魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

18 / 101
第15話「白き髪の2人」

Side アリア

 

浅い眠りを断続的に続けながら、私は朝を迎えました。

何か、モフモフした物に顔を押しつけつつ、モニャモニャと・・・。

 

 

「やはりここは、宣伝方法を・・・」

「しかしそれでは、そもそもの目的が・・・」

「いやいやいや・・・」

「いえいえいえ・・・」

 

 

・・・?

どうやら、誰かが何かを話し合っているようです。

まどろみの中から意識を引き上げて、目を開いて顔を上げると、そこには。

 

 

カシャッ。

 

 

「・・・っ」

 

 

急にフラッシュ、え、何ですか、カメラ・・・?

目を擦りながら、そちらを見ると。

 

 

「うふふふー、寝顔頂きましたー」

 

 

金髪の小柄な女性が、カメラ片手に笑っていました。

・・・えっと、誰でしょう。

ウェスペルタティア政府官庁の制服着てるので、文官の方だとは思いますけど。

 

 

「室長ー、寝顔ゲッツです!」

「グッジョブです、ブラボー4」

「ふふ・・・昇給を覚悟しなさい」

「マジですか! ひゃっふぅー!」

「記事タイトルは『戦場に咲く花』・・・バックは苺の花で」

「クルト宰相代理、それでは花が二つになってしまいます」

「おおっと、確かに。いやぁ、絡繰さんには敵いませんねぇ」

 

 

ブラボー4って・・・いや、本当に誰ですか。

と言うか、私の寝顔を撮ってどうなると言うのでしょう。

記事にするって、肖像権・・・などと言う物が魔法世界にあるわけも無く。

もし私が憲法を作る機会に恵まれれば、入れようと思います、肖像権。

と言うか、仲良いですねあの二人・・・。

 

 

その時、私は『ブリュンヒルデ』の指揮シートの下の床で寝ていたとこに気付きました。

ただ固い床では無く、灰銀色のモフモフした毛皮に覆われていました。

獣臭さを感じない、このモフモフは・・・。

 

 

「カムイさん」

 

 

鳴きもせず、灰銀色の狼は私の頬に顔を押し付けてきました。

そのまま、スリスリします。くすぐったいです。

・・・何か、どこかからカシャカシャとカメラの音がしますが、まぁ良いです。

その時、田中さんがガショガショ言いながらお盆を持ってきました。

 

 

そのお盆の上には紅茶のカップがあって、湯気が立っています。

アーリーモーニングティー、朝の紅茶ですね。

 

 

「オスティアンティーデス」

「・・・ありがとう」

 

 

カップを手に取る前に、軽く伸びをします。

昨夜は結局、寝室で寝ずに指揮シートを倒して軽く寝ただけです。

まぁ、目が覚めたら床でカムイさんに包まれていたわけですが。

コキンッ、と身体が軋み、あふっ、と息を吐きます。

 

 

・・・カメラの音、いい加減うるさいかも。

その後もう一度お礼を言ってから、カップを手に取りました。

 

 

「陛下ー、将軍達から通信要請が来てるっスよ」

「ああ、はい。繋いでください」

 

 

オルセン大尉の言葉に、そう答えます。

朝の会議と言う奴ですね。

私が指揮シートに座ると、茶々丸さんが熱いおしぼりで私の顔を拭いてくれました。

 

 

「んむっ・・・」

「通信は30秒お待ちください」

「アイアイサーっスー」

 

 

顔を拭かれ、髪を整えられ、歯を磨かれ衣服の乱れを直され・・・。

・・・あれ、コレ30秒?

5分の間違いじゃ無くて?

 

 

「プロですから」

「何のですか・・・?」

「禁則事項です」

 

 

人差し指を口元に当てて、微笑む茶々丸さん。

そこへ、大尉が通信が繋がることを知らせてきましたので、私は居住まいを正します。

通信画面に5つの顔が並ぶと、私はなるべく穏やかな笑みを浮かべてみせます。

 

 

「皆様、おはようございます」

 

 

さて、今日も頑張りましょうか。

こつん・・・と左耳の支援魔導機械(デバイス)を指先で弾きながら、私は前を見ました。

 

 

 

 

 

Side のどか

 

たくさん、人が死にました。

その中には、私が名前と顔を知っている人もいました。

読み上げ耳(アウリス・レキタンス)』は、そう言う人達の表層意識すらも読み上げます。

心が擦り減らされるような、そんな一日でした、昨日は。

 

 

だけど、離れるわけにはいかない、ここから。

ネギ先生のために、私にしかできないことだと思うから。

 

 

『健気なことですね』

 

 

その時、ここ数日で一番聞いている心の声が聞こえました。

それはまるで、私に語りかけているような口調で。

 

 

『そんなことをしても、貴女がネギと結ばれることは無い』

 

 

それは、目の前にいる黒髪の女の子の声。

艦橋で、ずっと年上の軍人さん達に指示を出してる女の人の声。

・・・エルザさん。

私も、昨日からずっと、艦橋で立っています。

立たされています。

 

 

『ネギに余計なことを吹き込めば殺します。私から離れて勝手をしても殺します』

「・・・」

『私に質問をしても殺します』

 

 

私が望む答えを知るには、相手がそれを連想する質問をしなければならない。

それを、わかっている。

 

 

「大軍に戦術など必要ありません。ひたすら突撃して突破しなさい」

「しかしそれでは、犠牲が増えすぎます!」

 

 

エルザさんはさっきから、ブラウンの髪の軍人さんと揉めています。

確か、ネギ先生の艦隊の司令官さん。

名前は・・・。

 

 

「アイザック・ブロック提督、私は貴方の意見を求めた覚えはありません」

「昨日の戦闘を見たでしょう! 密集して突撃すれば後方の艦が遊兵と化し、かえって損害が増えるばかりではありませんか!」

『くそっ、何でこんな小娘の命令を聞かねばならないのか。MMの連中はコレだから・・・』

「犠牲が増える? 何か勘違いしているようですね提督、犠牲は問題ではありません。この艦が敵を突破することこそが重要なのです」

「それでは・・・!」

『反アリカ派を糾合したと言っても、こんな指揮では無駄死にし』

 

 

その軍人さんの心の声が、途切れました。

声だけでなく、全部が・・・。

 

 

「反逆者です。陛下が来られる前に片付けなさい」

 

 

思わず、目を背けます。

それでも、記憶は消せません。

エルザさんが左手を横に動かした瞬間、軍人さんの首から赤い液体が・・・。

プシュッ、と何かが噴き出す音と共に、ゴトリ、と鈍い音。

 

 

衛兵の人達がその・・・片付けると、艦橋で喋る人は誰もいなくなりました。

皆、青い顔で俯くばかりで・・・。

 

 

「おはようございます!」

 

 

その時、元気な声で艦橋に入ってきた人がいました。

もちろん、ネギ先生です。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

艦橋に入ると、何か変な雰囲気だった。

皆、元気が無いと言うか・・・変な感じ。

 

 

「おはようございます、ネギ」

 

 

その中で、エルザさんだけはいつも通りだった。

軍服の裾を翻させながら、エルザさんは僕の傍にやってきた。

 

 

「昨夜は良く眠れましたか?」

「う、うん」

「それは良かった・・・今日は大事な日ですから、ネギだけは万全でいて貰わねばなりません」

「えっと・・・ありがとう、エルザさん」

「将来、ネギの子を産む身として当然のことです」

 

 

・・・まぁ、そこはちょっと、アレだけど。

今日は、普通だよね。

エルザさんは時々、どうしてか凄く怖くなる時があるから。

ネカネお姉ちゃんも、そこは心配してたみたいだし。

 

 

その時、艦橋の隅の方で立っているのどかさんを見つけた。

でも、何だか具合が悪そうに見える。

僕がのどかさんに声をかけようとした時、エルザさんが僕の腕を引いた。

動かない表情の中に穏やかさを含めて、エルザさんは僕を見ている。

 

 

「それで、ネギ。作戦は決まったのですか?」

「え、あ、うん! 魔法球の中で考えてみたんだけど、やっぱりコレかなって・・・」

 

 

僕が胸ポケットから折りたたんだ大きな紙を取り出すと、エルザさんはそれを受け取って、開いた。

そこには、僕が魔法球の中で考えた作戦が書いてある。

まぁ、ほとんど思い付きだし、プロの人から見てどうなのかはわからないけど・・・。

 

 

僕の考えた作戦は、大体こんな感じ。

①残存の艦隊で、アリアさん側の艦隊攻撃を防ぎつつ、敵艦隊の中央部を突破する。

②そのまま旧王都に直進する。新オスティアは後回し。

③第一目標である旧王都「墓守り人の宮殿」を艦隊の陸戦部隊で占拠する。

④第二目標である<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を奪取する。

⑤世界を救う魔法<リライト>を発動させる。

 

 

「い、一応、僕にわかってる範囲で、考えてみたんだけど・・・」

「素晴らしいと思います、ネギ」

 

 

表情も変えずに、淡々とエルザさんは言った。

そのまま紙を自分の懐にしまって、僕の方を見る。

 

 

「ネギの作戦案は戦略的目的を着実に捉えた、素晴らしい物だと思います。私には考えもつきません。ネギの作戦の壮大にして緻密、かつ積極的なこと、誰の目にも素晴らしい物と映ることでしょう」

 

 

エルザさんは、30秒間で「素晴らしい」を3回も言った。

流石にちょっと、言い過ぎだと思うけど。

 

 

「では、すぐに準備させましょう」

 

 

エルザさんはそう言うと僕の手を握ったまま、周りの人に指示を出した。

何で、手を握ったまま?

