魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第13話:「機動防御戦」

Side アリア

 

『・・・と、まぁ、こんな感じの戦術予測が可能ですねー』

 

 

『ブリュンヒルデ』の執務室に、ミクの声が響きます。

厳密には横にはカムイさんが寝ていますし、その背中の上で晴明さんが眠っていますが。

加えて執務室の扉の向こうには、ターミネ○ターよろしく田中さんが立っているでしょう。

ちなみに今、軍用のシミュレート機材で、ミクは私にいくつもの戦術予測を見せてくれているのです。

味方が勝つパターン、負けるパターン、そしてその原因。

 

 

『地球上で過去行われた戦争・紛争・内乱に事変は100万を超えます。ここ魔法世界でも、宰相府のデータバンクを覗いたら20万回以上の戦争行為の情報が保存されています』

「・・・結構な数ですね」

『パターンはそれ程無いです。人間の考えることは個体としてはともかく、種全体で見ると似たような物ですから。で、我々「ぼかろ」の情報処理能力をもってすれば、確率的に的中率の高い戦況予想・戦術予測が可能なわけです』

 

 

ミクが私に何を言っているかと言うと、要するに「人間が考えることなんて一緒、だから過去の事例と最新のシミュレート能力があれば、戦争なんて楽勝ですよ」・・・と言うことですね。

まぁ、一理あるようで全く無いような意見ですが。

 

 

「・・・ところでここは火星なわけですが、貴女はどうやってここに?」

『武力介入がしたくなりまして』

「・・・貴女の今のマスターの心労が思いやられます・・・」

『そんなことないですよぅ~♪』

 

 

と言うか、本当に誰がマスターになってるんでしょう?

そもそも、火星と地球間でのタイムラグをどうしているのでしょう?

というか、ここは一応「異世界」なのですが。

それ以前に、何をしにここに来たのでしょう・・・?

・・・ダメです、疑問しか出てきません・・・。

 

 

ちなみに、私は『ブリュンヒルデ』の中でシミュレーションをしています。

艦隊の集結が進んでいますので、最近は私も『ブリュンヒルデ』にいることが多いのです。

王宮が正式に完成するまでは、この船が私の玉座の置き所・・・なんて。

 

 

その時、コンコン、と扉がノックされました。

おっと、次の予定ですね。ミクも、立体映像を消します。

 

 

「失礼致します」

 

 

その時、シャオリーさんが執務室に入ってきました。

 

 

「例の・・・国境で保護した者達が、陛下への謁見を求めております」

「わかりました、隣の応接室に通してください」

仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)

 

 

次の予定は、先日こちらに公国での虐殺の情報を伝えてくれた方々にお会いすることです。

名前などはすでに聞いていますし、連合のスパイと言う可能性もありません。

シャオリーさんは私の言葉に頷くと、退室しました。

私は5分程待って、隣の応接室に向かいました。

私がノックして、応接室に入ると・・・。

 

 

「おぉ~、マジで王様だったんだな。久しぶりだなアリがっ!?」

 

 

見覚えのある赤毛の少年と、眼鏡をかけた黒髪の少女がいました。

ただし、少女・・・シオンさんは、ロバートの襟首を掴んで思い切り引っ張っていました。

瞬間的に首を締められたロバートが、かなり苦しそうにしています・・・。

相変わらずの関係性に、私は苦笑してしまいます。

 

 

「・・・お久しぶりです、シオンさん、そしてロバート」

「お久しぶりでございます。この度は私如き一市民に女王陛下への拝謁の機会を賜り、誠に光栄にございます」

「・・・光栄です、はい。」

 

 

正装姿のシオンさんはその場に立ち上がると、礼儀正しく頭を下げ、形式に則った口上を述べました。

その横で首を押さえられたロバートが、たどたどしく頭を下げます。

・・・その姿に、少しだけ寂しい気持ちになったり。

 

 

2人の他にも、数名の男女がその場に立ち、私を見ていました。

黒髪に細目の男性に、スキンヘッドの男性。クマのような姿をした女性に、頭がピンピン跳ねた長身の男性。それに・・・。

 

 

「バロン先生?」

「麗しの女王陛下のご尊顔を拝し奉り、誠に光栄!」

 

 

ぴしっ、と姿勢良く立つ金色の毛並みを持つ猫の妖精(ケット・シー)の姿までありました。

・・・うん?

何か、ピンピンした髪の男性が、私のことを見ていました。

えーと、確かトサカさん。

 

 

何でしょう・・・とりあえず、にこっと微笑んでみます。

・・・何故か、目を逸らされました。

軽くショックです。

 

 

 

 

 

Side トサカ

 

いけねぇ、思わずガン見しちまったぜ。

その時、水色の髪のメイドが紅茶を持ってきた。

さっきの騎士も女だったし、まさか女しかいねぇわけじゃねぇよなこの艦。

と言うか、こんな立派な軍艦に乗ったのは初めてだぜ・・・。

 

 

「この度は、難民の・・・私達の同胞の窮状を知らせてくださり、ありがとうございます」

 

 

目の前の女・・・てか、女の子は紅茶を一口飲んだ後、そう言った。

同胞の窮状って言うと、西の方のアレだな。

 

 

俺らが軍艦ぶんどってから、また酷くなってるはずだ。

軍艦って言っても、十数人レベルで動かせる小さい奴だけどな。

巡航艦とか奪えるわけねぇだろ。

ちなみに、ママが大活躍だったぜ。

一撃で5人の兵士を薙ぎ倒した時は、むしろ相手に同情したけどな・・・。

 

 

「現在、アリアドネー経由で人道支援を準備しております。まぁ、その前に連合の侵略に対応しなければならないのですが・・・」

 

 

連合の侵略。

その言葉に、俺は拳を握り込んだ。

オスティア人で、その言葉に反応しない奴はいねぇだろ。

 

 

「女王陛下、実はその件につきまして、お渡ししたい物がございます」

「何でしょうか? ・・・それと、言葉を崩して頂いても結構ですよ」

「あ、マジで? だよな~がっ!?」

「お気遣い、ありがとうございます」

 

 

シオンとか言う黒髪のガキが、ロバートだったか? そのガキの背中を抓ってやがった。

ありゃあ、将来苦労すんな。

 

 

そのシオンが、何かのディスクを水色の髪のメイドに渡した。

それからメイドがそれを、アリア・・・様に渡す。

ワンクッション置くのは、しきたりか何かか・・・?

