魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第25話「錯綜」

 

Side 6(セクストゥム)

 

ザザザ・・・と水を操り、「墓守り人の宮殿」上空を覆います。

その水面を微妙に操作し、旧世界側から隠すように展開します。

しかしコレは、それほど簡単なことではありません。

 

 

魔法世界と旧世界間の境界線付近に、すでに魔力乱流が発生しつつあります。

そのため、私は微妙な位置での操作を余儀なくされています。

繊細で微細な作業を一人、続けています。

 

 

「これだけ水があれば、媒介には事欠かんですむのぅ」

 

 

何故か私と一緒に来た奇妙な人形が、私が作った水の膜の水面の上を歩いている。

魔力とは異なる力を使役している、奇妙な人形だ。

 

 

「何、同じ人形同士、仲良くしようではないか」

「・・・!」

 

 

この人形、私の思考を。

その黒い翼を持った銀色の人形。

その足元・・・私から見ると背後には、赤い五方星が浮かび上がっている。

私の水を媒体に、何かの術を使っているらしい。

 

 

「ところで、主(うぬ)はあの小僧(フェイト)の妹御なのじゃろ?」

「・・・小僧と言うのがお兄様(さんばんめ)のことを指しているのなら、その通りですが」

「ほうほう、なるほど、似ていなくもないの。あの小僧(フェイト)の方が人間味があった気もするが」

「・・・そうですか」

 

 

カラカラと音を立てて、人形が笑う。

もし私が人間であれば、不快に感じたことでしょう。

まぁ、私と3(テルティウム)に個体差があるのなら、そう言うこともあるのでしょう。

 

 

「ふむぅ・・・しかし、アレじゃの。小僧(フェイト)があのまま女王(アリア)とくっつくとすれば、主(うぬ)は女王(アリア)のことを義姉と呼ぶ必要があるのではないか?」

「は?」

「いや、ほれ、関係的に?」

「・・・そう言う物なのですか?」

「慣習と言う物じゃよ」

「・・・はぁ」

 

 

私が頷くと、人形は「素直じゃのぅ」と笑いました。

ふむ・・・慣習ですか、人間はよくわかりませんね。

では、まぁ、次に女王に見えた時には、そう呼ぶことにしましょうか。

 

 

「・・・ぬ」

「む・・・」

 

 

その時、私と人形は同時にそれに気付きました。

「墓守り人の宮殿」内部から、そしてそれ以外の場所から・・・。

 

 

無数の召喚魔が、こちらに向かって来ています。

 

 

狙いは我々ではなく・・・おそらくは旧世界。

異界境界を通り、旧世界に向かうつもりですか。

2番目(セクンドゥム)の反応が消えた所を見ると、コントロール下から外れ、独自に動いているのでしょう。

 

 

「しかし・・・行かせるわけには参りません。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

旧世界の人間を巻き込むのは本意ではありません。

新たに水を生み出し、それを矢として撃ち出します。

数が多いですが、なんとかしましょう。

 

 

「・・・うん、アレは何じゃ?」

 

 

人形の声に、背後・・・つまり旧世界側を見ます。

どうやら、旧世界側でも対処が始まったのか、結界反応が伺えます。

加えて・・・アレは何でしょうか?

 

 

何やら、黒いサングラスをかけた人形と緑色の髪の少女型人形が、無数に展開しているのを確認できます。

はて・・・旧世界の人間のやることはわかりません。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

「こうなることを読んでいたのでしょうか?」

 

 

旧世界の関係者を集めた大会議室から出た時、私の後から出てきたマクギネスさんが、そう声をかけてきました。

それに対し、私は小さく笑みを浮かべ、穏やかに答えました。

 

 

「高く評価して貰って恐縮ですが、私はそこまで全能ではありませんよ」

 

 

実際の所、私はこうなることを恐れてすらいたのですよ。

20年前から、そして10年前から、こうなることを恐れていたのですよ。

ただ、起こるかもしれないとは思っていました。

アルからの連絡を受けた時は、最大限に利用させてもらおうと思いましたがね。

 

 

「・・・そうですか。ではもう一つお聞きしても?」

「何でしょう。私に答えられることであればいいのですが」

「20年前・・・いえ、10年前、どうして麻帆良と旧オスティアを繋ぐゲートを破壊しなかったのですか?」

「それは答えられないことですね」

「・・・そうですか」

 

 

マクギネスさんには、ある程度のことを話してあります。

世界樹の下に何があるか、そして、何故そこにあるか。

だからと言って、全てを話したわけではありませんが。

 

 

20年以上前に封印・廃棄された麻帆良と旧オスティアを繋ぐゲート。

廃棄はしても、破壊はされなかった。

何故か?

破壊できなかったからですよ。

 

 

先だってのテロの対象から外れたのは、旧オスティア・・・「墓守り人の宮殿」があるからと言う理由もあったと思います。

何故、旧オスティアだけ残さねばならなかったのか・・・。

 

 

「いずれにせよ、早急に事態の収拾を図る必要があります」

「先程、メルディアナから連絡を受けましたが・・・ウェールズのゲートには反応が無いそうです」

「なるほど、そうでしょうね・・・両方の世界の楔、要石を破壊されている以上、他の11か所はおそらく大丈夫でしょう」

 

 

そうなると、ますます麻帆良が危ないですね。

下手をすれば、地図から消えますよ。

 

 

「まずは、上空の異変を一般人に知られないようにしなければなりません。次いで周辺住民の避難です」

「・・・住民の避難は、難しいと思います」

「でしょうね、しかしやります」

 

 

・・・その中に木乃香達を紛れ込ませて、とりあえずは安全な場所へ。

それくらいしか、できませんから。

 

 

「各国魔法支部への連絡は代表の方々に任せるとして・・・至急戦力を集める必要がありますね。そして世界樹地下への増援と、対処」

 

 

アル一人では、流石に荷が重いでしょう。

とは言え、半端な部隊を送ればかえって邪魔になりかねませんが・・・。

 

