私のヒーローとあったかもしれないお話   作:淵深 真夜

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偽皇帝さんリクエスト。

「ジェノスとエヒメが小学生のころの友達だったら」
捏造だらけのIF話です。




勿忘草に託した願い事

 小学5年生くらいの時に、隣のクラスに転校生が来た。

 ミラージュがとてもカッコいい男の子だと騒いでいたのを覚えている。

 私は、隣のクラスだということで特に何の興味もなかった。

 

 ただその子が転校してきて間もない頃、ミラージュがどうしても転校生を見たい、でも隣のクラスに行くのは恥ずかしいと言われて付き添ったことがあった。

 だから、顔だけは知っていた。

 とても綺麗な金髪と同じように冴えた金の瞳が印象的な、噂通りカッコいい男の子だった。

 

 名前さえも知らなかった。ミラージュが言っていたかもしれないけど、興味がなかったから忘れてしまった。

 ミラージュがすぐに興味をなくして話題にもあげなくなったから、私は一か月もしないうちに隣のクラスに転校生がやってきたということさえも忘れてた。

 

 後になって知ったけど隣のクラスには自分勝手で嫌われ者で、けど体が大きくて力も強くて何より親がすっごいクレーマー気質でモンペないじめっ子がいて、彼は転校して早々にイジメられっ子を庇ってそのいじめっ子とケンカになって、自分より体が大きい相手だったのに勝ったらしい。

 でもいじめっ子は、負けたら親に自分の都合のいいように話して学校に文句を言ってもらって、事なかれ主義だったそのクラスの担任は転校生が悪いということにして話を終わらせた。

 

 彼ははっきりと言いたいことを言う性格なのと暴君だったいじめっ子に勝てるくらい強かったから、仕返しにイジメられることはなかったけど、彼に関わったら八つ当たりでイジメられるかもしれないと思ったのか、クラスの皆は彼と関わらないで避けていたみたい。

 

 私は何も知らなかった。

 何も知らないまま、夏休みの直前、図書室で声をかけられた。

 

「『エヒメ』さん?」

 

 * * *

 

 話しかけられた時は誰かわからなかったけど、すごくカッコいい子だったからすぐに思い出した。

 でも、私は隣のクラスで関わった事なんか一度もなかったからどうして名前を知っているのか、どうして私に話しかけてきたのかが不思議だった。

 

「驚かせてごめん」

 戸惑って何も言えず、ただ目を丸くして見返していただけの私に彼はまずは謝って、それから自己紹介をしてくれた。

 そして、私に話しかけた訳を答えた。

 

「面白い本を教えてくれないか?」

 

 貸出カードを片手に、彼はほんの少しだけ照れくさそうに私に頼み込んだ。

 どうも本好きだった彼は、うちの学校で本を借りる時に自分が面白いと思った本は高確率で私の名前が貸出カードに書かれていたから覚えてしまい、自分と同じ趣味と感性なんだなぁと興味を持ってくれたらしい。

 そして私はその日たまたま図書室で先生に話しかけられて、その時に「エヒメ」という名前を聞いたから、話しかけたという訳だった。

 

 夏休みや冬休みは本を3冊まで借りれるから、私からお薦めの本を知りたかったと彼は言った。

 だから、私は教えた。

 初めの会話は、ただそれだけ。

 

 2度目の会話は、夏休み中にも図書室を解放してくれる日があったから私は読み終えた本を返して新しい本を借りようとした時、同じように声を掛けられた。

 

「ありがとう。本当に俺好みで、つい夜更かししてすぐに読み切ってしまった」

 

 そう言って前よりも自然に笑ってくれたのが、嬉しかった。

 また何かお薦めを教えて欲しいと言われて、学校の図書室の本じゃなくて近所の図書館の本を薦めたのは、案内するから一緒に行こうと誘ったのは、きっとあの笑顔をもっと見たいと思ったから。

 この時点で、私の想いはきっと始まっていたんだと思う。

 

