魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

25 / 101
第22話「完全なる世界 Side 現実」

Side クレイグ

 

『クレイグッ、大丈夫!?』

「大丈夫じゃねぇ、大ピンチだ!」

 

 

アイシャからの念話に、そう返す。

大岩やら吹き矢やら落とし穴から逃げたりしている内に、パーティーを2つに分散されちまった。

向こうにいんのは、アイシャ、リン、パイオ・ツゥの3人。

 

 

「綺麗に男女で別れたねー」

「ああ、そうだなって、パイオ・ツゥは男だろ?」

「はぁ? 何言ってんだ、女だよあいつ」

「「嘘ぉ!?」」

 

 

俺とクリスに衝撃が走る・・・とかやってたら、物理的に衝撃が走りそうになった!

バチィッ、と何かが弾けるような音がしたかと思うと、すぐ側の床が砕ける。

慌てて散開――――通路が狭くて、動きにくいけどよ――――して、足を止めずに後ろを振り返る。

さっきから、通路を全力疾走中だぜ。

 

 

バチッ、バチッ・・・バチチチチィッ!

何かが弾けるような音と、火花。

そこにいるのは、見たこともねぇくらいの美女だ。

だけど身体は肉でできてねぇ、雷でできてやがる。

あの姿も、俺らに合わせて作ってる仮初のもんだろうな。

アレは・・・。

 

 

「雷の最上位精霊とか、ありえねぇ・・・!」

 

 

とてもじゃねーが、10万ドラクマじゃ足りねぇ。

追加料金を要求するぜ、じーさん。

 

 

「アイシャ、リンッ、絶対にこっちに来んじゃねぇぞ! 死ぬぞ!」

『バカ言わないで! 今すぐにそっち行くから!』

「バカはてめぇだ! いいか、こっちは今ヤバ」

 

 

パリッ・・・と音を立てて、俺の前に雷の最上位精霊が現れる。

念話の途中、しかも俺は目を離してなかった。

だが、気付けなかった・・・!

 

 

「・・・はぁっ!」

 

 

精霊の背後から、クリスが二本の短剣で斬りかかる。

パシッ、と音を立てて精霊がまた消えて・・・瞬きの間にクリスの背後に現れた。

速ぇ、とてもじゃねぇが知覚できねぇ!

精霊の手が、クリスに伸びて・・・。

 

 

「させるかよぉっ!」

「ぶっ!?」

 

 

クリスの頭を押さえて(悪い!)身体を下に沈めさせて、俺自身は片手で剣を振る。

パシッ・・・って、またかよ!

 

 

「ぬりゃあっ!」

 

 

ザイツェフの旦那の拳が、壁に突き刺さる―――さっきまでそこにいた精霊は、やっぱり一瞬で移動しやがった―――、続いてモルボルグランの旦那が、バンッと上半身の服を破って、服の下に隠していた残りの4本の腕を露出させる。

魔族本来の姿に戻ったってわけだな。

 

 

「今こそ、俺の変身を見せる時か・・・!」

「ガハハハ、久しぶりにこの俺が本気を出せる相手が出やがったな!」

「僕はもう、魔界に帰りたいよ・・・曾爺ちゃんに会いたい」

 

 

リゾの旦那まで加わって、雷の最上位精霊に戦いを挑む。

けどやっぱ、一撃も通らない。

 

 

「よし! 僕らも行こうクレイグ!」

「前向きだなお前・・・!」

 

 

だが、逃げてばっかじゃ状況が好転しねぇのは確かだな。

俺の言うことを無視して来るだろうアイシャ達が来る前に、片付けなければならない。

 

 

「気合い入れて行くぜ、ついて来いよクリス!」

「僕だって負けないから!」

 

 

武器を構えて、俺達は雷の最上位精霊に向かって行った。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

し、シャレにならへんわ・・・!

月詠と小太郎の身体を抱き抱えながら、うちはそんなことを考えとった。

実際、シャレにならへんねやもん。

 

 

「『千刃黒曜剣』」

 

 

フェイトはんが、物凄い数の黒い剣を飛ばす。

言葉通りなら、千本あるんちゃうか、月詠が好きそうな技やね。

 

 

「ポヨ」

 

 

逆に、あっちの見た目ラスボスなポヨポヨ言う奴・・・もうポヨでええわ、そう呼ぼ。

ポヨはんは、背後の黒い本体(?)から白い魔力砲を撃って、全部いっぺんに吹き飛ばしてまう。

そしてそれを、フェイトはんは砂塵の壁で防ぐ。

フェイトはんの足元から高速で立ち上った砂の塊が盾みたいになって、魔力砲を散らしてまうんや。

 

 

別に防がんでもええんやろうけど、後ろのうちらのことを気遣ってくれとるんかな。

ちなみに、うちも最初は札を飛ばして結界張ってたねんで?

でもな、あの2人の流れ弾的なもんに、紙のように切り裂かれていく様を見せられてもうてな・・・。

もう、ええかなて思うて、結界を張るのをやめた。

 

 

「やるポヨね、人形風情が。てっきり石しか能が無いと思っていたポヨ」

「僕は<地>のアーウェルンクス・・・だった。得意が石だけとは思わないことだね」

 

 

過去形かい。

京都で一緒に仕事した時に比べると、ユニークになったかな、フェイトはん。

・・・いやぁ、京都の時からあんな感じやった気もするなぇ。

 

 

「・・・ああ、もう。うちも寝てしまいたいわ」

 

 

小太郎と月詠、あとうちの周りでグースカ寝とる関西の連中を見ながら、うちはそう毒づいた。

ポヨから聞いた話やと、現実で充実しとる人間には術が効かんとか言うとったな。

 

 

「その論理で行くと、この子らは何か不満でもあるんかな・・・いや、そもそも無い方がおかしいはずやねんけど・・・」

 

 

うちって、そない単純な人間やったかなぁ?

実際、現在進行形で現状に不満があるんやけど。

 

 

「一旦は主の理想に懸けたキミが、まさか最後の壁になるとはポヨ!」

「少し誤解があるね。彼の理想を叶える忠実な僕だったのは『テルティウム』。僕は・・・『フェイト』だ」

「詭弁を!」

「まぁね」

 

 

フェイトはんとポヨの戦いは、激しさを増しとる。

・・・それにしても、あのポヨはどうして、うちらの邪魔をするんや?

世界を守る言うんやったら、『リライト』を止めるのを邪魔せんでええやんか。

それとも、『リライト』を発動させたいんか・・・?

 

 

・・・まぁ、うちがやることは決まっとるけどな。

ちら・・・と、灰銀色の毛皮に覆われてスヤスヤと寝とる、白い髪の女の子を見る。

どんな夢を見とるんか知らんけど・・・。

 

 

「とっとと起きんかい、ボケが・・・」

 

 

自分だけ夢の世界で楽しようなんて、虫が良すぎるえ。

 

 

 

 

 

Side セラス

 

前線に立つのは、久しぶりね。

しかもこれだけの規模の戦闘に参加するのは、もしかしたら20年前の大戦以来かもしれない。

加えて言えば、20年前は私は部隊長とは名ばかりの、一兵卒に過ぎなかった。

全軍の指揮官としての戦闘は、初めてと言ってもも良い。

 

 

「全員、構え―――撃てっ!!」

「「「了解!!」」」

 

 

全員の剣先から、火属性魔法が放たれる。

10数条伸びたそれが、敵の戦闘集団の先頭に着弾、炸裂する。

撃ち終わった騎士が素早く後退し、2列目の騎士達が剣を構える。

私の命令に合わせて、また撃つ。そして敵集団の先頭を吹き飛ばす。

 

 

