「フブキさんとエヒメが一緒に出掛けて服を買ったりとか色々町を巡る話」
すみません、買い物はしてるけど町はめぐりませんでした……
あと、ややフブキ→サイタマ要素があるので苦手な方はちょっと注意。
「エヒメ、これとか、あとこっちもどう? こっちは綺麗な桜色で、こっちは白レース。どっちも好きでしょ?」
フブキさんが二つのハンガーを手に取って私に、そのハンガーにかかってるものを見せる。
えぇ、フブキさんの見立て通り好きですよ。桜色も、白レースも。
ですが、それはいりません。
「そうですね。片方は布面積の意味がないくらいにスケスケじゃなくて、もう片方は開いてちゃいけないところに穴が開いてなければ欲しかったかもしれませんね」
「そんな死んだ目でダメ出ししなくてもいいじゃない。ちょっとくらい恥ずかしがるか、それともノるかくらいしなさいよ」
私の答えにフブキさんは子供のように唇をとがらせて、上下セットの勝負下着を元あった場所に戻しに行った。
「フブキさん、私で遊ばないでくださいよ……」
言っても無駄だとわかっているけど、抗議の声を一応かけて見たら、フブキさんは猫のように笑いながら飄々と言い切った。
「あら、遊んでなんかいないわよ。私は本気で選んであげてるのよ。
いつでも隣にお泊りになってもいいように、ね」
濃く紅を掃いた唇を色っぽく釣り上げられて紡がれた言葉に、思わず顔に熱が集まる。
「泊まりません!」
「あら、じゃあエヒメの家の方に泊めるの? サイタマがキングの家にでも泊まりに行ってたら、そっちの方が確かに楽かもね」
「そういう問題じゃないです! そもそも、私とジェノスさんはそういう関係じゃないです!!」
とっさに怒鳴り返して否定してもフブキさんは揺るがず、おかしげに笑って言い返す。
私の方ももう一回言い返してから、そもそも前提がおかしいことにようやく気付く。
そのことを指摘しても、フブキさんの悪ノリは止まらない。
「いいじゃない。備えあれば憂いなしっていうし、一着や二着くらい用意しとけば?」
「そんなその場のノリでなし崩しな関係は嫌です!!」
「そうよねぇ。あの鬼サイボーグ、そのまま責任取るって言い出しかねないから、重いわよね」
「嫌な点はそこ!?」
やっと笑ってからかうのをやめたかと思ったら、なんか全然違う部分に納得してるし。
フブキさん、違う。そうよねって、私はそこを同意してない。
いや、確かにあの人はそういうこと言いかねない人だし、嫌かそうじゃないかと言えば、確かに重くて嫌だけどそこじゃねぇよ。
まぁ、フブキさんも本気で言ってるわけでもないでしょう。
その証拠に、私の突っ込みを無視してやっぱり楽しげに勝手に話を続けてる。
「けど、重いくらいに生真面目だから逆に言えば、既成事実にさえ持ち込めばあとは楽よ。責任感じて主導権もこっちが持てるし」
「持ち込みません!!」
フブキさん、それは私をからかってんの!? それともアドバイスのつもり!?
アドバイスなら肉食すぎるだろ!!
「っていうか、どうせあんたからは恥ずかしがって積極的な行動なんかとれないんでしょ? あの鬼サイボーグの方も、確実に同じタイプだし。
なら、向こうが積極的に……というか理性をプッツンするように誘導しなくちゃ先になんかいつまでたっても進まないわよ」
「そもそも、告白もしてないこの段階でそんな話をする方がおかしいんですけどね!!」
「だからほら、これなんかどう? ガーターベルトって男は妙に好きなのよね~。あいつ、絶対にムッツリだからこれがチラ見えしたら理性に大ダメージ喰らうんじゃない?」
私の突っ込みを総スルーで、フブキさんは黒レースのガーターベルトを取り出して、私に見せる。
ダメだ。この人は私をからかって面白がってるだけだ。
そしてごめん、ジェノスさん。ムッツリだというのは否定できない。
私はジェノスさんのことをストイックな人だと思っていたし、今でも基本的にはそうだと思うけど、ソニックさんとの一件で少しだけイメージが崩れた。
少し遠い目になりつつ心の中でジェノスさんに謝っていたら、またフブキさんが悪ノリしだして、「ベビードールもいいわね。エヒメ、ギャップ狙いで黒とか紫はどう?」とか言い出した。
さすがにそろそろ突っ込みには疲れてきたので、ここらでフブキさんの悪ノリをやめさせようと思って、私はちょっと真顔でフブキさんに声をかけた。
「フブキさん」
「え? ちょっ、何で真顔?」
私が真顔になったことで本気で不愉快になって怒り出したのかと思ったのか、フブキさんがちょっとバツが悪そうな顔をして焦る。
別に怒ってはいないんだけど、さすがに散々からかわれた後なので、そのことを教える必要はないかと意地悪なことを思いながら、私は言葉を続ける。
「勝負下着って、初勝負の時に着てたらむしろ引きません?」
