私のヒーローとあったかもしれないお話   作:淵深 真夜

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外川さんリクエスト。

「S級メンバー&フブキ組&ソニックで鍋」
でもごめんなさい、外川さん。鍋ほとんど関係ない話になってしまいました……


お前ら花見しろや

 どうしてこうなった。

 

 俺は顔をほんのり赤くさせて、ヘラヘラ笑ってる妹を前にして頭を抱えた。

 

 * * *

 

 じーさんに「うちの道場に花見に来んか?」と誘われた時点で、もう断っとけば良かったかもしれない。

 また勧誘されるのはわかっていたけど、もう勧誘されるのもそれを断るものあのじーさんと会ったときの挨拶みたいなもんにお互いなってるし、そういや花見なんて何年ぶりだ? と思ったのもあって、まぁ言葉に甘えておいた。

 エヒメも喜んで稲荷寿司やら桜餅をジェノスと一緒に作りまくってたから、良かったのだろう……と行く前は思ってた。

 

 じーさんの道場だから、前に鍋に誘われたメンバーしかいないと思ってた。

 俺とジェノスとエヒメ、あとはじーさんとその弟子の……名前なんだっけ? チャランポン? そいつくらいしかいないと思ったら、……なんかS級がほとんどいたんだけど。

 

 どうもじーさんはせっかくの花見に5人だけはちょっと淋しいから、もう少しくらい人が欲しくてS級に「来たい奴は来い」って言ったらしいんだが……。

「初めは皆が『面倒くさい』だの、『忙しい』だの言っておったのに、エヒメ嬢が来るぞと言えばこの有様じゃ。どいつもこいつもわかりやすい奴ばかりじゃの」と、じーさんは言いながら笑い、ジェノスはいつものように不穏な音を立てて不機嫌になり、エヒメは「私はなんなんですが? パンダですか?」と困惑してた。

 

 ……お前ら、マジで皆うちの妹大好きだな。

 

 まぁ、それは良いんだよ、それは。

 ジェノスがやたらと不機嫌になったけどそれはあいつの問題だし、エヒメは困りつつも楽しそうにコマネズミみたいにあっちこっちで鍋の具をよそったり、弁当を取り分けたり、酒を注いだりしてた。

 あんなに動き回って他の奴らの面倒見てたら飯が食えねーだろって思ったけど、その心配も無縁だった。

 あいつ、誰かの側に行くたびにこれ食えあれ食えと食べ物を押し付けられて、むしろ助けを求める目でこっちを見られた。

 

 本当に、お前は何故かS級に大人気だな!!

 

 ……本当に、これだけなら良かったんだよ。

 ………………フブキが来るまでは、良かったんだ。

 

 すっかり忘れてたけど、じーさんが他に誰か呼びたけりゃ呼んでいいって言われて、そのことをまた何故かウチに特に意味もなくやってきたフブキに話したんだよなー。

 誘ったというよりほとんど世間話程度のノリで話して、あいつも「暇なら行くかもね」としか答えなかったから、本当に来るとは思ってなかった。

 けど別に、フブキがフブキ組連れてくるだけなら問題はなかったんだよ。

 

 ……問題は、あいつの姉貴のタツマキも花見に来てたこと。

 フブキがねーちゃんにコンプレックスってやつか、何か苦手意識を持ってるのは知ってたけど、タツマキの方はどうも妹大好きらしいな。

 ついさっきまでエヒメについて回ってジェノスや金属バットに喧嘩売ったりしてたのに、フブキが来たことに気付いた瞬間、興味の対象がそっちに移ってた。

 

 が、フブキの方は姉貴がマジで苦手だから、「なんでお姉ちゃんがここにいるの!?」って顔面蒼白でパニック起こしてて、そのパニックをフブキの部下たちがなだめようとしたりタツマキからフブキを庇おうとしたのが、タツマキには気に入らんかったらしい。

 

「あら、フブキ。そんなに驚かなくてもいいじゃない。お姉ちゃんと久しぶりに会えて、そんなに嬉しい?

