魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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前書きと言う場ですが、この場をお借りして御礼申し上げます。
今話をもって、「とある妹の転生物語」に始まったアリア・シリーズは完結と言うことになります。
これまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

読者の皆様の数々のご声援・ご指摘に支えられての作品でした。

本当にありがとうございます、お世話になりました。
それでは、エピローグです。
では・・・どうぞ。


エピローグ:「いつか、また、皆で」

「ねぇねぇ、ばーや・・・それでどうなったの?」

「ん・・・その後か? そうだな・・・皆、元気に過ごしていたぞ」

 

 

深夜、私のベッドの中に潜り込んで来た小さなお姫様に、私は昔の話を聞かせてやっている。

それは100年前の話だったり、あるいはほんの20年前の話だったりする。

だが、話の中心にいるのは常に同じ人間だ。

私の家族・・・今はもういない、家族の話だ。

 

 

ベッドの中で上半身を起こして子守唄代わりに話す私の手の中には、シックなデザインの木製オルゴールが握られている。

苺の装飾が掘り込まれたそのオルゴールは、『追憶のオルゴール』。

王室御用達『アトリエ・リリア』の小物で、音楽と共にゼンマイを巻いた者の思い出が投影される。

それを使って、私はアリアから数えて5代目の王になる少女に私は話を聞かせてやっている。

 

 

「・・・さぁ、もうおやすみの時間だぞ」

「えぇ~っ! もっとばーやのお話が聞きたーいっ!!」

 

 

私の隣には、可愛らしく頬を膨らませて不満そうにゴロゴロと転がっている少女がいる。

年齢は10歳、腰まである綺麗な金髪と、青と緑の宝石のような瞳。

清楚な造りの白いネグリジェに包まれた小さな身体からは、まだまだ元気が溢れているのがわかる。

顔の造りは、エンテオフュシアの女のそれだ。

名前はフェリア、フェリア・アマデウス・エンテオフュシアだ。

 

 

ファリアの孫息子とアルフレッドの孫娘が結婚して、さらにその子がアンの曾孫と結ばれて、フェリアは産まれた。

今の4代目エリア王が死ねば、アリカ、アリアから3代間を空けての女王になる。

 

 

「・・・じゃあ、もう少しだけだぞ?」

「はぁいっ、ばーや大好きっ」

「はは・・・こらこら」

 

 

・・・アリアは、12年前に逝った。

基本的に仕事漬けの毎日だったが、あれが40になった年に若造(フェイト)が先に逝った時だけは別だった。

あの時アリアは精神的に一度死んだと思う、しばらく部屋から出ようとしなかったから。

そんなアリアを支えたのは、若造(フェイト)の忘れ形見達だった。

 

 

あの時から、甘え癖の抜けないガキだったファリアやシンシア達が、マシになった。

1人立ちして、寄りかかるのでは無くて、母の支えとなるために。

アリアの悲しみは癒えなかったが・・・それでも、笑顔は戻った。

 

 

「お前のご先祖さま(アリア)は、それはそれは苺が好きでな・・・」

「フェリアも大好きだよっ」

「ああ、そうだな」

 

 

むぎゅっ・・・と抱きついてくるフェリアに、頬が緩むのを感じる。

頭を撫でてやると、頬を赤く染めて嬉しそうに笑う。

懐かしさすら感じる笑顔は、何よりも愛しく思える。

 

 

『先に逝きます・・・向こうで、待っていますね』

 

 

・・・それが、アリアの最後の言葉だった。

たぶん、私が自分の死について研究しているのに、薄々気付いていたのだと思う。

私は、終わりたかった。

家族と一緒に・・・老いて、死にたかったから。

 

 

アリアだけじゃない、ナギやアリカも、他にも多くの奴が逝った。

置いて行かれることを、これほど辛く感じたのは久しぶりだった。

だけど・・・。

 

 

「お前くらいの年には、学校の先生でな・・・」

「先生? フェリアはお姫様だよ?」

「ああ、そうだな・・・」

 

 

だけど、新しい子供が産まれる度に「もう少し」と思ってしまうんだ。

もう少しだけ、傍にいてやろうと思ってしまう。

茶々丸やバカ鬼や・・・まだ生きている奴らを、置いて行けない気持ちになってしまうんだ。

私は、我侭だな・・・。

 

 

「・・・・・・眠ったか」

 

 

しばらくして、私の隣からは健やかな寝息が聞こえてきた。

横を見れば、あどけない寝顔がそこにある。

可愛いが・・・本当は、いろいろなことを感じているだろう、小さな少女。

アリアの面影を残す、私の宝。

 

 

「・・・おやすみ」

 

 

そっ・・・と額に口付けて、シーツを肩までかけてやる。

ベッドから降りて、寝室の窓を開ける。

ふわ・・・っと風が入り、カーテンが揺れる。

 

 

「もう、行くのか」

 

 

そこには、黒い特異なスーツを着た女がいた。

女と言っても、15歳ほどの小娘だ。

超鈴音(チャオ・リンシェン)・・・関係的には、私の子孫だ。

厳密には、ぼーやの子孫。

 

 

・・・ユエは、15歳の時に1度、私の手元から離れた。

戻ってきた時は、すでに20歳になっていて・・・しかも結婚していた!