と言うか、何だあのディスク。

 

 

「それは、ミッチェル・アルトゥーナより送られて来た情報です」

「ミッチェルの・・・?」

 

 

アリア様は、少し驚いたみてぇだった。

それからディスクの裏表を見て、懐にしまった。

 

 

「・・・あの、トサカさん、でしたか?」

「へ、へいっ!」

 

 

い、いけねぇ、変な返事しちまった!?

だがアリア様はあまり気にした様子は無かったから、密かに俺は胸を撫で下ろした。

アリア様は小さく首を傾げて、言った。

 

 

「先程から、私を見ておられるようですが・・・」

「へ、い、いやそのっ・・・」

 

 

や、やべえぇぇ・・・!

どうやら無意識にガン見し続けていたらしい。

ど、どうするどうする!?

まさか、「アリカ様にそっくりだったもんで」なんて言えるかっ、情けねぇ!

 

 

窮屈なスーツの襟元に指を入れて、軽く開ける。

助けを求めて、隣に座るバルガスの兄貴に視線を送るが・・・。

 

 

「・・・(プルプル)」

 

 

・・・緊張のあまり、青い顔で震えてやがった。

兄貴だけが頼りだったのに・・・!

仕方ねぇ、ここはママに助けを・・・と思ってママを見ると、ママは力強く頷いて。

 

 

「あはは、すみませんねぇ~女王陛下。トサカは女王陛下があんまり可愛らしい方なものだから、見惚れてたんですよ!」

「え・・・あ、それは、そのぅ・・・そうですか」

 

 

おいいぃぃぃ――――っ!

ちょ、何を言ってんだママぁ!?

 

 

 

 

 

Side ムミウス

 

午後になり、同盟国であるウェスペルタティア大公国の支配地域から、ウェスペルタティア王国の領域に侵入してしばらく経った。

ただこれまで通過してきた都市や村にはすでに誰もおらず、しかもわずかな物資も残されていなかった。

特に食糧や燃料、魔法関連の品が徹底して持ち去られている。

ここ、クレーニダイと言う街もそのようだ。

 

 

いわゆる、焦土作戦と言う奴だな。

おそらくは、山岳部にでも避難したのだろうが・・・。

 

 

「どうしますか司令官、町に火をかけ、山岳部に逃げた住民を捕虜にしますか」

「いや、このまま直進する」

 

 

幕僚の一人の質問に、私はそう答えた。

正直な所、我が軍には余計なことをしている余裕は無い。

補給の心配もさることながら、敵に迎撃の準備のための時間を与えたくない。

第一、ここで民間人を相手に略奪をするわけにもいかない。

 

 

我が軍には、余裕は無いのだ。

なるべく、短期決戦で事を済ませたい。

私と共に進む数千の兵士達を見つめながら、そう思った。

 

 

「司令官!」

 

 

その時、私の横に駆けてくる者がいた。

副官のホルデオニウスだ。

 

 

「何だ、ホルデオニウス」

「斥候に出した部隊なのですが・・・」

「敵を発見したか?」

「いえ、戻らんのです」

「戻らない? 全てか?」

「全てです」

 

 

・・・少し、考え込む。

斥候に出した5個小隊が、全て戻らない。

こう言う場合、まず彼らの生還は絶望的なわけだが・・・。

 

 

「通信は?」

「それが・・・」

「司令官!」

 

 

さらに、もう一人の高級士官が報告に来た。

彼は、どこか緊張した表情で私を見た。

 

 

「後方の第57補給小隊が、休息中に急襲されました!」

「後方? 斥候を襲った敵とは別の部隊か・・・?」

「報告! 哨戒中の第7竜騎兵中隊の通信が途絶しました!」

「・・・今度は、哨戒部隊・・・」

 

 

次々ともたらされる報告に、私は呻くような声を上げた。

十中八九、敵の攻撃が始まったのだろう。

我が本隊に攻撃を仕掛けず、斥候や哨戒部隊、補給部隊を攻撃する・・・。

それも、本隊に救援を求める時間的猶予を与えずに。

 

 

・・・私は思案の末、告げた。

 

 

「この辺りの地図を見せろ。それと、各部隊の通信が途絶した時間と状況を教えてくれ」

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

「中将、竜騎兵隊が戻ります!」

「よし、次の攻撃の準備だ。補給と竜の準備を急げ!」

「了解!」

 

 

連合の軍が進んでいる街道から数キロ程離れた平原で、俺は部下達にそう指示を出した。

ほどなくして、空から300の竜騎兵が次々と平原に降りてくる。

代わって、待機していた交代の竜騎兵250が空へと上がる。

俺の部下達がせわしなく動き、負傷者や怪我をした竜の後方へ送り、まだ動ける竜騎兵は次の出撃に備えて休息を始める。

 

 

そろそろ、ここの位置が敵に知られてもおかしくは無いな。

1時間程したら竜と人を移動させ、また別の出撃拠点を構築するとしようか。

 

 

「リュケスティス!」

「グリアソン! 首尾はどうだ?」

「上々だ、今の所はな」

 

 

自身は一度も休息せず、すでに8度目の出撃に入るグリアソンが言う。

一度出撃する度に、敵の本体から離れた小部隊を叩いては離れる。

要するに、群れからはぐれた獲物を狩る狩人、と言った所だろう。

 

 

「しかしなグリアソン。いい加減、副長に任せて休息したらどうだ。食事ぐらい摂れ」

「いや、まだやれるさ。だがそうだな、相棒は休ませてやってくれ」

 

 

グリアソンはそう言って、自分の愛騎『ベイオウルフ』の身体を叩いた。

グルル・・・と、グリアソンと長く戦場を駆けてきたワイバーンが唸る。

確かにこいつも、休息していないが・・・。

 

 

「だが、お前はどの竜で出るんだ?」

「何、一般兵の竜で出るさ・・・キミ! 悪いがその竜を貸してくれないか!」

「あ、おい・・・やれやれ」

 

 

嘆息して、俺がグリアソンの愛騎を見上げた。

ワイバーンにしては理性的な瞳が、俺を見下ろしてくる。

 

 

「お前のご主人は、休むと言うことを知らんな」

 

 

グル・・・と、そのワイバーンは鳴き、空へと駆けて行くグリアソンを見つめた。

気のせいで無ければ、どこか心配しているようにも見える。

・・・我ながら、妙な感想を抱く物だ。

 

 

「・・・さぁ、移動の準備を始める! 所定の規約に従って行動しろ!」

「「「了解!」」」

 

 

敵が新オスティアに到達するまでに、可能な限り時間を稼ぎ、敵戦力の漸減を試みる。

最低でも、1日か2日は稼ぎたい物だな。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

昨夜の内に、妾は新オスティアから離れた。

インペリアルシップに乗り込み、一路帝都を目指しておる。

急ぎ国に戻り、帝都とその他3つの地方都市で起こった反乱を鎮圧せねばならん。

まずは国境の将軍達に会い、討伐軍を組織するのじゃ・・・。

 

 

新オスティアには、法務官のコルネリアを大使として残してきた。

別に、厄介払いをしたわけでは無いぞ?