 それと邪魔よ、金魚の糞ども。何、私とフブキの再会を邪魔してんのよ」

 そんなことを言いながら、タツマキの奴が弁当や鍋とか食い物こそはさすがに使わなかったけど、シートの重しにしてたでかい石やら一升瓶やらを超能力で持ち上げて、フブキ組の連中に向かって撃ちだしやがった。

 

 もちろん、もうだいぶ酔っ払いが出来上がっていたけどさすがにそれが全員で、「おい、タツマキ! 何してるんだ! やめろ!」って止めたんだけどさー、いきなりこんな風に攻撃するとも誰も思ってなかったから、制止の言葉をかける以外にとっさにできることがなかったんだよな。

 

 ……エヒメ以外。

 

 あのアホ妹は、とっさにテレポートでフブキやフブキ組の前に立って、「やめてください、タツマキさん!!」って叫んで、それでさすがにタツマキも「あ、ヤバい!」って思ったのか、それともフブキの方が冷静さを取り戻したのか、とにかく止めたのはどっちかは俺には知らねーけど、超能力で撃ちだしていた石やらビンやらがエヒメにぶつかる直前でピタッと空中で制止した。

 

 ……だからあれ自体は、タツマキが悪いというよりエヒメの運が悪かった。

 中身が入った日本酒の一升瓶が、開け口が下を向いた状態で止まったのも、その真下がエヒメで中身を全部豪快にひっかぶったこと自体はな。

 

「エヒメ!?」

「エヒメさん!?」

 

 エヒメが酒を頭からかぶって、また辺りがパニック。お前ら、確かにエヒメにとっちゃ災難だけど、ここまで大騒ぎするほどじゃねーだろってくらいの騒ぎになったわ。

 ジェノスと金属バットはタツマキに向かってキレまくるわ、タツマキは「わ、私の所為じゃないわよ!」って言いつつも泣きそうな顔になるわ、童帝がエヒメを心配してくれるのは良いけどなんかド○えもんみたいに「あれでもないこれでもない」って言いながら、ランドセルからいろんなもんを出してタオルを探すわ、じーさんが弟子にタオルもってこいって命令したら、「タオルならあるぞ」ってタンクトップ着た集団が取り出して、でもフブキに「そんな汗臭いタオル、この子に使えるわけないでしょ!!」ってキレられて凹むわ。

 うん、マジでカオスだったな、あれは。

 

 まぁ、俺も人のこと言えねーんだけどさ。真っ先にエヒメの方に向かって行ったし、目に入ってないか、気分が悪くないかで心配だったし。

 ……この時に気付くべきだったんだよなぁ。あいつがやたらとボーとしてて、何にも言わないことに。

 俺があいつの様子におかしさに気付く前に、タツマキとフブキに殴られてそっちに意識がいったのは、俺は悪くないよな?

 

「何じろじろ見てるのよ、変態!」って言われていきなり頭を全力で二人同時に殴られたのは、マジでびっくりしたし、言いがかりだったからキレても良かったよな?

 いや、あの姉妹がキレるのも感謝はしてこそ文句を言う筋合いはあんまりなかったけどな。

 

 エヒメ、酒を被ってびしょぬれで服が思いっきり透けて下着がはっきりと見えてたから。

 俺は気づいてなかったけど、そのことに気付いて固まってたジェノスや金属バット、童帝はタツマキとフブキが「見るな! 変態ども!!」と言ってふっとばし、同じく固まっていたフブキ組の男たちには、百合の花を頭に付けた女の子が三節棍って武器で「何、凝視してるんですか!!」と叩きのめし、身を乗り出してよく見ようとしたじーさんの弟子やタンクトップ着た集団の何人かは、それぞれ自分の師匠にぶん殴られてた。

 あと、侍のおっさの弟子は自分でその辺の岩に頭突きしながら、「修行不足!」と叫んでて、侍のおっさんと他の弟子に止められてた。

 

