遊戯王 ARC-V とある怪物の物語   作:よだ(*´ω`*)

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侵略者、影戯一融

(すす)まみれになった顔を顰めて、黒い髪を逆立たせた少年は目の前の灰色の外套を着た男を睨めつけた。

少年の名はユート。デュエルスクールに通う、ごく普通の少年。夢はプロデュエリストとして親友と共に、最高の舞台、W(ワールド)D(デュエル)C(カーニバル)の決勝でデュエルすること、()()()

 

しかし、辺りは廃墟と化し、繁栄の象徴であったハート型のオブジェを掲げる塔も、半分にへし折れて大地へと突き刺さっている。

 

火種がそこらに燻り、今にも燃え上がりそうだ。

 

ユートの目を見た外套の男は、ため息混じりに薄い、冷気すら感じる唇を開いた。

 

「まだ歯向かう気か? ()()()に似てるだけあって強情だな……」

 

男はフードを目深に被っており、その顔は良く見えない。が、声や背丈からして15〜6歳くらいの少年であることが伺える。

外套の少年がいう()()()、というのがどういう意味かはユートに分かるわけもないが、ただ明白なのは、少年がユートの故郷であるハートランドに現れた侵略者の一味であること。

 

ユートはデュエルディスクを構えて、感情を押し殺し、ただ淡々と少年に向けて言う。

 

「……お前達の目的はなんだ……なぜハートランドを襲う……!」

 

淡々と、怒りを隠して。

 

「崇高なる使命だ。このエクシーズ次元は、次元融合のための礎となる。素晴らしい事だろう?」

「次元融合……?」

 

ユートは訝しげな表情で外套の少年に聞き返す。が、外套の少年はそのまま、くるりと踵を返してユートに背を向けた。

 

「待て! まだ話は終わってないぞ!」

「驚いたな」

 

激吼するユートに対して、低い声で、外套の少年が言った。

 

「僕の言葉を聞く余裕があるのか」

 

瞬間、どこに潜んでいたのか、ユートの目の前に、厳つい仮面をつけ、中世の貴族のような青い制服を身に纏った男が現れた。

オベリスク・フォース。

外套の少年の故郷、融合次元のアカデミアの中でも精鋭部隊であるその部隊で、専用のデッキを与えられて戦うデュエルソルジャーだ。

 

一融(いっと)様のご命令だ。貴様を倒す」

「!? クソッ、邪魔をするな!」

 

ユートとオベリスク・フォースの男がデュエルを始めるのを背中の方で聞きつつ、外套の少年は辺りをぐるり、と見渡した。

自分達、アカデミアの侵攻によって、エクシーズ次元の首都、ハートランドは既に壊滅。他の街もほぼ制圧が完了したという報告を受けている。

残党はまだ少数残ってはいるが、所詮は小虫。殲滅するのに、そう時間はかからないだろう。

 

そもそも、相手になるわけが無かった。エクシーズ次元はデュエルをエンターテインメントとして、楽しむものとして普及させていた。融合次元のように、弱ければ死に強ければ生きる、といった環境下で育った精鋭達にとって、エクシーズ次元の一般人達とのデュエルなど、ゲームにもなりはしない。

 

一方的な狩り、とでも言おうか。そういう風に言っているオベリスク・フォースも、一定数はいるようだ。そんな奴に限って、足をすくわれてサッサと融合次元に帰還しているようだが。

 

外套の少年がぼんやりとそんなことを考えていると、瓦礫を乗り越えて、同じ外套を纏った、少年よりも小柄な少年が現れた。

 

「やぁ、一融。またサボってるの?」

「……ユーリ。お目当ての物は見つかったのか?」

「ッフ……挨拶だけしてきたよ。デュエルディスクも置いてきた。ボクのじゃ無いけどね」

「……また部下をカードにしたのか」

 

ヤレヤレ、と言ったふうに、一融、と呼ばれた外套の少年は首を横に降った。

ユーリはニンマリと嬉しそうに笑って、フードを脱ぐ。

赤紫色の髪に、桜の花びらのように枝分かれした眉。そして、何よりもその顔。その顔は、ユートと酷似していた。

 