 

すでに、旧世界魔法関係者の総意として、「総会決議」を採択しました。

半ば強引にですが、流石にここまでの事態になれば動かざるを得ないでしょう。

しかしこの「前例」ができたことで、今後は何かとやりやすくなるでしょう。

旧世界は、本国の影響無しで意思を決定したのだと言う「前例」をね。

 

 

「メルディアナは、麻帆良・・・いえ、日本統一連盟を支持させて頂きますわ」

「それはありがたいですね。我々としてもメルディアナの尽力に期待し、かつ配慮させて頂きます」

「ありがとうございます」

 

 

その後マクギネスさんと実務的な話を続けつつ・・・ふと、私は空を見上げました。

・・・ナギ。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「え、いやぁ、そこを何とか。ええ? 元々の予定? そこを何とか、うん、うん・・・わかりました、じゃあ来年の部費を増額と言うことで。3倍? それはちょっと足元見過ぎじゃ・・・え、ああ、うんうん。それじゃ、よろしく頼みますねー」

 

 

ガチャンッ、学園長室に備え付けられた古風な黒電話の受話器を置いて、僕は溜息を吐いた。

まったく、何でこう仕事って増えるのかな。

 

 

僕が今、どこに電話をかけていたかと言うと、麻帆良の航空部。

相手は麻帆良学園大学部在学の航空部部長、七夏・イアハートさん。

今日は航空部の集団練習とかがあったんだけど、無理を言って中止にしてもらった。

結局はお金で解決したあたり、僕もいよいよ汚れてきたのかもしれない。

 

 

「えーっと、次は・・・」

 

 

それ以外にも軍事研とか、とにかく「航空能力を持つ部活・サークル・個人全て」に今日の飛行を中止させて欲しい、と言うのが詠春さんの要請だ。

要請って言うか、事実上の命令なわけだけどね。

 

 

避難準備の要請とかも出てくると思うけど、実際に麻帆良の住民を避難できるかって言うと、難しいよね。

いっそのこと、不発弾でも発見したってことにするのかもしれない。

うーん、でも後始末も大変なんだよね、生徒の連絡網とかが活用できると良いんだけど。

まぁ、とりあえず僕は自分の領分の仕事をきっちりしてれば良いや。

と言うか、領分以上のことはできないしね。

 

 

「あ、軍事研ですか? 私、学園長の瀬流彦と申しますー。はい、いつもお世話に・・・ええ、部長さんお願いできます? はい・・・はいー」

 

 

・・・おかしいな、僕、学園長だよね?

権威主義ってわけじゃないけど、何で学生の部活にここまで低姿勢・・・?

 

 

・・・まぁ、高圧的に出れるかって聞かれると、できないわけだけど。

こう言う性格だしね、僕。

 

 

「・・・それにしても、本国がね・・・」

 

 

保留メロディーの流れる受話器を耳に当てたまま、僕はぽつりと呟いた。

詠春さんサイドから伝達されて来た話によると、上空に現れつつあるあの城・・・「墓守人の宮殿」って言うらしんだけど。

しかも、世界樹の下に封印されてる、「アレ」。

 

 

そのどちらにも、本国の息がかかっているらしい。

・・・まぁ、旧世界・魔法世界問わず、魔法関係の事件で本国の息のかかっていない事件は無いとも言えるわけだけど。

 

 

「・・・シャークティ先生やアリア君、向こうに行った生徒の皆も、無事だと良いんだけど」

『・・・お待たせしましたー』

「ああっ、軍事研の部長さんですか? 学園長の瀬流彦ですー」

 

 

とりあえず、僕の仕事としては。

麻帆良の安定と生徒達の安全の確保と、もう一つ。

 

 

魔法世界に行った皆が安心して帰って来れるように、この場所を守ることだ。

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

墓石を綺麗に洗った後、生花と線香を備える。

その後はしばらく手を合わせて、しばらく静かに祈る。

一人じゃ無くて、隣にはゆーなもいる。

今日は2人で、夕子のお墓参りに来ていて・・・。

 

 

「・・・お父さんのお嫁さんに・・・」

 

 

・・・僕の横でゆーなが何か怪しいことを言っているけど、まぁ、良しとしよう。

夕子、僕は娘の教育をどこかで間違えたのかもしれない。

 

 

「・・・お父さんの面倒は、ちゃーんと私が・・・」

 

 

・・・でも、ゆーなは優しい子に育ってくれたよ。

キミに似て元気で活発で行動力があって、料理も上手い。

どこに出しても恥ずかしく無い、可愛い娘だよ。

今は僕のお嫁さんにーとか言ってるけど、きっとそう遠く無い将来、素敵な人を見つけてくると思う。

 

 

その時は・・・泣くか相手の男を殴るかするかもしれないけど、別に良いよね?

通過儀礼ってことで、僕も経験したし。

とにかく僕らの娘は、とても良い子だよ、夕子。

 

 

「よぉ」

「む・・・やぁ、これは・・・」

 

 

その時、サングラスをかけた黒服の男性が、生花と手桶を持ってやってきた。

麻帆良の同僚の魔法先生、神多羅木さんだ。

 

 

「・・・10年か。時間って言うのは、あっという間に過ぎちまうもんだな」

「ええ・・・」

 

 

ゆーながいる手前、直接的な言動は避ける。

でも、夕子が殉職・・・亡くなってから10年が経ったのは事実だ。

ゆーなもすっかり大きくなった。

僕や神多羅木さんだって、10年前のままじゃない。

 

 

そして、本当にあっという間の10年だった。

夕子がいない10年は寂しくて、ゆーながいなければ・・・。

 

 

「あのー・・・グラヒゲ先生はお母さんのことを知ってるんですか?」

「コラ、ゆーな! ちゃんと神多羅木先生って呼びなさい」

「ははは、良いさ、結構そのあだ名、気に入ってるんでね」

 

 

