「童帝君とゼンコちゃんとのほのぼのな一日」です。
ぬいぐるみ、アクセサリ、ハンカチ、食器、雑貨。
……たぶんどれをあげてもあの人は嬉しそうに笑って、受け取ってくれると思う。
社交辞令とか礼儀とかじゃなくて、本心から「私の為に時間を割いて選んでくれたのが嬉しい」と恥ずかしげもなく言ってのけそうな人なので、あまりに自分の好みに離れていたり、どうやって使うんだこれ? 的なものを贈られて困りはしてもやっぱり本心から喜ぶんだろうなぁ。
それもそれで嬉しいけど、でもどうせ贈るのなら気持ちだけじゃなくて物品そのものでも喜んでもらいたいし、出来れば毎日使ってもらったり、目につくもので送り主である僕の事を思い出してほしい。
でも、高級品は喜ぶ以前に確実に遠慮が先に来る人だ。
いくら僕が10歳とはいえ、S級ヒーローやっててなおかつ塾講師してるのを知ってるんだから、遠慮なんかいらないのにあの人は、おねえさんは絶対に定価が万単位のプレゼントを贈ったら困惑する。
だから、予算は5千円くらいが上限かな?
……何か余計に難易度上がったな。
あーぁ、もう一週間しかないのにどうしよう。何を贈ればいいのかな。
エヒメおねえさんにホワイトデーのお返し、どうしよう。
* * *
ホワイトデーなんだから、無難にお菓子は却下。
おねえさんはわざわざ協会経由で僕だけじゃなくてほかのS級の皆にもチョコレートを贈ってくれたし、あの性格なら絶対に僕ら以外にも配ってるはず。
で、おねえさんからバレンタインに明らか義理だとわかってても、お返しを返さない輩は絶対に少ない。
だからこそ、セオリー、無難、ありきたりなお菓子は却下。
ただでさえその他大勢に埋もれてしまいそうなのに、似たようなお菓子ばっかり渡されたら、それこそ「気持ちは嬉しい」だ。ただでさえ女性に体重の話はNGなのに、自分から気まずくなる要因を送るのはバカらしい。
でも、プレゼントは消え物が無難なのもまた事実。
けど紅茶やコーヒーとかって結構好みがあるし、入浴剤とかバス用品も同じ。っていうか、肌につけるものだから合わないと悲惨この上ない。
いっそ僕の発明品でもあげようかと思ったけど、やっぱり遠慮しそうなんだよなー、おねえさんは。
個人的にはプレゼント関係なく持ってて欲しいんだけどな。だいぶ前にタツマキちゃんが言ってた、防犯グッズという名を借りた処刑具を。
……結局、消去法でおねえさんに贈れるものはこういう雑貨類しかないんだよなー。
もうずっと前から考えては同じ結論にたどり着くのに、また同じ考えばかりしてる自分に呆れながら、目の前の棚、ホワイトデーのお返しコーナーを眺める。
……ネット通販で見てもピンとくるものがなかったから、実物を色々見たら何かいいものがあるかと思って、女性向けのお店を回ってみるけど今のところ全敗中。
っていうか、今更だけどエヒメおねえさんにプレゼントって本気で難易度高すぎ! ハードどころじゃないよ!