「そこのエクシーズの残党、君にそっくりだったぞ。兄弟か?」

「ッフ。冗談はやめてよ」

 

冷たい笑み。仲間である一融ですら、機嫌を損ねれば敵として見なす。そういう男だ。

そして、それを知りながらも一融は彼に対する態度を1ミリも変えるつもりは無い。

 

「残りのレジスタンスは……」

「いないよ。さっき挨拶してきたバリアンとかいう奴らでおしまい。あーあ、つまんないなぁ」

「だからデュエルディスクを置いてきたのか」

「ッフ……スタンダードかシンクロで、ちょっとは歯ごたえのある(てき)になるかもしれないじゃないか?」

 

(てき)ではなく(てき)、か。ユーリはおそらく、図らずしてそう口にしていたが、一融は敢えてそれをスルーした。

アカデミアのデュエルディスクには、次元を飛ぶ機能が備わっている。つまり、それを使えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まぁ、それをしたところでどうなるかなんて──」

 

瞬間、一融の背中の方で爆発が起きた。

まるで迅雷が落ちたかのような、地響きすら起こるほどの爆発。事実、そちらの方を見やると、紫電が荒れ狂い、機械の体を持つ三つ首の猛獣を撃ち殺していた。

 

紫電を纏うのは、漆黒の龍。刃のような強靭な翼を広げ、大きく鋭い下顎を持った、黄色い瞳の龍だ。

 

「スターヴ・ヴェノム……? いや、違う……」

「あれは……エクシーズ・ドラゴン……!」

 

一融の声を聞いてか聞かずか、ユーリは喜々とした声で、爛々とした目で、その紫電を纏った漆黒の龍を見て呟いた。

エクシーズ・ドラゴン? と、一融が聞き返した時には、もう既に遅かった。ユーリはユートの元へと駆け出して、デュエルディスクを構えている。

 

「チッ……先越されたか……」

 

一融は少しだけ悔しそうに、そう独りごちた。

ユーリの手に掛かればあんな子供1人、赤子の手をひねるも同然。

このエクシーズ次元のデュエリストのレベルはもうある程度把握している。極東のチャンピオンだという男ですら、一融が倒してしまったのだから。

その一融に融合次元で唯一黒星をつけた男、ユーリに、あんな子供が叶うわけがない。

 

「──来たな」

 

一融はボソリと呟き、そのモンスターを瞳に写した。

現れたのは、まるで食虫植物を全身に寄生させたような出で立ちの、毒々しい龍。全身が紫色で、禍々しい。鈍く光る緑色の瞳は、ユートを獲物として捉え、ニチャリ、と音を立てながら開いた口からは、毒気と共に涎のような粘液がボトボトと零れ落ちている。

ユーリのエースモンスター、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン。その姿は、どことなく、先程の紫電を帯びた漆黒の龍に似ている。

 

あの子供、終わったな……と、一融は目を背ける。が、しかし、その後、奇妙なことが起こった。

 

「!? なんだ、今の光……」

 

突如、ユーリとユートのデュエルしていた方向から、激しい光が降り注いだ。

そして、一融は現場を見て、愕然とする。

 

「何が……起こった……?」

 

そこには、まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターのみがあり、ユーリもユートも、影一つ残さずにその場から消えてしまっていたのだ。

 

眉を顰めつつ、一融は現場に降り立つ。

 

リアル・ソリッドビジョンシステムが如何に質量を持つソリッドビジョンだからと言っても、人間に危害が加わるレベルまではない、そう、()()()()()()()()()()()

 

アカデミアのデュエルディスクですら、他のデュエルディスクとのデュエルでは力に制限が加わる。

 

なのに、何故……

 

「お前もアカデミアか」

 

そんな声がしたのは、一融が地面に座り込んでいた時。そして、イライラがピークを迎えた時だった。

ジロリとそちらを見やると、眼鏡をかけた、白い髪の男が立っていた。

衣服は埃や煤にまみれ、腕と頭からは出血している。

 

「……エクシーズの残党か? まったく、ユーリの野郎……何がおしまい、だよ」

 

