理不尽から始まる転生生活   作:こめぴ

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第9話 フィアース流剣術

「オラオラァ!きちんと逃げないと死んじまうぞ!?」

 

「うわぁ!」

 

 

ガリバスから特訓内容を発表されてから30分後、俺は未だにガリバスの攻撃から逃げ回っていた。

 

ガリバスは俺に向かって思いっきり剣を振ってくる。

しかもそれは真剣だ。

さすがに本気ではないと思うが、何度も当たりそうになった。

というか当たってる。

切り傷が数箇所できている。

深くはないが、確実に数はだんだん増えていっている。

 

ベスのような大振りの攻撃ならまだしも、彼はフィアース流。

今使っている武器はダガーなので攻撃が素早くさらに避けるのが難しくなっている。

 

これはフィアース流が少ないわけだ。

多分みんなこの特訓を受け嫌になったんだろう。

 

正直にいうとむちゃくちゃ怖い。

だって大の大人がこっちにダガーを振り回しながら追いかけてんだぞ?

多分絵的には最低なことになっていることだろう。

追いかけてくるガリバスの顔はまさに悪魔。

どこか笑顔に見えるのがさらに恐怖を煽ってくる。

 

何このスパルタ。

ベスの訓練が遊びに感じる。

こんなの6歳児にやることじゃない。

 

でもこれはかなり効率的な訓練ということも事実だ。

安全面を考慮しないという致命的な面を考えなければ、だけど。

 

完璧な回避能力を身に付けたいなら並外れた動体視力、反射神経を身に付けないといけない。

だから実際に避けさせることでその2つに加え即座に動きを決める判断力も養える。

そんな効率的な訓練だ。

……多分。

 

「オラァ!」

 

「危ない!」

 

後ろから突きがきたから体をひねって避ける。

 

「グ……ッ!」

 

だが疲労もあってそのまま足がもつれ転んでしまった。

 

(早く……早く逃げないと……)

 

すぐに走り出せるように体制を整えるがーー

 

「チェックメイト」

 

俺の顔の目の前にナイフを突きつけてガリバスはそういった。

 

「とりあえず今日はこれで終わりだ。お前の実力はある程度わかった。明日からはこれプラスお前の実力に合わせたメニュー組んどいてやるから覚悟しとけ?」

 

そういって笑いながら去っていった。

 

ていうか……まじですか?

明日からこれよりひどくなる?

前にアイリスをスパルタって言ったけど全然甘かった。

これが本当のスパルタか……。

 

俺はそのまま寝転がった。

ダメだ。

もう動けない。

 

でもちゃんとガリバスも考えて攻撃してくれている。

 

最初のうちはウォーミングアップとでも言わんばかりに避けやすいモーションの大きな攻撃で、スピードも遅い。

それについていけるようになったらどんどんスピードを上げて、モーションも小さくしていく。

そうすることで俺の目に合わせたスピードでやってくれている。

それプラス真剣を使うことで実戦に近づけ、緊張感を与えることにも成功している。

 

なるほど。

ガリバスはあんなのだけれど意外と考えてるようだ。

 

ていうかそうであってほしい。

そう思ってないと俺があいつをぶち殺したくなってしまう。

剣は持ってないから包丁持って切りかかるくらいするかもしれない。

 

「ジン!」

 

「ユリア……」

 

しばらく寝転んでいると家からユリアが走やってきた。

傷だらけの俺を見ると顔を青くして走ってくる。

 

「どうしたのこの傷!もしかして斬られたの!?」

 

「まあ、そうだね」

 

「待ってて、今治してあげるから」

 

「ああ、ありがとう」

 

深くはないが決して少なくない数できていた切り傷を魔法でユリアはキュアーで治していく。

ラミアやアイリスほどの技術はないから疲れまでは治せないけど、傷はふさがり痛みは消えたのでだいぶ楽になった。

 

ライトエルフは生まれつき光と風の魔法を使える。

人間は2つ使うには訓練が必要だが、エルフは例外なのだ。

だからユリアも風と光の魔法が使える。

 

痛みは消えたので、よいしょと体を起こした。

 

「ジンを斬る先生なんて、やめてもらったほうがいいわ。私からベスさんにいっておこうか?」

 

ユリアが心配そうな顔でそう尋ねてくる。

ユリアはユリアなりに俺のことを考えてくれているんだろう。

それは素直に嬉しいけど、今回は遠慮することにした。

 

「きっと先生にも何か考えがあるんだよ。もうちょっと頑張ってみる」

 

「そう……ジンがそういうならいいけど」

 

一応不服ながら納得してくれたようだ。

確かに先生は厳しいし、怪我もさせてくるけど、意味のないことはさせないはずだ。

あれでもれっきとしたフィアース流の先生なんだ。

金をもらっている限りいい加減な仕事をすることは許されない。

 

「はい、終わり!」

 

そういった頃には俺の体にあった切り傷は跡形もなく消えていた。

相変わらず魔法ってすごいなぁと思う。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

そういって俺はユリアの頭に手を乗せゆっくりと動かした。

 

「べ、別に普通よ。いつもジンには助けてもらってるし」

 

そういうユリアの顔は心なし赤く染まっているようで、態度もなんだかしおらしくなっている。

 

「それでもだよ。ありがとう」

 

感謝を伝えるため、なるべく優しい顔で笑いかけた。

 

「そ、そういうことなら……」

 

そういってユリアは顔を完全に赤くしてうつむいてしまった。

 

うん……ちょろインかな?