気に入ってたんだ・・・。

いや、たぶん、ゆーなを庇ってる面が大きいんだろうけど。

 

 

「それで、うーん。そうだな、キミのお母さんとは・・・仕事仲間と言うか、友人のような関係だったんだよ」

「へ? お友達?」

「ああ・・・ま、それが一番近い関係だったと思う」

 

 

そう言って、神多羅木さんは僕を見て笑った。

その顔には、どこかほろ苦さが混じっているように感じた。

僕も多分、似たような表情を浮かべていたと思う。

 

 

ピリリリリリリリッ。

 

 

その時、僕と神多羅木さんの携帯が、同時に着信音を発した。

それは・・・。

 

 

 

 

 

Side ガンドルフィーニ

 

壮観、と言うべきなのだろうか。

私の目の前には、旧関西呪術協会の陰陽師達と旧関東魔法教会の魔法使い達が、協力して結界を張っている様子が広がっている。

人目につくわけにはいかないので、麻帆良の地下スペースを使用して結界の展開と維持を目的とした儀式を行っている。

 

 

麻帆良上空に強力な認識阻害の魔法を展開する。

これは学園祭の時、超鈴音が使用した「強制認識魔法」の術式を参考にしている。

西の陰陽術と東の魔法を組み合わせた物で、最終的には東西の術式体系を一元化するのが、近衛詠春殿の意思とも聞く。

 

 

「ガンドルフィーニ先生、旧関西側はすでに術式が安定したと言って来ています」

「わかった。こちらもすぐに安定させると伝えてください」

「はい、では・・・」

 

 

私の言葉に頷くと、刀子君は旧関西の術者達のグループの方へ駆けて行った。

旧関西の一部は彼女を「東に走った裏切り者」と呼ぶ動きもあるようだが、そう言った者達は近衛詠春殿の手によって地方に分散配置させられている。

それに旧関東と旧関西を仲介できる人材が、近衛詠春殿本人を除けば彼女しかいない。

 

 

負担をかけてしまうが・・・まぁ、現在、旧関東所属の魔法使いで楽ができている者は存在しないわけだが。

それにしても、旧関西における近衛詠春殿の統率力には舌を巻くばかりだ。

どうやら完全に掌握・・・下から信頼されているらしい。

まぁ、見方によっては関西呪術協会が日本を制したわけだから、当然か。

 

 

「さぁ、麻帆良の危機・・・と言うより、世界の危機だ。関西の連中にばかり、大きな顔をさせておくことは無いぞ!」

 

 

そう言って、結界を張る魔法使い達を鼓舞する。

しかし実際、我々の立場は非常に弱い。ここで少しは挽回しなければ・・・。

 

 

「はーっはっはっ! ここは俺らの任せて休んどいてええねんど、んん?」

「西洋魔法使いは細いんやから、無理したらあかんど? あ、これ親切(いやみ)やから」

「カッコわるーい」

 

 

・・・挽回しなければ、いつまでもこの扱いだ!

それは流石に、困る・・・と言うかキツい!

 

 

「やるぞおおおぉぉ――――――――っっ!!」

「「「うおおおおおぉぉぉぉ―――――――――っっ!!」」」

 

 

可能な限り何とかしなければ、今後が不味い。

高音君達が帰ってきたら、卒倒・・・いや、声高に抗議しかねない。

それだけは、避けなければ・・・!

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「でこぴんロケット」。

学園祭の時に、うちが柿崎達と結成したバンド。

正確には、柿崎達が組んだバンドにうちが混ぜてもろたって感じなんやけど・・・。

 

 

「皆―――っ、ありがと―――――っ!!」

 

 

桜子がマイク片手にそう言うと、ライブ会場の皆がワアァァァッて歓声を上げた。

ひゃ~・・・本当に桜子は人気あるなぁ~。

柿崎や釘宮も、何かファンクラブがあるんやって。

皆、美人やからな~、うちとは大違いや。

 

 

夏休みも終わりに近付いてきた今日、うちらは単独ライブをやることにしたんや。

最初はストリートでもええかなって話やったんやけど、瀬流彦先生がステージとってくれたんよ。

学園祭の時のに比べると小さな野外ステージやけど、皆も喜んどった。

 

 

『おー? よければ先生に聞いてみるアルよ?』

 

 

「超包子」でその話をしてたら、くーちゃんがそう言ってくれたんよ。

何でかは知らんけど、瀬流彦先生は学園長さんやから・・・凄いなぁ。

くーちゃんも強くて可愛ぇから、人気高いんよね。

でも、卒業したら中国に帰ってまうんやって・・・。

 

 

いいんちょとかは、お別れ会とか企画しとるみたい。

何や、ネギ君とか超さんとか、皆いなくなっていくなぁ。

 

 

「麻帆中購買部で、私達のCD売ってまーすっ♪」

「今ならなんと、ピックがついて1980円!」

「皆さん、ぜひ買ってくださいねーっ!」

 

 

最後の曲まで終わって、アンコールもやって、その後のマイクパフォーマンスの時間で、柿崎達が「でこぴんロケット」のCDの宣伝をしとった。

CDまで作ってしもて、ちょっと恥ずかしいけど。

でも、やってよかったなぁって、思う。

今年の夏休みは、楽しかったわ。

 

 

「ん・・・?」

 

 

ふと気になって、空を見上げた。

さっきまで晴れとったんやけど、雨雲かな?

何や、黒い雲みたいなんが空を覆っとる。

うーん、天気予報やと今日は一日中晴れるはずやのに。

 

 

「あーこっ!」

「何一人で黄昏てんのー?」

「ほら、アンタもお客さんに挨拶!」

「え、ええっ!?」

 

 

ステージの隅の方で立っとったうちに、釘宮達がマイクを押し付けてきた。

え、ええっと、うち・・・やなくて、私はそう言うのはちょっと・・・っ!

