Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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略して家狭
8時間で書いた。
ってのは嘘です。約五千文字。
ぽっと出キャラの行く末は如何に。


家が狭くなるな……

 翌日、俺にも護衛が付いた。希少なユニークスキルが発現したから、嫉妬に駆られた者が出てくるかもしれないという団長の判断によるものからだ。

 護衛と言っても、ようは専属のパーティーメンバーだ。カタナ使いの緑髪侍リック、そしてあの日闘技場で見た赤髪の長身の男、武器は盾持ちの片手剣。名前はマックス。兄弟らしく、マックスが兄でリックが弟だそうだ。

 ただ、夜になった時の外出を制限されたのが痛い。俺の利点である睡眠が必要無いという所が潰されてしまった。

 せっかく発現した《無限槍》も、夜通しダンジョンに潜って上げるという事ができなくなってしまった以上、しばらくは地道に上げないといけないというわけだ。

 

 しかし、実際やってみて思い出す、複数人での狩りは悪い物では決してない。

 

 

 

 

 

 ――七十五層。

 筋力と敏捷の値が約二千も下がった俺は感覚を取り戻すために、早速最前線へと舞い戻った。

 現在も他の攻略組によって探索が進められ、徐々にフィールドの障害は減らされていく。

 俺も昨夜の異変の前にフィールドボスを撃破し、迷宮区入口付近のマップデータは埋めている。

 だからと言って、まだまだフィールド上の敵はまだまだ残っているのだ。午前八時から現在午後六時。十時間に渡るフィールドの殲滅戦はまだまだ終わりを見せず、日も暮れてきている。

 

「リック! おい、こら! 突出しすぎだ!」

「そんな事言っても兄さん、今僕ら囲まれてるんだよ!? どうにか突破口を開かないとジリ貧だよ!」

 

 現在、俺とマックスとリックの三人はモンスターに囲まれている。そう、囲まれているのだ。

 こうなった原因は、俺が以前の感覚で敵の集団に《スパイラルチャージ》で突っ込んだからだ。以前ならば簡単に集団の奥までぶち抜けたが、ステータスが下がった影響か半分の所で止まってしまった。

 マックスとリックが駆け付けたものの、すぐにモンスターたちは俺が開けた穴を埋めて俺たちを囲んだ。

 それからは、リックの言うとおりのジリ貧だ。なんとか敵の数は減らしていっているものの、未だ囲まれている。

 

「コクローさん、《無限槍》でなんとかならないんですか?」

「ごめん、まだレベル低いし、殲滅能力はちょっと低いかな」

 

 現在、《無限槍》はようやく百になったと言った所だ。上がるペースは速いが、まだまだ大技を使えそうでは無い。

 《ダブル・スラスト》から《スラスト》に繋いでを繰り返して敵を倒していく。能力値が減ったのをどうにか手数で補っている感じだ。

 

「リック、スイッチするぞ!」

「わかった!」

 

 そう言ってリックはカタナのソードスキルの《薙ぎ払い》を使う。《薙ぎ払い》は広域に攻撃できるソードスキルだ。敵をなんとかノックバックさせ、その隙に今度はマックスがリックの前に出る。

 

「くぅ……っ! まだまだ湧いて出てくるぞ、こいつら……」

 

 マックスは盾を正面に構え、必死に敵の攻撃を捌く。盾で逸らし、剣で押し返す。しかし囲まれてるせいもあって、逸らせなかったり、押し返せない敵も出てくる。

 ヒットポイントも残り六割を切っている。このままだと俺たちは――全滅するだろう。

 何か、手は無いだろうか。一時的に敵を押し返して転移結晶で帰るか。しかしこの数だと転移結晶を使う隙を作るのも一苦労だ。ソードスキルは広範囲に高火力で攻撃できるが、隙が大きい。隙を作れたとしても、作った本人だけが転移に間に合わないかもしれない。

 そんな時、後ろでリックが名案を閃いたかのように声を上げる。

 

「そうだ! 兄さん、三人で連続的にスイッチすればいいんだよ!」

「だァーッ! 三人でするのは無理があるだろ!」

「大丈夫だよ、コクローさんの《無限槍》なら二回連続で動けるはず! コクローさんが二回連続で動いた後の隙は、僕が埋める!」

「……オッケー。じゃあ、二人がやり終えたら、俺が行動する。早速やってくれ!」

「はい!」

 