 

 

 

 

 

Side クルト

 

『防諜班の報告によれば、敵はまたぞろ中央突破を仕掛けるつもりのようです』

 

 

今や中央だけでなく、護衛艦隊をも指揮するレミーナ中将が、そう発言しました。

『ブリュンヒルデ』の通信画面を通じて、将官達の討議が続いています。

 

 

『どうも、相手は中央突破に固執しているようです』

『こちらとしては、その敵の心理を利用するしかありません』

 

 

次に論陣を張ったのは、左翼艦隊のコリングウッド提督。

彼はおさまりの悪い黒髪を撫でつけるようにしながら、淡々と話します。

極端な話、彼ら前線指揮官の間では、すでに作戦案の合意はできているでしょうから。

これは言ってしまえば、アリア様にわかりやく説明するための会議ですね。

 

 

アリア様自身も、それはわかっているのでしょう。

将官達の説明に時折頷きを返したり質問したりもしますが、聞くことに集中しておられます。

なお、将官達の作戦案は以下のような物です。

 

 

①正攻法で戦えば、数に劣る我らが敗北するのは目に見えている。

②そこで中央を新オスティア寸前まで下げ、突破に固執する敵を引きつける。同時に両翼を前進させる。

③敵艦隊の隊列・補給線が伸びきった時、反撃を開始。

④艦隊をU字型の陣形に再編し、さらに雲海内に潜ませた潜空艦を加えて、4方向から反撃する。

⑤この際、アリアドネーの攻撃と相乗させることができたら最善。

⑥しかる後、敵艦隊を撃滅した余勢を駆って、味方艦隊で敵の陸軍を砲撃する。

⑦陸軍は艦砲射撃の間に大規模攻撃魔法の波状攻撃によって、敵陸軍を撃退する。

 

 

『コレしかありません。敵が中央突破にこだわらずに、兵力に頼った波状攻撃を仕掛けてきたら、兵力の回復力で劣る我々はジリジリと擦り潰されてしまいます』

『陸軍としては、防御に徹して時間を稼ぐと言うことですな。それは良いが、この作戦を行うには陣形を再編するだけの時間と、前線指揮官に十分な権限が無ければ不可能ですが・・・?』

 

 

画面のリュケスティス将軍が、黙して語らぬアリア様を見つめました。

中央部を下げ、陣形をU字型に再編する間、『ブリュンヒルデ』の周囲は戦況が悪くなるでしょう。

と言って、『ブリュンヒルデ』のみが安全圏に逃げれば、将兵の士気は下がり、かつ敵が中央に固執しなくなるやもしれません。

 

 

アリア様は、左耳のイヤーカフスを弄りつつ、数秒沈黙した後。

 

 

「その作戦案を是とします。権限も物資も、必要なだけ申し出なさい」

『『『仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)』』』

「直接の指揮は、制服の専門家に任せます・・・それでは、生きてまたお会いしましょう」

 

 

通信終えると、アリア様は溜息を吐いて指揮シートに深く座り直しました。

そこへ、田中とか言うロボットが紅茶のおかわりを持って行きます。

・・・アリア様は、政治にも軍事にも経済にも、通じておられるとは言えませんが。

自分がそれらに詳しく無いことを、知っておられます。

 

 

だからこそ、専門家に・・・部下に任せることができる。

これは、一種の才能ですね。

私の役目は、それが行き過ぎた結果を生まないよう、監視すること。

そしてそれすらも、アリア様が私に任せただけの仕事。

 

 

「敵艦隊、動き出したっス!」

「・・・了解しました。それでは全軍に打電・・・<攻撃開始(ファイア)>!」

 

 

人は、役割に従う。

どう言うわけか、アリア様はそれを良く知っておられるようです。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

通信による会議を終えて2時間後、俺が指揮する塹壕の防御陣地の前面には、昨日と同じように戦闘隊形をとった敵軍が整然と並んでいた。

中央には歩兵・槍兵、そして魔導兵。両翼に軽騎兵が配置され、こちらの奇襲を警戒している。

これでは、昨日のように両翼から敵を寸断する戦術は使えんな。

 

 

とは言え、ただ陣地に籠っているだけではどうにもならん。

艦隊が勝利を収めるのがいつかわからない以上、可能な限り長時間持ちこたえなければならない。

全軍の指揮を任されていると言うことは、逆に言えばそれだけ責任があると言うことだ。

 

 

「度し難いな、我ながら」

 

 

口の中でそう呟きながら、同時に俺は頭の中で作戦を組み立てて行く。

敵と味方の配置を頭の中に浮かべる。

 

 

ジャクソン少将が率いている歩兵・騎兵1500は敵軍を半包囲すべく、すでに移動しているだろう。

グリアソンの竜騎兵400も、すでに空だ。

俺の指揮する防御陣地にこもる7000も、体勢は万全。

違う部分としては、第4塹壕に迎撃用ではなく、大規模攻撃魔法専用の魔導兵が詰めていることだろうか。

 

 

大規模攻撃魔法とは、その名前の通りの効果を及ぼす戦争用の魔法だ。

紅き翼のような個人で使う化物もいるが、基本は魔法使い数十名で完成させる。

艦隊による爆撃が開始され次第、準備した大規模攻撃魔法で敵軍に波状攻撃を加える。

一撃で数百人の敵兵を倒せるが、その分準備にも詠唱にも時間がかかる。

 

 

「それまでは、生きていたい物だな」

「誰だってそうだろう」

「違いないな」

 

 

俺の横には、後方の第7塹壕で物資の供給に従事している民兵の代表の一人がいた。

体格に恵まれた30代の男で、目の横から顔の側面にかけて入っている青い線が特徴的だ。

だがそれ以上に、包帯で隠された太い右腕が人の目を引く。

リアス・パルクスと言う名前の、竜人と人間のハーフだと聞いているが。

 

 

何故この戦いに参加しているかは聞いていないが、誰しも何かしかの理由がある。

ウェスペルタティア軍も随分と多民族構成になった物だ、と思うだけだ。

 

 

「敵最前列、突撃を開始しました!」

「迎撃せよ!」

 

 

部下の報告に、最低限の命令を返す。

直後、こちら目がけて突撃してくる敵兵に対し、魔力弩砲(バリスタ)や砲塔が火を噴いた。

同時に、敵の砲撃も始まる。

 

 

「では、せいぜい時間を稼がせて貰うとしようか、パルクス殿」

「厄介事はご免だが、さしあたり生き残るために努力はしよう」

 

 

そう、さしあたりは・・・。

生き残ることだな。

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

最初の言葉は、「子供が何でこんな所に?」やった。

次の言葉は、「お嬢ちゃん、こんな所にいると危ないよ」やった。

最後の言葉は、あらしません。

だって、うちが少し腕を動かしただけで喋らなくならはりますもん。

 

 

――――この世界に意味は無く。

我が求むるは、ただ血と戦のみ。

そしてここには、その両方がありますねや。

 

 

「アハ――――――」

 

 

秘剣、『一瞬千撃・弐刀五月雨斬り』。

うちの放った千の刃が、周りにおる人らの身体を寸刻みにする。

肉を斬り抉る感覚。血が吹き出て、顔にかかる瞬間。

たまりませんわぁ~、最近ご無沙汰でしたもん。

 

 

「アハハハハハハハハハハッ!」

 

 

まぁ、欲を言えばもう少し斬り応えのある人を相手にしたいわぁ。

叫んで逃げるばっかりで、つまりません。

逃げる人の足を斬って、背中からトドメ、なんて芸がありませんもん。

魔法斬られたぐらいで顔青くするなんて、弛んでますわぁ。

 

 

素子はんとセンパイ、元気かなぁ。

今度会うたら挨拶する前に斬ろう、そうしよう。

あの2人やったら、こんな無様晒さへんのでしょうなぁ。

命乞いなんて、せぇへんのでしょうなぁ・・・。

 

 

「アッハハハハハハ「うわたぁ!?」ハハハ?」

 

 

夢中になって斬っとったら、何や聞き覚えのある声が聞こえた。

立ち止まって見てみたら、うちの足元に見覚えのあるツンツン黒髪が。

 

 

「小太郎はん、そないな所でお昼寝どすかぁ?」

「ちゃうわ! ねーちゃんの斬撃が飛んできたから避けたんやろ!?」

「おろ?」

「おろ? やない、危ない! 味方斬ったらあかんて!」

 

 

そうでしたかぁ、そら悪いことしましたなぁ。

・・・んん~?

何や、気分が家みたいになってきましたわぁ。

うちらの周りには、まだこんなにたくさん木偶がおるのに。

 

 

皆さん、遠巻きにうちらのことを見てはりますえ。

斬られるのを、今か今かと待ち侘びとりますわ。

うちには、わかりますえ。

斬られたいから、戦場に出とるってことが。Mどすなぁ。

 

 

「い、一斉に撃てぇ!」

 

 

その人達が、四方からうちらに魔法の矢を撃ち込んできました。

こんな至近距離でそないな撃ち方したら、味方の人にも被害が出ますのに。

でも・・・。

 

 

「『影布(ウンブラエ・))七重(セプテンプレクス)対物(パリエース・)障壁(アンティコルポラーリス)』」

 

 

でもそれは、うちと小太郎はんの周囲を取り囲んだ影の布に阻まれて、弾かれてしまいました。

周りの木偶が動揺する中、真っ黒な服と仮面を着けたカゲタロウはんが、うちらの傍に転移してきました。

決勝戦以来、何か一緒におるんどす。

 

 

「まったく・・・面倒が見切れんな。突撃以外に能は無いのか」

「なんやとコラ!? つーか誰が助けろ言うたおっさん!」

「そうですえ~、あんなんうちらだけで、十分どうにかできますもん」

「そうもいかん、お前達に何かあれば・・・アレだ」

 

 

・・・?

 

 

「・・・千草殿が、悲しむだろう」

「は?」

「ほ?」

 

 

・・・おんやぁ~?

そう言えば、決勝戦の後、挨拶しとりましたなぁ。

おろろ? これはもしや~?

