理不尽から始まる転生生活   作:こめぴ

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第5話 迷子のあの子

 あれから1年が過ぎた。

 あの日から俺の毎日は勉強とトレーニングで埋まり、それはそれは忙しいものになった。

 起きてご飯を食べたら魔法の勉強、そのあとに昼ご飯を食べてから剣の訓練、夜のご飯を食べた後筋トレなどをしてやっと寝る。

 

そんな日々をなんだかんだ1年過ごした。

 

 いやこれ5歳児の毎日じゃないよな。

 俺くらいの年代ってもっと自由に本能のままに生きてるもんじゃないのか?

 他の5歳児がどんな生活しているのか知らないけど。

 

 でももちろんそんな遊びの時間を犠牲にしているだけあって、俺の知識と体力、剣の腕は5歳児とは思えないほどになった。

 とくに魔法。

 もともと本をたくさん読んでいた俺は知識を吸収することにハマってしまってどんどん新しいことを覚えていった。

 好きこそ物の上手なれだ。

 一度ハマって仕舞えばあとはこちらのもの。

 まあ、まだ危ないから勝手に魔法を使っちゃダメって言われてるけどな。

 

 この頃になると、この生活にも慣れ余裕が出てきた。

 だから最初はきつすぎて本すら読めなくなったけど、また本を読み始めた。

 で、本を読んでこの世界のことを知ると、実際に自分の目で見てみたいと思うのは当然のことだ。

 

 「父さん、外に遊びに行ってもいいですか?」

 

 一応ベスに断りを入れに行った。

 無断で抜け出しても良かったんだが、この親バカのことだ。

 俺がもし夜まで帰ってこなかったら相当心配するに違いない。

 そんなことはさせない。

 前回学んだからな。

 

 「いいぞ」

 

 だが意外に帰ってきたのは即答だった。

 いやそこはさ……もうちょっと心配するとかないものかね。

 許してもらったのはいいことだが、なんだか釈然としない。

 

 「どうしたジン。そんな顔をして」

 

 「いや、もうちょっと許してもらうのに時間かかるかなって思ってたからさ」

 

 「なんでだ?」

 

 「だって6歳児が1人で遊びに行くんだよ? 普通心配で止めるもんじゃないの?」

 

 「でもだってジンだしなぁ……」

 

 「はあ?」

 

 心の底からはぁ?である。

 全く意味わからない。

 なんだよ俺だからって。

 もしかして俺が思ってるほど大切にされてない?

 

 「お前なら何かあっても大丈夫だろ?」

 

 「……」

 

 「どうした?ニヤニヤして」

 

 ダメだ……にやけてしまう。

 いやだって嬉しいに決まってるじゃないか。

 俺は今まで認められることがほとんどなかったからこういうのには弱いんだ。

 それに今のは不意打ちだし。

 しかもそれをごく当たり前のようにいうところがまたポイント高い。

 ほんと父親として優秀だよ。

 飴と鞭もきちんと使い分けてるし。

 

 「……父さんはずるいと思う」

 

 「なにが!?」

 

 そして無意識なんだからまたタチが悪い。

 今のは少し理不尽だったかな。

 俺なんかしたか?とうんうん考えているのを見ると少しかわいそうになる。

 反省だ。

 

 「なんでもない。じゃあ行ってくるけど、いつまでに帰って来ればいい?」

 

 「あ、ああ。夕飯までに帰ってこい」

 

 それはまた遅すぎるんじゃないだろうか。

 放任主義なのかな。

 いい意味で。

 

 「ああそうだ。これ持ってけ」

 

 そういってベスは俺に石を渡してきた。

 見た目は本当にただの石ころだ。

 すごく綺麗な黒色をしている。

 わざわざ渡してきたんだからただの石ってことはないと思うけど……

 

 「なに? これ」

 

 「これは双信石。2つで1対の石で片方に魔力を流して話しかけると通話ができる。何かあったらそれで連絡しろ。かなり高いからなくすなよ」

 

 こんなちっこい石がねぇ……。

 まじまじと見てみるとただの石にしか見えないなぁ。

 

 「……」

 

 「売ろうとか考えるなよ?」

 

 「そ、そんなこと考えるわけないじゃないか」

 

 「そうか? ならいいんだが。石を見つめるお前の顔が掘り出し物を見つけた商人みたいだったからな」

 

 「とにかくありがと。じゃあ行ってくる」

 

 「おう。いってらっしゃい」

 

 いや、かんがえてないよ?

