理不尽から始まる転生生活   作:こめぴ

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第10話 卒業と陰謀

あれから1年経った。

 

「シッ!」

 

全力の突きが俺に迫ってくる。

 

今俺はガリバスの訓練恒例の1時間逃げる訓練をしていた。

1年前の俺だったらなす術なやられていただろう。

だが今の俺にとっては大したことはない。

ナイフの向いている向きなどから起動を予想。

その軌道を避けるための最短の体の動きを見つけ出し、実行する。

 

これを1秒もかからずに実行する。

 

相手から攻撃が来るたびに実行し、かわしていく。

 

そして攻撃を避け続け、相手に隙が出来た。

そこを逃さず一歩踏み込みダガーで突きを放つ。

 

が、それも相手のダガーの腹で受けられ失敗に終わる。

 

(このままだとカウンターがくるな。一度離れないと)

 

そう思考し、一度距離をとる。

追撃を防ぐためナイフを2,3本投げ牽制することも忘れない。

 

しかし相手は投げナイフを弾き、かわし、こちらに向かってくる。

 

そして上からの振り下ろし。

 

とっさにダガーでガードしようと横向きに構える。

 

しかし振り下ろした手にはダガーは握られていなかった。

 

(騙された!)

 

相手は振り下ろした手より一足遅れて落下してきたダガーを逆の手で掴み横に斬り払う。

 

とっさの出来事に反射的にしゃがんで回避。

そしてそのままバク転して距離をとる。

またナイフを投げ、牽制するのを忘れない。

 

相手はまさかバク転しながらナイフを投げてくるとは思っていなかったのか、虚を突かれ一瞬怯む。

 

そこを逃すわけもない。

 

一気に距離を詰め突きを放つ。

 

(とった!)

 

そう確信した。

 

怯みながらも冷静に対処した。

 

俺の突きを体をひねって回避し、そのまま俺の手首にチョップ。

 

俺は虚をつかれたのと痛みでダガーを落としてしまう。

 

そして、ナイフを突きつけられ

 

「チェックメイト」

 

そう宣言された。

 

それと同時に集中が切れ、今までの疲労が一気に襲ってくる。

 

「今のは良かった。特にバク転しながら投げナイフ。あれは一本取られたぜ」

 

「でも先生全然聞いてませんでした」

 

「当たり前だ。あれくらいじゃやられんよ」

 

そういってきししししと特徴的な笑い方を浮かべた。

 

「じゃ、今日はここまで」

 

「お疲れ様でした」

 

「いやそれにしてもお前成長したなぁ。1年前とは大違いだ。」

 

自分でもかなり成長したと思う。

前はかわすというよりも逃げるだったが、もう今ではガリバスの前から動かずにかわすだけで攻撃を避けれるようになった。

それに加え自分から攻撃する余裕も生まれた。

 

「結構本気で攻撃して避けられるから俺の立場がねえよ」

 

そういってガリバスは悔しそうに自分の頭をボリボリ掻いた。

 

「でも先生もなんだかんだで手加減してますよね?」

 

「きしししし。当たり前だ。ガキ相手に本気出すかよ」

 

ガリバスともこの1年でかなり友好的になれたと思う。

この人のスパルタにもだいぶ慣れてきた。

最初の頃はこいつのことを嫌悪していたアイリスやヴィアもこいつにおすそ分けとしてお菓子を出すくらいには友好的になった。

仲良きことは良きことかな。

 

そしてこの訓練の成果だけど、だいぶいいと思う。

あの最初は不可能だと思っていたナイフのお手玉。

できるようになりました。

ガリバスのやっていた剣舞はまだ頭がついていかなくてできないけど、10本くらいのナイフを投げるのはできるようになった。

 

実際にお手玉ができるようになったのはできる3ヶ月後だ。

そこからお手玉の本数を増やしたり、他の動きを取り入れたりしてナイフの扱いを上達させた。

投げナイフの練習をし始めたのはさらに3ヶ月後。

その頃になると身体能力の向上にも力を入れ始めた。

特にバランス能力と空間認識能力だ。

なぜかというと、避ける時に無茶な体勢になる時がある。

例えばジャンプしたあと体勢が横になったり逆さになったりだ。

その時でも攻撃を止めてはいけない。

だからそんな体勢でもナイフを投げたりできるようにした。

 

正直に言って、ベスの時より圧倒的にやりやすい。

とくに俺は空間認識能力が高いらしく、それがかなり生きてきた。

 

なぜ高いかは予想はついている。

 

前世でいじめられているとき、目隠ししながら殴られたり蹴られたりした。

そのときになるべく威力を殺すため誰がどこにいるかわかっていないといけない。

だから俺には空間認識能力が高いのだ。

まさかいじめられていたことが役に立つとは思わなかったけどな。

 

「投げナイフもだいぶできるようになったし……あとお前に必要なのはトリッキーな攻撃だ」

 

ガリバスはそこら中に転がっているナイフを集めながらそういってきた。

 

「だかなぁ……これはぶっちゃけ慣れなんだよなぁ」

 

「慣れ……ですか。あ、手伝います」

 

俺もナイフを拾い始める。最近は避けるだけじゃなくて攻撃もしていいことになってたからナイフ投げまくったからな。

ナイフがすごい落ちてる。

 

投げナイフって攻撃と攻撃のつなぎに便利だけど、なにが不便って後片付けが大変なんだよなぁ。

 

「………」

 

いつもは終わったあとはなにやらペチャクチャとおしゃべりなガリバスが顎に手を当てて考え事をしている。

その似合わない姿に俺のテンションまで変わってきてしまった。

 

