【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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56話 少年はやり直す

 目が覚めるとそこは闇の中、少年は目を覚ますとおもむろに転がっていた岩を掴む。ふれられた岩が安いマジックの様に棒に変わり先端に火が灯る。当然、周囲が照らされ、湿った冷たい岩が光を反射、煌びやかに周囲を照らす。

 

 

「成功か」

 

 

 突然現れた少年は、ただ一つつぶやくと、姿を消す。とり残された火種は重力に従い地面に落下し、洞窟の地面で煌々と燃えた後に少しずつ勢いを失い、消えた。

 

 

 地底にたたずむ白い大理石のようなもので作られた荘厳な館、地霊殿。その一室では、珍しいことに白狼天狗と地底の主である覚妖怪が秘密裏に会談を開いていた。内容はこの世界の破壊、彼女達だけが知っている筈の秘密。彼女たちを苦しめたこの世界への報復、復讐、それはすでに最終段階に突入していた。

 それは古明地 さとりが最初の異形となること。だが、楓がさとりを異形にする直前。

 

 

「こんにちは」

 

 

 突然としてそんな彼女たちの前に現れた少年は気さくな挨拶を投げかけてきた。

 今日は、作戦の実行日、私が異形になる日。迷いはしたが、この世界に復讐するためならば、この体なんて惜しくはない。守れるのなら惜しくない。

 

 

「すいません、どなたですか? 今は取り込み中なのでまたあとで来ていただけるとありがたいんですが」

 

 

 今、邪魔されるわけにはいかない。この少年がただ会いにいただけならば。

 そこまで考え、彼の胸元につながっている黒い球体が目に入る。そこまでは平静を保っていたさとりの心が崩れる。

 

 

「え?」

 

 

「残念だけど、その作戦は遂行させるわけにはいかない」

 

 

 思わず声が出た。サードアイだった。もう妹以外には居ないと、心を読める覚妖怪はいないと思っていたのに。

 彼の胸もとに浮かぶそれは間違いなく覚妖怪の妖怪たる所以であり、迫害され、恐れられていた理由。

 

 

「さとり、こいつは」

 

 

 楓も彼の胸元に浮かぶ眼球に気づいた。だが、問題はそこではない。右手で白狼刀を抜き、臨戦態勢に入る。

 覚妖怪などどうでもいい。気にすべきはこの少年の発言だった。間違いなく敵だ、それにどうやってこの場に現れたのか、どのように作戦を知ったのか。覚妖怪とはいえこの一瞬で作戦の内容まで知ることはできないだろうし、侵入者が来ない様にかなり警戒はしていたはず。どうやって入ってきた。いや、そんなことよりも今は、こいつを殺すしかない。覚妖怪であること以外に情報があまりにも少な過ぎるが、覚妖怪は腕力だけで言えば弱いはず。さとりが戦力として期待できないとしても、私だけで簡単に殺すことはできる。

 

 

「相手になると思ってるのか? ただの妖怪が? ただの天狗が? たった一匹で?」

 

 

 一体何を言っているのか、理解に苦しむ。

 それも無理はない。覚妖怪は心を読めるという大きなアドバンテージの代わりに腕力が妖怪の中でもかなり低い。弾幕勝負ならば心を読めるというのは大きなアドバンテージに成り得るが殺し合いでは意味がない。読んだところで妖怪の動きに身体がついて来ない、どこから来るかはわかる、だが人間に毛の生えた程度の身体能力で、妖怪の殺意を持った攻撃は躱せるほど妖怪は甘くない。もしも、楓が覚妖怪ならまだしも、彼女は白狼天狗。腕力は鬼には及ばないものの、覚妖怪よりは遥かに高い。

 

 

「死んで」

 

 

 狼の脚力を使い一瞬で距離を詰め、白狼刀を振り下ろす。覚妖怪なら確実に躱せない速度、確実に命を奪う威力。だが、彼に外傷はなかった。

 突如何もない空間から現れた鎖に四肢を繋がれ釣りあげられる。少年はゆっくりと近付くと彼女の記憶を変更。彼女を縛り上げる鎖ごと巨大な氷柱を作り、彼女を幽閉する。

 

 

「貴方.本当に覚妖怪ですか?」

 

 

 本来覚妖怪同士なら読心は通らない。なのにも関わらず、彼女に彼の心は鮮明に読めた。ありえない話だ。これまであまりにも長い間この妖怪をしてきた。故にこの例外はあり得ない。それに、覚妖怪は読心が能力、あの鎖は? この突然現れた氷は? なぜ、彼女の攻撃を受けたはずなのにダメージがない? 二つ目の能力? 

