魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第23話「踏破」

Side アーニャ

 

ちょ・・・ちょちょ!?

何よ、あの子・・・フェイトっぽいけど、かなり違う!

 

 

「はん・・・数だけは多いな。まぁ良い、手早く済まそう」

 

 

今、私やシオンさん達は外にいる。

避難所の出口から出てきたわけじゃなくて、あの・・・クゥァルトゥムとか言う男の子が、避難所の天井を吹き飛ばしたの。

召喚魔を吹き飛ばした結果なんだけど、無茶苦茶よ!

 

 

「ち、ちょっとアンタ! 待ちなさいよ!」

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

こ、声をかけても無視するしぃ――――っ!!

私はその子を追いかけて、建物の壁を蹴って、屋根の上へ。

 

 

「何事ですか・・・って、アーニャさん!?」

「うぉ、無事だったんスか、シャークティー先生・・・って、オイ! どこに行くんだ爆裂娘!」

 

 

避難所の出入り口から慌てて出てきたのは、シャークティー先生。

背中に、春日さんがいる・・・良かった、無事だったんだ。

 

 

「ゴメン、ロバート! 私ちょっと行ってくるわ!」

「はぁ!?」

 

 

ロバートの声を振りきって、屋根の上を走る。

上を見れば、クゥァルトゥム君が何か蜂みたいな形をした物を無数に生み出して、召喚魔を次々と撃ち落としていた。

凄い・・・けど!

 

 

その蜂みたな奴、見た目よりも威力がずっと高いのよ。

爆発に巻き込まれて近くの建物が崩れたり、火事になったり・・・って、嘘!?

 

 

「『アラストール』ッ!」

 

 

瞬動で火事の場所まで行って、周辺の空間から熱を奪い、鎮火させる。

奪った熱は、私の身体強化に使わせてもらうわ。

それを繰り返しながら、私はクゥァルトゥム君を追いかける。

 

 

「・・・ここにいたか、アーニャ!」

「げ、アンタは!」

「無事か!? 怪我は無いか!? あったら環が治すぞ!」

「また、面倒なのが来たわね・・・!」

 

 

別に身の危険が増えたとかじゃないけど、あんまり良い思い出が無いわ。

屋根の上を走る私の横に現れたのは、フェイトガールズの一人、焔。

よくわかんないけど、私の世話を焼きたがるの。

 

 

私の傍にはもう一人、黒髪の猫耳の女の子がいた・・・確か、暦さん?

目礼すると、返してくれた。

この人は、割と普通なのよね・・・。

 

 

「何で、ここに・・・と言うか2人だけ? 他の3人はどうしたのよ?」

「調はリゾートエリア、栞は総督府にいる! 環は、そこにいるだろう?」

「へ?」

 

 

焔が上を指差すと、私の周りは黒い影に覆われた。

見ると・・・大きな竜が低空で飛行していたわ。

たまにブレスや尻尾で、召喚魔を倒したりしてる。

 

 

「・・・え、アレ!?」

「うん? 言って無かったか? 環は竜族だ」

「・・・・・・あ、そう」

 

 

私はもう、驚くのをやめた。

だってもう、驚くことが多すぎるんだもの・・・。

知り合いがドラゴンでしたとか、もう良いわ。

・・・そう言えば、ドロシーはどうしてるかしら。竜を見たらルーブルを思い出したわ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

縦坑・・・すなわち上の階層へ行くための階段なりエレベーターなりがある所を目指して、走ります。

とは言え、私はカムイさんの背中に乗っているので、それ程の負担ではありません。

むしろ振り落とされないように気をつけるべきでしょう。

ですが、他の方々はどうかと言うと・・・。

 

 

「む、何かご命令でしょうか、女王陛下」

「「「ご命令ですか!?」」」

「い、いえ・・・その、頑張りましょう」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)!!」」」

 

 

シャオリーさんと兵士の皆さんが、普通についてきていました。

まぁ、近衛だったり親衛隊だったり、優秀な人材が集まっているのでしょうけど。

数百人の人間が自分について俊敏に動く様は、何と言うかシュールです。

・・・何故でしょう、一瞬、「ははは、そんなに褒めないでください」と笑うクルトおじ様の顔が。

 

 

「マエヲミナイト、ジコルゾ」

「あ、はい、すみません」

 

 

頭の上のチャチャゼロさんに注意されたので、前を向きます。

・・・頭にナイフを持った人形を乗せた10歳女児(しかも狼に乗ってます)に数百人の男女がついて走る図・・・。

・・・どんな絵ですか、それ。

 

 

「アリア、あんまり後ろを気にするな。心配なのもわかるが、かえって田中を侮辱することになるぞ」

「エヴァさん・・・」

「大丈夫ですアリア先生、私の弟は世界最強です」

 

 

私の前を走るエヴァさんと茶々丸さんが、口々にそう言いました。

エヴァさんは振り向かず、茶々丸さんは私の方を振り向いて。

・・・そうですね、田中さんは世界最強ですもんね。

 

 

「それにしても長い通路だな、外から見た時はそれほど幅があるとは思えなかったが」

「魔法で空間が拡張されているのさ。全ての代の王族の墓を作るには、見た目以上のスペースが必要だったから・・・と聞いている」

「ふん、伝聞か」

「残念ながら、僕らが作ったわけじゃないからね」

 

 

私の左を走るフェイトさんが、そう説明しました。

なるほど、まぁ、お墓がいくつあるのかは知りませんが。

ウェスペルタティア王国の霊廟、「墓守り人の宮殿」と言う名前なだけあって、お墓がたくさんありますから。

良く考えたら、私のお墓ってここに出来るんでしょうか・・・?

・・・まさかですよね。

 

 

「・・・レーダーに感アリッ!」

 

 

茶々丸さんがそう叫び、全体に警戒を促しました。

視線を向けると、縦坑があると思われる踊り場の前で、数体の召喚魔の姿が見えました。

・・・本番、と言うわけですね。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

ふん、何だか知らんが、先頭が私だったのが運の尽きだな。

私は片手を掲げると、攻撃魔法を準備する。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)闇の199矢(オブスクーリー)』!」

 

 

私が放った199本の闇属性の矢が、縦坑への入口を塞いでいる数匹の召喚魔に直撃した。

本来であれば、蜂の巣になっているはずなのだが・・・。

パシイィッ、と小気味良い音を立てて、弾かれた。

ば、バカな!? この私の魔法が・・・!