 

 

「しっかし、良いのかぁ? 帝国の皇女が俺なんか雇って」

「法的には問題ないとコルネリアも言っておった」

「まぁ、一介の傭兵剣士だしな、俺は」

 

 

道義的・政治的には大問題じゃがな。

しかし今は、少しでも戦力が欲しい。

何より連合を利するとしか思えんクーデターを鎮圧するに、連合の英雄の手を借りる、と言うのは宣伝にもなるのじゃ。

 

 

これを機に、国内の反連合・反人類思想勢力を一掃する。

そんなわけで、今この船にはジャックが乗っておる。

まぁ、他にも理由があるがの・・・。

 

 

「・・・皇帝が死んだ」

「・・・そうか」

 

 

皇帝・・・つまりは、妾の父親に当たる人物じゃな。

それが、クーデターの初日に宮中で部下に刺されて、殺された。

クーデターが起こったのは、その直後じゃと聞く。

まず、関連があると見て良いじゃろう。

 

 

「父が、死んだのじゃ」

「・・・そうか」

 

 

帝国は、質実剛健を国是とする、軍事国家じゃ。

王族であろうが、貴族であろうが、能力の無い者は認められない。

たとえ王の子でも、実力が無ければ、その王位継承権は他の者に奪われてしまうのじゃ。

実力のある者だけが、この国を動かすことができる。

 

 

私の父は、それは厳しい人で。

愛された記憶も無く、昔は良く逃げ出していた。

正直、苦手じゃった。

じゃが・・・。

 

 

「・・・嫌っては、いなかった・・・!」

 

 

それでも、嫌いではなかった。

嫌いでは、なかったのじゃ!

 

 

「・・・ジャック」

「・・・おう」

「ジャック・・・!」

 

 

呻くように名を呼んで、縋って。

妾は今日ほど、皇女であることを嫌になったことは無かった。

じゃが、強さとは別の感情が、妾の内を支配しておった。

それは、他の帝国人には決して見せてはならぬ物で。

ジャックにしか、見せられぬ物じゃった。

 

 

「・・・まぁ、飲めよ」

 

 

インペリアルシップの私室で、ジャックが注いでくれた酒を飲む。

溺れることはできぬが、縋ることはできた。

皇女が私室に、男を招く。

 

 

その意味を、頭の中で繰り返し確認しながら。

妾は、目の前の男のことを考えていた。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

現在広報部は全世界に向けて叛乱軍の非道と、我が王国の正当性を訴えるプロパガンダを行っております。

我が王室専門室も、そのための活動を行っております。

 

 

「ご苦労様でした、アーシェさん」

「いえいえー、ご褒美はいつか、形のある物でお願いしますねー」

「苺以外のお菓子を作ってあげます」

「ああ、苺だと女王陛下が拗ねちゃいますものねー」

「いや、何言ってるんですか室長、副室長も・・・」

 

 

私達の会話に、職員の男性が呆れたような声で言います。

アーシェさんは昨日から今まで、王国各地を周って映像を撮ってきてくれたのです。

各地の避難所の様子や、移動する人々の様子。

そして、誰もいない町に迫る連合の部隊。出撃する味方・・・。

 

 

全て、アリア先生のために役立つ映像ばかりです。

これらを編集し、他の映像とも組み合わせて全世界に配信するのです。

空間・時間の位相すら越えてここに来た「ぼかろ」も使い、連合の統制の網を潜ります。

ちなみに、「ぼかろ」達は半分、つまり4体しかこちらに来ておりません。

 

 

半分は、麻帆良に残っているのだそうです。

・・・何故、半分?

 

 

「さぁ、今日もアリア先生の評判を上げますよ!」

「「「イエス・マムッ!」」」

「あれ、僕らの仕事ってそれで良いんだっけ・・・?」

 

 

一人ノリの悪い方がいますが、大体の方は元気良く返事をして、それぞれの仕事に取り掛かりました。

ふと何かを思い出したかのような顔で、アーシェさんが言います。

 

 

「そう言えば・・・軍旗変わったんでしたっけ?」

「はい、国旗は旧ウェスペルタティアの物と同じですが、軍旗は新女王即位に合わせて変更されました」

 

 

何分、戦時ですので、兵士達に自分達が誰の下で戦っているのかを理解させるためにも軍旗の制定は急がれておりました。

あくまでも「アリア新女王の軍隊」としての象徴ですが、女王から各部隊に親授される神聖な物で、原則として再交付はされません。

 

 

とは言え、今の所アリア先生の旗艦『ブリュンヒルデ』にのみ飾られております。

他は現在、生産中です。

 

 

「へぇ~・・・見てみたいですねー」

「私はすでに見ましたよ」

「あ、良いな~」

 

 

デザインの決定には、私も参加しておりますので。

とはいえ私もマスターも、「アリアと言ったらコレだろ」とのことで一致しました。

なので、かなり短い時間でデザインは決定されました。

 

 

そう遠くない将来、宰相府にも飾られることになるでしょう。

そうなればアーシェさんだけでなく、誰の目にも触れることになります。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

ぐんっ・・・と愛騎―――いつも共にいる相棒では無いが―――を操り、急旋回する。

直後、手綱を引いて愛騎を無理矢理に空中で制止させる。

そして、手に持った特殊金属で出来た槍を横に突き出す。

すると、背後から俺を追い越してしまった敵の竜騎兵の頭が槍の柄に直撃し、首の骨が折れた。

 

 

鼻腔から血を流しながら、敵兵がはるか下の地表に落ちて行く。

竜騎兵同士の戦いになると、いかに相手を騎竜から落とすかの勝負になる。

そして、基本は一騎討ちだが・・・。

 

 

「3人一組で敵にあたれ!」

 

 

俺はそう部下に命じる。

竜騎兵に限らず、個人の魔力量で兵の力が変わる魔法世界では、一騎討ちの風潮が強い。

だが、俺は名誉よりも命を優先するタイプなのでね!

