Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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主人公を落とすよ!
でもなんかまだまだ落とせ切れてない感じ。
イベントが少ないという指摘を受けたのに改善できていない……


ぶちのめされて現実

「うぅ……幼気なアルビノ娘をグーで殴るとか余りにも非人道的過ぎるだろ常識的に考えて」

 

 俺は殴られた頬を擦り、片手を床に着いておよよと泣き真似する。殴られた際に痛みは発生しないが、殴られたという事実は俺の心に傷をつける。

 

「自業自得だ」

 

 ジクトリクスは平然と言い切る。まあ、元はと言えば俺の嘘情報でスタートダッシュが遅れたのだから文句の一つや二つ、拳の一発二発は覚悟していたが。それでも実際やられるとなると多少なりとも心は痛む。

 

「で、久々に会った旧友にこう言うのもなんだが……その事は……いや、その事も含めて(ます)か?」

 

 升。チートを意味するネットスラングだ。何故ジクトリクスが俺をチーター(チートを行使する人)だと知っているかは、黒狼獄覇迅皇常闇紅蓮帝国第一皇子刹那がネット公開された事から簡単に連想できる。

 

「ああ」

 

 いきなり事実を突きつけられては否定はできない。それに本来登録できない漢字の名前を使っていたのだ。それだけで本当にチートをしていたと判断する理由なる。

 ジクトリクスは肘をテーブルについて、頭を手で支える。ジクトリクス自身、あっさりと認められるとは思わなかったようだ。

 

「それで、何回使った?」

 

 何回の前には「チートを」という言葉が付くのだろう。

 

「五回。一回目はゲームに潜り込むためだ」

「それはハッキングとかそういうものになるんじゃないのか? 本職は技術屋か?」

「いや……無職だよ」

 

 電子の世界で俺は特定の職に就いているわけでもなく、自由気ままに探索したりしているだけだ。だから無職という言葉は間違ってはいない。

 しかし無職という言葉を使って分かる。――俺って駄目人間じゃね。

 

「不躾な質問で悪いが、中退か?」

 

 今でも覚えている十六年前。当時高校二年生だった俺は学校の帰り道にいきなり平行世界の電子の世界へ入ってしまった。これは中退と言うのだろうか。

 思い返せば電子の世界に入って以来、まともに勉強していない。せいぜい情報収集で得た趣味の知識があるだけだ。中退無職。間違ってはいない。間違ってはいないが、俺の心に深く突き刺さる。

 

「そうだな。高校を中退した。それから十六年、ずっと無職だな」

「げ……そんなナリして無職アラサーか?」

 

 ジクトリクスは軽く身を引かせた後、話を続ける。アラサー。around 30の略で、三○歳前後の人の事だ。十六の頃に電子の世界に入って以来十六年生きている。

 そう考えてみれば現在三十二歳。中退無職アラサー。間違ってはいない。しかし何か打ちのめされた気分だ。

 

「……そうとも言えるね。でも、心は未だに高校時代のままさ」

 

 そう、計三十二年生きているが、精神的には未だ青春真っ盛り。彼女を欲しいと思うし、エロにも興味がある。

 言われて気付いたが、成年向けゲームの購入制限を突破してるじゃないか、俺。しかももう十四年も前に。過去の自分に教えてやりたい。いや、今はそんな事してる場合じゃないか。

 

「そんな事親父も言ってたな……。で、これも、失礼なんだが、ネカマか?」

 

 中退無職アラサーネカマ……間違いではない。間違いではないが、

 

「あ……ああ、そうとも。アバターは女だが俺は男だ。なあ、そろそろ穿り返すのヤメにしないか? 悲しくなってくる」

 

 そろそろこの流れを止めないと俺の精神がヤバイ。次々と現実に気付かされていく。三十二にもなって何をやっているんだ、俺は。という風に。

 俺がそう言うと、ジクトリクスは溜息を吐いて、俺をかわいそうな子を見るような目で見た後、ようやく話を切り替えた。

 

「そうだな。高校中退無職アラサーネカマさんの黒狼さんに、これ以上傷を増やすのもかわいそうだしな。……じゃあ次を聞こうか」

「繰り返すなよ。……二回目は知っての通り名前の変更だ。名前に漢字を付けた」

「次」

 

 ジクトリクスは興味を失ったように、淡々と話を急かす。

 

「三回目は興味本位で倍速化してソードスキルを使ったらどうなるか試していた。四回目もそれだ。……四回目の時にアキヒトと出会って、それ以来、六層でBANされるまで使ってない」

「って事はアキヒトの奴も升黙認してやがったか? ったく、不正に勝って何が楽しいんだか」

 

 ジクトリクスは足を組み、椅子にもたれ掛る。そして「次……いや、最後か」と言って続きを促した。

 

「最後は……六層で、ハリオスとジクトリクスが矢にやられた後、オークウォーリアとゴブリンアーチャーを倒すために使った」

「升で勝っても……いや、もういい。お前は許されない事をしたんだよ。オンラインゲームでのチートが犯罪って、誰かに教わらなかったのか?」

 