 

 

「『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』持ちは結構、魔法抵抗力が高いんだ。アリアも気をつけると良い」

「は、はぁ・・・そうなんですか」

「そう言うことは先に言え! 私にだ!」

 

 

若造(フェイト)が、後ろでアリアにだけ教えていた。

いや、まぁ、別に遠距離が効きにくくとも、近距離から殴れば良い。

私がそう思った時、傍を2人の人間が駆け抜けて行った。

 

 

「はっはぁっ、頂いて行くでぇ!」

「お先にです~」

 

 

小太郎とか言う犬っころと、月詠とか言う刃物娘だった。

2人は召喚魔に肉薄すると、それぞれ拳と刀に気を練り込んだ。

 

 

「『狗音爆砕拳』! ・・・ほんでもって」

「にとーれんげき、ざ~んが~んけ~ん! ・・・加えて~」

「『黒狼!」「ざ~んて~つせ~ん』!」

 

 

それぞれ一体を倒した後、小太郎が狗神を月詠の刀の刀身に纏わせ、それを月詠が振るう。

螺旋状に繰り出された黒い斬撃が、残った『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』持ちをズタズタに引き裂いた。

ほぅ、やるじゃないか・・・って、私の活躍の場が!?

 

 

「まだ来ます、マスター!」

「お、おぅ!」

「数、計測不能! 一万よりも上かと!」

 

 

・・・ん?

今、私、従者に命令されたような気がするのだが・・・。

 

 

「とにかく、私が前面に出て数を減らす! なるべく減らすが、お前達の女王はなるべく戦わせずに上へ行く必要がある! 気張れよ人間共!」

「半魔族(ハーフ)の私は気を張らなくとも良いのかな?」

「マスター、私はどうなるのでしょう」

「僕も構造が違うんだけど」

「お前らは私からすれば全員が人間だ、バカ共!」

 

 

後ろの兵達に言ったつもりだったのだが、龍宮や茶々丸や若造(フェイト)が返事をしてきた。

茶化すな、バカ共が。

とにかく・・・。

 

 

「突破する、アリア!」

「はい! 全員、続いてください!」

 

 

アリアの声に、後ろの兵達が、地震が起きそうな程の声で応えた。

・・・あ、アリアのことを呼ぶ時に、「陛下」ってつけるの忘れたな。

ヤバいかもな・・・ま、まぁ、気を付けるとしよう、うん。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「全員、続いてください!」

「女王陛下のご命令だ――――――全員、続けぇ!」

「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ―――――――――っっ!!」」」

 

 

アリア先生の声に、シャオリーさんと兵士の方々の怒号が答えました。

続けと言うことですが、実際には先頭のマスターが取りこぼした召喚魔をアリア先生に近付けないために、ある程度は前に出る必要があります。

実はマスターは、局所的な殲滅戦は得意ではありません。

上へ上がるための階段を巻き込めないので、殲滅魔法が使えないのです。

 

 

「ふぉっふぉっふぉっ、旧世界はガダルカナル、60年前に米軍から<ナイト・デビル>と呼ばれたのはこのワシよぉっ!」

「鉄心隊長を始めとする我らのチェーンソー殺法の手にかかれば、召喚魔などただの木材!」

「第18陸戦部隊『テキサス・チェーンソー』の力!」

「見ぃせてやるぜぇっ!」

 

 

何故か旧世界のチャーンソーを隊の正式装備にしている『テキサス・チェーンソー』。

ちなみに隊長は柳山 鉄心と言う高齢の方で、旧世界から移住してきた珍しい方です。

他にも、多くの方が参加しているのですが、ある意味、一番目立っている部隊かもしれません。

実際、チェーンソーで木材でも切るかのように召喚魔の首を切り落としています。

 

 

「・・・キミの部下は、個性的なのが多いね」

「良い人達ですよ?」

 

 

フェイトさんの言葉に、アリア先生がかすかに笑顔を浮かべて答えます。

確かに、良い方ばかりだとは思います。

基本的にクルト宰相代理を通していますので、優秀な方達なのも確かです。

ですが・・・。

 

 

「『ギャラガー忍法・微塵隠れ』!」

 

 

広い螺旋階段を駆け上がっている最中、階段の無い真ん中の空間で爆発が怒りました。

ゴゥッ・・・と爆炎が巻き起こり、召喚魔を10体ほど吹き飛ばします。

 

 

「うお!? レヴィさんが自爆しました!」

「はぁ!?」

「こんな序盤でですか!?」

「心配はいらないのかしらぁ~、今のは自爆の術なのだわぁ」

「「「何、その技!?」」」

 

 

小麦色の肌をした狼族の女性、レヴィ・ギャラガーさんが自爆で敵を倒すと言う、独特の戦い方をしていました。

・・・それは、自爆とは言わないのでは?

何でも、旧世界で言う所の「忍者」の一族の出身らしいのですが・・・。

 

 

「・・・アリア先生!」

「・・・っ!」

「ふん・・・」

 

 

カムイさんの背に乗っているアリア先生に、召喚魔が向かいます。

アリア先生が剣を構え、フェイトさんも片手を上げて迎撃の構えを取りますが・・・。

 

 

「ちぇえるぃいあぁぁっ!!」

 

 

般若の仮面を付けた、髪も肌も着ている着物も白、さらに武器の刀の刃まで白い女性が、その召喚魔の顔の側面を蹴り、壁にめり込ませました。

召喚魔がメリッ・・・と言う嫌な音を立てます。

・・・私とアリア先生達は、その下を通過します。

 

 

「私の目の届く所で、陛下の行く手を阻もうたぁ良い度胸してんじゃねーのよ、あぁんっ!?」

「霧島副長、今日もノってますね!」

「火炎放射器って、密集してると使いにくいんですよねー」

 

