【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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45話 黒いサードアイ

 空に赤い残光を残し、フランは吸血鬼の能力をフルに活用。さとりを運ぶ。さとりは未だに自我を取り戻せず、虚空を虚ろな目で眺めていた。

 無論、フランドールも今のさとりが正常ではないということは気づいている。

 僅か数秒、その間に地霊殿に到着。開け放たれた窓から中に入り、さとりを寝台に寝かせると。すぐさま門の前へ、そこでは既に戦闘が始まっていた。

 

 

「お姉さん、どう?」

 

 

「少し厳しいね。流石にこの量で、相手はまだ増えるんだろう?」

 

 

 そこにいたのは、勇儀。後方からはヤマメ、お燐などが援護で弾幕を張り、キスメは桶を落とし敵の動きを一時的に止め、弾幕が当たりやすいように調整している。その一度動きが止まった者達をお空の手に装着された多角柱の制御棒から発せられた最大火力の熱線が薙ぐ。

 

 

「その心配はないわ。兄様が、砂漠で1人で...」

 

 

「空が帰ってきたのか!一体どれだけの量を相手にしているんだい?」

 

 

「少なくとも200」

 

 

 勇儀の表情が暗く曇る。正面から回転しながら一直線に突っ切って来たダンゴムシの様な異形をフランは片目で睨むと、手を握る。すると即座に肉片になった異形が臓物を散らせながら余力で横の家屋に直撃、赤いシミを残す。

 もう一匹の同様の異形は正面から勇儀の正拳突きを受け、その場で爆散。臓器がとび散り赤い大輪の花が咲く。

 

 

「勝てそうだったかい?」

 

 

 フランは少し黙ると静かに首を振る。

 

 

「今は、あいつに任せよう。こちらから救援に人を出す余裕はない。事実、お前さんを送った後、前線をかなり下げた」

 

 

 フランは今の戦場を眺める。所々に死体が転がり、家屋は破壊され、わかりにくくはなっているがたしかに前線はさっきより。家で言えば、3つ程下がっている。勇儀の体もかなり傷ついている。それに加え、こちらの人数の消耗が激しすぎる。今は、弾幕が撒けているから敵が一気に入ってこれないだけ。弾幕も無限に撒けるものではない。もしも妖力が切れ、弾幕が止まれば一気に流れ込んでくるだろう。そうなれば、もう終わりだ。お兄様が倒れるまでに今町にいるものは全て倒しきるか。お兄様が全てを倒しきり、協力に入ることしかこの状況を打開する策はない。

 けれど、お兄様は感染寸前だった。足止めになるかどうかすら怪しい。

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

 勇儀は、包帯を傷口に巻きながら何かを必死に思惑するフランに声をかける。

 

 

「もし、お兄様が感染したら。どうなるかしら?」

 

 

 これは、最悪のパターン。それは分かっている。だが、それも想定しなければならない状態だったのは確かだ。

 

 

「わからないな。私もお嬢ちゃんも鬼だった。全力を出したはずだ。それなのに勝てなかった相手が。理性を失って強化されて来るわけだ。下手をすれば幻想郷が終わるだろうね。でもまぁ、あいつのことだ。そう簡単には逝かないだろうさ」

 

 

 包帯を巻き終え、勇儀は前線に向かう。

 

 

「どうでしょうね」

 

 

 今、この場で既に感染寸前などと告げるのは。この場にいる全ての妖怪の戦意低下に繋がる。ここでは伝えられない、何よりもそれをお姉ちゃんが聞いてしまった場合にお姉ちゃんが壊れてしまう。それは、少しの間でもさとりの近くにいたフランが最もわかっていた。

 

 

「さぁ、いっちょ始めようか!」

 

 

「ええ、始めましょう」

 

 

 街での戦闘は非常に過酷なものであったが、入り組んだ路地や、水路をフルに利用することでなんとか抑え込んでいる。だが、水路は既に異形と妖怪の死体で埋まりかけ、路地は家が壊されている影響で徐々になくなってきている。

 決して状況は良くない。絶望的だろう。だが、ここで殺されれば皆が死ぬという確信。やられれば自らが傷つける側になるという確信が戦意を保っていた。仲間意識の高い地底の住民であったから戦えているということもある。

 

 

「一度私達が請け負う!一旦怪我人は下がって応急処置しな!」

 

 

