10人の勇者《プリンセス・イレブン》~地球儀の上で踊らされる少女たち~ 作:猫つまみ
【北極南西危険区域】
――2150年真冬――
「さっぶぅーい。ねえ、本当にここを?」
何も目えない猛吹雪の中、少女とおぼしき声が寒さに凍えながら叫ぶ様に話す。
吹雪で視界が悪いせいか、顔まではハッキリとは分からなかった。
しかし着ている服は、女の子らしさなど微塵も感じない宇宙服だ。
「人のいない場所だからこそ、良いんじゃないか。無駄な争いをせずに済む」
少女らしき人物の声の相手は、男と思われる声質に聞こえる。
こちらも宇宙服を着用していて、顔や体格等は分からない。
「確かにそうだけど、あたしら勇者をこんな風にこき使うって……」
「俺は、陰からサポートしてるだけさ」
自らを俺と言った人物は、目の前に見えてきたドーム型の建物を指差す。
吹雪の勢いは衰える事なく、彼女らの身体を鞭の様に打ち付けていく。そんな厳しい状況でも目の前が見えているかの様に、真っ直ぐにその場所へと歩く。
「ぷっはあ~。死ぬかと思ったわ」
ドーム型の建物の中へ入ると、外の吹雪が嘘のように暖かかった。
カランテの灯りがポツポツと、何処までも続いている。たどり着いた場所は、二人がやっと立っていられる程に狭い。そんな薄暗く狭い場所で、二人は服を脱ぎ始めた。
「大体何で、北極なのよ!?」
少女は背中のチャックに手を回し、その身体を露にしていく。
宇宙服の中から姿を現したのは――桜のように華やかな薄紅色の髪を後ろでアップにし、右前髪を薔薇のヘアピンで留めている。紫の瞳はくりくりと大きく、リンゴの様に赤い唇は艶めかしい。
そして雪の様に白い肌を、惜しげもなく見せる。
「南極とかでも、十分でしょ!?」
グチグチと文句を言いながらも、下着だけになった身体を恥ずかしそうに両手で隠す。
そんな美しい少女の裸を見ても何一つ表情を変えないまま、宇宙服を脱いだのは――
「……南が付いてれば、暖かいとか思ってないか?」
色素の抜けた白髪……よりも、少し光沢がある銀髪の少年だった。
左目はガーゼで覆われており、色までは分からない。けれど隠れていない右目は、青とも緑ともとれる不思議な色合いの瞳である。
少女よりも頭一つ分程背は高く、女性の様に細くしなやかで顔立ちも中性的だ。
「それより、何で服着てないんだ?防寒服だからって、産まれたままの状態は……」
「うっ、うっさい! 大体、女の子の下着姿を見て、なんで何も動揺しない訳!? 枯れてるの!?」
斜に構えた少年の態度は、少女の何かを沸騰させていく。
隠していた裸体に近い肌を、少年に近づける。そのまま少年の背は壁に。前方からは、少女のふくよかな胸を押し付けられてしまう。
少女はキスが出来そうな程に背伸びをしながら、少年の顔を覗く。
薄紅色の髪の一部分がほどけてしまい、少女の顔に垂れている。少年はその髪を見つめ、やがて天井を仰ぐ。
「……寒くないの?」
コトリと首を傾げる少年の髪は、少女の薄紅色の髪よりも長い。一纏めにはしておらず、繊細な糸の様に彼の動きに合わせて揺れる。
一方少女はと言うと……そんな少年の髪に一瞬見とれてしまうが、慌てて首を振るう。
そして思っていた答えと違う事に、少し呆れながら返事をする。
「…………それ以外の感想は、ないわけ?」
「風邪ひくよ。とか?」
「……何で、そんな真面目な答えしか返ってこないのよ。じゃ、なくて! 私は女よ。か弱き、乙女なの。自慢じゃないけど胸(バスト)だって、大きいと思うのよ」
上目使いの少女は、じっと少年を見つめる。
少年はそれすら謎の行動の様に捉え、顎に手を当てながら考え込む。
「……ダイエットすべきじゃない?」
考えた結果、少年の頭に過ったのはそんな残酷としか言えない言葉だけだった。
少女はそれを聞いて顔をタコの様に真っ赤にし、少年からゆらゆらと離れていく。
「ふ……ふふふ……いいわ。そこまで貴方がアホだったなんて、私は思わなかったし」
「うん。天才でも、ないしね」
「そうねえー。天才と馬鹿は紙一重って、言うものね?」
女神の如き、美しい微笑みを向け……
「いっぺん、死にさらせやー!」
いつの間にか手に持っていた宝石を掲げながら「この、ど天然野郎ー!」と、叫ぶ。
――吹雪にも負けない爆発音は、北極の上空まで届いていった。