 それから、彼とは図書館でよく会うようになって、一緒に宿題をしたりするようになった。

 一緒に過ごすうちに、彼は少しずつ自分の事を話してくれるようになった。

 いじめっ子の事や、クラスで遠巻きに見られている事、お家の事情で両親とは離れて暮らしておじいさんとおばあさんの所に今はいる事。

 

 辛い出来事のはずだったのに、彼は一度も愚痴を言ったりはしなかった。

 ただあるがままの事実を淡々と語って、誰も憎もうとはしないのが同い年とは思えないくらいに大人ですごいなぁといつも思っていた。

 

 いじめっ子に目をつけられていた自覚があったからか、学校が始まってからも図書室や図書館では話すけど、それ以外だと私に気を使ってくれたのか話しかけたりはしなかった。

 私もミラージュにばれたら面倒だったから、漫画でも文字が多いのは嫌だと言ってた彼女が絶対に来ないであろう図書室と図書館でばかり彼と会っていた。

 

 積極的に隠してたわけじゃないけど、その「秘密の関係」にドキドキしていたくせに私は、彼の事を「友達」だと信じて疑わなかった。

 この「好き」は「Like」であること、「友愛」であると思い込んでいた。

 

「Love」であること、「愛情」であること、……「初恋」であった事に気付いたのは、いつだっけ?

 

 * * *

 

 冬休みの少し前、一緒に宿題をしようと約束したのに図書館の暖房が故障して臨時の休館になってしまった。

「仕方ないね」と言いながら別れようとしたら、彼の家に誘われた。

 あの時のドキドキはただの緊張、男の子の友達なんてほとんどいなかったから、少なくとも家に遊びに行くほど仲の良い子はいなかったから、初めてだったからだと思ってた。

 

 優しそうなおばあさんとおじいさんが出迎えてくれて、一緒に宿題をして、今読んでる本の話をして、門限の5時に間に合うように帰った。

 場所が図書館ではないというだけ、おじいさんとおばあさんに「またおいで」と言ってもらえただけ違いだったはず。

 

 なのに、彼との穏やかなあの日常は、その日をきっかけに終わってしまった。

 

 彼は別に私に冷たくなったとか、意地悪になったとかいう訳じゃない。

 話しかけたらいつもと同じように優しく応えてくれたけど、どこかぎこちなくなった。目を合わせてくれなくなった。

 

 それが次第に、一緒に宿題をしようという約束をしてくれなくなって、彼から話しかけることもなくなって、いつの間にか図書室や図書館に来なくなってしまった。

 

 そのことに酷い寂しさを感じていたくせに、それでも私は自分の気持ちに気付いていなかった。

 自分が何か、嫌われるようなことをしただろうか? 何か酷いことを言ったりやったりしたのかな? と不安になったのに、私は彼に直接拒絶の言葉を告げられるのを恐れて、私も彼から離れていった。

 

 それでも、心は決して離れてはくれなかった。

「お母さん、お父さん。クリスマスプレゼントはあれがいい」

 私の心は、彼を手放そうとはしなかった。

 

 私がクリスマスプレゼントにねだったのは、金色のシンプルなボールピアス。

 雑貨屋で売ってあったものだから下手な玩具やゲームよりずっと安くつくものだったけど、もちろん両親は小学生でピアスを開けるのは反対で買ってはくれなかった。

 

 私もわかっていたから、「ごめんなさい」の一言で終わらせて諦めた。

 けど、本当は諦めきれなかったことをお兄ちゃんはお見通しだった。

 

「オヤジ達には、内緒だからな」

 そう言って、お兄ちゃんが私に買い与えてくれた。

 お兄ちゃんはもしかしたら、私が別に耳につけたくてそのピアスが欲しかった訳じゃない事も気づいていたのかもしれない。

 

 そのピアスの色合いが、彼の瞳の金に似ていたから。

 だから私は、ただ欲しかった。

 

 自分から彼と一緒にいたいと訴えるのはもちろん、どうして彼が私を避けるようになったのかを尋ねる勇気もなく、だからといって潔く忘れることも出来ずにただ、私は彼の姿を目で追いながら何もしないで日々を過ごした。

 

 ……あの時、彼との「別れ」が近いことを知っていれば、私は何か行動に移したのかな?

