なにしおはば   作:鑪川 蚕

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かなり悩みました。
説明がわかりにくいと思います。なんとなくスゴいんだなと思っていただけたら幸いです。



13話 航空戦

七面鳥などとは呼ばせはしない

 

 

深呼吸を一つ。

右手でストックを掴み、人差し指を伸ばしたまま引き金に添え、腕を持ち上げる。

 

「零式艦上戦闘機62型、爆装を解除したのち、全機発艦!」

 

零式艦上戦闘機62型は艦上爆撃機と艦上戦闘機の両方の能力を併せ持つ。

しかし、今は航空戦での役目を果たすため、重りとなるだけの爆弾は外すことにしたのだ。

ストックに埋め込まれた金属板に機力を流し込む。

しばらく流し込むと、滑走路を模した先端から青白い光が点滅を繰り返した。

 

「発艦始め!」

 

引き金を引くと、ジュラルミン製の短い矢が射出される。続けざまに2,3

回引いた。空を切る矢は青い炎を纏ったかと思うと、次の瞬間、数機の艦載機が出現する。かつての大戦時のものに比べて10分の1ほどの大きさしかないが、エンジンを猛獣の如く唸らせ、プロペラ音を空に響かせ、蒼空へ飛び立った。

そんな勇ましい姿を眺め、有事であるにもかかわらず大鳳は誇らしく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ため息を一つ。

軍帽のつばを左手でいじりつつ、艤装の一部であるアームをガチャガチャと目的もなく動かす。左目は今日の夕飯に人参が出たら嫌だな~といいたげに見えるほど覇気がない。

 

(大鳳に艦攻か艦爆を出してもらうべきだったか…?)

 

そんな考えが頭をよぎったが、即座に否定した。

大鳳はこれが初陣だ。あまり負荷をかける真似をしてはいけない。少ない艦戦に全集中力を注ぎこませるくらいが丁度良い。

 

「で、あいつ潰れてないだろうな?」

 

臆病になるのは構わない。名将は臆病な者に多いとも聞く。しかし、大事な時にも臆病なままで動けないものはただの馬鹿だ。

 

「どうだろな~」

 

余裕そうに言うがさすがに支援艦隊を含めた12隻を相手取る自信はない。さっきはああ言ったが、無茶な状況だ。対空番長の二つ名を持つ重巡・摩耶のような才があれば話は別だが。

一応挑発はした。後は運に任せるしかない。

 

そう考えていると後方から複数の低重音が空中を伝ってきた。

流星や烈風と比べると小さく頼りない音だ。

だが、主を守る忠犬があげる咆哮のように勇猛な音だ。

 

「はっ、単純なやつだな!」

 

木曾は遥か頭上を飛び越えていく零戦を見上げ、歯をむき出しにして笑う。

木曾との距離を開けていく深緑色の機体の群れは鈍色の敵機の群れと衝突間近になる。

眼帯の艦娘は25mm三連装機銃を構え、銃弾の嵐へと突入する準備を調えた。

 

「1stステージ開始だ」

 

 

 

航空戦が始まった。

鈍色のカブトガニのような、生物か機械かわからない容姿の敵機が軽巡と駆逐艦2隻を沈めようと降下し始める。 食い止めんと零戦達が迎え撃つ。

敵機の数は内訳は正確にはわからないが15機ほど。大鳳は現在稼働出来る27機中5機を自身の周りに置き、残りの22機は全て向かわせた。燃料不足のため帰還途中の52型9機も燃料を補給次第向かわせるつもりだ。

 

数としては互角、それどころかむしろ少し優勢だ。

油断する自分がいたので、急いで振り払う。

 

初めての航空戦。心してかからないと。

 

唾を呑み込み、戦いの動向を見守る。

早速一機、黒煙を振り撒きながら海面へと飛び込んでいく。同時にプツンと一筋の糸が切れる感触。さらにもう一本の糸が切れた。どちらも52型だ。

 

まさか相手の練度か性能の方が上…!?

 

早すぎる判断とはいえ充分ありうることだ。

もしそうならば、数では勝るものの、これでは互角か劣勢だ。

 

クッと歯噛みする。何か打開策は無いものかと思うが、熟考する暇すらない。

 

黒煙を纏いながら墜落していく機体が又しても出た。

 

しかし、それは大鳳の機体ではなかった。

 

「やった!!」

 

つい声に出して、ガッツポーズをとってしまう大鳳。

それに呼応するように次々と鈍色の塊が海へと墜ちていった。

 

どうしてこんなにも?

 

突然の戦果に大鳳は驚嘆と歓喜の色を隠せない。

別に自分の艦載機を疑ってるわけではないのだが。

ふと上空から海上に視線を移すと白煙を漂わせる3本の機銃があった

 

 

 

「q~~?」「きゅ~~!」

 

いつもの12.7㎝連装砲ではなく、25㎜三連装機銃を取り付けた2体の連装砲ちゃん達は今の墜とした敵機は自分の戦果だ、いや違う自分のだと言い合っているようだ。もちろん先程から降り注ぐ弾丸、爆弾を避けながら。

 

「も~~、ケンカしないでよ~」「キューキュー…」

 

そんな2体を呆れた目で見る島風と12.7㎝連装砲を載せた連装砲ちゃん。

まるで急に振りだした雨の中を騒ぎながら通り抜ける小学生たちのようだ。

 

「ったく、嫌になるぜ」

 

島風達を見て、木曾は苦笑する。

自分ではああもキレイに避けきれはしない。さっきから何回かかすっていてヒリヒリする。

 

いや、これでも上出来な方か。避け続けられているのは大鳳の存在が大きいことを認めざるをえない。

 