これを、ひたすら繰り返す。

大魔法を撃ち込みたい所だけど、あまりに強い魔法を撃つと、新オスティアその物を傷つけかねない。

いやらしい言い方になるけど、後で叩かれるのも困る。

とは言え、そんな政治的な理由で戦術の幅を狭めるのが愚かしいことだとも思う。

私がアリアドネーの代表では無く、ただの部隊長であれば、部下に大魔法を許可しているわね。

 

 

「鍵持ちが来ます!」

「魔法世界出身者は、下がりなさい!」

 

 

けれど、私の命令は遅きに失した。

鍵持ちが何かの光線を放ち、横薙ぎに放たれたそれが、アリアドネー兵の列の一部を薙いだ。

ボッ・・・と、数人のアリアドネー兵が一度に消滅してしまう。

 

 

悲鳴が上がった、当然でしょう、目の前で仲間が消えたのだから。

花弁のような物をまき散らし、人が消える。

現実を否定し、逃避したとしても許される光景ね。

 

 

「次が来るわ、すぐに抜けた穴を埋めなさい! 人員補充!」

「総長、撤退すべきです!」

「撤退? どこに撤退すると言うの、そんな場所は、どこにも無いわ!!」

 

 

実際、私達が撤退できる場所など無かった。

ここは新オスティア、隔絶された浮島。

空には召喚魔の群れ、飛行して逃げることもできない。

また仮に逃げられるとしても、政治的に撤退できない状況なの。

 

 

「私達が完全に抜かれれば、背後のナイーカ村と漁港に敵の侵入を許すことになるわ! 留まるしかないのよ!!」

 

 

政治的な理由で撤退できないとは言えないから、私はそう言わざるを得ない。

民間人を守るために戦う、世界を守るために戦うのだと、部下達に信じさせるために。

部下の正義感と使命感を煽って、アリアドネーの政治目的を果たすために。

 

 

総長(グランドマスター)である私は、そう言わなければならないの。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

戦闘は苛烈を極めている。

しかも、まだ激しさを増そうとしているのだ。

 

 

『グリアソン、そっちはどうだ!?』

「ああ! そうだな・・・大騒ぎだ! そっちはどうだ!?」

『こっちも・・・ザ、ザザザ・・・!』

「リュケスティス!? ・・・ちぃっ、踏んだり蹴ったりだな・・・!」

 

 

リュケスティスとの通信も途切れて、俺は舌打ちせざるを得なかった。

元より分断されていたが、これで情報面でも分断されたわけだ。

 

 

我々はリゾートエリアと市街地の中間、ピンヘ湖上空で敵召喚魔を迎撃している。

すでに多くの召喚魔を叩いたはずだが、まだ半分も落とせていない。

それ程に、敵の数が多い。

10匹、あるいは100匹の敵を屠っても、敵の数が減ったようには見えない。

 

 

「隊長! 大型が来るニャ!」

「何!?」

 

 

副長・・・カールィ・エドワールドシュ・バイオリィ中佐の報告に、俺は顔を上げた。

見れば、全長10m程の『動く石像(ガーゴイル)』が、こちらに向かってきていた。

このまま行けば、市街地に・・・!

 

 

「行かせはせん! バイオリィ、ヘルベルト、ハルシェルド、カールセン!」

「「「「了解 (ニャ)!」」」」

 

 

副長を含めて、手近な部下を集め、大型召喚魔を迎え撃つ。

もちろん、小型の召喚魔も掃いて捨てるほど向かってくる。

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉ―――――――っ!!」

 

 

長距離から魔法を斉射し、背後から迫っていた召喚魔を槍で叩き落とす。

その時、敵の大型召喚魔――――竜型(ドラゴンタイプ)――――から、火属性のブレス攻撃が放たれた。

味方の召喚魔をも飲み込んで、ブレスを撃つとは!

 

 

「ぬぅおおおおおぉぉぉぉ―――――――っ!!」

 

 

急旋回してかわす・・・が、その攻撃で2人、カールセンとヘルベルトがやられた。

おのれ・・・!

 

 

「いぃやあああぁぁ―――――――っ!!」

 

 

槍に魔力を込め、投擲する。

途中、2匹程貫いて・・・最終的に、大型の額に命中する。

魔力解放・・・頭を、吹き飛ばす!

 

 

それで、その召喚魔は終わりだ。

だが断末魔の抵抗か、落ちる際に、長い尻尾が上から襲い掛かる。

ぬお・・・!

 

 

「隊長――――――――――――――っ!!」

「なっ・・・バイオリィ!?」

 

 

副長が、自分の騎竜ごと私に体当たりし、私を庇った。

当然、尻尾は副長に当たる。

数秒後、副長の姿は大型召喚魔と共に、見えなくなった。

 

 

「・・・バカ野郎・・・!」

「隊長、新しい群れが!」

「・・・迎え撃て! 一匹たりとも生かして帰さん、弔い合戦だ!」

「了解!」

 

 

唯一残ったハルシェルドを率いて、俺は新しい群れに突撃した。

くそ・・・いい加減にしろ!

 

 

 

 

 

Side 調

 

木精憑依最大顕現・樹龍招来。

樹霊結界、最大展開。

 

 

「ふ・・・ぅ・・・」

 

 

身体を作りかえられるような感覚に、私は呻くように息を吐きます。

木の上位精霊を私自身の身体に憑依させ、物質化しました。

それに伴い使用可能となった全ての力で、樹霊結界を張ります。

無数の木の根が、ホテルの2階部分を占拠・・・封印します。

 

 

目的は、3つ。

第一に、味方の逃走経路を作り、かつ時間を稼ぐため。

第二に、倒壊しかけているホテルを支えるため。

第三に、スクナ様を止めるため。

 

 

「ぐ・・・く、ぅ・・・」

 

 

ギシギシギシギシッ・・・と、スクナ様を取り囲んだ木の根が、ひび割れて行く。

無理です、支えきれません。

私の胸に、焦燥感が生まれます。

このままでは、数分と保たずに結界が弾け飛んでしまいます。

 

 

上の階にはまだ、多くの負傷者がいます。

戦災孤児の私が、戦争の被害者を見捨てることはできない。

暦も焔も、栞も環も頑張っているはず、私だけが逃げることはできない。

 

 

「あ・・・ひ・・・ぅ・・・」

 

 

この階層には、もはや一匹の召喚魔も存在しない。

スクナ様が文字通り「潰して」回った。

外の召喚魔も、何かを感じているのかホテルの中には入ってこなくなりました。

 

 

「・・・るか・・・」

 

 

あの時・・・あのアリアドネーの騎士が『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』で消えてしまった直後。

スクナ様の瞳が、黒から金色に変わった。

 

 

『「僕」の名はリョウメンスクナ、与える者』

 

『「僕」の名はリョウメンスクナ、奪う者』

 

『「僕」の名はリョウメンスクナ、大地に実りを与え、人を癒す者』

 

『「僕」の名はリョウメンスクナ、何も恵まず、戦乱を与える者』

 

『「僕」の名はリョウメンスクナ、神だ』

 

『キエロ、ムシケラ』

 

 

そう言って、召喚魔を潰して回った。

腕のような形をした魔力で、召喚魔を潰して回りました。

召喚魔以外に手を出さないあたり、まだ理性が残っているのかもしれませんが、これ以上は建物が持たない。

 

 

「・・・けるか・・・」

 

 

だからフェイト様達が目的を遂げて、あのアリアドネーの騎士が戻って来るまで。

私が、スクナ様を止めます。

 

 

「・・・負けるか・・・!」

 

 

止めて見せます。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

靴が破れるのも構わず、駆ける。

魔力の込め方が下手くそだから、十字架を握る掌が焼ける。

でも、構わない。

ズンッ・・・と目の前に出てきた召喚魔を、睨みつける。

 