 

 * * *

 

 3学期最後の日、終業式の日に下駄箱の中に入っていた小さなメモ。

『話したいことがあります。図書館で待っています』とだけ書かれたメモを見て、私は家に鞄をいったん置いて帰ることもしないで、走って直接図書館まで向かった。

 

 彼も、鞄を持ったままだった。

「ごめん」

 そして、悲し気な目で彼は謝った。

 

 私を避けていたこと、もっと早くに言うべきだったのに言えなかったこと、……彼が明日、元々住んでいた街に帰ってしまう事を、謝った。

 

 彼が詳しくは話さなかった。私も尋ねなかった。別のクラスだった。だから、私は何も知らなかった。

 彼は初めから、1年間だけうちの学校に通うと決まっていたことをまったく知らなかった。

 

 彼のお母さんが事故で大怪我をして、その治療とリハビリが1年近くかかる事と、お父さんの仕事は時間が不規則で多忙だからどうしても子供の面倒を見るのに無理があった。

 だから、1年間だけ祖父母の所に預けられていた。

 

 彼はずっと謝っていた。

 私を避けていたのは私が何かしたとか嫌いになったとかじゃない、1年間しかいないのだから友達なんかいらないと思っていたけど私と出逢えてよかった、私と一緒にいてすごく楽しかったと言ってくれた。

 

 どうして避けていたのか、その理由は聞けなかった。

 元々話すつもりがあったのか、なかったのかすら私にはわからない。

 ただ、いつの間にか私は泣いていた。

 

 気が付いたら溢れ出していた涙が止められず、私はただ泣きじゃくった。

 ただ泣くだけで、何も言えなかった。

 寂しいも、行かないでも、言えなかった。

 

 私が泣きだしたら、彼はさらに悲しげな顔になってただずっと「ごめん」だけを繰り返した。

 司書のおねえさんに見つかって心配されて、「ケンカ? それならとりあえずお家に帰って、頭を冷やしなさい。一日置けば、仲直りできるよ」と言われるまで、私はただ泣きじゃくって、彼は謝り続けた。

 

 事情を知らないおねえさんの言葉は、私たちにとってはあまりに残酷だった。

 

 * * *

 

 目を真っ赤に泣きはらして帰って来た私を、両親もお兄ちゃんも心配したけど私はただ「大丈夫」と言い張った。

 理由を話せばまた泣きじゃくる気がして話せなかったけど、部屋に戻ってお兄ちゃんがくれたピアスを、……彼の目によく似た金色を目にしてまた、私は部屋で一人泣いた。

 

 家族に心配をかけないように声を押し殺して泣いてたけど、そんなの皆にはお見通しだった。

 いつの間にかお兄ちゃんが部屋にやって来て、タオルを差し出しながら「誰に泣かされたんだよ。言えよ。兄ちゃんがぶっ飛ばしてやるから」と言い出した。

 

 盛大な誤解をしてたからその誤解を解きたかったのか、それともただ胸の内に荒れ狂う感情の濁流に耐えきれなかったのか、私はタオルを無視してお兄ちゃんにしがみついて泣きながら、しゃくりあげながら、結局話した。

 

 お兄ちゃんは全部話を聞いて、それからいつものように私の頭を優しく撫でて言ってくれた。

「約束したらいいんじゃね?」

 いつものように、ものすごく軽く簡単に言い切った。

 

「家の事情だから行かないでっていうのは無理だけどさ、またいつか会う事なら出来るだろ?

 約束して来いよ。いつか必ず、また会おうって。そうしないと、もう本当に会えなくなるぞ」

 

 お兄ちゃんは昔から、シンプルだからこそあまりに正しかった。

「もう会えない」という彼の言葉を、あまりにも真面目に受け取りすぎていた私は、今度はあまりにも単純にその提案に納得して、お兄ちゃんに話を聞いてくれてありがとう、心配かけてごめんだけ言って、家から飛び出た。

 

 お兄ちゃんがくれたピアスをとっさに握りしめて、私はたったの一度だけ訪れた彼の祖父母への家まで走った。

 