 

 

「な、何、気安く名前呼んでんねんな!?」

「・・・いや、酒飲み仲間としてだな」

「認めるかぁ!」

 

 

叫んで、飛び出す小太郎はん。

カゲタロウはんも構えて、うちも刀を持ち直します。

 

 

小太郎はんがカゲタロウはんの後ろにおった兵士を、殴り飛ばして。

カゲタロウはんがうちの後ろで狙いを定めとった魔導兵を影の槍で貫いて。

うちが、小太郎はんに迫っとった魔法の矢を斬り落として。

それから、バラバラの方向に駆け出しました。

 

 

「後で見とれよ、おっさん!」

「うむ、親睦を深めるとしよう」

「あはは、面白くなりそうやわぁ」

 

 

言いつつ、もう一人を袈裟がけに斬り伏せる。

裂ける肉の感触、頬にかかる血。

ああ・・・何て、楽しいんやろ。

 

 

気持ち悪いわ。

 

 

 

 

 

Side 暦

 

人が、死ぬ。

たくさん、死んでいく。

 

 

砲撃の音がする、でもそれ以上に悲鳴が聞こえる。

魔法が炸裂する音がする、でもそれ以上に悲鳴が聞こえる。

剣や槍の、金属の打ち合う音がする、でもそれ以上に悲鳴が聞こえる。

そこは、そんな場所だった。

 

 

「戦争、だね」

「当たり前だ、あそこは戦場だぞ」

「わかってるよ・・・」

 

 

無意識に呟いていたのか、焔が私の声に反応した。

聞こえたかはわからないけど、それに答えを返しつつ・・・私は、私達の前に立っているフェイト様の背中を見つめた。

 

 

ここは、新オスティアの戦場からそれ程離れていない場所。

数百mくらいの高度で、私達は静止してる。

フェイト様と、私達5人で。

フェイト様が結界を張っているらしくて、私達の姿は感知されない。

 

 

「あの・・・フェイト様」

 

 

調が恐る恐ると言った感じで、フェイト様に声をかけた。

 

 

「・・・何、調君」

「これから、どうなさるのですか? あの戦闘に介入すると・・・?」

「・・・」

「あの・・・フェイト様?」

「・・・わからない」

「は?」

「わからないんだ」

 

 

調が、困り果てたような、そして実際に困り果てた顔をしてる。

調だけじゃなくて、私達皆が、同じ表情をしてると思う。

 

 

宮殿を出てからどうも、フェイト様は悩んでる、ううん、迷ってるみたい。

あるいは、たぶん、迷うことに慣れて無いんだと思う。

だから、動けない。

それに対して・・・苛立ってもいる。

 

 

「えっと・・・」

 

 

こう言う時、何て言えば良いんだろう。

いろいろ少女向けの本は見たけど、心理学とか人生相談の本は見たことが無い。

と言うか、本に書いてあるようなことを言えば良いってことでも無い気がする。

じゃあ、何を言うべき?

私は、フェイト様に何をしてあげられる?

 

 

私が思うに、フェイト様は動きたい。

でも、良く分からないけど動けない。

つまり、きっかけの問題。

 

 

私達以外の誰かのための、きっかけ。

 

 

「・・・フェイト様!」

「・・・何、暦君」

「フェイト様、こっち見てください」

 

 

私がそう言うと、フェイト様はゆっくりとこっちを見てくれた。

えっと、怒って無いよね?

怒って・・・無い、よし大丈夫。

 

 

「フェイト様、あのぅ・・・その、何と申しますか」

「・・・?」

「え~・・・」

 

 

片眉を上げて、フェイト様が私を見る。

環達も、緊張したように私を見てる。

えっと・・・一個しか思いつかなかったけど、でもコレ凄く失礼なことなんだよね。

でも、ここでこのままウジウジしててもアレだし。

 

 

うー・・・あーもう!

言っちゃえ!

 

 

「男を、見せてください」

 

 

い・・・言っちゃった――――――――!

いや、でもね、コレは結構前から思っていたことでもあるんだ。

フェイト様はストイックと言うか・・・まぁ、そう言う男の人だってことはわかってる。

けど、精神的なスタイルまでそうあるべきじゃないと思う。

 

 

男の人だもん。

時には、思ったまま行動すれば良いと思う。

・・・単純に、私がそう思ってるだけだけど。

 

 

フェイト様は、一瞬だけ表情を変えた。

驚いたような、怒ったような、納得したような、反発したような。

複雑な、表情だった。

そして、口を開いた。

 

 

「・・・暦君」

「は、はい・・・っ」

 

 

瞬間的に、怒られると思った。

嫌われた―――そもそも好かれてるかもわからないけど―――と思った。

身体を強張らせて目を閉じて、叱責を待つ。

 

 

「いつもありがとう、感謝している」

「・・・ふぇ?」

 

 

でも聞こえてきた声は、全然怒って無くて。

その代わり、一瞬だけ、頭にぽむっと柔らかな感触が。

・・・な、撫でられた!?

 

 

「フェイト様!?」

 

 

慌てて目を開けると、そこには。

・・・それを見た瞬間、私は倒れた。

 

 

「暦――――――!」

「しっかりしろ、傷は浅いぞ・・・!」

「今のは、キましたわねぇ」

「と言うか、羨ましいのですが・・・」

 

 

・・・は、初めて見た。

皆に助け起こされながら、私はそんなことを思った。

フェイト様って、あんな風に笑うんだ・・・。

 

 

 

 

 

Side ムミウス

 

我ながら、不味い戦をした物だ。

今の所、全体として優位だ。だが、それだけだ。

優位なだけで、勝利しているわけでは無い。

 

 

焦りは禁物だとわかってはいても、焦れてしまうのは仕方が無い。

ことに、部下の命が無駄に失われていく現状を思えばな。

 

 

「右翼から敵別働隊!」

「・・・慌てるな、騎兵を前面に押し立てて歩兵を蹴散らせ」

「先頭に<闇の福音>!」

「・・・ホルデオニウス!」

 

 

追加の報告に舌打ちしたくなる心境になりながら、私は勇敢で忠実な副官を呼んだ。

ほどなくやってきた彼に対し、重装歩兵2個大隊を付けて<闇の福音>を足止めするように命じた。

 

 

「昨日のようにこちらの陣形を乱されては敵わん。倒す必要は無いが、奴の足を止めろ」

「了解しました!」

 

 

精悍な顔に笑みを浮かべて、ホルデオニウスは直属の部下を率いて出撃して行った。

本当ならもっと多くの戦力を付けてやりたいが、これが限界だ。

正面の敵の防御を破るには、兵力のほとんどを叩きつけねばならない。

兵力の分散はできないのだ。

 

 

しかも、後方の心配がある。

大公国領内からの定期連絡が途絶えがちなのだ。

アラゴカストロ侯爵領での戦いの結果も、未だもたらされていない。

補給の心配も含めて、背後も警戒する必要がある。

加えて言えば、いくつかの小部隊が謎の3人組に潰されている。

これに対しても対処する必要がある。

 

 

つまり、全ての戦力を正面の敵に注ぎこめない。

注ぎこまなくては勝てないのに、だ。

 

 

「遊兵を作ってしまうとは・・・何と言う無様だ」

 

 

兵法の常道から外れた戦術に、恥ずかしくなってくる。

だが、どうしても慎重にならざるを得ない。

ことに、艦隊の作戦計画が伝えられていないのだからな。

ハンニバル提督は、連絡を欠かすような男では無いのだが・・・。

 

 

「鬼神兵の装備の換装は完了したか?」

「はっ、ただ時間の都合上、2体しか・・・」

「十分だ。残りの2体は昨日と同じように地上戦に投入しろ、そして・・・」

 

 

1体は、昨日<闇の福音>に潰されてしまったからな。残り4体。

その内2体に、最近軍で開発された特別な装備を備えさせた。

まぁ、これまでの技術をスケールアップさせただけだから、新技術と言える物でも無いが。

どちらかと言えば、奇策の部類に入るが・・・効果はあるだろう。

 

 

「飛行用鬼神兵、出撃させろ」

「了解です、司令官!」

 

 

ゴゥン・・・と音を立てて、司令部の横に立っていた鬼神兵の目に光が灯った。

 

 

 

 

 

Side セルフィ・クローリー(偽名)

 

オストラでライラさんやユフィさんと警備をしていた頃から、思っていることがある。

それはきっと、この場にいる誰もが思っているとだと思う。

 

 

・・・島が浮くとか、おかしくない?

船にしたって、鉄の塊じゃんアレ。

何で飛んでるの・・・?

・・・ちなみに、何でこんなことを考えているのかと言うと。

 

 

「突撃だ! リュケスティス将軍の防御陣に、敵をただ進ませてやることは無いぞ!」

 

 

すぐ傍で起こってる戦闘・・・戦争が、怖いから。

怖くて怖くて仕方が無いから、いけないことだけど、余計なことを考えてる。

でも私は傭兵だから。

だから、戦いから逃げることはしない。

 

 

お父さんもお母さんも、傭兵だったから。

私が逃げ出したら、2人に笑われちゃう。

 

 

「騎兵を前面に押し出せ! 左右両翼が交互に攻撃を繰り返して、敵に出血を強いるのだ!」

 

 

ちなみに、私はジャクソン将軍って人の部隊にいる。

オストラに赴任してた将軍さんで、今も歩兵部隊の指揮を執ってる。

女王陛下がオスティアに行ってから、実は隣の小さな領地で反乱があった。

年表に載るか怪しいくらいの小さな反乱。

 

 

当然、ジャクソン将軍が鎮圧に行った。

小さいと言っても、相手には数百人の兵士が付いてたし、1週間はかかるかなって言われてた。

将軍は、3日で鎮圧した。

 

 

「右翼は後退して敵を引きつけ、同時に中央と左翼は前進! 敵を半包囲して側面を打て!」

 

 

・・・今も、指揮を執ってる。

さっきから聞こえるこの声、ジャクソン将軍の声だって思うでしょ?