 

「この、やろおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――っっ!!」

 

 

攻撃を避ける、跳ぶ、跳ねる、転がる、そして十字架を投げる。

それだけ。

掠った攻撃が、シスター服を破っていく。

シスターシャークティーに怒られるかな、なんてことを少しだけ考える。

 

 

ううん、違う。

怒られたいんだ、私は。

 

 

「よくも・・・!」

 

 

5m以内の敵は、一瞬だけ私を見失う。

何故なら、悪戯用に覚えた初級幻術呪文で、私の姿を仲間と誤認するから。

知能が低いのか、命令が単純なのか、何かの私を積極的に攻撃できないのか。

わからないけど、それもどうでも良い。

 

 

「よくも、よくも・・・!」

 

 

アーニャさん達とはぐれた。

周りには、召喚魔しかいない。

それがどうしたのさ。

 

 

「よくも、よくも、よくも・・・!」

 

 

十字架を右に投げる、同時に跳んで、目の前の召喚魔の両肩に足を乗せる。

右側の召喚魔の頭を吹き飛ばした瞬間、両手で掴んだ別の十字架の先を、私が乗っている召喚魔の頭に叩きつける。

何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、何度も!

 

 

「よくもよくもよくもよくもよくも、よくもおおおおおおぉぉおおぉぉおっっ!!」

 

 

ガチンッ、と召喚魔の頭に十字架の先が刺さった瞬間、爆発した。

熱を感じる、熱い、火傷したかも。

でもそれがいったい、どうしたってのさ。

だって、こいつら。

 

 

「返せよ・・・!」

 

 

守らなくちゃいけなったのに。

いつだって私が、大丈夫な場所まで連れて行かなくちゃいけなかったのに。

ずっと一緒だって、思っていたのに。

 

 

こんな、こんな奴らに。

戦争だか何だか、そんなくだらないことで。

 

 

「ココネを、かぁえせえええええぇえぇええぇぇぇ―――――――っっ!!」

 

 

私が持ってる残りの十字架を全部、投げる。

8個の十字架が、壁と天井、床に突き刺さる。

私がシスターに教えてもらった、唯一の攻撃魔法。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)雷の8矢(フルグラーリス)』ッッ!!」

 

 

魔力を込めた8個の十字架に、雷属性の魔法の矢を撃ち込む。

それぞれの十字架に当たった矢が、さらに別の十字架へ移動する。

十字架から十字架へ、移動して、移動して、移動して―――――――――弾けろっっ!!

 

 

パンッ・・・そんな音がした直後、中級魔法程度の雷撃がそれぞれの十字架から拡散して放たれる。

周辺の召喚魔数体を一度に打ち据えて、数秒で消える。

シスター流、拡散する『魔法の射手(サギタ・マギカ)』。

 

 

「・・・かえせよぉ・・・」

 

 

視界が霞む。どうも魔力を使いきったらしいや。

はは・・・もともと、そんなに魔力量なかったし、修業もサボってたし。

こんなことなら、もうちょいシスターの修業、頑張ってりゃ良かったなぁ・・・。

 

 

・・・ごめん、ココネ。

私、ココネの仇もとってあげられない・・・。

 

 

「ごめん、ココネ・・・ダメな従者(おねーさん)・・・で・・・」

 

 

召喚魔、結局ほとんど倒せなかった。

でも、目の前に誰か・・・。

 

 

「・・・ごめん、シスター・・・」

 

 

グニャリ、と歪む視界の中で。

私は、誰かに抱き締められた気がした。

 

 

 

 

 

Side シャークティー

 

「・・・ごめん、シスター・・・」

 

 

抱き止めた身体は、とても小さかった。

もう15歳、大きくなったと思っていたのに、私はそう感じてしまいました。

それに、謝罪の言葉。

いったい、何に対する謝罪なのか・・・わかりませんが、とても胸を締め付けられました。

 

 

ここは、避難所と外を繋ぐ通路。

外で召喚魔を引き付け戦っている間に、美空達のいる避難所から魔力反応を感じました。

いつもより大きく、そして不安定で・・・私が良く知っている魔力。

避難所の中にまで召喚魔が侵入していることに気付いて、急遽、召喚魔を強行突破して、ここまで来ました、でも。

 

 

「美空・・・」

 

 

でもきっと、私は来るのが遅すぎたのですね。

靴とタイツが魔力の勢いに耐えきれずに破れ、足の裏に血が滲んでいます。

両手が魔力を込めた十字架の熱で焼かれ、痛々しい・・・。

両頬に、涙の跡。

 

 

・・・ココネの魔力反応が、付近にありません。

美空がココネを置いて逃げるはずが無い。

 

 

「主よ・・・教えを破ることをお許しください」

 

 

美空の魔法で排除されたはずの召喚魔が、再び集まり始めました。

中には、何度か見た「鍵持ち」もいますね。

・・・はぁ、と深く息を吐いて、私は美空の身体を背中に背負います。

そして、キッ、と周囲の召喚魔を睨み据えて。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)雷の49矢(フルグラーリス)』」

 

 

ジャッ、と右手に構えた8本の十字架をを空中に投げ・・・空中で静止する一瞬を狙って、雷属性の魔法の矢を8本の十字架の中央に撃ち込みます。

十字架を起点に、魔法陣が展開されます。

威力を増幅・・・射出!

 

 

中級魔法程度の雷の槍が8本、大地に突き立って召喚魔を貫く。

それぞれの槍の先端から迸った電流が、大地でもう一つの魔法陣を展開します。

威力を増幅・・・解放!

魔法陣の中心に上級魔法規模の雷撃が迸り、周辺の召喚魔を巻き込みます。

雷撃が地面をのたうち、轟音を立て・・・10数体の召喚魔を一度に消滅させました。

 

 

「・・・お許しください、主よ」

 

 

ココネは、守れなかった。

けれど美空にはこれ以上、手は出させません。

 

 

「・・・高音さんと佐倉さんは、どこに・・・?」

 

 

避難所の中かもしれません。

そう思い、私は避難所の中へと駆けて行きました。

 

 

 

 

 

Side ベアトリクス

 

「もうすぐです、お嬢様! コレットさん!」

「ええ!」

「わ、わかったよ!」

 

 

アリアドネーの先輩方も、もういません。

けれど子供達は皆、無事です。

私達3人で6人の子供を守って、市街地の安全な避難所まで走ります。

 

 

ここまでの戦闘で、お嬢様とコレットさんの魔法は敵召喚魔の一部に通用しないことがわかっています。

けれど、私の攻撃は敵に対して効果があるようです。

だから、ここは私が頑張らないと・・・!

 

 

「く、また・・・!」

「で、出たぁっ!」

 

 

もうすぐ予定の避難所に到着する所で、また召喚魔が現れました。

数は3体。

地面からズブズブと転移してくるそれに対し、私は子供を抱える手を一本減らし、その片手で『装剣(メー・アルメット)』。

私の身体に、子供達が必死でしがみつきます。

 

 

「ミンティル・ミンティス・フリージア!」

 

 

子供の頃、お嬢様が考えてくださった始動キーを唱える。

これを唱える度に、私はお嬢様を守ると言う使命を思い出せる。

それが私に、力を与えてくれるのです。

 

 

「『氷結武器強化(コンフィルマーティオー・グラキアーリス)』!!」

 

 

ピキイィ・・・ンッ、と、私の剣に氷属性が付与されます。

左手で子供達を庇いながら、右手で剣を振るう!

 

 

ザンッ・・・最初の一体を正面から斬り伏せ、振り向き様に2体目を斬り倒します。

そこからさらに・・・!