「よし」

 

さて、なにを今度はやらせるのやら。

ガリバスの思いつきは大抵の場合ろくな事じゃない。

自然と身構える。

 

「お前、今日で卒業な」

 

だがそんな俺に帰ってきたのは突拍子もない卒業宣言。

 

思わず俺も呆然とした顔をしてしまう。

 

「なんでですか?まだまだ俺は弱いのですが」

 

そうそう。

もう7歳になったのでもうそろそろいいかなと思い一人称を俺にした。

いい加減僕というのはむずがゆくて苦手だったんだよな。

 

「確かにまだまだだが、基礎は出来ている。それだけで卒業の理由は十分だ」

 

本当にそうだろうか。

強くなるまで教えてもらうってのが普通じゃないのだろうか。

 

そんな俺の不満を感じたのかガリバスは大きなため息をついて続ける。

 

「お前さ、何か勘違いしてないか?流派ってのはあくまで本当に大まかな括りなんだよ。それから先は自分で作っていく。他と同じで他に勝てるわけないだろう。良くて引き分けだ。だから自分なりの他には負けない何かを作るしかないんだよ」

 

「………」

 

図星だ。

俺はベスのときもアイリスやラミアのときも一から十まですべて教えてもらおうとしていた。

それだと他には勝てない。

当たり前だ。

同等になるだけで、それ以上にはなれないんだ。

 

「……確かにそうですね。わかりました」

 

「よし、なら決定だな。明日から俺こないから」

 

ちょっとあっさりしすぎじゃないか?

あと、ふー終わった終わったって言うの止めなさい。

なんかこれがやらされてた感が出るから。

いや実際仕事なんだからやらされてたんだろうけども。

 

「見ててください。あなたなんかすぐに超えてみせますよ」

 

「ガキのくせしてなに言ってんだ?」

 

そういって俺の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

だがその表情は言葉とは裏腹にどこか楽しそうに、期待した眼差しを俺に向けていた。

 

「だがまぁ……期待せず待ってるさ。そのうち殺り合おうや」

 

「……はい!」

 

それだけいってガリバスは出口に向かって歩き出した。

 

「じゃあな」

 

「ありがとうございました!」

 

俺は歩いていくガリバスの背中に向かって敬意を込めて深く深くお辞儀をした。

 

そのうちにまた会って、剣を交わせることになる。

不思議とそんな気がした。

 

 

 

こうして俺とガリバスのフィアース流剣術の特訓は終わった。

 

 

 

 

 

 

ある夜、群狼の森の奥深く、誰も訪れないような場所に訪れる1人の影があった。

 

その人物はローブを着て深くフードを被っているので周りから見て誰かは全くわからない。

 

その人物は高さ6メートルはあろうかという巨大な岩の前で足を止め、岩に手をつき、誰にも聞こえない音量で何かを唱えた。

 

すると岩に人1人が通れるほどの穴ができ、ローブの人物は迷いもせず穴の中に入っていった。

 

「誰もいない……」

 

そこには誰もいなかった。

 

「ようやく到着か、ーー」

 

「ーーッ!」

 

いきなり背後から声をかけられ振り返るとそこには1人の男がいた。

 

色も落ちボロボロになったローブを着て、鹿の骸骨のようなものを顔につけている。

その容姿だけでも不気味なのに、そいつは誰もがきみ悪がるような雰囲気を醸し出していた。

 

いつの間に?

ローブの女は考える。

尾けられることへの警戒で自分の周囲を索敵していたが、自分の後ろには誰もいなかったはずだ。

どうやって背後に現れた?

だが情報が少なすぎてその答えが出ることはなかった。

 

「時間にはぴったりのはずでしょう」

 

先ほどの出来事からくる動揺を無理と分かっていながらも隠す。

 

「ふん、まあいい……。それより、つけられてないだろうな?」

 

「問題ないわ。つけられはいない」

 

「……ならいい」

 

そういって男は奥に進み、岩の壁にもたれかかった。

 

「それで、作戦の決行はいつだ」

 

「……1週間後から開かれる迎神祭。その初日にするつもりよ」

 

「確か10年に1度の盛大な祭りだったな。なるほど。市民が浮かれている間に……ってことか」

 

成功したときのことを想像してか、男の口からクククと笑いが漏れる。

 

しかし逆に女の顔は浮かないままだった。

 

「……やっぱり作戦は中止にしたほうがいいわ」

 

言葉を絞り出したかのように何とか言葉を紡ぐ。

 

「……なんだと?」

 

その言葉に男は反応し、不機嫌に返した。

 

「こんなのうまくいくはずないわ!」

 

「お前は黙って言われたことだけをしていればいい。余計なことに口を出すな」

 

「でも……っ!」

 

「口を、出すな」

 

女の目の前にはS字を縦に伸ばしたような剣が突きつけられていた。

 

目の前の男は簡単に人の命が奪える。

そう思えるだけの雰囲気があった。

 

明確に目の前にある死のイメージに女は黙ることしかできなかった。

 

「それでいい。くれぐれもこのことを誰にも話すなよ」

 

そう言った彼の足もとから黒い煙がどんどん出てきた。

 

「……きちんとやれば約束は守ってくれるのよね」

 

「ああ、きちんとやれば、な」

 

出てきた黒い煙は渦を巻くように男の体を覆っていく。

そして体全体を覆ったところでーー

 

爆散

 

 

 

爆散した場所には誰もいなかった。

 

岩の中に女が1人。

 

「くそッ!」

 

悔しさから岩に思い切り拳を打ち付ける。

 

彼女の悲痛なつぶやきは夜の森に消えていった。

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