実は違う、この声は副官の中佐さんの声。

 

 

ジャクソン将軍は、めったに喋らない。

指を鳴らしたり、ちょっと動かしたりするだけ。

副官はそれを見て、将軍が何を言いたいかを判断して部隊に伝えるの。

 

 

「今だ! 敵前衛部隊に魔法斉射! 敵騎兵の出鼻を叩け!」

 

 

・・・と言うか、指を二回振っただけで何で、あんなに長文になるだろう。

そう思って、目の前の敵兵の頭を殴り飛ばした後、将軍のいる方向に視線を向けてみた。

すると何と、将軍が激しく身振り手振りをしていた!

指だけじゃなく、腕全体を使って、ダイナミックに!

 

 

これは、もの凄く長い指示になるに違いない・・・!

中佐さんが、頷いて叫んだ。

 

 

「一時退却!」

 

 

・・・え、それだけ!?

 

 

「鬼神兵だ!」

 

 

その時、別の兵士さんが叫んだ・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「エヴァ殿、鬼神兵ですぞ!」

「わかってる!」

 

 

オーギスの声に、私は怒鳴るように応じた。

敵兵を蹴散らしながら10の指を休みなく動かして300近い人形兵を動かしつつ、オーギスの率いる魔法騎士団150人と敵陣に突っ込んだのが30分程前だ。

そろそろ動きがあるとは思っていた。

 

 

「な、何だアレは!?」

「鬼神兵が・・・飛んでるぞ!」

 

 

周囲の兵士のその言葉に、私は上空を見る。

すると確かに、背中に2対の羽のような物を生やした鬼神兵の姿を確認できた。

それも、2体だ。

しかも、地上にもあと2体いる。

昨日は結局、1体しか潰せなかったからな・・・!

 

 

それにしても、一体何のつもりで・・・そうか!

奴らこちらの陣地を飛び越えて、新オスティアに直接向かうつもりか。

艦隊の下を潜り抜ける形になるが・・・そこまでの高度じゃない。

 

 

「行かせるかああああぁぁぁ―――――――――――!!」

 

 

叫んで、身を翻す。

どんっ・・・と、地面を蹴り、急速に上昇する。

さらに空中で虚空瞬動、一気に数百mの距離を跳ぶ。

キュンッ・・・と身体を回転させて、遠心力を付けた蹴りを鬼神兵の頭に叩きつける。

 

 

ガクンッ・・・と、数mはある頭が揺れる。

反動を利用して鬼神兵の背中に降り立ち、そこで呪文を唱える。

 

 

契約に従い(ト・シュンボライオン)我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー)氷の女王(クリユスタリネー・バシレイア)来れ(エピゲネーテートー)、『とこしえのやみ(タイオーニオン・エレボス)』! 『えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリユスタレ)』!」

 

 

キキキキキィ・・・インッ、と音を立てて、鬼神兵の背中が凍りつく。

ガクンッと傾き、明らかに失速したそれに対して、私はさらに追い打ちをかけた。

 

 

全ての命ある者に(パーサイス・ゾーアイス)等しき死を(トン・イソン・タナトン)其は安らぎなり(ホスアタラクシア)! 『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』!!」

 

 

両手を振り下ろし、凍りついた鬼神兵の身体を半ばからヘシ折った。

残った部位も細かく砕かれ、地面に向けて落下する・・・この処理がまた面倒なのだ!

下には、味方の兵もいるのだからな。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

 

虚空瞬動で氷塊よりも素早く地上へ向けて跳び、振り向き様に魔法を放つ。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の3333矢(グラキアーリス)』!!」

 

 

最大魔力で魔法の矢を放ち、落下してくる氷塊を可能な限り削り取り、細かな破片に変える。

そのまま地面に着地し、オーギス達に対して叫ぶ。

 

 

「王国魔法騎士団! 障壁を頭上に全力展開!!」

「心得ましたぞ!!」

 

 

返答を確認した次の瞬間、無数の氷の破片が戦場に降り注いだ。

周辺の敵兵の大半は対応しきれず、頭部を強打して倒れていく。

なるべく味方を気遣ったつもりだが、完璧では無いと思う。

・・・集団戦は、初めてなんだよ!

 

 

とにかく、もう1体も潰す。

そう思い、身体を翻しかけた私の目の前に、1m以上の大きさの斧槍(トマホーク)が突き立った。

凄まじい勢いで投擲されてきたそれは、戦場に現れた新たな敵部隊から放たれた物だ。

 

 

「我が名はホルデオニウス! 銀髪の小娘の狗共、死にたい奴からかかって来るが良い!」

 

 

ホル何とか言うそいつの率いている部隊は、頑丈そうな鎧に身を包んだ男達だった。

ちっ・・・自然と舌打ちする。

奴らの鎧が対魔法用の重装備であって、一般兵の魔法では破れないことを私は知っていた。

オーギスのような連中ならどうにかするだろうが、流石にな・・・。

 

 

事実、その新たな敵部隊は斧槍(トマホーク)で味方の兵の頭蓋骨を叩き折り、人形兵を胴体から叩き折って行った。

明らかに、敵の最精鋭の部隊だ。

私が離れれば、犠牲が増えるのは明白だった。

 

 

「ぐ・・・!」

 

 

私が逡巡している間に、もう一体の鬼神兵がリュケスティスのいる防御陣地上空を通過し、新オスティアの手前にまで到達していた。

アリアドネーの兵が対応しているのが見えるが、どうなるかわからん。

あくまで、警備用の戦力しか持って来ていないだろうしな。

 

 

苦渋の末、私は懐からあるブレスレットを取り出した。

それは『妖精の腕輪』と言う名の魔法具―――麻帆良にいた頃から持っている―――で、中に物を収納できる能力を持っている。

 

 

「プットアウト・・・『バルトアンデルスの剣』!」

 

 

斬った物を変質させる1m程の西洋剣が、私の手の中に収まる。

ただしこれは、目の前の敵を斬るために取り出したわけじゃない。

私はそれを振りかぶると、勢い良く自分の影の中に投げ入れた。

 

 

「・・・受け取れ、バカ鬼いいぃ―――――!!」

 

 

新オスティアの街にいる、おそらく唯一鬼神兵に対抗できる男に向けて、私はその剣を転移させた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「総員、退避――――――――ッ!」

 

 

騎士団の小隊長の一人がそう叫んだ瞬間、防御用の障壁を突き破って、大きな鬼みたいなのが突っ込んできました。

ガラスの割れるような音が響いて、私達のいるオスティア自然公園に鬼が降り立ちます。

 

 

オオオオォオォォオオオォォオオンッ!!

 

 

その鬼さんが鳴くと、鼓膜が破れるんじゃないかってくらいの衝撃が走りました。

甲冑越しにも聞こえる、この音・・・!

 

 

「でかっ・・・は、初めて見た! 連合の鬼神兵!」

「しかも、完全装備!」

「鬼神兵が飛べるなんて、聞いてませんわよ!」

 

 

コレットさん達が騒ぐ中、周囲の騎士団の先輩達は素早く隊列を組みます。

私達も何か・・・と思うんだけど。

 

 

「見習いは引っ込んでろ!」

 

 

そう言われて、空に退避するように言われました。

口調は厳しいけれど、私達を死なせないようにしてくれたんだと思います。

実際、私達は荷運びとか伝令とか、後は避難所の管理くらいしかしていないわけだし。

今も、フォン・カッツェさんとデュ・シャさんは避難所の方にいます。

 

 

私達はたまたま、物資の移動に駆り出されていただけで・・・!

その時、鬼神兵とか言うその鬼が、持っていた大きな剣を横薙ぎに振るいました。

 

 

ゴガンッ、と大きな音を立てて、地面が抉り取られました。

そこにいた騎士の人が、何人か吹き飛ばされます。

空に上がろうとしていた私達も、それに巻き込まれます。

直撃じゃ無くて、余波で吹き飛ばされる。

 

 

「ひるむな!!」

 

 

土埃が舞う中で、隊長格の騎士の人の声だけが聞こえます。

その声は必死で、どこか恐怖の感情すら感じられました。

 

 

「市街地には絶対に、行かせるな!!」

 

 

自然公園を出た所には、もう市街地が広がっています。

市街地の中にはもちろん、避難所だってある。

行かせるわけには・・・!

 

 

「『風よ(ウェンテ)』!」

 

 

コレットさんの声がどこかから響いて、砂埃の大部分が吹き払われます。

今、どんな状況で・・・。

 

 

「サヨさん!」

「・・・『氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)』!」

 

 

ビーさんの声と、委員長さんの魔法が放たれる気配。

倒れていた状態から身を起こすと、それ以上の気配を頭上に感じました。

 

 

そこに見えたのは、大きな足の裏。

鬼神兵の足の、裏です。それが視界一杯に広がっています。

私の周りにはたくさんの騎士が倒れていて、でも足が。

踏み潰すつもりでは無くて、ただ歩いてたら蟻がいた・・・みたいな。

 

 

そんな、状況で。

色々な考えが、高速で脳裏を駆け抜ける。

受け止める? 無理。避ける? 他の人はどうする? じゃあやっぱり受け止め・・・無理。

じゃあ逃げ・・・死に・・・。

 

 

――――死ねるか!

生きて帰るんだ、皆の・・・皆の所へ!

 

 

「『闇の(ニウィス・テンペスタース)・・・吹雪(・オブスクランス)』!!」

 

 

撃てた、無詠唱で!

闇と雪のその竜巻は、鬼神兵の足の裏に直撃した。

直撃して・・・何の意味も成さなかった。

無詠唱だったからか、それともそもそも私の魔法が弱いのか、何の効果も無かった。

 

 

「サヨ!」

 

 

コレットさんが、箒を駆って凄いスピードで近付いてくる。

けど、鬼神兵の影が私を・・・。

反射的に、目を閉じた。

 

 

 

  <できればそのまま、目を閉じていて欲しいぞ>

 

 

 

聞き覚えのある声が、私の耳朶を打ちました。

そして同時に、不思議に思った。

どうして、私はまだ潰されていないんだろう・・・?