 

 

「「魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の9矢(ルーキス)!」」

「おぉっと」

 

 

騎竜を操り、俺めがけて放たれた合計18本の魔法の矢をかわす。

一気に速度を速め、距離を開ける。

並の兵士ならば気を失うだろう圧力を受けながら、俺は口元に笑みを浮かべる。

そして、背後に追いすがる2人の敵を見やり、思う。

 

 

俺は、騎竜を急上昇させた。

限界まで高度を上げた所で身体の周囲に魔法障壁を張り、同時に遅延魔法(ディレイ・スペル)で浮遊の魔法を設定・・・。

そして、落ちた。

 

 

「なっ・・・?」

 

 

ぐんっ、と空中で身体を回転させ、俺を追っていた2人の敵の内、一人の身体の真ん中に槍を刺し、そのまま後ろに続いていた兵の顔面を踏みつける。

敵兵2人は、そのまま血を流しながら地表へ落ちて行き・・・。

 

 

「・・・ほっ」

 

 

発動が遅れていた浮遊の魔法が発動したため、落下スピードが緩やかになった所へ、先程乗り捨てた騎竜がやってきて、背中に着地した。

うーむ、『ベイオウルフ』ならもっと機敏に動いてくれるのだが・・・。

 

 

「隊長―――!」

 

 

ちょうどその時、俺の部下達が周囲に集まってきた。

俺は槍を振るって、血を払いながらそれを迎える。

 

 

「敵の竜騎兵102騎を全騎撃墜したニャ!」

「よし、一旦戻る。密集しつつ新しい補給地点に向かうぞ!」

「「「了解(ヤー)!」」」

「・・・副長、こちらの被害は?」

「・・・11人やられたニャ」

 

 

副長の報告に、俺は重々しく頷いた。

戦う以上、犠牲は必ず出る。

むしろ敵を102騎墜として11騎の損害であれば、良くやったと言うべきなのだろうが・・・。

 

 

「そ、そうだ隊長、知ってるかニャ? アルフレッドの奴、今度結婚するニャよ?」

 

 

俺を気遣ってか、場の雰囲気を明るくするためか、副長がそんなことを言った。

 

 

「何? 本当かそれは?」

「あ、ちょ、何で言っちゃうんスか副長~」

「アルフレッドに死亡フラグ立てちゃダメっしょ~」

「あ、いっけね~だニャ」

「え、ちょ!? 皆で勝手に俺に死亡フラグ立てんなよ!」

「フラグフラグ言ってると、本当に立つわよ?」

「立たせねーよ!」

 

 

どっ・・・と、部下達が笑う。

こいつらとは、幾度となく国境紛争や賊討伐で肩を並べて戦った仲だ。

精鋭揃いだと、俺は思っている。

世界中探した所で、彼らほど錬度の高い竜騎兵はいないだろう・・・。

 

 

「良かったな。おめでとう、アルフレッド」

「・・・へへっ・・・」

 

 

俺から15m程離れた位置にいる金髪の20代後半の青年―――アルフレッドが、照れたように笑った。

そして、彼が何か言おうとした、瞬間。

 

 

背後から放たれた光が、彼の身体を爆散させた。

 

 

ズドンッ・・・と音を立てて、アルフレッドと騎竜が堕ちて行く。

彼だけではなく、彼の前後にいた竜騎兵もまとめて吹き飛ばされた。

直径1~2mほどの光の束が、背後から襲って来たのだ!

 

 

「アルフレッド!!」

「・・・隊長、後ろニャ!」

 

 

次の瞬間、さらに続けていくつもの光弾が我が隊の背後から襲いかかり、次々と仲間達を撃ち落としていった。

 

 

「――――全騎、散れえぇっっ!!」

 

 

自身も騎竜を駆りながら、俺は声の限り叫んだ。

そして、その命令は実行される。全騎竜が、瞬時に散開した。

そして、背後からだけでなく、下からも光弾が―――砲撃が、行われている!

振り向けば、そこには2隻の駆逐艦らしき船の姿が見えた。

想定するに、アレの精霊砲で撃たれたわけか。

むしろ、俺や周囲の騎竜に当たらなかったのが奇跡と言うべきだが・・・。

 

 

バカな、索敵の段階ではどこにも・・・!

・・・・・・罠か!

 

 

「各部隊ごとに、5騎単位の小集団に別れて分散し、撤退しつつ、敵の分断を図れ!!」

「了解ニャ・・・隊長は!?」

「俺は最後尾で、お前達の退却を援護する・・・!!」

 

 

今は、一人でも多くの部下を逃がすことを考えるべきだ。

幸いもうすぐ日が沈む、そうすれば部下達を敵の包囲網から逃がせられる・・・!

 

 

 

 

Side アリア

 

グリアソン将軍の部隊からの通信が途絶えた、との報告が私の元に来たのは、すでにシオンさん達との会見を終え、さらに次の予定が終わりかけていた時のことです。

 

 

「女王陛下・・・」

 

 

耳元で囁くシャオリーさん。

彼女の報告によれば、リュケスティス将軍がグリアソン将軍の救援を求めているとのこと。

先に報告を受けたらしいクルトおじ様も、本来であれば見捨てるべきだとしながらも、今回に限って反対のことを言っているとのこと。

 

 

「・・・どないかしたんか?」

「ああ、いえ。大したことではありません。何分駆け出しの女王なもので、要領が悪くて」

 

 

そう言いつつ、私は執務室で応対している女性に視線を戻しました。

その女性・・・千草さんは訝しげに目を細めますが、特には何も言いませんでした。

 

 

「とにかく、関西呪術協会は私に味方して頂ける、とのことでよろしいのですね?」

「そう言うことになりますな。うちらとしても、今さら連合の庇護下に戻る気はないどす」

 

 

千草さんは、組織の責任者として私を訪問しています。

なので、会話は全て公的な物です。

 

 

千草さんが、我が王国に味方する理由は3つ。

第一に、血統として私が女王としての正当性を持っており、王国政府こそがウェスエルタティアを統べる唯一合法的な政府であること。

第二に、連合は自分達を厚遇しないであろうこと。

第三に、連合は一枚岩ではなく、内部崩壊に巻き込まれる危険があること。

・・・他にも理由はあるでしょうが、そんな所でしょうか。

 