 勇儀が大声で告げ、各々が様々な方法で異形を一度怯ませ、素早く前衛と後衛が入れ替わり先頭を再開する。あるものは武器を手に、あるものは能力で異形を狩る。後方から波の様に襲来する異形をお空の熱線が薙ぎ払うが物量で押し切られ、大量の異形が襲来。相手が妖怪ならば鬼と吸血鬼の戦力をもってしてその中に飛び込んで抹殺できるが、感染するとなれば話は変わってくる。

 

 

「まずいね」

 

 

 完全にくんずほぐれつの戦いになってしまった。こうなれば後方からの援護射撃は誤射を恐れる為期待できず。これまでなんとか1対1を保てていたはずが1対多数になる。強者は置いておいて、それほど力のないものが多数を相手するのは難しい。すぐに、周囲から悲痛な悲鳴が聞こえ始める。

 

 

「勇儀、任せてもらえる?」

 

 

 どこからともなく現れたパルスィが勇儀の肩を叩く。

 

 

「パルスィ?!下りな!」

 

 

 パルスィに関しては、勇儀の意思もあって地霊殿で怪我人や重体の妖怪のケアに当たっていた。だが、パルスィの能力は回復向けでは無い為。ただ、包帯を巻くだけの様な状況になる事は当然といえば当然だった。

 

 

「全く、私だけサボってるのも落ち着かないのよ」

 

 

 刹那、パルスィの妖力が爆発的に高まる。翡翠色の炎にも似た濃厚な妖力がパルスィを覆い。左目に収束。

 その光景に勇儀が息を飲む。

 

 

「今日は、いい天気ね。

 鳥は歌い、花は咲き誇る。

 こんな日にはあなたたちの様な化け物は。

 

 嫉妬に狂って、死んでもらうわ」

 

 

 突然周囲の異形の目もパルスィ同様に翡翠色に染まると。付近の異形を喰らい始める。

 

 

「パルスィ、お前....」

 

 

「ここは戦場よ。本来私の能力が最も強まる場所の1つ。さっきから、何度か妖力が溢れて暴走しそうだったのよ。今のうちに漁夫の利を狙って狩ることね。私のこれも無限ではないわ」

 

 

 今この瞬間も、異形の放つ嫉妬がパルスィに収束しそれを利用したパルスィが同士討ちをさせる。

 

 

「わかった」

 

 

 フランと勇儀は頷き合い、異形を殲滅する。あるものは胴体を千切られ、あるものは頭部が破壊される。

 悲惨な死を遂げ、肉塊と化す。だが、いくら同士討ちさせ、人数を抑えているといってもいつか同士討ちは終わる。

 妖力を持て余したパルスィはスペルカード舌切雀《謙虚なる富者への片恨》により自らの数を2人に増やし、嫉妬に狂わせることのできる数を増やす。

 

 

「きりがないわね」

 

 

 フラン、勇儀、妖怪、異形。それぞれが大量に殺しているはずだが、数は一向に減る気配はなく。逆に増えているとも感じる。そして、先程から同じような見た目の蜘蛛のような異形が増えていた。

 

 

「おかしい」

 

 

「奇遇だね。私もそう思っていたところだよ」

 

 

 その時だった。砂漠から爆音とともに黒煙が立ち昇る。それにより、砂漠に巨大な蜘蛛のような異形が突然姿を表し、奇声とともに足元を攻撃、砂埃をあげていた。

 

「お空!あれを撃ちな!」

 

 

 大声で即座に状況を判断した勇儀から指示が入り。お空が制御棒に妖力を集中。熱戦が空を切り蜘蛛の異形に直撃。黒煙をあげながら倒れ伏す。

 

 

「あいつもまだ頑張ってるみたいだね」

 

 

 地底の町の住民が徐々に優勢を取り始めた時、砂漠で孤独すぎる戦いを強いられていたうつろは絶望的な状況に立たされていた。

 後方で子供を産み、機械的に増援を送り込んでいる元凶は町の住民に気づかせる事でなんとか処理したが。その腑にいたと思われる8本の人間の足を持ち、目は8つとも充血し、裂けた口から白い歯の覗く異形が数百という単位で後方から迫ってきている。前方にもまだ処理しきれていない異形が50はいる。妖力はまだ1割は残っているがそれだけだ。

