Sword Art Online Wizard 作:今夜の山田
今回五千文字。色々突っ走っちゃってるので内容は薄いです。
闘技場の控室入口まで足を進めるとキリトが副団長サマ――えーっと、名前なんだっけ。と一緒に控室入口まで歩いてきていた。
「アスナ、ごめんな……負けちゃってさ」
「ううん。キリト君が無事なら私はそれでいいよ」
ああ、そうだ。アスナだ。アスナ。――副団長サマでいいか。
まあまあ、肩を寄せ合って、まあ。あんたら仲良いようで羨ましいですね。
そしてすれ違おうとした時、俺は副団長サマに呼び止められた。
「? ちょっとあなた、どこかで会った事……」
言葉を出したら声で見分けられるだろうか。いや、俺の場合は容姿での印象が激烈だから声なんて覚えないか。
いや、色々言葉を交わしているし、声だけでも危ういだろう。そう考えていると、落ち込んだキリトが落ち込んだ声でアスナに話しかける。
「アスナ……騎士団の制服は黒系の生地が使われたやつで頼む……」
「って、もー! 黒系の生地が使われた制服なんて無いよ!」
「じゃあ、できるだけ地味な奴にしてくれ……」
「はいはい、わかった。できるだけ地味な奴ね」
そのまま二人は控室に消えていった。助かったが、何だろうこの気持ちは。おそらく羨望だろうが。
俺だって、上手く立ち回っていれば今頃アキヒトやハリオス……そしてジクトリクスと仲良く冒険していたに違いない。はずだ。
こうなったのも元を辿れば安易にシステム改竄に頼ったため。全てとまではいかないが、ほとんどの事は今更だ。
もっと上手く隠蔽してさえいれば問題は無かったはずだ。使わなくても問題は無い。元からこの体自体がチート染みたものだからな。
控室入口の前に辿り着き、そこから中心に向かって歩く。最初から中心に歩いてもよかったが、相手――ヒースクリフがわざわざ似たような事をしたのだ。それに乗ってやらないほど捻くれてはいない。
それに歓声を浴びるという貴重な事も経験できた。思わず心身が震えてしまい、ギクシャクした歩みになってしまった。どうせなら堂々と歩きたかったものだ。
ヒースクリフとの距離が10mほどに詰まると、俺は歩くのを止めて、決闘申請が来るのを待つ。
「武器は出さなくてもいいのかね?」
「決闘申請受けたら出すよ。対策はあまり取られたくないからな」
「私の対策は取れているのかね?」
「いやまったく。とりあえずは定石通り攻めさせてもらうよ」
「そうか。では楽しみにしておこう」
そう言ってヒースクリフは先ほどの決闘と同様にメニューを操作し、俺に決闘を申し込む。そして俺は初撃決着モードを選ぶ。
俺の脳内勝率予想は五十%。ヒースクリフの防御を抜ければ俺の勝ち、抜けなければ俺の負けだ。
「では、この戦いに私が勝ったら、君には血盟騎士団に入ってもらいたいのだが、如何だろうか」
「オッケーオッケー。じゃあ俺が勝ったら何でも一つ言う事聞いてもらうぜ」
俺がそう言うと、ヒースクリフは鼻で笑う。
「私にできる範囲のものであれば、一つだけ聞こう」
どうやらこの団長サマは既に自分が勝者だと思い込んでいるようだ。
カウントが残り十秒程になった時、俺は得物である槍を取り出す。鍛冶スキルのレベル上げにと強化を繰り返した結果、《レイジングブル》をも超える攻撃力に仕上がった青の長槍だ。
銘は《アビスグラウンド》。俺がこの槍を取り出すと歓声がより一層強くなった。
対するヒースクリフは一声も上げず、ただその金属を思わせる色の瞳を鋭くする。
【DUEL】の文字が弾けた瞬間、俺は後ろに跳躍する。
更に10mほどの距離を空け、突進姿勢を取る。ヒースクリフは前面防御を固めたようだが、甘いと言わざるを得ない。
左斜め45度辺りに5mほど跳び、その位置からヒースクリフに向けて《スパイラルチャージ》を発動させ、ロケットスタートで一気に距離を詰める。
そして俺の定石は見事――十字盾に防がれていた。
「……あれ?」
思わず素っ頓狂な声が口から漏れ出る。防がれるとは思っていなかった。自慢の《跳躍スキル》はトップクラスの速度、《スパイラルチャージ》の突進力も高い。