あの時は本気でキレた、親の許可も無く嫁に行きやがったんだぞ、あの娘は!

・・・い、いや、それは今は重要じゃないな、うん。

 

 

「勿論、必要なことだからネ」

 

 

テラスの縁の部分に腰掛けていた超は、私の方を振り向いた。

黒いスーツの胸元には英字で名前が刻まれていて、背中には懐中時計のような魔法具を付けている。

カシオペア・・・時を遡る機械。

 

 

戻るのは、100年前のあの時。

タイム・パラドックス・・・たとえ未来がどう変わろうと、あの時点で超はあの場にいなくてはならない。

茶々丸を・・・そして田中や多くの技術を、持って行かなければならない。

 

 

「まぁ・・・貴女にすれば、一瞬で私は戻ってくるがネ」

「だがお前は、3年の時を過去で過ごす」

 

 

過去を変えるためでは無く、未来を変えないために。

理由は違っても過去に行かねばならないのだから、不思議な物だな。

・・・。

 

 

「・・・気をつけてな、我が弟子(いとしいむすめ)

「・・・あいさ了解、師匠(エヴァママ)

 

 

軽く視線と笑みを交わした後、超は姿を消した。

気配を読むことはできない、何故ならこの時代から消えたのだから。

成功していれば、すぐにまた会えるが・・・。

 

 

・・・昔の私、超のことを全力で殴ってたな。

・・・・・・帰って来たら、少し優しくしてやろうと思う。

 

 

「・・・さて」

 

 

風が吹く、その中にかすかな血と闘争の匂いを感じる。

吸血鬼だからな、そう言うのには敏感だ。

遥か遠く、『水晶宮(クリスタル・パレス)』から離れた遠くで・・・。

 

 

・・・クレアが、ゲーデルの子孫の小娘が動いたかな。

では、私は俗世の騒動から王位継承者を守らなければならんな。

私は未だ手に持っていたオルゴールの中から、1枚の小さな紙片を取り出す。

 

 

『女王アリアから、王室顧問エヴァンジェリンへ』

 

 

それは勅命、アリアが私のために密かに用意してくれた、想い。

王室顧問は、次代の王を指名できる権限を持つ1人。

700年生きた私にのみ認められる、特例事項。

 

 

「次代の王位は・・・フェリアのモノだ」

 

 

元々、第1王位継承者はフェリアだ。

それを揺るがすいかなる申し立ても、王室顧問(ワタシ)は認めない。

異議があるならそれは・・・叛逆者だ。

 

 

さて、超がこの未来を守ってくれている間に・・・。

・・・私も、アリアが、家族が遺した世界を守りに行くとしようか。

 

 

 

「もう少しだけ・・・待っていてくれ、アリア」

 

 

 

そっちには、フェイトもナギも・・・子供達も、いるだろう?

だからまだ私が行かなくても、寂しく無いだろう。

アイツは寂しがり屋だし・・・私が、アリアのいる天国に逝けるのかはわからないが。

・・・いつか。

 

 

 

 

いつか、また、皆で―――――。

 

 

 

 




ファリア王子の初恋:taka様提案。
追憶のオルゴール:フィー様提案。
ありがとうございます。

シンシア・アマテル:
やぁやぁ、ボクだよ。
え、わからない? いやだなぁ、ボクだよボク。
そ、シンシアさ・・・皆、今までアリアを見守ってくれて本当にありがとう。

ボクからも、お礼を言わせてもらうよ。
うん、本当にありがとう。
アリアが生き残れたのは、皆のおかげさ。
何せ、一番最初のアリアの手持ちの貧弱さと言ったら無かったからね、うん。

ボクも心配だったのだけど・・・心配することも無かったね。
何せ、アリアにはこんなにたくさんの味方がいたんだから。
ボクがとやかく言うことも、無かったね。
・・・うん。

さて・・・それじゃ、本当に閉幕の時間だ。
さよならの時間だ。
バイバイの時間だね。
終わらない物なんて無い、なんてのは誰が言ったのかな・・・。
・・・寂しいね。


シンシア・アマテル:
それじゃ、さようなら。
アリアを守ってくれたキミ達のことを、ボクはずっと覚えているよ。
・・・ありがとう。
キミ達の頭上に、全ての幸福があらんことを――――。

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