 

「わかりました。そう言うことであれば私も味方ができるのは嬉しいです。細部は責任者と協議して頂きますが・・・貴女達には、ある研究に協力して欲しいのです」

「研究?」

「ええ・・・詳しいことはいずれ」

 

 

そう言って私が会談の終了を言外に告げると、千草さんも何も言わずに立ち上がり、一礼して退室しました。

おそらく、「何かあった」ことは伝わっているでしょうね。

私は千草さんが退室した後、後ろのシャオリーさんを振り向いて。

 

 

「通信が途絶してからの時間は?」

「27分です、陛下」

「クルトおじ様は?」

「すでに艦橋で陛下をお待ちしております」

 

 

私はそれに頷くと、席を立って歩き出しました。

廊下に出た後は、艦を降りるシャオリーさんに代わって、田中さんがガショガショとついてきます。

さて・・・。

 

 

『大丈夫、間に合いますよー』

 

 

左耳の支援魔導機械(デバイス)から、ミクの声が響きます。

彼女は、バイザーのような形の小さな映像を、私の目の前に映し出しました。

そこにはクレーニダイと言う、ここから西に120キロ程の位置にある都市周辺の地図を映しだされています。

 

 

『連合の駆逐艦のコンピュータから情報を抜き取りましたー』

「・・・軽く、凄いことしますね・・・」

 

 

呟きつつ、私は懐から一枚のカードを取り出します。

そして、それを額に押し付けると・・・。

 

 

「・・・エヴァさん、ちょっと良いですか?」

 

 

最近、ストレスを溜めているらしい家族に連絡しました。

 

 

 

 

 

Side シャークティー

 

「シャークティー先生! コレはどう言うことですか!」

「ちょ、お姉さま、そんな喧嘩腰で・・・」

「貴女は黙っていなさい!」

 

 

半ば予想していたことだけれど、高音さんが不満なようだった。

でも、その一方で・・・。

 

 

「まぁまぁ、そんなに興奮しないでさぁ、早く避難しましょうよ」

「・・・避難しヨウ」

「天下のアリアドネーのお姉様方が守ってくれるんですし~」

 

 

美空とココネは、むしろ率先して避難しようとしている。

避難という言葉からわかる通り、私達は今アリアドネーの戦乙女騎士団の誘導に従って新オスティアの災害用避難所に向かっています。

 

 

新オスティアの避難所は、今はアリアドネーの管轄下にある。

治安の維持に加えて、民衆の保護もアリアドネーの仕事となっているのです。

お祭り中だからか、多くの人が集まっていますし・・・。

ここから西に100キロ程の所にまで、連合の軍が来ているとあっては、避難指示が出るのも当然。

だけど、今から新オスティアを離れるのはかえって危険・・・。

周囲の人は連合に悪態を吐きつつも、指示に従って避難しています。

 

 

「シャークティー先生! 正義の魔法使いを志す私達が、一般人と同じく守られるだけと言うのは、いかがな物かと!」

「・・・そうですね。ではボランティアで避難所の業務のお手伝いをしましょうか」

「うぇ~、マジッすかぁ~?」

「そんなことではなく! 戦争が始まろうとしているんですよ!?」

 

 

本当に、高音さんと美空は正反対の性格をしていますね。

正義感と責任感の強い高音さんと、一方で美空は・・・。

 

 

「多くの人を救うためにも、もっと矢面に立つべきではありませんか!?」

「高音さん、でもね・・・」

「じゃあ、高音さんは人を殺せるんスか?」

「は・・・?」

「戦争で矢面に立つって、そう言うことでしょ?」

 

 

ココネを肩車しながら、美空が言った。

この子は時々、鋭いことを言う。

 

 

「第一、今攻めて来てるのって、高音さんのお国っスよね?」

「それは・・・そうですけど」

「魔法使いの本国相手に、高音さんは何ができるんスか?」

「・・・」

「・・・お姉さま」

「・・・あ、いや別に、高音さんがどうって話じゃ無くて!」

 

 

黙り込んだ高音さんの様子に、むしろ美空の方が慌てて。

 

 

「ただ、出来ることと出来ないことってあるんで、そこは考えた方が良いんじゃないかなーって」

 

 

そう、私がクルト宰相代理やアリア先生の元に行けなかったのは、こちらの人数が少ないこと以上に、高音さんのことがあったからです。

彼女の実家は、連合にある。

その連合の軍相手に事を構えるのは、酷でしょう・・・。

 

 

「あのー、すみません。列が乱れるんで・・・」

 

 

その時、アリアドネーの甲冑を来た方が言いにくそうに注意してきました。

確かに今の口論で立ち止まってしまっていたので、後ろの列が乱れつつあります。

 

 

「ごめんなさい、すぐに移動します」

「こちらこそ、すみません・・・って、アレ?」

「はい?」

 

 

その方が、ガションッ、と甲冑の顔の部分を開きました。

するとそこに、どこかで見た覚えのある顔が・・・。

 

 

「あ、やっぱり春日さん達じゃないですか」

「げ、げげえぇ――――っ!? 相坂さん!?」

「ちょ、何ですかその反応!?」

「で、出たあぁ――――っ!?」

「人を幽霊みたいに・・・・・・元幽霊ですけど」

 

 

それは麻帆良の生徒、相坂さんだった。

何と言うか、また妙な所で再会しましたね・・・。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

八方塞がりとは、このことか!

俺は部下を指揮しつつ、撤退と反撃を繰り返しながら、少しずつ敵の追撃を振り切りつつある。

しかし、未だ下からの砲撃と上からの艦砲射撃を受けている。

危機的状況であることには、変わりが無い。

 

 

時折、敵に対して砲撃が加えられているのは、おそらくはリュケスティスだろう。

移動しつつ敵を砲撃で牽制する・・・多少、心強くはあるが、大勢には影響しない。

 

 

「隊長、半数がやられたニャ・・・残りの皆も、そろそろ限界ニャ!」

「泣き事を言うな!」

 

 

しかし、もはや限界であることは、俺にもわかっていた。

竜騎兵の限界戦闘時間は、2時間とされている。

それ以上の時間は騎竜がもたないし、何よりも兵が消耗する。

俺の部下達は世界で最も優れた竜騎兵だと、俺は確信している。

 

 

だが、それにした所で限界はある。

実際、残った者も明らかに動きに精彩を欠いてきている。

無理も無い、すでに包囲されてから3時間近くが経っている。

すでに日は沈み、暗くなったが・・・逃げ切れたのは一部だけだ。

 

 

その時、俺の騎竜がガクンッとバランスを崩した。

そうか、こいつは一般兵用の騎竜で・・・!