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の11矢(グラキアーリス)』!」

 

 

効果は無い物の、囮にはなると思ったのか、お嬢様が魔法を撃ちます。

それは功を奏し、残りの1体がお嬢様に気を取られた、瞬間。

 

 

ズッ・・・!

 

 

召喚魔の腹部に剣を突き立て・・・カチッ、とスイッチを押し、込めた魔力を炸裂させます。

抵抗もできずに、爆発する召喚魔。

 

 

「あ・・・っ」

「危ない、ビー!」

「・・・!」

 

 

私の背中にしがみついていた6歳くらいの女の子が、堪え切れなかったのか、空中に投げだされてしまっていました。

く・・・しまった!

その子の泣き顔が、視界に入る。

地面に・・・!

 

 

「おぉっとぉ!」

 

 

地面に落ちる前に、いつの間にかいた男の人が、子供を両手で抱きとめてくれました。

ツンツン頭の、その男性は・・・?

 

 

「あ、ありがとうございます・・・貴方は?」

「俺はトサカってもんだ。お前ら、この先の避難所に用があんだろ?」

 

 

トサカと言うその男性は、女の子を肩に乗せると、自分の後ろを指で示した。

この路地の向こうの避難所に用があるのは本当なので、私達は頷いた。

 

 

「そこな、もう召喚魔にやられちまったよ」

「え!?」

「大丈夫だ、中の連中はジョニーの奴が・・・あー、まぁ、とにかく他の場所に移動させた」

 

 

移動した・・・その言葉に、胸を撫で下ろします。

 

 

「・・・でしたら何故、貴方はここに残っているんですの?」

「あ? あー・・・」

「それはねぇ、あんた達を待っていたのさ」

 

 

お嬢様のもっともな質問に答えたのは、トサカさんの後ろから現れたクマのぬいぐるみのような人。

どうやら、クママさんと言うそうです。

 

 

「あんた達が子供達を守るために来てくれるって話が来てんのに、それを伝えずに行っちまうのは、気分悪いからね」

「俺らからの通信手段は、ねーしな」

 

 

・・・確かにこのまま進んでいれば、私達は危機に陥っていたでしょう。

それでも、待っていてくれるなんて・・・。

 

 

「さ、話は後だ、新しい避難先に案内するよ。ついてきな、お嬢ちゃん達!」

「「「は、はい!」」」

「・・・って、俺を置いて行かないでくれよママ!」

「あんたは最後尾!」

 

 

子供達を連れて、私達はクママさんについて駆け出しました。

 

 

 

 

 

Side デュナミス

 

・・・うむ、ここまでか。

元より、私がアーウェルンクスシリーズに敵うとも思ってはいなかったが。

再生核も損壊してしまった。

 

 

「随分と、手こずらせてくれましたね」

 

 

ズズ・・・と、自分の身体に黒い物を纏わりつかせた2番目(セクンドゥム)が、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を片手に私を見下ろしていた。

「<闇>のアーウェルンクス」の核を再利用しているだけあって、能力も同じと見える。

最強の影使い・・・否、<闇>使い。

闇精霊化、それが2番目(セクンドゥム)の真髄・・・。

 

 

すでに私の体は3分の2程度が消え去り、残すは胸から上と言った惨状だ。

抵抗できるはずもない。

と言うより、そろそろ良いはずだ。

 

 

「・・・フフ・・・」

「何がおかしいのですか」

「貴様は失敗した、2番目(セクンドゥム)

 

 

そう、貴様は失敗したのだ。

私などに構わず、儀式を完成させてしまえば良かった物を。

いや、むしろ構ってくれたことに感謝すべきかもしれんな。

 

 

「私を倒してくれて、感謝する」

「何・・・?」

 

 

2番目(セクンドゥム)が怪訝そうな顔を浮かべた時、彼女の手の<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>が光を放った。

先程、散々打ち合ったからな・・・影を仕込ませて貰った。

 

 

2番目(セクンドゥム)、貴様は確かに強い、その能力は最強にして無敵だ。だが私の意地は、さらにその上を行く。世界を救えるのは、我ら『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』をおいて他にいないのだからな」

「その様で良く言う・・・」

「フ、私の矜持(プライド)は、貴様ごときに踏み躙られはしない!」

 

 

私は私の意思で、戦い続ける。

さぁ、生まれ変われ。

3体のアーウェルンクス・・・!

 

 

「私の体内にはある術式が埋め込まれている・・・私の脱落によって、彼らは<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>の支配下から、逃れることができる」

「・・・!」

「無駄だ。その鍵を操る正統なる『資格』を持たない貴様には、同格のアーウェルンクスを抑えることはできんよ。フフハハハ、貴様は失敗した! 私一人の身体など安い物だ、フフ、フフフハハハハハッ!」

「・・・貴様!」

 

 

激高した2番目(セクンドゥム)が、鍵を振り下ろしてくる。

しかし次の瞬間、2番目(セクンドゥム)の右腕―――鍵を持っている方の腕―――が、凍りついた。

ザザザ・・・と水が渦巻き、一人の少女が私と2番目(セクンドゥム)の間に現れる。

 

 

「お前は・・・」

6(セクストゥム)、<水>のアーウェルンクスを拝命・・・初めましてお姉様(にばんめ)

 

 

ヒュンッ・・・と瞬動で私の傍に移動すると、6番目(セクストゥム)はその細い腕で私を抱きあげた。

フフ、では最後の悪あがきに行くとしようか。

ザザザ・・・と水が私達を2番目(セクンドゥム)の視界から遮った。

2番目(セクンドゥム)は私達を追おうとしたようだが、できなかったようだ。

 

 

「・・・ネギ・・・!?」

 

 

水の壁の向こうから、そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「『黒衣の夜想曲(ノクトゥルナ・ニグレーデイニス)』!!」

 

 

高音さんの召喚した影人形が、高音さんを守るように立つ。

それがバサッ・・・と影のマントを広げると、10数人の子供達を包み込んで隠した。

影の槍と盾が、子供達を守る・・・凄い魔法ね、アレ。

 

 

「ふ、ふふふ、この正義の味方、高音・D・グッドマンがいる限り、貴方達には指一本触れさせませんよ!」

 

 

高音さんが、そう叫ぶ。

いつもなら「頭、大丈夫?」とか思う所だけど、今は別の印象を感じるわね。

 

 

だって高音さん、足が震えてるもの。

肩だって震えているのが数メートル離れていても見えるくらい、怖がってるのがわかる。

当たり前よね、こんな状況だもの。私だって怖い。

でも、子供達はもっと怖いはず。

正義の味方は、子供の前で負けたり逃げたりしちゃ、いけないから。

 

 

「メイプル・ネイプル・アラモード! ものみな(オムネ)焼き尽くす(フランマンス)浄化の炎(フランマ・ブルガートゥス)破壊の主(ドミネー・エクステインク)にして(テイオーニス)再生の徴よ(エト・シグヌム・レゲネラテイオーニス)我が手に宿りて(イン・メアー・マヌー・エンス)敵を喰らえ(イミニークム・エダット)、『紅き焰(フラグランティア・ルビカンス)』!」

 

 

佐倉さんはアーティファクトらしい箒を片手に、火属性魔法を撃ってる。

私がいるこの空間は、『アラストール』の力で火属性は効果が1.5倍増しになる。

 

 

「ちっくしょうめ・・・まさか、こんな所でくたばることになるとはな。ヘレン、情けないお兄ちゃんを許してくれよ・・・!」

「さようならロバート、貴方のことは今日の夕食くらいまでは忘れないわ。ヘレンのことは万事私に任せて、安心して死になさい」

「へっ、死ぬわけねーだろ、バーカ! てめぇこそ死ね! そして俺はヘレンとグリーンゲ○ブルス的な生活をしてやる!」

「いいわよ? でも私が死んだ場合、貴方の醜聞が27通りの方法でヘレンの所に届けられるから、そのつもりで」

「失せろ召喚魔! 俺の女(シオン)に触るんじゃねぇ!」

「紳士ね」

「言ってろ!」

 