 あまりにも不思議な点が多すぎる。

 

 

「ごめんな。さとり」

 

 

 そう告げた彼の目を見た彼女は、その場に倒れこみ、長い永い夢を見る。

 

 

「後は、罪人用の結末。と行きますか」

 

 

 巨大な氷柱と床で眠り込む少女を見た彼は不自然に笑う、それはまるで、親が子を逃し死を覚悟した時のような。

 彼女達を強襲した少年は眠ったままの彼女を愛おしそうに抱き上げると寝台に寝かせて、たった一つのおまじないを掛けると消えた。

 

 

「異変、よね」

 

 

 そこに遅れて登場した八雲 紫は氷漬けにされた白狼天狗と長い夢の中の地底の主を確認する。

 だが、どこか違和感があった。傷一つ付けず戦力を奪う。これだけの戦力差、何故殺そうとしなかったのか。わざわざ、氷漬けという面倒な手段を取ったのか。白狼天狗を殺す必要が無いのはわかる。けれど、覚妖怪を生かす意味がわからない。一つあるとすれば覚妖怪の能力を知らない場合。これなら納得がいく。しかし、それなら何故この場所を知っているのか。ここを最初に狙ったのか。それに加えて、この館は大量のペットがいる。にも関わらず。その全てに気づかれること無く、さとりの部屋に侵入して一瞬でこの状況を作り上げて、また気付かれることなく、どこに行ったのか。

 

 

「ダメね、謎が多すぎるわ」

 

 

 とりあえず、これ以上何かをすれば手を打ちましょう。

 正直のところ、幻想郷の賢者の心すら読むことのできる妖怪は彼女にとっても邪魔だった。白狼天狗に関しては能力までは記憶していないまでも、かなり危険だったことは覚えている。彼女達は幻想郷を運営する上で不都合の方が多い。彼女達は言わばここで退場してもらってもなんの問題もない者達だった。

 

 

 その頃一人眠り姫となった古明地 さとりは夢を見ていた。

 どこまでも続く白い世界。しかし、地面には雪が積もっている訳でも、霧がかかっているわけでもない。命を感じることのない世界が永遠と続く。そんな中にぽつりと一つの円卓、見覚えのない影。その影は軽くこちらに会釈してくる。それに形はなく男か女も分からない。

 

 

「やぁ、さとり」

 

 

 声は男だった。徐々に形が集約し始め身長の低めの少年の姿を形どる。黒いコートに黒いズボン、白い世界においてあまりにも目立ちすぎるその恰好は異様という他ない。下半身から順に形が整えられ、数秒後には彼女を襲撃した覚妖怪が現れる。

 

 

「あなたは何者なのかしら」

 

 

 まずは確認をしなくてはいけない。この世界は何処なのか、どうすれば帰れるのか。この世界には彼しかいない、ここは恐らく彼によって造られた世界、彼に逃げられればここから逃げるのは難しいだろう。下手に争えば二度と戻れなくなる可能性もある。

 

 

「ただの罪人だよ。ところで、世界が、人が、妖怪が、憎いかい?」

 

 

 少年はそう言って、右手を正面に差し出し、座れば? とでも言いたげに笑顔を浮かべる。

 

 

「当然.私は許せないもの」

 

 

 少年は、そうか、と一言漏らすと座る彼女を見届けたあと、紅茶の入ったコップを持ち上げその水面に浮かぶ小さな波を眺める。

 

 

「あと一度だけ、世界にチャンスをくれないか?」

 

 