私の言葉で、私とフブキさんの間に沈黙が落ちる。
数秒間、その沈黙が続いた後でフブキさんが手に持ってたベビードールを棚に直しながら、彼女も真顔で言った。
「ごめん、エヒメ。男の本音はともかく、確かにそれで引かない男は女からしたらドン引きね」
でしょうね。
だいたい、レースやフリルたっぷりな可愛い系や、ちょっと普通より布面積が小さかったり、パンツのサイドが紐程度の下着ならともかく、さっきからフブキさんが持ってきていた、着たまま致すのが目的な下着は勝負下着じゃないだろ。
あれはそういう趣味の方々か、マンネリ解消のためのものであって、勝負にかけるためのものじゃないと私は思う。
っていうか、少なくとも初勝負であんなん着てる女は私が男なら引く。
男の本音は本当にわからないけど、頼むから初勝負でこんなん着てきたら女として引いて欲しい。
「というか、意外にあなたこういう話題は平気なのね」
テンション下がって私にきわどい下着を勧めるのはやめて、大人しく自分の下着を見繕いながらフブキさんは言う。
「好きでも得意でもないですけど、私、女子校出身ですよ? これくらいの話題は普通にしてましたし」
私の答えにフブキさんはあっさり、「それもそうか」と納得した。
女子校、特に私が通っていたようなお嬢様学校の生徒はみんな、下ネタなんてわからないか聞いただけで顔を真っ赤にさせる、子供はキャベツ畑かコウノトリを本気で信じてると思っている人が割りと多いけど、そんな訳がない。
良家の子女の花嫁養成学校的な側面が強かったから、礼儀作法に関しては厳しくて校則もかなりきつかったけど、それでもやはり恥じらいというものは異性の目があってこそ生まれるもの。
それこそ談話室で語られる話は、もっと直接的で過激な話ばっかりだったし、ガールズトークは男が聞いたら、ロマンが崩れ落ちて死ぬレベルの内容がゴロゴロでげんなりした覚えしかないですよ。
あ、でも稀に本当に真っ白すぎて、この子は社会に出して大丈夫なの!? ってレベルのお嬢様もいたけど。
私の親友ですけどね。
結婚前の健全な付き合いは文通までって何? 彼女は実は平安時代からタイムスリップしてきたんだろうか。
そんな懐かしいけどどうでもいいことを思い出していたら、そういえばフブキさんとヘラって結構似てるなーという事に思い至る。
そこに思い至ると同時に、さっきまでの仕返しにとちょっとした悪戯心が芽生えた。
「そういうフブキさんは、いらないんですか? 勝負下着」
私の言葉に、フブキさんは一瞬固まった。
そして、顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「な、何で私がサイタマ相手に勝負かけなくちゃならないのよ!?」
「え? 何でお兄ちゃんが出て来るんですか?」
……………………沈黙が、落ちる。
先ほどの私たちのやり取り以上に気まずい沈黙の中、私とフブキさんは二人して固まる。
いや、私はただフブキさんはヘラと色々似たところがある人だから、ヘラと違って口では色々言えるけど本質は彼女と同じ純情タイプだと思っただけだよ!
というか、タツマキさんのフブキさん溺愛っぷりと独占欲の強さを考えたら、この人は実はたぶん結構な箱入りで男性に対する免疫はあんまりないんじゃないかな? とか思って、ちょっとさっきまでの仕返しにいじってみようと思っただけだよ!
そしたらまさかの、私は名前なんかあげてなかったのにまさかのお兄ちゃんが……
え? フブキさん、そういうこと? 自滅? 自爆?
「お、お兄ちゃんはベタなセクシー系が好きだから、そのままで大丈夫ですよ!」
「だからサイタマは関係ないわよ!!」
まさかのお義姉さん候補出現に浮かれてアドバイスを送ったら、真っ赤な顔で否定された。
けどその程度の否定では、私は退きませんよ。
あぁ、もう顔のニヤニヤが止まらない。私なんかをいじって何が楽しんだろうと思っていたけど、こういう事だったんですね、フブキさん。確かにこれはやめれません。
人の恋路をいじり倒したいっていう欲求が、明らか顔に出てる私に危機感を覚えたのか、フブキさんは私が何かを言う前に饒舌に言い訳を口にする。
「さ、サイタマがとっさに出てきたのは、あなたに言われたからであって、別に他意なんかないわよ! あいつを勧誘するのも、私はサイタマの強さだけが目当てだし、そりゃ意外に頼りになるし、割とフェミニストなところはあるし、顔の造形自体は悪くないけど、あんなデリカシーも毛根もない奴の事なんか私は何とも……。
というか、エヒメも何ニヤニヤしてるのよ!? 私なんかを義姉になったら、面倒くさいだけでしょうが!!」
パニクってるからか、言い訳の為に何故かフブキさんは自分を貶め始めた。
そんなことはないと言ってあげたいけど、確かにこの時点で面倒くさい人だな、この人!