 

 

「隊長―――!」

 

 

上から、副長の声が聞こえる。

高度が下がったため、下からの砲撃をかわしきれない。

密度が上がった火線の中で、俺は死が近付いて来るのを感じた。

く・・・!

 

 

「すまん、リュケスティス・・・」

「謝る前に、感謝して欲しいな」

 

 

耳に届いたのは、幼い少女の声だった。

次の瞬間、俺に迫っていた砲撃が、全て弾き飛ばされる。

氷漬けにされたそれらは、次々と落下していく。

ザァッ・・・と、俺の横を黒い鳥のような物が通り過ぎたかと思うと、それらは集まって、一人の少女の姿に変わった。

 

 

純白のドレスを纏ったその少女は、昏い青色の瞳で、俺のことを見つめた。

足首まで伸びた金色の髪が、月明かりを反射して、妖しく輝いている。

 

 

「お前が、グリアソンとか言う奴か?」

「・・・」

「・・・おい、聞いてるのか?」

「・・・あ、ああ、そうだ」

 

 

その少女は、「そうか」と答えると、砲撃を続ける下の連合兵を見やった。

どう言うわけか、砲撃は彼女より上には届かない。

全て、撃ち落としているのか?

 

 

「なら、さっさと終わらせて帰るか・・・えーと、リュケスティスとか言うのがあそこにいるから・・・」

「な、何をするつもりだ?」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

 

その少女が腕を掲げると、周囲の空気が急速に冷え、かつ張り詰めていくのがわかった。

巨大な魔力が、集まる。

 

 

契約に従い(ト・シュンボライオン)我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー)氷の女王(クリユスタリネー・バシレイア)来れ(エピゲネーテートー)!」

 

 

ピキィィン・・・と、少女の腕の動きに合わせて、空間が軋む。

 

 

「『とこしえのやみ(タイオーニオン・エレボス)』! 『えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリユスタレ)』!」

 

 

空間そのものが凍りつくような音を立てて、地表の大部分が氷に包まれた。

いくつもの氷柱が立ち、砲撃が止まる・・・。

 

 

「ふん・・・150フィート四方にいる連中は、コレで終わりだ・・・大した憂さ晴らしにもならんが。・・・だがコレも、最強の魔法使いであるこの私以外には、不可能!」

 

 

す・・・と、少女が指を掲げて、さらに呪文を唱える。

 

 

全ての命ある者に(パーサイス・ゾーアイス)等しき死を(トン・イソン・タナトン)其は安らぎなり(ホスアタラクシア)・・・『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』」

 

 

パチンッ・・・少女の鳴らす音と共に、下の氷が砕ける。

氷の欠片が月明かりを反射しながら、空を舞う。

 

 

「す、凄い・・・」

 

 

そう呟いたのは、俺の傍に集まってきた部下達か、それとも俺か。

直後、俺達の背後で大きな爆発音が響いた。

振り向いてみれば・・・俺達を追撃していた2隻の駆逐艦が、両方とも炎に包まれて墜落していく所だった。

な、何・・・?

 

 

「ああ、あっちも終わったのか」

 

 

そう言って、こちらを振り向いた少女の顔は。

慈愛に満ちて、とても美しかった・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

やれやれ、全滅は免れましたか。

まぁ正直、将軍一人と250程度の竜騎兵のために、アリア様を担ぎ出すことも無かったのですが。

ここは、政治的効果、と言う物を優先させて頂きます。

 

 

先日、叛乱軍支配地域での虐殺を見逃したことで、兵の中に動揺がありました。

アリア様は、自分達も見捨てるのではないか?

そう言う空気が生まれつつありました。

なので、あえてここはご自身で救援に向かって頂くことにしました。

 

 

「・・・艦長」

 

 

左耳のイヤーカフスをどこか苛立たしげに弄っていたアリア様が、しかし穏やかな声で、『ブリュンヒルデ』の艦長に声をかけました。

そのアリア様の座る指揮シートの背後の壁には、先日制定されたばかりのアリア様の軍旗が飾られております。

 

 

薄い赤色の布地に、銀の縁、小さな白い花を咲かせた葉が描かれています。

何でも、「苺の花」だとか。

アリア様曰く、花言葉は「幸福な家庭」。

・・・このクルト、感動の極み!

 

 

「俯角20度、2時の方角に敵駆逐艦が落ちてきたら、もう一度砲撃。それで、未だに周囲に潜んでいる敵兵を全滅させられます」

仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)

「クルト」

「はっ・・・護衛艦隊、狙点固定。陛下に指示された方向に一斉射撃せよ!」

 

 

それにしても、アリア様に軍事的才能がおありとは思いませんでした。

グリアソン将軍の位置を始め、敵駆逐艦を横撃できる位置まで予測したのです。

・・・ただどうも、左耳のイヤーカフスを気にされているようですが。

 

 

「艦隊全体に、『ブリュンヒルデ』の砲撃に合わせるように指令しなさい」

仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)

 

 

艦長のラスカリナ・ブブリーナ大佐が、命令を忠実に実行していきます。

艦レベルの指揮は、彼女に任せておけば問題ありません。

アリア様は、護衛艦隊18隻を含めたこの「女王直属護衛艦隊」の指揮に専念していただければ良いのです。

 

 

「真名さん、お願いします」

『了解だ、先生』

 

 

通信画面から響いた声に、アリア様は物憂げな表情を浮かべておりました・・・。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「真名さん、お願いします」

『了解だ、先生』

 

 

通信画面から響くアリア先生の声に、私は笑みを浮かべる。

私の手には、以前先生から貰った『GNスナイパーライフル』がある。

ただしいくつものコードで船本体に繋げられたそれは、『ブリュンヒルデ』の主砲と連動している。

 

 

『ブリュンヒルデ』内には、砲撃を管制するセクションがあるのだが、私はその一室を使っている。

360°周囲を見渡せる映像装置に、許可さえ取れれば全砲塔をここで操作できるだけの機材と権限。

極端に言えば、私が『ブリュンヒルデ』の火器を掌握しているとすら言えるわけだ。

一介の傭兵に無茶を頼む。

 

 

『レン、レン! この人まだ傭兵のつもりっぽいよっ』

『ふーん、いい加減諦めれば良いのにね』

 

 

どうでも良いが、このサポートシステムは何だ?