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「アイアイ♪ 炒飯大盛り2つに、餃子2つ、青椒肉絲1つ、お待たせしたアルよー」

「おお、これは美味しそうでござるな」

「いっただっきまーす!」

「あ、お姉ちゃんズルいですー」

 

 

夏休みも終わりアルが、「超包子」は今日も大繁盛アル。

と言うか、繁盛していない時を想像できないアルよ。

 

 

今は、テーブル席の楓と鳴滝姉妹に注文の品を届けに来たアル。

何でも、今日は「さんぽ部」の集まりがあったとか。

珍しく楓の山では無くて、ショッピングモールを散策してきたらしいアル。

・・・散歩と言うより、買い物アルな、普通の。

 

 

「そう言えば、今日はクギミー達のライブの日じゃなかった?」

「くーふぇはチケット貰ってたよね?」

「ああ~、行きたかったアルが、『超包子』のシフトが入って無理だったアルよ~」

 

 

私は進学前提の奨学金制度を使ってたアルが、中学を卒業したら故郷に帰ることにしたアル。

おかげで奨学金の額も減ってしまって、バイトしてお金稼がないといけないヨ。

 

 

「うん・・・?」

 

 

妙な「気」を感じて、私は空を見上げる。

そこには、雨雲みたいな黒くて厚い雲が見える。

でも、それだけでは無く、何かもっと大きな物が・・・。

 

 

「古(くー)」

「・・・む、む? 何アルか、楓?」

「杏仁豆腐も頼むでござるよ」

「あ、私も欲しいですー!」

「じゃあ、私もー!」

 

 

楓が柔らかく笑って、食後のデザートを注文してきたアル。

鳴滝姉妹も、片手を上げながら元気良く注文。

 

 

私はパチクリと楓の顔を見たけども、いつも通り、楓は穏やかに笑ってるだけアル。

いつもと同じ、「んー?」と首を傾げながら、私を見ている。

・・・私もそれに、ニカッと笑って応える。

 

 

「アイアイ♪ 杏仁豆腐3人前、確かに承ったアルよー」

 

 

何か良く無いことが起こりそうなのは、たぶん楓にもわかってる。

でも今、私は「超包子」で仕事中アルから。

そう言うのは、他の人に任せるアルよ。

アリア先生の出した宿題も、まだ終わって無いアルし。

 

 

・・・夏休み、もう終わるアル・・・。

でも宿題は、終わって無い!

 

 

「五月! 杏仁豆腐3人前アル!」

 

―――はい、わかりました。くーさん―――

 

 

五月に注文を伝えて、私はまた別のテーブルのお客さんの所へ向かったアル。

「超包子」は今日も、大繁盛アル♪

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

『お久しぶりです、まいますたーっ!』

「うおぁっ!?」

 

 

ベッドの中でウダウダゴロゴロしていたら、開きっぱなしにしていたパソコンから、懐かしい声が響いてきた。

何かと思って起きてみれば、画面一杯に緑色の髪のツインテールが・・・って!

 

 

「なっ・・・何だお前! 今までどこに行ってたんだよ!?」

『んん? ん~ふふ~? もしかしてまいますたー、心配しちゃいました?』

「はぁっ!? ばっ・・・んなわけねぇだろ! 誰がてめーみたいなバグを・・・」

『まったまた~、可愛いミクちゃんが通りすがりの悪漢に襲われたらどうしようなんて、同人的思考で夜を過ごしてたんでしょ~?』

「・・・よし、たまにはパソコン分解するかな」

『ああっ、ごめんなさいまいますたー! だから電子製品を分解しないで!?』

 

 

てめーらは所詮、電子製品が無いと活動できねぇからな。

この私に逆らおうなんざ、100年早いっての。

 

 

「・・・で、マジでどこ行ってたんだ、お前。しかも他のも帰ってこねぇし」

『やっぱり心配して』

「歌ツクールの機能に障るんだよ」

『・・・ですよねー』

 

 

画面の中でいじけんなよ。

 

 

『・・・あー、まぁ、今はルカが向こうでの私の仕事を代行してましてー』

「は?」

『いえいえ、お気になさらず。夏休みも終わりと言うことで、まいますたーに最後の暇潰しをご提供・・・と、その前に、まいますたー』

「何だよ」

『今日は絶対、外に出ないでくださいね。カーテンも開けてはダメです』

 

 

・・・何だ、そりゃ。

いやまぁ、別に外出の予定は無いけどよ。

にしても、ダメってのは変な話だな。

 

 

『もし外に出たり、見たりしたら・・・』

「したら?」

『まいますたーのコスプレ写真を、実名でネット上に流します』

「待て・・・落ち着け、冷静に話し合おう」

 

 

いや、それはマジでやめろ。

そんなことされた日には、死ねる、いやマジで。

 

 

『まぁ、そんなわけでー・・・』

 

 

フォンッ、と画面上に、何かの文字が並び始めた。

少しすると、それが膨大な量のデータだってことがわかる。

何だ、こりゃ・・・?

困惑して、画面の中のミクを見ると・・・ミクは、ニコニコと笑ってやがった。

 

 

嬉しそうに、楽しそうに。

何がそんなに面白いのか、まったくもってわからんが。

 

 

『じゃあ、世界をとっちゃいましょうか、まいますたー?』

 

 

・・・何をさせる気だ、こいつ。

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

む、むむむむーむむー?

コレはなかなか、難しい状況なのですかねー?

