とあの人たちが揉めているのを見て、それで…………」
「首を突っ込んだ、か。無謀なことするな、佐天は」
相手は幻想御手を使用して強度が上がっている上に全員男、それに
「白神さん?」
別に咎めた訳ではなかったレンだったが、白井はレンを睨んで名前を呼んだ。レンはわざとらしく目を逸らして話題転換すようと視線を泳がせた。
「あ、あはは……それでそっちのはあいつらから幻想御手を買おうとしたんだな」
男は話題が自分に向いてビクッと体を震わせる。
「は、はい…………」
「なけなしのお金を払ってでも欲しかったのか、能力?」
レンは頭を掻きながら、呆れ声で訊く。
今回の被害者である男は無能力者だ。学園都市内の一般常識(学園都市外と比べればかなりのズレがあるだろう)からすればレンの質問の答えはもちろん、イエスだ。例え、それで生活費が消えようと絶対に手に入れたいだろう。
「…………はい。僕みたいな努力しても無能力者の才能なしじゃあ、もうにあれ頼るしか方法はなくて…………」
その言葉に佐天は同意していた。決して越えられない才能の壁、努力してもどうにもならないこと、それを簡単に破壊してくれる奇跡のアイテムがあるなら喉から手が出るほど欲しいと思うだろう。だから幻想御手が手の中にあるのだ。
また白井はそれを聞いて呆れていた。それは努力の放棄だから。しかし
ならレンは?あまり様子は変わっていないものの、男への怒りがあった。
「なぁ、お前の言う努力ってなんだ?」
レンの声はどこか冷静だ。決して怒りに任せて怒鳴り散らす訳ではなく、冷めた声で男に訊く。レンの沸点は高い。それなりに怒りっぽくないと自負している。だが、沸点を超えるとその温度は急低下、零度を下回ると錯覚するほどの温度となる。現に白井は少し肌寒くなっていた。
(なんですの?急に寒気が…………)
もちろん白井はその原因がレンであることに気がついていない。ここに白神検定2級の学がいればまだ感づいていたかもしれないが、付き合いの短い白井や佐天ではそれはない。
「お前はどうせ学校以外では勉強してないだろ?教えてくれよ、お前は自分でどれだけ努力したか」
周りの様子など気にせずレンは続ける。
「たぶん、してないんだろうな。学校の課題だけをこなすだけをお前は努力と呼んでるんだろ?」
「ち、違う!僕だって頑張って…………」
「頑張って、なんだ?」
男の口はそこで止まる。その無言は既に男が学校での勉強以外努力していないことの証明だ。
「本当に能力が欲しいなら、なんで必死にならない?何故、全てを投げ捨ててでも能力を手に入れようと思えない?嘆くだけで、恨むだけで、羨むだけで、行動に起こさない、努力を放棄して、後ろ向きな理由ばかり探して前を見ない、そんな奴が能力を得られる訳ないだろっ!」
佐天と白井は驚いていた。レンと会った日数なんて数えられるくらいしかないにしろ、レンがこうして怒り叫ぶような人間ではないと思っていたからだ。
確かにその印象は合っている。実際、レは他人に説教するような人間ではない。しかしそれはあくまでも自分のことだけだ。、今回は訳が違う。だって男の発言はレンの友人を否定するようなものだから。
「君だって無能力者じゃないか!」
「ああ、そうだよ。でもな、俺は一回も、一瞬も、一秒たりとも能力が欲しいと思ったことがないよ」
「なら君にそんなこと言う資格なんてないだろ!」
「そうだな。でも俺は知ってるんだよ。中学生時代の時間をほとんど使って努力して、努力して、大能力者になった男を」
金田学、レンが学園都市に来て初めて友達になった男、無能力者から大能力者になった男、たった一人の為に苦悩に耐えて努力した男。
レンはそんな学を友達に持てて、光栄に思っていた。だから男の言葉は許せない。学を、学の努力を否定して、彼は元々才能があっただけだ、と言っているのと同じだから。
「お前ら無能力者はまだ何もやっていない!才能がないと、努力しても無駄だと、勝手に決め込んで、出来ないことを正当化してるだけだろうが!」
そう言い切って肩で息をしながらレンは回れ右して歩き始めた。男どころか、白井も佐天も何も言えなくなっていた。レンが叫んだことに驚いているのもあるが、それだけではない。
佐天も男も似たようなことを思っていた。それならなんであんたは無能力者なんだと、そんなことは綺麗事で努力しても無駄なものは無駄だと。
残念なことにレンの言葉は2人には届かない。それは能力に関しての考え方も、見方も、経験も全然違うからで彼らの無能力とレンの無能力は全くもって意味が違うからだった。
白神レンの貴重な説教シーン、ただ上条さんのようにはいきませんでした。