 

後ろから、そんな声が聞こえます。

・・・今のは親衛隊副長とその部下達、通称「斬り込み隊」の人達のようですね。

 

 

「・・・個性的だね」

「い、良い人達なんですよ?」

 

 

フェイトさんの言葉に、アリア先生が若干引き攣った笑顔で答えます。

個人的には、ウェスペルタティア軍の錬度の高さは異常な気がします。

まぁ、親衛隊や近衛は人種・宗教・主義を問わず実力のみで選抜しましたからね。

 

 

・・・そこで、私はレーダーの一部を使って、後方を探ります。

先程はアリア先生にああ言いましたが、弟からのシグナルが途絶えています。

冷静に考えて・・・。

 

 

「・・・茶々丸さん?」

「何でしょうか、アリア先生?」

「いえ、別に何かあるわけじゃ無いのですけど・・・」

「集中しろ、お前達!」

「あ、はい!」

 

 

マスターの声に、アリア先生は私から視線を外します。

ありがたいことです、今は顔を見られるわけには参りませんので。

私は懐から、赤い彩が入っている白く尖った狐のような仮面を取り出しました。

魔法具『ペルソナ』。

武器にも使える、無数のリボンを生み出す仮面を装着します。

 

 

・・・いけませんね。

両目からレンズ洗浄液が漏れて、裏面が汚れてしまいます。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

もう、20分程は駆けたでしょうか・・・?

この螺旋階段も、かなりの距離がありますね。

魔法で空間を拡張でもしているのか、それとも元々が長いのか。

おそらくは、両者でしょうか。

 

 

いずれにせよ、私だけが楽をしているような気がして、とても申し訳ないです。

『リライト』解除に全力を注がせたいと言うエヴァさんの気持ちも嬉しいのですが・・・。

 

 

「突破する!」

 

 

先頭のエヴァさんがそう叫んで、『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』を撃ちます。

螺旋階段の頂上付近にいた召喚魔を吹き飛ばして、私を乗せたカムイさんが跳躍。

10m近い距離を跳んで、スタッ、と着地しました。

 

 

「・・・頂上付近には、召喚魔がいないな」

「ええ・・・」

 

 

確かに螺旋階段の頂上付近には、召喚魔の姿が見えません。

無限階段の下では、未だに戦闘の音が聞こえます。

できれば手伝いに行きたい所ですが、ここで私が戻ると、「いやいや、意味無いから!」とか言われる可能性が極めて大です。

 

 

「陛下、彼らは皆、陛下のために戦っております。陛下は心おきなく、陛下の目的を遂げられますよう」

 

 

いくらかの兵を率いて共に階段を上がって来たシャオリーさんが、いつも通り形式ばった口調で私に言います。

そう言う口調はあまり好きではありませんが、言っていること自体は正論なので、私は頷きます。

 

 

「・・・若造(フェイト)、ここからはどう行く?」

「そこの扉を抜けて行くのが、一番の近道だね」

 

 

お墓を通り抜けると言うのも、少々申し訳ない話ですが・・・。

しかしウェスペルタティアを、ひいては世界を救うためと言うことで、お許し願うとしましょう。

 

 

「・・・行きましょうか」

「ん、開けるぞ」

 

 

ドゴンッ・・・と、全く遠慮せずに、エヴァさんが石造りの大扉を蹴り開けました。

いえ、まぁ・・・良いですけど。

 

 

「待て、何かいる」

 

 

扉を開けた直後、エヴァさんが私達を止めました。

そこは・・・広い空間でした。

 

 

特殊な魔力石で造られた広間、柱も壁も床も、職人によって精巧に設計された物でしょう。

王家の墓と言うのに相応しい、厳かで静かな空気が満ちていました。

そしてその広間の中央に、誰かが立っています。

仮面と、黒いローブをかぶった人間。

 

 

・・・この人・・・?

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視た限り、この人はすでに・・・。

 

 

「ようこそ、ウェスペルタティア王国の諸君」

 

 

その黒ローブの人は、威厳の漂う声で言いました。

・・・この人・・・。

 

 

「デュナミスか・・・」

「おお、3番目(テルティウム)。久しい・・・と言う程でも無いな」

 

 

デュナミスさん・・・ですか。

デュナミスさんは、ザ・・・と、構えをとると。

 

 

「さぁ、次代を懸けて。存分に戦おうぞ」

「・・・!」

「むぅんっ!!」

 

 

デュナミスさんは、拳に黒い影のような物を纏わせて、一瞬で距離を詰めて攻撃を仕掛けてきました。

20m程の距離を、一瞬で。

ヒュゴッ・・・と、拳が迫り、私に―――――。

 

 

「やるのかい?」

 

 

―――――届く前に、フェイトさんが片手で止めていました。

ギギギ・・・と音を立てて、力がせめぎ合っていることがわかります。

眼前のその光景を見て、心の中で溜息を吐きました。

・・・守られてばかりで、最近、出番がありません。

 

 

 

 

 

Side デュナミス

 

遠い・・・。

まさに、私の目の前にいると言うのに。

白髪の少女・・・アリア・アナスタシア・エンテオフュシアまでの距離が遠い。

物理的な距離は問題では無い、目の前のこの少女に、私は触れることすらできない。

 

 

右に吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)、左に3番目(テルティウム)を従えて。

背後に控えている者達も、おそらくは魔法世界有数の実力者と、兵士。

かつて、これ程までの戦力を揃えた存在がいただろうか。

・・・いや、いたな、我らの主、「彼」のみであろうよ。

 

 

「・・・やるのかい?」

 

 

私の拳を片手で受け止めているフェイトが、そう言った。

・・・私はもう一度、目の前の白髪の女王の顔を見る。

 

 

・・・ふむ、幼いな。

サウザンドマスターの息子も幼かったが、こちらも幼い。

当然か、確かまだ年は10。

本来であれば、こんな場所に来るべき年齢では無い。

 

 

「・・・何、そんなつもりは無い。わかっているのだろう・・・?」

 