 この状況をなんとかする策が浮かばない。

 万全の状態ならばなんとかできる可能性はあった。だが、妖力は底をつきかけ、体には完全にナニカが周り痺れが酷い。銃を持つ手が震えて遠距離での射撃はほぼ不可能。短剣も強く握れないため、強引な攻撃は出来ない。それに加え、先程から視界が定まらなくなってきている。

 

 

「ここまでらしいな」

 

 

 もう生きる事は諦めよう。可能ならばさとりと顔を合わせたかったが。この状況で生きて帰れる可能性は限りなくゼロに近い。

 そんな彼に追い打ちをかけるように足元から蔦が飛び出し、再度彼を地面に埋める。足に麻酔が打たれ、抵抗力が削がれ。なんとか腕だけで耐えるがその後方から迫った蜘蛛もどうやら麻酔を持っていたようでうつろを一瞬にして覆うと腕に大量の針を刺し込む。

 彼の抵抗が完全に削がれたのを確認すると。四方からナニカを注入。先程とは比べ物にならない量の何かを流し込まれ、動かなくなったうつろは地面に吐き出される。腹になにかを入れなければという謎の義務感に襲われ。視界が完全に赤く染まる。遠のく意識の中、腰に下げていた注射器に手が触れる。

 彼から興味を失った異形は彼の上を通り町へと向かう。

 当然、この量が町に向かえば崩壊する可能性は高い。そうなればさとりは確実に死ぬ。生きてきて、初めて彼を愛した少女は死ぬ。

 その上、このままいけば自分もこの異形の仲間入りを果たす。こういった感染系の物の場合、元が強ければ当然感染後も強い。たとえ、あの異形を処理できたとして、自分を処理できるかどうか。そうなれば、自分がさとりをころす可能性もある。

 

 

「命令に従おう」

 

 

 奇跡的に生きていたボトルを必死に掴むと、そこから注射器に液体を移す。腕に射し込み中身を流し込む。手が震える影響で大きく皮膚が裂けたが麻酔の影響で全く痛みは感じない。この薬で一体どうなるのかはわからない。だが、今よりも悪化する事はないだろう。空になった注射器を捨てると目を閉じ、大の字になる。異形はほぼ全て町に向かったらしい。地響きが遠くなっていく。

 すぐに変化が訪れた、体が痛み骨が軋む音が身体中に響く。目を開き地底の天井を眺める。視界はやはり真紅に染まっていた。自分の血が白く見える。腕をあげるとそこには人ならざるものがあった。黒い鱗が生え並び、指は変形し鉤爪が生える。足も同様に変化し、黒い鱗があっという間に全身に広がる。口が前に延び強靭な歯が生え並ぶ。背骨のあたりが軋んだかと思うと黒い翼が二枚。翼膜は闇を吸う漆黒。完全に変態を終えた彼は立ち上がり。自らの姿を確認するように身体中を眺める。尾骶骨の辺りに新しい感覚がある。振り返るとそこには凶悪な棘の生えた尾があった。

 嘆きを叫ぶかの様に咆哮。前方で町に向かっていた異形と、町で戦闘していた者の動きが止まる。刹那、周囲に何百人と現れた精巧な人間の模型が。手に持った銃を発砲、圧倒的な破壊力を持ってして異形が撃ち抜かれていく。硝煙が立ち上り、驚いた地面の下の異形がこの竜の攻撃を止めんと砂の中から大量の針を突き出すが鏡写しにように作られた大量の剣が砂漠全域に雨にように降り注ぐ。数秒の間悲鳴と奇声が響いたがすぐに静寂が訪れる。

 生命の鼓動が完全に停止した地底で1人残された竜は空を見上げ。蜃気楼のように姿を消す。

 残されたのは一方的に虐殺された異形の死体。銃弾の雨を浴び前衛芸術の様になり、人間の肌の色を持った体は真紅に染まっている。砂漠は足の踏み場もないほどの大量の凶器で満たされている。その至る所で、糸の切れた人形の様に崩れ落ちた人型の模型が凶器に腰をかけ、腕に銃を抱き、まるで何かを守護する偶像の様に沈黙を保っている。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

 うえに重なった異形の死体を押しのけ、銃弾に貫かれた右足を抑えながら勇儀は周囲を確認し、生存者を探す。

 

 

「私は大丈夫よ」

 

 

