一部キャラ崩壊があります(?)
戦闘うんぬんは暖かい眼で読んで頂けたらなと。
「オッシッ」
嵐を突破し、木曽は歓喜に満ち溢れた声を漏らす。
敵の艦載機が後を追うが、大鳳の艦戦がそれをさせない。
島風に安否確認を行った。
「島風、破損状態を教えてくれ」
『連装砲ちゃんが怪我しちゃった…』
木曾は未だに連装砲ちゃんの見分けがつかず、どの連装砲ちゃんのことを指しているのかわからないから、とりあえず「そうか…」と返しておく。
「お前自身はどうなんだ?」
『ヲ?』
どうしてそんな事を訊くの?と言いたげだ。
木曾は島風には伝わらないぐらい小さくハハッと笑った。
『木曾は?』
「あ、ああ。なんともねぇよ」
出来る限り声色にでないように努める。先程の爆撃で機関部と連装砲一基が一部破損した。いわゆる小破状態というものだ。木曾自身も右肩を軽く傷めていた。
艦娘の損傷段階は小破、中破、大破に分かれ、段階が進むほど機力の循環に乱れが生じ、艤装の能力低下、身体の治癒能力低下など不具合が生じていく。
艦娘は機力で自身の防御を上げることで敵の攻撃を軽微にする。しかし、0に出来るわけではなく、その艦娘の許容範囲を超えれば出血、内臓損傷、骨折、気絶そして最悪死に至る。
「ちゃっちゃっと空母を片付けるとしようぜ」
「はーい」
木曾の嘘に気づいたようには聞こえなかったから、木曾は心の中でペロリと舌を出す。
損傷具合を誤魔化すことは木曾の十八番だ。
木曾は敵空母に左目を向けた。
鈍色の身体のほとんどを頭が占め、薄気味悪い白色の腕が頭の下から生えている。前頭部には異様に大きく不揃いな歯があり、左目、右目に当たるところのハッチ、砲身から紅緋の光が漏れだしていた。虫と人間のキメラのような外見は誰がみても嫌悪感を示すものだろう。
「軽空母ヌ級、しかもeliteか…」
深海棲艦は艦種によってイ級、ロ級、ハ級……と分類されている。
又、深海棲艦は同じ艦種であっても、総合的強さが格段に違うことがしばしばある。
無印、elite,flagshipの順で強力になっていき、そして、それは外見(特に眼)に表れることがわかっている。
無印が群青、eliteが紅緋、flagshipが石黄といった具合だ。
射程範囲外であるから近づこうとした瞬間、鈍重な破裂音が聞こえたかと思うと木曾の足元から2m離れた場所に水柱が生まれた。
見遣ると、軽空母という王を守る近衛兵のように軽巡1隻と駆逐艦4隻の姿があった。発砲したであろう軽巡から舌打ちが聞こえそうだ。
「やっぱそう簡単にはいかないよな!」
鋭く尖った犬歯を見せつけるように木曾が獰猛に笑う。
「さあ、砲雷撃戦、始めようか!」
木曾の宣言とともに駆逐艦1隻が前触れなく火炎をあげた。
げぁぎぃぃィィィィィと醜い断末魔を発しながら、動力源の重油を撒き散らしていく。
「め~ちゅ!」
島風がはしゃぎ、連装砲ちゃんが白煙をくゆらせながら「キュッ」とニヒルに嗤う。
島風も宣戦布告を叫ぶ。
「島風、砲雷撃戦はいります!」
駆逐艦イ級。全長7m,排水量4.5t。先端が丸まった爆弾のような鉄黒の外見で歯を剥き出しにした姿は黒衣を纏う骸骨の死神のようだ。事実深海棲艦が現れ始めた頃、迎撃に向かった何隻もの自衛軍の艦船を、その喉奥から這い出る5inch単装砲で葬り去ってきた。
そして今、眼前に供えられた兎の命を刈り取ろうと大鎌の如くイ級は単装砲を構え、照準を定めた。否、定めようとした。
そこにいたはずの兎はいなかった。
同輩のイ級を沈めた忌々しい兎はいなかった。
だが、兎の白毛のような航跡が残っていた。
イ級は体位を変えつつ、それを辿っていく。
「きゅ~」「q~」
兎の連れだと思われる、機銃を頭につけた灰色の機械2体がイ級を出迎えた。
「きゅっ!」「qッ!」
25mm三連装機銃×2が火を吹き、イ級の装甲を破らんとする。
しかし、威力が弱く致命傷には至らない。
イ級は目障りなそれらを破壊しようと単装砲を向けた。
その時、兎の航跡が途切れていることに気づく。もちろん目の前にはいない。
背中に軽い何かが乗った感触。
頭上から聞こえる小バカにしたような声。
「おっそーい」「キュキュ」
連装砲ちゃんを軽々と脇に挟んだ兎は12.7cm連装砲の砲口をイ級の背中に突き立て、淡黄の閃光を瞬かせた。
鉄の装甲が貫かれ、鈍い破砕音とともに重油が噴き出していく。
ガャグァァァァァと悲鳴をあげながら、強烈な痛みに堪えかね、その巨体を大きく揺らす。