「別に私はお兄ちゃんが良ければ、誰でも文句なんてありませんよ」
「あぁ、もう! こういう所ばっかよく似た兄妹ね!!」
私の返答にフブキさんがその場に頭を抱えて座り込んじゃった。
うん、お店の迷惑だし今日の所はこの辺でやめておこうかな。
明確なのは取れなかったけど、言質に近い内容は聞けたことだし。
* * *
「エヒメさん。地獄のフブキが、エヒメさんに渡しておいてほしいと言っていたんですが……」
見回りに出ていたジェノスさんが帰って来て、紙袋を片手に少し困惑した様子で私にそれを渡す。
「フブキさんが?」
私もその紙袋を受け取りつつ困惑。
「はい。プレゼントだそうです」
町を見回っている最中にフブキさんに出会って、「これ、渡しといて」と押し付けるように渡されたらしいけど、ジェノスさんの補足の言葉を聞いて、さらに私は首を傾げる。
プレゼント?
別に私の誕生日は今日どころかまだまだ先だし、クリスマスとかそういうイベントだって今月は特にないはず。
数日前に一緒に買い物に行ったけど、あれは互いに買いたいものと予定が合ったから一緒に行っただけで、特に何かをお礼でもらうようなことは一切した覚えはない。
……むしろ、フブキさんが盛大な自爆をして私が悪ノリしたから少し恨まれる心当たりがあるくらいだ。
何なんだろう、これの中身は。
「失礼ですが、熱源反応やエネルギー反応などの有無だけは確認させていただきましたので、危険物ではないのは確かです。なので、とりあえず開けてみてはどうですか?」
戸惑っている私にジェノスさんは提案する。
っていうか、危険物かどうかチェック済みなのか。スキャンで中身を見てしまわなかっただけ、プライバシーを重視してくれたと思っておこう。
けど、重さと手触り的に危険物の可能性は限りなく低いと思いますよ、ジェノスさん。
そんなことを思いながら、私はジェノスさんの提案通りとりあえず開封して、中身を取り出した。
……手触りと重さからして、布であることはわかっていたのだから、中身を想像できても良かったよなーと後になって思った。
っていうか、フブキさん。郵送でも遊びに来た時でもなく、ジェノスさんを経由して渡したのはわざとでしょ。
紙袋を開けて初めの見えたのはただの白い布の塊だったから、私は何も考えずにその布を引っ張り出してしまった。
……ジェノスさんの目の前で、それは開帳された。
バックに猫の肉球らしきプリントがされた、白いヒモパンが。
盛大に私とジェノスさんが噴き出してから、ジェノスさんが身体ごと反対を向いて私はそのヒモパンを紙袋の中に突っ込んだ。
何これ!? フブキさん、何なんですかこれはーっ!?
袋の中をよく見てみたら、そこに入ってる布二つは少し見覚えのあるもの。
……肩ひもはあるけどチューブトップに近い構造に猫の形で穴があいて谷間を見せるようになってるブラジャーと、バックには肉球プリント、前面は全体で猫の頭みたいな形になってるパンツ……。
あの下着屋にあって、フブキさんが悪ノリして私にきわどい下着をすすめるようになったきっかけの、猫ランジェリーだ……。
フブキさん、何考えてるの!?
確かに私は、可愛くてちょっと真剣に欲しいと言いましたけど、これは嫌がらせでしょう! ジェノスさん経由で渡したのも、そうしたらジェノスさんの目の前で開けるだろうってことを計算してたでしょ、絶対に!!
そんなに私にからかわれたのが、屈辱で不覚だった!?
「ジェ、ジェノスさん! 仕舞いました! もう紙袋の中に仕舞いましたから、こっち向いていいですよ!!」
フブキさんに対して色々言いたいことはあったけど、とりあえず壁の方向を向いて正座したまま固まってるジェノスさんに呼びかける。
「す、すみません! 申し訳ありません、エヒメさん!!」
「ジェノスさんは何も悪くないから! 土下座しなくていいですから!!」
向き直ったジェノスさんがそのままの勢いで土下座しそうになったのを、慌てて止める。
あぁ、もう何なんだこの状況は!
「ジェノスさんは悪くないですから、気にしないでください! フブキさんのちょっとした悪戯ですから!!」
そう言ってとりあえずジェノスさんをフォローしていたら、ジェノスさんも私をフォローしたかったんだろう。
うん、きっとそう。ただ、盛大にパニクっちゃっただけだっていうのはわかってる。
「いえ、あの、そのすみません! 大丈夫です! 絶対にお似合いです!!」
力強い謎のフォローに、沈黙が落ちた。
……うん、フブキさん。色々と抗議したいし文句も言いたいけど、とりあえずこれだけ伝えたい。
あなたの予想通り、割とこの人はムッツリです。
そんなことを考えながら、私はテレポートで少しジェノスさんから距離を取った。
「エヒメさん!?」
レジさんリクエスト、「フブキさんとエヒメが一緒に出掛けて服を買ったりとか色々町を巡る話」でした。
ファンブックでフブキの好きなものが「私にふさわしいブランド品」だったため、この二人は金銭感覚や好みが結構真逆のなので、買い物しながら町巡りというのがどうしても浮かばなかった結果、こんな話になってしまいました。
リクエストに添えているのか微妙な話ですが、気に入ってもらえたら幸いです。