Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

2 / 14
サブタイトルは適当です。



殴られて蒼空

 言語選択、日本語。ログイン認証、Account、kdk2022。Password、929no39。ログイン成功。

 ――キャラクター登録。βテスト時に登録したデータが残っていますが、使用しますか?

 NO。

 新規キャラクターを作成します。完了。名前を入力してください。Kokuro。その名前は既に使われています。Kokurou。

 

 

 

 権限、不干渉、その権限は存在しません。権限作成、不干渉。権限、不干渉。データ書き換え完了隠蔽工作完了。

 データ書き換えによる不具合……検出結果無し。

 ――データバンク一〇〇〇〇のデータを破棄しますか?

 NO。

 データ最大数一〇〇〇一。登録完了。一〇〇〇一は隠されています。

 データ書き換えによる不具合……検出結果無し。

 

 

 

 ――Kokurou ! Welcome to Sword Art OnLine !

 

 

 

 一瞬で常に明るい電子の世界から、一つの巨大な光源に照らされた地へと風景が変わる。

 目の前に見えるのは《はじまりの街》中心部。周りには既に人で溢れている事から、少し出遅れた事が分かる。

 視界の左上を見る。そこにはKokurouの名前と青色のHPバー。HP現在値250。HP最大値250。Lv、1。

 

「ククク、クフフフ。……フゥーハァーハッハッハ! 帰ってきた! 我は再びこの地に帰ってきたぞ! さあ王の帰還だ! 従者は何処か!」

 

 声高らかに両手を上げて叫ぶ。周りのプレイヤーは俺を一瞬不思議な目で見たが、すぐに街中へと走り去っていった。変なプレイヤーに関わるよりも早くこの世界を体験したいと言う事だろう。納得だ。

 人が過ぎ去った後、未だにポツポツとログインしてくる連中はいるが、見知った連中――βテスターは何百人か見たが、未だに前回のフレンドが見つからない。あの連中ならまさかゲームに出遅れると言ったことは無いだろうから、恐らくは俺に気付かずに街中へ装備を整えに行ったのだろう。

 

「……ふむ、こ、この場にはいない、のか。ま、まあよかろう。ここは我自ら、探し出してやろうではないか」

 

 反応するものがまったくいないとロールプレイは酷く空しいものだ。

 しかしまあ気付かないのも無理は無い。俺はβテスト時と違って名前を不正に改竄したりしていない。共通点はKokurouという読み仮名のみ。

 前回ではこんな変なロールプレイはしなかったし、キャラデータもまったく違う。

 今の俺は前回よりも容姿を幼く、更に白髪に変えている。目の色は赤色だ。モデルはアルビノの少女。しかしこれはあくまでもただの容姿であって日光から肌や目を守らなくてはいけない、というわけでは無い。

 

「……アキヒトー。ハリオスー。ジクトリクスー。…………みんなどこだよー」

 

 藍色の髪を短く伸ばした短剣使いアキヒト。橙色のツインテールの投擲使いハリオス。緑色のアフロの大剣士ジクトリクス。その懐かしい面々は、この場に姿は見えなかった。

 名前をボソボソと言ってみても、既に周辺にほとんど人はいない。今の俺の声に反応する物好きもいない。俺の呟きは、街の中で響くこと無く消えていった。

 仕方ない。俺もさっさと街に入って装備整えてレベリングしよう。たしかはじまりの街から近い平原に青い猪がPOPするはずだ。しかし今回は出遅れているから既に大多数のプレイヤーが野に出ているだろう。ここは少し危険だが、森に赤い猪を狩りに行こうか。

 

「ねえ君、一人? 僕とパーティ組まない?」

 

 そんな事を思って一歩踏み出したところで青髪の大男に声をかけられた。一見2mはありそうなその巨躯に、「僕」という一人称が似合っていない強面な男だ。

 頬を緩ませて笑いかけているようだが、はっきり言ってその笑みが不気味だ。

 

「間に合ってます」

 

 そう言って男を無視して街の中へ向か――おうとした所で行く手をさえぎられる。脇を通り過ぎようとしたら男も動き進行を邪魔する。

 

「まあまあ、そう言わずにさ。実は俺、βテスターなんだよね。だから、効率の良い狩場とか知ってる訳。どう? 今なら大歓迎だよ」

 

 残念ながら俺も非正規ながらβテスターだ。しかし下手に名前を出したりすれば、たちまちチーターだとバレてしまうだろう。

 後になって調べた事だが、あの後黒狼獄覇迅皇常闇紅蓮帝国第一皇子刹那というプレイヤーネームを運営は公表し、今後このような事が起きないようセキュリティを強化すると宣言した。セキュリティの強化は無駄だったが。プレイヤーネームが公表されたことでたちまち黒狼獄覇迅皇常闇紅蓮帝国第一皇子刹那=チーターと世間一般に知られるようになってしまった。

 

「ねえねえ、どう? お得だよー。今ならこんな良い男と冒険できるんだ。もうこんなチャンス二度と無いぞー」

 

 マジで鬱陶しい。自分で自分を良い男だと言っているところにも反吐が出る。外見はどうみても異世界のヤク○さんだ。内面は俗に言う直結厨――下半身と脳が繋がってる連中だろう。これが良い男に見えるセンスが分からん。

 衛兵を呼ぶか。そう思い始めたとき、後ろから肩にポンと手を置かれ、またも軽薄そうな――しかしどこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。

 

「……この子は私の連れなんですよ。あなた、邪魔です」

 

 基本は敬語。しかし罵倒をはっきりと口に出して言う独特な喋り方。間違いない。顔を上げると、緑色の髪をアフロにした男――ジクトリクスの顔が見えた。

 ジクトリクスは俺の手を取ると、男を押しのけて街へ向かう。いくらアバターが巨躯だからといってもそれはステータスには反映されない。お互いにまだステータスもまともにふられていないLv1同士だ。筋力が同値なら、それなりに力を込めれば払いのけれるんだろう。