例え知覚できたとしても、反応できる速さでは無い。それがいともたやすく防がれる。予め来る位置が分かっているか、人間ではない反応速度で動いたかのどちらかだろう。
人間ではない反応速度で動けば当然、あの天才科学者にバレて消されるはず。となれば予め来る位置が分かっている、という事だ。おいおい、VRMMOだからSFかと思ったけどまさかのファンタジーか。
しかし俺の槍は十字盾を貫いていたようで、ヒースクリフのHPは残り6割を下回っていた。来る位置は分かっていても、防げるかどうか、HPがどれほど減るかは分からかったようだ。
そしてその直後、システムメッセージがデュエルの終了を告げる。勝者は俺ことKokurou。紫色のエフェクトは、ただいつも通り勝者の名前とデュエルが終了した事を告げた。
歓声が上がる。
――しかし、その歓声は一瞬で止み、直後ただのざわめきと化した。
歓声がざわめきと化した直後、俺はある事を忘れていた事を思い出す。
フードを被っていれば特徴的な白髪と肌の白さは隠せると踏んだが、それが隠せるのはあくまでも容姿のみ。
俺の名前は《インヴィジブルレッド》の他にKokurouというちゃんとしたゲーム内ネームがある。そして《インヴィジブルレッド》がKokurouだという図式も既に成り立っている。
決闘では勝者の名前が大々的に告知される。その勝者の名前が噂に聞くKokurouだと分かれば、そのKokurouが《インヴィジブルレッド》だと知っていれば――
――ざわめきは混乱と化し、正式サービス開始の街の広場のように観客が騒ぎ出す。
混乱が始まると即座に俺の周りに武装した騎士団が展開し、俺とヒースクリフを中心に輪を形成する。
そして緊張感あふれる中、ヒースクリフ――血盟騎士団団長が声を出す。
「先ほどの動き――あれは《跳躍スキル》か」
「え……あ、はい」
思わずずっこけそうになりながらも、同じく思わずして考えるよりも先に返事をしてしまう。
取り囲んでいる騎士団員からも「何を言っているんだ」との声が聞こえてきている。
確かに今この場で出来ることはほとんど無い。せいぜい牢獄に送るための回廊結晶を持つ人員が来るまで、俺の行動を妨害する事くらいだろう。
しかし何故冷静に――いや、マイペースな事を聞いているのだろうか。そしてその疑問を解消するでもなく、ヒースクリフはまたも疑問を投げかけてきた。
「その武器は――手作りのようだな。鍛冶スキルも相当高いようだが……」
この男、ヒースクリフの考えが全く読めない。足止めの間暇だからとか、そんな理由で話しているのだろうか。
――どうせ捕まるのだ。いっその事俺も、緊張なんかせずに普段通りの口調で話そう。
「とっくに完全習得してるよ。で、何の用? ……そうだ、せっかくだから勝者のお願いを使用させてもらう。こいつらを下がらせてくれ」
「下がらせたとしても、後で追われるのは変わらないだろう。それに、私も負けはしたが引く気は無い」
そう言ってヒースクリフは鼻で笑い飛ばす。一々うざったい動作をする野郎だ。
「しかし――」
そう言ってヒースクリフは話を一旦区切る。
「――どうだろうか。良ければその力を、血盟騎士団に貸してはくれまいか」
「はあ!?」
「な、何を言っているのです! 団長、
俺と、周囲を囲んでいる騎士団員たちの中から出てきたもじゃもじゃした髪の大男が驚きの余り声を上げる。
ヒースクリフは何寝ぼけた事を言っているのだろうか。はっきり言って気味が悪い。気持ちが悪い。
「ゴドフリー。何をもって彼女を犯罪者と称する。彼女のカーソルは現在も緑。一切殺人を犯していないと言う証拠そのものではないか」
「団長! ……連中の中には、グリーンであっても犯罪行為を働く者はいるのです。例えば彼奴めが行っている殺人行為の多くはモンスターにプレイヤーを襲わせるというもの。これならばオレンジになること無く人が殺せるのです」
「実際にその現場を見た者はいるのか?」