 

 

  <お前、もう終わり。宿儺(スクナ)の腕は何も逃さない>

 

  <全てを連れて行く四本の腕>

 

  <二枚の顔は正と邪、善と悪、過去と未来、お前の全てを見つめてる>

 

  <さぁ、怖がらなくて良い>

 

  <宿儺(スクナ)が今から、お前の全てを暴きに行くから>

 

 

どうしてその声は、こんなにも、遠くから聞こえるんだろう・・・?

その時、細い腕が私を抱きあげて、空へと飛ぶのを感じました。

 

 

「げげっ・・・何アレ鬼神兵? 私ですらあんなタイプ知らないんだけど・・・!」

「サヨさんは無事ですの!?」

「・・・帝国でも連合でも無い、4本腕の鬼神兵・・・」

 

 

コレットさん達の声。

だけど、私はまだ目を開いていません。

開きたいけど、開いてはいけないような。

そんな気がするんです。

 

 

そして同じくらい、見なければいけない気がするんです。

だから私は、閉じていた目を・・・。

 

 

・・・すーちゃん。

 

 

 

 

 

Side コレット

 

この間読んだ娯楽小説(ライトノベル)に、「あり得ないことなんてあり得ない」って書いてあったけど、本当だったね!

 

 

「って言うか、あんな鬼神兵知らないんだけど! どこの新種!?」

「軍隊オタクのコレットさんでも知らないなんて・・・」

「オタク言うな!」

 

 

近くに寄って来た委員長にそう言い返しながら、上空を旋回する。

私達の眼下では何と言うか、もう、怪獣大決戦?

まぁ、そうは言ってもどっちが優勢かは見ただけでわかるけど。

 

 

完全武装とは言え、全長20mくらいの連合鬼神兵。

一方で、60mはある二面四手の鬼神兵・・・と言うか、鬼神兵じゃないでしょ!

感じる魔力が、半端無いもん。

 

 

オオオオォォオオオオォオオォオンッ!

 

 

連合の鬼神兵が鳴く。

すると、顔が二つある鬼神兵の4つの目に、光が灯った。

 

 

グウゥオオオオォォオオオォオォオォオオオオオォオォッッ!!

 

 

二つの口が、同じ声で啼いた。

それは連合の鬼神兵の比じゃなくて、空間その物が割れるんじゃないかってくらい。

気を張ってなければ、私達も空から落ちてた。

 

 

連合の鬼神兵が、持っていた剣で殴りかかる。

どう言う理屈かわからないけど、二面の鬼神兵の肌に触れた瞬間、砕けた。

連合の鬼神兵が口を開けて、魔力砲を撃った。

でもそれも、弾かれて消える。

 

 

・・・え、連合の鬼神兵が全く歯が立たないんですけど・・・。

 

 

「何だ・・・あの化物は!?」

 

 

連合の鬼神兵の攻撃範囲外に退避して体勢を立て直したらしい騎士団のお姉様方も、驚いた声でそう言う。

あ、プロの目から見ても化物なんだ、アレ。

良かった、私は正常・・・。

 

 

「敵か!?」

「・・・違います!」

 

 

私の腕の中のサヨが、反射的に叫び返した。

眼下の状況を見つめながら、サヨは言う。

 

 

「アレは・・・あの人は、敵じゃないです!」

「人!?」

「敵では無いなら、何だ!?」

「それは・・・」

 

 

サヨは困ったように眉根を寄せて、言葉を探した後。

 

 

「アレは、旧世界の神様です!」

「・・・サヨ、大丈夫?」

「頭がおかしくなったわけじゃなくてって、酷いですコレットさん!」

 

 

ご、ごめん。

言わなくちゃいけない気がして。

 

 

「アレは、すーちゃんです!」

「すーちゃ・・・嘘ぉ!?」

「何だ、話が見えんぞ! 旧世界には『すーちゃん』とか言う神がいるのか!?」

「いえ、そうじゃなくて・・・!」

 

 

すーちゃんって、え、じゃあアレ、サヨの彼氏!?

嘘ぉ・・・って言うか、嘘ぉ!?

身長、かなり伸びて無い!?

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「新オスティアに巨大な魔力反応!」

 

 

アリアさんの艦隊の中央部に突入を初めて、しばらく経った時だった。

オペレーターの人の声が、艦橋に響いた。

 

 

「巨大とはどの程度ですか。具体的に言いなさい」

「し、失礼しましたっ・・・クラスAAA以上、鬼神兵の魔力総量のに、2倍!」

 

 

エルザさんの言葉に、オペレーターの人が強張った声で答える。

 

 

クラスAAA!

タカミチが確か、AA+ってクラスだって聞いたことがある。

魔法世界の雑誌に載って・・・じゃなくて!

タカミチより強いの!?

 

 

「スクリーンに出します!」

 

 

おお・・・!

『ナギ』の艦橋のスクリーンに映ったのは、新オスティアの映像。

望遠だからか、ちょっと見にくいけど。

そこには確かに、鬼神兵って言う大きな鬼と、そしてそれ以上に大きな鬼。

 

 

「全長およそ60m・・・二面四手の鬼神兵なんて、そんな種類は存在しません!」

「・・・構うことはありません。我らはその間に、敵を突破します。所詮陸軍など陽動・・・」

 

 

・・・あの鬼、どこかで。

確か・・・そう、確か、日本の。

 

 

『もすもすひねもす~♪』

 

 

その時、『ナギ』のスクリーンが突然切り変わった。

新オスティアの映像だけでなく、戦況や敵味方の位置を示すレーダーにまで、同じ物が映ってる。

緑色のツインテールの女の子が、そこに映っていた。

 

 

『皆のアイドル、ミクちゃんで~す☆』

 

 

キュピンッ、と片目の前でピースサインをしながら、ポーズをとる女の子。

えっと・・・ミク?

 

 

「な・・・何だコレは!?」

「船体内の機器制御用の電子精霊が活動を停止!」

「予備の制御装置に切り替えろ!」

「・・・ダメです、受け付けません!」

 

 

艦橋の人達が、凄く慌てた会話を交わしてる。

画面の中の女の子は、「むーふふー」と笑って。

 

 

『ざーんねーんですが。まいますたーが高速タイピングに成功してしまいましたのでー』

「何ですか、貴女! お父様の邪魔を・・・」

『知りませーん、ではでは、ばははい♪』

 

 

ブツン、と画面が消えて、真っ暗になった。

そして、何が何だかわからない内に・・・。

 

 

『ナギ』の船体が、大きく揺れた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

艦隊戦が始まって3時間が経とうとした頃、事態が急変しました。

敵艦隊の動きが、急に乱れたのです。

 

 

これまで、敵艦隊は見事な密集隊形で再三の突撃を繰り返してきて、中央突破を試みていました。

あまりに中央部への負担が大きいので、一時は衝き崩される寸前まで行きました。

特に『ブリュンヒルデ』周辺への砲火は激しく、護衛艦隊も半数が撃沈するか大破しています。

中央艦隊のレミーナ中将は精霊砲の斉射で壁を作りつつ、苦心して所定の位置まで下がろうとしていました。そしてその間にも、犠牲は増え続けていましたが・・・。

 

 

ある艦は複数の砲撃に艦体を裂かれ、ある艦は中破した艦体を戦闘区域外までよろめかせて、そこで爆発して果てました。

もちろん、提督達も兵士たちもやられっぱなしでは無く、敵艦隊にしたたかに損害を与えています。

ただし比率では無く、絶対数で互角の数の相手に。

 

 

そして補給担当の士官からの報告書を読んでいたクルトおじ様が、顔を顰めた頃・・・。

 

 

『反撃作戦、スタートしてください!』

 

 

左耳の支援魔導機械(デバイス)から、ミクの声が響きました。

見れば、スクリーンの中の敵艦隊の動きが鈍化し、砲火が緩やかになっています。

私は、ズダンッ、と指揮シートの肘置きに拳を叩きつけて、叫びます。

 

 

「反撃開始! 全軍後退をやめて、前進しなさい!」

 

 

実際、これ以上後退すれば新オスティアに近付き過ぎてしまいます。

艦長が私の言葉を繰り返し、通信を通じて中央・護衛艦隊の残存艦艇に伝わります。

反撃。

それは、窮地にある軍隊にとって、魔法の言葉です。

 

 

数十の精霊砲と数百の副砲が火を噴き、敵艦隊の先頭集団に突き刺さります。

炸裂する爆発と精霊炉の光は、まるで血しぶきのように空中に舞います。

先程まで私達の仲間がそうであったように、今度は敵の艦体が爆散し、飛散します。

 

 

『ブリュンヒルデ』の、いえ中央・護衛艦隊の通信回線に、歓声が響き渡ります。

もちろん、一撃では終わりません。

 

 

「全艦、主砲3連! しかる後に両翼の艦隊と連携して、突撃! 思い知らせてやりなさい!」

 

 

激情のままに叫ぶと、その通りになりました。

千に届く砲火が敵の戦列の一部を突き崩し、敵艦を火球に変えます。

それに、私は心地良さすら感じていました。

私の仲間を、部下を欲しいままに蹂躙していた相手を、逆に蹂躙できる快感。

 

 

私は・・・。

その時、ぽふんっと、私の膝に何かが乗りました。

それは、カムイさんの頭でした。

 

 

「え・・・」

「アリア先生」

 

 

さらに、茶々丸さんが声をかけてきます。

その後、何かを続けたりはしませんでしたが、カムイさんと一緒に、じーっと見つめてきます。

その目が、どこか哀しそうで・・・。

 

 

「・・・ぁ」

 

 

小さな声を上げて、私はシートに深く座り直しました。

急に、恥ずかしくなってしまいました。

色々な、意味で。

片手でカムイさんを撫でながら俯いて、そのまま黙りこみます。

・・・少し、興奮しすぎたようです。

 

 

それにしても、「仲間」ですか。

・・・「身内」とまでは行きませんが、「他人」では無くなったのかもしれません。

 

 

 

 

 

Side エルザ

 