 

ロバートとシオンは、口喧嘩(?)しながら頑張ってるわ。

あそこだけは、いつもと同じね。

ロバートが突撃、シオンが無詠唱の魔法の矢を撃ってカバーしてる。

 

 

そして、私。

両手足に炎を纏って、召喚魔の間を駆け抜ける。

 

 

「はあああぁぁぁ――――――っ!」

 

 

グシャッ・・・と、召喚魔の顔面を潰す。

手を離すと、そこが燃え上がる。

 

 

着地と同時に身体を鎮めて、別の召喚魔の攻撃をかわす。

そのまま片手を地面についたまま回転、後ろ回し蹴りの要領で背後の召喚魔の脇腹に踵をぶつける。

炎が軌跡を描いて、『動く石像(ガーゴイル)』の脇腹に罅を入れる。

足を離すと、炎が吹き出て召喚魔の身体が折れる。

 

 

「春日さんを追いかけないと!」

「わかってるけど、数が多くて・・・こっちも手一杯よ!」

 

 

佐倉さんの声に、視線を向けずに答える。

ココネさんがやられた後、春日さんは召喚魔の間を駆けてどこかに行っちゃった。

避難所のどこかには、いると思うけど。

でも探しに行ける程、余裕が無い。無事を祈るしか・・・。

 

 

グッ、と、何かに足を掴まれた。

見ると、地面からズブズブと出てきた召喚魔が、私の左足を掴んでいた。

・・・『アラストー・・・。

 

 

炎でガードする前に、視界が回転した。

 

 

次の瞬間、背中と後頭部に衝撃と激痛。

壁に叩きつけられた、それを認識した次の瞬間、今度はお腹。

殴られ・・・!

 

 

「・・・ッ!?」

 

 

悲鳴も上げられない、呼吸が上手くできない。

床に顔から落ちて、頬骨が痛みを訴えてくる。

息が吸えない、苦しい。でも、立たないと・・・!

 

 

「アーニャさん!?」

「ロバート、GO!」

「犬か俺は!? けど行ってやるよ、畜生!」

 

 

ざり・・・と、爪で床を引っ掻きながら、何とか顔を上げる。

そこには、長い腕を振り上げた『動く石像(ガーゴイル)』。

こんな、所で・・・!

でも、私が纏っていた炎は消えちゃったし、新しい炎を作るには集中しないと・・・!

 

 

私は、炎を作れなかった。

でも、次の瞬間。

 

 

炎が生まれて・・・燃え上がった。

 

 

ボロ・・・と、燃え尽きて崩れる召喚魔。

召喚魔がいなくなった後も、その炎は消えなかった。

 

 

「・・・やれやれ、ようやく目覚めてみれば『人間を守れ』だって・・・くだらないね」

 

 

炎が、人の形になっていく。

そこから出てきたのは、どこかで見た覚えのある白髪の男の子。

ただ、髪型とかが微妙に違う。

 

 

「あ、あんたは・・・?」

「・・・4(クゥァルトゥム)、<火>のアーウェルンクスを拝命・・・」

 

 

えっと・・・く、くぅぁるとぅむ?

変な名前のその男の子はゆったりとした動作で、両手を広げた。

 

 

「では・・・人間以外を、炙ってやろう」

 

 

『アラストール』が震える程の炎が、生まれた。

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

こいつぁ、ちょっとばかしヤバいかもしれねぇな。

周りの戦況を見ながら、俺はそう思った。

 

 

「『千(ホ・)の顔を(ヘーロ-ス・メタ・)持つ英雄(キーリオーン・プロソーポーン)』!」

 

 

ヒュボボボボボッ・・・アーティファクトで作った剣を100本ほど、連続で投げる。

それで、正面の召喚魔の群れは何とか崩せるわけだが。

それにしたって、守れんのは『インペリアルシップ』と数隻ってとこだろ。

全体の戦況の不味さは、どうにもなんねぇ。

 

 

これで、ナギやアルの野郎がいれば話は別なんだがな。

まぁ、あいつらが来れねぇのはわかりきってることだから、良いけどよ。

 

 

「・・・にしても、20年の間に帝国兵の連中、なまったんじゃねぇかぁ?」

 

 

20年前の大戦ん時は、もちっと粘ってただろうが。

・・・あの頃は、まぁ、楽しかったな。

 

 

ナギのバカと毎日やりあってよ、アルの野郎は笑ってばっかで。

ゼクトのじーさんは意外とボケで、ガトウは真面目だけど突っ込みはしねぇから、詠春ばっか苦労してたっけな。

それが今じゃ、誰もいねぇ。

 

 

『ジャック!』

「・・・おーう、何だよじゃじゃ馬姫」

『じゃじゃ馬言うな! では無く、左舷上部から2000!』

「お?」

 

 

左上を見ると、なるほど、ウジャウジャと寄って来るわ。

んじゃ、害虫掃除と行くかね。

 

 

「ぬうぅぅん・・・っ!」

 

 

グンッ、と右手に気を集める。

そして、適当に殴る。

 

 

「『羅漢(ラカン)適当に右パンチ』ッ!!」

 

 

ドゴンッ・・・と音を立てて、圧縮された気弾が上空の召喚魔の群れを半分ほど消し飛ばした。

お、まだ残ってんのな、なら。

 

 

「『羅漢萬烈拳』!!」

 

 

近付いてきた奴を、ひたすらに拳で叩き落とす。

大半は簡単に落とせるんだが・・・例外がいるわけだな、コレが。

造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』持ち。

 

 

「おいおい、マジか」

 

 

20体くらい鍵持ちがいやがるじゃんよ。

ちょいと、キツいかなこれは。

俺様が、ガラにも無くそんなことを考えた時だ。

 

 

その20体の鍵持ちが、一瞬で何かに貫かれた。

いやぁ、貫かれたってか、すげぇスピードで撃ち抜かれたって言った方がいいな。

だが、俺にも知覚できねぇ速さだと・・・?

 

 

「・・・任務受領、混成艦隊を援護する・・・」

 

 

トン・・・と、甲板に着地したのは、髪の毛がツンツンした、変な奴。

・・・うん? この感じは、こいつ・・・。

 

 

「あん? てめぇは・・・」

「・・・5(クゥィントゥム)、<風>のアーウェルンクスを拝命・・・」

 

 

パリッ・・・そいつの身体に、電流が走った。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

ザジさんはどうして、僕をここに戻したんだろう。

戻った所で、僕はどうすればいいのかわからない。

 

 

「・・・ネギ・・・!?」

 

 

目の前には、エルザさんがいる。

その手には、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>。

ボクの後ろには、のどかさんが寝ていて。

祭壇には、変わらず明日菜さんがいる。

 

 

『リライト』も止まって無い。

このまま行くと、世界は滅ぶ。

 

 

「・・・わからない・・・」

 

 

どうするべきなのか、わからない。

どうしたら良いのか、わからない。

戦えば良いのか、話せば良いのか、それとも何もしない方が良いのか。

何も、わからなかった。

 

 

ここには、僕にどうすれば良いのかを教えてくれる人が誰もいない。

決めてくれる人が、誰もいない。

 

 

「・・・ラス・テル・マ・スキル・マギステル」

 

 

ズズ・・・と、身体の中を何かが浸食していくのを感じる。

そう言えばラカンさん、使うなって言ってたかな。

 

 