「あなたも覚妖怪が何をされたか知っているんでしょ? なのに許せと? こいし以外の家族も仲間も殺されたのよ、限りなく尊厳を奪う方法で」

 

 

 彼女は不機嫌にティーカップを揺らす。無理もない、どれだけの仲間が、家族が他の者に傷つけられたか。殺し方も、理由もすべて感情のある者のすることとは思えないものだった。

 

 

「その通り、許して欲しい。まぁ、でも許さなくてもいい。だが、もし許せるなら君が起きたら、この剣で俺を刺してほしい。もしも君が俺を殺さなければ俺が幻想郷を代わりに破壊する」

 

 

 彼は、自分がなにを言ったのか理解しているのだろうか。

 だが、彼女が状況を理解する前に少年は机に質素な革の鞘に納められた、黒いバラの精巧な彫刻が施された短剣を置く。

 

 

「残念だけど、貴方にここを破壊できるとは思えないわ。貴方が鬼ならともかく、私と同じ覚妖怪、腕力も無いし、妖力も低い。読心が強いのは弾幕勝負だけよ、殺し合いでは意味がないの」

 

 

 呆れたように息を吐く彼女を彼は貼り付けたような笑顔で眺めた後、紅茶に砂糖を入れ、かき混ぜる。

 

 

「別に幻想郷を壊すのに殺し合う必要はある? 俺がするのは征服じゃない、破壊。ただ、ここの結界を破壊すれば済む事、壊すだけなら簡単さ、でも、多少の抵抗はあるだろうね」

 

 

 砂糖が溶けきった紅茶を口に入れ、ゆっくりと飲み込んだ彼は紅茶を消すと甘いなと一言。

 

 

「まぁ、良いわ。壊せるとしましょう、でもそれ以前によ。例えば私が貴方を殺したとして何になるのかしら? 私を英雄にしようとしてるなら無駄よ、よく考えなさい。覚妖怪を覚妖怪が殺したところでそれはただの同族処理、あなたが覚妖怪であることを隠しても覚妖怪に対する見方は変わらないわ」

 

 

 彼女の批判を頷きながら聞いていた彼は確かにとでも言いたげに頷く。

 

 

「確かにその通りだ、でも当然それだけじゃない。さとりが俺のことを刺した瞬間に能力で覚妖怪の概念を皆の記憶から消そうと思う。俺の能力は何かを犠牲に変更する能力だ。さとりに刺された瞬間に俺の存在を犠牲に能力を発動すれば良い。そうすれば皆の印象はさとりが幻想郷を救ってくれたというものになる。でも、覚妖怪のことを忘れたというだけで、能力は残ってる。もし、この先世界を救ってくれたのにも関わらず、ここの住民がさとりやこいしに危害を加えれば、もう滅ばしてもかまわない。無理だとは思うけれど、できれば俺も協力する。まぁ、慈悲なんてかけない、消す。というのなら何もしないでここにいるといい。でも、忠告するなら。幻想郷がつぶれても覚妖怪は大丈夫と考えているなら辞めたほうがいい。君は無事でもこいしはきっと他の妖怪と同様消える」

 

 

「貴方も覚妖怪よね」

 

 

 なんの関係もないような一言。だが、その一言は最も彼が求めていない物だった。覚妖怪は総数が極端に少ない。そこから更に身内を犠牲にするという選択が出来るのかは正直疑問だった。だからこそ、少しでも切り捨て易いように突然襲撃した。だが物事はそう上手くはいかないらしい。

 

 

「そうだな」

 

 

「貴方は男よね」

 

 

「そうだな」

 

 

「しかも貴方は強い。そんな貴方と外に出れば覚妖怪の一族はまた再興できるんじゃないかしら」

 

 

「ダメだな。俺はその選択肢は作っていない。表層だけでもいい奴を演じようかと思っていたがそうだった。読心が通っているんだろうから意味などないか」

 

 

「じゃぁ、貴方は何の為に私を救おうとするのかしら? 貴方になんの得がないわ。そこが信用ならないのよ」

 

 

「何故か? 簡単だ。俺は醜悪で、愚鈍な罪人だからだ。俺の物語にハッピーエンドは存在しないし、誰かを幸せにする事も叶わない。自らが最も救われない方法で、物語の幕を閉じなければ罪は永遠に贖えない」