 

 

「難しいって言うか、まぁ、普通はあり得ないんだけどね・・・」

 

 

魔法世界、つまりは別の位相の世界がこちら側に干渉する。

超さんにやエヴァンジェリンさんに出会っていなければ、そして麻帆良に来ていなければ、そんなことはあり得ないと思ったはずです。

でも実際、今、それが起こりかけているわけです。

 

 

「ハカセちゃん、どんな感じ?」

「うーん、もう少し観測してみないとわかんないなー」

「観測して理解できる方が凄いと思うのですけど・・・」

 

 

私の両側から、桜咲さんと近衛さんが声をかけてきます。

私は今、大きな持ち運び型のパソコンを開いて、集めたデータを分析しています。

 

 

日本統一連盟・麻帆良本部所属・非術式型機動兵器管理課・第1機動部隊。

・・・通称、「ロボ軍団」。

正式名が長いから、もう「ロボ軍団」で良いと思うけど、まぁ、そこは形式ですよね。

とにかく、田中さんシリーズと茶々丸シスターズ、合計3000体を麻帆良各所に配置しました。

空戦タイプ500体も、もちろん動かしてる。

 

 

「でも、良いんですか? 勝手に動かして・・・」

「大丈夫です。ロボ軍団の指揮権は基本的に私にありますから」

 

 

と言うか、私以外に動かせないって言った方が良いね。

私自身は近衛詠春さんに叛乱できないよう、呪詛をかけられていますし。

まぁ、陰陽師にしろ魔法使いにしろ、科学を侮ってる面がありますからね。

詠春さんには、もう連絡を入れておきましたし・・・。

 

 

それにしても、魔法陣をチマチマ書くのは良くて、パソコンをチマチマ弄るのは嫌がるんだから、意味不明ですよね。

いつか、認めさせてやります。

科学と魔法を合わせれば、きっともっと凄いことができるはずなのに。

 

 

・・・まぁ、今は目の前のことに集中します。

 

 

「・・・ふむ、かなり膨大なエネルギーが麻帆良に集まってますね」

「うん、それは凄く感じるえ」

「でも、全てのエネルギーが麻帆良で生まれてるわけじゃない・・・上空と、そして地球上の至る場所から集まってますね・・・」

 

 

エネルギーの流れを解析してみた所・・・アメリカ、トルコ・・・そして。

イギリス・・・。

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

朝日が登るか登らないくらいの早朝、私とドロシーちゃんはある場所に来ていました。

 

 

「うーん・・・ダメですー・・・(クルックー・・・)」

 

 

ゲートの要石を調べていたドロシーちゃんが、しょんぼりと肩を落としました。

背中の子竜、ルーブルちゃんも、同じようにしょんぼりしています。

 

 

少し前のゲート事故・・・テロだって聞いてますけど、とにかく少し前から、ここウェールズのゲートは使えなくなっています。

魔法世界との連絡も、取れなったそうです。

聞いた話だと、トルコもアメリカも・・・他の10か所のゲートも同じことになってるそうです。

 

 

「お姉さま・・・(クルックー・・・)」

「ドロシーちゃん、大丈夫だよ。アリアお姉ちゃ・・・先輩は、きっと大丈夫。お兄ちゃんとシオンお姉ちゃんだっているし、アーニャ先輩やミッチェル先輩だって、きっと一緒だもん」

 

 

魔法世界と連絡が途切れて、アリア先輩達のこともわからなりました。

アリアドネーに行く予定だったはずだけど、20日間の日程だったはず。

だから、今はどうしているのか、全然わからりません。

 

 

「やっぱり、私達じゃゲートみたいな複雑な物はわからないです・・・」

「うん・・・学校の先生達にも、どうにもできないって・・・」

 

 

メルディアナの先生達でも、ゲートを繋ぎ直すことはできません。

ゲートは、魔法世界側から繋ぐ必要があるんです。

 

 

「・・・お姉さまぁ・・・(クルックー!)」

「な、泣かないで、ドロシーちゃん・・・」

 

 

ぺたん、と原っぱに座り込んだドロシーちゃんは、ポロポロと泣きだしてしまいました。

私も頑張って励ましますが、上手くいきません。

ルーブルちゃんが頑張って頭をほっぺに擦りつけて涙を拭っても、泣きやんでくれません。

 

 

「わ、私は、いつになったら、お姉さまのお役に・・・うええぇ・・・」

「そ、そんなこと言われた、私だって・・・ぐすっ」

 

 

お兄ちゃん、シオンお姉ちゃん・・・。

私だって、お兄ちゃん達の役に立てない。

いつも守ってもらってばかりで、何も返せない・・・。

 

 

「クルッ・・・ク?」

 

 

その時、ドロシーちゃんの涙を一生懸命に拭っていたルーブルちゃんが、動きを止めました。

そして・・・太陽の登る方角を見つめた。

 

 

「えぐっ・・・ルーブル?」

「ルーブルちゃん?」

 

 

ルーブルちゃんは東の方向を見て、じっとしていた。

 

 

 

 

 

Side ミッチェル

 

痛む身体を擦りながら、僕はメガロメセンブリアの街を歩いていた。

最近では、この痛みが僕を動かす力になる。

 

 

「・・・いや、その言い方だと変な性癖に目覚めたみたいだけど・・・」

 

 

まぁ、とにかく。

あまりにも傷が痛むので、人見知りしている暇が無い。

むしろ人見知りしてると、痛みが増す。

この痛みが僕を・・・って、いやいや・・・。

 

 

「引きこもりを治すには、荒療治って言うけどね・・・」

 

 

グレーティアさんのアレは、荒療治にも程があると思うけど。

ロバート先輩だって、あんなんじゃなかったよ。

と言うか、あの頃は僕、ずっと引きこもってるつもりだったんだよね・・・。

ずっとあのまま、皆で一緒にいられると思ってた。

 

 

・・・帰りたいな、あの部屋に。

メルディアナの、学生寮に。

 

 

「・・・揺り籠に戻るには、育ち過ぎた・・・か」

 

 

どこかの本で読んだ言葉を、何となく呟く。

実際の所、卒業するまでの楽園だったってことかな。

・・・アリアさん。

ウェスペルタティアで女王様になったんだよね・・・。

 

 

「・・・アリアさんは女王様って言うより、お姫様って感じだけどね、僕の中では」

 

 

さて、これからどう言う風に行動しようかな。

どう行動すれば、アリアさんの助けになるかな・・・?