 ただでさえカオスだったのに、さらにカオスな有様になってたんだけど、いきなりぶん殴られてキレた俺にそのカオスをどうにかする余裕なんかもちろんなかった。

 つーか俺が冷静でもどうしようもなかったけどな。どう考えても。

 あのカオスに収拾がついたのは、なんだかんだ言ってエヒメのおかげと言うか……エヒメの所為というか……。

 あいつ自身が悪いわけじゃねーんだけど、なんていうか、うん。あのアホは、でかい爆弾を投下しやがった。

 

 俺は普通に妹が心配だっただけなのに変な誤解されたことにキレて、「妹の下着なんかピンクだろうが花柄だろうがどうでもいいわ!」って叫んで、それをサイキック姉妹に「大声でバラすな愚兄!!」とこれは向こうが正論なことを言い返されてる間、プリズナーっておっさんと侍のおっさんの弟子の一人がエヒメを見てくれてたんだよ。

 ……実兄の俺がダメでオカマ二人はいいのかよ? ってかなり釈然としないけど、それはとりあえず横に置く。

 

「エヒメちゃん! 大丈夫か!?」

「……冷たくて気持ち悪いです」

「あぁ、とにかくシャワーでも浴びさせて着替えさせないと……。シルバーファングさん、風呂と着替えを貸してあげっ!?」

「ちょっ!? 待て、エヒメちゃん!?」

 

 何か焦って止めるオカマ達の声と、エヒメの「ふぁ?」と間抜け極まりない声に、思わず全員がそっちを向いて、そのまま目を見開いて固まった。

 ……あいつ、ぼーっとした顔でぼーっとしたままその場で服を脱ごうとしてた。っていうか、既にシャツのボタン全部開けてやがった。

 

「何やってんだ、お前はーっ!!」

 我ながら、現状を理解した後の自分の行動は速かったと思う。

 もし早脱ぎと早着せの世界選手権なんてアホなものがあったとしたら、俺は間違いなく優勝してるという自信のある素早さで俺は着ていたパーカーを脱いで、ボケッとしてる妹に袖を通さない状態で着せてジッパーを上げた。

 

 俺の叫びと行動で他の奴らのフリーズも解凍されて、ジェノスは頭を抱えて円周率を延々と唱え続けるわ、金属バットはOTLのポーズで鼻血流してるわ、キングは興味ないと言いたげにそっぽ向きつつ、心臓の音がめちゃくちゃうるさかったわ、タツマキは自分の胸を撫で下ろしてなんかショックを受けたような顔してたらしいが、そんなの俺にとってはどうでもいい。

 

「お前、何考えてるんだっ!? 俺が言うのもなんだけど、こんなことやらかすような子に兄ちゃんは育てた覚えはないぞ!? いや、そもそも育てた覚えが別にねーけど! お淑やかになれとか女らしくなれなんて言った覚えも一度もないし、別にならなくてもいいけど、でもこれはさすがに止めるからな!!」

 もはや自分でも何言ってるのかわからなかったけど、とにかく俺がエヒメを叱りつけたらエヒメはボケッとした顔をヘラッと笑わせて言い出した。

 

「あははは~。お兄ちゃん、何言ってるかわかんな~い」

 

 ……泣き虫でネガティブなくせに、強情で自分が悪いとわかってても謝れないことが多い妹だが、明らかこっちが怒っているのに笑ってごまかすタイプでないことはよく知ってる。

 この普段ならまずありえない対応と、やけに赤らんだ顔でようやく俺は気づく。

 

 こいつ、酒を浴びただけで酔っぱらいやがった、と。

 

 * * *

 

 一つだけ幸いだったのは、エヒメは酔っぱらっても「酔ってない」と言い張って強情に自分で何とかしようとするタイプの酔い方じゃなかったことだ。

 つーか、「エヒメ、お前酔っぱらってんな!」と言えば、ヘラリと笑って「そうなの?」って首を傾げやがった。

 ある意味、これもこれで酔っぱらってる自覚はなかったが、判断力が落ちまくっていたおかげでいつもよりむしろ素直だったから、もうお前さっさと風呂入って少しは酔いを醒ませと言えば、やたらといい返事をしてそのままじーさんの家の風呂を借りに行った。

 