金髪の双子(兄妹か姉弟か知らんが)の姿をしたそれが、画面の中で狙撃システムの補正などを行ってくれているんだが・・・。

・・・まぁ、便利だし、何より金がかからない。

 

 

確か、リンとレン、だったかな。

後で、アリア先生にでも確認をとってみようか。

 

 

『精霊砲、エネルギーチャージ完了!』

『照準OK、いつでも撃てるよ』

「ああ、わかった」

 

 

カシャ、と軽い音を立てて、『GNスナイパーライフル』を構える。

必要は無いが、気分の問題だ。

スコープの中には、照準が合わせられているポイントが映っている。

私は、いつものように人差し指に力を込めて・・・。

 

 

『『狙い撃つぜ!』』

「人の台詞をとるな!」

 

 

悪態を吐きつつ、引き金を引いた。

瞬間、『ブリュンヒルデ』から主砲が放たれる。

それは一直線に、半ば沈みかけていた敵の駆逐艦の真ん中を貫き、数秒後には爆散させた。

さらに、他の18の艦から放たれた砲撃が、周囲の地形ごともう1隻を吹き飛ばす。

 

 

2隻に対して18隻でかかると言うのは、戦略的には正しいのだろうが。

それでも、あまり良い気はしないな。

 

 

「2隻で、何人が死んだかな・・・?」

 

 

口の中でそう呟きつつ、私は想像した。

今、艦橋でコレを見ているだろうアリア先生は、どんな顔をしているのだろうと。

笑っているのか、悲しんでいるのか・・・。

それとも、どちらでも無いのか?

 

 

そんなことを考えつつ、私は通信回線を開いた。

 

 

「任務完了、支払いはいつもの口座で」

『ははは、ボランティアありがとうございます』

 

 

あの眼鏡、戦争が終わったら砲撃してやる・・・。

アリア先生がこっそり給金を入れてくれて無ければ、本当に撃ってる。

忘れるなよ、クルト・ゲーデル。

私の忠誠心は、金で買えるぞ。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

宰相府って所に、私のための部屋が用意されてる。

ここは元々離宮で、部屋はたくさんあるから、その内の一つ。

いわゆる、客間って奴ね。

 

 

「へー、つまりお前って、フラれたわけ?」

「フラれて無い! そもそも、惚れてもいないわよ!」

 

 

このデリカシーも気遣いも皆無なバカな発言をしているのは、バカート。

ゲートで別れて以来だけど、どうしてかアリアに会いに来たらしいわ。

しかも、今日はここに泊るんですって。

もちろん、部屋は別だけど。

 

 

「いやだってお前、アレだろ? そのフェイトって奴とアリアが怪しい雰囲気だったから、こう、ショックだったわけだろ? そりゃー、フラれたってんじゃね?」

「だ、だから、違うって言ってるでしょおおぉぉっ!!」

「熱っ!? マジで熱い! 燃え死ぬ!?」

 

 

このバカート、人が窓辺で溜息吐いてたら、やたらと絡んで来て・・・。

仕方無く事情を話したんだけど、そうしたらコレよ!

やっぱり、こんなバカに話すんじゃ無かったわね!

 

 

炎を纏った拳で、3発程バカートを殴ってやった。

乙女を弄んだ罰よ、これくらい当然よ。

 

 

「お、おぉぉおぉお・・・」

「全く・・・死ねば良いのに」

「あ、アーニャさん、もう少し発言を穏当に・・・」

「あー、大丈夫大丈夫、エミリーちゃん」

 

 

適当に火で炙った後、復活したバカートはエミリーにそう言った。

煤こけた顔で、バカートは言った。

 

 

「こう言う時は発散した方が良いんだって、落ち込んでるなんて、アーニャらしくねぇだろ?」

「・・・バカート」

「まぁ、元気出せって」

「・・・だから、違うわよ」

 

 

ぷいっ、と窓の外を見るふりをしながら、私は顔をそむけた。

・・・何よ、バカートなりに私に気を遣ったわけ?

 

 

「ただいま。こう広いとお手洗いも・・・って、どうしたのロバート? 私の気を引こうとイメチェン? なら失敗してるわよ」

「イメチェンでもねーし、別に失敗もしてねーよ」

 

 

その時、シオンがお手洗いから戻ってきた。

あー・・・そう言えば、この2人って付き合ってるんだっけ・・・。

・・・おかしいわね、私の周りの男の子って、彼女持ちばっかりな気が。

・・・・・・あ、何か、リアルに気分が沈んできた・・・。

 

 

「しっかし、アレだな。アリアって女王様なんだよなー」

「昼間、あれだけマナー違反おかした割に、気にしてはいたのね」

「うっせ。で、話を戻すがよ、実際の所、俺らみたいなのが気軽に会って良い相手じゃなくなっちまったってことだよな」

「まぁ・・・そうね。いきなり会いに行って、会ってもらえるような相手じゃないわね」

 

 

・・・女王様、か。

確かに今が特別なだけで、いろいろ終わったら、もう会えないかもしれないのよね。

私達、一般人だし。

 

 

「なんつーか・・・寂しいじゃねぇか」

 

 

いつにも無く、らしくないことを言うバカート。

でもそれはきっと、女王様になる前のアリアを知ってる人間なら皆が思うことで・・・。

胸の中に、アリアが遠くに行ってしまったような、そんな寂しさがあった。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「どうですか、ネギ。貴方のために用意した旗艦の乗り心地は」

「う、うん・・・」

 

 

窮屈な軍服を着ながら、僕は船の中を歩いていた。

とても大きい船で、「超弩級戦艦」って言うくらいの大きさらしい。

今までは、「バセリオス・ジェオリオス級」って言うのが一番大きいタイプだったらしんだけど。

今回、アリエフさんが僕のためにって、用意してくれたこの戦艦の名前は・・・。

 

 

「戦艦『ナギ』の乗り心地は、どうですか?」

「う、うん。良いんじゃ・・・ないかな」

「そうですか、それは良かった。お父様も喜びます」

 

 

穏やかな口調で、エルザさんがそう言う。

エルザさんも、白い軍服のような、でもそれでいて所々で肌が見える服を着てる。

 

 

エルザさんの後ろには、のどかさんもいる。

ただ、のどかさんは軍服じゃなくて、普通の服と言うか、冒険者(トレジャーハンター)の服を着てる。

でも、どこか顔色が悪くて・・・。

 

 

「のどかさん、大丈夫ですか? 気分が悪いなら・・・」

「い、いえー・・・大丈夫ですー」

「そう・・・ですか。そう言えば、明日菜さんは・・・?」

 

 

船には乗ってるって聞いたんだけど、姿が見えないんだ。

そう言えば、魔法球から出てきて、一度も会ってないことに気付いた。

 

 

「あ、明日菜さんは、部屋に・・・います」

「部屋に? じゃあ、今から会いに・・・」

「いえっ、そ、そのー、調子が悪そうと言うか、その・・・」

「え・・・具合が悪いんですか!?」

 

 

大変だ、じゃあ、なおさら様子を見に行かないと!