来れ精霊(ウェニアント・スピーリトゥス)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)雷をまといて(クム・フルグラティオーネ)吹けよ(フレット・)南洋の風(テンペスタース・アウストリーナ)・・・『雷の(ヨウィス・テンペスタース)暴風(・フルグリエンス))

 

 

闇の魔法(マギア・エレベア)>。

思えばコレが、僕が魔法世界で手に入れた唯一の物かもしれない。

そう言う意味では、愛着も湧くのかもしれない。

 

 

「『固定(スタグネット)』」

 

 

6年前、父さんは言った。

元気に、幸せに育てって、何もできなくて悪かったって。

でも。

 

 

「『掌握(コンプレクシオー)』」

 

 

確かに僕は、父さんのことを何も知らないのかもしれない。

他のことだって、何もわからない。

だけど、それでも僕はあの日、父さんに助けてもらったんだ。

それだけは、変わらない。

 

 

「『魔力充填(スプレーメントゥム・プロ))

 

 

だから、いつか。

いつか、僕は・・・確かめに行こう。

父さんが本当に、僕の思っている通りの父さんなのか。

 

 

バリッ・・・と、僕の身体が雷を纏う。

出陣前、僕が魔法球の中で会得した、唯一の技。

今の僕にできる、最高の魔法。

 

 

「・・・結局、私の邪魔をするわけですね、ネギ?」

「私の? 『お父様の邪魔を』ではないんですね、エルザさん」

「・・・」

 

 

エルザさんが、顔色を変えた。

自分がこんな皮肉を言えるなんて、初めて知った。

 

 

「正直、僕は自分が何をすべきで、どうすればいいのか。全然、わかりません」

「では、どうして邪魔をするのですか」

「邪魔・・・そう、僕は貴女の邪魔をする。それは、貴女が父さんの敵だったから・・・」

 

 

それも、どうしてか違う気がする。

 

 

『自分の感情をそのまま口にすれば良い』

 

 

夢の中で、ザジさんはそう言った。

自分の感情を、そのまま口に・・・?

つまり。

 

 

「・・・貴女のことが嫌いだからです、エルザさん」

 

 

・・・こう言うこと?

 

 

「わからないと言うなら、それで良い。わからないままに死になさい。今度は『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』だなどと温いことは言わず、肉体的に殺して差し上げます。お父様には、自殺したとでも言えばわかってくださる・・・!」

 

 

・・・むしろ、エルザさんの戦意が上がってる気がするんだけど、ザジさん?

ああ、でも、どうしてだろう。

気分が、良いや。

 

 

「・・・アリアにも、会えたら言おう」

 

 

ずっと前から言いたかったことを、言ってみようと思う。

どんな顔をするか・・・少しだけ、楽しみ。

 

 

「『術式武装(アルマティオーネ)疾風迅雷(アギリタース・フルメニス)』」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

キュキュンッ・・・と、魔力の砲撃が放たれる。

僕はそれを全て、拳で叩き落とさなくてはならない。

最悪、照準をズラしたりしなければならないからね。

何せ、僕の後ろにはアリア・・・・・・・・・と、まぁ、いろいろといるからね。

 

 

「今、ついで扱いされたような気がする・・・」

 

 

千草さんの声がした気がするけれど、聞き流すことにする。

僕は左右に素早く、小刻みに移動する。

 

 

「動く的には、当てられないとでも言うポヨか!」

「まさか、そこまでキミを侮っているわけじゃない」

 

 

言いつつも、僕は相手に近付いて行く。

それに合わせて、砲撃の照準がズレて行く。

味方のいない、敵の背後に回り込んで行く。

 

 

「ガトリングデス」

 

 

僕の残像をすり抜ける形で、田中君の銃弾が殺到する。

もちろん、僕に当たることは無い。

無傷で目覚めを待ちたいからね。

 

 

「こんな物・・・な!?」

 

 

そしてその銃弾は、魔法障壁をすり抜ける。

誰が作ったのかは知らないけれど、随分と凶悪な弾丸を装備させている。

魔法使い殺しの銃弾。

流石に高位の魔族だけあって、それで倒れるわけは無いだろうけど。

 

 

それでも無数の銃弾に撃たれて、ダンスを踊る程度には効果があったらしい。

傷はすぐに塞がるようだけど。

 

 

「――――――返すポヨ!」

「・・・!」

 

 

どう言う原理かはわからないけれど、受けた銃弾が、背後の本体の口から放たれて来た。

ウォン・・・魔法陣を展開して、魔装兵具・・・。

 

 

「『万象貫く黒杭の円環』」

 

 

全ての銃弾の軌跡を読み、それに合わせて石の杭を放つ。

その数、875発。

無論、全て撃ち落とした。

・・・これくらいできなくて、これからどうすると言うんだい?

 

 

「ポケットに片手を入れて・・・余裕のつもりポヨか?」

「うん? ・・・ああ、コレは僕の癖みたいな物だよ」

 

 

普段から、ポケットに手を入れている姿勢が多くてね。

馴染んでしまったのさ。

今も、右手をポケットの中に収めている。

 

 

「やるポヨね・・・だが、確信したポヨ。あの子の進む道の先に、超鈴音がいる・・・!」

「・・・キミがどんな未来を知っているのか、僕は知らない」

 

 

と言うより、どうして未来を知っているのかの方が重要だと思うけどね。

未来人とでも言うつもりかな、だとしたら笑えない。

そんな存在、いるはずも無いのだから。

 

 

「なら、教えてやるポヨ・・・アリア先生は、不幸になる!」

「・・・・・・そう、教えてくれてありがとう」

 

 

それだけ聞ければ、さしあたり僕にとっては十分だ。

瞬動で移動し、懐に潜る。

相手に知覚される前に、ポケットに収めていた右拳で腹を打つ。

 

 

「ぐ、ポ・・・!」

「せいぜい、目を離さないことにするよ」

 

 

見ることに関しては、これでも自信がある方でね。

これまで以上に、見ることにしよう。

・・・うん、そうしよう。

 

 

「・・・それは無理ポヨ」

「む・・・」

「キミはここで、消える」

 

 

ギギ・・・と、拳を押し返される。

どうやら僕が撃ち込むよりも早く、拳を受け止めていたらしい。

グポッ、と本体の口が開き、魔力が収束を始める。

・・・流石に、不味いかもしれない。

 

 

けれど、僕は特に慌てたりはしなかった。

何故なら。

 

 

「・・・『全てを喰らう』・・・」

 

 

放たれる前に、僕の眼前に白い小さな手が映った。

そしてそれが、本体から放たれた魔力を奪い取る様を見ることになる。

 

 

「バカな・・・」

「初めまして・・・ザジさんのお姉さん、ですね?」

 

 

アリアの声に、「核(こころ)」が震えた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ギュルギュルと、左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』から魔力が全身に行き渡るのを感じます。

この感覚、久しぶりな気がしますね。

 

 

「どうやって、現実に・・・?」

「どうして、私を止めるのでしょう?」

 

 

質問を質問で返すのは、本当は良くないことです。

でも時間がありませんので、手っ取り早く話を進めましょう。

 

 

「・・・この世界は、いずれ滅びる。知っているポヨ?」

「もちろん。こちらの試算では・・・およそ10年と2カ月。」

「私の研究機関の試算では、それよりも早い。9年6カ月後には崩壊が始まるポヨ」

 

 

工部省科学技術局特殊現象分析課・・・つまりエヴァさんのチームは、すでに崩壊までの時間を試算しています、あくまで概算ですが・・・。

ザジさんのお姉さん・・・ポヨさん(仮称)の機関の試算と若干のズレがありますが、まぁ、概ね10年以内にどうにかしなければならない、と言うことでしょう。

 

 

「崩壊に巻き込まれて魔法世界12億の民はほとんどが死に絶えるポヨ。残った者も地球人類との泥沼の戦争に叩き込まれる・・・悲惨ポヨよ?」

「それが、超さんのいた未来」

「その通りポヨ・・・私は力ある者の責務として、これらの悲劇を見過ごすことはできないポヨ」

 

 

力ある者の責務、ですか。

魔族、悪魔・・・何でも良いですが。

まるで、正義の味方のようなことを言いますね。

・・・と言うかもう、魔界にでも保護したらどうですか?

