「エヒメのあずかり知らぬ所で、エヒメの評価が鰻登りになる話」
うなぎ上りになってるのかどうかは微妙ですが、とりあえずS級がエヒメ好きすぎる話です。
ゾンビマン視点で、時系列は、10ヒーローズ編の「十人目「今はまだ会えない」」の後くらいです。
「じゃあ、とりあえずそれぞれ希望する曜日とか絶対に無理な日とか上げてゆきますか」
「だから、エヒメさんを守るのを交代制にするなと言ってるだろうが!!」
……いきなり前置きなしで童帝がわけわからんことを言い出したかと思ったら、新入りのサイボーグの言葉でだいたいわかった。
お前ら、その話前にした!
1週間くらい前に、「地球がヤバい」対策会議をぶっ潰して3時間ぐらいかけてした!
本当にお前ら、あの嬢ちゃんが大好きだな!!
* * *
前回の招集からほぼ間を開けずにまた招集がかかったのは、それこそ前回まったく対策会議が出来なかったせいだと思っていたが……まさかの前回の続きだった。
おい、ここはいつからあの嬢ちゃんのファンクラブになったんだ?
対策会議に意味はないことを理解していたが、少しでもいざという時に連携が取れるように一応出席しておこうと思った俺が間違いだった。
番犬マンやフラッシュ、駆動騎士や豚神、クロビカリを見習って来なければ良かった。
もう今からでも遅くはないと思い、俺は「くだらない話しかしないなら、俺は帰るぞ」とだけ言って席を立つ。
その瞬間、ギャーギャーと言い争いをしていた全員が、俺に視線を向けて今度は俺に文句を一斉砲火してきやがった。
「ゾンビマン、貴様もう一度言ってみろ!!」
「くだらないって何よ! くだらないって!!」
「ゾンビマンさん、最低ですね。ヒーローが一般人のおねえさんを見捨てる気ですか?」
「てめぇ、エヒメさんがどうなってもいいって言うのか!?」
「おヌシら、いったん落ち着け」
サイボーグ、タツマキ、童帝、金属バットが一斉に文句をつけてきてさすがにたじろいだところで、シルバーファングが声をかけた。
全員とりあえず俺に噛みつくのはやめたが、納得はしていないのかまだ全員が俺を睨み付けいる。……俺はそんなに、酷いことを言ったのだろうか?
「……いや、お前らがあのお嬢ちゃんが好きなのは知ってるが、さすがに自分らの立場を忘れんなよ。俺も、あの子は気に入ってるし、怪人や犯罪者に襲われてたら絶対に助けてやろうと思うけど、あの子だけを特別扱いする気はねぇぞ」
自分の言動に自信が持てなくなってきそうなところで、前回も今回も面白がって見てただけのアトミック侍がさすがに呆れたような顔と口調で口を出した。
良かった。俺の考えがおかしいわけではないんだな。
「それは当然の前提だ。だが、あの子の場合は少し特殊な事情があってな」
「事情?」
アトミック侍の言葉を肯定しつつ、サイボーグたちをフォローしたのはタンクトップマスターだった。
タンクトップ至上主義という俺には理解できない奇妙なこだわりを持つ男だが、そこを除けばこのS級の中でも良識的な奴から、この公私混同な会議を肯定する言葉が出るとは思わなかったので、オウム返しで俺は尋ねる。
「あぁ。どこから話せばいいのか……というか、話していいよな?」
タンクトップマスターはサイボーグの方に一度視線を向け、奴が眉間にしわを寄せた不機嫌そうな顔のまま頷くのを確かめてから話し始めた。
……話を聞いて、とりあえずあの嬢ちゃん大好きな奴らがテンション高く殺気立っていたのも、良識的なタンクトップマスターやシルバーファングもS級がわざわざ一般人であるあの嬢ちゃんを個人的に守ってやることを反対しない理由も理解した。
というか、俺はその「エヒメ」という嬢ちゃんの顔すらよく覚えていないぐらいだが、本心から同情したし自分がこのヒーロー協会所属のプロヒーローというのが嫌になった。
「ふん。なるほどな。いいだろう、俺も協力してやるぜ。なんなら今から、嬢ちゃんに怪人をけしかけようとしたクズ職員を細切れにしてやろうか?」
