少しこの世界における神の話をしよう。
神と聞いてなにを想像するだろうか。
救世主?
万能の存在?
はたまた神は存在しないという人もいるだろう。
が、どちらにせよ自分たちとは距離の遠い、手の届かない存在という点ではどれも同じだ。
しかしこの世界の神は前の世界の神より人との距離が近い。
少なくとも前の世界のように神がいるいないで論争が起こるなんてことはありえない。
皆が皆神の存在を信じている。
何なら本当に実在しているらしい。
しかも霊体のようなものではなく、生き物という実体として、だ。
前の世界で神はいない派の人間だった俺としてはにわかに信じがたい話だが、どうやら事実らしい。
信じられないことにベスもアイリスもあったことがあるという。
というか冒険していればそのうち会うことになるだろうし、貴族はあったことがある人が多いらしい。
この世界における神の役割とは、この世界をオンラインゲームの世界だとするとゲームマスターのような役割だ。
それは前の世界でも同じと言われるかもしれないが、少し違う。
前の世界のように、人々を救うとか、信仰の象徴とかではない。
ましてこの世界を神が作ったというつもりもない。
逆にこの世界の神は世界ができてから後に生まれたものだ。
そうではなく本当にこの世界を管理しているのだ。
この世界の気候、自然、生き物の生死、この世界全体の総魔力量。
そんな人間では到底制御ができないことを管理しているのが、この世界における神だ。
もう1つ驚くべきことがある。
それは人間など神以外の種族がやりようによっては神になることができるのだ。
と言ってもあくまで名称だけで、不老不死になるとか、世界をコントロールできるとかではないが。
この世界で不老不死になることは人を殺すことよりも大きな罪。
殺すことは生き物ならどいつもやっていること。
しかし不老不死になるのは生に対する、この世界全ての生き物に対する冒涜と考えられているからだ。
神になる条件はとっても単純。
神と同等の力を持ち、他の神に認められること。
だがそれを為すことができたのは過去に2桁もいないらしい。
神にも性格があり、サボリ魔やいたずらっ子がいる。
サボりやいたずら、ミスによって引き起こされるのが自然災害である。
いたずらの中でも生物へのいたずらは特に厳しく管理されている。
しかしそれでもする奴はいるらしく、一応ひどくならないように防がれることが多いのだが、その副産物として起こるのが俗に言う呪いである。
そして「迎神祭」と呼ばれる祭りがある。
俺が生まれ育ったルーマの10年に1度行われる伝統的な祭りだ。
この祭りは名前の通り「神」を「迎」える祭りだ。
この祭りの始まりは400年前。この街である男が神になったことから始まった。
神になったその男は神の住む都に移住しなければいけなくなった。
しかもなかなか忙しくなるから滅多に帰ってこれない。
が、10年に1度、この日だけは帰ってくることができた。
我が街の英雄であるその男のお出迎えを盛大にやろうとしたのがこの祭りの始まりだ。
しかし神になったからといって不死身になることはなかった。
なので神になった奴は死んでしまったが、祭りはまだ受け継がれている。
祭りによくあることだが今となってはただ街の住民が騒ぐ日になっている。
迎神祭の準備は1週間前、早いところは1ヶ月前からされる。
この祭りは街総出で行われ、既存の店はもちろん、祭り当日は新たに道に屋台が立ち並ぶ。
それに加え様々なイベントが行われる。
この祭りはリューラン王国でも有名で、この祭りの期間中は観光客も大勢来る。
この街がいつも以上に賑やかになるのだ。
「迎神祭?」
「そうだ。明日からだからな。楽しんでみたらどうだ?」
ある日の剣の訓練の後、ベスにそんなことを言われた。
なぜベスがいるかというと、ガリバスがいなくなってからというもの自分なりの戦い方を探し始めた。
しかし案がでても相手がいなかったら試すこともできない。
だからそのお試し相手として剣の訓練の時間にベスに相手してもらっているのだ。
有り体に言ってしまえば実験台である。
ベスは久々に息子に頼ってもらえた!と喜んでいた。
まあ知らない方が幸せってやつだな。
でも実際役に立っている。
頭の中で戦っているだけじゃどうにもつかめない時もあったから、やはり実際に戦ってみると全然違う。
オリジナルの戦い方といってもそんなに大したものではない。
きっと誰かがもう思いついているようなやつだ。
いろいろ考えてみてわかったが、結局オーソドックスなやつが1番やりやすいのだ。
だから誰も見たことがない!というよりは元からあるやつを俺がやりやすいようにカスタマイズした感じになる。
話が逸れた。
迎神祭とことは前から知っていた。
本にルーマの街の有名な祭りとして載っていたし、数週間前から街で準備の音だろうかガヤガヤ騒いでいる声が家にまで聞こえてきていた。
俺も最初の頃は大したことないだろ、と思っていたがどうだ。
実際準備の様子を街に見にいくとバカにできない規模で準備をしていた。
ほとんどすべての店が準備のため休店しているレベル。
前の世界でもここまでの規模の祭りや行事は見たことがなかった。
想像してみてほしい。
1つの街全体が祭りのために準備しているのだ。
準備でこの賑わいなら当日はどうなるのだろうかと胸を躍らせたのはきっと俺だけではないだろう。
