Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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どう見ても罠です本当に略
そんなこんなで続きです
今回は三千五百という薄さですね。前の話とくっつけてもいいかもしれぬ
でもサブタイネタがやりたかったんじゃーい
すみません


笑う棺桶「手作り弁当無料配布中でーす!」

 突如飛来した槍に部屋に居る面々は驚き、辺りを見回したようだが、索敵スキルが高くないのか行動による隠蔽ペナルティがかかった俺を見つけられないでいる。

 流石に近くに寄れば気付くはずだが、柱の陰に隠れただけで見つからないって、いやはや、隠蔽スキルってすごい。

 しかしぶっちゃけ、もう隠れる必要は無い。槍を拾ってアイテム画面に放り込めば、あとはポーション配ってピザをみんなで食べれば誤解は解けるはずだ。うん。完璧だ。

 

「キリト君!」

 

 副団長サマは悲痛な叫び声をあげて、姿の見えぬ槍使い(俺)を無視して黒の剣士サマに駆け寄る。いや、無防備な黒の剣士サマを守りに行ったのだろうか。

 これ以上姿を隠していては逆に怖がられるだろう。そう思い、隠蔽スキルを解除して皆の前に出る。

 部屋に居る面々は突如現れた俺に警戒心剥き出しだ。まあ、全員のHPが減っていて、一部は危険なほどにまで低下しているのだ。警戒は当然だろう。

 そして俺はすかさずアイテム画面からポーションを出して。目の前で軽く振って無害どころか回復アイテムまで提供する良い人アピール。

 

「やあやあ、驚かせて悪かったね。あの槍はキリトがこのままだと死ぬんじゃないかと思って、慌ててボスに向けて槍を投げただけなんだ。まあ、結果的に俺の援護はいらずに、独力で倒してたけど。……ところで、みなさんHPが随分減っているようだね。これを飲むといい」

 

 そう言って黒の剣士サマの前でこちらに剣を向ける副団長サマに投げる。それを副団長サマは――鮮やかと言える剣技で切り落とす。

 投げ渡そうとしたポーションを切り落とされる。そんな反応に唖然としている俺に、副団長サマは言い放つ。

 

「毒が入ってるかもしれないのに、そんなもの受け取るわけないでしょう! キリト君……起きてよ。キリト君ってば!」

 

 …………。

 そうだ、よくよく考えれば俺は超一級の危険人物。顔写真付きの手配書まで出回っている《インヴィジブルレッド》だ。サービス開始初期に危険地帯に初心者を誘い込んで十八人を殺した、自ら手を下さない殺戮者。

 そんな者が瀕死のパーティに善意でアイテムを配るだろうか。そう思っても仕方ないだろう。完全に誤解なんだけど。

 いや、しかしまだ手はある。手作りピザ(食いかけ)だ。食いかけなら毒を盛ってるなんか思わない。だろう。

 

「ピ、ピザもあるよー。ほら、俺も食べてるから毒が入ってないって事証明してるし――」

「手作りピザ? 食いかけだから? はん! ラフコフの手作り弁当よりも信用ならねえな」

 

 今度はダサいバンダナを巻いた風林火山のマスターにも怒鳴られる。 ……A級以上の食材をふんだんに使ったピザなのに……毒なんて盛ってるはずないのに……。

 見れば、風林火山の面々が軍の連中にポーションを配っている。しばらくすれば連中のHPも回復するだろう。

 ラフコフというのはレッドギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の通称だ。確かに、悪名であれば俺はラフコフよりも質が悪いと言う意味で数段上だ。誤解だが。

 階層攻略後の襲撃で上位陣五人殺しは当たり前、低層で一般プレイヤー虐殺も日常茶飯事。その上で、自身はまったく手を汚していない不可解さ。実際手なんか出しても下してもないんだけどな。

 本当に何がどうしてこうなったんだろう。

 

「いてて……。どうした、アスナ」

「バカッ……! あんな無茶して、死んだらどうするのよ!」

「アスナ……そんなに締め付けられたら、俺のHPがなくなる……」

 

 目覚めて早々いちゃこらしてる黒の剣士と副団長サマ。ああ、俺も彼女欲しいな。でもハリオスは腐女子だし、友達って感じだったからなー。それに現実じゃあ俺は身体なんてないし、AIに欲情するしかないのだろうか。

 副団長サマはアイテム画面からハイポーションを取り出して黒の剣士の口に小瓶を押し込む。ああもう、まさか自分のハイポーションをあげたいがために俺のポーション切り捨てたんじゃないだろうな。爆発すればいいのに。

 

「キリト。生き残った奴の回復はできたが、コーバッツ……それと、二人死んだ」

「……そうか。ボス攻略で犠牲者が出るなんて、六十七層以来だな」

「こんなの攻略なんて言えるかよ……。コーバッツの馬鹿野郎め……。死んじまったら何にもなんねえだろうが…………。んでもって、その六十七層の主犯が今回もそこにいやがるぜ」