 

別に俺自身落とそうと思ってやってるわけじゃないけど、反応がこれだとそう思ってしまう。

 

結局ユリアが復活するまで俺はユリアの頭を撫で続けた。

 

 

 

 

「ジン、ガリバスの訓練はどうだった?」

 

「……父さんあの訓練の内容知ってたから渋い顔してたんでしょ」

 

「ばれてたか?でも自分で決めないとダメだと思って言わなかった」

 

やはり知っていたようだ。

だから何度も俺に確認を取ったのか。

それにしても言ってくれてもよかったじゃないか。

 

忌々しげにベスを睨む俺を見てラミアは苦笑いをしている。

 

多分ラミアも知ってたな。

 

「え?なになに?どんな訓練なの?」

 

この場で訓練内容を知らないヴィアとアイリスの2人は頭にクエスチョンマークを浮かべ、質問してくる。

 

「ひどいのよ?あの教師ねーー」

 

若干怒り気味のユリアが2人に説明する。

やっぱりまだ怒ってたか。

 

そんなユリア同様、ヴィアとアイリスも話を聞くにつれ顔を憤怒の表情に変えていく。

 

「何よそれ!ベス!あなたなんて人を呼んだの!やめさせなさい!」

 

「だ、だがこれはジンが自分で選んだことでだな……」

 

「そんなこと関係ありません。こうなったら私が然るべき報いを……」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

慌てて彼女らを制止する。

なんだかこの人たちが言うと冗談に聞こえたいのだ。

 

「ユリアにも言ったけどきっと先生にも考えがあるんだよ。だからもう少しやらせて?」

 

そういってアイリスとヴィアにおねだり。

目を涙で潤わせ、上目遣いも忘れない。

これは俺が最近身に付けたおねだりモードだ。

これをすればラミアやヴィアはともかく親バカのベスとアイリスは確実に落とせる。

 

「しょ、しょうがないわね。ジンがそういうならやらせましょうか」

 

「奥様!?」

 

ほらね。

ヴィアは急に手のひらを返したアイリスに驚いているが、この屋敷の主人と奥様がそういっているんだ。

反対はできないだろう。

 

「ありがとう!お母さん大好き!」

 

そういって俺はアイリスに抱きついた。

アフターケアも忘れない。

これ大事。

 

「ふへ、ふへへへ……しあわせやでぇ……」

 

アイリスダウン

 

これで勝ちだ。

 

ちなみにベスは羨ましそうにアイリスを見ているがやってあげるつもりはない。

 

逆にユリアがこっちを睨んでいるのはなんでだ?

 

 

 

 

「よし、1時間たったな。とりあえずこの訓練は終わりだ。」

 

次の日、俺はまたあの地獄の訓練をしていた。

 

前回は40分くらいしかできなかったが、今日は1時間耐えることができた。

 

「お前筋いいぞ。本気出してないとはいえ、1時間逃げ回るのを2日目で出来てるんだからヨォ」

 

こんな先生だけど、褒められると素直に嬉しい。

自分の実力を認めてもらっている気がしてどこか誇らしい気持ちになる。

 

「が、まだまだだ。実戦じゃ到底使えねぇ。明日からどんどんスピードあげてくぞ」

 

上げて落とすとはまさにこのことだと思います。

いや俺自身実戦で使えるとは到底思ってないけど、さらにこれよりスピードが上がると思うと嫌になってくる。

しかも今日はこれにプラスしてまた何かやるのだ。

正直言って体力がついていかない。

 

「おいおい。大丈夫か?今日はまだあるんだぞ?」

 

「はい……大丈夫なんで……お願いします」

 

「大丈夫じゃねー。しょうがねぇ。今日はあんま体動かさないやつやるか」

 

それは助かる。

ガリバスは意外と優しいやつかもしれない。

正直顔は悪魔みたいな顔してるけどな。

体動かさないならそんなにきつくないだろう。

怪我もなくなりそーー

 

「それじゃあお前にはナイフでお手玉できるようになってもらう」

 

ーーそんなこともなかった。

 

「ナイフでお手玉……?何言ってるんですか先生」

 

バカなんじゃないだろうか。

ナイフでお手玉?