 ちなみに、あまりにも足取りが危なっかしかったので、風呂場で転べばシャレにならんのと、シャワーを浴びても酔いがさめなかった場合、あいつは真っ裸で出てきかねなかったから、フブキやタツマキ、あとフブキが連れてきていた女の子がシャワーを浴びせるのを手伝いに行ってくれた。

 

 そんな訳で今、じーさんの道場の庭には男だけが取り残されており、そして俺の目の前にはジェノスと金属バットが土下座している。

 

「すみません、先生! 本当に、誠に申し訳ありません!!」

「すんません! マジですみませんでした! つーかこれで俺をぶん殴ってください!!」

「金属バットを差し出すな! もうお前ら俺に何について謝ってんだよ!? むしろ俺が申し訳ないわ!!」

 

 本気で誰が悪いのかもう神に訊きたくなるこの状況に俺が叫び、じーさんや侍のおっさんが「まぁ、ジェノス君も金属バットも若いのだから仕方がない」だの、「あれに目がいかないのも、何とも思わないのも男じゃねーから気にすんな!」と頓珍漢な慰めの言葉をかけた。

 慰めの方向としては明後日だけど、とりあえず俺に謝っても仕方がないことだとは理解したのか、土下座してた二人がじーさんとおっさんを「うるさい黙れ」言いながら睨み付けつつ、土下座をやめてくれた。

 

 が、エヒメが持って来た桜餅を食いながら童帝が、「けどおねえさんがさっきの出来事覚えてないといいですよねー」と言い出し、少しは回復してた二人のテンションが再びお通夜状態に。

 うん、大丈夫だジェノス。覚えていても別にあいつは、お前らを責めないから。自分でやらかしたことだし。

 ただ、1週間は羞恥でお前の顔が見れずに逃げ回るだろうから、俺も覚えていないことを願う。

 

「……まぁ、せっかくの花見で盛り下がったらそれこそエヒメちゃんが『自分の所為で』と責めるから、先ほどのことは忘れよう」

 何とも微妙な空気の中、キングがそう言って他の奴らに缶ビールを配って場を仕切り直そうとしてくれた。

 あぁ、うん。そうだな。もうマジで忘れてくれ。俺も忘れたい。

 もうその一心で俺が缶ビールを呷ろうとした瞬間、俺に向かってなんか飛んできたからとっさにビールを盾にしてしまい、缶に手裏剣が刺さってビールが全部こぼれた。

 うわっ、もったいねぇ!!

 

「ちっ! 相変わらずやる気も警戒心もないくせに、動体視力と反射神経は人間離れしてるな」

 俺が缶ビールで跳んできた手裏剣を受け止めたと同時に、道場の屋根の方で声が聞こえて、全員の視線がそっちに集まる。

 

「くたばれ死ねっ!!」

『えぇっ!?』

 

 姿を確認する前に、もうジェノスは俺に向かって跳んできたのが手裏剣って時点で相手が誰かに気づいてたんだろうな。

 道場の屋根に現れたソニックの方に体を向けると同時に焼却砲をぶっ放して、ジェノスとソニックの因縁を知らないほとんどの連中の度肝を抜かせた。

 

 まぁ、そこまで思い切りのいい攻撃でもあいつにはまだ遅いんだよな。残念ながら。

 俺が思った通り、ソニックは余裕で避けていつもの薄ら笑いを浮かべながら、桜の木の枝に跳び移ってきてジェノスにいらん挑発をする。

 

「邪魔だ、金魚の糞野郎。貴様相手では準備運動にもならん」

「それは俺に一撃でも損傷を与えてから言ってみろ、性犯罪者!!」

 

 ソニックの言葉にブチ切れながらジェノスは言い返すと、周囲の様子が微妙に変化したことに気付く。

 現状の俺とジェノス以外の様子を言い表すなら、困惑であることは何にも変わっていないんだが、さっきまでが「え? 誰こいつ?」「何でジェノスはこんなにキレてるの?」って感じだったのが、今はジェノスの言った「性犯罪者」にピントが当たって、率直に言えばソニックはかなり引かれていた。

 