一融は言葉とは裏腹に、大変愉快そうな表情を浮かべながらその男に向かい合う。

 

「アカデミア特殊部隊オベリスク・フォース、エクシーズ次元侵攻部隊隊長の影戯(かげざれ)一融(いっと)だ。君は?」

「……バリアン七皇が1、ドルベ」

「バリアン……ユーリが言っていたレジスタンスか。いいね、丁度イライラしていたんだ。相手になってくれよ」

 

一融はデュエルディスクを構えた。

ドルベも同様、無言で構える。

 

「冷静だな……いいぞ。君、強そうだし……楽しめそうだ」

「……光栄だな」

「思ってもいないことは言わなくていい。……そうだ、いいこと思いついた。君がデュエルに勝ったら、何でも一つだけ言うことを聞こう。何なら、今すぐエクシーズ次元から手を引く、とかでもいいよ」

 

ピクリ、と眉が反応したのが見えた。どれだけ平静を気取ったところで、結局は怒り狂った猛獣だ。

真面目そうなこのドルべという男、煽れば煽るほど燃え上がる火種。上手くやれば、レジスタンス達がどこに潜んでいるのか、情報を引きずり出すことができる。

 

「さぁ、始めようか」

 

デュエルは、静かに開始された。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

爽やかな風が頬を撫でて、傾きかけた太陽の色が丁度オレンジに染まり始めた頃。

河原の道を3人、横に並んで歩く影。

 

「あ、そうそう。今日、中継でストロング石島がデュエルするらしいわよ」

 

ピンク色の髪をツインテールにした、ハツラツとした笑顔の良く似合う女の子、(ひいらぎ)柚子(ゆず)が、隣に立つ男の子2人に言った。

2人の倍はあろうかという巨体に、カランコロンと重厚な音を響かせる鉄下駄、そして何よりも頭のリーゼントが目を引く男は、権現坂(ごんげんざか)(のぼる)

そして、トマトの様な緑と赤の髪に、丸いゴーグルをつけた猫顔の少年。首には装飾のついた振り子をネックレスにしたものが下げられている。笑った笑顔はまるで少女のような、可愛らしい印象すら伺える少年、(さかき)遊矢(ゆうや)

 

「そっか、柚子の師匠がデュエルを……」

「誰が、誰の、師匠ですって!?」

 

スパン! と、心地よい音とともに、どこから現れたのか、柚子の手にはハリセンが握られていた。

 

「いってぇ~! なにすんだよ、ストロング女!」

 

遊矢は叩かれた頭を抑えながら、涙目で柚子に抗議。柚子はムッとした顔でハリセンを握り直すと、もう一度遊矢を殴ろうとハリセンを振りかぶって叫んだ。

 

「言ったわね、ちょっと女子力高くて可愛くて、女の子よりも女の子らしいって評判だからって!」

「ちょっと待って柚子それどこの評判!?」

 

初耳なんだけど!? と、遊矢が続けた時、見かねたように権現坂が2人の間に割って入った。

いつもの事だからか、手馴れた様子だ。それもその筈、もうこの3人は小学校からの付き合いで、デュエルも、勉強も、何もかも一緒に覚えて来たようなものだから。

 

「まったく……2人とも、少し頭を冷やせ」

「「はーい……」」

 

しょぼんと肩を落として、すぐに同じ反応だったことに気付いて、遊矢と柚子は笑いあった。つられて権現坂も笑みをこぼす。

 

いつだってそうだった。思い返せば小学校の時も、こうして幾度となく語り合い、笑いあい、ときに喧嘩して、すぐに仲直りして……

 

そんな、穏やかで、少しだけ騒がしくて、楽しくてしょうがない毎日が、突如終わりを告げることになる。

 

あと、10秒で。

 

「そう言えばさ……」

 

9秒。

 

「うん? なに? 遊矢」

 

8秒。

 

「母さんが、今度俺達3人にデュエル遊園地のチケットを」

 

7、6、5、4……

 

「くれるって言ったんだけど」

 

3、2……

 

「次の休みに」

 

1……

 

「みんなで」

 

0。

 