魔界がどんな場所かは、知りませんけどね。

 

 

「改めて聞くポヨ、それでも『リライト』を止めるポヨか?」

「ええ、止めます」

「妙に自信たっぷりに言うポヨね・・・何か代案があるポヨか?」

「あるわけないでしょう、私を誰だと思っているんですか」

 

 

代案なんて、考えつくわけ無いでしょう。

ここに来た理由はもちろん、『リライト』の阻止です。

ですがもう一つ、「世界の秘密」とやらを知るために来ました。

この方達だけが知っていて、そう、勝手に知りやがった上で無理だとか『リライト』しか無いんだと言っている、その「世界の秘密」とやらをね。

フェイトさんも、そこまで細かい所は知りませんからね。

 

 

非常に、気に入りません。

そこまで自信があるなら教えなさい、その知識。

代案を要求するなら、貴女達が握っている情報を全て寄越しなさい。

それが無理だと言うのなら、こちらから出向いて奪い取って差し上げます。

その上で、皆で考えましょう。

 

 

「まぁ、つまりは私、ノープランでここに来ました」

「いや、そこは自慢気に言うたらあかんやろ・・・」

 

 

千草さんの声が聞こえましたが、あえて聞き流します。

 

 

「加えて言えば、一応私達は世界代表として『リライト』を止めに来ていますので」

 

 

連合の代表が混成軍にいませんので、世界の半分ですけどね。

それでも・・・世界の半分の代表が『リライト』を否定している今。

『リライト』は止めるべきです。

それが、「皆の意見」なら。

9年6カ月の猶予があるなら、今すぐに『リライト』を発動させる意味もありません。

 

 

「つまりコレは、世界の意思です」

「・・・いや違う! 真実を知らされぬままに決定された意思など、世界の意思とは呼べないポヨ。誰によって成されるかも問題では無いポヨ・・・『リライト』を発動し、全世界を『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』に封ずる。コレ以外に道は無いポヨ!」

 

 

グンッ・・・と、振り下ろされるポヨさんの本体の腕。

かわそうとした時、クンッ、と手を引かれました。

床を割る音。少しの浮遊感。

 

 

「・・・大丈夫?」

「え・・・わっ、はわっ・・・!」

 

 

右手は背中、左手は膝・・・フェイトさんが、私を抱き上げていました。

も、もしやこれは、伝説のお姫様抱っこ・・・!

 

 

「・・・いちいち、雰囲気出すなポヨ!」

 

 

怒鳴るように叫んで、ポヨさんが再び魔力砲を放ちます。

いえ、これは違うんです・・・!

などと思いつつ、再び『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で無効化しようとした時。

 

 

「・・・全くだ!」

「へ?」

 

 

その魔力砲は、私達に届くことはありませんでした。

金色の髪と黒いマントを靡かせて、エヴァさんがそれを弾き・・・いえ、受け止めて、握り潰してしまったからです。

・・・掌から煙出てますけど、大丈夫ですか?

 

 

「私の許可も無く、アリアに触るな若造(フェイト)」

「じゃあ・・・抱かせて?」

「ひ!?」

「よーしわかった。死にたいんだな、そうなんだな、わざとなんだな!?」

「静かにしてくださいマスター、音が入ってしまいます」

「マジメニヤレヨ、オマエラ・・・」

「ふー・・・む? 囲碁指南役に勝てそうだったのじゃが・・・」

 

 

・・・皆、起きてきたみたいです。

見れば、周囲に倒れていた兵士さん達も順次・・・わわわっ。

 

 

私は慌てて、フェイトさんの手から降りました。

・・・何故か、物凄く悲しそうな顔をされました。

ええぇー・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

あー・・・腹立たしいな。

私だってしたことな・・・いや、そうではなくてだな。

 

 

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』。

なるほど、恐ろしい術だ。

幸せとは、人をこれほどまでに縛る物だったらしい。

 

 

「・・・アリア先生の脱出で、タガが緩んだポヨか・・・」

「ふん、ザジか・・・」

「あの方はザジさんのお姉さんなんだそうです」

「ふん? じゃあ・・・ポヨで良いか」

 

 

ポヨポヨ言ってるしな、それで良いだろう。

 

 

「・・・『リライト』は、止めさせないポヨ。まとめて送るポヨ、次こそは真なる『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』へ・・・!」

 

 

ズンッ・・・とポヨの身体から溢れ出る魔力。

ふん、アレをどうにかするには、それなりの者が残って相手をせねばなるまい。

 

 

「なら、私がやろうかな」

「真名さん」

「遅くなったよ。すまなかったね、先生」

 

 

龍宮真名か・・・確かに、龍宮なら相手になるか。

ふむ、では龍宮を足止めに残して・・・。

私がそう、アリアに言おうとした時だった。

 

 

不意に、ポヨの周囲の瓦礫の下から何かが飛び出してきた。

あれは・・・?

 

 

「ジャンプ地雷?」

 

 

驚いたように言ったのは、龍宮だった。

ああ言う物は、茶々丸かこいつだと思っていたが、違うらしい。

まぁ、設置の時間など無かったはずだしな。

だとすると、誰が。

 

 

「ポ・・・!?」

 

 

7つの地雷が発動したが、爆発はしなかった。

代わりに、重力場が発生し・・・ポヨを押さえ付けた。

そして、動きを止めたポヨの本体の上に圧し掛かった・・・否、降り立った者がいた。

重力場の中にいるため、まさに田中の巨体が押し付けられている。

 

 

「田中さん!?」

 

 

アリアの驚きに満ちた声。

私も驚いた・・・田中はポヨの本体に取りつくと、銃のような形になった腕を押し付けた。

な、何だ、何をするつもりで。

 

 

「無駄ポヨ。銃ならさっきと同じ結果に・・・!」

「射出(ファイア)」

「ポガッ・・・ッ!?」

 

 

ポヨの言葉を遮る形で、田中が何かを撃った。

地面と空気の振動でわかる、凄まじい衝撃。

だが、それよりも凄まじいのは。

 

 

「し、障壁が・・・!?」

「・・・次弾装填シマス」

 

 

ガキンッ、と腕を折り、何かを詰めたかと思うと、またポヨに押し付ける。

・・・アレは、高位魔族の魔法障壁も破れるのか!?

 

 

「・・・対戦車ライフル・・・いや、拳銃か・・・?」

 

 

龍宮が何か言ってるが、全然わからん。

わ、私はそう言うのには疎いんだ。

 

 

「田中さん!」

「ちょ、待てアリア、どうする気だ・・・重力場に巻き込まれるぞ!?」

「アレは超(チャオ)特製の重力地雷です。魔法では逃れられません」

「私の能力なら何とかできるかもしれません! このままだと田中さんが・・・!」

「お前は『リライト』の解除に魔力を温存しなければならんだろうが!」

「でも!」

 

 

でもも何もあるか!