だってどれ見ても、おねえさん本人が作りそうだし。おねえさん、こういう雑貨類を作るのが本業の人だから、こういうテイストが好きなのは確かだろうけど、でも絶対に本当に欲しかったらあの人は自分で自分のイメージ通りのものを作る。
もういっそ材料系にしようかなとも思ったけど、それはあまりにもプレゼント感がないし、そもそも僕だとどんな材料が一番消耗するかとか、あげたら喜ぶかとかがわからない。
結局僕は何も買わずに店を出て、また当てもなくその辺をうろつく。
特に当てがなくてもさすがにホワイトデー一週間前だから、だいたいどの店でも特設コーナーを作っていたりするから、あんまり困りはしないだろうと思ったけど、こういうコーナーにセレクトされたものってやっぱりどれもこれも無難なものばっかりなんだよね。
とっくの昔にダメ出ししたものの類似品ばかりで、結局おねえさんが喜んでくれそうなものは見つけられなくて、もう子犬かなんかのペットロボ(痴漢撃退機能付)でも作ってあげようか、僕の得意分野だしとか思って歩いていたら、人にぶつかっちゃった。
「痛っ!」
「! ごめん! 大丈夫!?」
僕の背負ったランドセルに軽い衝撃とともに、女の子の悲鳴。
向こうから走ってきて、人波で僕がランドセルを背負っているのが見えなかったのか目算を誤って、ランドセルに思いっきり体当たりした形になって、僕と同い年くらいの女の子はその場にしりもちをついて座り込んじゃってた。
僕はあんまり悪くないかもしれないけど、考え事をしてて僕自身も注意力が散漫してた自覚はあるし、何より僕のランドセルは普通のランドセルとは違って、これは怪人退治のための武器そのものだ。
なので普通のランドセルとは比べ物にならないくらい、重いし硬い。たぶん、コンクリートの壁にそのまま激突したくらいの衝撃だっただろう。
だから普通に心配だったし、僕が考え事さえしていなければ気づいて避けれたはずだから申し訳がなかった。
「いたた……。あ、大丈夫だよ。心配しないで」
幸いながら、女の子の方はちょっとだけ腰をさすりながら笑って立ち上がって、平気だと伝えてくれた。
その様子からして、強がりじゃなくて本当にちょっと痛い程度ですんだのは何よりだけど、僕に「大丈夫」と告げたその子を顔を見た瞬間、僕の中から悪いけど申し訳なさが消えた。
いや、申し訳ないと思わなくていいやとか思ったわけじゃないよ。
ただ、罪悪感を塗りつぶす勢いで衝撃的だっただけ。
目を丸くして自分を凝視する僕に、女の子は少し怪訝な顔をして首を傾げた。
僕の対応が不躾だったから若干不快に感じたのだろうか、わずかに眉間に皺も寄る。
そんな表情をすると、ますますそっくりなので僕は思わず笑ってしまった。
「もしかして、金属バットさんの妹さん?」
笑いながら尋ねると、笑われたことで一瞬深めた眉間の皺が消えて今度は彼女が目を丸くさせる。
もしかしたらなんて、無意味な枕詞だ。
一度写真で見たことあったけど、本当に見たことなくても一目でわかるくらいそっくりな兄妹だなと僕は思わず感心してしまった。
* * *
「あ、そっか。花か。盲点だった」
僕の素の言葉に、金属バットの妹さん、ゼンコちゃんはクスクスとおかしげに笑った。
金属バットさんの妹さん? と尋ねた直後、答えを訊かずに自己紹介をしたら、どうして一目でわかったのかを自己完結で納得してもらえた。
どうも、兄が自分の写真を見せたかなんかしたと思って、「もう本当にお兄ちゃんは!」とプリプリ怒ってたけど……言わない方がやっぱいいかな?
お兄さんとそっくりすぎてすぐにわかったとは。
で、その後何故僕はゼンコちゃんと並んで花屋の前にいる訳は、いたって簡単。
サイボーグさんがS級集会におねえさんを連れてきた時、金属バットさんが盛大に椅子から転げ落ちた所為で何であの人があんなにおねえさんに驚いていたのか、その理由はよく覚えてる。
おねえさんと金属バットさんは、僕らと会う前からの知り合いで、そのきっかけがゼンコちゃん。
怪人との戦いで2,3日入院した金属バットさんのお見舞いで、たまたま入院してたおねえさんとゼンコちゃんが出会って友達になったという話は聞いている。
だから、僕は初対面でいきなりだけど、ゼンコちゃんに訊いてみた。
エヒメおねえさんにホワイトデーのお返しは何がいいかな? って。
そしたらゼンコちゃんも実はちょうど、おねえさんにお返しを買いに来てたらしい。
「一緒に選ぼう」と言ってくれたからお言葉に甘えてついてきた先がここ。
「うん。おねーさん、お菓子も料理も美味しいし、すっごく器用で大抵のものは自分で作っちゃうから、ならこれしかないかなーって思ったの」
僕の言葉に、僕と同じようにプレゼント選びの高難易度に困り果てていたのか、少しだけゼンコちゃんは苦笑してた。
けど、うん。そっか、花か。
確かに花ならこの上なくプレゼントって感じがするし、おねえさんも好きそう。
でも花束だとちょっと気障っぽいかな?