同じく話を聞いたアトミック侍は、顔こそはいつもの余裕ぶった薄ら笑いを浮かべているが、サイボーグや金属バットと同じくらい眉間にしわを寄せている。
それに関しては、俺も手伝ってやりたい気分だ。
……何が、ヒーロー協会だ。ただ逃げるだけの力しか持っていない女の子を、自分たちとスポンサーを逃がすためだけに利用したくてスカウトという時点で不快な話なのに、それを断られたらマッチポンプで恩を着せるつもりだったのか。
もちろん、ここの職員や上層部が全員、自分だけが可愛くて打算的な奴らではないことはよく知っている。
特に災害情報をこちらに伝えるオペレーターたちなど、現場や前線を比較的よく知っている奴らは、その怪人被害の陰惨さや前線に出る俺たちの苦労を理解してくれていて、気を使ってくれる者が多い。
だからこそ、一般人であるあの嬢ちゃんはもちろん、俺たちの同志である良心的な他の職員たちの名誉まで貶めるような真似をする輩が許せなかった。
が、俺らの怒りの落としどころはすでに罰を受けていたことを童帝があっさりと告げる。
「いえ、結構です。おねえさんをストーカー怪人に襲わせて、自作自演で助けて恩を売るなんてくだらなくて最低な計画を立てた上層部の奴らには、ぷりぷりプリズナーが自ら『お仕置き』してくれたそうですから」
数秒間の間を置いて、俺とアトミック侍が「…………そうか」とだけ答えた。
プリズナーが「お仕置き」と称して何をやらかしたのかをは、訊かないでおいた。ナニをやらかしたのは、もうわかってるからむしろ知りたくない。
というか、今日プリズナーがいないのはそのせいか? 刑期がまた伸びて裁判中か?
「……とはいえ、プリズナーが手を下したのは奴に直接、エヒメさんを怪人に襲わせてから助けるという自作自演を依頼した奴らだけだ。そいつら以外に計画に乗った輩や、協力した者がどれほどいるのかはわかっていない」
サイボーグが心底忌々しそうな口調で、童帝の言葉を補足する。
あぁ、なるほど。だからお前らは事態が一応は解決してるはずなのに、まだこんなにも殺気立ってるのか。
懲りてないバカが同じようなことをやらかすか、それとも逆恨みの八つ当たりでも起こしかねないことを、警戒してんのか。
そんなことはないだろうと言いきれない辺りが辛い。そんなことをやらかすほど馬鹿ではないのなら、そもそも前提であるこの事件は起こっていないのだからな。
「なるほど。事情は理解した。積極的に動くつもりはないが、出来る限りの協力はしよう」
そう返答して、もう帰るつもりだった。正直、俺がいなくても問題ないどころか俺も積極的に協力すると言った方が、ライバル認定されて面倒なことが起きそうなメンバーだったからな。
俺の言葉は社交辞令に近かったが、だが決して実行する気はさらさらない虚言だったわけでもない。
だから席を立つと同時にふと、協力するには一番必要な情報が俺には抜け落ちていることに思い至り、俺は新入りのサイボーグに声をかけた。
「おい、そういえば俺、その子の顔をほとんど覚えてないんだが写真か何かあるか?」
全く覚えていない訳ではない、大人しくて可愛い子だった程度の印象は覚えているが、俺があの子に会ったのはA市が壊滅したあの日限りで、俺の方はさっさと帰ってしまったので会話どころか目が合った覚えすらない
少し似た背格好の子と並べられたら確実に俺はわからんから、明らかに一番親しいサイボーグに写真を見せろと言ったんだが……
サイボーグは、俺の言葉にケータイでも取り出して写真を見せることもなければ、何も答えず無言で目をそらした。
「? 何してんのよ、ポンコツ。まさか、写真すら見せたくないとか言い出すんじゃないわよね?」
タツマキがサイボーグの反応に文句をつけるが、サイボーグは何も言い返さずタツマキからも目をそらす。
その反応は、タツマキの言葉が図星というより……
「……まさか、ジェノス君……」
「……サイボーグさん、そんな、デートしておきながら!!」