お父様がネギに贈った戦艦『ナギ』の周辺の配した巡航艦6隻が、一瞬の内に爆散しました。

通信が妨害されて艦隊の陣形が乱れた所に、敵の集中砲火を浴びたのです。

・・・情けない、無様ですね。

お父様の与えた役割すら果たせないとは。

 

 

これだから、人間は使い物にならないのです。

やはり、お父様の望み通りに動けるのは私だけ・・・。

 

 

「大丈夫です、ネギ。私が貴方を無事に台座まで連れて行きます」

「でも、皆が!」

「彼らにも、覚悟はあります。世界を守るために死ぬ覚悟が」

 

 

そして、お父様のために死ぬ覚悟が。

もし無いと言うのなら、私が今すぐ殺しに行きましょう。

ああ、でもその間にあのミヤザキノドカがネギに余計なことを吹き込んでも困ります。

お父様が困ります。

 

 

あの娘は、きっと全てを知っているから。

厄介な小娘、できるなら今すぐに腸(はらわた)を引きずり出してやるのに。

でもお父様に叱られてしまうから、まだ殺さない。

役に立つ内は。

 

 

「敵に、包囲されています!」

 

 

オペレーターの愚図が、情けない声を上げます。

どうにか外の映像を映せるまでに回復したスクリーンを見れば、確かに包囲されています。

 

 

正面には、銀髪の小娘の艦隊。

左からは、猛然と迫る敵の右翼艦隊。

右からは、整然と砲撃を加えてくる敵の左翼艦隊。

 

 

「下からも!?」

 

 

うるさい愚図だ、永遠に黙らせてやろうか。

下の映像を映せば、10隻ほどの潜空艦が雷撃を加えて来ています。

これで、4方向から攻撃されていることになります。

 

 

でも、それがどうしたと言うのでしょう。

関係無い、全員お父様のために働き、死ぬべきなのです。

勝利する必要も生き残る必要も無い。

 

 

「撤退することは許しません! 勝手に撤退する艦は、『ナギ』の主砲で撃ち落としなさい!」

「エルザさん!?」

「ネギ、私達は世界を救うために戦っているのです。そこから逃げ出すなど、裏切りでしかありません。そのような行為を、立派な魔法使い(マギステル・マギ)は見逃すでしょうか」

「え、う・・・でも、マギステル・マギは、弱い人を守るための」

「弱き者を守るための戦いから逃げ出すなど、あってはなりません!」

 

 

ガンッ、と床を踏み鳴らし、ネギの言葉を遮って、私は叫びました。

 

 

「さぁ、突撃です! 悪しき銀髪の小娘の手を払いのけて、旧王都へ向かいなさい!」

「エルザさ」

 

 

私の言葉に、ネギが何かを言おうとした時。

『ナギ』の艦橋に、これまで感じたことも無いような衝撃が走りました。

同時に、強い魔力。この、魔力・・・!

 

 

「せ、船体に巨大な石の柱が!」

「い、石の柱!?」

 

 

愚図共が騒ぐ中、私はネギの身体を支えながら、スクリーンの向こう側を睨む。

そこには今まさに、幾本もの巨大な石の槍が艦内部から突き刺さる瞬間が見えました。

それを見たネギが、驚いたように声を上げます。

 

 

「い、いったい何が起こったの!?」

「・・・この感覚、この攻撃・・・」

 

 

ゲートでの邂逅を、思い出す。

そう・・・私の、お父様の邪魔をするの。

 

 

「テルティウム・・・!」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

不思議な感覚がする。

砲火を潜り抜けながら、僕は頭の片隅がチリチリと痛むのを感じている。

この、懐かしいような感覚は何だ?

どこかで、感じたことがあるような・・・。

 

 

僕は今、上空高くに展開する艦隊の、さらにその上にいる。

暦君達には、離れるように言っておいた。

戦災孤児の彼女達には、戦場は厳しいだろうからね。

 

 

「ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

始動キーを唱え、眼下の公国・連合の艦隊に照準を合わせる。

・・・でもさらにその下の潜空艦には当てないようにしなくちゃいけないね。

怒られてしまう・・・誰にだろう?

 

 

おお(オー・)地の底に眠る(タルタローイ・ケイメノン・)死者の宮殿(バシレイオン・ネクローン)・・・」

 

 

僕の周囲に、直径数m、全長十数mの巨大な石柱が10本、発生した。

それらは重力に従って、それでいて制御されて下に落ちる。

公国・連合の艦隊の上に。

 

 

「『冥府の(ホ・モノリートス・キオーン)石柱(・トゥ・ハイドゥ)』」

 

 

ゴシャッ・・・と、何かがヘシ折れるような音と共に、衝突した艦が潰れ、折れ、そして爆発した。

・・・前大戦で、ジャック・ラカンは137隻の軍艦を沈めたと聞く。

聞いた時は、大して何かを思ったりはしなかったけれど。

やってみると、意外と骨が折れるね。

 

 

今ので、30隻程の駆逐艦や輸送艦を沈めたと思うけど。

その時、やけに大きな戦艦が、他の艦を引き摺るようにして突出してきた。

確か、調君の事前調査によると、『ナギ』とか言う・・・ネーミングはどうかと思うけど。

ネギ・スプリングフィールドが乗っているのだと言う、戦艦。

周囲の王国の艦隊が砲火を浴びせかけるけど、損傷はしても止まらない。

・・・頑なだね。

 

 

「・・・『千刃黒曜剣』・・・」

 

 

右手をその戦艦に向けて掲げると、僕の周囲に漆黒の剣の魔装兵具が出現する。

名前の通り、千本の漆黒の剣。

 

 

「・・・行け」

 

 

僕の言葉と同時に、千本の剣が疾走する。

無抵抗の敵艦を嬲ると言うのは、あまり気が乗らないけど。

それは、傍目には巨像に群がる蟻の群れにでも見えたかもしれない。

けれど、それらは確実に巨大な戦艦の艦体に突き刺さって行く。

 

 

そのまま貫通し、切断し、無機質な艦体を切り刻んで行った。

それはまさに・・・蹂躙、だった。

 

 

「・・・さようなら、ネギ・スプリングフィールド」

 

 

僕は、その艦に乗っているであろうネギ・スプリングフィールドの名前を呼んだ。

次の瞬間、戦艦の後部がいくつもの小爆発を起こし、明らかに高度を下げて・・・。

 

 

新オスティアに届くことも無く、雲海の下に消えて行った。

 

 

 

 

 

Side 墓所の主

 

この時を、待っていた。

2000年前、この世界を彼と、そしてシアと創った時から。

いや、少し違うの。

・・・創らされた時から、じゃな。

 

 

「来たポヨな」

「ああ」

 

 

魔族の友に、そう答える。

雲海の上で堕ちた艦は、その下の濃厚な魔力によって精霊炉を再活性化させられる。

爆散した物はどうにもならんが、墜落した物は障壁が生きておるじゃろう。

なら、彼奴はここに来るじゃろうよ。

 

 

魔力の対流により、ここオスティアには巨大な魔力溜まりが発生しておる。

11か所のゲートを壊し、ここオスティアのゲートに全ての魔力を集めるため。

 

 

「結局、4番目(クゥァルトゥム)は起こせずかの、デュナミス」

「ああ、やはり<鍵>がいるな」

「そうか・・・」

 

 

20年前には10万人を越した「完全なる世界」も、今やデュナミス一人。

寂寥を感じざるを得んの。

まぁ、それも・・・この世界の運命が決まるまでの役目じゃ。

 

 

そのためにこそ、作った組織じゃからな。

世界の、守護者達。

 

 

「<鍵>の封印はもうすぐ解ける。我が末裔が姫御子を連れて来るからの」

 

 

ブゥン・・・と、「墓守り人の宮殿」外縁部の映像を出す。

するとそこには半分になった巨大艦と、そこから脱出する人間達が映っておった。

 

 

その中に、赤毛の少年と、黒髪の少女。

そして赤毛の少年に背負われた姫御子と、もう一人、旧世界人の黒髪の少女。

その4人の後ろに、ゾロゾロと余分な人間がおるが、まぁ良い。

どうせ辿り着けるのは、数えるほどじゃ。

 

 

「どうする、主よ。このまま受け入れるのか」

「そうじゃの、とりあえず資格は満たしておる。我が血脈、姫御子、そしてアーウェルンクス・・・」

 

 

私の目には、いささか歪な術式を組み込まれておるが、しかしそれでも間違いなく、黒髪のアーウェルンクスが映っておる。

身体が多少変わっておるが、私の目を誤魔化すことはできぬ。

核が見えておるからの。

 

 

久しいの、2番目(セクンドゥム)

随分と、様子が変わっておるようだが・・・。

 

 

「・・・まぁ、良い。とりあえずは受け入れようぞ」

 

 

友とデュナミスに語りかけながら、私は言う。

我が末裔の内、兄の方が先に来た。

 

 

「そして・・・この世界の運命が今日、決まる」

 

 

・・・さぁ、神よ、待たせたな。

決着の時が、来たぞ。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

開戦から、6時間!

流石の私も、そろそろキツくなってきた。

アレからさらにもう一匹の鬼神兵を屠ったし、何よりも。

 

 

「「「「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の50矢(ルーキス)』!」」」」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の1001矢(グラキアーリス)』!!」

 

 

10数人の人間が、同時に50本の魔法の矢を放つ。

それに対抗して、私が1000を超える矢を放つが、直接に私を狙わない何本かは逸れる。

逸れた矢は、私から少し離れた位置にいるウェスペルタティア兵に当たる。

・・・ええい! 意図的に乱戦にされて、大技が使えん!

 

 

私が味方兵ごと敵を倒せばアリアの立場が悪くなる、面倒だな、畜生!