 

 それを聞いたキリトが目を見開いてこっちを見る。副団長サマもこっちを睨む。

 六十七層のって言えばあれの事だろう。なんか胸騒ぎがすると思って見に行ったら攻略パーティは壊滅状態。そしてやってきた援軍に、俺が部隊を壊滅させたとか疑われたという話だ。未だ誤解は解けていない。

 なんであんな勘違いするのだろうか。当時の俺は当然グリーン。連中もボスの毒攻撃や貫通攻撃にやられて死んだだけだ。毒攻撃はまだわかるが、貫通攻撃で殺したら俺は色が変わるだろ、常識的に考えて。

 

「いや、あれ俺じゃないって。ボスが毒攻撃と貫通攻撃を繰り出してくるって分かってたろ」

「だからといって、あなたがそれをカモフラージュにしないとは限らないわ」

 

 いやいや、有り得ないから。俺グリーンだから。なんでそんなに俺を悪役に仕立て上げたいんだこいつは。

 

「それにあなた……さっきキリト君が死ぬんじゃないかって言ってたけど、まさか最初から見てて、今まで何の手助けもせずに黙って見ていたの!?」

「い、いやいや、いやいやいや。俺が駆け付けたのはキリトがボスに吹っ飛ばされた時だよ。それからは見事な連携だったから、邪魔になるだろうと配慮して手を出さなかっただけだ。それに最後に槍投げたし……」

 

 ごにょごにょ言って返す。

 事実、俺はあたふたしてて何の手も出さなかった。最後の最後も失敗していたら逆に殺していたほどだ。

 

「……見ていたのね。戦闘以外にも、倒れている人達を避難させることくらいできるんじゃないの?」

「う……。戦闘中だと警戒が俺にいって、その隙をボスに突かれてたかもしれないだろ……だから迂闊に行動できなかったんだよ」

「どうだか……」

 

 副団長サマはそう吐き捨てる。この人こわい。

 なんかこのまま話し合っていても警戒されるばかり、誤解されるばかりで一向に話が良い方に進まない気がしてきた……。

 こうなれば、とっておきを出すしかない。……出しても微妙だが。

 

「ま、まあ、少なくとも俺は君たちに危害を加える事はないさ。さっき毒を盛られることを心配していたね。じゃあ、これはどうだい?」

 

 アイテム画面を操作して、ラグー・ラビットの肉を出す。

 その肉に、俺を除いた全員の視線が集まる。S級食材だから当然だ。まさにデスゲームで荒んだ心を癒す清涼剤。誰しも一度はこれを使った料理を食べてみたいと思うはずだ。

 良い方の予想が的中したようだ。良し良し。ここで俺が料理スキル完全習得者だと言って、携帯調理器具で軽く料理すればすぐに皆その味の虜になるだろう。人の心は腹で掴めとはよく言ったものだ。

 

「そんなものいらないわ。どうせ、チートを使って不正に作り上げたんでしょう」

 

 しかしその予想は、このいけすかない副団長サマの声で大きく裏切られた。

 

 

 

 もう我慢の限界だ。何だ、チートで作り上げたって、そんな事するはずが無いだろう。そんなことして何が楽しいんだよ。そもそもチートなんか使ったら即開発者に見つかって殺されるわ。

 それを知りもせずにこの副団長サマは……こいつは……。

 

「うっ……ううっ……」

 

 目から堪えていた涙が溢れてくる。

 なんでこいつは……こいつらは、人の善意を悪意に勘違いするんだよ……。

 そりゃ、正式開始直後に初心者十八人を見殺しにはしたさ。でも、当時の俺には見殺す他なかった。混乱した奴らに追われて必死だったんだ。

 それ以降は人助けのために動いたさ。でも、結果は助けても俺が非難されるだけだった。いかん。別の事でも涙が止まらない。

 

「バカヤロー! なんだよ人の善意を踏みにじりやがってー! お前らなんてもう二度と助けねーからな!」

「そんなのこっちから願い下げよ!」

「ひっ……」

 

 叫んだが、怒鳴り返される。もう無駄だ。この場に居たって、何も好転しない。なんだよ……なんでなんだよ。

 俺は駆けだして、泣きながら次の階層への階段を上った。次の階層に着いても、目指すのは主街区ではなく、奥地の奥地にある《未開の街》だ。




Q.アスナ酷くね?
A.恋人が瀕死の重傷で倒れていて、重犯罪者が懐から「これは薬だから飲ませろよ」って言ってきたらよほど冷静さを失ってない限りああなるはず。
あと主人公の悪名補正。PoHさんが初心者相手にただの弁当配ると思うか?絶対何か入れるぜ、とか思うようなもん。
あと.hackうででんのチーター編とか参考にした。

Q.勘違い多くね?
A.多いよ。勘違いって連鎖するもんだと思うの。

更新速度を優先したため、内容がちょっとかなり心配です
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