 ほんとだよ?

 

 「あら、ジン様。どこかにお出かけですか?」

 

 玄関に向かう途中、ヴィアに話しかけられた。

 玄関の方から歩いてきて洗濯物を幾つか持っているので、多分洗濯物を入れた帰りなんだろう。

 

 「うん、ちょっと外に遊びに行ってくる。」

 

 「そうですか。お気をつけて。魔物が出ることがあるので森など街から離れた場所にはいかないようにしてください」

 

 「うん、わかった」

 

 それは文献でも読んだ覚えがある。

 魔物は森とかだと空気中の魔力の関係で特に力が強くなる。

 単純な力だけじゃなく、体のサイズまで大きくなるやつもいる。

 だから普段街に降りてこないような魔物も森の中となると人を襲うようになるんだとか。

 街とか関係なしに襲う強い魔物もいるが、そういう奴らは目撃されるとギルドに依頼が出され、即座に処分されるらしい。

 

 だから森に近づかない限り魔物に襲われることはないわけだ。

 まあ自分からそんなとこ行くわけないし、大丈夫だろ

 

 

 

 「あら、あなたがアルフォードさんのお子さん?賢そうね」

 

 「この目とかアイリスさんにそっくり」

 

 「そう?でもこの顔つきとかベスさんに似てない?」

 

 「それにしてもしっかりしてるわねぇ」

 

 「ははは……ありがとうございます」

 

 

 屋敷を出て街に入り数分。

 俺は街のおばさんたちに囲まれていた。

 俺が街に来てすぐに貴族の子供であることはわかったらしい。

 そしてこの近くに貴族はアルフォード家のみだ。

 ということでなし崩しに俺がアルフォード家の長男ということがばれ、こんな状態になっている。

 

 周りを数人のおばさんたちに囲まれ、俺は愛想笑いすらうまくできなくなっていた。

 最初のうちは自分でも思うが完璧に対応できていた。

 だけどどんどん人数が増え、それに比例してかけられる言葉も増えるとそれも難しくなった。

 というか生まれてこのかたこんなに人に言い寄られたことがないから対処の仕方がわからんのだ。

 

 「すいません……僕もう行かないと……」

 

 「あらそう?また来なさいね」

 

 なんとか彼女らから抜け出した。

 あのままにしていたらいつまで拘束され続けるかわかったもんじゃないからな。

 

 それにしてもベスもアイリスも街の人にかなり好かれているようだ。

 平民なのに2人の顔をしっかりと認識しているのは、彼らと交流を持っていたということだろう。

 

 ここまで歩いてきてこの街のいろんなところを見ることができた。

 この街の人たちはとても暖かい。

 誰もが笑みを浮かべ、知らない俺のこともこの街は暖かく迎え入れてくれた。

 納めてる人がいいんだろうな。

 俺の両親の評価がまた1つあがった。

 

 それにこの街は小さいながらも、大きな街に負けない活気があった。

 商店街では客呼びの声がそこらじゅうから聞こえ、公園のようなところに行けば遊んでいる子供達の笑い声が聞こえる。

 前の世界ではこんな街見たことがない。

 

 

 1時間くらいぶらぶらと歩いた。

 今俺は街の大通りに来ている。

 ここはまだ開発途中で店とか建物が少なく、ただ大きな道があるだけなので人は少ない。

 ふと、1人の子供が道のど真ん中で佇んでいるのを見かけた。

 だがそいつはローブを着てフードを無茶苦茶深く被っているので顔どころか男か女かすらわからない。

 子供とわかったのは背丈が俺と同じくらいだからだ。

 

 あれちゃんと前見えてるんだろうか。

 フードのせいで見えないんじゃない?

