朝食というのは非常に大事なものである。その日1日の体調などを決める1つの要因でもある。しかし、そうと分かっていても朝起きるのは少し面倒、どうしてもというときは抜いちゃうときもある。その所為でその日の授業はやる気が出ないなんてことは学生あるあるだ。
白神レンも学生一員であるのだが、早起きして朝ご飯は欠かさないようにしている。毎朝、ご飯にお味噌汁加えておかず、もしくはパンに牛乳、トッピングはお好みで食べていた。
「れん~まだ~?」
そう、いたのだ、昨日までは。
昨日、上条当麻が死んだ日。
現在彼は入院中、それはつまりどうしたことか上条の部屋に住みつき始めた
そんなこんなでレンはわざわざ禁書目録を自室に一時的にだが住まわせ、こうして朝ご飯を作っているのだ。
(禁書目録の奴……一体どこにこんな量が入るんだ?)
実はレンが今作っている料理にはレンの分は含まれない。もう既にレンは朝食を終えたのだ。今作っているのは禁書目録の分だけ、なのに作っているのはどう見ても3人分の料理を超えている。
「れん~まだ~!?」
「できたよ」
たまご何個分か聞きたくなるほどのスクランブルエッグをお皿の上に載せてレンはリビングの机上の上に置いた。
「むぅ、適当かも」
「文句を言うなら自分で作れ」
レンは1つのファイルをショルダーバッグに詰めながら忘れ物がないかをチェック、その鞄を持って立ち上がった。
「どこか行くの?」
「当麻の見舞いだ。昼は帰って作るから待っといてくれ」
「ふぁ~い」
禁書目録はスクランブルエッグを食べながら返事をした。食べながら話すなんてどう考えても行儀が悪い。シスターのことなんてあまり知らないレンだけど、それはシスターのやってはいけないことだとは分かる。
レンは禁書目録エセシスター説を立て、部屋を後にした。
部屋を出たレンがまず向かったのは病院ではなく、上条が記憶を失った場所、“元”月詠のアパート前だった。
元、と言うのも月詠は現在別のアパートで暮らしているのだ。何でそうなったのかは、言わずもがな。
一時なら何とかなる、と月詠は言っていた。それが金銭面的なことなのか、それ以外のことなのかはレンには分からないが、月詠にとってこのアパートは思い入れみたいなものがあるらしく、戻ってきたいらしい。
「学園都市の技術でどうにかならないもんなのか……」
建築物を一瞬で建てる技術なんか学園都市ならありそうなものだが、なんとなくそれが通用するのは鉄筋コンクリート造や鋼構造で、もしかしたら木造は対象外になってしまうのかもしれない。
そんなどうでもいいことを思いつつ、レンは月詠に何度目か分からない謝罪を心の中でした後、病院へ足を向けた。
病院についたレンは、受付を済ませ、廊下を歩いていた。最後に上条当麻に会った場所だ。そう考えるとセンチメンタルな気分になってしまう。なので、考えず、上条の病室までぼぉと歩いた。
そして、病室に着くと間髪入れずドアを開けた。普通ここでノックするのが常識なのだが、非常識な存在であるレンには関係ない。特に、上条相手では。
「来たぞぉ」
「どちら様でしょうか!?」
上条の反応は、いきなりノックもなく入ってきた男に対しての反応としてはとても正しいものなのだが、今この場では不正解だった。
自分の病室に来るということは、その人物が知り合いである可能性が高い。というか、それ以外だったら怖い。なら、記憶を失っている上条は誰がどう入ってこようとまず、平静を装わなければいけない。
上条はそんなこともできない馬鹿なのか、とレンは思い、ベッドの横の丸椅子に腰かけた。もちろん、上条が記憶喪失でそんな余裕ないことを込みで思っている。
「さて、上条ちゃん、記憶喪失で可哀想な上条ちゃんよ。隠す気ないだろ?」
「え……あ! じょ、冗談に決まってるだろ? ほら、軽いジョークだよ、上条さんジョーク……てへっ」
全くもって可愛くないし、むしろ殴りたくなるくらいなのだが、レンはそれを抑え、話を進める。
「そうか……なら、俺の名前もわかるよな?」
「うぅ……! えっとな、ヒントないか?」
ヒントを聞いている時点で、語るるに落ちているようにも思えるのだが、そこに上条ジョークはなく、本気のようだ。
「そうだな……苗字は山地の名前、下は花の名前にある」
「お、それならいけそうだな」
案外、そうでもない。今のヒントでどれだけの可能性があるかレン自身把握していない。
もしかしたら、国見カリフォルニア・ポピーなんて名前かも知れない。ないとは言い切れない。
上条がどれだけ山地と花の名前を知っているか、レンは知らないが、上条は持っている知識を総動員している様子。腕を組みながら、うんうんと唸っている。
「山地……白神か……?」
(おぉ、さすが世界遺産なだけある)
元々名が知れていることもあるが、不幸少年には珍しい運の良さである。そしてやっぱり失ったのはエピソード記憶だけらしい。
やがて、上条は決心をしたのか、レンを指さした。
「白神……椿! お前、椿だろ?」
「よし。それじゃあ、本題に入るか」
不正解の答えを聞くや否や、レンはくい気味に言って、ショルダーバッグからファイルを取り出した。そのブリザード並みの対応に、さすがの上条も間違ったことに気づき、ゆっくりと指を下げた。
それを特に気にすることなく、レンは出したファイルを広げる。そこには、顔写真と名前、その人物の特徴が大雑把にではあるが記されていた。
上条当麻も馬鹿ではない。それを見て、何であるか理解する。
「これ、記憶喪失の俺の為に作ったのか……?」
「まぁ、お前がいつの間にか救った誰かさんまではカバーしきれないが、大抵の人物は押さえているつもりだ」
記憶喪失になり、知り合いの名前も顔も忘れてしまったにも関わらず、それを隠そうとする上条、レンはその手伝いをする為に名簿を作ったのだ。
上条はレンからファイルを受け取り、目を通す。
分かってはいたが、どの人物にも心当たりがない。そう思いながら捲っていた上条だったが、あるページで動きが止まった。
禁書目録。
偽名じゃねえか、と言ったらしく、不思議な名前と言ったその名前の少女の写真は、箸を握り、不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「この子は……?」
「俺も分からん。最近出会ったばかりだし、色んな面倒事を持ってきた。お前の記憶喪失の原因は禁書目録であるとも言えなくもない……のかな」
「そうか」
敢えて、原因だと言ったが、上条は特に気にすることなく、ファイルを捲り始めた。
(記憶、失ってんだよな)
何か怪しくなってきた。そうレンは思うが、わざわざこんなことをする必要がないことを踏まえると失っているのだろう。
なら、どんだけ禁書目録のこと好きなんだよ。まさに、愛の力というやつなのだろうか。
レンは飽きれながらも笑みを浮かべた。
「ん? どうした?」
「いや。それじゃあ、俺は帰るとするよ。退院するまでにそれ、全部覚えておけよ」
「え……!?」
全部覚えるには人数が多いようにも思えるが、それでも不可能とも言い切れない人数に上条は無理だと言いそうになるが、レンが自分の為にここまでしてくれたことを考え。
「努力する……」
あぁ、全員は無理だなとレンは予想するのだった。
ちなみに、レン自身のことは、行動理由を他人に任せる優柔不断な野郎と書いてあった。
上条補助を決めたレンのお話。実はこの道すがら誰かに出会うなんてことも考えていたのですが、いつまでも上条までたどり着かなかったので却下しました。
次は、やっとヒロイン登場? あと久々のキャラも出るかも。