10人の勇者《プリンセス・イレブン》~地球儀の上で踊らされる少女たち~   作:猫つまみ

1 / 3
プロローグ

【北極南西危険区域】

 

 ――2150年真冬――

 

「さっぶぅーい。ねえ、本当にここを?」

 

 何も目えない猛吹雪の中、少女とおぼしき声が寒さに凍えながら叫ぶ様に話す。

 吹雪で視界が悪いせいか、顔まではハッキリとは分からなかった。

 しかし着ている服は、女の子らしさなど微塵も感じない宇宙服だ。

 

「人のいない場所だからこそ、良いんじゃないか。無駄な争いをせずに済む」

 

 少女らしき人物の声の相手は、男と思われる声質に聞こえる。

 こちらも宇宙服を着用していて、顔や体格等は分からない。

 

「確かにそうだけど、あたしら勇者をこんな風にこき使うって……」

「俺は、陰からサポートしてるだけさ」

 

 自らを俺と言った人物は、目の前に見えてきたドーム型の建物を指差す。

 

 吹雪の勢いは衰える事なく、彼女らの身体を鞭の様に打ち付けていく。そんな厳しい状況でも目の前が見えているかの様に、真っ直ぐにその場所へと歩く。

 

 

 

「ぷっはあ~。死ぬかと思ったわ」

 

 ドーム型の建物の中へ入ると、外の吹雪が嘘のように暖かかった。

 カランテの灯りがポツポツと、何処までも続いている。たどり着いた場所は、二人がやっと立っていられる程に狭い。そんな薄暗く狭い場所で、二人は服を脱ぎ始めた。

 

 

「大体何で、北極なのよ!?」

 

 少女は背中のチャックに手を回し、その身体を露にしていく。

 宇宙服の中から姿を現したのは――桜のように華やかな薄紅色の髪を後ろでアップにし、右前髪を薔薇のヘアピンで留めている。紫の瞳はくりくりと大きく、リンゴの様に赤い唇は艶めかしい。

 そして雪の様に白い肌を、惜しげもなく見せる。

 

「南極とかでも、十分でしょ!?」

 

 グチグチと文句を言いながらも、下着だけになった身体を恥ずかしそうに両手で隠す。

 そんな美しい少女の裸を見ても何一つ表情を変えないまま、宇宙服を脱いだのは――

 

「……南が付いてれば、暖かいとか思ってないか?」

 

 色素の抜けた白髪……よりも、少し光沢がある銀髪の少年だった。

 左目はガーゼで覆われており、色までは分からない。けれど隠れていない右目は、青とも緑ともとれる不思議な色合いの瞳である。

 少女よりも頭一つ分程背は高く、女性の様に細くしなやかで顔立ちも中性的だ。

 

「それより、何で服着てないんだ?防寒服だからって、産まれたままの状態は……」

「うっ、うっさい! 大体、女の子の下着姿を見て、なんで何も動揺しない訳!? 枯れてるの!?」

 

 斜に構えた少年の態度は、少女の何かを沸騰させていく。

 隠していた裸体に近い肌を、少年に近づける。そのまま少年の背は壁に。前方からは、少女のふくよかな胸を押し付けられてしまう。

 少女はキスが出来そうな程に背伸びをしながら、少年の顔を覗く。

 薄紅色の髪の一部分がほどけてしまい、少女の顔に垂れている。少年はその髪を見つめ、やがて天井を仰ぐ。

 

「……寒くないの?」

 

 コトリと首を傾げる少年の髪は、少女の薄紅色の髪よりも長い。一纏めにはしておらず、繊細な糸の様に彼の動きに合わせて揺れる。

 一方少女はと言うと……そんな少年の髪に一瞬見とれてしまうが、慌てて首を振るう。

 そして思っていた答えと違う事に、少し呆れながら返事をする。

 

「…………それ以外の感想は、ないわけ?」

「風邪ひくよ。とか?」

「……何で、そんな真面目な答えしか返ってこないのよ。じゃ、なくて! 私は女よ。か弱き、乙女なの。自慢じゃないけど胸(バスト)だって、大きいと思うのよ」

 

 上目使いの少女は、じっと少年を見つめる。

 少年はそれすら謎の行動の様に捉え、顎に手を当てながら考え込む。

 

「……ダイエットすべきじゃない?」

 

 考えた結果、少年の頭に過ったのはそんな残酷としか言えない言葉だけだった。

 少女はそれを聞いて顔をタコの様に真っ赤にし、少年からゆらゆらと離れていく。

 

「ふ……ふふふ……いいわ。そこまで貴方がアホだったなんて、私は思わなかったし」

「うん。天才でも、ないしね」

「そうねえー。天才と馬鹿は紙一重って、言うものね?」

 

 女神の如き、美しい微笑みを向け……

 

「いっぺん、死にさらせやー!」

 

 いつの間にか手に持っていた宝石を掲げながら「この、ど天然野郎ー!」と、叫ぶ。

 

 

 ――吹雪にも負けない爆発音は、北極の上空まで届いていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。