「ヲ、ヲ~!」
兎は振り落とされまいとイ級の身体にしがみつく。
「ニヒヒッ」
いや、それどころか器用にバランスをとり楽しんでいる。荒れ狂う波を嬉々として楽しむ波乗り屋のようだ。
「ヲゥ!?」
少女は気配を感じ、身体を右に反らせる
直後、先程までいた場所を背後から複数の砲弾が通過した。
少女が振り向くと、砲塔を構えた深海棲艦が2隻。
イ級に姿が似ているが、違う。足が生えていた。鼠色の水死体のような足が。
少女はその姿に既視感を覚えた。
なんでだろうと少し首を捻る。
「あ、提督が言ってたやつだ」
3ヶ月ほど前に京が報告書片手に注意を促していたことを思い出した。
駆逐イ級後期型。近年、北方海域で発見されてから各海域でも散見されるようになった深海棲艦。駆逐イ級に似た容貌だが、性能は段違いであり、駆逐イ級flagshipとなんの遜色もない性能をもつ。駆逐艦より装甲の厚い重巡の艦娘を大破させたという報告すらある。
イ級後期型の砲口が光るのが見えた。
とっさに少女は連装砲ちゃんを抱きかかえたまま、足元にいるイ級を壁にするように海面へと飛び降りた。
しかし、それを読んでいたのか、イ級の身体が味方の砲弾で風穴を開けられていく。
苦痛の声をあげることすら許されずイ級は徐々に姿を海中へと消していった。
蠱惑的に煌めく油膜が辺りをゆらゆら漂う。
少女はその光景に顔をしかめつつ、腰を屈めた。
そして、島風は沈みゆくイ級の巨体を軽々と跳び越え、深海棲艦へと猛然と突撃した。
わざわざ死ににきたようなものだとばかりに怪物達は5inch連装砲を乱射する。
しかし、全ての砲弾はむなしく海に着弾した。
島風はたった一つとして、かすることすら許さなかった。
島風の航行速度が砲身の回転速度を大きく上回り、砲身はおろおろと宙をさまようばかり。
2隻がかりで弾幕を張ろうにも、張った先に島風はもういない。
まるで流れる時空が異なるかのようだ。
撤退することこそが最善策だと怪物達が悟ったのは島風が文字通り鼻先にいた時だった。
純白の手袋をはめた手首を怪物の鼻先の高さに持ち上げ、親指と人差し指で円を作る。
「ともだちは大事にしないとダメ!」
膨れっ面のままピンッと鼻先を弾いた。
そして、島風はそれ以上何をするでもなく、2隻の間をすり抜け、軽空母ヌ級へと疾走していく。
もちろん深海棲艦は人語を解せない。何も思うことなく、淡々と、背を向けた駆逐艦を追撃しようとした。
その1秒後、イ級後期型2隻は爆発音を聞く。
その音源が自身からだと気づいたのは2秒後。
大破以上の損害を被ったと気づいたのは3秒後。
与えたのは酸素魚雷だと気づいたのは4秒後。
このまま轟沈することに気づいたのは5秒後。
だが、怪物達は永遠に気づかなかった。
その魚雷は島風によるものだったということに。
島風が突撃した時には既に発射されていたことに。
怪物達は永遠に知らなかった。
艦娘より遅く奔る酸素魚雷の存在を。
もとい、酸素魚雷より速く奔る艦娘の存在を。
島風型駆逐艦1番艦島風。曰く旧仁本海軍駆逐艦の最終型。重巡並みの機力を其の小さな身に納める駆逐艦。最高航行速度40ノットは艦娘内で随一を誇り、火力値、雷装値ともに駆逐艦中最上位。あらゆる性能が並の駆逐艦と一線を画す。驚異的な身体能力、動体視力、射撃センスを与えられた天才。
余談だが、天才は忘れていた。
イ級後期型は既に十を越すほどは沈めていたことを。
内、三回ほどはイ級後期型であると認知していたことを。
つまるところ、どうでもよかったのだ。
elite,flagship,後期型、イ級、ロ級、ハ級、駆逐、軽巡、重巡、なんであろうと。
単独による深海棲艦撃沈スコアが400を超える島風にとってはどうでもよかったのだ。
島風が駆逐イ級に乗っかっていた頃、木曾も又深海棲艦と対峙していた。
軽巡ヘ級。高さ3.5m,重さ1.5t。右目の部分に穴が開いた白の仮面を被った人間のような素色の上半身が鈍色のピラニアの顔面のような怪物に無理矢理合成されたような容姿。
加えて隻眼の艦娘の前に立ちはだかった軽巡には違う点が一つ。
眼が石黄に輝いていた。
「flagshipか…」
控え目に言っても性能は木曾より上。
「さてどう出てくる…?」
木曾が相手の出方を窺っていると、遠くから深海棲艦の悲鳴が聴こえた。
「相変わらずはえーな、オイ」
振り向かずとも、何が起きているかは容易に想像できる。
木曾は苦笑いを浮かべた。