 

「なんだよお前、急に出張りやがって。この子は僕が先に声をかけたんだぞ」

 

 そう言って巨躯の男は叫んでまたも行く手遮ってきた。そして突然大男はジクトリクスを指差して、

 

「デュエルだ!」

 

 デュエルを申告した。しかしジクトリクスはそれを無視して俺の手を掴み街へと歩いて行く。

 デュエルというのは、いわば街中でのPvP(プレイヤーバーサスプレイヤー)。主にそれは腕試しのために行われるため、両者の同意が無ければ不可となっている。

 今ジクトリクスの視界にはウィンドウが表示されているはずなのだが、ジクトリクスはそれを操作することなく、ただ俺の手を掴んで街中へと引っ張り込もうとしている。

 

「お、おい……デュエルしろよ! 怖気づいたのか!?」

 

 大男の浮かべた表情は困惑だ。こんな対応をされるとは思わなかったらしい。ジクトリクスは振り返ることなく、いつも通り淡々と本音を口にした。

 

「結構です。私、非生産的な事はしない主義なんで」

 

 ここで初めて掴んでいない方の片手で操作し、デュエルの不参加を選んだのだろう。

 それにしても、ゲームという非生産的な娯楽の中でも最上級に位置する正式版オンラインゲームでこいつは何を言っているのだろうか。

 しかし、この場では無言で同意しているのが一番だろう。ジクトリクスの手を握り返して、街中へ駈け込んで行く。

 Lv1では敏捷力も同値だ。簡単に歩幅を合わせて走る事が出来る。振り返ってみれば、巨躯の男は茫然として力無く俺たちの方を指差していた。

 

 追ってくるかもしれないため、念のため適当に裏路地に二度三度入った先の武器屋の前で一息吐く。周りを見てみればさながらドライブスルーがごとくNPCに話しかけて武具を買ってどこかへ去っていくプレイヤーばかりだ。

 店主の顔を見て、ここがβテスターなら知らないものはいないとも言われる安売り武具屋だと気付く。ジクトリクスの事だ、少女を助けるついでに武具屋で装備を整えて狩りに行くって算段だろう。

 

「大丈夫ですか? 御嬢さん。無事でよかったですね。次からは困った時大声をあげなさい。良心的な英雄願望を持つプレイヤーがこぞって助けに来てくれますから」

 

 βテスト時代、普段聞いていた通りの皮肉を口にしながら喋る口調でジクトリクスはNPCの元へと歩いていこうとする。しかし俺はまだ手を離さない。

「……もう手を放してくれてもいいでしょう? 私もあそこの方々と同じで暇じゃないんですよ」

 

 あそこの方々とはつまり、指をさしているあのさっさと用だけ済ませて狩りに行く連中の事だろう。

 

「おい、ジクトリクス。俺だ、俺」

 

 そう言って思い出させようとするが、

 

「……いけませんね、御嬢さん。そんな口調では俺俺詐欺はおろか、ネカマに間違われてしまいますよ」

 

 言葉遣いの訂正をしてきた。ジクトリクスという名前を出しても気付かない辺り、こいつはさっさと武具買って狩りに行く事だけしか考えてないんじゃないかと思える。

 

「だーあ、違う。俺だ。黒狼獄覇迅皇、常闇ぐれ」

 

 名前を全部言い切る前にジクトリクスが俺の肩を掴み、ずずいと顔を寄せる。

 

「あー、はい。もういいです。分かりました……久しぶりですね、コクロー」

 

 どうやら名前を言って俺だと分かってくれたようだ。一息吐いて今後の方針を決めようと口を開いたが、すぐにジクトリクスは口の前に人差し指を持ってきて、静かにするようジェスチャーする。

 

「待ってください。ここでは一目が気になりますから、宿屋にでも行きましょう。今の時間なら誰もいないはずですよ。っとその前に武具を買ってからですね。コクローは……槍ですね。買ってきますのでコクローはここに。居ても邪魔なだけですから。あ、勿論コルは後で貰いますよ」

 

 ジクトリクスは本音のマシンガントークをぶちかまた後、何事も無かったかのようにNPCに話しかけに行った。それにしても何故俺の武器を槍だと決めつけるのか。大方、前回も槍だったから今回も槍を選ぶだろうとでも思っただろう。間違いではない。その後ジクトリクスは傍から見て二度三度言葉を交わしたかと思えば、戻ってきた。買い物を終えたのだろう。

 

「槍は宿屋に着いてから渡します。勿論、きっちり代金は貰いますからね」

 

 そして俺とジクトリクスは裏路地を出てすぐの宿屋に入る。宿に泊まる必要はないからロビーのテーブルに行く。宿屋には案の定、NPCを除いて誰もいなかった。

 椅子に座る前にジクトリクスから早速槍を受け取り、この世界の通貨、コルを渡す。その後すぐに椅子に座る。

 

 

 

 

 

「さて、色々話したいこと、聞きたいことはありますが、まずこれを言っておかなくてはなりません。……『名前入力画面で変換と言えば漢字入力が可能になる』って話嘘かよ! 前と同じアバター作るのに出遅れちまうし、ジクトリクスのRはLになっちまうし散々だこの馬鹿野郎!」

 

 宿屋にジクトリクスの怒声が響き、ジクトリクスはテーブルに身を乗り出して俺をぶん殴った。




書き溜めた分が尽きました。
鯖に配慮して次回までは二か月開けて10月頃に……というのを建前に書き溜めてきます。
展開が色々急すぎると個人的に思うのですが、どこをどう直せばいいのか分かりません。指摘を希望します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。