 すぐに、横の異形の山から宝石の様な美しい羽から血を流し、フランが現れる。だが、流石は吸血鬼だろうか。すぐさま傷は治り、跡も無くなっていく。

 殺戮の行われた直後の町には、まるで巨人に荒らされたかの様な惨状が広がっていた。そこら中に妖怪と異形の遺体が転がり、無差別に発砲された銃による影響で家屋は倒壊し、地霊殿を囲む塀には大量の弾痕が残されている。

 

 

「パルスィは?」

 

 

 慌てて周囲を探すが、姿が見当たらない。勇儀とフランは正面に異形がいたためそれがクッションとなりある程度の銃弾は防げていたが、パルスィに関しては正面には何もおらず。少し浮上していた為、盾もない。

 周囲の異形を押しのけ、勇儀は必死にパルスィの姿を探すが。見当たらない。

 

 

「まさか、嘘だろ?」

 

 

 顔が悲壮に歪み、最悪の事態を考えてしまう。異形の山を漁ること数分。周囲から無事だった妖怪が集まってきた。その異形たちにフランが状況を伝える、生存した妖怪たちによる大捜索が始まった。誰もが無傷では無かったが、仲間の為にと最後の力を振り絞る。

 周囲は倒壊した家屋の瓦礫と、異形の腕や足、未だに艶やかな赤黒い臓器が散乱し捜索は難航を極めた。

 捜索が始まり1時間が経過しようかとした時だった。臓器と人間の体の一部にまみれた道の中で、見慣れた髪型の妖怪が目に付いた。臓器を踏み潰しながら駆け寄り、抱き起す。そこには片腹を銃弾に貫かれたパルスィがいた。美しかったブロンドの髪は赤く血に汚れ、呼吸は浅い、貫かれた腹からは臓器が見えてしまっている。

 

 

「おい、死ぬな!死ぬなパルスィ!」

 

 

 勇儀がパルスィを抱きかかえ、地霊殿に向かう。

 

 

「な...によ...。べつ...に、し...には....しない...わ」

 

 

 途切れ途切れになりながら声を出し、得意でもない飛行を使って割れやすい陶器を運ぶ様に彼女を抱える勇儀の髪をなでる。

 

 

「もう喋るな!傷が開く」

 

 

 パルスィを何とか地霊殿の救命兵に預け、フランと共にさとりの部屋へと向かう。部屋に入る直前、さとり以外の何かがいることに気づいた。慌てて扉を蹴り開けると其処には1匹の小柄すぎる二足型の竜。全身を鱗で覆い。漆黒の外套を羽織ってはいるが。翼は外套を突き破り、尾が地面に付いている。まるで闇の中から現れた様なその外見は死神を思わせる。

 

 

「おい、さとりから離れろ」

 

 

 寝台で横になっているさとりを覗き込んでいた顔がゆっくりとフランと勇儀に向く。

 

 

「キュっとして!」

 

 

 フランが即座に敵と判断し、能力を行使。対象の目を引き寄せ、それを破壊する。だが、破壊されたのは竜ではなく、背後の扉だった。

 

 

「え?」

 

 

 間違いなく必中必殺の一撃を躱されたことに疑問を抱きながらもう一度繰り返す。だが、次は自らの羽根が破壊された。

 

 

「ッ?!」

 

 

 突然の激痛に膝を折り、羽根を抑える。どうやら付け根を破壊した様で目の前に見慣れた羽根が対になって落ちている。

 

 

「お前ッ!」

 

 

 勇儀が鬼の力を持って踏み込み、右のストレートを放つ。当たれば無事では住むはずのない一撃がクリーンヒット、しかし微動だにせず立ちすくんでいる。ならばと、連打を放つが10発を過ぎたあたりで正面から消えたかと思うと背後に現れ、振り向いた瞬間にアッパーが入る。

 冗談の様に体が浮き上がり、世界が暗転する。そのまま頭部から落下、軽い脳震盪を引き起こし蹲る。

 一瞬にして強者2人を屠った漆黒の竜は、外套の中から黒いサードアイを出現させ、2人にターゲット。そのサードアイを見たフランの表情が凍りつく。

 

 

「そんな、それは」

 

 

 何かを言わんとしたフランの前に突然現れた竜が腹に拳を叩き込む。肉を叩く鈍い音が響き、フランは力無く地面に倒れこむ。

 そのまま、寝台に横たわるさとりを抱きかかえると漆黒の竜は闇に溶けた。

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