 彼の家について、今では信じられないけど何の躊躇もなく私はチャイムを鳴らした。

 たぶん、約束をしないとそれこそもう会えないという不安で、変にテンションが高くて暴走していたんだと思う。

 

 幸か不幸かよくわかんないけど、出てきたのは彼の祖父母ではなく彼自身だった。

 私の突然の来訪に驚いていた彼に、何の前置きもなく私はまた情けなく無様に泣きじゃくりながら、彼にしがみついて懇願した。

 

「――いつか、また会ってください」

 

 それだけしか言えなかった。

 他に何か言おうとしたら、寂しい、行かないでという身勝手な弱音ばかりに出てきそうで、それを堪えるにはただ私は約束を懇願する以外何もできなかった。

 

 そんな無様な私に、彼は言ってくれた。

 

「待っていてほしい」と、彼は涙を金の瞳に堪えて、それでも確かに笑って言ってくれた。

 

「君を二度と泣かせない。もう絶対に置いて行かない。避けたりなんか……逃げたりしない。

 そんな大人に俺は必ずなるから……、どうかその日まで待っていてほしい」

 私が飲み込んだ弱音さえも、彼は受け入れて約束して、そして私に懇願した。

 

 ……私はあの時、泣きながらでも彼のように笑って言えたのかな?

 

「うん」って。

 

 * * *

 

「……はぁ」

「……どうしたんだ? 今日は妙にテンションが低いな」

 

 じょうろに水を入れてたお兄ちゃんが、ベランダに行く途中で私に声を掛ける。

 この言葉に、私は自分でも可愛くないなぁと思う答えしか返せなかった。

 

「……お兄ちゃんもそうじゃない」

「あー……。嫌な夢……ではないか。なんつーか現実とのギャップが激しい夢を見たからな」

 お兄ちゃんの返答が、私が今日テンションが低い理由とよく似てた。

 

「……そう。……私も、同じような理由」

「……そうか」

 私はただそれだけ答えると、お兄ちゃんはそれ以上何も訊かず、そして言わずにサボテンに水をやりに行った。

 互いに触れて欲しくない、ただただそっとしてほしいという事はわかってる。

 だから私も何も訊かず、何も言わない。

 

 ただテーブルに突っ伏したまま、懐かしいものを手に取って眺めていた。

 手作りの可愛らしい小さな青い花を押し花にした栞を眺めて思い出す。

 今朝見た8年前の夢で、あまりに懐かしい人を、……初恋を思い出してしまった。

 

 もう果たされない約束を、思い出してしまった。

 

 あの日、私たちは互いに連絡先を交換した。

 手紙やメールでやり取りなんていくらでも出来たはずなのに、私は手紙もメールも送らなかった。

 ……「会いたい」という弱音を抑えきれなさそうで、出せなかった。

 

 向こうも私に手紙やメールを送ってくることはなかった。

 それは、私と同じ気持ちかどうかはわからない。

 もう、永遠にわかりはしない。

 

 3年前、当時の全てから逃げ出して、お兄ちゃんに助けて守ってもらって、お兄ちゃんに「何かしたいことはあるか?」と訊かれてやっとわがままを、自分の望みを口に出せるようになった頃、私が望んだのは「彼」に会いたいだった。

 お兄ちゃんは私のわがままに、すごく嬉しそうに笑って「任せろ」と言ってくれたのに、結果的に私は何にも悪くないお兄ちゃんを酷く傷つけた。

 

 ……彼が帰って行った彼の故郷は、私が逃げ出す1年前に壊滅して、生き残りがいないことをお兄ちゃんが初めに知ってしまった。

 お兄ちゃんは何も悪くないのに、私にどう伝えたらいいのかを何日も悩ませて苦しませてしまった。伝えて、私がまた極度のうつ状態に陥って、何もできなくなった私の面倒を全部みさせてしまった。

 

 せめて彼のお墓に行きたいと思えるようになるまで1年近くかかって、彼が1年間だけいた彼の祖父母の家に行ってみたけど、そこは更地になっていた。

 近所の人に尋ねてみたら、あの彼によく似た優しそうなおじいさんとおばあさんはちょうどあの日、壊滅した日に息子夫婦のところに泊まりがけで遊びに行って、彼らも犠牲になったことを知らされた。