騒いでいる内に、田中の行動は次の段階になりつつあった。

 

 

「射出(ファイア)」

「ポォッ!?」

「射出(ファイア)」

「ぎがっ・・・!?」

「射出(ファイア)」

「ちっ・・・ちょ、ちょっとま」

「射出(ファイア)」

「まぐっ!? ま・・・ま」

「射出(ファイア)」

「まぁ、ああああぁぁああぁ・・・!!」

 

 

一発撃ち込むたびに、ポヨの足元の床に罅が入る。

障壁の破片が、宙を舞う。

よ、容赦が無いな・・・良いことだが。

 

 

「田中さん!!」

 

 

アリアが名前を呼ぶと、ターミネ○ターそっくりなロボットは、一瞬だけこちらを見た。

それから、銃になってない方の手を上げて・・・親指を立てた。

 

 

「『I will be back』」

 

 

必ず戻る――――だそうだ。

英国人のアリアに、伝わらないはずが無いな。

 

 

「カムイ!」

 

 

私が叫んだ時には、すでに灰銀色の巨狼はアリアを咥えて走り出していた。

仕事が早いな!

 

 

「全員進め! ここは田中に任せる!」

「ちょ、エヴァさん何を言って――――――――――!」

「シャオリー!」

「起きている! 全員進め!」

「千草!」

「命令すんな! 行くでお前ら! 月詠も寝たフリすんなや!」

 

 

よし、では。

 

 

「い、行かせないポ」

「射出(ファイア)」

「ぐっ・・・ああああああああああぁああぁぁぁ・・・!!」

 

 

ドズンッ・・・一際凄まじい衝撃が走った後・・・。

 

 

「た、田中さあああぁぁぁんっ!!」

 

 

田中は、ポヨと共に地下に消えた。

 

 

 

 

 

Side ポヨ・レイニーデイ

 

ぐぐっ・・・何ポヨか、このロボットは!

肉体にダメージを負わされるなど・・・何百年ぶりポヨか!?

人間の作ったロボットごときに、こんな力が・・・!

 

 

「いい加減――――――――離れろポヨォッ!!」

 

 

本体の腕を振るって、田中とか言うロボットを振り払う。

学園祭の様子を妹の目を通じて見ていたポヨが、それほどの脅威とは思わなかったポヨ。

流石は、超鈴音の作品と言った所ポヨか。

 

 

田中はジェット噴射で、空を飛んだポヨ。

さっきから随分と、好き勝手にボカボカと・・・!

 

 

「『魔弾の射手』装填・・・・・・射出(ファイア)!」

 

 

さっきとは別の腕が折れて、新しい銃が出てきたポヨ。

でも、今度はただの銃弾・・・な!?

かわしたはずの銃弾が、急激に曲がって・・・!

 

 

「ポッ、ポッ、ポッ・・・!?」

 

 

・・・ち、調子に。

 

 

「乗るなポヨォッ!」

 

 

キュアッ・・・と、魔力砲を撃つ。

それも一撃では無く、連続で3発。

 

 

「回避運動開始シマス」

 

 

急上昇して1発目を回避、そこから旋回して2発目を回避。

しかし3発目が、捉えた。

直撃こそしなかった物の、田中の右半身を削り取って・・・な!?

 

 

「直進するポヨか!?」

 

 

魔力砲の軌道に合わせて、身体を削られながらも前進する田中。

部品が、破片が散って行く中、それでも田中は前進をやめないポヨ。

痛みを感じない、ロボットだからこそできる行動。

しかも背中から折りたたんだ剣――――10m程の大剣――――を抜いて、私に。

 

 

「『斬艦刀』――――――!」

「・・・ロボットなどに!!」

 

 

ロボットなどに、邪魔をされてたまるかポヨ!

怒りと共に、魔力砲を放つ。

田中は大剣を盾代わりにしようとしたが、そんな物で止められはしないポヨ。

勝った・・・!

 

 

大剣が私の放った魔力に飲まれ、消える。

しかし次の瞬間、私は表情を引き攣らせたポヨ。

上半身だけになった田中が、爆煙の中から姿を現したから・・・。

 

 

ガシッ・・・と、私の身体が、田中の残された腕で掴まれたポヨ。

この距離を!?

 

 

「ワイヤー・・・ロケットパンチ!?・・・ガッ!?」

 

 

キュラララッ・・・と音を立ててワイヤーが巻き戻り、田中の半分以下になった身体が私の身体に衝突したポヨ。

互いの額が打ち合い、間近で互いの目を見ることになる。

罅割れたサングラスの向こう側と、目を合わせる。

 

 

不意に視界に入ったのは、田中の残った左胸の部分。

右胸は無くて・・・いや、とにかく。

黒服が破れ、黒の革ジャケットが見える。

胸元には・・・い、苺のアップリ・・・ケ?

 

 

「ガガ・・・ガ、『虹玉』・・・ガガ、射出シマス・・・ガガガ」

「な、何?」

 

 

その時、田中の口から何かが転がり落ちたポヨ。

下へ落ち続ける私と田中の前で、それは。

カッ・・・と、光を放ったポヨ!

 

 

閃光弾!?

目が・・・魔族の私に、こんな物が・・・!

こんな・・・こんな!

 

 

「ぐ、ぅぁぁあああああぁぁあぁ・・・!」

 

 

両手で目を押さえると、田中がより強く私の身体にしがみついてきたポヨ。

振り・・・ほどけないポヨ!

そして田中の身体が、徐々に熱を持って・・・ヤバいポヨ!

 

 

「こ・・・このままでは、お前も壊れる・・・いや、死ぬポヨよ!? それで良いポヨか!?」

「問題・・・ガガ・・・アリマセ・・・ガ・・・ン」

「こ、これだからプログラムで動くロボットは・・・! じ、自分が倒れてまで相手を倒すなんて・・・そんな結果・・・勝利に、いったい、何の意味があるポヨ!?」

「ガガ・・・問題・・・ガガ・・・アリ、マセ・・・ガガ」

 

 

キュイィィン・・・と、電子音が聞こえる。

見えないことが、かえって・・・。

 

 

「・・・『I will be back』・・・」

「はぁ!?」

「ガガ・・・『I will be back』・・・!」

「こ、壊れたラジカセじゃあるまいし・・・!」

「『I will be back』・・・ガガ、ガ、ピ・・・魔力炉、臨界突破・・・ピー!」

「う、うわあああぁぁああぁぁああぁあああああああああああっ!?」

 

 

不吉な単語に、私は悲鳴を上げたポヨ。

今の私には、身を守るべき魔法障壁が存在しな

 

 

「『Hasta la vista,baby』」

 




茶々丸:
茶々丸です、ようこそいらっしゃいました(ペコリ)。
今回は、私達が眠っている間の現実の話でした。
その後は、私の弟が大活躍です。

さて、ここで弟の使った機能を確認させて頂きます。
以前にも説明した物ですが、新しい物もあります。

『ドア・ノッカー』(パンプキン・シザース):司書様提案。
ポヨさんの障壁をブチ抜いた装備。零距離であることが条件です。
13ミリ対戦車拳銃です。

『斬艦刀』:黒鷹様提供。
刀身10mの巨大剣。厚みがあるので盾にも使えます。

『魔弾の射手』(HELLSING):黒鷹様提供。
本来はマスケット銃。ホーミング能力を持った銃弾を撃ちます。

『虹玉』:アプロディーテ様
込められた魔力分、相手を失明させる閃光弾です。

『I will be back(私は戻ってくる)』:黒鷹様提供。
復活の言葉です。何度やられても、何度破壊されても、何度ボロボロにされても、この言葉を唱えるたびに、何度でも何度でも蘇ることが可能です。
・・・機能と言うよりは、精神的な物のような気がします。

『Hasta la vista,baby(地獄で会おうぜ、ベイビー)』
自爆コードです。自らを犠牲にして敵を確実に滅します。
ありがとうございます(ぺこり)。

なお、作中で登場した竜騎兵隊副長の名前、カールィ・エドワールドシュ・バイオリィは、伸様提案です。
ありがとうございます(ぺこり)。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。