10人の勇者《プリンセス・イレブン》~地球儀の上で踊らされる少女たち~   作:猫つまみ

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勇者学園

 秋葉原の中心街を奥へと進むにつれ、騒がしさが嘘の様に静まり返っていく。

 誰一人……野良猫一匹とて、姿を現さない。

 現したのは、鉄筋が剥き出しの廃墟群だった。

 

 その悲劇的な光景の道を、一台の車が通り過ぎていく。

 その車が通過し走り続けると徐々に道幅が広くなり、二車線から四車線に切り替わっていった。

 しかしその道路を走るのは……深緑色で前方位には、大砲が付属する――いわゆる陸上自衛隊の戦車であった。

 あまり整備されているとは言えない道を、戦車は軽く上下に揺らしながら走る。

 そしてその戦車は門の前で停止し、ドアが開かれた。

 

「……ふう。ワルプルギスなどいないと言わんばかりの、平和ぶりだな」

 

 戦車の中からは、軍隊の迷彩服をきっちりと着こなした中年男性が現れる。

 丸刈りに近い頭をかきむしりながら、ドアを強く閉める。

 

「秋だってのに、暑(あち)いな……」

 

 紅葉(こうよう)になってはいるものの、この年の秋は夏の様に暑い。

 中年男性は自らの服の両腕を肘まで捲る事で、それを教えてくれた。

 

 鍛え上げられた腕は筋肉質で、肩幅も広い。とてもガッチリとしており、サラリーマン男性と比べると一目瞭然の体格だ。

 黒髪黒目で背が高く、顎の無精髭が気になるのか触り続ける。

 黒髪は丸刈りに近く、かきむしる度に中年男性の手にゴワゴワ感を与えた。

 狐の様に鋭くシュッとした瞳は細く、常に怒っているかの様に渋い。そんな彼の顔には、右目の下から右頬にかけて深々と古傷が走る。

 その細く鋭い瞳は、真新しさがあるゴシック式の門を睨む。

 

「文化がごちゃ混ぜにも、程があるだろ」

 

 後方には日本の秋葉原があり、前方にはヨーロッパがある。彼は全く違う文化に挟まれ溜め息をついてしまう。

 そんな彼が目線を向けた先は、後ろにある秋葉原だ。

 

 秋葉原方面から微かに聞こえる電子音に耳を澄ませるも、それは一瞬だけである。

 

「秋葉原の町は、変わらんな。しかし横には、廃墟……か」

 

 秋葉原から少しだけ目線を反らす。その先には崩壊し、山積みになっているビルや駅。瓦礫の山に埋もれ、元が何なのかさえ判断できない物までもあった。

 横にある廃墟と、後方の最新鋭のビルが奇妙な形で連なる。

 

 ワルプルギルの襲来により、崩壊した建物を凝視する。それでも生きている――生きていられる(・・・・・・・)理由に悔しさが増す。

 

勇者(少女)のおかげ……とは、よく言ったものだ。男の俺らが何も出来ねーってのは、ちと悔しいな」

 

 目を細めながら、諦めの混じった笑みを溢す。

 

「……あー。駄目だな。最近どうにも、プライドうんたらが邪魔しやがる」

 

 頭をかきながら、胸ポケットから煙草を取り出す。しかし、門の看板には【火気厳禁】の文字が。それを見るなり「まあ今日は、6本吸ったしな」と呟き、吸う本数が増えてきたタバコをソフトケースにしまう。

 

 そして、再び目の前の真新しい建物に目を向けた。

 

【勇者学園(プリンセスガーデン)】

 高電圧が流れている針金があちこちに設置され、唯一の進入経路はたった一つの門のみ。

 門の奥にはーー重厚な石壁で造られた教会の様にも、お城の様にも見える建物が垣間見れる。左右対象(シンメトリー)になっていて、中央には煉瓦で造られた時計塔が建てられていた。

 

「ご丁寧に、建物の説明まであるとは。この学園の建設者は……いや。思い出すのも、腹が立つな」

 

【時計台だけが煉瓦で、中世ヨーロッパをイメージして造られています。ロマネスク建築と呼ばれ、中世西ヨーロッパの建築様式です。最初のヨーロッパ建築となります。時代は、おおよそ1000年から1200年頃までのゴシック建築以前と言われています。】

 

「西洋風のお城の様にも、教会の様にも見えるこの建物が……これが、学校とはな」

 

 彼はこの学園を見ると、いつも思う事がある。

 

(世界各地が、同じ被害にあっている。ならばこんな狭い国に建てずとも、アメリカ等の広大な土地がある国に建てるべきではないのか?)