 

 私は彼や彼の家族のお墓の場所どころか、彼がちゃんと埋葬されたのかすら知る機会を完全に失って、またしばらくふさぎ込んでお兄ちゃんに迷惑をかけた。

 

「……初恋は叶わないっていうけどさ、ここまで完膚なきまでに思い知らせなくてもいいじゃない」

 彼があの日にくれた、手作りの栞を眺めて呟く。

 あの日、図書館で初めから私に別れの挨拶と今までありがとうというお礼で、これを渡そうとしてくれていたらしい。

 ……彼はこの花の名前を、名前の由来を、花言葉を知っていたかどうかなんて知らない。

 知ったうえで渡したのかなんて、わからない。

 

 ただ、知ったうえでだとしたら、それが彼の願いだったとしたら、それは私も同じだったから、だからお兄ちゃんに悪かったけど私はとっさに持ってきてしまってたピアスを彼に渡した。

「あなたの目によく似てる、私のお守り」と言って渡したそれを、彼は笑って受け取ってくれた。

 

 彼の故郷のことを知ってから見ることが出来なくなって、けれど捨てることなんか絶対に出来なくて、怖いものを隠すようにしまいこんでいた栞を久しぶりに手に取って見ることができたのは、それだけ傷が癒えたということなのか、記憶が風化してしまったということなのか……

 

「酷い人」

 栞に貼りつけられた青い花に向かって、呟いた。

 忘れてもこんなに辛いのに「忘れないで」と願うその花に、その願いが彼のものかどうかももうわからないのに、私は八つ当たりをしてから、少しだけ泣いた。

 

 * * *

 

「お兄ちゃん、どうしたの!?」

 ベランダで蚊と無駄な死闘をしたかと思ったら、意地になって警報が出てるのに蚊を追って出て行ったはずのお兄ちゃんが何故か全裸で帰ってきた。

 

 もう蚊と死闘という時点で直前までの私の落ち込みはどっか行ったのに、さすがにこの公然猥褻物陳列罪で帰ってきたのは別の意味ですっごい落ち込むんだけど!!

 けどまぁ、なんかものすごい爆発があったからとりあえず無事でよかった。

 お兄ちゃんはもちろん、脇に抱えてる人も。

 

 お兄ちゃんが脇に抱えている人は、片手と下半身、あと片目を無くしてるサイボーグさんだった。

 もう私は全裸のお兄ちゃんは見たくなかったので、そっちの人に焦点を当てて「大丈夫ですか?」と声をかける。

 

 私が声をかけたら、その人は「はい。大丈夫で……」と何故か途中で言葉が止まって、残された片目を見開いて固まった。

 お兄ちゃんと私はその反応に困惑したけど、私とお兄ちゃんの困惑の種類は多分違った。

 

 お兄ちゃんは普通に相手の反応に困惑してたけど、私はその人を見て何故か「懐かしい」と思った。

 サイボーグの知り合いなんかいない。

 けれど何故か、確かにこの人に……彼に見覚えがあった。

 

 その黒い眼球の中の金の瞳を、私は知っていた。

 

 彼の耳のシンプルなボールピアスは、どこにでもあるありふれたもののはず。

 けれど、私にとってその瞳とその目によく似たピアスは――

 

 

 

 

 

「ジェノス君?」

 

 気が付いたら、涙と一緒にその名前が零れ落ちていた。

 彼は泣きそうな顔で、それでも笑ってくれた。

 

「…………エヒメさん」

 

 それは確かに、あの日の笑顔であったことを私は忘れてなんかいなかった。




偽皇帝さんリクエスト、「ジェノスとエヒメが小学生のころの友達だったら」でした。

書いてみたいIF設定話だったので、楽しんで書けました。
ただ、ジェノス視点がないとわかりにくい話になってしまったので、そのうちこの設定のジェノス視点も書きます。

本編に逆輸入されることが確実にない話だからこそ、かなり好き勝手書いた話ですが、満足して頂けると幸いです。
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