キキュンッ・・・と残りの人形兵を操作して、劣勢にある味方兵を援護する。

 

 

「ガハハハハッ、<闇の福音>とはその程度の物か!」

「ちぃっ・・・ウドの大木が!」

 

 

ホル何とかという奴の重装歩兵部隊が、特に鬱陶しい。

流石に本国の精鋭だ、他の連合兵とは錬度が違う。

私はともかく、消耗した他の一般兵では厳しいだろう。

乱戦の中、オーギスともはぐれてしまったしな。

 

 

そして実際、戦況も悪くなってきている。

少しずつ押し込まれて、ジリジリと戦線が下がっているからだ。

防御陣の方も、見る限り芳しく無い。

とうとう、塹壕の中にまで敵兵の侵入を許しているようだし・・・。

 

 

「マクダウェル殿ぉ!」

「・・・何だ、小隊長!」

 

 

戦いの最中、私の傍で戦っていた部隊の隊長が、私に声をかけてきた。

最初の頃に比べて数は減ったが、まだ戦闘力は残している。

私がいなければ、もっと早くにやられていただろうがな。

 

 

「私は忙しい、手短に話せ!」

「大魔法を撃ってください!」

「・・・ああ!? バカかお前、撃てるわけ無いだろ!」

 

 

例えば、ここで『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』でも撃とう物なら、周囲の敵味方は全滅させることができるだろう。

だが、味方に当てるわけにもいかない。

そんなことは、巻き込まれる側が一番良くわかっているだろうに。

 

 

「大魔法を撃てば、お前らが巻き込まれる!」

「良いんです!!」

「はぁ!?」

「俺達ごと、ぶっとばしてください!」

 

 

な、何を言ってる!?

 

 

「俺達ごと、奴らを吹っ飛ばしてください! ここはオスティア、そう、オスティアなんですよ!! じゃあ、仕方が無いじゃないですか!!」

 

 

血を吐くような叫びだった。

・・・バカかこいつら、アリアの命令を聞いていなかったのか・・・!

・・・くそっ!

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

 

 

キィンッ・・・と右腕に魔力を集中せると、周りのウェスペルタティア兵が表情を引き締める。

・・・バカ共が!

次の瞬間、私は自分の影の中に沈んだ。

周囲の驚きの声を耳にしながら、向かう先はすぐ傍だ。

 

 

ホル何とか言う、敵将の影。

影を使った短距離転移で、奴の足元から出現、右腕を突き出す。

撃てるわけが無い。ならこいつを倒・・・!

 

 

「温いわぁっ!!」

「・・・が、かっは・・・っ!」

 

 

背中に、灼熱感。

重い金属の刃―――斧槍(トマホーク)が打ち付けられる、痛み。

激痛が身体を走り抜ける。

なるほど、この筋肉達磨は優秀な戦士のようだ。

 

 

私の転移の兆候を見抜き、先に攻撃するほどには。

私が人間だったら、お前の勝ちだったろうよ。

 

 

「ぬ!?」

 

 

ボフンッ、と音を立てて、私の身体が無数の蝙蝠に別れる。

数秒後には、健康体その物の私が、奴の背後に現れる。

がしっ・・・鎧越しに、頭を掴む。

私は・・・。

 

 

「・・・不死の、魔法使いさ」

「しまっ」

「『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』!」

 

 

ズンッ・・・感触が腕に伝わる。

私の魔力の剣は、ホル何とか言う敵将の首を刎ねた。

鈍い音を立てて、首が地面に首が転がる。

 

 

呆然とする敵兵に対し、私は胸を張り、昂然と宣言した。

敵将の亡骸を片足で踏みつけながら。

 

 

「敵将は、この<闇の福音>が討ち取った!!」

 

 

敵兵が同様にざわめき、味方が歓声を上げかけた、その時だった。

空・・・戦場の空に、無数の軍艦が現れたのは。

それは、遥か遠くで艦隊戦を演じているはずの王国艦隊の物だった。

クッ・・・自然、口元が緩む。

 

 

低空に展開する艦隊の中に、白銀に煌めく艦を見つける。

勝利が、手の届く範囲に来たことを、私達は知った。

 

 

 

 

 

Side ムミウス

 

敵艦隊来襲の報は、数分でもたらされた。

だが、報告の必要は無かったのだ。

司令部からでも、50隻前後の敵艦が見えているのだから。

 

 

「な、なぜアレだけの艦隊が・・・!」

「味方の艦隊は、どうなったのだ!?」

 

 

幕僚達が恐怖を隠そうともせずに囁き合っている。

だが、答えは全員が知っている。

 

 

破れたのだ、我が艦隊が。

だが、何故だ? 敵より30隻近く戦闘艦艇が多い我が艦隊が、何故破れる。

不利だとしても、守りに徹していれば負けることはなかったはずだ。

よほど、よほど不味い指揮を執らなければ、勝てないまでも敗北するなど。

 

 

だが、今の私には考察よりも先にしなければならないことがあった。

 

 

「全軍、離脱しろぉ―――――――!!」

 

 

撤退。私の脳裏にはその言葉しか無かった。

何故なら、これから何が起こるかが分かっていたからだ。

 

 

降伏はできない、それは相手にもわかっているはずだ。

しかし私の命令が全軍に伝わる前に、敵艦隊の精霊砲が火を噴いた。

ウェスペルタティア兵の展開していない左翼と後方部隊に、それは集中していた。

見事だ、私が敵でも同じポイントに撃つだろう。

 

 

「第2騎兵大隊、壊滅しつつあり!」

「第4、第5砲兵中隊、全滅!」

「アラブス将軍、戦死―――――!」

「第4歩兵大隊と第12魔導兵中隊より、救援要請!」

 

 

そして、たったそれだけで我が軍は壊乱状態に陥っていた。

当然だ・・・陸軍が艦隊に勝てるはずが無い。

それこそ、紅き翼クラスの魔法使いでもいない限りは。

 

 

私は残存の兵力を再編し、どうにかして秩序ある撤退を試みようとしたが、これが至難の技だった。

何せ、敵の防御陣から大規模攻撃魔法が3つ、しかも3連続で放たれ、加えて亀の子のように閉じこもっていた敵の陸軍が、逆襲に転じていたからだ。

敵の反撃を止めつつ、撤退しなければならない。

 

 

「撤退だ、撤退しろ、急げ!」

 

 

全軍、全部隊に通信をかけて、私は叫んだ。

これ以上の戦闘継続は不可能だ。

 

 

「総司令官は、どうなさるのですか!?」

「・・・我が直属部隊は最後衛にあって、味方の退却を援護する!」

「り、了解!」

 

 

潰走する我が軍の中で唯一、私の直属部隊だけが敵に対し魔法を放ち、味方のための細い退路を確保している。

しかしそれも、いつまで保つかわからん。

正直、いつまでも・・・。

だがこれも、最高指揮官としての義務だ。

少なくとも、私はそう思っている。一人でも多くの味方を逃がす。

 

 

それでも、10分程は保たせただろうか。

敵の防御陣地から放たれた10発目の大規模攻撃魔法が、私のいる司令部を

 

 

 

 

 

Side アリア

 

敵艦隊を撃破して、1時間後。

残存の王国艦隊戦闘艦艇52隻が、敵陸軍への爆撃を行いました。

精霊砲の一斉射撃一回で、戦況が変わりました。

敵はもはや秩序ある抵抗もできずに、ただ逃げています。

 

 

スクリーンに映る凄惨な光景に、艦橋は奇妙な沈黙に包まれていました。

その中で一人、クルトおじ様だけがことさら大きな咳払いをしました。

 

 

「失礼ながら、陛下。これは戦闘とは呼べません、一方的な虐殺と言うべきかと」

「・・・そうですね、その通りです」

 

 

先程の茶々丸さんやカムイさんの目を思い出して、私は言いました。

報告によれば、組織的な抵抗はすでに無いそうですし。

 

 

『アリア、私は下がる。逃げる敵を背後から討つ気は無い』

 

 

その時、カードを通じてエヴァさんの声が聞こえました。

エヴァさんにしてみれば、逃げまどう敵を追い討つようなマネはできない、と言うことでしょう。

どうもそれは、エヴァさんだけの感情でも無いようで・・・。

 

 

「・・・逃げる敵は、そのまま逃がしてあげてください。降伏する者には相応の対応を」

仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)

「・・・では、何かあれば呼んでください。少し休みます」

「ははっ」

 

 

この対応でまた色々と問題は出てくるでしょうが、そこは専門家に任せます。

・・・とりあえずは、終わりですか。

私は指揮シートから立ち上がると、そのまま艦橋を出ます。

流石に、少し疲れましたしね。

 

 

私の後には、茶々丸さんと田中さん、あとカムイさんがついてきてくれます。

・・・まぁ、いつも通りですね。

 

 

「・・・ネギは・・・」

 

 

特に他意も無く、ポツリと呟きます。

 

 

「ネギは、どうなりましたかね・・・?」

「・・・ネギ先生が乗っていたと思わしき戦艦は、撃沈を確認されております」

「そうですね・・・」

 

 

見間違えるはずも無い。

アレは昨日、ネギが戻って行った戦艦でした。

そしてそれを沈めたのは、実質的には・・・。

 

 

「・・・まぁ、別にどうでも良いことですが」

 

 

ネギがどうなろうと、例え死のうと。

仮に生きていたとしても、どうでも、ね・・・もう兄ですら無いし。

・・・アーニャさんとか、怒るかな。

 

 

「アリア先生」

 

 

今日、2回目の茶々丸さんのその声音。

哀しそうな声。

どんな顔をしているのかは、見なくてもわかります。

・・・茶々丸さんは怒鳴らないので、かえってキツいんですよね・・・。

 

 

私がとても悪いことをしている、言っていると。

自分で、そう思ってしまう程に。

 

 

「少し、寝ます」

「・・・お休みなさいませ」

「見張リニ立チマス」

 

 

茶々丸さんと田中さんと入口で別れて、私室に入ります。

いつもは一緒に入るカムイさんも、今回は入って来ませんでした。

少し不思議に思いながらも扉を閉めて、部屋の明かりを探します。

薄暗いので・・・。

 

 

「・・・やぁ、アリア」

 

 

・・・ぴたり。

私の身体が、動きを止めました。

扉の陰にいたのか、あるいは今来たのかは知りませんが。

そこに、彼がいました。

 

 

一旦眼を閉じて、息を吐きます。

・・・眼を開いて、振り向きます。そして・・・。

 

 

   ポタッ

 

 

「・・・どうしたの」

「・・・さぁ、わかりません」

 

 

問いかけに、私は平坦に答えます。

 

 

   ポタッ タタタッ

 

 

両頬に、温かな液体が流れるのを感じます。

視界が歪んで、目の前の彼の姿を正しく見ることができません。

 

 

「・・・どうして、泣いてるの?」

「・・・わかりません」

 

 

声は、震えていません。

ただ涙が溢れて、止まらないんです。

これは、何の涙でしょう?