「オレもすぐ行くとするか」
木曾がいつまでも攻撃してこず、焦れたのかヘ級が右腕に生やした6inch連装速射砲で砲撃を仕掛ける。
木曾は右に体重移動させ、砲弾を避けていく。
航跡をなぞるように水柱があがる。
「どうした、どうした、そんなんじゃ当たんねぇぞ!」
ヘ級を訓練するかのように木曾が挑発する。
シュルルルと多数の泡の弾ける音が聴こえた。
「ん?」
音の源へと顔をチラリと向ける。
数発の魚雷が木曾の進路と衝突しようとしていた。
「ツッ!!」
減速することで回避したいが、後ろからは砲弾の雨。
木曾はアームを動かし、魚雷を撃ち抜いていく。
しかし、小破の影響で普段ほどの正確な射撃が出来ない。
そして、爆発する度に更なる生まれる水柱と爆音が視界と聴覚を遮る。
足元まで到達した魚雷の触発信管が作動し、爆発。
「くそっ!!」
舌打ちすると、一か八か砲弾が炸裂する方へ飛び込み、海上を艤装ごと転げ回った。
回る視界の中、害意をもった砲弾が眼前へと迫るのを捉える。
左手で連装砲をアームごと無理矢理手繰り寄せ、それにぶつけることで防御。
数秒後、海水の抵抗で木曾の身体が転がるのを止めた。
更に抵抗を利用し追撃に備え、素早く立ち上がる。
右肩の防壁には抉られたような穴が開き、艤装の損傷が目に見えてわかる。制服の至るところが千切れ、少女特有の張りのある肌に痛々しい切り傷、擦り傷が目立つ。
所謂中破状態だ。しかも、大破に限りなく近い中破だ。
「チッ!やるじゃないか!」
それでもなお痛みを堪え、木曾は不敵に笑う。
「だが、まだまだ。そんなんじゃオレを沈められないね」
満身創痍な身体で何をぬかすのか、ヘ級がもし人語を話せたならそう言っているだろう。
だが、木曾には自信というもので満ち溢れていた。
木曾はヘ級の一挙一動を見逃すまいと睨み付け、突撃。
ヘ級は応酬として砲撃、雷撃を繰り出していく。
しかし、木曾はそれらを読んでいたかのように回避。
「弾幕を十分に張れていないな、どうしたんだ?」
回避しつつ、ヘ級を嘲笑する。
「そりゃ、あんだけ乱雑に撃てば足りなくなるだろうよ。下手くそ」
幾本の魚雷が木曾を襲うが、これもいなすように避けていく。
「だから魚雷でカバーしようってか?」
「オレの右に撃てば、当たるって思ったんだろ?甘い甘い」
結果として木曾に傷をつけたものはいなかった。
ヘ級は焦り、寸前まで気づかなかった。回避中に木曾が射出した魚雷を。
慌てて速射砲で全て撃ち抜くが、安心するも束の間、はじける水柱の隙間から木曾が現れた。
「捕まえた」
木曾はいたずらっ子のように笑いながら、ヘ級の下半身部分に当たるピラニアのような怪物の口内に61cm酸素魚雷を放り込んだ。
とたんに響く爆発音。
しかし、装甲が厚いため、衝撃が全て下半分のみで抑えられた。
ヒト型の上半身が残弾少ない速射砲で木曾を撃ち抜かんとする。
「お前、上と下で意識が別れてんだろ?知ってるぜ」
目の前の状況に怯みもせず、落ち着きながら、推進機ごと足をピラニアの口の中へ突っ込んだ。
「だが、身体は繋がってる」
「出力全開」
推進機が重油を吸引、加速、排出。これらを高速で繰り返していく。
加速された重油は洪水のごとく血管内を循環し、決壊させる。
変化は表面にも表れ、ヘ級の腕が引き裂かれたように割れ、仮面の下から重油が止めどなく海面へ滴り落ちた。叫び声をあげるはずの口からも吹き出し、声が奪われる。
とうとうヘ級は重油特有の黒に染まった身体のまま転覆した。
「じゃあな」
木曾が手向けの花のように魚雷をヘ級の身体に放り投げると、重油に引火、爆発を起こし紅蓮の花を咲かせた。
球磨型軽巡洋艦5番艦木曾。平凡な性能でありながら、華々しい戦歴をあげた姉達をもつ末娘。とある艦娘に師事した経歴がある。勝ち気な性格、粗暴な物言いなため、勘違いされやすいが、相手の性能、癖、装備を観察し得た情報を基に戦う。
「ふぅ…」
重油にまみれた顔を拭い、木曾は一息ついた。
ヌ級の方へと顔を向け、にやりと一笑する。
「さあ、味方はもういないぜ」
その時木曾はありえない音を聞いた。
同時刻、島風はありえない姿を見た。
後方から聴こえる数機の敵機のプロペラ音を。
不揃いな歯をおかしそうに揺らすヌ級の姿を。
申し訳ありません!!
ちゃんと6月19日には終わらせようと思っていたのですが、色々とまぁありまして…。期待していた方には本当に申し訳なく…。え、そんな人いない?それはまあそれで…うん…。