 リックは返事をして、勢いよく敵に切り込む。カタナのソードスキル《一刀両断》。単体を対象にした重攻撃だ。それを受けたモンスターは文字通り体を二つに分けられて霧散する。

 続いて、マックスが次の相手に《ヴォーパル・ストライク》を放つ。威力と貫通力の高い一撃は、数体の敵をまとめて撃ち抜いた。

 

 そして、いよいよ俺の番だ。助走距離は、リックとマックスが稼いでくれた。《跳躍》のトップスピードも十分活かせる程度にある。

 《スパイラルチャージ》を発動し、《跳躍スキル》で地を蹴る。スキル二つを重ねての高火力突進攻撃。その一撃で敵を十数体飛ばす。しかし、この後にはソードスキル使用後の致命的な硬直が待ち構えている。

 しかし、それを《無限槍》で無視する。今使える《無限槍》のソードスキルで一番強いもの、《ダブル・スラスト》を発動させ、正面に陣取るモンスターの腹を穿つ。

 そして訪れる《ダブル・スラスト》の硬直時間の〇.二秒。それを俺は安らいだ気持ちで迎え入れる。

 俺の硬直時間が始まった時と同時、後ろからリックが正面の敵に斬りかかり、視界が開ける。囲いの外だ。マックス、そして俺と、硬直時間が解けた準に続いて囲いの外に出る。

 

 

 

 

 

 目の前の視界は開けているが、後ろは未だにモンスターで埋め尽くされている。離れているとはいえ、モンスターは数が多く、唸り声が響いてくる。

 

「……今日は引き上げといた方が良さそうだな」

「……そうだね」

 

 マックスがそう漏らし、リックが頷く。

 俺も二人と同じ気持ちだ。視界を埋め尽くすほどの数のモンスターだ、このまま戦い続けていると俺が突っ込まないでもまた囲まれるだろう。

 回復結晶も決してタダでは無い。無理をして浪費するよりも、休んだ方が金銭的に考えても良いだろう。

 

「日も暮れるし、帰ろうか」

「そうだな」

 

 《暗視スキル》があればまだ戦えるかもしれないが、残念な事に俺もマックスもリックも《暗視スキル》は取っていない。

 周りのパーティーも次々に転移して帰っているようだ。

 それに続くように、俺は腰についたポーチから転移結晶を取り出し、

 

「「「転移! グランザム!」」」

 

 三人同時に、転移結晶でこの場から逃れた。

 

 

 

 

 

 夜。時刻にして八時頃、俺は五十五層にあるマイホームにマックスとリックを呼んで、二人に料理をごちそうしている。

 七十五層での狩りの後、二人を招待したのだ。

 

「うっめぇー! これ本当に美味いよ、コクローさん!」

「はっはっは、褒めてくれたお礼に二皿目出しちゃうよー」

「よっしゃぁ!」

 

 ガッツポーズをしているマックスの前に、二皿目のピザを出す。煮込んだラグー・ラビットの肉をトッピングとして乗せた自信作だ。前から料理のトッピングはしていたが、団長から調合次第では調味料の味も再現可能だと教わった時はまさに目から鱗だった。

 さすがにマヨネーズや醤油の味を見つけるほど暇ではないが、今ある香草を調合して黒胡椒の味を再現する事が出来た。スパイシーで更に美味しくなったし、色とりどりの香草を使ってるからか見栄えもなかなかに良い。

 リックとマックスをマイホームに呼んで、料理をごちそうする。そんな事を思いついたのは、単に別れるのが惜しかったのと、気分が良かったからだ。流石にベッドは一つしかないため泊めはできないが、今度家具屋でベッドを購入しようと思う。

 

「コクローさん、僕もおかわりいいですか?」

「いいよー。じゃんじゃん食べちゃって!」

 

 そう言ってリックの前にもピザを置く。美味しそうに食べている二人の顔を見て、料理はみんなで食べるとこんなにも嬉しい気持ちになるんだと改めて思う。

 料理スキル上げてて本当に良かった。戦闘には全く役立たないスキルだが、こうした人間関係には抜群の性能を誇る。胃袋を掴めとはよく言ったものだ。

 食材はこれまで以上の勢いで消えていく。一年ほど共に過ごしてきた冷蔵庫も、三人だと小さいようだ。

 