 

 

人がたくさん、私のせいで死んだから?

彼が・・・フェイトさんが来たから?

どちらも正解のようで、でも違う気がします。

 

 

「・・・泣かないで、アリア」

 

 

そっ・・・とフェイトさんの手が、私の頬に触れます。

眼を閉じると・・・フェイトさんの手の甲の感触を、感じることができます。

 

 

「キミが泣いていると・・・僕も『悲しい』よ」

 

 

悲しい・・・フェイトさんが、悲しい。

またこの人は、どこか変わったような・・・。

 

 

「・・・そうですか」

「うん、そう」

「・・・そう、です、か・・・」

 

 

フェイトさんの手を両手で握って、顔を押し付ける。

それ以降は、上手く喋れませんでした。

 

 

でも私は、不意に気が付きました。

フェイトさんが現れた経緯を、思い出して、気付きました。

私は・・・。

 

 

私は、ネギのことが嫌いでした。

面倒な性格だし、人の話聞かないし、意味も無くファザコンだし、村の人のこと全然気にしてないし。

麻帆良では一回、半殺・・・3分の2殺しにしてしまいましたし。

あんまり、交流も無かったし・・・アーニャさん曰く「仮面兄妹」でしたし。

・・・でも。

 

 

 

『プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)~!(シャランッ☆)』

『おお~・・・』

『い、今何か出たよねアリア!』

『ええ、出ました。さすがネギ兄様です』

『えへへ・・・』

 

 

 

でも、最初から嫌いだったわけでも、なかった。

嫌ってはいても、憎悪はしていなかったと、思う。

・・・何だ。

 

 

私、ネギのために泣けたんだ・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

組織だった戦闘が終わって1時間程して、私の下に概算の損害報告がもたらされました。

先程、補給担当が「限界です」と書いたメモを寄越した時以上に、芳しくない気分になります。

 

 

この戦いはウェスペルタティア王国の今後のためには、避けては通れない物でした。

しかしそうは言っても、これ程の損害・・・。

負傷者は、治癒術師達に超過勤務を土下座して頼めば数日で復帰できます。

ですが戦死者は、そうはいきません。

 

 

「・・・財政官僚がヒステリーを起こす姿が、簡単に想像できますね・・・」

 

 

すでに失われた費用と、これから失われる費用―――戦死者遺族への一時金と年金、艦艇修復費用や避難民の帰還費用など―――を思うと、頭が痛くなりますね。

一刻も早く叛乱した貴族共の財産を没収する必要がありますが、それをするにも軍事行動が必要。

つまり、お金がさらにかかります。

 

 

とりあえずは、新オスティアの国営銀行にある叛乱貴族達の口座を即時凍結、首都の屋敷などを押さえて資金を捻り出しますか・・・。

それでも無理なら、借金ですかね・・・将来の勝利を担保に。

ですが借主の内政干渉を許すような、それこそ投機の都合で国が左右されてもつまりませんしね。

・・・まぁ、なんとかしましょう。

これもアリカ様のため、アリア様のため、王国の同胞のため・・・。

 

 

「宰相代理、新オスティアより通信です」

「繋いでください」

 

 

私の言葉に頷くと、艦長は通信を繋ぐよう指示しました。

 

 

『クルト宰相代理!』

「おや、従卒の少年じゃないですか」

『名前呼んでください! じゃなくて、異常事態です!』

「おや、穏やかではありませんねぇ。どうしたのです?」

 

 

意図的に軽い調子で言ったのですが、従卒の少年は固い表情のまま。

・・・これはどうやら、本当に不味い事態のようですね。

 

 

『新オスティア・・・いえ、旧王都のゲートポート周辺に、巨大な魔力溜まりが発生しています!』

「何ですって・・・・・・む!?」

 

 

その時、『ブリュンヒルデ』の後方から、凄まじい衝撃が走り抜けました。

艦内が激しく揺れ、乗員が手近な物を掴んでバランスをとります。

次いで、艦橋の計測機器が立て続けに警戒警報(アラート)を鳴らし始めました。

・・・これは!?

 

 

『「墓守り人の宮殿」が、浮上します!』

「何ですって!?」

 

 

スクリーン上に転送されてくるデータに、私は驚きを隠せませんでした。

冷たい汗が、背中を伝います。

観測される魔力総量は・・・まさか。

20年前の・・・だとすれば、コレは。

 

 

コレは、世界の危機です・・・!

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

後世の歴史家は言う。

 

 

10月11日、午後16時19分。

<ウェスペルタティア戦役>の緒戦、後に<新オスティア紛争>と呼称される戦いは終結した。

後の記録によれば、双方の損害は以下のような物であったとされている。

 

ウェスペルタティア王国軍の参加兵力は陸軍1万274人、艦艇117隻(3万9920人)。

完全破壊された艦艇は41隻、損傷した艦艇は24隻。

戦死者は合計10152人、負傷者は7185人、死傷率34.5%。

 

大公国・連合の参加兵力は陸軍2万3815人、艦艇152隻(5万6734人)。

完全破壊された艦艇は73隻、損傷した艦艇は39隻。

戦死者は25367人、負傷者は10388人、死傷率44.3%。

 

戦闘の結果のみを見れば、確かに王国軍の勝利ではあった。

だが勝者も敗者も、甚大な被害を被ったと言う点を考慮すれば(死傷率30%を超えると言う、軍事常識上例を見ない激戦)、「引き分け」「痛み分け」と言った方が正しいと思われる。

しかしそれが王国の勝利と言う形で年表に刻まれるようになったのは、ひとえに王国宰相府(特に広報部)の宣伝の結果であろう。

 

そしてこれは事実上、世界最強の軍隊であるはずの「メガロメセンブリア軍」の敗北として記憶され、この戦い以降、メガロメセンブリアはメセンブリーナ連合の盟主としての求心力を失って行くことになる。

 

しかしメガロメセンブリアは今しばらく、盟主の地位を保つことになる。

何故ならば、勝者とされた王国軍がこの戦いの直後、新たな戦いを強制されたからである―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 千雨

 

・・・おいおい、いきなり世界の危機かよ。

このタイピングゲーム、ストーリーありがちじゃね?

 

 

『え~、そうですかねぇ?』

 

 

パソコン画面の隅で不満そうに言うのは、赤のロングの髪の女の子。

名前は、「ミキ」。

「ミク」の姉妹で、「ぼかろ」の1体だな。

ここんとこ、「ミク」達の姿が見えない。

 

 

他にも「ルカ」とか「レン」、「リン」の姿が見えない。

おまけに、「ゆき」「いろは」「リリィ」もあんまり出てこない。

 

 

『後の3人は、位相突破維持に忙しいんで』

「・・・また何か、ヤバいことしてんじゃねーだろーな?」

『人様の迷惑になるようなことを一通り』

「おかしくね!? そこは普通迷惑はかけないって言う所だろ!?」

 

 

画面の中でケラケラと笑う「ミキ」。

こいつら本当、良い性格してるよな・・・。

 

 

『で、どうですまいますたー。暇潰しできてますかー』

「まぁな・・・昔やったな、こう言うタイピング練習みたいなの」

 

 

アレだ、場面場面で「このタイプをやれ!」みたいなのが出るゲームだ。

早くできれば出来る程、良い結果が出る。

それにしても、この「ムンドゥス・マギクス」ってゲーム、良くできてるよな。

世界観ファンタジーだけど、結構細かい所まで設定あるし、たまに予想外のこと起こるし。

 

 

『なるほど、流石まいますたー。けして表に出ることなく、人の命を意のままに操る・・・おみそれしました。流石はネット界の女王、いえ電脳の申し子、ネット皇帝「ちぅ」とは貴女のことです』

「言い草が酷い! と言うか、その二つ名みたいなのやめろ、超恥ずい」

『ネットキリスト「ちぅ」の方が』

「よくねーよ!」

 

 

叫んで、次のイベントまでの間にお茶のおかわりを淹れに行く。

8月も後半か、そろそろ新学期の準備もしねーとなー。

・・・宿題、終わって無い・・・。

アリア先生、すげー笑顔になりそうな気がする・・・。

 

 

笑いながら、「残念♪」とか言いそうな気がする。

確証はねーけど、そんな気がする。

 

 

「・・・にしても・・・」

 

 

さっきまで遊んでたゲームのことを、思い返す。

それなりの出来だとは思うが、一つだけ腑に落ちないことがあった。

 

 

・・・何で、知り合いの名前がチラホラあるんだ?

何か、妙に力入っちまうじゃねーか。

 




従卒の少年:
従卒の少年です、クルト宰相代理の従卒をさせて頂いております。
なので、出番もそこそこあるのですが、名前が「従卒の少年」って・・・。
・・・まぁ、とにかく今回で連合との戦いはとりあえず終息。
今後も何回か問題があるでしょうが、まぁ、それよりも先に世界の危機です。


なお、今回新登場の投稿キャラクターはこの方です。
スコーピオン様より、リアス・パルクス様です。
これからの活躍、期待しています。


従卒の少年:
では次回は、世界の危機に向けたお話ですね。
帝国のクーデター、墓守り人の宮殿の様子、その他諸々・・・。
いろいろ、大変です。
では、またお会いできると良いですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。