 

3番目(テルティウム)にそう声をかけた所で、私の身体は拳から消えて行った。

花弁となって・・・限界か。できれば事の推移を見守りたかったが。

6番目(セクストゥム)に再生核を治癒させ、見た目だけは取り繕っていたが・・・。

私は胸を張り、目の前の女王を見下ろした。

 

 

「お初にお目にかかる、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』最後の一人、デュナミスだ」

「・・・アリア・アナスタシア・エンテオフュシアです」

「状況はすでに飲み込めていると思う。あえて説明はしないがこれだけは言える。私は今、儀式を行っている者に敗北した」

 

 

まぁ、元より勝率は低かったわけだがな。

 

 

「こちらのアーウェルンクスを数体、貸そう。儀式を止めてもらいたい」

 

 

私の言葉にザザ・・・水が渦巻き、中から傅いた6(セクストゥム)が姿を現した。

それを見て、女王は目を丸くした。

それから、訝しげに私を見て。

 

 

「・・・貴方達は、むしろ『リライト』を容認するものと思っておりましたが?」

「無論、これが我らの手で行われた『リライト』であれば。しかし、そうでは無い。ならば止める、難しい話ではあるまい?」

 

 

まぁ、今の『リライト』を止められなければ、それはそれで世界は滅ぶ。

ただ、今の2番目(セクンドゥム)に封じた世界をどう扱うかは、不確定要素だが。

下手をすれば、そのまま壊してしまう可能性も無くはあるまい。

今の2番目(セクンドゥム)に命令を下している存在は、さて、誰かな。

 

 

つまりは我らの手で『リライト』を行うために、今の2番目(セクンドゥム)の『リライト』を止めると言う、一見すると意味不明なことになるのだがな。

 

 

「・・・断れば?」

「ふむ? その場合は現在キミの仲間や混成艦隊を援護しているアーウェルンクスシリーズが、キミ達の敵になるだけだ」

 

 

最も、援護されていることは知らないだろうが。

 

 

「勘違いしてもらっては困る。私は従属を申し入れているわけでも、屈服したわけでも無い」

 

 

ぶっちゃけ、我らにはどうしようも無い。

しかし、女王の勢力はそうでは無い。

第三勢力(ウェスペルタティア)を利用して2番目(セクンドゥム)を倒し、かつ将来に備える。

卑怯では無い、これは兵法だ。政略とも言う。

 

 

「・・・混成軍としてどうかはわかりませんが、ウェスペルタティアとしてはそれで構いません」

「ほう」

「その代わり、根こそぎ情報は頂きます」

「ふむ・・・まぁ、良かろう。では『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の遺産を・・・」

「あ・・・」

 

 

・・・む、限界か。

では女王、細かい点は6(セクストゥム)に聞くが良い。

 

 

・・・む? いかんな、声が出ていな

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ふふふ、何故かはわかりませんが仕事中に居眠りをすると言う失態を犯してしまいました。

幸いにして私以外の全員も寝ておりましたので、アリア様に知られることはありません。

後で艦橋の監視装置の映像を差し替えねばなりませんね。

アリア様の前では、私は完璧な「おじ様」でなければならないのです。

 

 

その意味では、あの絡繰さんは油断なりません。

24時間、私の動向を見張っていますからね。吸血鬼より面倒です。

 

 

『クルト宰相代理! 外から敵の召喚魔が!』

「ええ、見えていますよ」

 

 

私は突入時に受けた『ブリュンヒルデ』の損傷を修復すべく、工作班を指揮しています。

アリア様がお戻りになるまでに修理し、かつ艦を守らねばなりません。

 

 

しかし、ここは敵の本拠地。

外にはウヨウヨと召喚魔がいますので、我々の突入口から入って来るのです。

まぁ、彼らにとっては帰還になるのでしょうが。

とにかく、アリア様の座乗艦に触れようなど、言語道断!

 

 

「その身に刻みつけるが良いでしょう!」

 

 

ズダンッ・・・と地面を蹴り、跳躍します。

無数の小型召喚魔の正面に対し、私は野太刀を抜きます。

 

 

「この王国宰相代理、クルト・ゲーデルの名を――――――――――っ!!」

 

 

神鳴流奥義! 斬岩剣・弐の太刀!!

 

 

目前の3体の召喚魔を、まとめて斬り伏せます。

障壁を素通りし、かつ鉄をも斬り裂く斬撃。

動く石像(ガーゴイル)』を斬るなど、造作もありません。

ふふん、しかし随分と数が多いではありませんか。

ならば。

 

 

「受けるが良いでしょう、我が忠義の秘剣・・・!」

 

 

斬岩剣・弐の太刀! 百花繚乱!!

 

 

アリカ様に始まり、アリア様を経て永遠に続く、我が忠義。

それを込めた無数の斬撃が、周囲に群がりつつあった召喚魔共を薙ぎ倒します。

しかし、まだまだですよ。

 

 

斬空閃・弐の太刀! 百花繚乱!!

 

 

斬撃その物を飛ばし、間合いの外にいる召喚魔をも斬り裂きます。

ふふん、脆いですね。

忠義も無く、信念も無く、理想も無く、ましてや守るべき物も無く。

ただ命じられるままに戦うばかりの人形風情には、少々もったいない技ですが。

 

 

「ここから先へは、一歩も、一匹も通しませんよ」

 

 

休むことなく刀を振り、向かってくる召喚魔を叩き斬ります。

さて、背後は私が防ぎますが、シャオリーは上手くやっていますかね。

肉の盾よろしく、身体を張っていると良いのですが。

 

 

「さぁ、可及的速やかに修理を終えるのです! 陛下は貴方達に期待しておりますよ!」

 

 

部下達に命じながら、私は召喚魔を斬り続けました。

さて、覚えていますかシャオリー。

我々の命は・・・。

 

 

 

 

 

Side シャオリー

 

我々の命は、女王陛下のために使ってこそ価値がある。

心得ております、クルト様。

 

 

「初めまして女王陛下、並びにお兄様(さんばんめ)。私は6(セクストゥム)

 

 

デュナミスと言う黒ローブが消失した後、そこにはその配下らしき少女のみが残った。

セクストゥムと言うらしいその少女は立ち上がると、胸に手を当てて女王陛下とフィイト殿に礼をした。

・・・顔の造りがフェイト殿そっくりに見えるのだが、気のせいだろうか?

