10人の勇者《プリンセス・イレブン》~地球儀の上で踊らされる少女たち~ 作:猫つまみ
――2150年秋――
眩しい程の太陽と雲一つない青空は、空の異空間を隠している。歩道にある木が紅葉付き、赤茶やオレンジといった色に染まっていた。いちょうも金色(こんじき)に染まりながら、ハラハラと落ちる。
『今日のワルプルギス予報を、お知らせ致します。何時もと変わらず、何もおきない1日でしょう。彼らの意図が分からない以上、決して刺激をしない様にお願いします。くり繰り返します。何時もと……』
日本の中心都市東京にある秋葉原は、いつの時代も変わらぬ電気街である。
そしてその町の大型テレビに映るアナウンサーは、まるで天気予報を知らせるかのように淡々と原稿を読む。
電化製品を求め、買い漁る人々。普段着とは違う服装を催し、それに憩いを求める特殊な趣味の人達が多く集っていた。
その活気ある人々の熱気という波の中に、テレビの声はかき消されていく。
その該当モニターの横には、老婆が何かに取り付かれた様に数珠を擦らせている。
「……審判の日は来たり……悪しき神は我々人類を見捨てたり……人類はわれらが真の指導者、ルシファー様のお導きにより新しき時代に……」
狂った様に熱弁をする老婆は、両目を見開き天を指差す。
「わしら人間は、神に見放されたのじゃ。あの闇こそ、“悪しき深淵”なり!」
そこには2150年の初夏以降日本の上空に出現した、巨大なブラックホールの姿があった。
「やめろばばあ! ワルプルギスを、刺激するんじゃねえ!」
一人の若者が、老婆を突き飛ばす。
「あそこから出現したワルプルギスに俺ら人類がどれだけの壊滅的な被害を受けたのか、分かってねえのか!?」
若者の鬼気迫る表情と叫びにも似た怒りは、周囲の人々の動きを止める。
息も絶え絶えに罵倒し続ける若者は、見世物になってしまっている。けれどそれよりも、この老婆の行動の方が彼の恐怖心を仰いでいた。
突き飛ばした老婆に唾を吐きながら、必死に生き延びたいと……死にたくないと演説する。
「 日本だけじゃねえ。世界で一番の軍事国家であるアメリカも、人の住んでいない北極や南極でさえも、地球全土が攻撃されたじゃねえか! 見ろや、このざまを!」
若者は、電気街の裏に見える廃墟を指差した。
「人間の存在なんてワルプルギスにとっては、玩具同然なんだよ! 国連安保理がミサイルぶっ放したって、何の効果もなかったじゃゃねえか!」
自分自身の不安のはけ口とするかのように、若者はまくし立てる。
「あんた、気持ちは分かるけどやめとけよ」
サラリーマン風の男性が、その若者をたしなめた。
「大丈夫だよ。俺たちには【
その言葉に、若者もバツが悪そうに手を離す。
サラリーマン風の男性は、励ますような声をかける。
「勇者である彼女達を警戒しているのさ。人間の兵器では、全く歯がたたないというのも事実なんだ。不安な気持ちも分かるけど、信じるしかねえよ」
励ます彼ですら、本当は不安で仕方なかった。両手足は震え、空を見つめる瞳には恐怖という言葉が襲う。
その場にいる誰もが押し黙ってしまい、テレビやお店から流れる音楽だけが大きく聞こえる。
そんな集団の横を、我関せずという様に横切る人物達がいた。
「……寒い」
「もうすぐ冬やしね。莎月(さつき)は、こたつで丸くなるタイプやしな」
莎月と呼ばれた人物は、左手首に小さな鈴を付けている。その鈴は美しい音色を奏でながら、動きに合わせて鳴り続ける。
「莎月。早く行かないと、遅刻やで?」
莎月と呼ばれた人物はーー陽の光を上手く溶け込ませた髪が、硝子の様に輝やく銀髪が印象的だ。
膝程までに伸びた髪は糸の様に細く、見る者全ての足を立ち止まらせてしまう。
そんな人物が町の人々の視線に気付き、振り向いた。
「わあー。凄く綺麗な子」
野次馬の中の誰もがその人物の見目麗しさに溜め息をし、頬を赤らめる。
先程まで騒いでいた若者も、ワルプルギルという言葉に執着していた老婆ですら、その不思議で神秘的な銀(プラチナ)に見入られてしまう。
日本人……だけではなく、地球上何処を探してもいないであろう髪色の人物は――顔立ちは日本人であった。
左目にガーゼを被せてはいるが、それさえもアクセサリーの様に見えてしまう。そして隠れていない右目は、濁りのない海の様に。人の手が加えられていない自然の緑の様に……美しいエメラルドの宝石を散りばめた様な、そんな不思議な瞳だった。
肌は髪同様に、色素を失ったかのように白い。髪と合わせると、正に白銀の世界の様な幻覚さえ見えてしまう。
「別に遅刻したって、いいだろ?どうせ、数人しかいないんだからさ」
その美しくも神々しささえ感じさせる顔立ちは、周囲の人々の心を釘付けにしていた。
「甘い! 甘いで、弟よ。確かに人おらへん。しかーし! 女の子が、わんさかなんやで!?」
銀髪の人物の隣に仁王立ちしながら、おおらかに笑うのはーー日本人のわりには、大きな男性だった。
ゆうに百八十㎝越えているであろう身長で、肩幅も銀髪の人物より遥かに広い。
日本人らしい黒髪は、短く切り揃えられている。その髪に負けない程に深い闇を思わせる瞳は、漆黒と相違ない色だ。
「女の子とウハウハな、学園生活や。寝る部屋は違(ちご)うても、教室は一緒やないか!」
見た目的にはモデルの様に美形なのだが、いかんせんその発言自体に何かしらの欲求を含んでいる。そのせいもあってか野次馬の中の女性達は、目を合わせようとしなかった。
「……兄さん。そう言った言葉は、こんなところで堂々と言うものじゃないだろ?」
銀髪の人物が兄さんと呼ぶとその男は、人懐っこそうな笑顔を見せる。
「こんな世界なんや。素直に生きへんで、どないせいちゅっーんや?」
「流れに身を任せれば?」
「あかん! そないなのは、あかん!」
言葉は強いのだが、首を振るう力は弱い。
鳥すら飛んでいない空を仰ぎ見て、目を細める。
「お前かて、分かってんのやろ?
深き闇色の瞳は平和そのものの世界を映しながら、とある場所を指差した。
銀髪の人物は、その先に目を向ける。そこに見えているのは――どの建物よりも真新しい、不思議な建造物だった。