 

 苦虫をかじる様な表情で、再び頭をかきむしる。

 

 ――やがて我慢出来ないと言わんばかりに、煙草に火を付けた。

 一服して心を落ち着かせていると、見知った顔の人物が近付いて来るのを黙視する。

 

 

「おーい。中佐~! 何、しとんねん?」

 

 渋みを見せていた表情は、なまりのある声を聞いて瞬時に和らぐ。

 

「中佐ではない。もう、一般兵だ」

「えー? 俺らからすれば、中佐やねん。ええやん、それで」

 

 ふるふると首を振っている中年男性は、肩を撫で下ろしながら溜め息を付く。

 

「俺には、柊修三(ひいらぎしゅうぞう)という名前がある。ちゃんと、名前で呼べ。刻羅(きさらぎ)!」

 

 吸っていた煙草を足で地面に擦り、関西弁の男に頭突きを食らわす。

 突然の事に防御すら出来なかった男――刻羅は、頭を押さえながらしゃがみ込む。

 

「俺のその地位は、ワルプルギスの襲撃によって剥奪された。今は……」

「それは、世界政府――悪魔(ワルプルギス)対策本部が、勝手にした事やろ?」

 

 彼らの間に、何があったのか。ワルプルギスがもたらしたらのは、破壊だけではないのだろう。

 

「相変わらずの、関西弁だな。秋葉原……東京では、浮いてしまうぞ?」

 

 修三は、刻羅と親しそうに話し込む。

 

「浮く浮かんは、この際どうでもええねん。俺は、弟さえ安心して暮らせる環境が出来るんなら、それでええねん」

「……ふむ。君のブラコンぶりは、凄まじいな。しかしながらその大事な弟君は、君を置いていってしまっているぞ?」

「んな!?」

 

 修三は先に進んでしまっている人物の背中を、微笑みながら見ている。

 刻羅はそんな思いもよらない行動に、ショックを受けていた。

 

「兄さんが誰と話そうと、僕には関係ないよ。でも、さっきまで遅刻がどうこう言ってたよね?」

 

 後ろを振り向く事はせずに、淡々と告げた。

 

「莎月君は、相変わらずだな」

 

 修三の声は風に煽られながら揺れる草木の音に、静かにかき消されていく。

 莎月の細長い銀髪が風に揺れる。陽の光を受け、銀(プラチナ)を黄金(ゴールド)に見せてしまう。

 そんな後ろ姿を愛しそうに見つめる刻羅は、修三の背中を強く押した。

 押された彼はよろけ、刻羅を睨み付ける。

 

 じゃれついているとも取れる行動は、目の前の建物から聞こえるチャイムによって終わった。

 

「げっ! ヤバイで。俺、教師やのに!」

 

 莎月の腕を掴み修三に手を振りながら、慌てて建物の中へと入っていった。

 そんな彼らを背中越しに見ている彼は、やれやれと溜め息を付く。

 

 

 

 二人が向かった先には、真新しい建物――校舎が建っていた。

 

 建物は西洋風なのだが、周囲にある木々はいちょうや紅葉といった日本特有の自然である。そんなミスマッチな風景の中で時折風が吹き、秋の風物詩の葉を静かに落とさせる。

 地面には大量の落葉がじゅうたんの様にひき詰められていて、歩くだけでカサリと音を鳴らす。

 

 

「ま、間に合ったで……」

 

 息を切らしながら莎月の腕を引っ張り、チャイムの終了間際で敷地内へと駆け込む。

 

「はあはあ。兄さ……げほっ。僕を窒息……させる気?」

「あ、あはは。すまへんな。遅刻するんは、まずい思って……」

 

 莎月は捕まれている腕を、強く振りほどいた。

 

 校庭に咲く紅葉が、ハラハラと落ちていく。

 それを気に止める事なく、二人は校舎へと入っていった。

 

 

 そんな彼らをジッと見つめているのは――薄紅色の髪をした美しい少女だった。

 教室の窓からその光景を眺め「変な兄弟」と、呟いていた。

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