「ソニックちゃん、性犯罪だなんて見損なったぞ! だが同時に、これでソニックちゃんを襲っても問題ない訳だな!!」

「ない訳あるかっ!! というか、何故ここにいるぷりぷりプリズナー!!」

 

 どうもオカマのおっさんとソニックは互いに面識があったらしく、なんかわけのわからん会話を繰り広げてる間に、キングが「サイタマ氏、あれが以前言ってた『ソニック』なのか?」と小声で訊いてきた。

 これ以上面倒事は避けたかったので、俺も小声で「そうだ」と答えたんだけど、地獄耳のじーさんにはしっかり聞こえていたらしく、あのじーさん、面白がってんのかそれともエヒメの為なのかしらんけど火に油を注ぎやがった。

 

「……ほう。あやつが、エヒメ嬢の命の恩人かつ、エヒメ嬢の胸を揉んだジェノス君のライバルか」

 

 じーさんの言葉で、何人かの空気が変わった。

「鬼サイボーグ、今だけは共戦しねぇか?」

「あぁ、僕ちょうど新兵器を開発したところなんですよね」

 

 ゆらりと金属バットが立ち上がり、童帝のランドセルからなんかどうやってあの中に入ってたんだよってレベルのごついアームを出して、ジェノスの隣に並び立つ。

「トドメは譲らんが、協力は感謝しよう」と、珍しくジェノスの方も共戦を了承して、ついでにオカマのおっさんが「俺も参加させてくれ。エヒメちゃんの恥じらいと、俺の劣情はここで晴らす!」とか言い出した。

 劣情は晴らすな。

 

 S級4人が敵に回ったっていうのに、ソニックの方は相変わらず薄ら笑いを浮かべて、「ふん、確かにこれくらいいたら準備運動にはなりそうだな」とか言い出す。

 こいつって結構、戦闘狂だよなーと思いながら俺は新しくビールを開けて、じーさんは「道場や桜を壊したら、どちらもわしがぶん殴るぞ」と言い出し、侍のおっさんたちとタンクトップ集団、フブキ組は酒が再び回ってきたのか、余興扱いで面白がって見物する気満々だ。

 

 俺も、まぁさすがに誰かが死にそうになったら止めようと思って、キングと観戦することにしたんだけど、……この状況でも十分にややこしい事態がさらにややこしくなるとは思ってなかったなぁ。

 

「死ねや痴漢野郎!!」

「少し眠ってもらうぞ! ダーク☆エンジェル☆ラッシュ!!」

 

 金属バットがバットを振りかぶって飛び込み、、オカマは囚人服を弾き飛ばして連打、ジェノスは焼却砲を放って、童帝のアームは全体から螺旋状の刃が出て来てドリルみたいに回転しながらソニックに向かって突き刺す。

 全員、殺意高いな!

 が、ソニックの逃げ場を4人がかりで塞いでいたにもかかわらず、あいつは平然とジェノスの背後に回っていた。

 

「はっ! 4人いてもこれか。S級とは『しょぼい』のSなのか?」

 ソニックが嘲りの言葉を掛け、ジェノスが振り向きざまにソニックを殴り掛かろうとするが、それよりもソニックが刀を抜くのが早い。

 

「あ!」

 そして、それ以上に早かった。

 

「ソニックさんだー!」

「は!?」

『なっ!?』

 

「サイズに融通が利く服はこれしかない」とじーさんから借りた浴衣を着たエヒメが、テレポートでいきなりソニックに後ろから抱き着くのは。

 

 * * *

 

 エヒメに抱き着かれたことで、腕の動きが阻害されてソニックは刀が抜けず、ジェノスの方もそのまま殴ればソニックだけではなくエヒメもぶん殴って吹っ飛ばしてしまうのがわかったからか、何とかギリギリで拳を止める。

 他の奴らも、エヒメがソニックの背中にがっちりホールドしてる状態なので手が出せなくなって固まった。

 

 そんな中であのアホは一人、ソニックにしがみついたままやたら楽しそうに笑ってる。

「あはははははは~。ソニックさんだ~。久しぶり~。あはははははは~」

「何してんだ、お前は?」

 