 

 

「今回、貴女方の案内役を務めさせて頂きます。もちろん、戦闘力もありますのでご心配には及びません」

「・・・フェイトさんの、妹さんですか?」

「造られた順番から見て、一応、そう言う見方も可能かと思います」

 

 

つ、作られた順番?

ず、随分とあけすけに物を言うな・・・その、親に作られた順番だなどと。

女王陛下の情操教育に悪いではないか・・・。

 

 

・・・む。

不意に背後に気配を感じて振り向けば、階段近くの部下が手を振っていた。

来たか・・・。

 

 

「20年前と異なり、魔力溜まりの中心が墓所ではありません。なので、儀式の行われている祭壇は墓所上層外部に設定されております」

「・・・なるほど。そこに行くには・・・?」

「お話中、失礼いたします陛下」

 

 

ザシャッ、と片膝をついて、私は女王陛下に意見を具申する。

具申と言うよりは、報告に近いわけだが。

 

 

「背後から敵が迫っております。ここは我ら近衛が死守いたしますれば、先をお急ぎくださいますよう」

「え・・・」

 

 

女王陛下が振り向く前に、この広間へと至る扉が閉ざされる。

陛下は見ずとも構わない。

女王陛下一行と関西呪術協会、そして護衛のための親衛隊の「白騎士(ヴァイス・リッター)」部隊と第666衛生部隊「銀の福音(シルバー・ゴスペル)」はこのまま上へ行く。

 

 

残りの部隊はここと、上へと続く階段を死守する。

しかしそれを、女王陛下にお伝えする必要は無い。

我らはただ、命令を待てば良い。

 

 

「・・・仕方ありません。行きながら話をしましょう。全員ここから・・・」

「お言葉ですが陛下。誰かがここで敵を止めねば、上層部で陛下の作業に差し障りがありましょう」

「・・・なら、私が残ろうか?」

「エヴァンジェリン殿は<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>奪取、並びに工部省科学技術局特殊現象分析課長としての役目があるかと。他の方々も同様に」

 

 

極端な話、近衛とは言え我々のような一兵卒の代わりはいくらでもいる。

しかし女王陛下やエヴァンジェリン殿のような方には、代わりなどいない。

道徳的な話では無く、能力面での話だ。

 

 

「陛下、どうか我らにご命令を。それある限り、我らは戦うことができます」

「・・・」

「・・・・・・お優しい陛下」

 

 

私は数秒間、目を閉じた後、その場に立ち上がった。

女王陛下達に踵を返し、広間に入っている兵達に進むよう合図を出す。

狭い通路を、200人近い人間が慌ただしく動いて行く。

扉の向こうでは、近衛の100人が戦闘を始めたようだ。

 

 

金属音が響く、扉も近く破られるだろう。

優秀な仲間達だ、やられはせずとも数の暴力の前には、防ぎきることは難しいだろうから・・・。

 

 

「全員!」

 

 

声。

陛下の声に、足を止める。

 

 

「全員、私達が目的を達するまで生きていなさい!」

「・・・い」

「・・・ウェスペルタティアの騎士は、命令を違えないのでしょう?」

「・・・仰せのままに(イエス・ユア・)、女王陛下(マジェスティ)・・・!」

 

 

これで、戦える。

生きて見せよう、それが命令ならば。

 

 

背後で人が移動する音が響き、それもすぐに無くなる。

10数名の近衛の騎士を従えて、私は広間と下層への階段がある通路とを隔てる扉の前に立つ。

その扉に、大きな罅が入る。

しかし笑みすら浮かべて、私は扉を見上げる。

 

 

「ふん、王家の墓だと言うのに、不作法な連中だな」

 

 

そう言うと、部下達も笑う。

緊張や恐怖が皆無なわけでは無い、むしろ緊張しているし、怖くもある。

だが我々は、女王陛下の計画を信じている。

世界は救われる、必ずだ。

勝利は、約束されたも同然なのだ。

 

 

先代のアリカ女王の時、我らは肝心な時に何もさせてもらえなかった。

命令も無く、力も無かった。

だが今は命令がある、20年前の自分よりも強い私がいる。

 

 

「・・・では、行くか」

 

 

買い物にで行くような調子で私が言った直後、扉が破られ、無数の召喚魔が突入してきた。

私達は、剣を振り上げて。

 

 

「近衛騎士団! 私に続けええぇぇぇ――――――っっ!!」

「「「うぅぉおおおおおおおおおぉぉぉ―――――――っっ!!」」」

 

 

女王陛下の、名の下に。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

さて、私の役目は基本的にアリア先生の護衛なわけだ。

とは言え頭数は十分揃っているし、王子様と吸血鬼までいる。

そこまで私がいなければならない理由と言うのも、まぁ、無い気もするね。

『リライト』に関しては、私は役に立てなそうだし。

 

 

それでも仕事は仕事として、やるけどね。

アリア先生に万が一があれば、宰相代理に処刑されかねないし。

あと、お給金はアリア先生が出してくれているわけだし。

 

 

「祭壇中央部に<黄昏の姫御子>が安置されていますが、コレを動かすと『リライト』が発動した際に人間は荒野に投げ出されてしまいますのでご注意を」

「そもそも、発動させなければ良いだろう?」

「術式がすでに稼働していますので、あまり不用意に動かすと私にも何が起こるか・・・」

 

 

階段を駆け上がりながら、灰銀色の狼に乗ったアリア先生とエヴァンジェリンが、あのフェイト似の女と話してる。

セクストゥム、だったかな?