1人で回っていてもきっと飽きたりつまらなくなったりすることはないだろう。
そう思えるほどの店の量。
当日何をするのか妄想が止まらない数々のステージ。
当日が近づくにつれ、増えていく街の人々。
思わず当日回っている俺を想像してテンションが上がってしまった。
きっとユリアと回ったらさぞ楽しいことだろう。
ここまでグダグダいろいろ言ったが、要するに言いたいことは1つ。
ベスの案には全体的に大賛成ということだ。
何なら俺の方から申し込もうかさえと思っていた。
だから俺の返答は決まっている。
「うん。そうするつもりだよ」
「そうか、楽しんでな。ちなみに俺とアイリスは仕事で忙しくてな。一緒に回れないんだ。くそ!何でこの時期に仕事なんか……」
ごめんベス。
俺にはベスと回るっていう選択肢さえ思い浮かばなかったよ。
「一緒には回れないが、せっかくの祭りだ。お前も楽しみたいだろう。だから余分にお小遣いをあげよう」
「いいよ。普段からあまり使ってないからすごい溜まってるし」
「だとしてもだ。一緒に行けないお詫びと思っておけ」
そういってベスは10000ギル渡してくる。
今まで触れなかったが、お金の話をしよう。
この世界でのお金の単位はギル。
1ギルで前の世界でいう1円の価値がある。
物価もだいたい向こうと同じくらいだ。
ちなみに親バカによくあるように俺は結構な額のお小遣いをもらっている。
しかもそれを使うことがないのでどんどん溜まっていっている。
だから本当にいらないんだけどなぁ。
それにベスといけないのは確かに残念だけど、お詫びをもらうほどじゃない。
「そういうことならわかったよ」
「よし。にしても本当にお前は子供っぽくないな。普通の子供なら有無を言わずに受け取るんだがな」
「まあね。ほら、俺大人だから」
「そういうところは子供っぽいんだがなぁ」
そういってベスは呆れたように苦笑いをする。
確かに最近は無理に子供っぽく振る舞う必要が少しずつなくなってきているので思ったことをそのままいうことが増えてきた。
だから内面の大人の俺が出てきているのかもしれない。
「それよりお前ユリアちゃん誘うつもりなんだろ?」
「まあ、一緒に行く人あいつくらいしかいないからね。」
「ならいい。誘うなら早めにな。」
「なんで?」
「……お前なら気づいてるだろ?」
「まぁ……」
俺は俺たちから少し離れたところにいるユリアの方向を向いた。
するとユリアはハッと驚いた表情を見せ、「私見てませんよー」と言わんばかりに目を逸らした。
これだ。
訓練が終わってすぐの時にはいつも通りタオルと飲み物を持ってきて、訓練の反省点を話している俺たちを少し離れた場所から見ていた。
だが俺とベスが迎神祭の話をし出した途端、落ち着きがなくなってチラチラとこちらを見だしたのだ。
誰が見ても明らかな誘ってほしいアピールである。
前の世界ではアニメのあんな女を見てめんどくさいと思っていた。
しかしどうだろう。
ユリアがやるととても愛らしく感じる。
「ほら、早く誘わないと機嫌悪くなるぞ」
「わかってるよ……」
普段から感情で動きやすい彼女だが、変なところで消極的なのだ。
しかもなぜか俺が関わるときだけ。
なに?
俺が何かしたのか?
「はぁ……」
ため息をつきながらユリアの元に歩いていく。
「ユリア」
「な、なに?」
「迎神祭って知ってる?」
「ええ、そんな祭りがあるようね」
ユリアは興味ないふりをしようとして失敗している。
言葉だけ聞くと冷静そうに聞こえるが、表情はすごく落ち着きがない。
目線が右往左往している。
「それでその迎神祭なんだけど……」
この次に来るであろう言葉が待ち遠しいとばかりにこちらに乗り出して話を聞くユリア。
……どうしよう。意地悪したくなってきた。
「いけなくなっちゃってさ。お土産買ってきてくれない?」
「……へ?」
なにを言われたわからないとばかりにポカンと間抜けな表情をする。
その顔は女の子がやっちゃいけない表情だと思います。
「え……じゃあ、一緒に行けないの……?」
混乱のあまり一緒に行きたいということまで漏らしてしまうユリア可愛いです。
そんなことを考えている間にどんどんユリアの目には涙がたまっていく。
「うっ、ひくっ。そんな……えぐっ……楽しみにしてたのに……ジンと、いきたかったのにぃ……」
「もうユリアかわいい!」
「うひゃぁあ!」
感極まって抱きついてしまった。
いや別に泣いている女子に萌えるとかではない決して。
なんというか……そんなに俺といきたいと思ってくれていることが嬉しかったんだ。
さて、もうそろそろ離さないと気絶するかもしれないくらい顔を赤くしているユリアが本当に気絶するかもしれない。
「ごめんね。冗談だよ。ちょっとからかってみただけ」
「……じゃあ一緒に行ってくれる?」
「もちろん」
正直ユリアのキャラ崩壊が甚だしいがかわいいから全てOK
それを聞いた途端にユリアは先ほどまで目を潤わせていたのが嘘かのような満面の笑みに変わる。
そこまで喜んでもらえるとこちらまで嬉しくなってくるな。
「じゃあ明日を楽しみにしてるわ」
落ち着いたのか、いつも通りの態度に変わった。
その顔はどこまでも幸せそうでこちらの頬まで緩んでしまう。
「うん。俺も楽しみにしてる」
明日ユリアと回る神迎祭を頭に浮かべ、ますます祭りが待ち遠しくなった。