 思ったよりもソニックの反応が大人しいなと思っていたら、「エヒメ! 何してんのよ!!」と甲高い声が聞こえる。

 エヒメにシャワー浴びせるのを手伝っていたはずのタツマキ達が戻って来ていたらしく、いきなりテレポートで跳んでソニックに抱き着いたエヒメを見て、タツマキはショックを受けたような怒っているような顔で叫んだ。

 

「そいつは誰なの!? そんな得体も知れない変な男に軽々しく抱き着くなんて、お姉ちゃんは許さないんだからね!!」

『いつ、お前の妹になった!?』

 思わず反射で突っ込んだら、ジェノスや他の奴らからも全く同じツッコミが入ったけど、タツマキはそんな突込みを無視して、「っていうか、誰なのよこいつ!?」とヒステリックに喚く。

 

「鬼サイボーグさんのライバルです!」

「よし、殺す!」

 童帝の率直で正しいのか間違ってるのか微妙な説明に、タツマキは即答した。決断早ぇよ!!

 

「誰がこんなのろまなポンコツのライバルだ!? というか、エヒメ! お前は本当になんなんだ!? 何がしたいんだ!?」

「こんな変質者があらゆる意味でライバルなわけあるか! というか、エヒメさん! 早くそいつから離れてください! 穢されます!!」

 ソニックとジェノスはお互いにライバルだというのが不満らしく、童帝に抗議する。いや、正直お前ら、特にソニックは俺よりもジェノスの方がライバルらしいだろ。

 

「あははは~。ソニックさんもお花見に来たんですか~。楽しいですよ~」

 一触即発どころじゃない状況だっつーのに、その元凶のアホは相変わらずヘラヘラ笑ってソニックに抱き着いてる。っていうか、会話が成立していない。

 俺がちらりと、展開についていけないフブキ達に視線を向けたらフブキが片手をあげて軽く謝った。

 

「ごめん、サイタマ。シャワー浴びさせても全然、酔いが醒めなかったわ」

「むしろ血行を良くしちゃった所為か、さらに酔いが回ってテンション高くなってしまいました……」

 あぁ、うん、なるほどな。それであの有様か。

 

 フブキ達の言葉が聞こえていたらしく、若干エヒメのハイテンションに引いていたソニックが納得したような顔になって「お前、酒を飲んだのか?」とエヒメに尋ねた。

「飲んでませ~ん。浴びました~」

「……飲まずにこれか。浴びたというのは状況がよくわからんが、まぁ納得だ。だから、ノーブラなのか」

 

 ソニックのしれっと零した発言に、その場にいた男ほぼ全員が噴き出して固まった。

 俺だけ、あんだけびしょぬれならそりゃパンツはともかく上もずぶ濡れだろうなーと思いながら、ビール飲んでたけど。

 ジェノスが一瞬、フリーズしてからまたキュインキュインとヤバそうな音を立ててソニックを睨み付ける。

 あの目からレーザーが今、出ていないのが不思議なぐらい殺気立って睨まれてるっていうのに、ソニックの方はいつものように猫に似た笑みを浮かべてさらにジェノスをからかう。

 

「何だ? そんなに俺がうらやましいか?」

「死ね!!」

 ジェノスのほぼ肯定みたいな罵倒を無視して、ソニックはまだ笑いながら抱き着いてるエヒメに視線を向けて訊いた。

 

「エヒメ、お前は俺のことが好きなのか?」

 ダイレクトなその問いに、ジェノスと金属バットとタツマキは怒りとショックとエヒメに否定してほしいという期待が入り混じった顔になるが、それ以外は完全に面白がって身を乗り出した。

 お前ら、ウチの妹の恋バナを酒の肴にすんな。

 

 訊かれたエヒメはと言うと、酒の所為で警戒も羞恥も忘れてただ自分が思うがままの言葉を、すっげぇ楽しそうな笑顔でそのまんま口に出しやがった。

「大好きですよ~」

 

 その答えに、ソニックはドヤ顔になってジェノス達を見返して、ジェノスと金属バットは目を見開いて再び固まり、宙に浮かんでいたタツマキは地面に落ちかけた。タツマキが落ちる前に、エヒメがサラッと付け足したけどな。