俺と同じ想像をしたのか、本気かふざけてるのかよくわからないテンションでシルバーファングと童帝が言った。
サイボーグはその二人からも目をそらし、というかもうほとんど首を限界まで曲げて壁の方を向きながら呟くように答えた。
「……………………ない」
『嘘だろ・でしょ!?』
「うるさい黙れ! 俺だって欲しいわ!!」
サイボーグの答えに、全員の驚愕が唱和してサイボーグの方は逆キレしながら本音を叫ぶ。
……お前、関係ない子をS級集会に連れてきて、しかも手を繋いで入ってきたかと思ったら付き合ってないことだけでも驚きなのに、……写真一枚持ってない間柄なのかよ。
全員がそのことに呆れているとも憐れんでいるとも言い難い微妙な気持ちになり、本人は頭を抱えて机に突っ伏した。
「俺だって写真を撮りたいし、出来れば一緒に写ったものが欲しいわ。けど、改めて写真を撮りたいなんて、どんな顔して言えばいいんだ? どんな状況とタイミングでなら、引かれず撮らせてもらえるんだ?」
「んー、じゃあ仕方ないや。金属バットさん、ゾンビマンさんに見せてあげてくださいよ」
「はぁっ!?」
サイボーグが写真を持っていない言い訳なのか、ただの愚痴なのかよくわからんことを机に突っ伏しながら呟き続けるのをよそに、童帝がさらっとターゲットを変えて名前を挙げられた金属バットが素っ頓狂な声を上げる。
「な、ななななな何のことだよ?」と金属バットは恍けるが、こいつは致命的に嘘が下手だな。
「金属バットさん、最近たまにケータイ見てニヤニヤしてるじゃないですか? 妹さんとおねえさんがお友達なら、妹さんを理由に、もしくは妹さん経由で持ってるんじゃないんですか?」
童帝が金属バットの反応を、おかしげに笑いながら奴が持ってると思った理由を語ると、サイボーグが復活。ついでにタツマキも何故かサイボーグと一緒に金属バットを問い詰めた。
「金属バット! 童帝の言ってることは本当か!?」
「何、妹を理由にあの子の写真を撮ってるのよ、変態! 早く見せなさい! そしてよこしなさい!!」
おい、タツマキ。本音出てる。もう少しでいいから隠せ。
その後、しばらく金属バットは自分のケータイを死守しようとしたが、タツマキによって壁に叩きつけられて現代アートのようになってから、サイボーグにケータイを奪われた。
……これは、写真を見せろと言った俺の所為なのだろうか?
* * *
「……金属バット、お前と妹そっくりだな」
「……おう、ありがとな。けど、それはどうでもいいだろ!! 見たならさっさと返せ!!」
待ち受けがちょうど、金属バットの妹とそのエヒメという子の写真だったので見せてもらったが、正直肝心なエヒメという子よりも、やけにそっくりなこいつの妹に目がいった。
っていうか、別に何も褒めてねぇよ。
とりあえず、無駄に金属バットの妹の顔もセットでだがエヒメという嬢ちゃんの顔も覚えたので、俺は言われた通り金属バットにケータイを返すと、その途端、金属バットは他のS級メンバーに囲まれた。
「金属バットさん、僕にも送ってくださいよ。おねえさんの写真」
「やらねーよ! ゼンコも写ってるのに、やるわけねーだろ!」
「いや、正直言ってお前の妹は割とどうでもいい」
「っていうか、金属バット。あんたの妹とあの子が友達だってのは知ってたけど、何であんたも一緒にあの子と遊びに行ってるのよ!!」
「何でお前がそこにキレるんだよ!?」
「なんじゃ、タツマキ。エヒメ嬢と一緒に遊びたいのか?」
「べ、別にそんなんじゃないわよ! ただあの子が危なっかしくて見てられないから、たまに一緒に買い物したり甘いもの食べたいだけよ!!」
「遊びたいんじゃねぇか!!」
「タツマキ、お前が何を言いたくてどう思われたいのかが俺には分からん」
「サイボーグさん、あれはツンデレという様式美ですよ」
……アホらしい、お前ら何歳だよ、ここはマジでいつからS級ヒーローの集まりじゃなくてただのファンクラブになったんだよ?