 

 

 赤黒く濡れ、膨大な数の遺体の上で泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、苦しむわけでもなく、電話をかける少年。

 それが彼女に見せられた罪人の心象だった。

 

 

「起きたら殺せば良いのね。わかったわ、受けるわよ」

 

 

「物分かりが良くて助かる。じゃあ、起きたらまた会おうか」

 

 

 そういった瞬間、白に染まった世界が音を立てて崩れ始める。地面も壊れ、崩落した天井が崩れ落ち。気を失った。

 

 

「紫、これは何かしら?」

 

 

 幻想郷の賢者と博麗の巫女。彼女の前に広がっていたのは村だった。一見何も変わっていないが。明らかにおかしな事がある。村の人間は皆泣き崩れ、並ぶ死体に花を添えていた。

 

 

「妹紅! 一体何があったのかしら?」

 

 

 家の全てから搬送された死体が村の中央に集められているのを屋根の上から眺めていた妹紅に紫が声をかける。

 

 

「分からない。昨日の夜、私はこの村にいたんだ、慧音と一緒に。でも、悲鳴の一つも聞こえなかった。なのに起きたらこれだ、村のみんなも起きたら死んでいたと答えてる」

 

 

「犯人の予測はついてるの?」

 

 

「いいや、それが誰も見てないんだ」

 

 

「見てない? そんなわけないでしょう。もう一度聞きなさい。これだけの人数よ、一人くらい見ていてもおかしくないわ」

 

 

「紫、ちょっと」

 

 

 その頃、村の中央に並べられた物言わぬ者を見ていた霊夢が上空で妹紅と話していた紫に手招きする。

 

 

「何かしら」

 

 

「これを見て」

 

 

 そう言って彼女は遺体の傷口を指差す。それは死因とは言えないほど小さな穴だった。

 

 

「私は最初、咲夜の犯行を睨んでたのよ。あそこの主人は吸血鬼だしね。血を欲してもおかしくはないでしょ。でもこれは違うわ。これはそんな代物じゃない。ただ、人を殺すという事に特化した物よ。どの遺体も抵抗の形跡がないの」

 

 

 確かに、抵抗もなく殺されたと言うなら妹紅の発言も理解できる。だが

 

 

「幻想郷にそんな技術を持った者は居ないわ。それに多少なり声を上げたりは出来ないのかしら」

 

 

「そこなのよ。でも、これだけの技術を持っていれば可能性はあると言うのが事実ね。きっと声を出せても他人をおこすような大きな声は出せない。咲夜は時を止めれるけれど、それ故にこんなに綺麗に殺す必要が無い。妖怪は根本的に恐怖を糧に生きてるのだからもっと派手に殺すはず」

 

 

 理にはかなっている。でも最も重要な問題が残っていた。

 

 

「ならなぜ殺したのかしらね。恐れを抱かせるにも少しは姿を見せた方が良いし、この村を単に滅ぼしたいなら狙うべきは子供、それ以前にそれだけの力量かあるなら残す必要が無い。この死体の共通点は子供じゃ無いという事だけ」

 

 

 目の前に並ぶ大量の遺体。そして、その亡骸に泣きつく子供。とても見ていて心地の良いものではない。そんな賢者の元に式神である藍から一報。

 

 

「犯行声明らしきものが送られて来ました」

 

 

「霊夢、一旦ここは任せるわ。私は籃と話してくる」

 

 

 そう言い残しスキマの中に入り、藍に合流する。

 

 

「犯行声明? 誰が」

 

 

「見てください」

 

 

 彼女の手に置かれた紙の束のようなものを受け取り、広げる。そこに書かれていたのは固まりきった血液によって擦りつけたようにただ一言。

 

 幻想郷を破壊すると。

 

 

 彼女は手にしたその紙を握り潰すようにして纏めると捨てる。

 

 

「受けて立ってやろうじゃない」

 

 

 珍しく感情を露わにした主人に藍は怯えつつ、見送るのだった。

 

 

