とある国で、
何故こうなってしまったのか?
そこで何があったのか?
誰に責任があるのか?
それは誰にも、IS開発者であり、天災の異名を持つ今世紀最大の天才発明家である篠ノ之束にさえ分からなかった。
しかし、一つだけ確かな事がある。
……過去に起こってしまった事はもう、誰にも止める事は出来ない。
残酷な事に、時とは流転するものなのだ。淀む事も、止まる事も、ましてや戻る事は決してないのだ、残酷な事に……
織斑一夏がISを起動させて以来、全ての男が
彼等は虐げられてきた。
IS発表普及、いや『白騎士事件』以来彼等がそれまで手にしていた権力と尊厳は地に堕ちた。
世界は女尊男卑という名の
しかし織斑一夏という希望が生まれた。なんと彼は男の身でありながら、ISを起動させたのだ。
全世界の男達が熱狂した。
自分もISを起動出来るかもしれない! 男が虐げられない世界が来るかもしれない! 彼等は夢を、理想を見た。
仮にそんな彼等の志が、今回の事件を引き起こしたとしまったのだとして、誰が責めることが出来ようか?
いや、誰にも出来はしないだろう。
彼等だって、こんな結末を望んでいた訳ではないのだ。
しかし、
それは或いは、コインの裏と表。近くにありながらも、決して交わる事のない存在。
例えるなら、サルと人。サルと人のDNA構造は近い。例えるならそれくらい近い感じ。
『ゴリラがISを起動させた』
第壱話 ゴンザレス
「今日から転校生を紹介する!」
元
クラスメイト達がその吉報に沸き立つ中、いつもの力強い姉の声に、一夏は僅かな違和感を感じた。
他の人間には──この中では一夏の次に千冬と過ごした時間が長い、ラウラでさえ分からないだろうが──姉を尊敬し、常に近くで見続けてきた一夏には分かった。
姉が、
「それも、オス……いや、男だ」
マズイ!
一夏がそう思ったのも束の間、次の瞬間には部屋が黄色い歓声に包まれた。
『イケメンかな?』『優しい人がいいな』『織斑君との濃密な絡みktkr!』そんな声がクラス中から聞こえてくる。
過去男の子であるシャルロットが転校してきた時も──結局は女の子だったが──こんな感じだったな、と一夏は懐かしく思った。
いつもならそんな声は即座に辞めさせる千冬だが、今日ばかりは好きにさせてやった。
そう、何故なら──
「入ってこい」
千冬の言葉に、クラスメイト達は沈黙する。
誰もがドアを凝視した。
『ガラガラガラガラ』──普段自分が教室に入る時に毎日聞いているドアを開ける音が、何か特別な音に聞こえる。新たなる仲間への期待がそうさせるのだろう。
そして、いよいよもって“彼”が入ってきた。
「ゴリラのゴンザレス君17歳だ。みんな、よろしくしてやってくれ」
「「「「・・・」」」」
誰も、何も話せなかった。
何故なら、ゴリラだからだ。
そう、転校生がゴリラだからだ。
何度見てもゴリラ。
目を擦ったり、頬をつねった後に見ても、やはりゴリラ。
『物凄くゴリラに似てる人間なのではなかろうか?』──そんな一縷の希望を胸に、専用機持ちの生徒達がISのハイパーセンサーで中身を見てみるも、やはり結果はゴリラ。
ゴリラ度100%。それ以上でもそれ以下でもなく、純粋にゴリラ。ISという世界最高の技術が、彼をゴリラだと示している。
それを否定できる材料は、残念ながら無い。
「……人科、ゴリラ属、ニシローランドゴリラとお見受けしましたが、何故ニシローランドゴリラがISに?」
セシリアが当然の疑問を投げかけた。
普段の言動から忘れそうになるが、セシリアの家オルコット家は正真正銘の貴族家である。その財産も豊富であり、また彼女自身も才能に溢れている。
深窓の令嬢であり、専用機を持たされた国家代表候補生。正しくエリート。つまり、ゴリラに対する知識も豊富という事だ。
「そうだよ!だってニシローランドゴリラ……学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラはカメルーンとアンゴラ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、赤道ギニア、ガボンにしか生息してない特定動物なんだよ?」
シャルロットがセシリアに続いた。
絶縁に近い状態が続いていたとはいえ、シャルロットの父親は世界シェア3位を誇るデュノア社の社長だ。愛人との間に生まれたとはいえ、シャルロットもその血筋を受け継いでいる。つまり、ゴリラに詳しいという事だ。
「確かに、ニシローランドゴリラは身長180cm体重200kgの巨漢だ。握力も500kgほどある。暴れ出したら、我々人間はひとたまりもないだろう」
ラウラは『黒兎隊』の隊長を務めていた、元軍人だ。
更に、かの
そんなラウラの言葉に、クラスメイト全員が同意した。
「何でみんなそんなこと言うんだよ!」
一夏が叫んだ。
あまりの大声に、ゴンザレスがビクリと体を震わせた。ゴリラは繊細なのだ。
「みんな山田先生の授業で教わった事を忘れたのかよ! ニシローランドゴリラは温和で争いを好まない奴だって教わっただろ! 見てみろよ、ゴンザレスの目を!」
ゴンザレスの目を見たクラスメイト達は気づく。ゴンザレスの目がどれだけ純粋か、という事に。
「こんな目をした奴が、誰かを傷つける訳ねえだろ!」
「一夏……」
一夏の言葉に、箒は涙した。
ゴンザレスを擁護する一夏の姿が、幼少期、孤独でいじめられていた自分をたった一人で助けてくれた昔の一夏の姿が被って見えたからだ。
加えて、箒は剣道をしてる。その実力は全国屈指のレベルだ。ゴリラの気持ちはよく分かるのだろう。
「決まりだな。ゴンザレスはもう、このクラスの一員だ」
そう千冬が締めた。
もう誰も、反論する事はなかった。
千冬は過去、一夏を助ける為に、応援してくれた数々の人間を裏切り、モンドグロッソの決勝戦を辞退した事がある。故に、ゴリラに愛着があるのだろう。
こうして、ゴンザレスのIS学園での生活が始まったのだ。
続かない