 

 

どうも、『リライト』の止め方自体を知っているわけでは無いらしい。

まぁ、『リライト』発動を目的に計画を立てているなら、止め方を考慮していないのは当たり前か。

止めると言う状況を想定していなかったのだろう。

 

 

「す、すまんな小太郎・・・」

「えーって、えーって、階段キツいし、しゃーないって」

 

 

私のすぐ後ろに、関西呪術協会の面々がいる。

小太郎と言う名前の少年が、関西呪術協会のリーダーの女を背負って走っている。

まぁ、あの人は戦闘向きじゃないし、何より小太郎本人がどことなく嬉しそうだから、良いのだろう。

別に遅れているわけじゃないから、責める理由も無い。

 

 

関西呪術協会の面々の後ろには、『リライト』阻止組を護衛するための兵士が続いている。

士気は高いし、有能だ。

すでに30分ほど駆け上がっているが、息一つ乱していない。

 

 

「龍宮さん!」

「・・・!」

 

 

不意に、茶々丸が私に声をかけてきた。

意図を察した私は、螺旋階段から離れて、横の開けた空間に出る。

時間を置かずに、ジェット噴射で浮いた茶々丸が私の隣にやって来た。

 

 

「茶々丸さん!? 真名さん!?」

「大丈夫です、アリア先生」

「先に行っておいてくれ、すぐに追いつくさ」

 

 

灰銀色の狼の背から身を乗り出すアリア先生に、私と茶々丸は笑みを返す。

アリア先生は何か言いたげだったが、先頭のエヴァンジェリンに何か言われたのだろう、すぐに前を向いた。

・・・どうでも良いけど、頭に人形を乗せたままだぞ?

狙っているのだとすれば、末恐ろしいね。

 

 

そんなことを考えながら、私は魔眼で下を見る。

下層から、召喚魔の群れが見える。

シャオリー達が取りこぼしたか、新たに発生したか・・・。

 

 

「・・・イエス、マスター。必ず・・・」

 

 

念話でもしているのか、茶々丸が何かを呟いていた。

まぁ、こういう状況でやる話と言えば、そんなに種類は無いだろうけどね。

 

 

ジャキッ、と、使い慣れた拳銃を両手に構える。

私は空中で飛行したまま、茶々丸はジェット噴射に時間制眼があるから、適当な場所に降りて大きなライフルのような物を構えた。

・・・どこに持っていたんだ?

まぁ、私も異空弾倉とか持ってるけど。

 

 

「さて、まぁ・・・」

「狙い撃ちます」

「・・・また、台詞をとられた」

 

 

少し寂しい気持ちになりながら、私は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

Side エルザ

 

優勢なのはどちらか?

お父様にそう問われれば、私は迷うことなく、こう答えるでしょう。

 

 

それは私ですわ、お父様、どうか私を褒めてくださいまし。

 

 

そう、答えるでしょう。

そして私は、お父様のご寵愛を頂くことができる。

お情けを頂戴することができる。

エルザ(わたし)がお父様の所有物(モノ)であると言う徴を、打ち込んで頂ける。

 

 

「・・・鬱陶しい!」

 

 

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を剣に見立てて、ネギに振り下ろす。

ガシィンッ、と甲高い音を立てて、ネギの腕がそれを受け止める。

交差させたネギの両腕が、ミシリ、と音を立てたのを感じる。

私はそのまま力任せに鍵を振り切り、ネギを後退させます。

 

 

バランスを崩した一瞬を狙って、懐へ。

鍵を頭上に構えてネギの腕のガードを上に弾き、もう片方の腕の肘を腹に撃ち込む。

例え「闇の魔法(マギア・エレベア)」で身体を魔法化していても関係無い。

その電撃は、私の障壁を抜けることはできないのですから。

 

 

「かっ・・・!」

「ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

ネギの身体が浮きます。

ヒュオッ・・・と風を切るように身体を返して、ネギの背中に手を触れます。

 

 

「『百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ)』」

 

 

<闇>のアーウェルンクスとしての魔法を使用し、影の槍を至近距離で放ちます。

これで・・・。

 

 

「・・・!」

右腕解放(デクストラー・エーミッタム)

 

 

バカな・・・!

今のタイミングで、私の魔法をかわせるはずが。

 

 

「『雷の(ヤクラーティオー・)投擲(フルゴーリス)』!」

 

 

遅延呪文(ディレイ・スペル)・・・いえ、「闇の魔法(マギア・エレベア)」の装填魔法。

放たれた雷の槍は、しかし私の障壁を貫くことはできませんでした。

 

 

「何故・・・かわせるはずの無いタイミングだったはずですが」

「・・・うん、かわせなかった」

 

 

そう言って立つネギの右の脇腹に、血が滲んでいました。

脇腹だけでなく、肩、足、頬など、至る所に切り傷があります。

致命傷を避けただけ、ですか。

しかしそれでも、驚異的なスピード、いえ、先読み・・・?

 

 

・・・先を、読む?

・・・・・・。

 

 

「ラスオーリオ・リーゼ・リ・リル・マギステル」

「・・・ラス・テル・マ・スキル・マギステル」

 

 

片腕を上げ、始動キー・・・厳密には、<呪紋>の発動キーを紡ぎます。

火の精霊を強制的に従わせ、魔法を撃ちます。

・・・右から22発、左から15発、上から12発。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)・連弾《セリエス》・火の49矢(イグニス)』」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)・連弾《セリエス》・光の33矢(ルーキス)』!」

 

 

思考した通りの軌道を通って、火属性の魔法の矢がネギに向けて殺到します。

そしてそれらに対し、ネギは的確に魔法の矢を撃ち、迎撃します。

数が私よりも少ないですが、そこは「闇の魔法(マギア・エレベア)」の機動力でカバーしています。

 

 

・・・やはり、読まれています。

つまり。

視線を巡らせると、祭壇にあるべき姿が一つ、見えません。

近くには、いるのでしょうが・・・。

 

 

「・・・ああ、忌々しい・・・」

 

 

・・・アノオンナ。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

『だ、大丈夫ですか、ネギせんせー・・・?』

 

 

は、はい、大丈夫です、のどかさん。

声に出すと気付かれるから、頭の中で考える。

それで、のどかさんには通じるはずだから。

 

 