「正式サービスが開始したその日の内にあります。街中でプレイヤーを消し去った彼奴を追った者の二十名内、生きて帰った二名の者が証言しました。『青い猪の縄張りに誘い込まれた』と」
「ふむ。まずは君も知っているようだが、彼女が街中で消し去ったと言われた人物は生きている。ただし、牢獄の中でだが。そして君も知るように彼女は女性だ。このゲームで女性に対し、セクハラ行為を行った者がどうなるかくらいは、君も知っているだろう。そしてそれを大勢の前でやらかせば、通報するものは当事者だけでは済むはずが無い」
「ぐ……しかし、しかしですぞ。彼奴めが大勢の初心者プレイヤーを縄張りに誘導し、殺害した事は変わりなく」
「それはその大勢のプレイヤーが彼女を追ったからだろう。事件後詳しく話を聞いたが、話を聞く限りでは街中で彼女は何もせず、逆に彼らが彼女をただ悪人に仕立て上げ、罵倒を浴びせただけではないか。初めから悪人扱いなんぞしなければあの惨事は防げたはずだ」
「くっ……!」
ゴドフリーという騎士団員は苦渋に満ちた表情で輪の中へと戻って行った。
あれ、何この流れ。え。
ひょっとして、ひょっとすると誤解が解けたのだろうか。いままで散々俺を苦しめた誤解が。こうもあっさりと。
驚きの余り、口が開いたままになる。
「他に、彼女を騎士団に迎えることに異議のある者はいるか」
「はっ。わたくしめから少々」
そう言って輪の中からショートヘアーの赤色の髪をした長身の男が出てくる。
「彼女ですが、あまりにも若すぎると思いませんか。ナーヴギアの制限年齢は十四歳以上のはずです」
「遺憾な事に、彼女のようなナーヴギアの制限年齢以下の子供がいる事は事実だ。彼女以外にも、二十名ほど確認しているよ」
「そうですか……では彼女の容姿については」
「彼女の他にも、四名ほど確認している。手鏡で姿に変化が無かった者達も百名ほどな」
「分かりました。わたくしは納得いたしました」
長身の男は輪の中へ戻っていく。
あれ。あれあれあれ。何これ。誤解が次々に解消されていった気がする。
その後も輪の中、時には観客席からも異議を唱える者が続出したが、ヒースクリフはその全ての誤解を解いていった。
「――では、もう彼女に対する誤解は解けた事だろう。さて、改めて聞こうか。――コクロウ君。君の力を血盟騎士団に、貸してはくれないだろうか」
「…………っ」
言葉が出なかった。
嬉しかった。
嬉しすぎて、涙が出るほどに嬉しくて、喉が詰まった。
こんな事、このゲームを初めて一度も無かった。
今まで俺は誤解され続けてきた。でも、ヒースクリフはその誤解を全て消し去ってくれた。
周囲を囲む騎士団、さらにその周囲を埋め尽くす観客達の視線は当初の冷酷さや憤慨を微塵も感じさせる事無く、優しく温かい物へと変わった。
こんなにもされて、断れるはずは無い。頼まれなくても入りたい気分だ。そこで、ある事を閃いた。
「……さっきのお願いは取消だ」
涙を拭う。たった一つの願いを、あんな事に使っちゃ勿体ないというものだ。
これが通れば、後は一歩を踏み出すだけだ。
「よかろう。では、改めて願いを言うといい」
そう言うヒースクリフの表情は穏やかだ。まるで何か達成感を味わっているかのような、穏やかな笑み。
それを見て、俺の決意は固まった。何も心配することは無い。この一歩を踏み出せば、俺は変われる。変わる事が出来る。
フードを取る。あとはその一歩を踏み出すだけだ。喉をならし、小さく「あ、あ」と呟いて正常に声が出る事を確認して、言い放つ。
「――俺を、血盟騎士団に入れてくれ!」
七十五層、《コリニア》にあるコロシアム。そこの中心で、俺は新たな一歩を踏み出した。
騎士団加入って、しかも今頃って、原作既読からすると「主人公ないわー」とか思っちゃうよね。
でもチートをやってないと証明するにはそれこそ茅場明彦でないと。
あと主人公ちょろい。ちょろい回。
キリトとアスナはなんかもうアスナの家で落ち込むキリトをアスナが励ましてる感じです。闘技場からはとっくに出てる。
なんかもう色々すみません。今後もご指摘お待ちしております。