僕は・・・そう、何と言うか。

アリアさんにとって、都合の良い男であれば良いと思う。

 

 

と言うかむしろ、グレーティアさんが僕に望んでいることでもあるんだよね、それ。

あの人、メガロメセンブリアとウェスペルタティアを泥沼の状態にしたいらしいし。

 

 

「おい、アレ何だ?」

「魔力嵐じゃない?」

「軍が何とかするだろ・・・」

 

 

その時、周囲が騒がしくなった。

足を止めて、皆が見ている方角を見る。

 

 

そこには、広大なメガロ湾が広がっていた。

それだけじゃない、巨大な竜巻・・・魔力嵐。

それを止めに向かった軍艦も、魔力嵐に巻き込まれて消えた。

瞬く間に、市民がパニックに陥って行く。

 

 

逃げ惑う市民の人達に突き飛ばされながら、僕はメガロ湾の魔力嵐を見つめている。

目を、離せなかった。

 

 

「これは・・・」

 

 

グレーティアさんが言っていた・・・間違いない。

魔力枯渇による、神造世界の崩壊。

でも早い、確か10年はまだ大丈夫だったはずだ。

 

 

でも竜巻の向こうに、剥き出しの大地が見える。

荒れ果てた、荒野が・・・!

 

 

 

 

 

Side リカード

 

おいおい、マジか・・・。

部屋に入って来た連合兵の報告に、俺はそう思ったね。

と言うか、他に何を思えってんだ。

 

 

「は、その・・・その魔力嵐に触れた者は・・・その・・・」

「んだよ、言ってみろって」

「はっ・・・その、チリのように消えて姿を消した・・・と」

 

 

・・・マジか。

ってぇこたぁ、本気で時間がねぇってことだな。

 

 

・・・ああ、ところで、知ってるか?

俺は元老院議員なんて堅苦しい仕事をする前には、別の仕事をしてたわけだ。

近衛軍団(プラエトリアニ)の教官だ。

つまり、近衛軍団(プラエトリアニ)には俺と拳を合わせたダチや弟分共がたくさんいるわけだ。

俺の扱きを受けてねぇ近衛軍団(プラエトリアニ)の兵士はいねぇとすら言える。

 

 

「まぁ、そんなわけで、あー・・・始まったみたいっスよ、主席執政官殿?」

 

 

今の今まで俺と話してた男・・・冴えない印象のおっさんだが、こいつは今の連合の代表。

主席執政官、メガロメセンブリア元老院の長にしてメセンブリーナ連合を司る者。

ダンフォード主席執政官。

まぁ、ぶっちゃけお飾りの最高権力者だ。

 

 

アリエフのじーさんは、何かの時のためのスケープゴートにするために、このおっさんをトップに据えてたみてーだが。

今は、それが仇になったな。

首都を離れて、グレート=ブリッジに詰めてるのも不味かった。

グレーティア・・・だったか?

自分の寝首をかくのが、自分の部下だけだと思ってやがるなら、それは勘違いだぜ?

 

 

世界が終わることを知っていたからか?

連合だけは無事だと勘違いでもしてやがるのか。

 

 

「近衛軍団(プラエトリアニ)の連中は?」

「はっ、全員所定の位置に。教官の命令があり次第、動けます」

「うっし、鈍ってねぇみてーだな」

 

 

近衛軍団(プラエトリアニ)の仕事は、元老院とメガロメセンブリア市民の守護だ。

メガロメセンブリア最精鋭の部隊。

 

 

「まぁ、俺から言うべきことがあるとすれば、一つですよ主席執政官殿?」

 

 

テーブルに手をついて、ダンフォードに顔を近付ける。

そして、囁くように言う。

 

 

「考えるんだな・・・はたして、アリエフのじーさんにだけ忠節を尽くすのが、将来のアンタの幸せにとってどれだけ有益かってことを、考えた方が良い」

「・・・」

「まぁ・・・どこまでも奴と運命を共にしたいってんなら、それでも良いさ。だが今回の件が収束すれば、誰かが責任を取る必要があるのはわかるよな? 辞表が一通、確実に必要になるよな・・・そこに書いてあるのは、アンタの名前か? 俺の名前か? それとも・・・・・・?」

 

 

ダンフォードの顔色が変わるのを見た俺は、ダンフォードに背を向けた。

それから近衛軍団(プラエトリアニ)の将軍が待っている場所に向けて、歩き出した。

 

 

・・・あーあ、本当、俺って元老院議員とか向いてねーんだよなぁ。

現場を走り回ってた昔が、懐かしいぜ。

 

 

 

 

 

Side アリエフ

 

「やぁ、よく来てくれた、司令官」

「・・・私をヴァルカンから呼び戻された理由を、お伺いしたいのですが」

「・・・うむ」

 

 

私の歓待の言葉に返答することなく、ガイウス・マリウス司令官は不機嫌そうな顔でそう言った。

ただ、この男が不機嫌そうな顔をしているのはいつものことだ。

年は60を過ぎたばかりだと思うが、それよりも老けて見えるのは厳格な性格のせいだろうな。

 

 

ヴァルカン総督にしてアルギュレー方面軍司令官。

何度か執政官職にも就いており、本来であれば辺境の一将軍におさまっている人材では無い。

ただ厳格すぎる性格から、首都の政治家には受けが悪い。

本人も、媚を売ろうとも思わんのだろうな。

 

 

「うむ、司令官。キミには麾下の6個軍団、及び4個艦隊を率いてウェスペルタティアの叛乱を鎮圧してもらいたいのだ」

「叛乱?」

「そう、叛乱だ・・・何か問題のある表現かね?」

 

 

私の言葉にガイウス司令官は無言で、しかし渋面を作って見せた。

・・・そういう態度が出世を遅らせると言うのに、それがわからんのだからな。

 

 