エルザさんとの戦いが始まって少しした頃から、のどかさんが念話で話しかけてきた。

いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)』。

あのアーティファクトで、のどかさんはエルザさんの思考を読んで、僕に教えてくれてる。

流石に全部の動きにはついていけないけど、凄く助かってる。

 

 

のどかさんの助けが無ければ、たぶん、10秒も保たなかったと思う。

近くに隠れてるはずだけど・・・。

のどかさんがどうして起きれたのかは、わからない。

僕が起きた影響か、術が不完全だったのか、それともエルザさんが術に集中できなくなったからか・・・あるいは、ザジさんがのどかさんも起こしたか。

 

 

「・・・ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト・・・」

 

 

その時、エルザさんが消えた。

いや、影の中に沈んだんだ。

転移・・・どこに。

僕がそう思った瞬間、祭壇の一部が爆発した。

 

 

100mくらい離れた位置、柱。

周囲の床や柱を薙ぎ倒して・・・黒い閃光が走った。

 

 

「・・・!」

 

 

直感的に、僕はそこに向けて跳躍した。

術式武装(アルマティオーネ)疾風迅雷(アギリタース・フルミナス)』は、攻撃力はそれ程じゃないけど、機動力は高い。

すると、いた。

エルザさんが、のどかさんの首を絞めて、片手を振り上げ・・・。

 

 

「うぅああああああああぁぁぁぁぁ―――――――っ!!」

 

 

叫んで、無理矢理に割って入る。

次の瞬間、右肩に衝撃。

・・・そう言えば、首都のゲートでフェイトにやられたのと、同じ場所だ。

そんなことを、考えた。

 

 

「・・・まぁ、順番の違いなので、構いませんが」

「あっ、あっ・・・ああああ、あ・・・」

 

 

前から、どこか呆れたエルザさんの声。

後ろから、引き攣ったようなのどかさんの声。

大丈夫です、のどかさん。

・・・まだ、通じてるかな。

 

 

ゴプッ・・・と、口から血が流れる。

右腕が、熱い。何かが這い上がって来るような感覚・・・。

 

 

「・・・つか、まえ、た・・・!」

「は?」

 

 

僕の右肩に刺さったままのエルザさんの腕を、右手で掴む。

もう片方の腕は、鍵を持っていて使えないよね?

 

 

「な」

「うああぁぁあっっ!!」

 

 

渾身の魔力を込めた左の拳を、エルザさんの顔に叩き込む!

ダメージは、たぶん障壁を突破できていない。

でも衝撃は伝わったのか、エルザさんの身体が吹き飛ぶ・・・!

ゴゴンッ、と音を立てて、床を転がり・・・すぐに起き上がる。

 

 

・・・あ、ダメージはゼロ、だね。

こ、困ったなぁ・・・。

 

 

「ね、ネギせんせぇ―――っ! か、肩が、肩がっ・・・!」

「だ、大丈夫です、魔力で組織閉鎖、してるんで・・・」

 

 

・・・実の所、痛みを感じない。

血はすごい勢いで流れているけど、痛く無い。

その代わり、ギチギチと音を立ててる。

・・・不味い、かな。

 

 

「・・・」

 

 

エルザさんは起き上がりはしたけど、床に膝をついて、俯いたままだ。

顔を押さえてるけど・・・ダメージは通っていないはず。

今の内に、のどかさんを・・・と思った、その時。

 

 

「・・・状況が読めないのですが」

 

 

懐かしい声を、聞いた気がした。

祭壇の入口、階段の上。

そこに、彼女はいた。

色違いの瞳、白い髪。

彼女はどこか本当に困ったような顔で、僕とのどかさん、そしてエルザさんを見た。

それから、可愛らしく首を傾げて、言った。

 

 

「とりあえず、お三方は私の敵と言うことで、よろしいのでしょうか?」

 

 

僕の妹。

・・・アリアが、そこにいた。

 

 

アリア、僕・・・。

キミに、言いたいことがあるんだ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

茶々丸さんや真名さん、シャオリーさんや田中さん、クルトおじ様・・・いろいろな人の助けを借りて、私達はどうにか目的地に達することができました。

「墓守り人の宮殿・上層大祭壇」。

広々とした祭壇の中央に、明日菜さんらしき人影が見えます。

 

 

さて、では行こうと言う段になって・・・。

私は、ネギと再会しました。

 

 

「とりあえず、お三方は私の敵と言うことで、よろしいのでしょうか?」

 

 

・・・と、言ってはみた物の、さてこれはどう言うことでしょう?

状況が読めないのですが。

と言うか、あの黒髪の女の子は誰ですか?

『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視た限り、人間では無いようですが。

・・・何ですか、あの滅茶苦茶な術式構造。

 

 

そしてネギはまたどうして、肩からダクダクと血を流しているのでしょうか。

と言うか、戦艦と一緒に沈んだはずじゃ・・・私の涙を返してください。

・・・まぁ、生きてたってことですかね。

 

 

「・・・アレは何だい?」

「アレは2番目(セクンドゥム)の成れの果てです、お兄様(さんばんめ)

「ああ・・・」

 

 

後ろでは、フェイトさんとセクストゥムさんが仲良く(?)会話をしています。

知り合いなのでしょうか・・・。

 

 

「大筋には関係ありませんので、排除させて頂きます・・・お姉様(にばんめ)

 

 

セクストゥムさんが両手を広げると、セクンドゥムさんとやらの身体が、四角い水の塊に覆われました。

・・・術式展開、速いですね。

 

 

「こおれ」

 

 

フ・・・と息を吹きかけるような仕草をした直後、その水の塊は凍りつきました。

<水>のアーウェルンクス、フェイトさんの妹さん。

少々、感情が乏しいようですが・・・。

トンッ・・・と、フェイトさんがセクストゥムさんを横に押しやりました。

 

 

「・・・な」

 

 

表情は変えずに、驚いたような声を上げるセクストゥムさん。

しかし彼女のいた場所の床から突然、黒い槍のような物が飛び出してきました。

影の、槍。

その直後、先程の黒い髪の女の子、セクンドゥムさんが床から飛び出してきました。

床の、影から。

・・・影使いですか!