正直編隊を組むことすら四苦八苦し、あっというまに全機撃墜されるかと思いきや、なかなか上手く使いこなしている。大鳳は早速自機それも高性能の52型を墜とされたことに悩んでいるのかもしれないが、それは敵機が52型を集中攻撃しているからだ。加えてろくに実戦経験もない機体だ、善戦している方だ。

 

いい師に恵まれたのだろう。

 

空母は艦載機を用いて攻撃するという特殊性から新参の空母は同じ発艦方法の古参の空母を師匠として技術を学ぶという慣習がある。

 

ただ当りはずれがあり、軽空母の龍鳳が正規空母の赤城に教えをこうたが、「バーっとひいてボワワンと飛ばせばいいんですよ」という様な説明をされ、鳳翔に泣きついたのは有名な話だ。

大鳳は当りをひいたようだ。

 

そういえば坊が大鳳の師匠は瑞鳳だと言っていたような気がする。

 

瑞鳳は理論屋であり、艦載機マニアでも有名だ。おそらく何十、何百回の反復練習をしたのもあるだろうが、今の大鳳があるのは瑞鳳の存在が大きいに違いない。

 

 

ん?でも、瑞鳳は確か…。

 

 

「うおっと」

 

引っ掛かったことがあったが、艦爆の爆弾が降ってきたので慌てて避ける。

 

「花まるじゃないが、小さな丸ならあげてやるよ」

 

あれだけ反対したのに現金なもんだなと自嘲しつつ木曾は自分に機体ごと突っ込んできた艦攻の魚雷を寸分違わず貫いた。

 

黒く濁った爆煙の隙間から軽空母ヌ級の姿が見える。

嵐が静まるまで後少しだ。

 

 

 

 

執務室。

京は不定期的に伝えられる情報を書き込み、それと類似する海図をもつ報告書を引っ張りだし、敵のとるであろう航路、そして敵の狙いを予想していた。

 

「だからさ、単なる輸送船破壊が目的ではないと思うんだよ」

 

京は机に広げられた海図とかれこれ2時間おしゃべりしていた。

常日頃、陸奥に気持ち悪いからやめてと注意されているが、いっこうに止める気配はない。

 

「確かにあのルートは正規のルートではないさ。でも、仁本近海だよ?わざわざそんなことのために絶対防衛領域にまで踏み込んでくるかな?」

 

電探を応用して発明された対深海棲艦レーダーの精度は完璧とは言えない。

 

おそらく感知しきれない場所を特定し通ってきたのだろう。

 

恐ろしく計画的で長期的な作戦だ。

 

輸送船を破壊したいのなら、こんなに面倒な作戦をたてずとも、まだ艦娘の配備が不十分な海域に行けば成功するだろう。

 

「つまり本土襲撃が目的だったと?」

 

それなら敵の早すぎる支援艦隊にも納得がいく。

戦艦のいる艦隊が本隊であったということだ。

 

しかし、ならば何故輸送船を攻撃した?

 

目立つような真似はせず、そのまま本土へ向かっていけば良かったではないか。

そんなことをするから、偶然とはいえ大鳳に発見され…。

 

そこでふと考えついた。

 

「まさか囮?」

 

輸送船を襲うことでこちらの戦力を引き出そうとしたのではないか?

前線部隊の空母が広範囲の攻撃力を生かすことで、それを一手に引き受ける。

その隙をついて、本隊が本土へと攻めこむ…。

そこまで考えたが、自ら否定する。

駄目だ。大鳳がいる。

 

今回のように本隊が発見されたら艦娘の増援を呼ばれてしまえば、計画は台無しだ。

 

京は溜め息をつく。

 

狙いはわかった。しかし、どうしてこんな多くの不確定要素をもった長期的な計画をたてたのかがわからない。

 

鉛筆をくわえながら、海図にならぶ艦娘の名前を眺めていく。

 

木曾、島風、大鳳、陸奥、暁…。

 

報告を聞く限り大鳳は健闘しているようだ。

 

たいしたものだ、着任早々だというのに…。

 

そこで京の頭に電流が走った。

 

「大鳳さんの存在を知らなかった…?」

 

仁本四大鎮守府(横須賀、舞鶴、呉、佐世保)の内、舞鶴鎮守府だけがろくな航空戦力がいなかった。そのことについての議題が会議であがることは何回もあったが、いつも航空戦力が豊富な呉と横須賀に挟まれているから、どちらかが肩代わりすればよいという結論になっていたのだ。

 

もし舞鶴鎮守府に航空戦力がないことを知っていたとしたら?

 

もし稿知支部が今日は呉本部と演習すると知っていたとしたら?

 

加えて大鳳は元々呉鎮守府稿知支部に着任する予定だった。

 

もし深海棲艦が大鳳が稿知支部に着任すると知っていたとしたら?

 

何故こんな計画をたてたのか、何故舞鶴鎮守府を襲撃しようとするのかの筋が通ってしまう。

確かにこれならば、レーダーは突破できるが本土襲撃には少ない12隻でも実行できるだろう。しかも、突破しやすくするために小さな駆逐艦や軽巡を多めにして。

 

椅子の背もたれに体重をかけ、腕をぶらりとだらしなく垂らす。蛍光灯がきれかけ、チカチカと点滅し始めた。

侮っていた。もっと早くに気づけたはずだ。

本土は大丈夫だと慢心していた。

 

「無事でいてください…」

 

願う声が空しく漏れでた。

こんな時でも結局提督が出来ることは祈ることだけなのだ。

 

 




もしかしたら書き直すかも…
更新が遅くてごめんなさい。
次回はもしかしたら3週間後かもしれません
追記 えらい(とんでもない)ことに気づきました。

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