瞬間、紫電が舞網市の河原に降り注いだ。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

紫電はリアル・ソリッドビジョンによるものではなさそうなもので、しかし、自然現象というには不可解な点が多い。

 

空は雲一つない。辺りに放電しているような電線もない。雷なんて、起こり得ない状況。

 

そして、ふらふらと頭をあげた遊矢は、その時初めて、自身が倒れていることに気がついた。

周りには、柚子と権現坂が遊矢と同じようにして倒れていた。2人とも意識はあるようで、少しほっとする。

と、同時に、目の前に突如現れた少年の顔を見て驚愕する。

 

「な、なんで……俺が……」

 

そこには、まるで鏡写しにしたように、自分そっくりな少年が膝を折って座り込んでいたのだ。

 

「……! お前、いま何を……!」

 

その、自分そっくりの少年は、遊矢に向かって突然激吼する。

が、すぐに、遊矢にそっくりなその少年は糸が切れたように、その場に倒れ込んだ。

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

遊矢は少年に駆け寄ると、少年を抱きかかえて頬を叩く。

遊矢似の少年は怪我をしていた。ひどく疲労していて、熱もある。よく見ると、目の下にはうっすらと隈もできていた。

 

遊矢はそれに気付いて、言葉をつまらせる。

自分と同じくらいの年齢の、この少年に何があったというのだ。

遊矢達の住む舞網市でこんな事があるとは考えにくい。しかし、目の前の少年の体温が、これは夢ではないことを如実に示していた。

 

「──瑠璃……いま、助けに……」

 

少年がボソリと呟く。

 

その瞬間、また新たな視線を感じて、遊矢はそちらに振り向いた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、影戯様」

「ああ、ただいま。ユーリは戻ってないか?」

「ユーリ様ですか? いえ、戻られていませんが……」

 

一融はそこまで聞いたところで、いいよ、と手をひらひらと降って番兵を戻らせた。

場所は融合次元、アカデミア。

エクシーズ次元で突然姿を消したユーリが、もしかしたら戻っているのかと考えて帰還したが、どうやら見当違いだった様子。

 

ユーリの事だ、どこの次元に飛んでいようが、好き勝手してひょっこり帰ってくるだろう。

()()()()()()()()()()()()()

もし仮に、次元の間に落ちてしまえば、帰る術はない。

 

そうして帰還できなくなった人間も、実際にいるという話も聞いている。

 

たしか、矢上(やがみ)融石(といし)とか言ったか。

 

融石は、アカデミアの中でも小次元と呼ばれる、融合、シンクロ、エクシーズ、スタンダード次元から派生して出来た次元を侵攻し、融合次元へと帰化させる仕事をしていたと聞く。

デュエルの腕はアカデミアでも随一。しかし、そんな彼でも永久に閉ざされた扉をこじ開けることは叶わなかったらしい。

 

「あ、一融君! 今帰ったの? おかえりー!」

 

そんなことを考えていた一融が、難しい顔をして自分の部屋を目指している最中。

天真爛漫な天使、と表現するに相応しい少女が、パタパタと一融の方に駆けてきた。

ダークブルーの髪を腰の辺りまで伸ばしっぱなしにしている、小柄な少女。

アカデミアの制服は青。オベリスク・ブルーと呼ばれる、成績優秀生の制服だ。

 

「……レイか。うん、ただいま」

 

早乙女(さおとめ)レイ。

現在のオベリスク・ブルーの中で唯一、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人間だ。

 

「……やっぱり、エクシーズ次元を侵攻したの?」

「ああ。アカデミアの志を聞き入れずに、差し伸べた手を跳ね除けた。彼等は僕達に敵対した。それは悪だ」

「でも……!」

「それ以上は言うな。僕の立場上、黙っていられなくなる。……君をカードには、したくない」

 

一融はそう言うと、レイの頭をポン、と撫でて柔らかく微笑む。

 

「大丈夫。シンクロやスタンダードの人達は、きっとそんな事はない。僕達の声を聞いて、手を貸してくれるに決まっている」

 

諭すように、解すように。

 

「平和はすぐ、そこまで来ている」

 

そう、信じて疑わなかった。




作中のレイはGXのレイとはパラレルな存在のイメージ
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