 赤く紅く、血液で黒く染まった外套を纏った罪人は幻想郷の果てにいた。手に持った短剣と、外套の下に隠された大量の暗殺用具はどれも真紅の涙を流している。その感情あらわな装備とは対照的に彼の表情は穏やかだった。

 まるで道端の蟻を踏みつけるように一晩で大量の命を奪った。これほどの虐殺をしたのは久々だったが、彼に迷いは無かった。夜の村に侵入し、サードアイを利用した読心で覚妖怪に負の感情を持つものを音もなく殺す。

 当然理由はあった。もしも、さとりが彼を殺してくれたとして、彼の能力で覚妖怪に関する記憶を除去したところで読心される事に不快感を覚える人間が居たのでは結果は変わらない。また、迫害されるだけだろう。

 それに、彼の存在を犠牲に覚妖怪の記憶を消したとして、一人の犠牲でどこまで消せるのか、根本的に消せるかどうかも怪しかった。ゆえに彼は総数を減らすことにした。妖怪は殺せないこともないが、生命力の強さと人ではないという条件でバレずに殺すのは難しい。だが、人であればこれまでの経験上、静かに殺すことができる。

 だが、欲を言えば読心に不快感を抱く妖怪も殺しておきたい。妖怪を殺せばそれだけ彼のヘイトも高まる。その状態で覚妖怪だったという事がバレれば周囲からの覚妖怪に対するヘイトも上がる。そうなれば全てを殺すなどという事になりかねない。だからこそ静かに確実に殺せる人間を選ぶのは妥当だった。

 それに、妖怪は人間からの恐れで強くなると聞いた。ならば、人間を殺し、恐れを集めれば彼自身の強化にも繋がる。そして総数が減った分他の妖怪は弱体化する。そうなれば圧倒的に立ち回りやすくなるだろう。

 

 

「貴方ね。いったい何のつもりかしら?」

 

 

「何のつもりか? 当たり前だろ、この腐った物どもを破壊するただそれだけだ」

 

 

 悪びれる様子もなく、少年は笑う。

 

 

「わかったわ。貴方は幻想郷に仇なすものね」

 

 

 全力で処分するわ

 直後、目に見える程強大な妖気が噴き出す。

 

 

「おいおい、落ち着けよ。お前がどんなに強いからと言って俺のこの拳が握られる間に殺せるか?」

 

 

 もうすでに結界の破壊は容易い。それに握る事など必要ない。ここでは敢えて嘘を伝えておく、これでこの賢者が引かないのであれば座標を変更して幻想郷の反対側に飛ぶ。まだ、さとりも合流していない上に観衆の目もない。まだ殺されるには早すぎる。

 

 

「良いわ、私にもきっと無理ね。でもこれだけは聞かせて頂戴、貴方はなぜ腐っているといったのかしら?」

 

 

「この世界、という表現は甘いな。俺は幻想郷の外を含めた全ての感情を持つ生物が腐っていると考えている。理由は至極単純だ。大多数が勝つからだ。政治も戦争も正義も。それは全て大多数が勝つ。平等とはほど遠い。だが、愚かな民衆はそれが正しいと、美しいと言い張る。無理もない、そこで否定すれば自分は少数になる。そうなれば周囲からは敵だと認識される。怖いのさ。だが、何よりも虫酸が走るのはそう言った大多数の上に立つものは皆一様に様々な意見があり、様々な考えがある。それは素晴らしい事だと言うんだ。それとはほど遠いことをしているのにな」

 

 

「そう、ね。理解はできるわ。でもここは破壊させない」

 

 

 足元が突然開きスキマに身体が落ちる。その瞬間座標を変更、幻想郷の反対側に移動する。

 

 

「なにかを犠牲に変更する程度の能力.厄介ね」

 

 

 無駄に開いたスキマを閉じると、賢者は幻想郷の各所に連絡を入れる。それは政治であり、戦争の合図であり、正義の執行。圧倒的多数による蹂躙の合図。

 幻想郷始まって以来の地獄が幕を開ける。だが、その地獄には終わりが約束されていた。

 

 

 

 

 

 

 


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