枯れちゃうと、おねえさんが気にしそうだからドライフラワーとかプリザーブドフラワーのリースとかの方が良いかも。
バレンタインからいくら考えてもこれといったものが浮かばなかったのが、ゼンコちゃんのおかげで「花」という志向性を持てただけでも今日は収穫だ。
けど、花屋なんて母の日にカーネーションを買いに来るくらいで、それだってカーネーションだけが目当てだから他の花なんてよく見たことがなかったけど、結構色々あるんだな。
「ねぇ、ゼンコちゃん。おねえさんの好きな花って知ってる?」
僕たちは色の洪水のような花に目移りしながら、さらにプレゼントの方向性を定めようとした。
が、僕の質問にゼンコちゃんは何か微妙な顔をした。
初めは知らないのかな? って思ったけど、一瞬の間を置いてから「桜とか藤とか梔子とか、木に咲く花が好きって言ってた」とゼンコちゃんは答える。
あぁ、なんとなくそれらのラインナップはエヒメおねえさんに合う。
あの人は綺麗で華のある人だけど、バラとか胡蝶蘭とか人の手でものすごく大切に育てないとすぐにしおれて枯れる園芸種じゃなくて、自然そのものこそが美しい樹木の花に似ている。
が、それは花屋では少し難しい、どちらかというと植木屋の領域なので、「あー、すっごいおねえさんらしいけど他になんか言ってた?」と僕はさらに問う。
すると、ゼンコちゃんはさらに困ったような微妙な顔になり、僕から目を逸らして斜め下辺りを見ながら答えた。
「……タンポポとかシロツメクサとかネジバナとかツワブキとかニワゼキショウ」
「それ、雑草の類だよね!?」
知ってたけど、本当にどこまでも斜め上に行く人だなあのおねえさんは!
これはこれでおねえさんらしいけど、本当に少しはプレゼントしやすいものを好きになってくれないかな!
「おねーさんにお花の冠とか指輪の作り方を教えてもらった時に、一緒に教えてくれたの。お花の名前。
もっとあったかくなったら、ヨモギと野イチゴを取りに行こうって約束もしてくれたし、ヨモギのパンと野イチゴのジャムも作ってくれるって」
なんか微妙にマニアックな野草の名前までよく知ってたなと思ったら、ゼンコちゃんはまだちょっと困った様子だけど、楽しそうに嬉しそうに笑って教えてくれた。
本当に仲がいいんだな。女の子同士だから当たり前だし、じゃあ僕もそのヨモギと野イチゴ狩りに行きたいかと言われたら微妙だけど、それでもやっぱりちょっとうらやましい。
S級では僕はおねえさんと仲がいい方だとは思うけど、それでも会える機会も話す機会もあんまり多くないからなー。
一応、おねえさんのメアドは知ってるし、たまに他愛のないメールのやり取りもするけど、まだ本当に何の用事もきっかけもないけどただ話がしたいからメールしたり電話をかけるほどじゃない。
僕が、ホワイトデーのお返しに無難なものを選びたくない理由は、きっとそれが一番なんだろうな。
何かちょっとしかきっかけがないと、まだおねえさんに話しかけたりすることが出来ない距離だから、お返しをそのきっかけにしたいし、そしてきっかけがなくても電話やメールを出来る距離になりたい。
……ま、そんな都合のいいものがあるわけないことくらい、わかってるけどね。
「そっかー。美味しそうだね。おすそ分けを期待しとくよ。
……でもおねえさんの好きな花がそのラインナップってことは、切り花とかリースとかじゃなくて……」