そんなの手がズタズタになってしまうじゃないか。

 

「もちろん比喩だ。そんくらいナイフを自由自在に操れるようになれってことだ。ま、俺は実際にできるけどな」

 

そういってガリバスは5本のナイフを取り出し、お手玉をし始めた。

 

お手玉というかジャグリングだな。

 

さすがプロ、といったところか。

あんなにナイフを投げてとっているのに全く手が傷ついていない。

しかもガリバスはそれをこっちを向いたままやってのけているのだ。

 

「フィアースの特徴はヒットアンドアウェイもそうだが、トリッキーな動きも特徴の1つだ。」

 

そういってガリバスは2本のナイフで剣舞をし出した。

 

「すごい……」

 

2本のナイフでやっているのだが、正直2本の腕でやっている気がしない。

それに動きが早すぎて何が起こっているのかよくわからないのだ。

 

わかる範囲で言うと2本のナイフを空中に一旦置くように投げたり、それをキャッチしたり、時には口でくわえたりして様々な方向から攻撃を仕掛けている。

確かにこれはトリッキーだ。

 

「それに、ナイフの扱いが上手いと投げるときもこんなことができる」

 

そういうと先生は両手に合わせて10本ほどのナイフを持った。

 

どうやって投げるんだ?

まさか一気に投げたりはしないだろう。

 

が、ガリバスは俺の予想をはるかに上回ることをして見せた。

 

まず、両手のナイフを左右それぞれ1本ずつを残して全て上に投げる。

 

そのまま手に持った2本を投げ、空中にあるナイフをキャッチ。

そのままキャッチしたナイフを投げ、また空中にあるナイフをキャッチ。

そんなこと繰り返し、1秒も満たない間に10本全てのナイフを投げきった。

しかもそれらは全て適当に投げたわけじゃなく、ほとんど一点に刺さっている。

 

「とまあこんな感じになる。すごいやつがやると10本のナイフが同時に投げられたように感じるくらい早くできる奴もいる」

 

改めてこの先生の凄さを知った。

先生をやるくらいなんだからある程度の実力はあるとわかっていたが、ここまでとは思わなかった。

 

「これをやるわけには第一にナイフに対する恐怖心をなくさないといけないわけだがーーってどうした?そんなに俺を見つめて」

 

「いえ……先生ってすごいんだなって……」

 

「キヒヒヒヒ……やっと俺の凄さに気づいたか?遅すぎんだよ!」

 

なぜかキレられた。

この性格さえなかったらなぁ。

 

「話の続きな。これをやれるようにするにはまずナイフに対する恐怖心をなくさないといけない。まあ簡単に言うならナイフと友達になれ」

 

ナイフは友達怖くないよってか?

第一ナイフってのは傷つける武器だ。

それに対する恐怖心をなくせだなんてそれはもう人間やめてるんじゃないか?

 

さすが人格破綻者の多いフィアース流だ。

 

だが、危機感をなくすわけじゃないんだから恐怖心をなくすのは今後のためにもなりそうだ。

 

だから俺は黙って従うことにした。

 

「ほらよ。こいつをやる」

 

「?」

 

そういってガリバスが渡してきたのは10本の木でできたナイフだった。

それぞれ刃渡は10センチくらいの小さなナイフだ。

 

「別に俺は最初から本物でやってもいいと思うんだがな。緊張感あるし。でもそれだとベスの旦那が怒りそうだかな。とりあえずそれで馴れろ」

 

ありがとうベス。

君のおかげで幼い命が1つ救われた。

絶対最初から本物はダメだ。

手にザクザクと刺さる姿が容易に想像できる。

 

「じゃ、とりあえずやってみ」

 

 

 

 

 

「ダメだダメだ!投げたナイフが1本1本どうやって動いているのかを意識しろ!そうしないと柄でキャッチできないぞ」

 

もともとお手玉とかジャグリングはできないこともないのでナイフを投げてキャッチするくらいはすぐにできるようになった。

でもそれは柄と刃渡を意識しなければの話。

 

刃の部分の方が大きいからどうしても刃の部分で掴んでしまうのだ。

 

というか刃の部分でキャッチするたびにガリバスが

 

「はいお前今指チョンパー」

 

とか笑いながら言ってきてうざい。

小学生か。

 

結局その日は大した成果もなく終わってしまった。

 

「まあ俺も1日でできるなんて全くこれっぽっちも微塵も思ってなかったからな。」

 

うるさいよ。

 

確かにそうだけどなんだかむかつく。

 

「それお前にやるから家でも練習しとけよ」

 

それだけ言ってガリバスは去っていった。

 

 

 

なんかからかわれてムカついたのでその日から俺はこれを猛練習することにした。

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