「お兄ちゃんみたいで、ソニックさんは大好きです!」

「は!?」

 

 まさかの大好きな理由が俺みたいだと言われて、ソニックのドヤ顔が崩れて、他の連中は一瞬の間をおいてから爆笑。

 

「だーっははははは!」

「あーははははっ! ドヤ顔したのに、まさかの戦力外通告!!」

「良かったな、音速のソニック(笑)! エヒメさんからしたら、最上級の好意だぞ!」

「LoveじゃなくてLikeのだけどね!!」

「ソニックちゃん、安心しろ! 俺はLoveの方で大好きだ!!」

「うるさい、黙れ!!」

 

 爆笑されつつ追い打ちをかけられて、ソニックが怒りなのか羞恥なのかよくわからんが真っ赤になって怒鳴り返す。エヒメの方は相変わらず空気が読めてなくて、「ソニックさん、人気者~」とか言ってあいつの神経逆撫でしてやがるし……

 

「おーい、ソニック。今日はもう帰った方がいいんじゃね? もう勝負って感じじゃねーだろ」

 俺がそう声をかけると、盛大に舌打ちしながらも本人も多分もう色々と萎えて疲れたんだろうな。「……あぁ、そうだな」と同意して、いつでも抜けるように手にかけていた刀の柄から手を離す。

 

 同時に、自分の首に回っていたエヒメの腕を掴んで引き離し、逃げる為なのかそれとも戦力外通告の八つ当たりなのか、そのまま器用に一本背負いの要領でジェノス達の方向にエヒメをブン投げやがった。

 

「ふぇ?」

「エヒメさん!」

「エヒメ!!」

 投げられた本人はポケッとしながら間抜けな声だけ上げて、ソニックを取り囲んでいた奴らはもちろん、面白がって観戦していた奴らも、意識が完全にソニックから無防備にブン投げられたエヒメに移って、さすがに焦る。

 その間にソニックはその辺の木や屋根に跳び移って、去って行った。

 俺に、「次こそは必ず殺す。あと、あのアホも一発ぶん殴る」と宣言してたけど。うん、お前はあいつを殴っていいと思う。

 

 で、投げられたエヒメはというと……

 

「ただいま、お兄ちゃん!」

「お前、酔っぱらってる方がテレポートの精度高くないか?」

 

 ソニックにブン投げられて、取り囲んでた5人があわてて受け止めようとしてぶつかり合ってる最中、こいつは誰かにぶつかったり地面に受け身も取れずに落ちる前に、俺の元に跳んできた。

 俺の元に跳んできて落ちてきた妹を受け止めて、派手にぶつかって倒れているジェノス達5人に心の中で謝っておく。マジでなんか、ウチの妹がすまん。

 

 この惨事に酔っぱらっているエヒメは当然気づくことなく、相変わらずこいつはヘラヘラ笑って、どこまでも無防備に、隠し事なんかまったくできていない状態で、俺の膝の上でハイテンションのまま言った。

「お兄ちゃん、お花見楽しいね!!」

 

 そうか、楽しいか。兄ちゃんはほとんど動いていないのに、怪人退治より今日はもう疲れたぞ。花をほとんど見てないし。

 ……でもまぁ、いいか。

 

「そうだな」

 

 こいつが楽しいのならそれでいいと思った俺も、ここに集まった奴らのこと言えねーな。




外川さんリクエスト、「S級メンバー&フブキ組&ソニックで鍋」でした。

初めは「鍋の材料を一人一品持ってくる」ルールの鍋会で、エヒメがひたすらにS級達が持って来た材料に突っ込みを入れまくる話にしようかと思いましたが、どう終わらせたらええねんとなって没した結果、リクエスト的に鍋メインではなくオールキャラ物希望っぽかったので、鍋を諦めて今の時期に合わせたイベントにしてみました。
こうしないと、S級とフブキ組はともかく、ソニックが関われないというのもありましたので……

鍋会はまた鍋が美味しい時期にでもリベンジするということで、今回はこれで勘弁してくださるとありがたいです。
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