 

 さっきからずっとキョロキョロと周りを見回している。

 

 (まあ、迷子だろうなぁ)

 

 周りの奴らは誰も手を貸そうとしない。

 

 全員不親切とかではなく、ただ単にあの子供は得体の知れない存在だからみんな怖がってるんだろう。

 

 そりゃあんなに深くまでフードをかぶっていれば怪しませるのは当然だよな。

 

 (はぁ……しょうがない)

 

 あいにくあの両親の英才教育のおかげで困っている奴を見過ごす奴には育ってないつもりなんでね。

 

 「ねえ」

 

 「……」

 

 「ねえってば」

 

 「……」

 

 「そこのローブきてキョロキョロしてる怪しい人ー」

 

 「怪しくないもん!」

 

 「あ、やっと反応した」

 

 ははっと爽やかに笑って怪しい人じゃないよアピール。

 

 声を初めて聞いたが、まだ声変わりのこの字もないこの年齢だ。

 それだけで男か女かはわからない。

 

 この子はあっと気まずげに俺に背を向けてしまった。

 

 あれ?

 シャイなのかな?

 それとも俺から怪しい人オーラがにじみ出ているのか?

 

 「ねえ」

 

 「……」

 

 「なんで無視するのさ」

 

 「……お母さんに知らない人に声かけられても無視しろって言われてるから」

 

 顔も知らないお母さんめ……。

 面倒なこと吹き込みやがって。

 無視しろとかちょっと極端すぎやしませんかね?

 

 「でもさ、君迷子でしょ?」

 

 「迷子じゃない。どこに行けばいいかわからないだけ」

 

 「それを迷子っていうんだよ」

 

 「っ!もういいっ!」

 

 そういって完全に無視コースに入ってしまった。

 しまった。

 思わず突っ込んでしまった。

 なんならここで無視して帰ってもいいけどそれはさすがに後味が悪すぎる。

 

 「悪かったって。案内してあげるから機嫌直して。どこに行くの?」

 

 「確か……アルなんとかさんって家」

 

 顔を半分だけこちらに向けそういった。

 心は開いていないが案内はさせてくれるらしい。

 まあそれでいいさ。

 仲良くなろうって訳じゃないんだし。

 

 アルなんとか?

 それもしかして俺の家?

 

 「それ、たぶんアルフォードじゃない?」

 

 「……確かそう。なんで知ってるの?」

 

 「僕の家だから。じゃあ行こう?案内するよ」

 

 「……うん」

 

 なんとなく納得していないようだが、俺の横につきついてきた。

 

 それにしても俺の家に用か。

 今日は誰か来るって聞いてないけど……アポを取らずに来たんだろうか。

 でもわざわざ来客を俺に教えるってのも変な話だな。

 

 

 隣をちらりと横目で見る。

 ローブの子は相変わらず俺の横を黙って付いてきている。

 それにしてもこの子がローブを被っているのは何故なのだろうか。

 ただ恥ずかしがり屋なだけ?

 それでこんなに深く被るものか?

 それとも顔を見られたらまずいとか。

 犯罪者?

 いやこの年で顔を晒せないほどの罪を犯すとは考えられない。

 

 (理由はきになるけど聞かないほうがよさそうだな。誰にも触れられたくないことはあるし)

 

 そう思い自分の疑問を心の奥にしまいこんだ。

 

 

 

 「人が多くなってきたね……」

 

 もう時間はお昼時。

 それに加え今いるのは商店街。

 おかげでこの街の最も人が集まる時間に、最も人が集まる場所に来てしまったことになる。

 

 そのおかげでさっきから何人かとぶつかったし、ローブの子を見失いそうになったことが何度かあった。

 

 「はぁ……しょうがないか」

 

 手でも繋ぐか。

 見失ったらダメだからな。

 せっかく案内人を手に入れたのにまた迷子になったらこの子も災難だろう。

 

 「ねえ。手、繋ぐよ」

 

 「え、ちょ、まって――」

 

 何か言っているが早く繋がないとすぐにでも見失いそうだ。

 ローブの子の制止を無視して手をつないだ。

 

 「きゃっ」

 

 きゃ?