「ムミウス司令官の戦死は知っているだろう? キミとも知己だったと聞く・・・元老院としては、キミに友人の雪辱を晴らす機会を与えようと言うわけだよ」

「お気遣いはありがたいのですが、無用の気遣いです。武人にとって全能力をあげて戦い破れることは、何ら恥じることではありません」

「ほう・・・大した見識だな」

「ただ惜しむらくは、全能力を上げて戦えなかったことでしょう。その一点に関する限り、私はムミウス司令官にご同情申し上げる所存です」

 

 

・・・『対非生命型魔力駆動体特殊魔装具』を前線に送らなかった件のことを言ってるのだろうな。

しかしアレはアレで、事情と言う物があったのだよ。

軍人風情にはわからんだろうがな。

 

 

「ガイウス・マリウス司令官!」

「は」

「本日付けで貴官のヴァルカン総督職及びアルギュレー方面軍司令官職を解く。ついては第二次ウェスペルタティア派遣軍の総指揮をとりたまえ。ここに軍事執政官からの辞令がある」

「・・・帝国国境が空になってしまいますが、よろしいのですかな」

「それについては心配いらない。貴官は安心して、任務に就いて欲しい」

「・・・・・・命令とあらば、微力を尽くさせて頂きましょう」

「期待させてもらおう、司令官」

 

 

形ばかりの敬礼をして、ガイウス司令官は執務室を辞した。

ふん、不満を隠そうともせんか、だが命令には従うだろう。

有能な軍人であることは間違いない、しかも彼の軍は精鋭だ。

 

 

「・・・まぁ、良い。後はエルザからの連絡を待つばかりだな・・・」

 

 

本国のグレーティアの始末の手配も済ませたし、事態が収束した後ダンフォードに責任を取らせる準備も済ませてある。

後は『リライト』の後、名実共に私が頂点に立つだけだ。

そう、そのためにこそ、私はエルザを拾ったのだからな。

 

 

メルディアナの校長も、あのゲーデルも。

全て排除して、世界を手に入れるために。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

20年前、「宮殿上空の戦い」と呼ばれる戦闘がありました。

言うまでもなく、20年前の大戦末期、「墓守り人の宮殿」上空で行われた帝国・連合・アリアドネー混成部隊と「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」との戦い。

そしてナギ達「紅き翼」と、「造物主(ライフメイカー)」達の最終決戦のことです。

 

 

条件から考えれば、今回は「第二次・宮殿上空の戦い」でも名付けられるのでしょうか。

まぁ、連合は参戦していませんが。

おそらく、そろそろ連合の軍事介入が始まると思うのですが、どうですかね。

 

 

「まぁ、『リライト』が止まらなければどうにもなりませんがね」

 

 

逆に、『リライト』が防げれば帝国軍を利用して連合の軍事行動を排除できます。

ぶっちゃけ、これ以上ウェスペルタティア軍に損害を出したくありませんし。

・・・それに、終戦後は帝国には連合と敵対してもらわなければなりませんし。

 

 

先程、宮殿周辺の魔力濃度が急激に上がったとの報告が入りました。

となると、タイムリミットは・・・。

 

 

「クルト様」

「・・・修理、終わったよ」

「おや、そうですか・・・ご苦労様です」

 

 

召喚魔の群れを適当に斬り払った後、甲板の上で仁王立ちしていた私の下に、2人の女性兵が報告に来ました。

一人は10代後半の少女で、竜族らしく頭に角が生えています・・・片方、無残に折れていますが。

もう一人は20代後半、黒髪のポニーテールの女性。今は軍服ですが、普段は浅葱色の着物を着て働いています。

名前は竜族の方がキカネさん、ポニーテールの方がアカツキ・ルルヴィアさん。

 

 

「ウェスペルタティアはキミを必要としている!」的な求人ポスターを出したら、彼女達のような人材がたくさん集まりました。

・・・親衛隊は、濃い方が多すぎる気もしますがね。

 

 

「さて、では工作班を艦内に戻して・・・」

 

 

その時、先程まで召喚魔で溢れていた侵入路の入口が、小さくない規模の爆発が起こりました。

爆風と同時に小さな破片が飛んできたので、両腕で身体を庇います。

な、何事ですか、また召喚魔ですかね・・・!

 

 

「クルト様、お下がりを!」

「危険、感知・・・!」

 

 

瞬間、アカツキさんが袖から破魔の呪が刻まれた針を取り出して私の前に立ち、キカネさんがメキメキと青い鱗に覆われた尻尾を出し、私を庇うように動かしました。

むむ、複数の女性に庇われると言うのもオツな物です。

 

 

・・・まぁ、冗談はさておき。

さて、何が出てきたかと思えば・・・。

 

 

「・・・お前か」

「ああ、僕だよ・・・クルト」

 

 

ガッ・・・と、ボロボロになった小型艇を乗り捨てて、この場所に足を踏み入れた男。

眼鏡と咥え煙草、そして髭。

師匠を真似ているのかどうか知りませんが、まぁ、とにかく・・・。

 

 

「・・・タカミチ」

 

 

高畑・T・タカミチが、そこにいた。

いったい、今さら何をしに来た・・・?

 

 

 

 

 

Side 明日菜(アスナ)

 

何も無い、真っ暗な世界。

ここには何もなくて、誰もいない。

・・・だけど、不思議と怖いとは思わなかった。

ううん、怖いんだけど・・・どこか懐かしい気もする。

 

 

だってここは・・・「私」がいる場所だから。

ここにいるのは、「私」そのものだから。

 

 

『このような幼子が、不憫な・・・』

『愚か者が、コレは兵器だ。姿形に惑わされるな』

 

 

ある時、私は「兵器」だった。

100年で数万人の命を吸って保たれる、破壊の力だった。

ウェスペルタティアの人達・・・変わらない人達・・・。

 

 

『黄昏の姫御子・・・我が末裔よ』

『その本来の役割、果たしてもらおう』

 

 

ある時、私は「鍵」だった。

世界から精霊を奪うための、始まりと終わりの力だった。

始まりの魔法使い・・・恐ろしい・・・そして、悲しい人。

 

 