セクンドゥムさんが、セクストゥムさんに拳を振り下ろ・・・危ない!

 

 

「手を出すなよ、若造(フェイト)」

 

 

しかしそのセクンドゥムさんの拳は、エヴァさんが受け止めていました。

見ただけでわかる、強大な魔力の込められた拳。

それをエヴァさんは、より強大な魔力を込めた掌で受け止めています。

バリッ・・・と、2人の手が触れている部分がスパークしています。

 

 

「きさ、ま・・・!」

「ふん、その鍵が<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>か? ならそれを奪うのが私の役目なのでな――――――」

 

 

ニィィ・・・と笑みを浮かべたエヴァさんは、もう片方の拳をセクンドゥムさんの顔面に叩き込みました。

もの凄い音を立てて、セクンドゥムさんが吹っ飛びます。

何度か柱や床にぶつかりながら――――――祭壇の下の空間に、転がり落ちて行きます。

 

 

「10分以内に奪ってくる、準備をしていろ」

「あ、はい。お気をつけて、エヴァさん」

「誰に言ってる・・・私は最強の大魔法使いだぞ? あんな小娘に遅れは取らんよ」

 

 

軽く微笑んで、エヴァさんは祭壇の下へと向かって跳躍・・・つまりは飛び降りて行きました。

・・・今、フラグを立てられたような。

 

 

「・・・千草さん、調査を始めて頂けますか? フェイトさんは陰陽術もご存知ですよね? できれば、晴明さんと一緒に千草さんを手伝って上げて欲しいのですが・・・?」

「・・・」

「・・・あの、お願いしたいのですが・・・」

「・・・・・・・・・わかった」

 

 

・・・今、何故かなりの間が開いたのでしょう。

と言うか、無表情なのに嫌そうに見えたのは何故でしょう。

でも晴明さんがもうすぐ寝ちゃうので、急がないといけませんし。

 

 

「じゃあ、セクストゥムさんは私と一緒に。<銀の福音(シルバー・ゴスペル)>隊も私と一緒に来てください。<白騎士(ヴァイス・リッター)>隊の方々は祭壇各所に展開して警戒をお願いします」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)、女王陛下(マジェスティ)!!」」」

「わかりました」

 

 

・・・指示を出しながら、不意に寂しくなりました。

エヴァさんも、茶々丸さんも、田中さんも傍にいません。

そのことを実感して、少し寂しい気持ちに・・・。

 

 

「ケケケ、オレガイルダロ」

「・・・そうですね、チャチャゼロさんがいてくれて嬉しいです」

「テレルゼ」

 

 

フェイトさんや晴明さん、千草さん達に兵士の皆さんもいます。

カムイさんも・・・と、傍の狼の頭を撫でます。

 

 

「ここまで私を運んでくれて、ありがとうございます」

 

 

私の頬に鼻先を擦りつけてくるカムイさんをもう一撫でして、私は歩き出しました。

とりあえず、祭壇の中央へ・・・。

 

 

「ね、ネギせんせーを助けてください・・・!」

「・・・・・・宮崎さんですか」

 

 

途中、当然と言うか何と言うか、ネギとすれ違います。

何だか、久しぶりに顔を見た気がしますね・・・ネギも、宮崎さんも。

ネギは、宮崎さんを背にして立っています。

肩から凄い勢いで出血してますが、その割には元気そうな・・・?

 

 

・・・嫌な術式が、視えますね。

コレは・・・奇妙な模様が、右腕、顔の右半分に浮かんでいます。

服で視えませんが、右足にも浮かんでいるようですね。

何でしょう、急性魔素中毒・・・?

いずれにせよ、芳しくありませんね。

 

 

「女王陛下、時間がありません。残り時間は1時間3分しかありません」

「・・・あ、はい、そうですね」

「アリア先生! 何で・・・」

「良いんです、のどかさん」

 

 

・・・あの、私が悪者みたいになるので、そういう会話、やめて頂けませんか?

バカバカしいですね、さっさと行きましょう。

 

 

「アリア・・・」

「申し訳ありませんが、忙しいので」

「アリア、僕、ずっと前からアリアに言いたいことがあったんだ」

 

 

相変わらず、空気とタイミングと場所を考えてくれない人ですね。

果たしてそれは、今、聞かなければならないことなのでしょうか。

などと思いつつ歩を進め、ネギの横を通り過ぎようとした、刹那。

 

 

「僕は、アリアのことが・・・」

 

 

ネギは、「前から言いたかったこと」とやらを、口にしました。

 

 

 

       「大っ嫌いだ」

 

 

 

・・・ぶっとばして良いですか?

シンシア姉様―――――――――――。

 




アリア:
アリアです。
今回は、祭壇までの道を駆け上がるお話でした。
本文中でも書きましたが、最近の私は、何と言うかチヤホヤされすぎな気がします。
麻帆良に行くまでは特にそうですが、何でも自分の力でやっていたはずなのです。しかし今や、自分一人で何かをしよう物なら、怒られます!
いえ、わかりますよ?
『リライト』解除の可能性が私の右眼にかかっている以上、私には無理はさせられない・・・と言う理屈はわかります。
でも、まさか個人戦ゼロでラストダンジョンまで行くとは思いませんでしたよ・・・!


今回登場した新キャラ、部隊などの解説をします。

伊万里様提供のレヴィ・ギャラガーさん。
お婿さん募集中の、狼族の魔法くのいちの方です。

黒鷹様提供の「親衛隊」。
「テキサス・チェーンソー」隊:
柳山鉄心さんが隊長のチェーンソー専門部隊です。

「斬り込み隊」:
親衛隊副長、霧島知紅さんが隊長を兼務。正式名は「剣舞隊」です。

「白騎士」隊:
親衛隊の特殊部隊です。

「銀の福音」隊:
医療・広範囲魔法の専門家部隊です。

ありがとうございます。


アリア:
次回は、『リライト』の調査と、<最後の鍵>奪取。
そして・・・旧世界。
では、またお会いしましょう。

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