5ヶ月前の11月、広洲県呉鎮守府本部執務室内にて。
黄金の龍が壁一面に描かれ、床は白い大理石で埋め尽くされていた。大きな窓ガラスからは赤ランプが妖しく瞬く夜の港を見渡せる。執務室内で一人着物を羽織った人物が棚からとっておきのウィスキーを取りだし、握りこぶしほどの氷球を入れたロックグラスに注ぐ。琥珀色の液体を揺らしながら、とある巨大戦艦の模型を座した桐箪笥へ近寄り、満足気に模型を眺めていた。
「提督よ、新しい情報が届いたぞ」
長身で褐色の女性がカツンカツンと大理石を踏み鳴らす
「…のっくをせぬか、うつけが」
興を削がれたとばかりに一気に飲み干した。
「して、情報とはなんじゃ」
「いや、そんなことよりその右舷の機銃の位置が少しおかしいのではないかと前々から疑問だったのだが」
彼女が模型を指差し、疑問を呈する。
「それこそどうでもよかろう」
「確かにそうだ。こりゃ失敬。ハッハッハッハッ!」
豪快に笑う女性のせいで頭痛がするのでもう一杯飲むかと再び酒棚へと戻る。
「笑っておらず、はよう言わぬか」
「ああ、そうだったな」
褐色の女性は手元の書類をきめ細やかな刺繍のはいった柴色の豪奢なテーブルクロスがかかった執務机へ放り投げた。
その雑な扱いに眉をひそめながらも提督はグラス片手で書類に目を通す。
一通り読み終えると、フっと失笑した。
「傑作よのう」
口元をにやつかせながら続ける。
「2ヶ月前の建造されたあの日、知った者は皆慄いた。機力の量、質。海、艦載機、乗組員の記憶。爆発音に対する過剰反応。以上からそうであると判断され名をつけられた。いや、名を背負い直された」
長身の女性をからかうように指さす。
「そなたやそなたの姉の如く期待をもたれた。深海のやつらに決定打を撃てると誰もが歓喜し、栄誉を得たいがために誰もがそれを欲した。儂もその一人じゃった」
酔っぱらったのか話し始めたら長くなる提督を艦娘はいつものように黙って聞いた。
着物の女性はグラスを机に勢いよく置く。頭の釵がシャラリと揺れる。
「それが蓋を開けたらどうじゃ!水上を駆けるどころか満足に歩くことも出来ぬ身体能力!字が読めぬ、書けぬ、話せぬほどの幼児並みの知能!機力の不等配分による正規空母らしからぬ搭載数!これらだけでも前例無き無能さよ!そして、」
彼女は書類を指先で弾く。
「軽空母龍鳳が断定したそうじゃ。装甲空母大鳳には発艦能力が無いとな。発艦できぬ空母に何の意味があるかのう?固定砲台として使ってやろうか?秋月や摩耶などの優秀な艦娘がおるのに?実験体として使うにしても、大鳳の名がそれを阻む。まるで使い道がない。ぺんしょん大鳳じゃな」
その物言いに褐色の女性は少し眉を動かすが、気にしなかった顔をする。
「それで、その大鳳はどうするのだ?」
「ああ、稿知の岐峯根が引き受けたいと前から言っておったからの。あやつに任せようかと。…横須賀や佐世保にやるのも癪だしの」
「ふむ、岐峯根提督か。それほど野心家には見えなかったのだが」
不思議そうに首を傾げる艦娘を彼女は苦笑いした。
「そういうのとは違う場所からあやつは考えたと思うがな…」
提督はよっこいせと座り心地の良い赤いクッションが敷かれた木彫りの椅子に腰かけた。
「のぅ、教えてくれぬか」
天井に虚ろな視線を向けながら、答えを求める訳ではなく一人呟く。
「生まれながらに名を背負う。それがいかな苦しみをも背負うかを儂は知っておるつもりじゃ。じゃが、儂は知らん…」
「名に見合う才を持たぬ者の苦しみなど…」
そういい終えると安らかな寝息をたてはじめた。
力の抜けた手先から紙の束がこぼれ、机の下の屑籠へと落ちていった。
何故に新キャラを…。
ちなみに初春、利根、浦風は出ない予定なのでセーフ(?)
ババア口調キャラっていいですよね