 

 

 

 二人は料理を食べ終えると、脱いだ装備を付け直して身支度をする。――二人とも、帰るのだ。

 二人が帰ると分かると、途端に寂しくなる。

 もっと二人と一緒に居たい。話し合いたい。

 

「コクローさん、今日は美味いもん食わせてもらってありがとな」

「僕からもお礼を言わせてください。本当に美味しかったです。是非また食べたいですね」

 

 二人が料理の感想を言ってくれる。寂しさがまぎれるほど、嬉しい。

 そうだ、また食べたいのなら、また食べさせればいいだけの話だ。今度、食事に誘えばいい。

 

「……………………た、食べたいなら、さ」

 

 いかん、正面から顔を見て絶賛されたからか、言葉に詰まる。

 だが、ここでこれを言わなければ今後の発展は無い。軽く咳払いをして、目をつぶって心を落ち着かせて言い直す。

 

「食べたいなら、また呼ぶ、から、さ。また、来てくれると嬉しい。……それと、さんは付けなくていい。俺も呼び捨てだから、そっちも呼び捨てでいい」

 

 二人の反応を見るために片目を開けて表情を見る。マックスとリックは、口を開けて、硬直していた。

 これは昨日の副団長と同じ反応か――だとすると、この後に待っているのは怒声。さすがに馴れ馴れしすぎたか。

 

「あ、その、だ。よければ、でいいぞ。来たくないなら別に――」

 

 別に、来なくてもいい。そんな事を口走る前に、

 

「いやいや、いやいやいや」

「え? …………あ」

 

 マックスが、否定の声を上げた。

 その反応に俺は驚いて口を開ける。そしてようやく、さっきの反応は今の自分と同じように、驚いたから出たものだと気付く。 

 マックスは首の裏をかいたような仕草を見せて、軽く咳払いして話を繋げる。

 

「……そんな卑下するなよ。こんな美味い料理、むしろ毎日朝昼晩通いたいくらいだ」

「うん、うん。コクローさん……いや、コクローが良いのなら、兄さんと同じ表現になるけど、朝昼晩通いたいよ」

 

 隣に立つリックもマックスと同じことを言って、俺を囃し立てる。

 

「…………。も、もちろん、毎日来てくれていいよ」

 

 それに対して俺は一瞬言葉を失ったものの、なんとか声を出して答える。

 俺のその返答に、マックスとリックは笑って別れの挨拶を告げる。

 

「じゃあ、明日もお呼ばれするな、コクロー。……また明日。朝食、期待してるぜ」

「うん、そうだね。また明日もよろしく、コクロー。おやすみ」

「あ、うん…………おや、すみ」

 

 そう言ってマックスとリックは扉を開けて帰っていった。

 また、明日。その言葉が、俺の心に反響し続ける。

 

 

 

 

 

「やったあああああ」

 

 リックとマックスが索敵範囲から出て行った数十秒後、俺は歓喜の声を上げる。

 護衛万歳。付けてくれた団長万歳。付いてくれたマックスとリックに万歳。

 思わずベッドに跳び込んで転がりまわるくらい嬉しい。もう孤独じゃないって実感できるのがやばい。幸せすぎる。

 また明日。また明日だよこのやろー。明日も三人で狩りとかして、料理食べれるんだよ。最高だ。

 そうだ、朝食何にしよう。ピザか。いやいや、朝は軽めに香草のサラダとパンにしとこうか。

 いやでも料理スキルを活かせる料理にしたい。グラタンとかどうだろう。迷うなー。楽しみだなー。

 また、明日。明日が、楽しみで、仕方ない。

 

 結局、寝る事が必要の無い俺は朝まで悩み抜き、朝食はハムエッグ風の料理とトーストという感じになった。

 スキルレベルからすれば随分簡素な料理になってしまったが、マックスとリックは美味い美味いと喜んでくれた。




あともう少しで、アニメ追い付けるかもしれませんね。
ご指摘・ご感想お待ちしております。質問も可です。念のため。

偽キリトパーティ
キリト役 :マックス
クライン役:リック
アスナ役 :主人公
いや、なんでもない

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