そう思った僕の腕を、エルザさんが控え目に、それでいてしっかりと掴んだ。

 

 

「いけません、ネギ。病気のレディの姿を見るのは、紳士の行いではありません」

「え、えー・・・でも、心配だし」

「いけません。それにネギには、公務もあります・・・」

 

 

エルザさんは、青い顔で俯くのどかさんを見ると、口元に笑みを浮かべて。

 

 

「それに、気心の知れた友人の方が、何かと便利でしょうし・・・ねぇ、ミヤザキさん?」

「え・・・そ、その・・・そうです・・・ね」

「・・・のどかさんが、そう言うなら、まぁ・・・」

 

 

確かに英国紳士として、そう言うのは良く無かったかもですね!

じゃあ、具合が良くなったら、会いに行きましょう!

 

 

「それより、ネギ。見てください」

 

 

エルザさんは、手に持っていた小型の端末を操作すると、ブゥン・・・と、画面を出した。

そこには、夜空に浮かぶ島・・・いや、都市が映っていた。

 

 

「先行している偵察艦から送られて来た映像です。これが・・・新オスティアです」

「・・・新オスティア」

 

 

僕達の、目的地。

世界の、中心。

 

 

「どうやら、地上軍の進軍がわずかに遅れているようなので・・・軍全体としての到着は、10月10日、午前9時20分の予定です」

 

 

エルザさんの言葉にも、僕は答えない。

ただ画面の中の新オスティア・・・そしてその向こうにあるだろう、「墓守り人の宮殿」を、見つめていた。

 

 

僕が父さんの跡を継ぐ、その場所を。

アリアさんがいる、その場所を。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

夜10時を過ぎていると言うのに、オスティア郊外の軍港には、多くの人が整列しておりました。

夜も深くなり、空には美しい星空が広がっています。

シャオリーさんが率いる近衛騎士団を中心に、2000人の兵士が私を出迎えています。

・・・私の、緒戦での勝利を祝っているのだとか。

 

 

緒戦、ね・・・。

ちらり、と背後に従うクルトおじ様を見ると、にっこりと笑っていました。

・・・まぁ、良いですけど。

 

 

「「「アリア女王陛下、万歳!!」」」

「「「ウェスペルタティア王国、万歳!!」」」

 

 

歌うような抑揚を伴った声が流れ出し、一瞬ごとに熱と力を強めていきました。

2000の兵士の歓呼の声を一身に受けながら、私は『ブリュンヒルデ』から降りて行きます。

タラップを一歩降りる度に、兵士達の声が強く聞こえてきます。

私が手を振れば、歓呼の声は歓声に変わります。

 

 

「我が女王よ、私と私の友、そしてその部下の窮地を救ってくださったことに感謝致します」

 

 

地面に降りると、一緒に退却してきたリュケスティス中将が、敬礼しつつそう言いました。

アイスブルーの瞳が、私を見ています。

 

 

「リュケスティス中将」

「は・・・」

「私が私の臣下を救うのに、貴方からお礼を言われる必要は無いと思いますが」

「・・・その通りですな、我が女王よ」

 

 

口元に笑みを浮かべながら、リュケスティス中将はそう言いました。

そして、私が彼から視線を離して、歩きだそうとした時・・・蜂蜜色の髪の士官が、私の下に駆けて来て、しかも跪きました。

私は、その士官に声をかけます。

 

 

「グリアソン中将、無事で何よりです」

「は・・・」

 

 

グリアソン中将の肩が、かすかに震えているのが見えました。

どうしたのでしょう・・・?

 

 

「小官は陛下より大命を仰せつかりながら、陛下の兵を132名も損ね、敵をして勝ち誇らせてしまいました。この罪、万死に値しますが、おめおめと生きて帰り、こうして陛下のお裁きを待つに至りました。しかし全ての責は小官にありますれば、生き残った部下達には、どうか寛大な処置を頂きたく・・・!」

「・・・・・・グリアソン中将」

 

 

グリアソン中将の言葉を聞き終えた私は、静かな声で答えます。

マニュアルを読み上げるみたいで、あまり好きでは無いのですが・・・。

 

 

「貴方に罪はありません。100戦して100勝と言うわけにもいかないでしょう・・・この上は、次の戦いで挽回してくれる物と期待します」

「陛下・・・」

「私はすでに132人の仲間を失いました。この上何故、貴方を失わなければならないのですか?」

「だから言ったろう、アリア・・・・・・陛下は、お前を罰したりはしないとな」

 

 

グリアソン中将の後ろから、トコトコと歩いて来る金髪の少女。

エヴァさんです、「陛下」と言う単語がかなり怪しいですが、最近は努力しているのだとか。

・・・まぁ、形式ですね。

 

 

「まぁ、良いストレス解消にはなったよ、アリア・・・・・・陛下」

「・・・それは良かった」

 

 

この場では、それだけで良いでしょう。

私は前を向くと、ゆっくりとした足取りで、軍港の中を歩いて行きました。

「女王陛下万歳」「王国万歳」と叫ぶ兵の中を・・・。

 

 

いよいよ、戦争が始まります。

シンシア姉様――――――。

 




アリア:
アリアです。
ふぅ・・・自分の虚像が派手に踊ると言うのは、なんとも言えませんね。
大体の方は、私にお母様を重ねているのでしょうけど。
まぁ、役割を演じるのは、割と得意です。
それにしても・・・。
・・・「ぼかろ」達は、どうやってここに・・・。


アリア:
では次回は、10月10日、新オスティアでのお話です。
中将達が稼いだ一日が、はたしてどれだけ全体に影響するのかはわかりませんが。
次回、「宣戦布告拒否」。
では、またお会いしましょう。

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