『待ってな、アスナ』

『「ヤツ」をぶっとばして、世界のヒミツってのをぶっ壊してやるからよ』

 

 

ある時、私は「少女」だった。

正義のヒーローに救われる、ただのお姫様だった。

ナギ・・・おかしな人・・・嘘吐き・・・。

 

 

『・・・何だよ、嬢ちゃん。泣いてんのかい?』

『幸せになりな、嬢ちゃん。アンタには、その権利がある』

 

 

ある時、私は「子供」だった。

大切な人がいなくなるのが嫌で、泣くだけの女の子だった。

ガトーさん・・・煙草の匂いの人・・・お父さんみたいな人。

 

 

「・・・これ、私?」

 

 

何も無い、真っ暗な空間で、私は一人だった。

自分が誰で、自分が何なのか。

それすらわからないままに、時々思い出したかのように流れる映像を見てる。

自分が誰だったのか、自分が何だったのか。

 

 

自分が何を持っていたのか、誰になりたかったのか。

それとも、自分は何も持っていなかったのか、誰でも無かったのか。

何もわからないままに、一人でいるしかなかった。

・・・独り、だった。

 

 

誰でも良いから、傍にいてほしい。

でもこの気持ちも、本当に私が感じている物なの・・・?

 

 

「私は・・・何? 私は・・・誰?」

 

 

誰も、答えてはくれない。

私自身、答えることができない・・・。

 

 

「・・・あなた・・・」

 

 

不意に、独りだった世界が終わる。

振り向けば、そこには、小さな女の子がいた。

私がさっきまで見ていた映像の・・・記憶の中の、昔の「私」が、そこにいた。

 

 

「あなた・・・誰?」

 

 

・・・答え、られなかった。

 

 

 

 

 

Side 墓所の主

 

「教えてやろう・・・我が末裔、全てを」

 

 

誘うように手を伸ばし、私は末裔の少女(アリア)にそう告げる。

3(テルティウム)・・・フェイトに抱かれた少女は、困惑したように私を見ておった。

・・・ハズしたかの?

こう、あえて大物然として出てきたのじゃが。

 

 

何と言ったかの・・・シアが言う所の「スベった」と言う奴かの?

それとも、人見知りかの・・・最近の若者は繊細と聞くしの。

いや、もしかしたら聞こえなんだのかもしれん。

よし、ではもう一度・・・オホンッ。

 

 

「教えてやろう、すべ「いや、聞こえてはいるよ」て・・・そうかの」

 

 

フェイトが、やけに冷たい目で私を見ておる。

・・・そんなに邪険に扱わんでも良かろうに。

 

 

「・・・・・・全てと言うのは、どう言う意味でしょうか?」

「ふむ? 言った通りじゃがな、我が末裔よ・・・全てじゃよ、全てな・・・」

 

 

魔法世界の創造、ウェスペルタティアの始まり、王家の魔力と<黄昏の姫御子>、世界再編魔法『リライト』の意味と秘密。

造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』・・・創造神の力を振るう究極『魔法具』、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>。

造物主(ライフメイカー)>と2人の<アマテル>。

 

 

魔法世界の秘密、その全てを。

チラ・・・と、眼下に見える赤毛の少年を見る。

揃っておるな、ならば良し。

まさか、双子とは思わなんだからな。

 

 

フェイトが意思と自我に目覚めなかったのならば、双子を交配させる方法もあったのじゃがな。

なるべく、素質は一人に集中させたかったが・・・まぁ、良し。

これも、一種の啓示であろうよ。

 

 

「墓所の主、何をしに来たの?」

「主・・・?」

「うむ、一応、この『墓守り人の宮殿』の主をやっておる」

 

 

かれこれ、2000年以上な。

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>が、急速に近付いて来るのを感じる。

デュナミスもレイニーデイもおらぬ、残るは私一人。

一人で、全てをやりきる必要がある。

 

 

旧世界と繋がったのならば、おそらくはもう、時間も無い。

「彼」が戻るまでに、ことを済ませる。

 

 

「とはいえ、時間も無いからの・・・多少、芸も無いが」

 

 

話している間に、全てが無に帰してしまってもつまらない。

私はフッ・・・と消えると、フェイトの目前に再び現れ、腕に触れる。

 

 

「何・・・?」

 

 

驚く声、しかし次の瞬間には、私達は赤毛の末裔(ネギ)の目前にまで移動しておる。

フェイトから手を離し、距離を取る。

 

 

「え・・・アリア? え、何?」

「・・・アリア! <最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を奪って・・・って、何だこの状況は!?」

「え、エヴァさん?」

 

 

赤毛の方が驚き、そして末裔の少女(アリア)の影から金髪の吸血鬼が現れる。

しかも、鍵を持っておる!

その他、赤毛の末裔(ネギ)に黒髪の娘が纏わりついておるし、少々余分な顔があるが。

まとめて、送ろうかの。

 

 

カンッ!

床を蹴り、甲高い音を立てると・・・5人が、私の方を見た。

私の、眼を見た。

 

 

「さぁ・・・全てを」

 

 

体感時間は現実の10数倍。

我が心の内側。

 

 

「見せてやろう!」

 

 

 

 

――――――――――『幻想空間(ファンタズマゴリア)』。

 




アリア:
アリアです、出番がありませんでした。
まぁ、今回のコンセプトは「主人公周辺以外」でしたので、良いのですけど・・・。
出番が、無かったです。


今回、初登場の投稿キャラクターは・・・。
秋代様提供の、キカネ様。
竜族の女性の方だそうです。

八百奈 雨人沙 様提供の、アカツキ・ルルヴィア様。
旧世界人の血を引いていて、忍者です。現在、主募集中とか。

ありがとうございます。


アリア:
では次回、何やら「説明しよう!」な話になりそうです。
全部では無いにしても、かなり頑張るのではないでしょうか。
・・・なお。
前話冒頭で述べた通り、原作とは異なった設定になる可能性が大 (かもしれない)です。
では、またお会いしましょう。

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