樹木の花や野草の類を好むのなら、種や球根、土に植木鉢と言ったガーデニングのセットを一揃いの方がおねえさんは喜びそうだと思ったから、それを提案しようとした時、僕は一つの鉢植えに目を奪われた。
それは肉厚の葉っぱにちょっと百合に似た小さな四つの花弁が十字のようについている、観葉植物。
「? どうしたの、童帝君?」
ゼンコちゃんに話しかけられても僕はその鉢植えから目を離さず、提案した。
「これにしない?」
別に僕一人で買ってもよかったんだけど、相談に乗ってくれて連れてきてくれたゼンコちゃんを置いて僕一人さっさと決めてしまうのも悪いから、僕とゼンコちゃんからってことでこれはどうかな? と提案してみた。
幸いにもゼンコちゃんは僕が指さした花を見て、「わ、何これ! 可愛い!」と気に入ってくれた。
……僕がこれに決めた理由、鉢植えの土に刺さった小さな花の名を記した札。そこに書かれていた名前。
その花の、もう何故知っているのか、どこで何がきっかけで知ったのかも忘れたけど、これだけは覚えていたカランコエの花言葉を聞いて、ゼンコちゃんはさらに嬉しそうに笑って言ってくれた。
「じゃあもう、これにするしかないよね」と。
* * *
3月14日の夜8時頃。
『ホワイトデーのお返し、ありがとう。すっごく綺麗で嬉しい。大切にしますね』という文章と、僕とゼンコちゃんで花の色や植木鉢の形や色柄を散々吟味して選んだカランコエの写真が、おねえさんからメールで届いた。
『気に入ってもらえてよかったです』とメールを打って送信しようとした直後、ふと思い立って文章を少しだけ追加して送る。
返信は約2分後。
『エンゼルランプより、ヒーローらしくて素敵ね』
……たぶん僕のメールの内容を見てても、この返答の意味不明さに首を傾げる人は多いだろうな。
『カランコエの花言葉を知っていますか?』という問いに、答えでも「え? 何?」という疑問でもなくこの返答は、別の人に送る予定だったメールを誤送信したかと思うくらい噛み合っていない。
でも、僕からしたらこの返答は嬉しくてたまらないと同時に、少しだけ悔しい。
『僕の言いたいこと、先回りしないでくださいよ』
だから少しだけ、素直に拗ねて返事をすればきっちり1分後に帰って来たのは『あはは、ごめんね』という軽い謝罪。
本気で悪いとは思ってないし、もちろん僕だって本気で拗ねてるわけじゃない。
むしろ、やっぱり嬉しくてたまらない。
エンゼルランプは、おねえさんに贈ったカランコエと同じカランコエ属の花。
基本的に花が上向きに咲けば、カランコエ。下向きに、その名の通りランプみたいな形に咲けばエンゼルランプという分け方で、間違いはない。
そして、この二つの花は同じ属名だからか花言葉が非常に似てる。
エンゼルランプの花言葉は、『あなたを守りたい』。
こっちでもいいっちゃいいんだけど、やっぱり子供とはいえヒーローで願望じゃダメでしょ。願望じゃ。
ヒーローなら、言いきらなくっちゃね。
Maikaさんリクエスト、「童帝君とゼンコちゃんとのほのぼのな一日」でした。
原作でまったく接点のない二人だったため、二人が出会いそうなきっかけがこれくらいしかなかったので、時期外れですがホワイトデーの話になってしまいました。
あと、ゼンコちゃんの出番が少なめですみません。
こんな話ですが、気に入ってもらえたら幸いです。
あと、ジャンプでハンターの連載が再開された嬉しさ余って、勢いでハンター連載始めました。
ハンター連載「死にたくない私の悪あがき」も、もし興味がありましたらよろしくお願いします。