 声の発生源を見る。

 この子が出したのか?

 だとしたらこの子は女の子?

 

 いかん、急に恥ずかしくなってきた。

 たとえ精神年齢30過ぎと言ってもこういうことに対しては何も役に立たないのだ。

 前世でも女子とてなんてつないだことないし。

 ……なんだか虚しくなってきた。

 

 なんならこのまま手を離してしまおうかと考えていると、俺の手に振動が伝わってきた。

 

 ローブの子を見ると体を震わせ、かろうじて見える顔の下半分は赤く染まり口をつぐんでいる。

 

 (あれ、これもしかしてこの子俺以上に恥ずかしがってる?)

 

 なんだかその事実がわかった途端に俺は落ち着いてきた。

 

 自分より遥かに緊張してるやつを見ると自分の緊張がなくなるあれだ。

 

 なんだ、可愛いとこあるじゃなか。

 

 なんて思った束の間、彼女は俺の手を振りほどいて走り出してしまった。

 

 「ちょっと!こんなところで走ったら――」

 

 「きゃあっ!」

 

 目で追った先で見たのは人とぶつかり尻餅をついている姿だった。

 

 「ほら、言わんこっちゃない」

 

 倒れてしまった彼女に手を差し伸べるでく正面に回り込んだ。

 

 (あれ……この子……)

 

 どうやら先ほどの衝撃のせいでフードが脱げたようだ。

 

 「ほら、大丈夫?」

 

 倒れたこの子に手を差し伸べた。

 もうさっきのことで恥なんてものはなくなった。

 

 が、この子は逆に俺の顔を見て固まってしまった。

 

 綺麗だな。

 

 この子の顔を見て素直にそう思った。

 

 この子は俺が予想した通り女の子だった。

 

 瞳は水晶のように澄み、それでいて燃えるように赤く俺を映し出していた。

 肌は雪のように白く、羞恥でほのかに赤みを帯びている。

 それに真っ白な髪は後頭部で1つにまとめられ、腰まで垂れている。

 真っ白な肌と白髪によってこの少女をどこか触れたら壊れてしまうような繊細さと、どこか神々しさすら感じるようにしていた。

 

 しかしそれらより俺の興味を引いたのは彼女の耳。

 

 長く、尖っている。

 

 彼女はファンタジーによくあるエルフというものか。

 

 本でエルフがこの世界にいることはわかっていた。

 が、彼らは彼らの高度な魔法技術から危険視され、迫害に近いことをされているので基本的に人前に姿を現さない。

 だから姿を見ることは無いだろうなと思っていたが――

 

 (こんなに早く見ることになるなんてな……)

 

 だがこれでフードで顔を隠していたことも納得がいった。

 でも彼女の容姿は俺が知っているエルフとは異なっている。

 俺の中でエルフとは尖った耳、緑色の髪と目を持つ者だ。

 本でもそう書いてあった。

 だけどこいつには耳以外当てはまらない。

 

 (……もしかしてエルフじゃない?)

 

 こいつの親はばれたらこの子がイジメか何かされると思っていたのだろう。

 もちろん俺はイジメの元被害者でもあるからイジメの辛さはよく知っている。

 だからするつもりはない。

 

 でも厄介なのはこいつはそんなこと知らないことだ。

 

 「ねえ」

 

 とにかく早く立たせないと。

 こんな人通りの多いとこで座っていたら邪魔になってしまう。

 

 「っ!」

 

 が、俺の一言で冷静になった彼女は――

 

 「あ! ちょっと!」

 

 ほのかに赤かった顔を急激に青くし、俺に背を向け走り去った。

 

 「はぁ……」

 

 無意識にため息が漏れる。

 

 俺は敵じゃないんだが……。

 

 でもそんなのあいつには関係ない。

 ああいうやつは自分以外は全て敵に見える。

 実際いじめられていた俺がそうだった。

 だからまずはあいつに自分は敵じゃないと教えないといけない。

 

 何か策があるわけじゃない。

 でも早く追いかけないといけない気がした。

 

 

 俺は彼女の背を追いかけるため走り出した。

 

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