そんな感じで言いたいことは山ほどあったし、率直に言えば呆れていたが、同時にこのガキみたいなやり取りを見ていて感慨深いものを感じてしまった。
あの、個人主義の巣窟で人の話を聞かず、マイペースで好き勝手しかしない奴らが、和気藹々とは言い難いが普通に会話しあって多少は協力し合おうと思っていることに、何故か親が子の成長に感動するような感情が芽生えた。
そんな自分の中の妙な感動に戸惑っていたら、横で「確かに、いい子だなあの子は」とキングが独り言を発した。
っていうか、いたのかキング。
こいつはキングエンジンの印象が大きすぎるのと、口数が少なくて気配を殺すことにも長けているせいで、キングエンジンを鳴らしていないと実はいるかいないかよくわからなかったりする。
他の連中も、キングの方を見て少し目を丸くしている。
その反応は奴の存在を思い出したからというのもあるだろうが、おそらくはキングがそんなことに興味を持つとは思わなかったという驚きの方が大きいだろう。
こいつは人類最強の異名を持つヒーローだが、基本的に人助けより自分の強さを求めている節が強く、手ごたえのない雑魚だと判断した相手なら、戦わずに他のヒーローに任せて帰ることも多いからな。他人に興味を示すのは確かに意外で珍しい。
その珍しさに全員が驚いてはいたが、自分の強さや戦い以外に、他者に興味を持つようになったことはヒーローとして良いことのはずなので、俺の方はまたしても妙な感動をしたが、他の連中は少し違ったようだ。
「ダメですよ、キングさんは協会の最終手段なんですから、力を温存しておいてください! おねえさんは僕らで守りますから!!
っていうか、嫌ですよ! キングさんが出てきたら、僕らに出番がなくておねえさんにカッコいいところ見せれなくなるじゃないですか!!」
「つーか、何でお前がエヒメさんのことをちょっと知ってるように話すんだよ! あれか!? 前にエヒメさんのハンカチを拾った時のをきっかけで親しくなったとかか!?」
「ちょっと何それ、どういうこと!? キング、あの子に手を出してないでしょうね!」
「……やはり、焼却すべきか」
「いや、お前ら落ち着け!!」
お前らそんなに、あの子を他の奴らにとられるのが嫌か!
キングもキングエンジン鳴らして戦闘モードになるんじゃねぇよ!!
キングに敵愾心全開になった4人を、シルバーファング、アトミック侍、タンクトップマスターの三人はそれぞれ深いため息をついてぼやく。
「やれやれ、やはりこうなったか」
「これはもう、当番制にしようが他の奴らがライバル蹴落とそうして同士討ちになるんじゃないか?」
「っていうか、今まさに同士討ちしてんだろ。おい誰か、嬢ちゃん呼んで来い。たぶんあの子じゃないと、こいつら止まんねーよ」
その通りだよ。
っていうか、少しは協調性とかが生まれたと思って感動した俺がバカだったよ! どいつもこいつもやっぱり、自己主張が激しすぎるわ!
おい、エヒメとかいう嬢ちゃん。あんたは何も悪くねーけど、マジでなんとかしてくれ。
お前のセコム兼ファンクラブを。
寿限夢さんリクエスト、「エヒメのあずかり知らぬ所で、エヒメの評価が鰻登りになる話」でした。
ゾンビマン視点なのは、彼以外にまともな突込みをしてくれそうな人がいなかったから……
気に入ってもらえたら幸いです。