 教わった事はある。この世界に来て初めてやったオンラインゲームで出会ったそのゲームの古参の戦士に教わった。

 それ以来チートは消極的だ。誰かの迷惑にならないよう、考えて使ってきた。しかしそれは実際には大間違いで、一回使っただけで何らかの悪影響は確実に出るのだ。

 高速移動しているプレイヤーの動きにナーヴギアが反応できず暴走してしまったら、セキュリティ担当者がチート行為を防げなかったせいでリストラしてしまったら、その担当者に家族がいたら。

 そんな考えは、チートの影響をよく考えさえすれば誰だって簡単に思いつく。俺はもう既に、間違いなく犯罪者でしかない。

 

「……まあ、私は寛大ですからね。二度とチートはしない、手も出さないって約束するのなら、特別に許してあげますよ。あなたがチーターって事も流布しないと約束しましょう」

 

 口調が敬語に変わっている辺り、ジクトリクスは本気で怒っているんだろう。

 ――二度と。

 この言葉は文字通りだろう。だがもう、考えるまでも無い事だ。この正式版では元よりチートはする予定は無いし、する気も無くなっている。

 みんなと一緒に冒険をして、みんなと一緒にレベルを上げて、みんなと一緒に、塔の最上階に辿り着くんだ。この気持ちは揺るがない。

 

「ああ。しない。する気も無いよ。だってみんなと一緒にまた戦いたいって一心でこの世界に来たんだ。BANされるような事、するわけ無いさ」

 

 俺は常にゲーム内に居れる分、他のプレイヤーよりは確実に有利だ。睡眠や食事も必要無い。チートなんか無くても、きっと大丈夫なはずだ。

 それに一応βテスターだ。五層までの情報は他のプレイヤーよりも多いはずだ。βテストから追放された後の情報収集でもその辺りはバッチリだ。

 意志を強く持ち、自分を奮い立たせる。大丈夫だ、問題無い。チートなんか使わなくたって、十分俺は強いんだから。

 

 

 

 

 

「何ぐだぐだ言ってるんですか。どうせこの正式版にもハッキングして入ったんでしょう? このゲームを辞めろって事ですよ。わざわざ言わせないでください、ゲス野郎」

 

 机の対岸で俺を見ているジクトリクスは、まるで痛んだ食材を見る料理人のように冷たい目だった。

 

「どうしたんですか? 早く辞めてくれないと、如何に寛大な私でも許しませんよ」

「え……でも……辞めちゃったらさ、もうみんなと冒険、できないじゃないか」

 

 それを聞いたジクトリクスは軽く目を見開いて、驚いたような仕草をする。

 

「……まさかそこまで愚かだとは、救いようがありませんね。貴様はハッキングして入ったと言いましたね。と、言う事はソードアート・オンラインを購入していないと。私達と冒険する資格なんて、端からありませんよ。今度、購入してから来たのなら、また友達づきあいもしてあげましょう」

 

 そこまで言われて、俺の体は固まり、頭は考える事だけに集中された。

 こうまで言われて、どう仲直りするか。脳内でのシミュレート結果はどれも失敗に終わるばかり。

 考えろ。考えろ。考えろ。一旦辞めるか。NO。次に販売されるのがいつかは未定だ。来年までかかるかもしれない。

 辞めたうえで作り直す。NO。既に多くのプレイヤーが入っている中、今更入っても怪しまれる。既にアバターを変更していることもあるし、バレないとは限らない。自然とボロも出るかもしれない。

 どうする。どうする。どうする。突如巨大隕石が降ってきて俺がそれを阻止して英雄になってチートは不問。ありえない。世の中はまだまだ手動、人力だ。コンピュータで制御された機器が町中に溢れ出てない限り、そんな事はできない。実際巨大隕石が振ってくる確率も無くは無いが低すぎる。

 ジクトリクスを、×す。あってはならない。

 

「……聞いていますか? おーい。はあ、ショックで放心でもしましたか? 仕方のないおっさんですね。私も暇では無いので、そろそろお暇しますね」

 

 そう言ってジクトリクスは席を立ち、宿屋から出て行った。

 その後、日が暮れて起こされるまで俺は宿屋で思考に身を委ねていた。




十六歳で突如ネット世界に放り込まれて以降十六年間脱出できないと思い知らされ
ネット世界で楽しもうとポジティブに生きようにも金が無いためやることのほとんどが犯罪行為
そんな中、まるで現実のような世界で遊べるゲームに出会い、そこで知り合ったトモダチと一緒に冒険したりする
夜寝る時間になれば別れるし、次に会うのは学校や仕事が終わった後、寝るに至るまでのわずかな時間
だんだん少年はその僅かな時間に会える交友関係に依存して、βテスト追放と同時に一時の別れを悲しむ
そして正式サービス、待ちに待った感動の再会

そしてトモダチのてのひら返し!
でもジクトリクスは酷い人じゃないですよ。救いの手を差し伸べるくらいしますよ
うん、まだまだ落としきれない感じ。もっといい手段があるのでしょうが、何分主人公がハイスペックなものだから……

あとがきで補完するのは良いって住民が言ってたので試しに。
本当は本編で分からせるのがいいんでしょうが。
ああ、実は速めに更新しようとしたため内容が三千文字弱(あとがき含めて四千)と薄い感じに。後日機会があれば、上記の文をどうにか表現して加筆しようと思います。

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